視界に映るのは耳の下ほどまで伸びた黒い髪の少女。
目を瞑ると、それは見えなくなる。
まぶたの裏に映るのはひたすらの闇。
集中。
集中。
ひたすら閉じた両目に意識を集中させる。
真っ暗な視界の中、体内のチャクラをひたすら目だけに向けさせる。
脳裏に思い浮かぶはイタチ兄さん。
そしてシスイさん。
私は、静かにこう呟いた。
「…………写輪眼」
「……鏡の前で何やってるの?サクヤ」
お母さんの声に目を開くと、目の前の少女…つまり私が鏡に映る。
その両目は、赤く光って……はいなかった。
「どうしたのそんなに自分を見つめちゃって。何か悩みでもあるの?」
心配そうに尋ねてくるお母さんに向かって、ずっと内緒にしていた行為を素直に話した。
「……写輪眼の練習」
「はい?」
「だから!写輪眼!練習してたのよ」
「写輪眼は練習で出来るものじゃないわよ?」
…………。
……。
えっ。
衝撃の事実。
今までの努力はなんだったのだ。
あまりの言葉に頭の中にお団子とアンコさんが浮かんできた。それと同時にシスイさんが浮かぶ。あ、何か腹が立ってきた。
いけないいけない、思考がどんどん現実から逃げていく。
「…じゃあどうやったらできるの?」
恐る恐る尋ねてみる。
「いつかその時が来れば、あなたにも出来るようになる…かもね。」
「なにそれ。よくわかんない」
「写輪眼は一族の中でも開眼する人としない人がいるのよ」
写輪眼。うちは一族だけが使うことのできる、目に宿る力。
開眼すると、相手の次の動きが読めたり、相手の術をコピーして使用することができるというとんでもない目だ。
サスケをあっと驚かせたくて毎日密かに練習していたのだが、どうやら無駄だったらしい。
がっかり。
「まあ、そんなに焦ることないじゃない。写輪眼が使えなくったって、あなたは私の娘だもの。きっと強くなれるわよ」
別に強くなりたいわけじゃないんだけどね…。ただ、サスケを驚かせてやりたかっただけだし。
しかし、知りたくなかった情報を知ってしまい、体から力が抜けていく。
まあ、びっくりさせたいがためにひたすら練習してた私も私だったけど…世の中そんなに甘くないらしい。
「……なーんだ。練習してもできないんだ…ねえ、お母さんは写輪眼使えるの?」
「もちろん、使えるわよ。ほら」
答えた時には、既にお母さんの目は変化していた。
赤い目に、三つの勾玉が黒目の周囲を覆うように点在する。写輪眼だ。
「使えるんだ……お母さんが使えるなら、私もいつか使えるようになるかな?」
「まあ、私も私のお母さん…つまり、あなたのおばあちゃんも使えたからね。きっと使えるようになるわ」
嬉しい返事が返ってきたので、ルンルン気分で意味もなく飛び回る。
早く使えるようになりたいな。写輪眼。それがあれば、サスケをあっと驚かせることができる。
「やったあ。早く使えるようにならないかな」
期待に胸を膨らませると、自分の部屋へと戻った。
「……本当は使えない方がいいんだけどね、こんなもの……。」
そう小さく呟いたお母さんの言葉の意味は、この時の私には理解できなかった。