「––––––変化の術!!」
ボン!と周囲を覆う煙……。
自分の体を見ると、いつも着ている青い服とは違う、黒の上着。
煙が晴れると、サスケくんとナルトくんがこちらを見ていた。
「……合格、だな」
「よっしゃあ!やったってばよ」
最終日。
アカデミー入学前に、無事にサスケくんの姿へと変化することに成功した。
あれから二日ほど、火影さまは私に色々と教えてくれた。
どうすれば効率良くチャクラのコントロールが行えるのか、手裏剣の扱い方。
体術や幻術など。
やっぱり火影というだけあり、質問をすれば何でも答えてくれた。
…本当に強いんだろうな、あのお爺さんは。
「これなら授業に出ても問題ないだろうな。明日からは一緒に学校へ行くか」
「…はい!やっと、サスケくんやナルトくんと一緒に勉強することができますね」
「オウ!俺もサスケに教えてもらってちょっと強くなっただろうし楽しみだってばよ!」
「お前はいくら何でも知識不足過ぎだ。明日からは真面目に勉強しろ」
「…オッス、わかったってばよ………」
……ふう。長い一週間が終わった。
明日からは新しい生活が始まる。
「よし…さっさと帰って休むとするか」
「おう!」
「…はい!」
帰り道。ナルトくんイチオシのラーメン屋さんで夕飯を済ませ、家に帰ってお風呂へ入った。
シャワーから出る暖かいお湯が頭や胸、肩やお腹へと降り注ぐ。
右足がズキッと少し痛む。連日の修行で、あちこちに傷が出来てしまった。
長い黒髪が湿って体に張り付く。少しくすぐったい。
–––––––学校、か。
どんなところなんだろう。
どんな人がいるんだろう、どんな先生なんだろう。
今の記憶のない私が受け入れてもらえるのだろうか…。
不安は尽きない。でも、ここで逃げていたら…ずっと何も思い出せないままだろう。
大丈夫。私は一人じゃない。
ナルトくんと、サスケくんがいる。
ノブを回すと、暖かいシャワーが止まる。
ポタポタ、ポタポタと髪の毛から水滴が滴り落ちる。
…体が冷える前に早く乾かして、明日に備えて寝よう。
そう考え、風呂場のドアを開くと……。
…サスケくんが箪笥に服を入れていた。
「なぁっ!?す、すまん!!サクヤ!まだ出てこないだろうと思って…」
「いえ、大丈夫です。…なんでそんなに慌てているんですか?」
「い、いや…それより、早く隠せ!」
バッ、とタオルを勢い良く渡された。なぜこちらを見ないのだろう。
どうしたんだろうか……。
「じゃ、じゃあ着替えここ置いとくな!!…殴られるかと思ったぜ」
そのまま逃げてしまった。最後に何か言っていた気がするが…。
私の体、何か変かな。
鏡を見るが、特におかしなところはない。長い黒髪の幼い少女の裸が映っているだけだ。
小さな傷跡がちょっと目立つが、肌も白い綺麗な体。
サスケくんの慌て様が気になるが、明日のために早く寝よう。
鏡の中の自分から視線を逸らすと、着替えに手を伸ばした。
「おっ、やっと戻ってきやがったな」
「ったく、めんどくせー連中が戻ってきたもんだな…。ま、賑やかになっていいけどよ」
教室のドアをガラガラと開くと、二人に続いて中に入る。
すると、二人の少年がこちらに声をかけてきた。それにつられて、周りの皆の視線が一斉にこちらへと集まる。
「おう、久しぶりだってばよ。シカマル、キバ」
髪を後ろに束ねた少年と、頭に白い子犬を乗せた目の下に赤い隈取りのある少年にそう声をかけると自分の席へと行くナルトくん。
サスケくんは既に大勢の女の子に囲まれている。…すごい嫌そうな顔。
やっぱりサスケくんはカッコイイから、女の子にモテるのだろう。
………なんだろ、このモヤモヤとした感じ。
そんなことを考えていると、先ほどナルトくんが挨拶した二人が私の目の前にいた。
「久しぶりだな、サクヤ」
「………こ、こんにちは」
少し緊張してどもってしまうが、しっかりとそう答える。
二人は少しだけ悲しそうな顔をするが、すぐに元に戻った。
「……ホントに何にも覚えてねぇんだな。ちっとばかし寂しいけど、まぁすぐに思い出すだろ。俺は犬塚キバ。そんでこのちっこいのは赤丸。ま、よろしくな」
「またお前に自己紹介すんのも変な感じだな…俺は奈良シカマル。めんどくせぇから、とっとと記憶取り戻してくれよ」
「…はい。これからよろしくお願いします、キバくん、シカマルくん」
「…お前にくん付けされっと、なんだか気持ち悪ぃな…ま、いいわ。それより、お前の席はあっちだぜ」
指を指すシカマルさん。窓際の奥から二番目か。
ありがとうございます、と言ってそこへ向かうと、自分の席に座る。
………なんだか、少しだけ…懐かしいような気がする。
持ってきたカバンを机の横のフックにぶら下げると、男の子たちが私の席に集まってきた。
「久しぶりだな!サクヤちゃん!髪の毛伸びてなんか雰囲気変わったな!」
「よう!サクヤ。何にも覚えてないって本当なのか?」
「記憶喪失ってどんな感じなんだ?」
「あ、あの…」
「うぉぉッ、なんだか前のサバサバした感じと違って…これはこれで可愛いな!」
「な!前のサクヤちゃんもいいけど、今のも最高だぜ」
色んな人達に一気に捲し立てられて、目が回るような気分だ。
初めて人に囲まれて、なんだか不思議な感じ。
今まで、こんなに多くの人達に話しかけられたことなどなかったから。
それに……向こうは自分のことを知っていて、こっちは何も覚えていない。
ガヤガヤと騒ぐ少年たちに困り果てていると、教卓側のドアが開いた。
「騒がしいぞお前らーーー!授業の時間だ、席につけ!」
先生の大きな言葉を聞いて、渋々戻っていく皆。
全員が席に着くと、先生は周りを見渡し……私と目が合った。
「サクヤ……やっと、戻ってきたな」
「はい。…あの、先生」
「事情はサスケたちから聞いてるさ。とにかく、おかえり」
「……はい!」
「俺はこのクラスの教師、うみのイルカだ。何か困ったことがあったら何でも相談してくれ。
記憶がなくなっても、お前は俺の教え子であることは変わらないからな」
…よかった。優しそうな先生だ。
学校に来るまでは本当にやっていけるのか不安でしょうがなかったが、これなら大丈夫そうだ。
「お前たち!サクヤは記憶を失くしてしまってはいるが、お前たちの仲間であることは今まで通り同じだ。困っていたら、皆で助けてやってくれ」
はーい、と一斉に答える皆。
視界の隅にこちらを振り返って見ている少年が映った。サスケくんだ。
にこっ、と彼に微笑むと、安心したような表情で前を向いた。
「じゃあ早速授業を始めるぞ。まずは教科書の54ページから……」
––––––私の忍者への道のりは、やっとこれから。