PM5:27
「ぬあぁ~・・・・・・・・。」
佐藤 秀助は帰宅一番そううめいた。
「たく、勉強なんざ家でやるもんじゃねぇだろうに・・・・・・・・。」
そう呟くと適当に鞄を放り出し冷蔵庫をあさる。少々気の抜けたペプシコーラをあおりつつ何か腹の足しになりそうな物を物色していく。
「ぬぅ・・・・、ろくなもんがねぇ・・・・、食材なんかあったって俺は料理なんぞできねぇっての・・・・・・・・。」
ペプシのペットボトルを冷蔵庫に戻すと叩きつけるように扉を閉める。
「さぁ~てさて、お湯は沸いてっかなぁ~・・・・。」
冷蔵庫の上に陣取る段ボール箱からどんべえを取り出すとポットに向かって歩き出した。今日のおやつはカップうどんらしい。
AM6:03
エリスは早朝から寮の自室で大声を張り上げていた。
「古き英知の術と、我が声により、ここに新たなる誓約を交わさん!」
召喚術の詠唱である。
「異界の住人よ、呼びかけに答え現れ出よ!蒼の派閥の召喚師・エリスの名において!!」
術の詠唱が終わり彼女の部屋が光に包まれ・・・・・・・・なかった。よく見ればわかることだが、彼女は召喚術を使うにあたり、絶対に必要な物を持ち合わせていなかったのだ。
「よぉし!いい感じよぉ!これなら試験本番でも大丈夫ね!」
それもそのはず、彼女は蒼の派閥の召喚師『見習い』なのである。そのためサモナイト石などは持ち合わせてはいなかったのだ。しかし、それも今日で終わりである、エリスは今日の試験に受かれば晴れて一人前の召喚師として認められるのだ。
「試験は八時半からだからまだまだ時間はあるわね・・・・、よし!」
「古き英知の術と・・・・・・・・。」
エリスは再び召喚術の予行練習を行い始めた・・・・。
PM7:29
秀助はどんべえ(きつねうどん)を胃袋に収めるとすぐにPS2へ手を伸ばし、視界に移った鞄を見つめしばし黙考した。
(日本史の宿題どうすっかなぁ・・・・・・・・、忘れると明日補習だしなぁ・・・・・・・・、どうせ資料集を写すだけだしなぁ・・・・・・・・、でもめんどくさいしなぁ・・・・・・・・、だからといって補習なんざ死んでもご免だしなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・。)
考えた末彼が導き出した回答は・・・・。
(しゃぁねぇ、やるか・・・・・・・・。)
秀助は鞄から日本史のノートと資料集を引っ張り出すと、ガラクタ置き場となれ果てている机の上のCDやら人形やらを適当に蹴散らすとノートに資料集の51ページを開き、要点を絞って写し始めた・・・・・・・・。
AM8:30
「召喚師見習い・エリス、ただいま参りました!」
エリスは声高らかにそう言うと緊張した面持ちで試験官の前に立った。
「落ち着いていくんですよ?」
ジル・ヴァール師範の言葉に小さくうなずき、改めて目の前の試験官に向き直る。
「無駄話はそれくらいにしておきなさい、コホン、それではこれより、蒼の派閥の召喚師試験を開始する!召喚師見習い・エリスよ、四つのサモナイト石から一つを選び、異界の者を呼び出すのだ。」
そう言うと試験官はエリスの前に四色の宝石を差し出した。エリスは表情を引き締め、一度だけジルの方に目を向ける。
「大丈夫です、自信を持ちなさい。エリス、貴方と相性の良い属性は何でしたか?」
エリスはうなずくと四つの石に向き直り、迷わず赤い石へと手を伸ばす。エリスはその石を両手で包むようにして握ると厳かに呪文を唱え始めた。
「・・・・古き英知の術と、我が声により、ここに新たなる誓約交わさん・・・・。」
エリスが呪文を唱え始めると、一言ごとにサモナイト石がその輝きを強めていく・・・・。
「異界の住人よ、呼びかけに答え現れ出よ!蒼の派閥の召喚師、エリスの名において!!」
誓約の儀式は順調に進むかと思われた時、異変は起きた・・・・。
「・・・・!?・・・な、何!?!?」
エリスの手の中のサモナイト石が突如輝きの色を変えたのだ!
「な!?いけない!暴走!?!?」
ジルは、いざという時すぐに召喚できるように自分のサモナイト石を取り出した!そうこうしている内ににもエリスのサモナイト石は様々に輝きの色を変えながら、ついに純白の光になると広い試験会場を埋め尽くす程に広がり・・・・・・・・。
「うどわ!?」
漆黒の衣を身にまとった少年がうつぶせに倒れていた・・・・・・・・。