こんにちは。うちはサクヤです。
今はアカデミーで授業の真っ最中。体術についてのお勉強をしています。
座学は苦手。それに授業内容のほとんどはイタチ兄さんから先に教わっちゃったし…。
ふぁ……眠くなってきた。周りを眺めると、他のみんなは真面目に授業を聞いている様子。
…の中、一人だけつまらなそうにあくびをしている生徒が目に入った。サスケだ。
まぁ、しょうがないよね。私たちには兄さんという理想の先生がいるんだし…。
カッ、カッ、カッ。黒板に先生が文字の列を並べる。
体術の基礎。
種類。
必要なこと。
全てイタチ兄さんがわかりやすく教えてくれたものだ。
黒板とチョークが擦れる音、外から聞こえて来るアカデミー生徒たちの声、野生の鳥たちなどの小さな鳴き声。
全てが私を眠りへと誘ってくる。
既に知っている知識を勉強するほど退屈なものはない。私は夢の世界へ旅立つことにした。
「忍組み手、開始!」
先生の合図と同時に、目の前の少女が飛び込んでくる。そして、飛んでくる右の拳。
私はそれをさらりとかわし後ろへ飛んで距離を取ると、少女が舌打ちをする。
「今日こそあんたを倒すわ、うちはサクヤ!!」
と、啖呵を切るとこちらを睨みつけてきた。
何故かはわからないけど、私はこのクラスの女子たちに目の敵にされている。
私が何かやったわけでもないのに…。どうやらそれにはサスケが関係しているらしいけど、
私にはよくわからない。
再び繰り出される力のない拳を右手で受け止めると、今度は左足による足払い。
それも軽くジャンプして避ける。
また襲い来る拳。体を横に逸らして避ける。上段の薙ぎ蹴り。軽くしゃがんで躱す。
「そうやっていつまでも逃げ続けるつもり!?」
ひらり、ひらりと最低限の動きだけで相手の連続攻撃から身を逸らすと、頭に血が上ったのか、ワンパターンに攻撃を繰り返してくる。それらも全てお見通し。
一連の動作が、まるで決められた作業のように感じてくる。
それもそうだ、私がいつも相手にしているのはイタチ兄さんや、彼によって鍛えられたサスケ。
イタチ兄さんは私に合わせてくれてはいるが、到底私の敵う相手ではないし、サスケも同年代ではダントツに強い
相手。純粋に力を試したいが為に、私が相手でも手加減は一切なし。基本的に組み手は男女が分かれて行うものだが、
男子の中ではサスケが最強。
それに比べて、相手はただの女の子。クラス最強と比べたら、天と地の差だ。
大げさすぎるほどオーバーアクションな蹴りを肘で受け止め、力を込めて弾き返す。
「踏み込みが甘いよ」
足を弾かれ無防備になった相手の肩のあたりを目掛けて回し蹴りを放つ。
「そんなの、当たると思って!」
得意げな顔をしながら、大きく胸を逸らして回避された。が、狙い通り。
そのまま体をぐるっとコマのように一回転させると、先ほどより少し低め、相手のお腹あたりを狙って2段目の回し蹴り。
本命はこっち。大きく万歳をする格好となってしまった彼女に、避ける術はない。
「しまっ………!」
ばしっ、と足に手応え。私も女の子だから力は無いけど、無いなら無いなりに確実にダメージを与えることのできる部位を狙うだけ。
そのまま素早く姿勢を低くして地面に手を添えると、少女の足を薙ぎ払う。
「これで終わりね。私の勝ち」
完全にバランスを崩してお尻から倒れこむ少女へ向けてトドメの一撃。
「そこまで!!」
…をしようとしたところでストップがかかった。まあ、最後の攻撃は当てるつもりはなかったんだけどね。
手や足についた砂を払い、あたりを見回すとクラスの皆がこちらを見ていた。
当然だな、という顔をしたサスケや数人の友人たち。
パチパチと拍手をする人たち。
悔しげにこちらを睨みつける女子たちと、目の前の少女。
様々な視線に当てられながら、少女へ近づき、右手の人差し指と中指を差し出した。
組み手が終わったら必ずこれをするルールになっている。和解の印だ。
「ありがとう。楽しかったわ」
「…ふん。いい気になっていられるのも今の内よ…いつか私があんたを倒すわ」
二本の指をお互いに交差させると、ぎゅっ、と結んだ。
皆の所へ戻ると、真っ先にサスケが近づいてきた。
「また少し腕を上げたみたいだな、サクヤ」
「おかげさまでね。アンタの修行に付き合わされてたら、嫌でも強くなるわ」
「いや、兄さんも言ってたろ。サクヤには戦闘の才能があるんだって」
「私これでも女の子なんだけど。戦闘の才能があるって言われても素直に喜べないわよ……」
「まあまあ、いいじゃないか。オレの修行相手がどんどん強くなると、退屈しなくていいよ」
「はいはーーい。どうせ私はアンタの修行の道具ですよーだ」
ぷい、とそっぽを向くと視界に映るのは女子たち。一同揃ってこちらを睨みつけている。
…何が気にくわないんだろう。何かあるのなら直接言ってくれればいいのに。
軽くため息がこぼれる。私は男子たちのところへ歩みを進めた。
「おい、待てよ。今日もオレんちで組み手しようぜ」
「もー、アンタは最近そればっかりね。わかってるわよー」
また女子たちからの視線が強まった気がした。