片や剣、片や弁当箱を持った二人の相対。 困惑している様子の少年だったが、覚悟を決めて飛び込む。 「いくっす」 右手に持っている剣を左脇に収め、左から右へ真横に薙がれた一撃。 それなりの速度を持った剣閃だが、全力でないのは目に見えて分かる。 「舐めちゃいけないね」 優斗は彼が振り切る前に足を払う。 ヒューズの身体が一瞬の浮遊と同時に傾き、剣閃もずれる。 「――ッ」 しかしヒューズは反射的に軌道を修正し、当てに入った。 「おおっ」 感嘆の声が優斗からあがる。 だが声とは裏腹に一歩前へ踏む込むと、弁当箱を持っている右手で器用にヒューズの右手を掴む。 「……えっ?」 振り抜こうとしていた腕が止まった。 優斗は倒れていくヒューズをゆっくりと地面に下ろす。 「あそこから軌道修正するなんて、さすがの才能って言ったほうがいいのかな」 「…………」 気楽な優斗とは対象に、呆然とした面持ちのヒューズ。 しかしすぐに立ち上がり、 「すんません先輩。オレ、本気でいかせてもらうっす」 気合いを入れ直し、詠唱する。 今、目の前にいる先輩が強いのは分かった。 だから余裕を持たれているというのも理解できた。 「求めるは雷帝、瞬撃の落光」 ヒューズは現れた魔法陣に剣を突き刺すと、次第に剣が雷を帯びていく。 その光景に少女が大いに慌てた。 「は、早くやめさせて下さい! 死んじゃいます!」 「大丈夫よ。ちゃんと死なないように手加減してあげてるから」 キリアがさらっと言葉を返す。 すると少女が目を丸くして驚いた。 「……えっ?」 「えっ?」 彼女の反応にキリアも驚く。 どういうことなのだろうか、今の反応は。 キリアは少々考え、 「……もしかして先輩が死んじゃうって思ったの?」 質問すると少女はこくん、と頷いた。 だがキリアは無理だとばかりに手を大げさに振った。 「あれくらいで死ぬなら、わたしがとっくに殺してるわよ」 「ミヤガワも同じ事が出来ることだし、問題はないだろう」 確か世界闘技大会で同様の技をやってきた。 「っていうか貴女達、上級生にどういう人がいるのか知らないの?」 「……ヒューズ君が興味なくて、あんまり詳しくは。アリシア様がいるぐらいです、知ってるのは」 と少女は言うが、いくらなんでも知らなすぎだ。 「上級生と戦ってみれば、やる気の無さも一発で解消したでしょうに」 特に三年生はとんでもない奴の集まりなのだから。 魔法を帯びた剣を前にして、未だ弁当箱が相対者の右手には存在している。 正直、間抜けな光景だった。 「えっと、その、俺がここまでやってるんだから先輩も剣を持ったほうがいいと思うっす」 「どうして?」 「いや、だって危ないっすよ!」 斬られるだけじゃない。 魔法によって帯びた雷が身体を貫く。 明らかに通常よりも危険な領域だ。 「だから、どうしてかな?」 けれど優斗は首を傾げる。 「君の才能の程度は大体分かったけど……分かった上で剣を持つ必要を感じてないんだよ」 弁当を持った右手で優斗はヒューズを指差す。 「才能と実力は別物。才能があるからって『強い』だなんて勘違いしないほうがいいよ」 あくまで才能は才能。 持って生まれたものだとしても、育てなければ『強い』わけではない。 「才を力に変えてこそ意味があるって知らないとね」 言いながら優斗の脳裏に思い浮かぶは……親友の一人。 「……そうなると、あいつは本当に何て言えばいいのか」 勝ちたいと願っただけで上がる実力。 至上の才と言っても過言では無い。 「先輩?」 突然呆れた様子の優斗をいぶかしむヒューズ。 「いや、何でもないよ」 苦笑して優斗は構えた。 一息を入れ、 「とりあえずだけど、言ってあげるね」 相対する少年に対して色々な台詞を考える。 そこから一番この場に適してるっぽいのをチョイスした。 「現状がつまらないと思うのなら、そろそろ大海を知ろうか才能者」 笑みはそのままでありながら、出てくるのは挑発的な言葉。 「来なよ。三秒で終わらせてあげるから」 ◇ ◇ 「シュールな光景よね」 雰囲気と何一つ合致しない弁当箱。 あれだけが異彩を放っている。 「あいつ、なぜ弁当箱を持ったままやってるんだ?」 「どこかに置くのを忘れただけじゃないの? それで相対しちゃったから『このままでいいや』とか考えてそう」 もしかしたら武器として考えているのかもしれない。 ……弁当箱を。 「すっごく間抜けな絵面ね。弁当箱持って決め台詞とかアホっぽいわ」 「……キリア、本当にミヤガワの弟子もどきだよな」 毒舌のスキルが大いに成長している。 ◇ ◇ 来いと言われたのにも関わらず、ヒューズは一向に動けなかった。 さっきまでとは違う、少し気合いを入れただけの優斗を見て脂汗がだらだらと流れる。 「…………」 自分は才能があると言われ続けてきた。 目の前にいる先輩にだって当然、勝てると思っていた。 でも、そんな自分の勘違いが今更ながらに馬鹿馬鹿しい。 「……っ」 どうしようもなく恐怖を感じる。 立ち姿は隙だらけにしか見えない。 どこから攻撃をしても当てられそうな感じはする。 なのに倒せるイメージが何一つ沸かない。 剣を振るった瞬間には、やられる映像が脳裏にありありと出てくる。 「来ないの?」 笑みを携えたまま尋ねてくる。 だが、駄目だ。 足が動いてくれない。 自分の感覚が『挑んでは駄目だ』と最大限の警報を鳴らしている。 勝負をする時、大抵は見ただけで強さが理解できた。 けれど目の前にいるのは底が知れない。 どれだけ強いのかも分からない。 「お~い、動かないと勝負にならないよ」 弁当箱をぷらぷらとさせる優斗。 ヒューズは『馬鹿にしてるのか』……と思うことも出来なかった。 余裕綽々で相手をされている理由が本当によく分かる。 目の前にいるのは化け物だ。 同じ人間なのかと疑いたくなってくる。 本気なんて出さずとも、全力なんて見せずともこっちは理解させられる。 こんな相手に自分が全力を出さないとか、馬鹿の極みだ。 出したところで無駄だというのに。 「…………駄目だ」 腕に込めていた力が抜ける。 「………………俺の負けっす」 帯びさせた魔法を消し、鞘に剣を収める。 優斗がわずかに目を見張った。 「ふむ。さすがって言っておこうかな」 「勘弁してほしいっす。先輩の言っている意味がよく分かったっすから」 先ほどの「大海を知ろうか」という言葉。 確かに自分は井の中の蛙だったらしい。 こんな近くに、どうしようもないぐらいの存在がいた。 「あの、一つ訊いていいすか?」 「いいよ」 「何でそんなに強いんすか?」 純粋に興味があったのでヒューズは尋ねる。 問いかけられたことに対して、優斗は小さく笑った。 「頑張ったからかな」 「そうっすか」 軽く答えられたことにヒューズも笑んだ。 柔らかい空気が二人の間に満ちる。 やっと弁当箱が雰囲気に合った。 「戦わずに先輩の強さが分かるって凄いわね、あの子」 キリアはやったところで一切、全く、何一つ分からなかったというのに。 感心した様子のキリアとは逆に、少女で驚愕の表情になっていた。 「あ、あの先輩って凄い才能の持ち主なんですか?」 「さあ? 少なくとも五年に一人の才能とかは持ってないと思うわ」 当の本人が分からないと言っていた。 ただ、経緯を考えるにそこまでの才能は無かったと優斗自身は考えている。 「で、でもヒューズ君が戦う前に負けを認めるなんて――」 「それがさっきの答えよ」 才能なんて関係ない。 死ぬほど努力をすれば、自身の限界だって凌駕できる。 「あの人の存在がわたし達の根拠なの」 キリアが自慢げに話す。 少女は優斗を視界に収め、何とも言えない表情になる。 「ヒューズ君が敵わないほど努力をした人なんですか?」 「そうよ」 キリアは頷いて優斗を見た。 「時々ね、努力できるのも才能だって言う人がいるのよ」 頑張って、頑張って、実力を身につけた人に対して“努力する才能”があるからだ、と。 そういうことを言う人も存在する。 事実、キリアも言われたことがあった。 「でも、先輩は違うって言ってくれたの」 馬鹿な考えだと一笑して、優斗は自分に告げてくれた。 「努力は心の持ち様。だから頑張ってることに才能っていう言葉を持ち込むなんて間違ってる、ってね」 キリアの努力を“才能”という一言で片付けさせたりはしない、と。 軽い口調で話してくれた。 「先輩はね、心が折れる一番手っ取り早い理由が“才能”だって言ってたわ」 同じ事をやっていて、同じ時間の鍛錬をしていても差異は生まれる。 その理由こそが“才能”の有無。 「自分には才能がないから諦める。自分には才能がないから敵わない。自分には才能がないから強くなれない」 誰かと比べて弱いから卑下し、自分が弱いことに納得する理由を得る。 「でもね。だからといって自分が本当に望んでいることを諦める――努力を放棄する理由になんてならない」 はっきりと告げるキリア。 「…………だったら……どうして」 そして少女も先程の会話から、彼女が必死に努力しているというのは理解できた。 けれど、だ。 理解できたからこそ訊きたいことが生まれる。 「どうして心が折れないんですか?」 普通は折れる。 誰だってそうだ。 才ある人を羨み、自分が違うと分かった瞬間に努力の意味を見失う。 なのに目の前にいる先輩はどうして、折れないのだろうか。 「どうしてって言われてもね、けっこう単純よ」 するとキリアは少女へニッコリと微笑み、 「わたしは強くなりたい。ただ、それだけ」 壁を越えている者――副長やレイナのようになりたい。 超越者の優斗をぶっ飛ばしたい。 「折りたくないし、折ろうとも思わない。それがわたしの望むことだから」 もう誰かに“守られなくてもいい”ように。 頑張ると決めたのだ。 「だから足掻くの。届きたいと願う場所に、必死に手を伸ばすのよ」 そしてキリアは少女の方をポン、と叩く。 貴女も頑張れ、とエールを込めたものだった。 「あの、えっと……」 少女はキリアを見て、何と呼べばいいのかを迷う。 名前を訊いていなかったことを、今更ながらに思い出した。 するとキリアは察したのか、 「キリアよ、キリア・フィオーレ」 あらためて自己紹介をした。 少女は頷き、先程の言葉に感銘を受けたことを伝えた。 「フィオーレ先輩は素晴らしい出会いをしたんですね」 「……えっ?」 「あちらの先輩と、です」 少女が優斗を見る。 キリアも同じように優斗を視界に収めるが、 「……素晴らしい……出会い?」 当時の状況を思い出す。 「ふふっ、あれがね」 少し吹き出してしまった。 「ど、どうして笑うんですか?」 「だってわたし、最初から先輩に喧嘩売ったのよ」 昔も今も、本当に生意気だと自分でも思う。 「ギルドで一緒の依頼を受けた時にね、魔物との戦いが終わったらメタメタに言われたの。それにムカついて喧嘩売ったら、あっさりやられたわ。その後は無理矢理押しかけて教えてもらってる」 だから笑ってしまった。 どこからどう見ても、素晴らしさがない。 「素晴らしいっていうか笑える出会いよね」 ◇ ◇ 一年生とのやり取りも終わり、キリアとラスターは二人で教室へと戻る。 「ねえ、ラスター君。先輩が強い理由、知ってる?」 歩きながら話すことは優斗に関して。 ラスターは問われたことに首を振る。 「いや、知らないな」 「わたしはちょっとだけ教えてもらったわ」 どうしてあれほどの力を持っているのか。 気になったことがあったから。 「先輩はね、何度も何度も……わたしも想像できないくらい限界を超えてきたの」 今のキリアがやっていること以上のことを優斗はやってきた。 明らかに限度を超え過ぎたことを押しつけられても、彼は突破してきた。 「生死を彷徨った数も数え切れないんだって」 「……そうだったのか」 けれど、言われてみれば分かる。 優斗の強さは限度を超えているどころじゃない。 超えすぎている。 その理由の一つを今、ラスターは初めて知った。 「あの人は才能の塊なんかじゃない。どちらかといえば、わたしみたいな立場の人」 才能があるが故の強さではなく、才能の壁を超えてきた強さ。 「先輩はわたしの限界を知ってるから、それを見越してやってくれる。だから先輩みたいになることはない」 「……ミヤガワみたいにとは、どういうことだ?」 「狂ってること」 「……あの“ミヤガワ”のことか」 「うん」 ラスターも何度か見たことがある。 普段とは違う、存在すら塗り替えたかのような性格を。 「言われたの。『君は狂わず強くなれ』って」 自分のようになってはいけない。あれは“間違った強さ”だから、と。 そう言って優斗は悲しそうに笑った。 「だからわたしは狂わず強くなってやるわ」 目指すべきところに。 正しく導こうとしてくれる人がいるのだから。 うん、と頷き真っ直ぐな瞳で告げる。 「わたしは強くなる」 ◇ ◇ その日の放課後。 珍しく二日連続で空いていた優斗に訓練をしてもらった帰り道。 川沿いの土手を二人で歩きながら、 「今更ながらに訊きたいことがあるんだけど、いい?」 優斗が問いかけてきた。 内容は分からないが、キリアは頷く。 「いいわよ」 「昨日言われてた“へっぽこキリア”って何?」 あの時は説教することで頭がいっぱいだったから、特に気にしてなかった。 けれど彼女をへっぽこ呼ばわりとは、どういうことなのだろうかと今更ながらに気になった。 キリアも問われたことに対し、さらっと答える。 「わたしの昔の呼ばれ方。鈍くさかったのよ、わたし」 「……鈍くさかった? キリアが?」 「そうよ。昔は初級魔法を詠唱して使ったところで誰よりも威力弱かったし、精霊術だってそよ風ぐらいだったわ。何もないところで転んだりっていうのもあったわね」 運動音痴で魔法も下手で、精霊術も使える意味がない。 だからついたあだ名が“へっぽこキリア”。 「想像できないかな、今のキリアからは」 「そうね」 あの時の自分とは本当に違うと、しみじみ思う。 「結構、いじめの的になりそうなものなんだけどね、ずっと幼なじみに守ってもらってたの。でも幼なじみが引っ越して一人になったから、誰にも負けないように頑張ろうって思った」 同い年の幼なじみが守ってくれていた。 でも、彼はいなくなったから。 「だから強くなりたかった」 そして頑張って、頑張ってきた。 「先輩と出会った時のわたしはね。誰よりも頑張ってたって自負があったの。わたしは一番強いって思ってた。つまりわたしより弱い人はわたしより努力してない。だから……認めないし、認められない」 へっぽこと呼ばれてきたからこそ、今の実力になるまで誰よりも努力した……と思っていた。 生意気だと言われる起因には、これもあるだろうとキリアは苦笑する。 「最近は? まだ弱い人は認められない?」 「どうでもいいわよ。強い人には挑みたいし、戦ってみたい。先輩がそう改造したでしょ?」 変わったのは貴方のせいだと言外に告げるキリア。 優斗も笑ってしまった。 「そうだね」 とりあえず生意気で、自他共に認めるほどの猪突猛進。 けれど昔と比べると悪くない生意気になった。 「ねえ、先輩」 「なに?」 「わたしもすっごい今更のこと、訊いていい?」 「いいよ」 躊躇いなく頷く優斗。 ヤバいところを根掘り葉掘り訊かれるとか考えなかったのだろうか、とキリアは思って……鼻で笑った。 ――それこそ今更よね。 簡単に頷くだけの信頼関係があることもまた、互いに分かっていた。 だからキリアも真っ直ぐに尋ねる。 「どうしてわたしを訓練してくれるの?」 「……どういうこと?」 「だって先輩ならわたしを拒否するぐらい簡単よね」 それが出来る能力の持ち主だ。 毒舌だってあるし、冷徹冷淡にもなれる。 少なくとも甘っちょろい性格ではない。 だから彼が拒否しようとするのなら、キリアがどうしようと指導を受けるなど不可能。 「けど先輩はわたしを構ってくれる。普通の後輩以上に」 とはいえ優斗は仲間以外に対しても、そこそこ面倒見が良い。 ちょっとした指導やアドバイスぐらいだったら普通にする。 それは彼の仲間から聞いているから知っていた。 でも、だ。 優斗を特に知る三人が口を揃えて言うのだ。 『キリアは今までと違う』 自分は他の後輩と違う、と。 「どうしてここまで構ってくれるのかなって思ったのよ」 ある程度のアドバイスじゃなくて。 生意気なのに拒否されることもなくて。 しっかりと指導してくれる。 それが不思議でたまらない。 「あれだけ執拗にやって来て、『どうして?』も何もないと思うけどね」 優斗が破顔した。 確かに“今更”な話題だ、これは。 「キリアって新鮮だったんだ」 「新鮮?」 「これでもね、慕ってくれる後輩って多かったよ」 「まあ、先輩だったらそうよね」 「その中でも二人ぐらいは他よりは少し熱心に教えたと思う」 部活の後輩だったから。 ちゃんと教えないといけないと思っていた。 「けどね、キリアほどつきまとってくる後輩はいなかった」 「……褒めてるの?」 「褒めてるよ」 くすくすと優斗が笑う。 だが褒められている気がしないのは、どうしてだろうか。 「才能がないことを言い訳にしないで、才能を超えようと頑張る。ただひたすらに真っ直ぐ上を見る。だからこそ猪突猛進の馬鹿なんだけどね」 「どうせわたしは猪突猛進ですよ」 ブスっとしたキリアとは別に、優斗は笑みを崩さない。 「でも楽しいんだ。君の成長していく姿を見ることが」 強くなりたいと、そう言う後輩のキリアが。 真っ直ぐ上を見て強くなっていくキリアを育てることが、本当に楽しい。 「だから言えるんだ」 優斗は歩みを止めて、キリアに向き直る。 そして彼女の頭に右手を置いて、 「君は僕にとって自慢の愛弟子だよ」 まるで誇るかのように。 優斗はキリアの頭を乱雑に撫でた。 「僕のように“強く在らねばならない”じゃなくて、ただ“強くなりたい”っていう……誰でも持っている気持ちだけで僕の訓練に頑張ってる君が、僕は本当に自慢だよ」 ぐしゃぐしゃと撫で回す。 女の子に対してやることではないが、それでも褒められていることはキリアにも分かる。 「…………」 素直に頭を撫でられながら、キリアは思い返す。 そういえば、頑張っていることを褒められたことはあっただろうか。 昔は見返すために頑張っていた。 ある程度の実力が付いてからは、それが当然なのだと周りも見ていた。 優斗に師事してからは、ギルドの年輩や修達が頑張ってることを労ってくれる。 でも、これほどまでに直接褒められたことはなかった。 そう思ったら、少しだけ視界が滲んだ。 「……わたしは……生意気で、向こう見ずで、本当に猪突猛進」 それはそうだ。 自分は生意気で、誰にだって『わたしは強い』と騒いできた。 馬鹿みたいに騒いで、怒らせたことだって何度もある。 誰だって自分みたいな奴の師匠になりたいだなんて思わない。 「でもね、先輩はそんなわたしを育てようとしてくれて、ちゃんと育ててくれる」 他にも強い人はたくさんいる。 周りにいるだけでも修やクリス、レイナは筆頭だろう。 もちろん自分は彼らにも色々と教えて貰ってる。 けれどやっぱり、師事していると言い張れるのは一人だけ。 「これだけは知っておいてほしいの」 撫で終わった優斗の右手が降りると同時に、キリアは意思の強い瞳を向ける。 「わたしは先輩だから信じて教わってる」 最初は優斗が強いから教わってた。 世界最強クラスからの手ほどきが受けられればいいと思っていた。 でも、今は違う。 「大魔法士とか言われても、だから何だって話ね。契約者? それに何の意味があるってこと。そんなものは先輩を信じる理由のうち、万分の一も必要ないわ」 彼の強さに名前を付けただけのものだ。 「わたしが信じてるのは“ユウト・ミヤガワ先輩”」 大魔法士じゃないし、契約者じゃない。 「わたしみたいな生意気で向こう見ずすら構ってくれる、馬鹿みたいに優しい先輩のことよ」 確かに化け物みたいに強いから師事してる。 でも『大魔法士』である必要性はない。 「だからね、わたしも言えるわ」 優斗が自慢の弟子と言ってくれたから。 自分も同じように言える。 「先輩はわたしにとって最高の師匠よ」 真っ正直に本音を伝える。 一本気な視線が優斗とかち合い……互いに吹き出した。 「わたしたち、何を言ってるのかしら?」 どうしてこんな展開になったのだろうか。 二人して意味が分からないが、 「まあ、偶にはいいんじゃない?」 「かもしれないわね」 別に嫌な感じはしない。 再び二人で帰り道を歩き出す。 その先には――