【イルカ side】
ナルトたちが卒業した後、担当になったクラスに上忍たちも一目置いている、みくまりオウミと言う少年がいた。話によると僅か6歳で、水神の封印を解いたんだそうだ。確かみくまり一族はさほど強い訳ではなく、強いのは一族が代々従えさせていた水神なんだそうだ。その水神はたった一夜にして、1つの大国を潰せるだとか言われているが本当の所は、オウミかその水神に訊くしかない。
ガラッと教室の扉を開けると、騒いでいた連中が「ヤベッ」と言いながら、座り出す。その中にオウミと仲がいい、若草スズムがいた。アイツは基本無気力で座学の時はずっと寝ている。シカマルと似ている。
「ほら、出席取るぞ」
順々に名前を呼んでいると、オウミの番になった。みくまりオウミと名前を呼んでも返事は返ってこず代わりに、オウミと仲がいい火杓アカネの声が聞こえてきた。
「オウミ、ほら先生呼んでる!!」
「え、あ……」
視線を動かし、アカネを見るとその横でわたわたしているオウミがいた。オウミと俺の視線が合うと、オウミは小さく「すみません」と零した。
「次からは、ちゃんと返事するんだぞ」
「はい」
オウミは返事をすると何故か、ギチギチと左手首に着けている白いミサンガをこれでもかと引っ張っていた。何故か幻聴で「痛い!!」と聞こえたが何故だろう?
◆
職員室に戻り、自分の机の上に今日やったテストの置くと隣から「なぁ」と声を掛けられた。
「何ですか?」
「この間居なくなった暗部の忍を合わせると、合計で6人も暗部の忍が居なくなったっていうあれ」
「あぁ、聞きました。暗部の忍が6人も居なくなっただなんて、不気味ですよね」
「そうだよな。でだ。これ風の噂で聞いたんだけど、暗部が居なくなったのって
みくまりオウミのせいじゃないかって」
耳を疑った。何でそこでオウミの名前が出てくるんだ?放心している間に同僚はどんどん話を進めていく。
「まぁ、仕方無いよな。オウミに掠り傷1つでもつければ、その次の日に倍以上になって返ってくるって噂されてるし」
ケタケタ笑いながら、「そんじゃ、仕事戻るわ」と言い残し机に向かった同僚を見てやっと我に返って、テストの丸つけをしようと赤ペンを手に取った。けど、どうしても同僚の言った言葉が頭から離れなかった。
「あ、オウミのテストか……」
アイツはクラスで1番では無いが、頭がいい。アイツ自身は座学くらいは上位に入ってなきゃと言っていたが、アイツは体術以外はみんないいんだ。それこそ忍術は2、3個できるらしいし。
あぁ、いや今はそんな事を思っているじゃなくて丸つけをしなければ。赤ペンでクルクルと丸を書いていく。下までいくとテストの端の方に小さく何かが描かれていた。それはまるで、
「蛇?」
落書きだからか、適当に描かれていた蛇の様な生き物は此方をジッと見ているだけの、ただの蛇だったがふとある事を思い出した。確か水神は、白蛇だと聞いたことがある。オウミは水神の封印を解いたと聞いたことがある。まさかとは思いながら、その考えを頭の隅に寄せクルリと最後の問題の答えに赤い丸を書いた。
◆
【オウミ side】
今日のハクジャによる、迷惑なこと。
その1, ハクジャが仕切りに話し掛けてきたせいで、イルカ先生に名前を呼ばれているのに気づけなかった事。
その2, テストの問題を書き終えた時にハクジャがいきなり「私の絵を描いてくれんか?」としつこく頼んできたので渋々、(落書きなので)適当に描いてやったら落書きを消す前に、テストの用紙を集めなければならなくなった事。
「これ、みんなハクジャのせいだから」
「何故じゃ?」
コテンと首を傾げたハクジャは、本当に何故自分が悪いのか分かっていないみたい。だから何とか分かって貰おうと1から説明しても分かって貰えなかったので、最終手段として、
「水神である、ハクジャなら分かってくれると思ったのに……」
ここでちょっと、ポイント。
肩を落として、目線をハクジャから外して「はぁ……」と聞こえるか聞こえないか位の声で溜め息をつく。これでも駄目ならもう1押しとして、眉を下げ「あぁ、いいのいいの」と自分の前で手を振りあくまでもハクジャを誉めつつ、ハクジャにとっては精神にくるように、
「いいのいいの、ハクジャは高貴な水神様だもんね。僕たち人間のルールに縛られるだなんて嫌だもんね。ごめんねハクジャ、無理な事言って」
こんな感じに言えば、大体ハクジャは堕ちます。今も分かった、分かったと言って焦っているハクジャがいる。ハクジャって意外と単純なのかも知れない。
「うん、分かってくれて有難うハクジャ」
よしよしと頭を撫でてあげると、普通の蛇のサイズになったハクジャは尻尾を振った。可愛い可愛い。
「あ、そう言えばね。ナルト兄ちゃんが長期の任務が入ったから、暫く帰って来られないんだって」
そこまでニヨニヨと目元を綻ばせていたハクジャが、尻尾を振るのをやめ「何?」と呟いた。聞こえて無かったんだと思い、もう1度教えてあげるとハクジャは、
「そうか、あの狐暫くは帰って来れないのか。そうかそうか。これでのんびりできるの」
そう言ってグリグリと僕の掌に頭を押し付けてきたハクジャの頭をちょっとだけ強く撫でながら、「そう言うこと言わないで」と注意した。注意するとハクジャは「……………ウム」と頷いた。
クスクス笑いながら、窓の外を覗くと休み時間もあってか僕のクラスの人たちは皆外に出て遊んでいた。外を眺めていると、ハクジャが「オウミよ」と話し掛けてきた。「ん、何?」とハクジャに視線を移すと、
「外へは行かんのか?」
「皆、あんな風に忍者ごっこしてるの見てるとさ、体術最下位の僕が敵役に成りそうでさ」
自分で言っておいて、だけどちょっと悲しい。
「本音は?」
「……………後1年で僕たちは本物の忍になる。遊びじゃない、……………」
僕はそこまで言って自分が何を言おうとしていたのか気付いて、頭を掻いた。そんな僕に気付いたのかハクジャが「よしよし」と僕を慰めにくる。
「……忍となり、人殺しをするのが怖いか?」
「……………うん」
「……忍となり、仲間の死を見るのが怖いか?」
「……………うん」
「ならば、人を殺さないほどの力を手に入れて仕舞えばいい」
ハクジャの言葉に、「え、?」と声を零して仕舞った。
「まぁ、お主にはさいきょーという言葉は似合わないがな」
そう言ってシューと舌を出し、笑った(様に見えた)ハクジャを見て僕はつられて笑って仕舞った。