「…なぜ我々の動きを見切れた」
頭以外の全身が埋まった状態でカカシに問いかけてくる二人の忍。
じっとこちらを睨みつけてはいるが、この無様な状態では何も出来はしないだろう。
腐っても上忍というわけか。カカシを少し見直す。
「数日雨も降っていない今日みたいな晴れの日に水たまりなんてないでしょ」
どうやらカカシも道路に出来ていた水たまりの違和感に気付いていたようだ。
サクヤは空を見ていて気付かなかった様だが。…ナルトはそもそも疑問にすら思わねェだろうな。
安全を確認してこちらに近づいてきた爺さんがカカシに問いかける。
「…あんたそれ知ってて何でガキにやらせた?」
「私がその気になればこいつくらい瞬殺出来ます……が」
当たり前の様にそう言うカカシ。先ほどの動きを見る限りおそらく事実だろう。
ほんの数秒で無力化したコイツならば殺すことは容易い筈。
「私には知る必要があったのですよ……この敵のターゲットが誰であるのかを」
「…どういうことだ?」
「つまり…狙われているのはあなたなのか、それとも我々忍のうちの誰かなのか…ということです」
カカシのその言葉にハッとなって目を見開く依頼人。
そういう事か…。もしも護衛対象が忍者に狙われているとなれば、依頼の内容はウソだったという事になる。
それを知るためにワザと自分はやられたフリをして何処からか様子を伺っていたわけだ。
…まぁ、初めての実戦経験を積ませるという目的も少しはあったのかも知れないな。
少し怒ったような鋭い眼光で爺さんを見つめるカカシ。
「我々はアナタが忍に狙われているなんて話は聞いていない。依頼内容はギャングや盗賊などただの武装集団からの護衛だったはず…」
「……。」
「これだとBランク以上の任務だ…依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはずです」
黙ったまま下を向き俯く依頼人。コイツ…何らかの理由で任務内容を偽っていたって訳か。
CランクとBランクの任務では報奨金がえらく違った筈。おそらく金が無いとかそんな理由だろうか。下らねえ…。
「敵が忍者であるならば…迷わず高額なBランク任務に設定されていた筈…。何か訳ありみたいですが依頼でウソをつかれると困ります。これだと我々の任務外ってことになりますね」
「へ?へ?どういう事だってばよ」
「…話ちゃんと聞いてたのかよドベ。要するにオレ達はこの爺さんにウソの依頼をされてたんだよ」
「どうするんですか?カカシ先生…まさか、中止なんて」
「んーーーーーーー…」
彼女のその問いに空を見上げ考え込むカカシ。
…正直、他里の忍者と戦えるのならば任務を続けたいという気持ちはある。
が、そのためにサクヤを危険に晒す訳にはいかない。現に先ほどの戦闘でもカカシが助けなければサクヤは怪我をしていたかもしれない。
中止、だろうな。
「ちょっと話したいことがある。…依頼の内容についてじゃ」
ぼそりと呟き始めた依頼人。
何かワケあり、というわけか。
「あんたの言う通り、おそらくこの仕事はあんたらの任務外じゃろう…。実は、わしは超恐ろしい男に命を狙われている」
「…誰です?」
「…あんたらも名前ぐらい聞いたことがあるじゃろう。海運会社の大富豪、ガトーという男だ」
「え…!ガトーって……あのガトーカンパニーの?世界有数の大金持ちと言われる……!!?」
突然驚きの声を上げるカカシ。……ガトー?ガトーカンパニー?
……フン。全然知らねェな………。
チラリとサクヤとナルトの顔を伺うと二人とも疑問の表情を浮かべている。どうやら知らねえのはオレだけじゃねえみたいだな…。
「そう…表向きは海運会社として活動しとるが…裏ではギャングや忍を使い、麻薬や禁製品の密売…果ては企業や国の乗っ取りといった悪どい商売を生業としている男じゃ…」
大企業が裏で悪事を働いているなんてのはよくある話だ。
そのガトーとあの忍者に何の関係が…。
「一年ほど前じゃ…そんな奴が波の国に目をつけたのは。財力と暴力をタテに入り込んできた奴はあっという間に島の全ての海上交通、運搬を牛耳ってしまった。島国国家の要である交通を独占し今や富の全てを独占するガトー…そんな奴が唯一恐れているのが兼ねてから建設中の…あの橋の完成なのじゃ」
「…なるほど。それでタズナさんが邪魔だから…」
「あの忍者たちはガトーの手の者って訳か…」
考え込むオレたちを尻目に疑問の表情を浮かべたまま固まり続けるナルト。
…お前、やっぱりバカだろ……。
「しかし分かりませんね…相手は忍すら使う危険な相手…なぜそれを隠して依頼されたのですか?」
「確かに…初めからしっかりそれを伝えておけば、私たちのような新米ではなく優秀な木の葉の忍の方が来てくれたのに…」
「…波の国は超貧しい国で、大名すら金を持ってない。勿論ワシらにもそんな金はない!高額なBランク以上の依頼をするような、な…」
苦々しい顔をして吐き捨てるようにそう言った。
…木の葉の里しか知らなかったが、他国にはそんな里もあるのか……。
まあ確かに、自国で忍者が沢山居ればわざわざ木の葉に依頼には来ないだろう。
この爺さんの言っていることはまぎれもない事実だろうな…。
「こりゃ荷が重いな…。お前らにはまだ早過ぎる。里に戻るか」
それだけ言うとスタスタと元来た道を戻っていくカカシ。この依頼人には可哀想だが、安全を考えればそれが最善だろう。
他国の為に自分の班の生徒たちを犠牲にするわけにはいかない、担当上忍としての正しい判断だろう。
納得出来ないといった顔でその後ろ姿を見るナルト。根は優しい奴だからな、コイツは…。
ナルトが抗議のために口を開いて何かを言おうとしたその時、高い声が周囲に響き渡った。
「…待ってください!カカシ先生!」
「ん。どうした?サクヤ」
「ここで…此処で見捨ててしまったら、タズナさんは…」
「…気持ちはわかるがな。また忍が襲ってくるかもしれないんだぞ。お前たちはまだ若い青葉…こんなとこで死なせるわけにはいかないんだよ」
「そうならないようにカカシ先生がいる。違いますか」
「さっきみたいにお前を守れるとは限らないんだぞ」
「…っ」
暗い顔をして言葉を詰まらせるサクヤ。
カカシの言った事は正しい。もし次に出てくるのがカカシよりも強い忍者だとしたらオレ達を守っている余裕などないだろう。
もしそんなのが複数出てくれば、待っているのは死…。広い世界だ。イタチの様な奴が居ないとは限らない。
「……それならせめて、波の国までは護衛したいです」
「嬢ちゃん。ワシの事はもういい…先生の言う通りだ。あんたら若い忍が犠牲になる事はない」
「本気で言っているんですか…タズナさん。私たちがいなくなれば、あなたは」
「なーに、ワシがただの爺さんだと思ったら大間違いじゃ。こう見えても腕っ節が効いてな。その辺の忍には負けはせんよ」
強がる爺さんだがただの虚勢にしか見えない。忍者とは言わば殺しに特化した軍隊の様なモノ。爺さんが勝てるとは思えない。
というか…解っているんだろう。此処でオレたちが里に戻れば自分はどうなるのか。
忍者に命を狙われる一般人がどうなるのかなど。
タズナの言葉を聞き、ますます顔に影を落とすサクヤ。両手の拳に力が入っている様で、ブルブルと震えている。
「………ッ。私にもっと、力があれば……」
小さくそう呟く彼女。困った人を放っておけない性分なのは記憶が無くなっても変わらないらしいな。
こいつにこんな顔はさせたくない。もう二度と彼女に悲しい思いをさせたくない。
ふと横を見るとナルトと目が合う。ナルトはこちらと目を合わせるとゆっくりと頷いた。
…お前もオレと同じ事を考えているみたいだな。
「カカシ…任務は続けるぞ。せめて波の国まではな」
「…!サスケ、くん……」
「爺ちゃんが折角任せてくれた任務だしな!こんなとこでおしまいって訳にはいかねーってばよ」
「お前ら…いいのか?下手すりゃ死ぬかもしれないんだ…此処からはBランクの任務なんだぞ」
「ヘッ…こんなとこでくたばりはしねェよ」
「オレたち第七班のチームワークをなめるなってばよ!!」
「サスケくん…それに、ナルトくん」
「護衛を続けよう、サクヤ。お前はそうしたいんだろ?」
「はい…でも、いいんですか?私のわがままで危険な任務を続けても」
「へへ…水臭いってばよ、サクヤちゃん。オレ達は三人で一つのチームだろ」
「お前達…オレの事忘れてないですかね…。ま、いいや…タズナさん。今回だけはこいつらに免じて任務を続行します。いいですね」
「………ありがとう。それと、ガキなんて言って悪かったな。お前さん達は立派な木の葉の忍だ」
深く頭を下げてそう伝えてきた依頼人。
その姿を見てパアッと明るい笑顔を取り戻すサクヤ。
これでいい…こいつにはこの表情が一番似合う。今も昔もそれは変わらないな。
「…じゃ、波の国目指して行きますか!」
「オッス!!」
あとがき:原作なぞるのは書いていて楽でいいけど楽しくない…。