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No.43195の一覧
[0] test[スクツ](2023/07/22 00:29)
[1] 追投稿テスト1[スクツ](2019/12/03 04:57)
[2] test3[スクツ](2023/10/28 20:18)
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[43195] test
Name: スクツ◆c843f86b ID:f0329467 次を表示する
Date: 2023/07/22 00:29
test
てすと
 てすと
  てすと

  てすと「てすと、 てすと」
 てすとてす
  てすとてすとてすとてすと
 てすとてすとてすと

てすとてすとてすとてすとてすと


てすと「てすと、 てすと」
12345678901234567890

12345

1234567

12345

一二三四五

一二三四五六七

一二三四五

一二三四五六七、一二三四五六七。




test
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40ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



















  













 



 









 side by 凛

 
 「それで?

  あんた何のサーヴァントなわけ?」


 私、遠坂凛は赤い外套の男に質問をする。

 服越しにも解る戦闘に向いた体つきである。

 おそらく3つある騎士のクラスのいずれかだろう。


 「ん? 

  ああ、この身はバトラーとして現界している」

 
 ……バトラー?

 そんなクラス聞いたことがない

 
 「それは戦う者って意味かしら?」



 「執事だ」





 今、この男はなんと言った?

 
 「悪いけどもう一度教えてくれないかしら?

  どうも聞き逃したみたいなの」

 
 そう、きっと幻聴だったに違いない、

 寧ろこの際アサシンだろうがキャスターだろうが何でもかまわない。


 「私は執事、バトラーのサーヴァントだと言ったのだ。

  マイマスター」

  
 そう言い赤い外套を脱ぐ、

 その下から

 黒いフォーマルなタキシードが出てきた。

 
 その瞬間、

 私の、

 遠坂凛の十年を掛けた聖杯戦争は音を立てて崩れ去った。





 side by エミヤ


 「私は執事、バトラーのサーヴァントだと言ったのだ。

  マイマスター」

 
 あ、遠坂が固まったよ。


 しかしこればかりはしょうがないと声を高くして言いたい


 寧ろ非は遠坂にあるのだ


 
 
 あれはセイバーと別れた後、


 高校卒業と同時に遠坂と一緒に倫敦に行ったことから始まる。


 一言で言えば金がなかった。

 原因は言わずもがな、

 我らが遠坂嬢の魔術のせいである。

 
 そんなわけで某お嬢様の所でバイトをすることになったのだが、



 ……この仕事は天職です。
 

 身体に馴染み


 心に浸透する


 ああそうか

 オレは、衛宮士郎は執事に特化した存在だったのだ。

 

 その後、

 何故か執事であるオレに対し世界は契約を求めてきた。

 一応仮説なら立てることが出来る。

 オレがあの時の赤い弓兵だからだろう。


 アーチャーがオレ自身であることにはあれから数年で気づいた。

 なにせ服装を同じくすればそっくりなのだから。

 その為なのかは解らないが、契約できるなら迷うことはない。

 
 契約の代償として死後も執事であり続けることを望んだ。

 
 胸を張って言える。 
 
 
 この選択はきっと間違いじゃない。





 これが英霊エミヤの誕生秘話である。


 英霊になった後も数々の主人に仕えてきた


 ヘルシ○グ機関の長

 パラダイ○シティ随一のネゴシエイター

 黄金銃を持つ魔女

 目つきの悪い貧乏な黒魔術師に恋するお嬢様

 
 時代を越え、世界すら越えて

 その度に執事としてその力を振るい続ける。

 他にも主人はいるのだが語るのは別の機会にしよう。



 どれほどの時を従者として過ごしたのかは解らない

 当然掃除屋としての仕事もあったが

 執事の仕事があればオレは癒されるのだ。



 そして今回、

 オレの始まりとも言える時に来た。

 何億分の一の確立だろうか?

 それともこれは必然であるのかもしれない。

 いや、これは必然だと断言できる。


 
 半壊した部屋でどこから掃除をしようか高速思考しているその時に

 
 あの、懐かしき衛宮士郎の憧れの女性が

 
 扉を蹴り飛ばして入ってきたのだから。


 ん、はしたないですよお嬢様。
 
 
 
 


 こうして有り得たかもしれないもう一つの聖杯戦争が始まる。






 




 続く……のか?

  











 



 

 







 side by 凛

 
 目が覚めると身体がとてもだるかった。

 思考が定まらない……まー何時ものことと気にしない。

 窓の外を見るとお日様はとっくに昇っていた。

 うん、今日は学校をサボろう。


 あれ? えーと。

 昨日なんかとてつもなく信じられないことがあったような、なかったような。

 まだ寝ぼけているのかはっきりとしない。

 とりあえず居間に行って紅茶を飲んで考えよう。



 扉を開けると何時も通りの居間が見える……?

 私の中の何かがおかしいと言っている。

 昨日この居間は……あ! 思い出した!


 「おはよう、お嬢様。

  随分ゆっくりと休むことが出来たようだな」


 セイバーを呼び出すつもりがコレを呼び出してしまったのだ。

 
 「はー、まさか十年越しの聖杯戦争が始まる前にこんな大ポカで終わるなんて」


 溜息と共に幸せや何かがどっかいにいってしまうようだ。

 すると静かに佇んでいた彼が


 「そんなことはないぞお嬢様、

  私は執事とはいえ君が召喚したサーヴァントだ

  それが最強でない筈がない」

  
 な――――――

 その言葉に絶句する。

 私が彼を否定していると言うのに

 彼は私以上に私を認めているのだ。

 顔が真っ赤になるのが解る。

 
 私はこの瞬間彼を自身のサーヴァントと認めたのだ。

 そう、やる前から諦めるなんて私らしくない。

 こうなったらこいつと一緒に聖杯戦争を勝ち抜いてやるわ。
 

 「意気込んでいるところに悪いが、

  私と君の契約がまだ終わっていなのだが?」


 へっ? 契約? 

 何かしら? 

 魔力の流れは感じるしこいつは……あっ忘れてた。


 「その顔はどうやら思い至ったようだな」

 
 やれやれといった仕草をする……これで本当に執事なのだろうか?


 「ええ、私は遠坂凛よ、好きに呼んでいいわ。

  これからよろしくねバトラー」


 彼の言動に対して多少の皮肉も込めて初めて"バトラー"と呼ぶ。


 「それでは凛と呼ばせてもらおう。

  ああ、この響きは君に相応しいな」

 
 うわ、こいつ絶対女たらしだ。

 う~私絶対赤くなってる。

 なんか悔しい



 あれ?


 「ねえ? そう言えばあんたの真名はなんていうの?

  ついでに宝具も教えて欲しいんだけど」


 私はマスターの当然の権利としてそう聞いた


 するとこいつは……




 side by エミヤ


 「ねえ? そう言えばあんたの真名はなんていうの?

  ついでに宝具も教えて欲しいんだけど」


 むむ、ついにこの質問が来てしまった。


 オレの名前は言える訳がない。

 ここに遠坂がいるのだからかつての自分もいるだろう。

 宝具も同様だ、オレは生前伝説に残るようなシンボルを持っていなかった。

 なのでオレ専用の宝具なんて持っていない。

 唯一許されるのが執事の仕事の傍ら磨き上げた衛宮士郎の魔術のみ。
 
 "固有結界" 禁忌とされるそれにオレは到達した。

 おそらくアーチャーも使えたのだろう。

 だとすれば万全でないというのにバーサーカーを6回も殺せたのも頷ける。


 それと同時にあの時のセイバーと遠坂を思い出してしまい赤面しそうになる。

 だがしかし、執事としては常にポーカーフェイスを絶やしてはならない。

 なんとか赤面する一歩手前で踏みとどまることができた。


 ん? まずい遠坂が答えないオレに不振そうな目を向けてる。

 さてどう言おうかな

 
 「それは言うことが出来ない、なぜなら――」

 
 「なに? 下らない事だったらガンドの的にするわよ」


 ――下手なことは答えられなくなった。


 「真名だが、これはバトラーのクラスのため言うことが出来ない」

 
 「……どう言う事かしら?」

 
 あっ不機嫌になったよ、このままではアカイアクマモードになってしまう。


 「実はバトラーのクラスは真名をマスターにさえ隠すことによって

  能力の向上をしているのでね。

  私のランクが下がっても良いと言うなら教えないこともないが、どうする?」


 よしきた!

 この説明でどうだ、これ以上の理由はオレには考えることは不可能だぞ。

 
 「そういうことならしょうがないわね、

  無理を言って弱くなられるぐらいなら真名ぐらい知らなくても良いもの。

  それじゃあ宝具ならどうなの? 

  まさかこれも言えないなんて言わないわよね?」


 くっ、遠坂が拒否を許さない時や怒った時の微笑みがオレを襲う。

 だがここで屈するわけにはいかない。

 
 「何を言っている宝具も同様だ。

  宝具しだいでは見ただけで何処の英霊か看破されてしまうからな。

  戦闘になったならその限りではないがね。

  もっとも私の場合は異なるが。」 

 
 遠坂も気づいたようだ、これはセイバーがいい例だろう。

 エクスカリバーなんて持ってたら一発で真名がばれるからな。


 「それもそうね、聖杯戦争のマスターとして失言だったわ。

  でもどういうこと?
 
  あなたは異なるって」
  

 「君は執事が宝具になるような物を生前持ってたと思うか?

  答えはNOだ。

  私が用いることが出来るのは死後仕えて来た主人に頂戴したものだけだ」


 「宝具がないですってー!?」

 
 吼えるアカイアクマ。


 「そんなのでどう勝とうって言うのよ。

  だいたいあんたが仕えた主人に貰った物って何があるわけ?

  英霊の宝具に対抗できるようなものなんでしょうね」

 
 オレの仕えた主人……おお! 
 
 ほとんどの人達が遠坂と戦えるじゃないか。

 まーそれはさておき、

 よし、ついに遠坂を吃驚させることができるぞ。


 「たとえばこれだ」

 
 そう言い、干将莫耶を投影する。

 アーチャーが使っていた夫婦剣でありオレも愛用している。


 「これは過去に召喚された際に頂戴したものだ。

  どうだ? 

  他にもあるがこれなら他のサーヴァントにも遅れを取らないと思うが?」
 

 遠坂は唖然としている。

 干将莫耶はランクは高くないが宝具である。

 オレが宝具を持ってないと思っていた遠坂には不意打ちだっただろう。

 オレはしてやったりと内心思いながら彼女を見つめ――、

 
 「……この……嘘吐きがー!!!」


 ゴスッ!!!


 「ガハッ!!!」


 腰の入った正拳突きがオレの鳩尾を貫く。

 効いた、今のは油断もあって物凄く効いた。

いわゆる

 "世界を狙える右"+"第二魔法にすら到達する遠坂の魔力"

 ="絶対破壊の一撃"という式だ。


 「り、凛。

  何も魔力をこれほど込めなくてもいいと思うのだが、

  それに私は嘘をついていない、

  私は私のシンボルとなる宝具がないと言ったのだからな」


 荒い息遣いの遠坂にそう言う。

 
 「む、口の減らないサーヴァントね。

  そういえばさっきも疑問に思ったんだけど、あんた本当に執事なの?

  その言葉使いで他の主人にも仕えてたわけ?」


 ぬ?

 今までの人達には執事らしくなくて良いと評判だったのだが。


 「凛お嬢様が敬語の方が好みだというのならそのようにしますが、

  どうしますか?」


 あ、両手で身体を抱きしめてる、寒いのか?


 「今まで通りでお願いするわ。

  あんたに敬語でしゃべられるとなんか寒くなるから」


 今回の主人はめちゃくちゃ失礼でした。




 
 




 続く……のか?

side by 凛

 
 (凛、どうやら君の杞憂にはならなかったらしいな)


 バトラーの皮肉げな声が私にだけ聞こえてくる。

 学校に入ったと同時に感じた違和感、

 間違いないこれは結界だ。

 
 (それでどうするのだ凛、

  放課後を待って行動するか?)


 私はバトラーの提案に無言で頷く。

 だって声を出してたら周りから見れば独り言を呟く危ない奴である。

 
 
 side by エミヤ


 放課後、結界の解除に向かった先で青の槍兵とでくわした。


 そして、


 「バトラー、手助けはしないわ。

  貴方の力、ここで見せて」


 遠坂の声にオレは


 「…………ク」


 微笑を持って答え、

 弾丸となってランサーに向かう。

 手に持つは一振りの剣、

 銘はマグリ○ジューヴ、夏は疲れ気味だがこの季節なら問題ない。


 「貴様、セイバーかっ!?」


 ランサーの怒声が響き渡り、


 赤き閃光と銀の軌跡が交差する。


 
 side by 凛

 
 目の前の光景に思考がついていかない。


 バトラーとランサーの戦いは、

 既に人の領域を越え幻想の世界に達しているのではないだろうか。


 ランサーの突きをバトラーは危なげなく剣で捌き、前進する。

 
 ランサーは接近させまいと突きのスピードをさらに上げて撃墜せんとする。


 青き槍兵の突きの速さは尋常でない、

 バトラーの弾丸の如き前進をあっさりと止めるのだから。


 だが、それにも増して自分のサーヴァントに疑問を覚える。


 彼はセイバーでなくバトラー、

 聖杯戦争におけるイレギュラーなクラスであるのにもかかわらず、

 既に何本目か解らない剣を使ってあの槍兵と互角に戦っているのだ。


 正直ここまで強いとは思わなかった。
 
 それはランサーも同様だろう。

 
 「ふー、いいぜ名乗りな。

  お前は何処の英霊だ? 

  そっちのお嬢ちゃんの言葉を信じるならバトラーとか言うらしいが、

  正直今までそんなクラスがあったなんて知らなかったからな」


 ランサーは大きく後ろに下がり私と同じ疑問を彼にぶつける。


 「そう言う君は実に解り易いなセタンタ。

  アイルランドの大英雄、死の槍を持つ最速の英霊」


 彼がランサーの正体を明かした瞬間、


 世界が軋んだ。


 「よく言ったな、何処の誰とも知れない英霊よ。

  気づかれたなら隠す必要もない。

  その身で受けるがいい我が必殺の一撃を!」


 まずい! 

 ランサーの奴宝具を使うつもりだ!

 

 side by エミヤ


 「よく言ったな、何処の誰とも知れない英霊よ。

  気づかれたなら隠す必要もない。

  その身で受けるがいい我が必殺の一撃を!」


 どうやら正体を指摘されたことがお気に召さなかったらしい。

 ランサーの怒気が強まり周囲のマナがゲイボルクに集まっていく。

 だがその槍が放たれることはおそらく無い、なぜなら――


 「誰だ!」


 ――かつての自分が出てくるのだから。


 ランサーは第三者のかつてのオレを追いかけていく。

 さて、どうしたものか。


 「追ってバトラー! わたしもすぐに追いつくから!」


 主人の命令がでた、ならばそれに従うのが執事だ。

 オレは即座に追いかけ、


 そこに死にかけたかつての衛宮士郎を見つけた。


 
 side by 凛


 くっ、認めよう私が迂闊だった。


 ランサーがマスターの命令で動いているなら、

 まだ生きてる目撃者を消さない訳が無い。

 
 (凛、君はその選択を後悔しないのかな?)


 バトラーがそう尋ねてくる。

 家でペンダントを渡してきてから終始無言だったのに。


 「当然でしょ、私は遠坂凛なのよ」


 とりあえず、走りながらしゃべらせないで欲しい。


 (そうか、なら私も全力を持ってそれに答えよう)


 信頼に足る、彼の声が耳に響いた。

 
 もうすぐ衛宮君の家に着くといった時に


 (この気配、どうやら遅かったようだな)


 そう屋敷の中にはサーヴァントの気配が……二つ!?


 何故と思うまもなく先ほどの槍兵は塀を越えあさっての方向へ消えていき、


 もう一つの影が塀を越えて襲い掛かってきた。


 「凛、下がっていろ」


 すぐさまバトラーがその影、少女の姿をしたそれを迎え撃つ。


 おそらくセイバーであろう少女の不可視の一撃をまるで見えているかのように

 バトラーは捌いていく。


 そして再び、幻想の戦いが始ま――


 「止めろ! セイバーーーーーー!!!」

 
 ――る前にその声によって止められた。


 私のよく知った彼の声によって。
 
 

 
 




 続く……のか?


>マグリ○ジューヴ、夏は疲れ気味
 オー○ェン 四天王の銘の一つ







 side by 凛

 
 あの後、衛宮君に事の次第を聞き、

 教会に連れて行った。

 どうやら彼は聖杯戦争に参加することにしたようだ。

 うん、私としてはその方が良い。

 それにしても、

 
 「まさか衛宮君が魔術師だったなんてね。

  迂闊だったわ」


 「そう言うなって。

  オレは半人前だし魔力回路も少ないから気づかなかったんだろ?」


 彼と雑談しながら帰路につく。

 今日は彼と戦う気分ではない、

 せっかく助けたのにその日の内に戦うなんてちょっと嫌だ。


 バトラーはセイバーの後ろ、殿を守るように歩いている。

 別に実体化しなくてもいいのになんでだろ?

 セイバーはどうやらバトラーが気になるようで後ろをしきりに気にしている。


 セイバーとの一瞬の戦いでさらに彼に疑問を持つ。

 あらためて考えてみると、

 彼のあの時の対応はサーヴァントといえど規格外だった。

 衛宮君の話だとランサーも不可視の剣に戸惑っていたらしい、

 なのに何の躊躇もなく一合目から不可視の剣を捌いたバトラーは何者なのか?


 そんなことを考えていると衛宮君が立ち止まった。

 私も立ち止まり前方を見て驚愕した。

 月明かりの下、

 白の少女と、巨人が佇んでいたのだから。 

 
 
 side by エミヤ


 「こんばんはお兄ちゃん。

  こうして会うのは二度目だね」

  
 イリヤが衛宮士郎に対して微笑みながら言う。

 そしてその背後の巨人、

 ソレに対し違和感を覚える。

 あの時とは別種のプレッシャーを感じる。
 
 まさかとは思うが――

 
 「なによアレ、まさかバーサーカー……?」

 
 遠坂もアレに対して釈然としないものを感じるらしい。

 前と違いクラスを断定できていない。


 「はじめまして、リン。わたしはイリヤ。

  イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょう?」


 「アインツベルン――」

 
 遠坂がその名を呟くように言い、


 「それじゃあ、”アーチャー”好きに殺って良いわよ」


 イリヤの声によって違和感の正体が判明した。


 「了解したマスター」


 その一度しか聞いたことのない重い声と共に、

 巨体が宙を飛んでくる。


 正直に言えば計算違いもいいところだ。

 ヘラクレスがバーサーカーであったなら勝てた。

 きつい戦いになるだろうが負ける戦いにはならなかっただろう。

 だが今回のソレのクラスはアーチャー、

 だとしたらおそらく宝具は"射殺す百頭(ナインライブス)"だろう。

 最悪"十二の試練(ゴッド・ハンド)"や他の宝具もあると考えたほうがいい。


 「凛、アレはかなり厄介だ。

  最悪私が奴を抑えている間にセイバーと衛宮士郎を連れて逃げろ」


 オレはヘラクレスから目を離さずに主人に告げた。

 
 side by 凛


 「凛、アレはかなり厄介だ。

  最悪私が奴を抑えている間にセイバーと衛宮士郎を連れて逃げろ」


 バトラーが今までの余裕を感じさせない声で言う。


 「どういうこと?

  あんたアレがなんなのか解るの?」

 
 こいつはランサーの正体にもすぐ気づいた、

 なので一応聞いてみる、すると――


 「アレはギリシャ最大の英雄ヘラクレスだ、

  おそらく宝具は"射殺す百頭"、

  最悪"十二の試練"も持っているかもな」

 
 ――こいつはさらりととんでもないことを言ってきた。

 どんな裏技を使えば見ただけで相手の正体と宝具を看破できると言うのだ。

 セイバーや事情をあまり知らない衛宮君も唖然としているし、

 イリヤスフィールも、ヘラクレスさえも多少の驚きを表している。


 「ほう、我が真名と宝具まで一見で見破るとは……。

  貴様の名を聞いておこう」


 アーチャーが感心したようにそう聞いてくる。


 「私はバトラー、遠坂凛に仕える執事だ。

  真名は言えないが、なんならセバスチャンとでも呼んでくれ」

 
 アーチャーを目の前にして何時もの調子に戻っている。

 やっぱこいつ変だ。

 
 「ふざけた名前だ、それに執事だと?

  ……それもどうでもいいことか、

  貴様等はここで潰えるのだから」


 そう言いソレは巨大な剣を持つ

 どういうことだろう? 弓兵が剣を持つなんて。


 「私もなめられたものだ、

  今回お前のクラスは弓兵なのだろう?

  だとしたらそんな宝具(もの)ではなく弓を出すべきだ」


 そう言いつつバトラーも剣を持つ。

 とても綺麗な装飾をされた剣で――


 「そんな……!?

  あの剣はカ・・ーン」

  
 ――どうやらセイバーにはあの剣に心当たりがあるらしい。  


 side by セイバー
 

 「そんな……!?

  あの剣はカ・・ーン」

 
 私がかつて失った聖剣をあのサーヴァントは当然のように持っていた。

 いったいどういうことなのか、

 そもそも私の風王結界を意図もたやすく、

 まるで剣の長さや形が見えているかのよう捌いた時点でその存在に興味を持った。


 それに彼の私を見る目は酷く悲しげであり又嬉しそうでもあるのだ。

 意識するなと言うほうが無理に近い。


 英霊ヘラクレスの正体を看破したことにも驚く、

 なら彼は私の真名にも気づいているだろうか?

 だとしたら由々しき自体であろう、

 私がアーサー王と知られたならそれ相応の戦い方をされてしまう。 

 後々の聖杯戦争のことを考えるならば倒せるうちに倒しておくべきだ。
 
 私が風王結界を構えどうするか思考していると、


 「セイバー、アレは強力だ。

  ここはお互いの利益のために共闘することを提案する」
 

 彼はそんなことを言ってきた、

 確かに今の私の状態ではヘラクレスを一人で打倒できるか微妙なところだ。
 
 この提案は魅力的なのだが、

 
 「バトラー、あなたのマスターはその提案についてどう思っているのか?

  それにシロウの意見も聞かなければならない」


 「あら、私は賛成よ。

  正直あんな化け物バトラー一人じゃきついだろうし」


 「オレもそれでいい、あいつが尋常じゃないことぐらいオレでも解る」


 なら私も異論はない、


 「……相談事は終わりか?

  ならば始めるとしよう」


 アーチャーは律儀に待っていてくれたようだ。

 さすがに最大の知名度を誇る英雄だ、

 前回のアレとは同じ弓兵でありながら全然違う。

 私もその高潔な態度には好感を持てる。

 
 「セイバー、君がこの剣を使うといい。

  その聖剣は使うわけにはいかないだろう?
  
  なに、私は正直この剣は使い慣れてないのでな。

  これを使うことにする」


 そう言いながら彼は私にあっさりと剣を渡す。

 見ると、既にその手には新たな剣を持っている。

 それに私の聖剣にも気づいている。

 やはり彼が何者なのか興味が尽きない。


 「さて、こちらの準備は出来た。

  ヘラクレスよ、命の貯蔵は十分か?」

 
 そんな緊張感を感じさせない言葉と共に戦いが始まる。





 
 
 




 続く……のか?




 side by エミヤ

 
 「はっ!」

 
 裂帛の気合と共にヘラクレスに対し攻撃を仕掛ける。

 
 ガキン!!


 その一撃を奴は力任せでなく剣技をもって弾き、

 同時に迫るセイバーに対してもその剣でしっかりと受け止める。 

 
 生じた隙を突くように踏み込もうとするが奴の豪腕に阻まれる。

 
 これはまずい、正直手詰まりもいいところだ、

 理性をもったヘラクレスがこれほど厄介だとはな。 


 セイバーとオレは奴から一旦間合いを離し、

 遠坂と衛宮士郎をかばうように立つ。


 先ほどから繰り返される攻防。

 オレが攻めることで生じた隙をついて、

 セイバーに持たせたカリバーンの一撃を持って半分ほど削るつもりだったのだが。

 奴はそれをさせない、

 カリバーンにしても今オレが持つ烈刀ファーウェルにしても、

 十二の試練の防御力を突破できる。

 加えて一撃で奴の命を複数個もっていける力がある。

 それを知った上でか奴はその身で剣を受けて反撃するという戦い方をしようとする。

 肉を切らせて骨を断つ、その精神だ。

 たとえ数個の命と引き換えにしたとしても確実に一人倒される。
 
 こちらが一人になれば間違いなく殺られる。


 オレの手札を見せる気でいかない限り正に手詰まりだ。

 オレが打開策を考えていると、


 「……万策尽きたか?

  ならば終わりとしよう、

  マスターにこれ以上夜更かしをさせられんのでな」


 ヘラクレスはそう言い、

 その大剣を構える、


 悪寒が走り、その原因が解明される、

 奴は剣で"ナインライブズ"をやるつもりだ!

 
 それに気づき最速で自己の裡に埋没する。


 「I am the bone of my sword」


 持ち札の一枚を見せることになり、

 魔力もかなりの量を使用するが仕方が無い。

 剣とはいえ奴が使う技がとんでもないのだから、


 「――Nine Bullet Revolver」


 なら、それに対抗できるものをだすまでだ。

 

 side by 凛


 「I am the bone of my sword」

 
 アーチャーが構えたと同時にバトラーが詠唱を始める。

 とても悲しい響きを含んだそれ、


 「――Nine Bullet Revolver」


 途中詠唱が変化する、しかしこれは一体なんなのであろう?

 それに気を取られていたその時、


 「射殺す百頭(ナインライブズ)!!」 

 
 鋼の如きその言葉と共に、 

 アーチャーの剣がセイバーとバトラーに迫る。


 直感した、アレは回避できないものであり、

 バトラーは消えてしまうのだと。


 そんな刹那の間に彼の声が妙に響いた――


 「――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)」

  
 ――その言葉と共にアーチャーの斬撃の全てが防がれる。
 

 ……信じられない、私の直感は絶対に当たっていた筈だ、


 それをバトラーは力技で捻じ伏せてしまった。

 
 私の視線の先には己の必殺の攻撃を同じ攻撃によって相殺され、

 その岩の如き表情を僅かに顰めた英雄の姿があった。


 「……貴様、何故使える?」


 それは反論を許さないと言った感じの問いであった。

 
 「まさか自分しか使えないとでも思っていたのか?

  だとしたらとんだ思い違いだ」

 
 バトラーはいつもの皮肉気な口調で答え――、


 ゾワッ!

   
 ――身の毛がよだつ、

 それはランサーが槍を構えた時以上の死の予感、


 「……今一度我が最強の一撃を受けるがいい」


 アーチャーは剣ではなく弓を構えながらそう言う。


 冗談じゃないわ!

 剣から弓に変わっただけでここまで差があるなんて!


 「バトラー――」


 「そこまでよアーチャー。

  今日はここで退くわ」

 
 私の声を遮りイリヤスフィールの声が響く。

 アーチャーは不満げな顔をしたがすぐに命令に従う。


 「命拾いしたわね貴方達、

  あのままアーチャーと戦っていたら確実に死んでいたもの」

 
 それは真実だろう、あの瞬間私は死のイメージを抱いてしまった。

 だけど、

 
 「それはお互い様でしょう、イリヤスフィール?

  貴方のサーヴァントが宝具を使うと同時に貴方もアーチャーもただではすまなかったわ」

 
 私の視線の先、衛宮君の目の前。
 
 そこには、聖剣の力を開放せんとするセイバーが凛と佇んでいた。


 「……どうやらそうみたいね、

  その聖剣の力でわたしのアーチャーを倒せるかは解らないけど、

  確実にわたしを殺せていたわ」


 あっさりとそのことを認め、振り返らずに去っていく。

 アーチャーも実体化を解きそれに従っている、のだろう。


 少女の姿が見えなくなってから、安堵する。


 「凛、どうする?」


 「イリヤスフィールは放って置くわ、

  退いてくれたのにわざわざ戦う必要はないもの。

  ……衛宮君もそれでいいかしら?」


 「……ん? あ、ああそれでいい……」


 「どうしたの?

  歯切れが悪いけど」

 
 「今生きてることにほっとしてるんだ。

  遠坂、他のサーヴァントもあんな感じなのか?」

 
 「アレは例外よ、

  あそこまで凄まじいのが何体もいてたまるもんですか」


 でもバトラーやセイバーもかなりの英霊である。

 そういえばバトラーはセイバーの真名にも気づいているようだ、

 それに彼が今回見せたものにも興味がある、

 後で絶対聞いてやろう。

 今はそれよりも、

 
 「とりあえず、話し合いは落ち着けるところでするわよ、

  衛宮君の家でいいかしら?」

 
 「ああ、オレは構わないよ」


 「そ。

  じゃあ行きましょう」


 はー、なんかどっと疲れたわ。

 早くベットに倒れこみたいわね。   

 



 




 続く……のか?





 side by エミヤ


 今オレの状況を端的に表すとすると、
 
 ライブでピンチだ。

 しかたがなかったとはいえあの投影をしたのはまずかったか?


 ヘラクレス戦後衛宮士郎の家、まーオレの家と言ってもいいのだが。

 に着いて紅茶を飲んで一息ついたと思った、

 ちなみに執事として当然オレが淹れた。

 皆に好評であり衛宮士郎もオレに淹れかたを聞いたりしたほどだ。

 ほのぼのとしたまま終われると思った、

 だが今回の我が主人も甘くはなかった。


 「それじゃあ、バトラー。

  きりきり話をしてもらいましょうか?」


 ぬぬ、どうしよう。



 side by 凛


 「それじゃあ、バトラー。

  きりきり話をしてもらいましょうか?」


 紅茶で一息いれたところに切り込む。

 バトラーは表情を変化させずに、


 「この場でか? 

  そこのセイバーとそのマスターにも聞かれることになるが」


 あ、忘れてた。

 そう言えばここは衛宮君の家だった。


 「構わないわ、だって共闘することにさっきしたでしょ」


 私としても衛宮君と戦うのは避けたいのでよしとする。


 「あれは先ほどだけのつもりだったのだがな、

  まー君が良いと言うなら私は構わないが」


 「いいのか遠坂?

  なんだったらオレ達外れようか?」


 すると衛宮君が家主らしからぬことを言ってくる、


 「……はー、ここは衛宮君の家でしょ、

  それにもう同盟を組んだようなものじゃない、

  気にすることじゃないわ」


 あのアーチャーを倒すのは一筋縄ではいかないだろう、

 ならセイバーという味方を失うのは得策ではない。


 「それじゃあバトラー、

  一つ目の質問だけど、さっきのあの技は何?」

 
 嘘ついたら私の"幻の左"をお見舞いしてやるんだから。



 side by エミヤ
 

 「それじゃあバトラー、

  一つ目の質問だけど、さっきのあの技は何?」


 そこからきたか……どう説明しよう。

  
 「ナインライブズブレイドワークスのことか?」


 「ええ、そうよ。

  アーチャーの攻撃の模倣と思うんだけど、どうなの?」


 驚いた、やはり普段の遠坂は冷静で優秀だ。


 「さすが私のマスターだな、その通りだ。

  あの瞬間、奴の剣から技を解析し模倣した」


 「……本気で出鱈目ね、どうやったらそんな事が出来るのよ?」


 これは答えておいた方が良いな、


 「なに、生前執事になる前に魔術を少々齧っていてね、

  こと解析に関してはそれなりのものがある」


 嘘でもなく本当でもないことを言っておく。


 「ふーん、もっと深く聞きたいとこだけどまあいいわ、

  ならあの時一見しただけで真名と宝具を当てれたのはどういう事?」


 ぬぬ、それは知っていたからだが、言う訳にはいかないし。

 オレがどうしようか悩んでいると、  

  
 「私も質問をしてもいいですか?」


 セイバーがそう言ってきた、


 「いいわよ。

  バトラー、セイバーの質問に答えてあげなさい」

 
 オレは頷くことでそれに答える。


 「それでは、バトラー。

  私は貴方を知らない、

  なのに貴方は私を知っている、これはどういうことですか?」


 そんな、少し悲しいことを言われた。



 side by 凛


 「それでは、バトラー。

  私は貴方を知らない、

  なのに貴方は私を知っている、どういうことですか?」


 このことは私も気になっていた。

 バトラーが剣を出した時セイバーはその剣を知っていた。

 バトラーの言葉を信じるならあの剣は彼が私以外の主人に貰ったものである。

 そうすると彼とセイバーは会っているのだろうか?

 セイバーの雰囲気からそれはないと思うのだけど。


 そう思いバトラーを見ると一瞬悲しげな表情を浮かべた気がした、

 瞬きして再び見た表情は何時も通り、さっきのは見間違い?


 「簡単なことだ、私は君に会ったことがある。

  もっとも君は知らないだろうがな」


 やはりバトラーはセイバーを知っていた、

 
 「……そうですか、すみません。

  私は貴方に会ったことを覚えていない」


 「気にすることではない。

  ……凛、明日は休みとはいえそろそろ寝たほうがいいのではないか?」


 「そうね、私も正直そろそろ眠りたいし」


 かなり無理があるが話を終えさせる、

 バトラーもこれ以上この話をしたくないのだろう。


 さて、寝ようかなと思ったら、


 「そっかそれじゃあ遠坂、気をつけて帰れよ」


 なんて衛宮君は言ってきた。


 「何言ってるのよ、

  貴方とは同盟を組んだんだからこの家に泊めてもらうわよ」


 「……は?

  本気か遠坂?」


 「もちろんよ、

  というわけで勝手に部屋を借りるわよ」

 
 そう言って廊下を進んでいく、


 「おい! ちょっと遠坂! ―――」


 後ろから衛宮君の声が聞こえてくるが今は寝ることが先決だ。


 そんな光景を見ていたバトラーが笑っていたように感じた。
 



 side by エミヤ


 夢を見た。


 この身は執事とはいえ英霊である。

 夢など見よう筈が無い。

 なのにあの時の、

 衛宮士郎が衛宮切嗣の代わりに正義の味方になることを誓った日の夢を見た。

 オレはその誓いを破り執事として生きる道を取った。

 このことに後悔はしていないが、


 もし切嗣に会えたならなんと言われるだろうか?
 


 side by 凛


 う~、眠い、果てしなく眠い。


 昨日は流石に疲れた、

 ランサーに始まりセイバー、そしてアーチャーとの戦闘。

 初めての戦いに精神が疲労している。

 だがのんびりしてるのもいただけない、

 というわけで起きたのだが。

 ここは何処だろう?

 え~と……そうか、昨日衛宮君の家に泊まったんだった。

 疑問は解消したが頭はいまだにすっきりとしない、

 とりあえずなにか飲み物を貰おう。


 居間に行くと既に衛宮君は起きて朝食の準備をしていた。


 「おはようって、と、遠坂……?

  なんだその顔は!?

  何かあったのか……!?」


 朝から失礼なことを言ってくる、

 ちょっとカチンとくるが自分の朝の状態を考えれば頷ける。


 「おはよ、別に朝はいつもこんなだから気にしないで。

  とりあえず紅茶を――」

 
 「それならもう用意してあるぞ凛」


 ――その声に振り向くとバトラーが既に紅茶の準備をし終えていた。


 さすがは執事、主人の要求に即座にというより、

 前もって対応してくるとは……すごく便利かも。

 バトラーの淹れてくれた紅茶を飲む……お、おいしい。

 家にある高級な茶葉で淹れたのよりも数段おいしく感じる。

 
 「バトラー、この紅茶はどうしたの?」


 「ああ、それは執事の秘密ということで黙秘させてもらうとしよう」

 
 なんて言ってきた、


 「あら、主人に対して秘密を持つなんて執事としていいのかしら?」

 
 おそらく私は今かなり上等な笑みをしている筈だ、

 って、そこ、衛宮君! 何怯えた顔してんのよ!?


 「ふむ、昔私の執事の師匠が言っていたことだが、

  "主人に対して十や二十の秘密は当たり前"らしい。

  最終的には"主人を使って如何に自身が楽しめるかを極めろ"とも言っていたな」
 

 どんな師匠だ、それは。


 その道は絶対に間違ってるわよバトラー。


 「よし、遠坂。

  朝食の用意はできたぞ、

  ってセイバーを呼んでこないと」


 「衛宮士郎、それならば私が呼んできてやろう」


 そう言って居間を後にするバトラー。

 ……なんか変ね。


 
 side by エミヤ


 「衛宮士郎、それならば私が呼んできてやろう」


 気がつくと口から勝手にそんな言葉が出ていた。


 オレ自身このなんとも言いがたい感情を持て余している、

 まーそのことで仕事に支障が出ては執事の名折れである、

 きっちりと仕事はこなさなくてわ。


 そう考えながらオレの足は自然と道場に向かう、

 前回もそうであったしおそらくそこに彼女はいるだろう。

 道場に入るとそこには、

 あの日と同じセイバーがいた。

 凛とした空気の中、背筋を伸ばして正座をし目を閉じている。

 一瞬、心を奪われ見惚れていたが直に用件を思い出す、


 「セイバー、朝食の準備が出来た。

  君も早く来るといい」

 
 オレの言葉と共にその目を開けこちらを見る、

 オレは目を合わさないように既に振り返って歩き出している。

 そこに、


 「バトラー、尋ねたいことがあります」


 朝の空気と同じ凛とした声が響いた。

 

 side by セイバー


 「バトラー、尋ねたいことがあります」


 私の口は勝手にそんな言葉を紡いでいた。

 彼はリンのサーヴァントであり、

 今は共闘していると言ってもいずれ敵になる存在だ。

 なのに、

 
 「貴方と私は何処で会ったのですか?」


 私が朝から記憶を辿ってみても答えは一切出てこなかった、

 私と以前会ったことがあると言った彼。


 「戦場だ、私はそこで君に出会い、

  ……君に命を助けられた。

  そうだな、言っておいて罰は当たるまい、

  セイバー、君に感謝している」


 そんなことを振り返りもしないで言ってきた。

 ……やはり覚えていない。

 戦場で彼ほどの強さの者を助けたことがあったか?

 私が考えていると。


 「セイバー、料理は出来たてがやはりおいしい、

  作り手のことを考えるなら早く行って食べてやるべきだ」


 そう言い残し歩き去ってしまう。

 私もあわてて後を追う。

 彼のことを疑問に思うが、今はお腹を満たすこともまた重要だ。

 
 朝食を食べてから彼についてじっくり考えよう。

  

 



 
続く……のか?



 side by 凛


 ふー、朝食はいつも抜いてるけどこれなら毎日でも食べたくなるわね。

 衛宮君の作った朝食を食べ終えて、

 今はバトラーの淹れた紅茶を再び飲んでいる。

 今後の方針も決まったことだし、

 さっそく部屋の準備をしなくちゃね、


 「バトラー、とりあえず家に戻って必要なものを一式持ってくるわよ」


 「凛、まさかとは思うがサーヴァントを荷物運びに使うつもりか?」


 「あら、貴方は生前から執事だって言ってたでしょ、

  ならこれぐらい範疇の内じゃない」

  
 はー、等と溜息をつくバトラー。

 こら、それは執事としてどうかと思うわよ。

 

 side by エミヤ


 なんだかんだで遠坂の部屋の改装がやっと終わった。

 途中衛宮士郎の作った昼食を食べてから休憩をしていた時に遠坂が眠ってしまった。

 そのため空はすでに夕暮れに染まりそろそろ夕食の時間だ。


 現在衛宮士郎に言って台所を借りている。

 借りるという行為に非常に引っ掛かりがあるがしょうがないだろう。

 昼は和食だったので洋食を作ることにした。

 さて、昼食で過去の自分の技量は知れた、

 ならそれ以上のものをだすのが礼儀だろう。

 



 ふむ、どうやらオレの料理は好評らしい。

 遠坂にはすでにご馳走したことがあるし彼女は顔に出やすい。

 衛宮士郎も驚いているが悪い顔はしていない。

 セイバーも昼食時同様何度も頷きながら食事をしている。


 夕食もつつがなく終わり、オレが淹れた紅茶で一息入れた後、

 遠坂は部屋に戻った。

 衛宮士郎もセイバーも部屋に行ったのだがおそらく前回のように

 衛宮士郎と部屋についてもめている事だろう。

 
 オレはかつてアーチャーがしていたように屋根で見張りをすることにする。

 しばらくすると土蔵に向かう衛宮士郎を見つけた。

 うむ、その気持ちは解るぞ青少年。


 土蔵から僅かに漏れる魔力、

 間違った鍛錬方法ではあるが無駄にはならないだろう。

 もしかしたらアーチャーもこんな気持ちでオレを見ていたのだろうか?
 
 それにしては辛辣なことばかり言われた気がするが。


 そうして夜は更けていく。

 

 side by 士郎

 
 
 「セイバー様、お茶の用意をいたしました、どうぞ」


 「ありがとうございます、バトラー」


 そんな会話が流れる……バトラーの敬語が何故か寒い。

 ついでに遠坂の視線も怖い。

 

 事のあらましは朝、桜が来て遠坂と鉢合わせしたことに始まる。

 そのまま言い合い? になって桜が台所に向かった、

 すると当然の如くバトラーが朝食の準備をしていた。

 知らないやつが居ることで桜が固まっているとセイバーが起きてきた。


 オレも遠坂もいきなり二人の存在がばれると言う突然の自体に固まっていると。

 
 「初めましてお嬢さん、私の名はバトラーと言います。

  そちらに居られるセイバー様つきの執事をしております」


 なんてバトラーが桜に対して普段とは違い敬語で挨拶をしだした。


 「セイバー様は日本に切嗣氏を訪ねてきたのですが、

  どうやらお亡くなりになっていたようでして、

  そのことをご子息である士郎様に言ったところ日本にいる間は

  この家にいてもよいとおっしゃっていただいたので現在ご厄介になっています」


 ……オレは呆気に取られていた、遠坂も似たようなものだ。

 まさかここまでペラペラ嘘がでてくるとは。

 改めて思ったがこの執事只者ではない。


 「ただご厄介になるのは此方としては心苦しいので

  せめて家事の手伝いをさせてもらっていたのです」

 
 どうやら桜もセイバーとバトラーに関しては納得したようだ。

 正直バトラーのおかげでセイバーのことを紹介できたので助かった。

 
 その後桜が手伝って朝食ができ食べ始めた、

 何か違和感があったが、その正体は直に知れた。


 「おはよー。いやー寝坊しちゃった寝坊しちゃった」


 どうやら家で飼っている猛獣のことを忘れていたようだ。


 
 side by エミヤ


 「おはよー。いやー寝坊しちゃった寝坊しちゃった」


 懐かしい声が聞こえてくる。

 そうそう、こんな感じだったこんな感じだった。

 オレは心の中で頷く。


 「士郎、ごはん」


 その言葉に一瞬反応しそうになった。


 そのまま挨拶して、朝食を進めていく。

 藤ねえは「あれ? なんか変な気がする」という顔をする。

 が、どうやら解らないようでごはんを食べている。

 
 一杯分のご飯を食べ終えてから衛宮士郎に耳打ちしている。

 どうやら納得したのかみそ汁を飲み干し――、


 「って、下宿ってなによ士郎ーーーーーー!!!!」

 
 ――虎が吼えた。
 
 テーブルが引っくり返りそうになるが予め抑えておいたので被害は無い。

 
 「い、いきなりなんだよ藤ねえ?」


 「うるさーい! アンタこそなに考えてるのよ士郎!

  同い年の子を下宿させるなんてラブコメ認めるかー!!

  しかも金髪の外人が父親尋ねて来るなんてことぜってーねー!!!」

 
 があー! と吼える藤ねえ、

 セリフまでは覚えてないけどこんな感じだったろう。

 その後も荒れる藤ねえを衛宮士郎が宥めると言った展開が続き。

 そこに遠坂が乱入したことで終止符が打たれた。


 朝食が終わって藤ねえは学校に向かった。


 「セイバー様、お茶の用意をいたしました、どうぞ」


 「ありがとうございます、バトラー」

 
 そんな言葉のキャッチボールをする、

 敬語はそれなりに好きなので苦にならない。

 それに遠坂と衛宮士郎をからかうのにも使えて中々よい。

 桜や藤ねえがいる間だけだが以外と楽しめる。

 
 ん、そろそろ遠坂達が登校する時間だ。

 遠坂達が先に玄関に向かっていく、


 「バトラー、私は学校に着いて行くことが出来ない。

  どうかシロウのことを頼みます」

 
 セイバーから衛宮士郎のことを任された、

 ふむ、アイツのことはなにか出来の悪い弟を見る感じだな。


 「ああ、任せておくといい。

  なにか無茶をするようなら腕の一本や二本とってでも止めてやる」


 「……それはやりすぎです。

  とにかく貴方を信頼して頼むのですからしっかりとして下さい」


 そんな嬉しいことを言われてしまった。

 
 「それでは行って来る、

  ああ、居間のテーブルの上に弁当を用意しておいた、

  昼に食べるといい」


 「はい、ありがとうございます。

  それでは気をつけていってきて下さい」




 ……なにか新婚みたいだなと思ったのは内緒だ。




 




続く……のか?



 side by 凛


 見られている。

 なんかこー注目されている?


 どういうことかしら……、

 
 今日もちゃんと身だしなみは整えてる筈なのに。

 気になって衛宮君に聞いたところ、

 彼等と一緒に登校しているかららしい。

 まさか十年通ってまだ学校と言う場所に未知の領域があるとは、


 凛ちゃんビックリ!


 …………コホン!


 それはさておき校門についていきなりやな奴に会ってしまった。

 間桐慎二、全く桜をなんだと思ってるのかしらコイツ。

 尤も私にそんなことを言う資格などないのだが……。


 それでもいい加減むかついたので声を掛ける、


 「おはよう間桐くん。
 
  黙って聞いていたんだけど、なかなか面白い話だったわ、今の」


 「え――――遠、坂?

  おまえ、何で桜といるんだよ」


 驚いてる驚いてる。


 その後からかうだけからかって、

 彼が逃げていき、彼の頭が少しぶれた。


 「痛っ!」


 なにかに叩かれたのか周りをキョロキョロしている。


 その下手人は解っている、バトラーだ。

 私にも知覚できない速さで手だけ実体化して彼を叩きまた戻る。

 はっきり言って少し呆れたが、

 彼の態度が我が執事的に気に食わなかったのだろう。
 
 だから、そっと小声で、

 
 「バトラー、ちょっとやりすぎよ」


 「何のことかな?

  私は君の後ろにずっと控えていたが」
 

 どうやら私はいい執事を持てたようだ。

 きっとそうだ、違いない。

 

 side by エミヤ


 ふむ、久しぶりの学校は新鮮さがあるな。


 そう思いながら遠坂の後ろに守護霊の如く漂う、

 オレは今見えていないはずなのだが……視線を感じる。

 彼女は……そう氷室鐘。

 忘れるはずがない、彼女とは……。

 いや、そんなことを考えるのは無意味か。
 
 彼女はオレの知る氷室とは別の存在だ。

 ……こちらを見ているのは、オレの存在には気づかずとも何か違和感を感じているからだろう。


 だが、それは大した問題ではない。

 問題なのは現在教室の前で授業をしている男、

 葛木何某、流石に名前は出てこなかった。

 アレには赤貧黒魔術師やその師匠に通じるものを感じる。

 
 すなわち暗殺技能、もしくわ戦闘技能だ。

 自然な中にあるほんの少しの違和感、

 昔のオレでは気づけなかったソレを今のオレは感じることが出来る。

 
 尤も葛木が聖杯戦争に参加していないのなら強かろうと関係ないのだが。

 
 ……ところで遠坂?

 何お前は内職してるかな、

 しかも衛宮士郎を魔術師にするためのスパルタ特訓法ってどうよ?

 時々ニヤケるのは優等生の猫を被るのなら止めたほうがいいぞ。

 かつての自分に本気で同情した。



 side by 凛


 遅い、衛宮君たら私を待たせるなんて良い度胸じゃない。


 「ふむ、すっぽかされたかなマスター」


 この執事は此方に漬け込む隙があると容赦なく突っ込んで来る。


 「そんな訳ないでしょ、

  衛宮君が私の誘いを断るとでも思ってるの?」

 
 「凛、それは自意識過剰と言うものだ」


 「うっさいわね!

  ちょっと黙ってなさい!」

 
 「女性のヒステリーは良くないと思うがね、

  っと解った黙っていよう」

 
 私が令呪をかざそうとする直前に黙る。

 やりにくいったらありゃしないわ。

 
 「凛、どうやら来たようだ」


 黙ってから数秒とせずに喋ってるし。


 「悪い、遅くなった」


 「本気で遅いわよ!」


 そんなこんなで今後の話をしていく。

 そしてふと気になった、

 
 「バトラー、もしかしてなんだけど。

  この結界を誰が張ったのか解る?」


 「ん? ああ、これはライダーだな。

  使用しているのは他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)

  だろう。ランクBの対軍宝具だ」

 
 なっ!?

 驚きを通り越して呆れるしかない、

 なんなんだこのサーヴァントは?

 
 「おいバトラー、そんなに簡単に解るものなのか?」

 
 衛宮君が私の疑問を聞いてくれた、


 「そんな事は無い、ただ一度これと同じものを見たことがあるだけだ」

 
 ってことは、


 「じゃあライダーの真名も知ってるの?」


 「いや、流石にそこまではな。

  会って見なければ解らんよ」


 会えば解るんかい!?


 本気で令呪でも使って洗いざらい喋らせようかしら?

 
 そんな事を考えている内に昼休みが終わる。

 
 
 side by セイバー


 今日は一日ほとんど寝て過ごした。

 起きたのは昼にバトラーの用意してくれたお弁当を食べたときぐらいだ。

 大変おいしかった……。

 
 その後、学校が終わる時間帯に起きシロウ達の帰りを待つ。

 しばらくするとシロウが帰宅した。

 どうやらリンとバトラーは遅れてくるらしい。

 シロウに学校でのことを聞き終えると、

 彼は唐突にこんな質問をしてきた、


 「なあセイバー。

  バトラーの事だけど、

  あいつのことで何か気付いたことってないか?」


 「バトラーですか?

  正直なところ得体が知れません、

  バトラーと言うクラスがあるのも今回始めて知りましたから。

  それに彼は複数の宝具を持っていて真名を特定できない。

  加えて、おそらく私と同等ぐらいの戦闘技術を持っています」

 
 そして、彼は私の無くした剣カリバーンも持っていた。

 前回のアーチャーもおかしすぎる程の宝具を持っていたが、

 彼も似たタイプの英霊なのだろうか?


 「あいつに直接聞いても教えてくれそうにないんだよなー。

  なんか遠坂に対してもたくさん秘密を持ってるみたいだし」


 その通りだ、彼はマスターであるリンにも自分のことを秘密にしている。

 私と違い彼はリンの実力を知った上でおそらく教えていないのだろう。

 考えれば考えるほど謎が深まっていく。

 ああ、そういえば彼はいたずら好きの老人に似たところがある気がする。


 彼に対する興味は尽きない。

 
 

 



 ネタ
 >赤貧黒魔術師やその師匠
 魔術師オー○ェンの主人公とその教師



 続く……のか?



 side by 凛


 放課後、桜を待ってから食材を買って衛宮家に帰宅する。

 どうやら士郎は言いつけを守って家に帰ってきているようだ。

 感心感心。


 さて夕食でも作りますか。

 さすがにバトラーを越えるのは不可能だが、

 昨日のお昼の士郎の料理の味になら勝てるだろう。


 料理の支度をしていると、

 バトラーがさも家にいましたと言った感じで奥から出てくる。


 「お帰りなさいませ、凛様、桜様。

  よろしければ紅茶を淹れますが、どうなされますか?」


 こいつの敬語はやはり薄ら寒い。

 もともとの話し方を知っている私や士郎にはかなりくるものがある。

 セイバーは特に気にしたようではないけど。

 
 「私はいいわ、今から夕食を作るから。

  桜達に淹れてあげて」

 
 「お願いしても良いですか?

  バトラーさんの淹れるお紅茶ってとってもおいしいですから」


 「かしこまりました。

  居間にお座りになって少々お待ち下さい」


 そう言って私のいる台所に来てバトラーが準備をする。

 ……アレ? 

 昨日から使っているけど士郎の家にあんなティーセットはあっただろうか?


 「バトラー、昨日からそのティーセット使ってるけど、

  それどうしたの?」


 「これか? これは最初の主人に頂いたものだ。

  愛着があるのでな、紅茶を淹れる時はこれを使っている」

 
 そう言って慣れた手つきで用意し終え居間に持っていく。

 
 ……あのティーセットかなりのアンティークものだ。

 おそらく数万円程度の値段じゃないだろう。

 もしかしてバトラーって結構すごいとこで働いてたのかも。

  
 おっといけないいけない、今は夕食の準備をしなければ。
 


 side by エミヤ


 「あーおいしかった。

  余は満足である」


 どうやら満腹になって虎はご満悦のようだ。


 「大河様、食後に紅茶を如何ですか?」


 「あー欲しい欲しい」


 「私にも頂けるかしらバトラー」


 そう言う藤ねえと遠坂。

 ふむ、なら全員分淹れてくるか。

 紅茶を持って居間に戻ると、


 「そういえばバトラーさんって私たちのことを名前に様付けで呼びますよね

  どうしてなんですか?」


 桜がそう言ってきた。


 「それは執事としては当然です、

  と言いたいところですがこれは個人によって違いますね。

  敬称を様付け以外にするなど執事によっては変わってきます」


 我が師匠は殿をつけて呼ぶことがあったな。

 
 その後、時間も遅くなってきたので藤ねえが桜を送っていくことになった。

 そう言えば執事になってから藤ねえにあったのは初めてだった、

 前は目線がほぼ同じくらいだったが今は背が高くなった分とても小さく感じる。

 遠坂に言って、彼女達を送るぐらいさせてもらうか。



 side by 凛


 ふー、やっぱり進展しないか。

 
 現在昼休み屋上にて朝登校してる時士郎に言ったように

 遠坂凛は昼食を抜いて結界を張った犯人について調べてます。

 って誰に説明してんのよ。


 「凛、空腹では思わぬ失態をしでかしてしまうかもしれん、

  昼食はしっかりとるべきだ」

 
 私の執事殿は意外とこういうことに細かい。

 
 「お昼ご飯って言っても今からじゃ購買にろくなのがないし、

  食堂は好きじゃないのよね」


 そう、どの道昼食にはありつけそうもないのだ。


 「いや、ここに私が用意した弁当があるのだが」


 ……は?


 「お弁当があるなら最初から言いなさいよ!」


 「ああ、すまない忘れていた」


 こいつ全然反省してないじゃない、

 そう思いながら渡されたお弁当を食べる。

 バトラーを見ると何時の間にかお茶の準備をしている。

 どっからだしたのよそれは?

 

 まーそのお弁当はおいしかったことをここに記録しておく。



 side by 士郎


 「と、言うことはシロウの友人が結界を張らせたマスターということですね」


 藤ねえと桜が食事を終えて帰宅、バトラーは一応二人について行った。
 
 それでオレが午後から学校をさぼって慎二とライダーに会って来た事を話すと

 セイバーはそう言ってきた。


 「え? なんでさ?

  慎二の他にももう一人マスターがいるってことなんだから半々だろ?」


 オレがそういうと遠坂もセイバーも「はー」っと溜息をつく。

 むむ、オレ何か変なこと言ったか?


 「士郎、あんたバトラーが言ったことをもう忘れたの?

  あいつが言ってたことが正しいならライダーがあの結界を張ったってことでしょ」


 ライダーが結界を張った、慎二はライダーのマスター。

 つまり、

 
 「ってことはあいつ嘘ついてたのか」

 
 まー半分ぐらい嘘だとは思っていたけど。


 「そう言う事。でもどうするの?

  士郎の話だとライダー自体はそこまで強くないみたいだけど」


 「慎二とライダーについては結界をどうにかしなきゃならないからな、

  最悪話し合いで駄目なら戦うしかない。

  ……そう言えばもう一つ、柳洞寺にもマスターがいるらしい」


 「柳洞寺ね、確かにあそこはキャスターが陣取ってるからそうなるわね」


 何ですと?


 「ちょ、ちょっと待て遠坂!

  どう言うことだよキャスターって!?」


 オレは聞いていませんよ。


 「……言ってなかったかしら?

  最近の昏睡事件、アレはキャスターの仕業よ」


 言ってないし、聞いてない。


 「それ、ものすごく重要なことじゃないか。

  だって一般人を巻き込んでるんだろ?

  そっちを先にどうにかしないと」


 「そうでもないわ。

  確かにキャスターの力が増えるのは痛いけど

  こっちには対魔力が化け物じみたセイバーがいるんだし。

  それに昏睡してるだけで命に別状はないんだから。

  そこのところを考えると学校の結界のほうが危険ね」


 ぬぬ、確かに学校のほうを優先させるべきだろう。


 「リン、サーヴァントがいるのが解っているなら攻めるべきではないですか?」


 セイバーが言ってくる、

 セイバーからすれば敵の居場所が解っているというのに、

 戦いに行かないのは歯痒いことなのだろう。


 「そうね、でも私としてはバトラーの意見も聞いておきたいわね」


 あのサーヴァントは何ていうか本気で得体が知れない。

 セイバーもそう言っていたし、オレもそう思う。

 あいつならキャスターについても何か知っているかもしれない。

 そろそろ帰ってきてもいいころだし意見を聞いてからでも遅くは無いだろう。


 「解りました、彼の意見を聞いた後に方針を決めましょう」


 どうやらセイバーもそのことには異論はないようだ。


 そして執事が帰宅した。 


 「すまない、ライダーと世間話をしていて遅れた」

 
 なんてほざきやがりましたよ。



 




 

続く……のか?



以下ネタに使用した作品

 >我が師匠は殿をつけて呼ぶことがあったな
 魔術師オー○ェン キー○、黒魔術師殿



 side by 凛


 「すまない、ライダーと世間話をしていて遅れた」


 …………は?


 ……ライダー?


 あーそうかそうか、

 桜を間桐の家まで送っていけば慎二のサーヴァントのライダーにも会うわよね。

 それで家のマスターが陰険だの、業突く張りだの、癇癪持ちだの話してきた訳ね。 

 うんうん、ご近所付き合いは大切だしね。


 
 …………って!


 「んな訳あるかーーーーーー!!!!」

 
 私は叫んだ、いやさ吼えた。
 


 side by エミヤ


 「んな訳あるかーーーーーー!!!!」


 遠坂が虎張りの声で吼える。

 ふむ、予想通りの反応だな。

 耳を塞いでおいてよかった。
  
 ん? 

 衛宮士郎とセイバーが蹲ってる、

 反応が遅れてガードできなかったか、南無。


 「おちつけ凛、社交辞令のようなものだ。

  会ってしまって何もせずに立ち去るなど執事としてありえないだろう?」

 
 その発言に「んなわけねーだろゴラァ!」と言ったオーラをだす遠坂。


 そうは言っても本気で話をしてきただけだし、

 アレにはオレもちょっと驚いたんだから。


 ~~~~~~~~~~


 桜を送って行った、

 昨日は霊体で送っていったが今日は実体化して送っている。


 「バトラーさん、送っていただいてありがとうございます。

  明日は私が朝食を作りますから作っちゃ駄目ですよ?

  それではおやすみなさい」


 「はい、おやすみなさい桜様」


 そう挨拶を終えて桜は間桐の家に入っていく。

 違和感を感じる。

 間桐(マキリ)、今なら解る。

 この家は魔術師の家だ、しかも今も使われている。

 ……慎二には魔術回路が無い、

 慎二の言うことを信じるなら桜は魔術について知らない。

 だが、彼は聖杯戦争に参加するためのチケットと言える令呪を身体に持ってなかった。

 あの時慎二が持っていた本に令呪があったのだがこれは正規の参加方法では無い筈だ。

 
 「……はー」
 
 溜息がでる。

 だとしたら、導き出される答えは一つしかない。

 解らないのは何故魔りょ――、


 ――いささか思考に集中しすぎたか、みられていたことに気づかないとは。
 

 間桐の家に近づいたのだから当然と言えば当然なのだが。


 「出て来いライダー、

  私に用があるのではないのか?
  
  ないのなら帰らせてもらうぞ」


 そう言ってしばらくして、

 目の前10m程先に彼女が姿を現した。



 side by ライダー


 「お帰りなさい、サクラ」


 私の本当のマスターが帰ってきた。


 「ただいま、ライダー。

  ……兄さんは?」


 「シンジならもう寝ています。

  それよりサクラ、貴方を送ってきたあの男はサーヴァントでしょう?」


 「ええ、何のクラスかは解らなかったけどサーヴァントだと思う」


 確かに見た目から判断することは出来ない。

 なら確かめておくのもいいだろう。


 「サクラ、私は彼を調べてきます」


 「えっ! 

  もしかして戦う訳じゃないよね?

  だとしたら許可はできないわ」


 「……サクラがそう言うなら戦闘はしません」


 「解ったわ、気をつけてね。

  それにあの人は先輩みたいにとても優しい感じがするの。

  だから絶対戦っちゃ駄目ですからね」


 マスターがそう言うならそうするまでだが、

 ここで彼に少し興味を覚えた。

 サクラがここまで固執するのはシロウと言う男に続いて二人目だから。


 「それでは、行ってきますサクラ」


 「はい、いってらっしゃいライダー」


 家を出て坂を下りたあたりに彼はゆっくりと歩いていた。

 彼がサーヴァントならこの距離でも見破られる可能性がある。

 気配を可能な限り消して彼を観察する。

 彼は何か考え事をしているようだ。

 無防備なその姿はとても英霊とは思えない。

 
 「……はー」


 彼が突然溜息をする。

 何処か間の抜けたそれは目隠しごしにもその表情が解るようだ。

 しかしそこで気を抜いたのが拙かった。


 「出て来いライダー、

  私に用があるのではないのか?
  
  ないのなら帰らせてもらうぞ」

 
 彼に気づかれてしまった、しかし解せない点がある。

 何故私のクラスまで特定出来ているのか?

 しかも戦う意思が感じられない。


 しばらく逡巡し私は……彼の前に出ていた。

 自分の行動が信じられない、

 今のマスターであるシンジによるサポートでは本来の力を出せないというのに。

 しかし目の前の英霊に興味を持ったのも事実だ。

 だから私は、


 「こんばんわ、月の綺麗な夜だと思いませんか?」


 こんなことを喋っていた……自分の行動が理解できない。

 

 side by エミヤ


 「こんばんわ、月の綺麗な夜だと思いませんか?」


 驚いた、彼女が悪い奴ではないとは前回思ったことだが。

 このような行動を取ってくるとは予想外だ。

 予想外だが挨拶はしておかなくてはな、


 「ああ、こんばんわ。

  月は……そうだな72点といったところだな」

 
 「微妙な点数ですね。

  ……貴方が何故知っているか解りませんが、

  初めまして私はライダーのサーヴァントです」


 と、いきなり自己紹介か!?

 唐突だし、理由がわからんが、


 「私はバトラー、執事のサーヴァントだ。

  真名は教えられないがそこは許して欲しい」


 これぐらいは問題なしだ、

 バトラーはオレのみの限定的なクラスであるので不利にはならないだろう。

  
 「バトラーですか?

  聞いたことがありませんね。

  ……それで他に話すことはありませんか?」


 このお姉さんは何をおっしゃてるのでしょうか。

 オレをつけて来て用があるのはそっちじゃないのか?

 我が師匠の言動も時々……度々ついていけないが彼女も中々だ。

 
 「用があるのは君ではないのか?

  ……まあそんなことはどうでもいいか。

  今夜は用がある、話は明日にしないか?」

 
 オレはそんなことを言っていた、

 実際彼女についてはよく知らない、話し合って損はないだろう。
 
 オレの発言にライダーは驚いた顔をするが、


 「いいでしょう、では明日の夜この時間に、

  そうですね公園がありましたからそこでどうですか?」


 「了解した、ではおやすみライダー」


 「……おやすみなさいバトラー」


 そんな会話をして別れた。



 ~~~~~~~~~~~
 

 うんうん、一般的な世間話以上のものではないな。


 
 side by 凛


 「おちつけ凛、社交辞令のようなものだ。

  会ってしまって何もせずに立ち去るなど執事としてありえないだろう?」

 
 その発言に「んなわけねーだろゴラァ!」と一瞬思ってしまった。

 はしたない、反省。


 「で、本当のところはどうなの?」


 「ん? 本当も何も私は彼女と自己紹介等をしてきただけだが」


 ふーん自己紹介ね……は?


 「ちょっと待ちなさい、ライダーに自分のことを話したの?」


 「自己紹介なのだから当然だろう?

  それとも凛は自己紹介なのに一方的に相手のことを聞くだけなのか?」


 駄目だ、この執事に私は口で勝てない。

 それに、自己紹介といってもおそらくクラスぐらいだろう。

 なら問題はない。


 「……はー、このことはなんかもういいわ。

  すごく疲れたから」


 溜息を漏らしながら横を見れば、

 士郎とセイバーが蹲っている……何やってるのあんたら?

 


 続く……のか?
 

 >師匠
 毎度毎度ですがオー○ェンのキ○スです。
 というかこのネタしか最近でてないし。




 side by エミヤ


 遠坂の音波兵器にやられたセイバーと衛宮士郎がやっと回復した。


 「……遠坂、お前声がでか過ぎだって」


 「うー、だってしょうがないじゃないこのバカが変なこと言うんだもん」


 赤くなって衛宮士郎に言い訳をする遠坂。

 あー、なんかこんな光景よく見たな。

 
 「それで、何の話をしていたんだ?」


 「柳洞寺についてです。

  貴方は何か知っていることはありますか?」


 オレの問いかけにセイバーが答える。


 「柳洞寺、キャスターか」


 キャスター、彼女は直にギルガメッシュにやられてしまった。

 真名は全く解らない、ただあの時宝具だけは観れた。

 なので宝具の能力は今なら知っている。
 
  
 そして柳洞寺にはアイツがいる。

 アサシン、佐々木小次郎。

 修練のみで英霊の宝具の奇跡と同等の剣技を持つにいたった存在。

 
 「あそこへは攻め込むべきではないな。

  二体二とは言え場所が悪い」


 わざわざキャスターの根城に攻め込む愚を犯す必要はないだろう。



 side by 凛

 
 「あそこへは攻め込むべきではないな。

  二体二とは言え場所が悪い」


 「二対二? 

  どう言うことなのバトラー?」


 此方はバトラーとセイバーの二人、相手はキャスター一人。


 「あそこにはアサシンもいる」


 ……もう何も言うまい。

 このサーヴァントの異常性に付き合っていたら身がもたない。


 「それでアサシンとキャスターについて知ってることはあるの?」


 「アサシンの方は正規の存在ではない、真名は佐々木小次郎。

  宝具は知らない」


 確かに、佐々木小次郎なんて英霊はいない。

 それにアサシンには「山の老翁」が選ばれるはずだ。


 「キャスターの方だが宝具は破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)だ。

  これは究極の対魔術宝具と言える、全ての魔術を破戒するのだからな。

  ただ真名の方は解らない」

 
 「全ての魔術を破戒するって……。

  もしかしてマスターとサーヴァントの関係も?」


 「ああ、おそらく破戒できる」


 うわ、それって最悪の宝具じゃない。

 だとすると現状では柳洞寺はほっとく方がいいか。


 「私は攻めるべきだと思います」
  
 
 等と私の意見と食い違う意見を言うセイバー

 
 「どうしてかしらセイバー、

  今柳洞寺に攻め込むメリットがないと思うけど」


 「リンは反対だと?」

 
 「そうね、バトラーも乗り気じゃないみたいだし。
 
  パスするわ」


 「わかりました。

  それではシロウ、私たちだけで寺院に赴きましょう」


 いやいや、多分士郎も行かないと言うわね。



 side by エミヤ


 セイバーと衛宮士郎の言い合いはほぼ前回のオレと同じだったろう。

 だとすれば彼女の事だ抜け出すに違いない。

 ん、どうやら動いたようだな。


 セイバーに悟られないように距離をおいてついて行く。


 
 長い階段を登った先にソレはいた。

 あの時と同じ敵意を感じないのに隙がないその存在。


 セイバーとアサシンの会話を聞くともなしに聞く。

 ……あの美形、オレのセイバーに対してもあんなこと言ったのか?
 
 前回オレがここについた時には既に戦いが始まっていたので知らなかった。
 
 あのアサシン絶対に女垂らしだ。


 そして戦いが始まる。

 セイバーが攻めるがそれをアサシンは事も無げに捌き弾いていく。

 
 ……正直驚いた。

 セイバーが苦戦したのは知っていたがこれ程とは。

 
 そして完全にセイバーの剣が見切られ、

 アサシンが有利な足場から下りていく。

 何のつもりだ?

 そして、


 「構えよ。

  でなければ死ぬぞ、セイバー」


 そんな言葉が聞こえて来た。

 セイバーがあの時言っていた「燕返し」だろう。

 
 そして、オレは二度目の第二魔法を見ることとなった。


 多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)


 一体誰が信じると言うのだ、ただ剣技のみで魔法や神秘の領域に達しようなどと。
 

 ……こいつを絶対遠坂には会わせられないな。

 マジで切れかねない。


 そして、セイバーが剣を構える。

 どうやら聖剣を使う気だな、

 だとすればそろそろ衛宮士郎も来ることだし、頃合か。

 
 「少々無粋だが、その辺でやめておけ」


 オレはそう声を掛ける。 

 

 side by セイバー


 このアサシンは強い、

 もしも完全な「燕返し」がきたら間違いなくこの身は切られる。

 なら全力を持って打倒するのみ。

 そして聖剣を解放しようとした時、


 「少々無粋だが、その辺でやめておけ」


 ここにいる筈のない彼の声を聞いた。

 
 「ほう、私に気がつかせないとはな」


 「ふん、セイバーを前にして鼻が伸びてたのだろう」


 な、何を言っているのだ彼は。


 「セイバー、ここは引け。

  お前の宝具を見ようとする者がいる。

  それにそろそろヘッポコなマスターがくるぞ」


 シロウが?

 くっ!
 
 だとしたら引くしかない、

 今回のマスターはおそらく戦闘の続行を許可しない。


 「解りました。

  アサシンこの勝負預けてもよろしいか?」


 「……仕方あるまい、だがいずれこの勝敗は決するぞ」


 そう言ってアサシンは山門の方へと歩いていく。


 「バトラー、何故貴方が此処にいるのですか?」


 「なに、無鉄砲なお姫様が無理をしないか見に来ていたにすぎんよ」


 「む、その言い方なんですか!

  撤回を要求します!」

 
 まったく失礼極まりない。

 だが彼のおかげで助かったのも事実だ。

 あのまま聖剣を使っていたらその場で現界できなくなっていただろう。


 「セイバー!!」


 だとしたら階段を全力で駆け上ってくるあのマスターにどれだけ怒られるか

 解ったものではない。

 ならば、


 「バトラー、感謝を」 
 
 
 彼の執事はあらぬ方向を向いている。

 ふと一瞬見えた彼の顔が少し赤かったのは眼の錯覚だろうか?



 

 続く……のか?



 side by 凛


 朝私は桜に対してしばらく衛宮家に来るなと伝えた。

 一週間来なければ自分が大人しく帰るからと、

 だが返ってきた答えは、


 「嫌です。

  先輩の家に一週間も来れない位なら姉、……遠坂先輩が居るのも我慢します」


 であった。

 何気に失礼なことを言われているが、正直桜がここまで頑固だとは思わなかった。

 おそらくこれ以上何を言っても桜は聞かないだろう。

 どうしたものか。



 そして朝食となり、

 綾子のことを士郎がポロッと言ってしまったことを盾に朝食を洋風にすることができた。

 桜は洋食に対して特に不満はないらしい。


 騒がしい朝食が終わり学校に登校しようとして、


 「――オレ、今日学校休むから」


 士郎がこんなことを言ってきた、

 桜や藤村先生が驚いている。

 おそらく昨日なにも出来なかったことが悔しいのだろう。

 しょうがない学校の方は私がなんとかするとしますか。
 


 side by エミヤ


 夕食が終わってから遠坂は衛宮士郎に魔術の授業をしている。

 セイバーはおそらく道場で精神統一でもしているだろう。

 オレは当たり前になって来た桜と藤ねえの見送りをする。

 その後一度帰ってからまた衛宮の家を出る。

 遠坂に気づかれるかもしれないが、言い訳はいくらでも出来る。



 公園に近づくが中にライダーの気配はしない、

 考えてみれば桜を送ってからその場でライダーを連れて公園に来れば速かったと思う。

 そんなことを考えながらライダーを待っていると。


 「お待たせしましたバトラー」


 彼女がやって来た、月明かりの下でその姿はまるで女神のようだ。


 「ああ、随分待たされたな」

 
 内心を誤魔化すように軽口で答える。


 「……そういう時は嘘でも今来たと言う所ではないのですか?」


 ……なんかライダーが現代の風習に毒されてる気がする。


 「一体何処でそんなことを知ったんだ?」


 「ドラマというものでそんなことを言っていました」


 英霊がドラマ?

 ものすごくシュールだな、それにあの目隠しをしてて見れるのか?


 「まあいい、立ち話もなんだしこっちに座るといい」

 
 オレの座るベンチの横をポンポンと叩きながらライダーに言う。

 少し迷ってから彼女はこちらに歩き出す。

 さて、ライダーはオレの淹れた紅茶をおいしいと言ってくれるかな?

 

 side by ライダー


 桜と慎二に黙って家を出る。

 私は嘘が苦手なので桜達に言ってから出るわけには行かない。


 公園に近づくと中からは昨日と同じ気配がする。

 軽い挨拶をした後彼が、


 「まあいい、立ち話もなんだしこっちに座るといい」


 と、言ってきた。

 一体何を考えているのか?

 今私は敵意等を出していない。

 それでも無防備に敵であるサーヴァントを懐に招きいれるなどどうかしてる。


 だがそのことを快く思う自分がいる。

 私は促されるままに彼の横に座る。


 「口に合うかは解らないが、どうかな?」
 

 すると彼は一杯の紅茶を出してきた。

 さっきまでは何処にもなかった筈だが何時の間に準備したのだろう?

 私はそれを受け取り何故か一切の疑いを持たず口にする。


 ……温かい。


 私には食事は必要ない、口にするものと言えば血ぐらいだ。

 私にとって吸血とはとても甘美であり最も効率の良い魔力補給である。
 
 なのに彼の淹れたこの紅茶はそれ以上に私の心を潤す。 
 
 
 「ふむ、どうやら気に入ってくれたようだな。

  なに、その表情を見れば解る。

  お茶請けにクッキーもあるがどうかな?」


 驚いた、私は感情が表に出にくいとよく言われているし、自分でもそう思っている。

 なのに彼はそれをたやすく読み取っている。

 私は内心の動揺を抑えて彼の用意したクッキーを食べる。


 「……おいしい」


 ポツリ、つい呟いてしまった。

 あわてて彼を見る、意地の悪い顔をしているだろうと思っていたが、

 そこにはどこか優しげな表情を浮かべている。

 
 「それも口に合ったらしいな。

  よかったらもっと食べるといい、量はそれなりに作ってきた」


 私はそれに促されるようにクッキーにパクつく。

 正直はしたないとも思うが、おいしいのだから仕方がないとも思う。

 
 その後ただ私の咀嚼音のみが流れる。

 会話はない、だが会話が苦手な私には心地よい。

 

 しばらくしてゆっくり食べていたのに残念なことに食べ終えてしまった。

 不思議な感覚だ、今までは食事など必要ないと思っていたのに。


 「さて、今日は何か話そうとも思っていたが。

  どうやら必要ないな、君は悪い奴ではない。

  それが確認できただけでも十分だ」


 彼がそんなことを言う。

 どんな反応をすればいいのか解らない。

 
 「そろそろお開きにしよう、

  お互いマスターにばれると怒られそうだ」


 「そうですね、私もそろそろ帰らねば」


 さすがにこれ以上時間を掛けるとばれてしまうかもしれない。

 名残惜しいがしょうがないだろう。



 side by エミヤ


 「そうですね、私もそろそろ帰らねば」


 うむ、クッキーも全部食べてくれたことだし、

 少しは満足してもらえただろう。

 今回何の為に話をしようとしたのか有耶無耶になってしまったが、

 中々有意義に過ごせたと思う。


 「ライダー、中々楽しめた。

  機会があったらまた一緒に茶でも飲もう。

  それでは、おやすみ」


 オレはそう言って公園を去る。


 程なくしてライダーの気配が移動していく。

 おそらく次に会うときは敵同士になるだろう。

 だが出来れば戦いたくはないものだ。

 このままいけばセイバーと一騎打ちになるのだろうが回避できないだろうか?

 帰宅しながらそんなことを考える。

 
 塀を越えて土蔵の前に出ると衛宮士郎と丁度出くわす。

 何をしていたか聞かれたが誤魔化しておく。

 ついでにちょっとしたアドバイスをしてからその場を去る。


 どうやら遠坂はもう寝てしまったようだ。

 明日、今日のことで追求されるかもしれないが問題ないだろう。

 そう思いながら少々用があったので台所へ向かうと、


 フルアーマーダブルセイバーが居た。
 

 「何処へ行っていたのですかバトラー?」


 虚言を許さないと言った表情でセイバーが問う。

 マズイ、この状態のセイバーに下手なことを言うと命取りだ。
 
 
 「その質問に答える必要があるのか?

  私が何処で何をしようと君に不利益をもたらさないなら問題ないだろう?」


 「っ! そうですね! 貴方がどう行動しようと私には一切関係のないことでした!

  もう遅いので寝ます! それではおやすみなさい!」


 ……なんか凄く怒っていますよ。

 何故だ?

 ゴッド、オレってセイバーになにかしましたか?




 

 続く……のか?




 side by 士郎

 
 なんですか?

 この異様な雰囲気は。

 藤ねえでさえ軽口を挟んでないぞ。

 
 「ねえ、士郎。

  セイバーどうしたの?」


 遠坂が小声で話し掛けてくる。

 
 「知るか、朝起きてきた時からあーだったぞ」


 そう、現在セイバーを中心に空間が歪んでいるのだ。


 セイバーは朝から不機嫌だった。

 お腹が空いているせいだと最初は思ったが違うようだ。

 いつもならおいしそうに食べるのに今はほぼ無表情だ。

 時折思わぬ味にコクコクと頷いてはいるが。
 
 そんな中勇者が出現した、


 「あのバトラーさん、

  今日はセイバーさんどうかしたんですか?」


 桜が現況たるセイバーではなくその執事だと思っているバトラーに聞く。

 

 side by エミヤ


 「あのバトラーさん、

  今日はセイバーさんどうかしたんですか?」


 桜がオレに聞いてくる、

 正直オレがそれを聞きたいよ。

 セイバーは昨日怒ってから今日の朝になっても怒ったままだ。

 これは、確か金欠黒魔術師が二股だか三股かけた後の状況に似ているな。

 ……オレそんなことしてないぞ?
 
 ここはどう答えるべきか考えていると、

 
 「すみません、サクラ。

  今朝の夢見が悪かったので少し不機嫌になっていました」

 
 セイバーさんが答えました。

 おそらく本音ではないだろうが桜達は納得したようだ。

 それ以後は少々静かだが何時も通りの朝食風景だった。


 オレはこの後遠坂と学校に行くのだが、

 衛宮士郎は今日も家でセイバーと稽古だろう。


 ……死なない、よな?



 side by セイバー


 私は何処かおかしくなってしまった。

 昨日の夜バトラーが一人で出かけた時は特に何も感じなかった。

 サーヴァントが単独で行動することは珍しくないからだ。
 

 なのに、堀を越えて帰ってきたバトラーを偶然見た瞬間、

 私は得体の知れない不安に駆られた。
  
 それが何なのか解らず、バトラーを問い詰めようとした。

 その時何故か鎧を身に着けていたがどうしてだろう?

 だが彼の答えは、


 「その質問に答える必要があるのか?

  私が何処で何をしようと君に不利益をもたらさないなら問題ないだろう?」


 だった。

 その後私はなんと言ったか覚えていない

 その言葉を聞いた瞬間何故か暗い感情で埋めつくされてしまったからだ。


 今朝も昨日の感情を引きずっていて朝食を思うように楽しむことが出来なかった。

 あげくサクラに心配までされてしまった。
 
 私は王として、サーヴァントとして壊れてしまったのだろうか?


 「隙ありっ!」


 急に声が聞こえ、私に対して竹刀が迫る。

 私はそれを弾き返す刃で相手の頭を粉砕……してはいけない!

 
 バシンッ!
 
 
 ……危なかった、もう少しで余り手加減をしていない一撃がシロウを打つところだった。

 稽古中に考え事をしていた私の落ち度だ。

 
 「痛てて、うーちょっとは手加減してくれよセイバー。

  オレの頭がかち割れそうだったぞ。

  それにしても、今のはセイバーの隙を突けたと思ったんだけどなー」


 「すみませんシロウ。

  先程は少々考え事をしていたため咄嗟に手加減をしきれなかった」

 
 「えっ! アレでも手加減してくれてたんだ……。

  にしてもセイバーが稽古中に考え事するなんてどうしたんだ?」


 シロウにそう聞かれたが正直自分でもよく解らないのだ。

 気がつくと同じことを考えてしまう。

 どうするべきか、ここは思い切って聞いてみたほうが良いのか。


 「シロウ、昨日の夜バトラーと何か喋ってましたね。

  どんな内容だったか教えて欲しい」


 「バトラーと?

  ああ、オレが魔術の訓練をしようとした時に効率の良い方法を教えてくれたんだ」


 どういうことだろう、バトラーは魔術も使えるのだろうか?

 戦闘能力が高く、数多くの宝具を持ち、一見しただけで相手の能力等を看破する。

 加えて私と出会ったことがある……ますます解らなくなった。

 それにしても彼の作る料理はおいしい、

 今朝も食べた時は心が穏やかになった。

 彼の料理を食べたりお茶を飲むと自然と彼の優しげな表情が浮かんでくる。




 ……?

 今私は彼のことを考えた。

 何故それだけのことで先ほどまであった狂おしいまでの感情が消えている?


 ……いや、今は考えても答えは出ないだろう。

 なら何時もの状態に戻れたのだ、それでよしとしよう。

 
 「さあ、シロウ。

  続けましょうか」

 
 「え? は? 

  さっきの質問の意味あったのか?」


 「ええ、何故かは解りませんがすっきりしました。

  お昼までまだ時間はたっぷりとあります。

  どんどんいきましょう」


 そう、今この時はマスターの鍛錬に費やすべきだ。

 他の事は別の時に考えるとしよう。
 


 

 続く……のか?



 ネタ
 >金欠黒魔術師が二股だか三股
 本名キリラ○シェロ、義姉×2とか金髪姉妹とか迷惑姉妹とか殺し屋とか温泉宿のクローンとか
 ……アレ? 
 これって何股?



 side by エミヤ


 遠坂が慎二に対して中々見事なナックルパートをお見舞いし、

 衛宮邸に帰ってきたのだが、

 セイバーさんが普通に戻っていた。

 なんでさ?

 ぬぬ、もしや衛宮士郎のおかげだろうか。

 それならば感謝を。

 
 さて今日は帰宅が遅れたため夕食には関われなかったが我に秘策ありだ。

 夕食がいつも通り終わったその隙を突く。


 「皆様、デザートを作ってみたのですが如何でしょうか?

  ああ、お腹が一杯であると言うのなら無理は言いません」
 

 ちなみに全員が衛宮士郎の作った料理をお腹一杯に食べたのは確認済みである。 
 
 その言葉にセイバーはピクッと動き、虎の目が光る。


 「それは是非食べたい。
 
  バトラーの作る料理は美味しいですから」


 「あっ! わたしもわたしも。

  バトラーさんのデザート食べたい!」

 
 セイバーと藤ねえは即答した。

 アレだけの量を食べたのに、猫科の猛獣の胃袋は化け物か!?


 「へー、バトラーってデザートも作れたんだ。

  でも私はいいわ、これ以上食べたら増えちゃうもの」


 「そうですね、唯でさえ先輩の料理をお代わりまでしちゃいましたし」


 「まー今回結構作ったからな、あっオレは貰うよ。

  ところで何を作ったんだ?」


 遠坂と桜はいらない、衛宮士郎は興味があるのか食べると。

 
 「オレンジが余っているとのことで今回はガトー・オ・ゾランジュを作りました。

  オレンジの皮と果汁を練りこんだオレンジケーキですね」


 オレは予め用意しておき夕食時に焼いておいたケーキと紅茶を持って居間に行く。

 
 「うわー、おいしそうだー!

  いただきまーす!」


 藤ねえが真っ先に口に頬張る。

 さて、反応は……ない? 
 
 アレ? 失敗したか?


 「う……うーまーいーぞー!!!」


 ガオーーー!!!

 藤ねえのバックにデフォルトされた虎の映像が見える。
 
 その後ワンテンポ遅れてその虎が吼えるのだが、まるでミスター○っ子の反応だ。

 
 そのままの勢いでケーキを食べ続ける虎。

 セイバーも我に返り直にケーキを口に入れ。

 コクコク、コクコクと普段の倍のスピードで頷いている。

 
 「へー、本気で美味しいな。

  バトラー後でレシピを教えてくれないか?」


 どうやら衛宮士郎にも好評のようだ。

 遠坂と桜は藤ねえとセイバーの勢いに驚いて止まっている。

 そしてものの数分としないうちにケーキはなくなってしまった。
 

 「……はっ!?

  ええー! もうなくなっちゃってるじゃない!

  どうゆうことよ!?」


 「そうですよ! 藤村先生にセイバーさん!

  あんなにたくさんあったのにどうしてもうないんですか!?」 


 それはね遠坂、桜、君達が虎と獅子を甘く見すぎなのだよ。

 それにさっき私たちはいいって言ったじゃないか。
 
 
 「何を言っているのですリン、サクラ。

  貴方達は先程これ以上食べるとなにやら増えるからいいと言ったではないですか」


 そこへセイバーの雷光の一撃が二人を襲った。


 「くっ、セイバー。

  アンタなんであれだけ食べて太らないのよ!?」


 「そうです! 不公平です! 

  私なんて今でさえ体重計に乗るのが怖いのに!」


 まーセイバーは現界してるだけで消費カロリーが桁外れだからな。

 あの程度では彼女の余分な肉の一欠けらにすらならないだろう。

 
 「二人とも藤ねえのことはどうなんだ?

  セイバーと同じぐらい食べてたけど」


 衛宮士郎よだからお前はアホなのだ。

 冬木の虎とは常に餓えている生き物なのだよ。


 
 side by 凛


 士郎の発言により危うくプチ聖杯戦争が起こりそうになったが、

 バトラーの明日は別のものを用意しておくと言う発言によって鎮静化した。

 今考えるとアイツのことなので私と桜が食べれないように仕向けた気がする。

 態々夕食を終えた所でデザートがあるなどと言ってくる時点で怪しかったのだ。

 
 ぬー、そう考えると頭に来るが、

 その後に私と桜の分を渡してくれるあたり抜かりがない。

 バトラーは現在何時も通り桜と藤村先生を送っている。


 そして今、士郎とセイバーが私の部屋で魔術の講義を聞いている。
 
 私としてはこういう教えると言うことは新鮮で楽しいのだが、

 士郎とセイバーは何時の間に仲良くなったのだろうか?

 確か今朝まではまだぎくしゃくしていた筈なのにおもしろくない。


 「それじゃ、手始めにこのランプを強化して見て」

 
 そう言って士郎に古いランプを渡すと、


 「いや、遠坂。

  昨日の夜にバトラーに言われたんだけどさ、

  オレって強化もダメらしいんだよ。

  それでやるなら投影の方にしろってさ」


 ……バトラーが士郎に助言をしたの?

 まあ、彼の態度からすると出来の悪い弟にアドバイスする感じだろう。

 それにしても他人の魔術特性にまで口出せるなんてホントおかしな奴だ。

 
 「ふーん、まあいいわ。

  それじゃ、そのランプを投影してくれるかしら?」


 そう言うと彼は何か呟いている。

 
 「……えっと……撃……打ち下……」

 
 目の前で馬鹿げたことが起きている。

 彼は一から魔術回路を作り直している。

 本来一度作れば後はスイッチ一つで切り替えられるというのに、

 そして何より馬鹿げているのが現在彼の手の中にあるランプ、


 「…………」


 「おい、遠坂。

  何そんなおっかない顔でこっちを見てるんだよ?

  しかも物凄い敵意を持った魔力を放出してるし。

  オレ別にへまはしてないぞ、

  投影だって完璧には程遠いけど一応できてるし」


 彼は自分が今何をやったのかをまるで解っていない。

 投影、グラデーション・エア。

 オリジナルのレプリカを魔力で持って複製する魔術。

 使い勝手が悪く本来外見だけのものであり少しの時間で消えてしまう。
 
 なのにそのランプはほんの少しとはいえ中身がありその存在が消えない。

 そう、彼の投影とはある魔術の劣化したモノに他ならない。

 
 認めよう、遠坂凛は衛宮士郎に嫉妬している。

 私には確かに才能がある、大抵の事は苦もなくできるのだ。

 だが私には唯一つと言えるものがない。

 だからそれを持っている彼に嫉妬した。


 ……いけないいけない、

 今はそんなことを考えている場合ではない。
 
 彼のことはまた今度考えるとしよう。


 そして彼に宝石を飲ませスイッチを無理矢理作る。

 その後何度か強化と投影をやらせるが最初のようにはいかなかった。

 もしかしてまぐれだったのだろうか?

 ホント、バトラーと同じで変な奴だ。
 


 
 続く……のか?

 

 ネタ
 >猫科の猛獣の胃袋は化け物か!?
 ガソダム 連邦のMSは化け物か
 
 >ミスター○っ子
 料理を食べた時のリアクションが物凄い作品。(TV版)



 side by エミヤ


 今日は遠坂も学校を休んで衛宮士郎の魔術を見ている。

 確か前もそうだったがなんでだろう?

 今は土蔵にある以前投影した物についてセイバーと話している。
 
 衛宮士郎に投影のことをあの時点で話す必要はなかったが、

 少しでも知っていたなら今後役立つと思う。

 そう考えていると、

 衛宮士郎の気配が家を出て行く。

 おそらく慎二に呼ばれたのだろう。


 だがここで前回とは違った点があった、

 オレの時とは違って遠坂が出かけていないのだ。

 当然遠坂も衛宮士郎が家を出たことを察知した。


 「バトラー、士郎が何処に行ったか解る?」
 
 
 ここは素直に教えるべきか?



 side by 凛


 「バトラー、士郎が何処に行ったか解る?」

 
 全く! セイバーも連れずにほいほい出かけるんじゃないわよ!

 しかも私に何も言わずに行くなんていい度胸ね。


 「……学校だ。

  ライダーのマスターに一人で来いとでも言われたのだろう」


 バトラーは少し言いよどんだ後にそう言った。

 ……士郎って本気でバカ?

 
 「それってマジなの?」


 「ああ、本気と書いてマジと読むほどだ」

 
 バトラーがそう言った後、


 「なら、私たちも直に学校に行くべきです」


 今まで黙っていたセイバーがそう言ってくる。
 

 「でもねセイバー、

  慎二は多分学校にいる人間全てを人質にしてるわ。

  だから士郎も一人で行かざる負えなかったんでしょ」


 「……いや、ここは直にでも行くべきだ」


 「どうしてよ?
 
  いくら慎二がヘッポコでもライダーの方は違うでしょ?

  それなら結界に入った瞬間気づかれるわ」


 「あのマスターの行動理念をここ数日で少しは理解した。

  おそらく衛宮士郎が校内に入って直に結界を発動させるだろう。

  そうなれば人質の意味がなくなる」


 ってそれってもしかして。


 「アンタは慎二が士郎を殺すかもしれないと思っているの?」


 「ああ、そうするだろうな。

  ……議論は学校に向かいながらにしよう。

  セイバーがこれ以上は耐えれまい」


 「ええ、懸命な判断ですバトラー。

  マスターの危機かもしれないのですから、

  のんびりとしている暇はありません」


 そう言って駆け出すセイバー。

 それに私もついていく。

 
 今回の件は私は余り悲観してはいない

 こちらにはあのアーチャーとも互角以上に戦えた二人がいるのだ。

 ライダーがどのようなサーヴァントか解らなくても負けないだろう。
 
 私はその時そう考えていた。


 
 そして学校に着く、

 しかし入る寸前に結界が発動してしまった。

 
 「くっ! さすが宝具による結界ね。

  バトラー、どうにかできないかしら?」


 その結界は私の宝石では解呪出来ないほどの代物だ。


 「……仕方ないか」


 そうバトラーが呟きその手に■■■を持って……何?

 ソレが見えているのに理解できない!?


 そしてバトラーがソレを結界に振るう。

 一瞬光が弾けその後には結界に人が数人通れるぐらいの穴が出来ていた。

 私とセイバーは驚愕の瞳をバトラーに向ける。

 彼はほんの少し汗を掻いていたが他に変わったところはない。

 
 「……何を呆けている。

  急ぐぞ、廊下で衛宮士郎とライダーが対峙している」


 バトラーの言葉で意識を戻す。

 この距離で、しかも教室を挟んでいるのに彼には廊下が見えるようだ。

 
 校庭を突っ切って行く。

 そして半ばまで来た時にセイバーが消えた。

 
 「なっ!?」


 私は一瞬士郎が死んでしまったのではないかと思い愕然としてしまった。


 「凛、落ち着け。

  衛宮士郎が令呪でセイバーを呼んだのだろう。

  私たちも急ぐとしよう」


 そう言われて少しは落ち着いた。

 どうも彼が関わると私の思考はフリーズしがちになるらしい。

 むむ、由々しき事態だ。 



 side by ライダー


 シンジの命令で他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)

 を発動する。

 大丈夫であろうが、この結界の内にはサクラもいるというのに……。

 しかし偽りとはいえ今のマスターはシンジである。



 そして今私はサクラの想い人たるシロウと対峙している。

 彼女の願いに従い彼を殺すようなことはしない。
 
 尤も今の私の力では簡単に彼を殺せそうもないが。


 その時結界に違和感を感じる。

 ……結界に穴が開いた!?

 信じられない、

 確かに結界は弱まってはいるが簡単に穴を開けれる代物でもないというのに。

 いや、彼なら。

 あのバトラーならこれぐらいやって見せるかもしれない。

 彼は色々な意味で規格外だから。

 
 身体はシロウを襲っているのに思考はそんなことを考えている。

 その時シンジから彼を殺すよう命令される。
  
 仕方なく彼を窓から蹴落とす。

 下手をすれば命はないが彼は令呪を使用して助かるだろう。

 そうでなくてもバトラーが来ているのだ助からないわけがない。

 
 そして強大な魔力の流れと共にセイバーが現れ彼を助ける。


 「くそっ! 後少しだったのに!

  ライダー、あいつらが来たら殺せ! いいな!!」


 私はその言葉に答えず廊下の先に神経を集中する。

 もう少しすれば彼が来てしまう。


 こんなことをする私をどう思うだろうか?


 ……かつてのように化け物と呼ばれてしまうだろうか?
 

 ……? 

 私は何故こんなことを考えている……?

 
 思考がループする。

 巡り巡って思考ができなくなる。

 
 そこへ彼らが来る。

 即座にその思考を切り捨てセイバーに対して奇襲を仕掛ける。

 くっ! 流石に最優と言われるだけの事はある。

 完全な状態の私でもおそらく厳しい相手だろう。

 
 数瞬打ち合った時シンジから命令が下る。

 私はその命令に従いブラッドフォートを解除する。

 そこへ、


 「ふむ、どうやらもう幕らしいな。

  遅刻して経過を見ることが出来なかったのが残念か」


 あの何時も通りの態度で彼が来る。

 鼓動が速くなり、先程以上に思考できなくなる。

 もう一度先程よりも完璧に思考を切り捨てる。


 彼の登場にセイバーとシロウの注意がそれた。

 私の身体はシロウに一瞬で近づきシンジを庇う様に立つ。

 結界の維持分の力の戻った私でも二人の英霊を相手は厳しい、

 ならば、


 「マスター、決して私の前に出ないように」

 
 そう言って私の瞳を封印するための宝具である

 自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)を外す。

 開放された魔眼・キュベレイによって足止めをした後、

 騎英の手綱(ベルレフォーン)で決める。

 
 正直に言えばかなりの無茶になる。

 シンジがマスターではキュベレイとベルレフォーンの同時使用は危険だ。

 だが、現在これ以上の手段もない。


 私はその瞳で彼らを見る。

 彼らは私の行動から魔眼だと察知し視線を合わさない様にしている。

 しかし視線を合わさずとも私に見られていることで効果は現れる。

 そして、ベルレフォーンを使うためペガサスを召喚しようとした時、


 彼と目が合った……。


 あり得ない、彼は私の瞳を直視している。

 なのに石化してもいなければ重圧がかかった様子もない。

 私が召喚もしないで困惑していると、


 「ふむ、素顔を見たのは初めてだがこれほどの美人だとはな。

  それに、とても綺麗な瞳だ」


 顔が熱い心臓の鼓動が激しい心がどうにかなる。


 彼はなんと言ったのだ?


 理解できない。


 彼はどんな表情だった?


 ダメだ、私はそれを見てはいけない。


 こんな化け物の私に彼は何と言ってきたのだろう?


 私は理解してはいけない。


 だから私は、自分の首を短刀で、切り裂いた。


 赤が空間に撒き散らされる。


 だから私は気がつかなかった、

 
 自分がその時、赤い涙を流していたことを……。


 「……ベルレフォーン!!」


 だから


 愛馬に跨り


 偽りの主を乗せ


 脇目も振らず


 駆け抜けた


 
 




 続く……のか?




 side by エミヤ


 セイバーが令呪で呼ばれて直にオレと遠坂は校舎に入る。

 どうやらブラットフォートは完璧には作動していないようだ。

 それでも一階を基点としている分一階の者はかなり衰弱している。


 「凛、上には私だけで行く。

  君はここの者達を頼む」


 「ち、ちょっと待ってよ!

  なんでそうなる訳、私も上に行くわ」


 ぬぬ、やはり頑固だ。


 「凛、君が行くとライダーのマスターを刺激しかねない。

  それにいざという時に君を守りながらではな」


 「……解ったわ。

  でも、後からなにがあったかは聞くからね!」


 その声を聞くと同時に上に向かう、

 階段を駆け上がり終えた所で結界が消える。

 そして、廊下では既に決着がついていた。


 オレが現れたことに気を取られたのか、

 その隙を突きライダーが慎二を庇うように立ち、

 黒い封印を外す。

 その素顔は神が創ったのかと思えるほどの美しさだった。

 そして――

 
 ――魔眼、それも宝石クラスの……石化か。

 オレは冷静に対処する。

 どのみちオレには魔眼や精神支配の類は効果が薄い。

 漆黒の魔狼のソレに比べれば抗うことは難しくないのだ。


 そして彼女の瞳を直視した。

 灰色の眼、四角い瞳孔。

 オレは自然と思ったことを言っていた。
 

 「ふむ、素顔を見たのは初めてだがこれほどの美人だとはな。

  それに、とても綺麗な瞳だ」


 そう言ってから後悔した。

 彼女は泣きそうな顔をしたのだ。
 
 まるで自分にはそんなことを言われる資格などないと言ったように。

 そしてオレの時と同様に首を切り裂き、

 あの宝具を使おうとする。

 オレは直に魔眼の影響を受けている衛宮士郎とセイバーを射線上からどかす。

 ギリギリだがオレも射線から外れることができるはずだ。
 
 そして、

 彼女が真名を言う直前に赤い涙を流しているのを見てしまった。

 オレは一瞬思考が止まる。
 
 ソレがいけなかった。

 オレは射線から完全には外れることができずに、

 その衝撃を少しとはいえ受けてしまい弾き飛ばされた。


 「バトラー!」


 吹き飛ばされながらセイバーの声を聞いた。



 side by セイバー

 
 くっ! まさかライダーが魔眼の保持者だとは。

 しかも類を見ないほど強力な魔眼。

 対魔力に優れた私でも重圧をかけられる。

 
 なのに、バトラーは平然としている。

 どう言うことか?

 彼が私よりも対魔力が優れているというのか?

 そんな中彼が、


 「ふむ、素顔を見たのは初めてだがこれほどの美人だとはな。

  それに、とても綺麗な瞳だ」


 などと戦場であるまじきことを言っている。

 何故私ではなく敵であるライダーを褒めるのか?

 確かに彼女のほうが私よりも綺麗だし、

 そ、その胸も大きいですが、

 これは私が確か16歳で成長を止めたからであって、


 ……なんでこんな言い訳がましいことを考えているのか?

 今が危機的状況であるというのに!
 
 
 そしてライダーが自身の首を切り裂いたことに驚愕していると、

 彼にシロウと一緒に開いていた部屋に突き飛ばされる。

 その一瞬後、閃光が走り轟音と共に地震の如く揺れる。

 そして彼が吹き飛んでくのを見てしまった。

 
 「バトラー!」


 口からは叫び声がでる。

 私はシロウの安否を確認し即座に廊下に出て、

 その端に倒れた彼を見た瞬間、心に激痛が走る。


 何故彼が倒れているのか……ライダーの宝具によって弾き飛ばされたから。


 何故彼がソレを避けれなかったのか……私とシロウを助けていたため。

 
 何故私まで助けられたか……私が……弱かったから。


 「……くっ」


 彼が起き上がろうとする。

 私は直に彼に駆け寄り起き上がるのを助ける。


 「……ありがとうセイバー」


 「えっ!?」

 
 彼が何時もとは違った口調で礼を言ってきたため驚いたしまった。


 「……どうかしたのか?」


 先程のアレは幻聴だったのか?

 今の彼の口調は何時も通りだ。


 「……すみませんバトラー。

  私が不甲斐ないばかりに貴方が傷つくことになってしまった」


 今は彼の顔を見ることができない。

 
 「……何を言っている?

  あの場面ではアレが最良の選択だった。

  私が傷を負ったのは自業自得だ。

  君の気にすることではない」


 私はその言葉に驚く。

 
 「しかし……」


 「セイバー、この話はこれで終わりだ。

  それよりも君のマスターは大丈夫だったのか?

  あの傷に加え魔眼の影響まで受けたのだから奴の方を気にするべきだ」

 
 「……解りました。

  マスターを見てきます。

  貴方は無理をせずにその場にいて下さい」


 私はそういい残しシロウの元へ向かう。
 
 確かに彼の言うことは正しい。

 本当ならいずれ敵になる彼よりも自身のマスターを気にするべきなのだ。

 なのに彼の方が気になってしまった。
 
 ……シロウの剣となると誓ったというのに。

 私はいったいどうしてしまったのか。

 心の中でこの感情が大きくなっていく。

 今度リンに相談してみようか?


 そう考えた時、廊下の方から彼女の怒鳴り声が聞こえてきた。

 シロウも怪我は酷いが命に別状はなさそうだ。

 後は家にもどってから彼に詰問するだけだろう。
   
 
 
 
 続く……のか?

 

 ネタ
 >漆黒の魔狼
 例によって例の如くオー○ェンからです。
 フェンリルの森に住む大陸で最強の戦士。
 視線を媒体にした精神を支配する暗黒魔術を用いる。
 その効果は生物だけでなく非生物にまで及ぶ。
 まーこれ相手に修行などしてみたり、チャイル○マンの口添えで。



 side by エミヤ

 
 ん、今日も味噌汁がいい味を出しているな。

 今オレは朝食を作りながらのほほんとしている。
 
 昨日、学校から帰宅した後は心底疲れた。
 
 もうなんて言うか質問の嵐?

 遠坂もセイバーもオレに対して容赦なく疑問をぶつけてきた。


 やれ結界はどうやって穴あけただの。

 やれ魔眼はどうして効かなかっただの。


 答えにくいとこばかり突いてくるのだ。

 結局夕食の時間までその質問をのらりくらりと回避していた。

 その夕食には藤ねえも桜もこなかった。
 
 確認したとこと二人とも軽い貧血のような感じだったらしい。

 藤ねえはもうしばらくすれば顔をだしてくるだろう。


 問題は桜の方だ。

 昨日の夜、間桐の家を見に行ったがどうやら慎二もライダーもいないようだった。

 当然と言えば当然か……。

 あの家に立てこもった所で守りきれるものではないからな。

 だとしたら昨日の負けの八つ当たりなどは受けていないだろう。

 
 ピンポーン


 ふむ、どうやら桜については杞憂だったらしい。


 「おはようございますバトラーさん」 


 「おはようございます桜様。

  朝食はもうできますのでもうしばらくお待ち下さい」

 
 どうやら外見上は何も問題はないようだ。

 その後しばらくして遠坂とセイバーが起きてきて、

 最後に衛宮士郎が起きてきた。

 オレの時とは違い傷などは完治しているみたいだ。

 そう思いながら食卓に朝食を並べていると、
 
 
 「みんなー! おっはよー!!」

 
 朝から虎が吼えていた。

 なんでこんなに無意味にハイテンションなのか?

 ……それは徹夜で病院巡りをしたからであります。

 
 「ごっはん! ごっはん!」


 即座に定位置と成りつつあるオレの隣に座る。

 この位置だと御代わりを直にできるかららしい。

 もちろん反対側にはセイバーがいる。

 オレの対面には衛宮士郎を挟んで遠坂と桜が座っている。

 うん、何時もの食事風景だ。


 「バトラー、御代わりを」 


 「あー! わたしもわたしも!

  セイバーちゃんよりも大盛りで!」
 

 「む、では私はタイガの倍でお願いします」


 ……頼むからこんなことで張り合わないでくれ。


 
 side by 凛


 「ライダーと戦うなら宝具を使用される前に倒さなきゃならないってことね。

  尤も私がライダーなら魔眼の後に使うけどね」


 そう、石化の魔眼で足止めした後にランクA以上らしい宝具で攻撃する。


 ……うわっ!

 すっごく卑怯じゃない、それ? 

 それならもしかしたらあのアーチャーにも勝てるかもしれない。

 色々と話し合った末の一つの結論に対して、


 「つまり戦うとしたらバトラーに一任したほうが良いと言うことですか?」

 
 セイバーが意見を言ってくる。
 
 そう、このバトラーにはどう言うわけか宝石クラスの魔眼すら効かないのだ。

 もうなんていうか反則の塊のようなヤツだ。


 「そうとも限らんだろう。

  間桐慎二がマスターではそうそう宝具も魔眼も使えん」


 あっ!?

 そう言えばそうね。

 ライダーのマスターは魔力供給ができない慎二だった。

 
 「それならば十分勝機がありますね。

  シロウ、昨日の今日で悪いのですが夜にライダーを倒しに行きましょう」


 「でもさ、セイバー。

  慎二もライダーもそれを解ってるんだからおいそれと戦いに来ないだろう?

  まー慎二の性格からしてじっとしてるってことはないだろうけど」


 むむ、士郎にしてはまともな意見を言うじゃない。


 「それでいいのか衛宮士郎?

  ライダーに魔力供給する手段は他にもあるのだぞ」

 
 そして我が執事殿はよけいなことを言ってくれるし。
 

 「……? どんな?」


 「……はー、それって前に説明したでしょ。

  サーヴァントに人を襲わせるのよ、他にはあの結界をもう一度張るとか」


 「……それってダメじゃん!?

  セイバー今から行こ――


  ゴチン!

 
  ――遠坂、頭が割れるように痛いんだけど」


 「こんな昼間から人を襲うなんてする訳ないでしょ!?

  それに、宝具とかだって使えないって訳じゃないのよ?

  下手したら貴方達だけじゃ返り討ちにあうわよ」


 「リン、それは私が負けるということですか?」


 その冷たい声に振り向く。

 うわー、美少女が無表情に怒るとすっごい迫力ね。


 「セイバー、落ち着け。

  凛は可能性の話をしていだけだ」


 「ですが……」


 「それならばケーキでも食べるか?」

 
 そういってバトラーはセイバーの前にケーキを置く。


 「む、しょうがないですね。

  今のことについては不問にします」


 そういってケーキをコクコクと頷きながら食べるセイバー。


 ……完全に餌付けされている。

 なんて言うかバトラーの奴かなり手馴れている。

 あしらい方などまさに熟練の技と言えるほどだ。

 私は呆れていると士郎と目が合い、お互い苦笑する。
 
 さて、ライダーについてどうしましょうか。


 
 




 続く……のか?



 side by 士郎

 
 「それで、結局どうするのだ凛?」


 バトラーが遠坂に問いかける。
 

 「そうね、魔眼持ちで宝具も破格。

  結界を使って魔力補給もできるライダーは早めに倒しておくべきだと思うわ」


 「……そうか」


 ん? バトラーの奴考え込んでるな。

 やっぱりそうなのか?


 「どうしたのよバトラー?」


 「ん? ああ、衛宮士郎。

  お前の意見を聞きたいのだが」


 なんでそこでオレの名前が出るかな?

 お前のマスターは遠坂だろ!


 「オレはライダーはあんまり悪いやつだと思わない。

  できれば戦わずに話し合いでなんとかしたいな」


 そう、自分でも信じられないことだが何故か気づいてしまったのだ。

 ライダーがバトラーに好意を持っていると。

 そしてバトラーの方もライダーを少なからず意識している。

 もう一つ言うならセイバーもバトラーを意識しているようだ。


 桜や美綴、果ては一成や藤ねえからも鈍感だと言われてきたが、

 これで汚名返上だ!
 
 と言う訳でどうにかならないものかな。


 「シロウ、何を甘いことを言っているのです。

  ライダーが昨日何をしたのか忘れたわけではないでしょう?」


 「忘れてはいないさ。

  でもアレは慎二の命令でだろ?

  それにライダーを倒さなくても慎二の持ってた本を如何にかすればいいし」


 アレは変わっていたよな~、本に令呪があるんだから。


 「ちょっと士郎。

  本ってどういうことよ?」


 「慎二の令呪が本にあったってことだけど?」


 「……そういうことはもっと早く言いなさいよ、

  このヘッポコーーーー!!!」


 かはっ!

 いきなり大声を出さないでくれ遠坂……。

 薄れ行く意識の中セイバーを見る。

 ……バトラーがしっかりセイバーの耳を塞いでいた。



 side by 凛


 全く士郎ったら肝心なことを話さないんだから。
 
 
 「おい、遠坂。
 
  いい加減機嫌をなおしてくれよ」


 後ろから士郎がそう言ってくるがまだ許したりはしないんだから。

 夜の新都を歩きながらそう思う。

 あの後結局ライダーについては慎二の持った本をどうにかするってことで

 決着がついた。

 そして夜になってからライダーを探しに来ている。

 探し始めてしばらくたつが今だにその成果はでていない。

 今夜は活動しないのかもと思った瞬間、肌を刺す違和感に気づく。


 「凛、どうやらお出ましのようだ」


 霊体になっているバトラーがそう言ってくる。

 魔力の残滓を追ってオフィス街のビルの一つの前に来た時。

 
 ヒュン! ガギン!


 「えっ?」


 突然士郎の頭上から音が聞こえてきた。

 見るとセイバーが武装して上を睨んでいる。

 視線を追うように上を見るとライダーが蜘蛛の如くビルに張り付いていた。


 「ライダーを追います!
  
  バトラー、二人を任せました!」

 
 そう言うなり稲妻の如くビルを駆け上っていく。

 私と士郎は唖然としてそれを見送る。


 「凛、衛宮士郎。

  何を呆けている、屋上に向かうぞ」

 
 バトラーの声にはっとしてすぐさまビルに入り屋上へと向かう。

  
 
 side by ライダー


 ビルの下にシロウとセイバー、それに彼のマスターが来た。

 そして私は滑空していきシロウに攻撃をしようとしてセイバーに阻まれた。

 予想の範囲内だ、今の一撃で決めれるとは思っていない。

 またビルに張り付いた私をセイバーが追ってくる。

 ……良かった、彼はどうやら二人のマスターの護衛についたらしい。

 ならば、彼が来る前にセイバーを倒す。

 そう思いながらセイバーに攻撃を加えつつビルを駆け上っていく。

 
 そして屋上につき、

 剣の英霊、彼と共にいることのできる彼女と対峙する。

 目の前の彼女が憎らしい。

 この感情を私は知っている、これは嫉妬……。

 だからこの戦いは聖杯戦争ではなく、ただの八つ当たり。


 何故彼の隣に居るのが私ではないのか?


 何故シロウの呼び出したサーヴァントが私ではないのか?


 何故、サクラがマスターのままでいてくれないのか?

 サクラがマスターであり彼のマスターと協力したなら私も彼と共にあれたのに。

 
 何故私はサクラにすら不満を持ちながらそれでも彼と共にありたいと望むのか?


 私はそんなことを考えながら愛馬に跨りセイバーに攻撃をする。

 その一撃一撃にセイバーは致命傷を負わないように回避している。

 空からの攻撃に不慣れである筈なのに驚異的な防御だ。

 彼との戦闘を考えないのなら魔眼で足止めしてのベルレフォーンによる一撃で

 けりがつく、しかし下手をしたら魔力が尽き現界できなくなるだろう。

 ならばベルレフォーンだけで決めるか?

 彼女の宝具が未だに解らないが打ち負けるとは思えない。

 私が上空で思案していると、
 
 思っていたよりも早くタイムリミットが来てしまった。


 ならば何も考えまい。

 彼に侮蔑されようとも、今この場で果てるとも。

 全力を持ってセイバーを打ち倒す!



 




 続く……のか?



 side by 凛


 屋上に出て最初に目に入ったのは膝をついたセイバー。

 そして、天馬に跨り天空を駆けるライダー。

 
 アレがライダーの宝具だろうか?

 幻想種、その存在自体が『神秘』であるもの。

 ペガサス、ライダーがメドゥーサだと推測できていたのだから予想できたソレ。

 私はその光景に見惚れてしまった。

 
 その一瞬後事態は目まぐるしく変化していく。
 

 
 side by エミヤ


 まずい、セイバーがオレ達を見て聖剣を使う事を決心してしまった。

 オレの時よりは魔力量が多少はあるがそれでもエクスカリバーを使ったなら

 現界しているのもギリギリになってしまうかもしれない。

 そして聖剣とぶつかったなら間違いなくライダーは消滅してしまう。
 
 
 それは嫌だ。

 これがオレの我侭であろうとも譲ることはできない。

 ならばどうするか?
 

 ……そんなこと、

 考えるまでもない。

 
 「I am the bone of my sword」


 今一度我が身体を剣と化す。



 side by 士郎


 「I am the bone of my sword」


 この言葉を聞くのは二度目になる。

 ソレが何故オレの魔力回路に対してここまで働きかけるかは解らない。

 だがこの言葉を聞くと身体が熱を帯びる。

 まるで自身が錬鉄されているようだ。


 「騎英の手綱(ベルレフォーン)――!」


 「約束された勝利の剣(エクスカリバー)――!」


 その真名と共に一条の彗星と、太陽の如き閃光が視界に飛び込んでくる。

 その瞬間、


 「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――!」


 真名が叫ばれ、絶対の防御を誇る七枚の花弁が、

 彗星と閃光の激突地点に咲き誇った。



 side by 凛


 「ぬ――――ぬああああああああ…………!!!!」


 裂帛の気合を以って彼はその盾を維持する。

 先程聞こえたセイバーの聖剣の真名を知った今、

 これがどれ程馬鹿げたことか計り知れない。

 おそらく聖剣の中で最強と称されるその剣の力と、

 ライダーの宝具の力の両方を留めているのだから。

 
 「く――! え、衛宮士郎!

  今のうちだ! ライダーのマスターの令呪をどうにかしろ!」


 これほど余裕のない彼の声は初めてだ。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない!


 「士郎、早く慎二の本を!」


 「解った!」


 そう言って、

 宝具の激突の時から姿を晒していた慎二に駆け寄っていく。

 あっ! 

 シャイニングウィザード!

 ……立ってる慎二に無茶するわねー。


 そして士郎が慎二から本を取り上げて、

 私の後ろで光が収まりその戦いは終わりを告げた。



 side by エミヤ


 「ライダー! バトラーから離れなさい!」


 セイバーの怒声が居間に響く。


 「何を言っているのですかセイバー。

  命の恩人と共にあることがおかしいとでも?」


 オレの腕に抱きつきながらセイバーを挑発するライダー。

 今日はさすがにオレも疲れているので如何なものでしょう?
 
 
 あの時オレが二人の激突を抑えている間に衛宮士郎が慎二から本を奪った。

 本はそれだけで影響力をなくした様でライダーが直に宝具の使用を止めた。

 後で聞いたところ、

 
 「私があのまま意地を張って宝具を使い続けたせいで

  セイバーの聖剣から守ってくれた貴方が消えるのは嫌ですから」 


 とのことだった。
 
 まーその言葉でセイバーも


 「アレは私を守ってくれたものなんです!

  決して貴女を守ろうとしたわけではない!」


 と言い合いを始めるし。


 ……と、話を戻そう。

 本を奪われた慎二だが直に屋上から逃げ出した。
 
 ビルから出ていき、向かう先が教会であることまでは確認した。

 ライダーとセイバーは宝具の使用を止めた直後に倒れてしまい、

 衛宮邸まで背負って帰った。

 ちなみに衛宮士郎がセイバーだ。


 二人を寝かせてどうするか考えていると、ライダーはしばらくして起きた。

 何でも現界に必要な分は本が汲み上げるマナからの供給でなんとかなるらしい。

 問題だったのはセイバーだがこれは衛宮士郎の血を飲ませることでなんとかなった。

 使い魔に対する魔力の供給、尤もサーヴァントは使い魔と言うには上等すぎるが。

 そのことをライダーに言われてからやっと気がついた。

 どうやらオレも人並みに動揺していたらしい。

 
 
 side by セイバー


 全く! 何なんですか彼は!

 知り合いであるからといって敵であるライダーを連れてくるなんて!
 
 しかも私が宝具を使ったことがまるで無駄になってしまったではないですか!

 シロウもシロウです!

 さっさとあの本を燃やしてしまえばよかったのに、

 キリツグと違って要領が悪すぎです!
 

 ライダーは今『私の』バトラーに引っ付いている。

 彼も疲れた顔をしてはいても嫌がってはいない。

 むむ、やはりムネが大きいほうが彼の好みなのだろうか?


 「ライダー! バトラーから離れなさい!」


 その私の言葉に、


 「何を言っているのですかセイバー。

  命の恩人と共にあることがおかしいとでも?」


 こう反してくる。

 何というか戦ってるときと性格が変わりすぎのような気がする。


 「ライダー、お前性格が変わってないか?」


 シロウが私の代わりに聞いてくれた。


 「そうですか?

  ……おそらく我慢するのをやめたからではないでしょうか?」


 そう言って更に彼の腕にムネを押し付ける。


 ……私は無言でライダーの反対側に行き、彼に抱きつく。

 
 「セ、セイバー!?

  君まで一体どうしたんだ!?」


 彼が珍しく慌てている。

 私も自分の行動に驚いているが何故か心地よいので不問にすることにした。


 その後、不覚にも私のお腹が鳴るまでそのままでいた。

 
 
 



 
 続く……のか?




 side by エミヤ
 

 また夢を見た。

 かつて見たアルトリアと呼ばれた少女の夢。

 国にその身を捧げ、王として生きた少女の夢。

 昨日、聖剣を見たせいだろうか?

 いや、それなら彼女がカリバーンを持っているのは不自然だろう。

 だとすれば、これは衛宮士郎の見ている夢だろうか?

 なら納得がいく、道を違えたとは言えその根源は同じ存在なのだから。

 

 side by 凛


 眠い、いつもよりもずっと眠い。

 これも昨日バトラーが宝具二つ分の力を受け止めるなどという馬鹿げたことを

 したせいだろう。

 まあそれはいい、過ぎたことだから。

 とりあえず今はあの執事の入れた紅茶を飲むとしよう。


 まだぼんやりとした頭で居間に向かう。


 ピンポーン


 どうやら桜も来たようだ、

 私の考えが当たっているなら桜は――、


 「えっ? ライダー……?

  なんで貴女がここにいるの……?」


 「おはようございますサクラ。

  むっ、セイバーそれは彼が作ってくれた『私』の玉子焼です」


 「そんなことはない、これはバトラーが『私』に作ってくれた玉子焼です。

  挨拶が遅れました、おはようございますサクラ」
 

 「桜おはよう、今日はちょっと遅かったな。

  ん? 桜とライダーって知り合いだったのか?

  ……あっ! 慎二に紹介されてたとか?」


 ――どうやら彼は稀に見る鈍感技能を持っているようだ。


 ……英霊二人の朝食の取り合いはあえてスルーする。


 それにしても慎二との一件、ライダーの令呪が本にあること。

 これらを考えれば桜が……って士郎は桜が魔術師だって知らなかったか。

 
 「士郎、何寝ぼけたこと言ってるのよ。

  桜がライダーを知ってるのは彼女が本当のマスターだからでしょう」


 「はあ? なんでさ?

  間桐の魔術師は……っていけね!」


 桜が魔術師じゃないと思っている士郎が言いよどむ。

 全くなんでここまで鈍いのかしら、変なときには感がいいくせに。


 「それは仕方ないだろう凛。

  衛宮士郎にとって間桐桜は日常の象徴とも言える存在なのだからな」


 バトラーが私の心の声に答えるように言ってくる。

 って! なんで私の考えていたことが解るのよ!?


 「簡単なことだ、君は顔に出やすい」


 ……また出ていたのだろうか?

 ちょっと恥かしい。

 私は内心を押し隠して士郎の横に座る
 

 「バトラー、取り合えず紅茶を入れてちょうだい」


 「どうぞ、凛お嬢様。

  こちらに既に用意してあります」

  
 そう言って素早くお茶の準備をしてくれる我が執事。

 こういうところは本当に執事らしいと思う。

 ……セイバー、ライダー、お願いだから私を睨むのを止めてくれないかしら?

 朝からその視線はヘビィなんだけど。

 
 
 side by 士郎

 
 それにしても桜がライダーのマスターだったなんてなー。


 「ご、ごめんなさい先輩……私先輩のことを騙して……」


 「ん? いや騙されたなんて思ってないよ。

  それに桜が悪いんじゃないんだしさ。
 
  ところで遠坂達は何時から気づいてたんだ?」


 オレなんて全く気づいてなかったぞ。
 

 「私が確信を持てたのは昨日からね」


 「あれ? でも桜が魔術師だってことは知ってたんだろ?

  なら遠坂ならきっちりチェックしてたんじゃないのか?」


 「……なんか引っかかる言い方ね。

  チェックならしたわよ、ただどう言う訳か桜からは魔力を感じなかったかの、

  それに真っ先に令呪の有無は確認してたのよ。

  ……その時にはもう本に移してたみたいだけど」
 

 遠坂がそっぽを向きながら答えてくる。


 「んじゃバトラーは?」


 「私か? 私は彼女を最初に送っていった時から気づいていた」


 「……ってことはマスターである私に今まで黙ってたのアンタ?」

 
 と、遠坂さん。

 笑顔なのに目が笑ってないですよー。

 
 「ふむ、よく言うだろ凛。

  敵を騙すにはまず味方から、と」


 「だ、騙してどうするのよーーー!!!???」

 
 がーっと大声で怒鳴る遠坂。
 
 甘いな、伊達に何回もくらっていないぞ!

 オレは自分の耳を耳栓でガードしつつ桜の耳を手で押さえる。

 その瞬間桜がビクッと身じろぎしたがここは我慢してもらう。

 バトラーの方を見ると、バトラーは普通の耳栓をしていた。

 そう、バトラーは普通だった、何が普通でないかと言うと。


 アイツはセイバーとライダーに何時の間にか出したイヌ耳型とウサ耳型の耳栓を着けていた。


 ……一生ついて行くぞバトラーいや、兄貴!

 
 「凛、落ち着け。

  今は彼女をどうするかを考えるべきだろう?」


 むむ、桜をどうするかって、


 「兄、っとバトラー、お前何が言いたいんだよ?」


 「彼女が協力してくれると言うなら私としても願ったりだ。

  だがそうなると彼女の身体についても聞かなければならない」


 桜の身体……なんかエッチだ。


 「どういうことよバトラー。

  桜から魔力が感じられないのと関係があるの?」


 「その通りだ凛。

  彼女から魔力をほとんど感じない、

  かといって隠していると言う訳でもない。

  ライダーの方に回しているからとも考えたが違うようだ」


 うーん、どう言うことだ?

 さっぱり解らん。
 
 
 「私はこういうパターンを幾つか見たことがある。

  おそらく身体の中等に魔力をとっている何かがあるのではないか?」


 その言葉を聞いて桜がビクリと震え、俯く。

 オレは桜の手を握ってやる。

 桜はほんの少しだけ握り返してくれた。 



 side by ライダー


 「だが私はこういうパターンを幾つか見たことがある。

  おそらく身体の中等に魔力を採っている何かがあるのではないか?」


 驚いた、サクラの身体の中に寄生する蟲に気づくとは。

 だがどうする?

 サクラはシロウに蟲のことを気づかれたくないだろう。

 それにあの蟲の翁に知られたらただでは済みそうもない。

 私はサクラ方に視線を向ける。

 私のマスター、私を使うだけでその身体に負担を掛けてしまう。

 だというのにそれをシロウの前では一切出さないようにできる少女。
 
 出来ることならサクラには幸せになって欲しい。

 その為には蟲が邪魔になる。


 「サクラ、話しにくいのなら私から話しますが?」


 「……ありがとうライダー。でも、自分で話すわ」

 
 その後、サクラは自分のこれまでのこと、

 今の自分の状況を話していく。

 全てではないがそれでもサクラにとってはとても苦しいはずだ。

 シロウやリン、セイバーはサクラのことで純粋に怒ってくれている。

 そこでバトラーを見る。
 
 彼は何時もの様に感情を表に出さず何かを考えている。

 私は彼を信頼しているし、そ、その……あ愛、愛している。

 彼ならサクラを救ってくれるのではないかと期待してしまう。

 そして、


 「……殺すしかないか」


 彼はそう呟いた。



 side by 凛


 「……殺すしかないか」


 頭の中が真っ白になる。

 コイツは今何と言った?

 桜を殺す? 私の妹を?

 
 「バトラー、聞き捨てならないことを今言ったわね。

  どういうことか説明してもらうわ」


 拒否も黙秘も許さない。

 返答しだいでは契約を切ってもいい。

 彼は私の問いに、何処からか槍を出すことで答えた。


 「凛、私を信じられるなら黙ってみていることだ」


 そう言い桜に向けて槍を構える。

 即座に士郎とセイバーが桜の前に立ち、ライダーも桜を守るように横に立つ。

 
 「バトラー何を考えているのですか?」


 「今は説明できない、そこを退いてくれ」

 
 「……解りました、私は貴方を信じます」


 「助かる」
  

 そう言い、槍をランサーの如く構える。

 バトラーは私に信じれるなら、と言った。

 なら、


 「シロウ、彼を信じましょう。

  彼ならサクラを救ってくれると私は信じます」


 ライダーが私の言葉を先に言ってしまう……悔しくなんてきっとない。

 
 「桜、バトラーは変な奴だけど信頼できるわ。

  彼を信じてくれないかしら?」


 「姉さん……解りました。

  先輩、手を握っていてくれますか?」

 
 「ああ、嫌だと言っても握っててやる」

 
 むむ、こんな時に何雰囲気出してるわけ?

 真面目にやりなさいよ!


 「さて、話はすんだな。

  ……いくぞ! ランスオブビースト!」


 その真名と共に桜の心臓を槍が貫く。



 side by 桜


 「さて、話はすんだな。

  ……いくぞ! ランスオブビースト!」


 バトラーさんの言葉によって槍が私を貫いた。

 ……?

 多少身体が重いけどほとんど痛くない? 

 それに身体の中の異物感がなくなっている!?


 「え? どうして……槍は私を貫いたのに」

 
 「桜! 大丈夫か!?

  何処も痛いところとかないか!?」


 先輩が心の底から心配そうに言ってくれる。

 私はそんな簡単なことで幸せな気持ちになれる。
 

 「……それで、どういうことなのですかバトラー?」


 セイバーさんが聞く、


 「アノ槍は化物を屠るための最強の一、

  故に人を傷つけずに化物、この場合蟲だけを殺すことができる」


 バトラーさんは疲労した顔でそういう。


 「ちょっとバトラー!?

  アンタどうしたのよ!?」


 「この槍は本来私が使うことができないモノだ。

  それを無理矢理使ったんでね、反動がきたのだろう。
 
  なに、少し、休めば、回復する……」

 
 そう言って消えるバトラーさん。

 展開についていけずお礼を言えなかったが元気になったらお礼を言おう。
 
 
 「良かったな桜」

 
 「……はい!」


 私は先輩に精一杯の笑顔で応えた。


 
 

 続く……のか?

 

 ネタ
 >ランスオブビースト 獣の槍
 うし○ととら 最強の化物器物、持ち手の任意で人を傷つけないことが可能。       
 作られ方が干将莫耶と同じ。寧ろ干将莫耶の設定を知り獣の槍じゃんと突っ込んだ
 ことによって登場することとなりました。
 バトラーは担い手でないので力の全てを発揮できないとか。



 side by 凛
 

 何かを忘れている。

 それが何なのかは解らないがとにかく忘れている。

 
 ドドドドドドーーーー!!!


 地響きをあげて何かが近づいてくる。
 
 ……どうやら致命的なことを忘れていたようだ。


 「シロウーーーー!!! お腹すいたーーーー!!!」


 叫びながら藤村先生がやってきた。


 「あれーー? バトラーさんは?」


 キョロキョロと居間を見回して尋ねてくる。

 どうやら藤村先生はバトラーがお気に入りらしい。


 「バトラーさんなら今日は調子が悪いからって部屋で寝てますよ」


 さっきまでの色々な事が無かったかのように朗らかに嘘をつく桜。

 うん、さすが私の妹だ。


 「あれれ、桜ちゃんもしかして痩せた?」


 「えっ?」

 
 桜がそう驚いてから急に洗面所へ行ってしまう。

 ちなみにライダーは先程から消えている。

 
 「うーむ、バトラーさんが寝込んでるならお見舞いに行こうかな」


 そう言って居間を出て行こうとして、


 「あれ? バトラーさんって何処で寝てるの?」


 基本的なことを聞いてきた。

 まずい、サーヴァントであるバトラーは今霊体になっていて寝ているわけではない。


 「タイガ、バトラーのお見舞いなら落ち着いてからの方が良いのでは?」


 そうセイバーが言うと、「それもそうよねー」と言って藤村先生は座った。

 ナイスよ! セイバー!

 今のうちに、

 
 「凛、私は衛宮士郎の部屋の隣で寝ていよう」


 そう小声で話してくる、またもや先を越された。


 その後は大体何時も通りの食事風景だったと思う。

 ……セイバーがバトラーが居なくてちょっと不機嫌だったり。

 桜が戻ってきてからおかしなくらい笑顔だったり。

 何時も通りだろう。
 


 side by ライダー


 サクラは大事をとって今日は学校を休むこととなった。

 私もサーヴァントとして当然それに従う。

 彼は無理をしたせいか今は霊体になって休んでいる。

 セイバーも昨日の私との戦闘で魔力を多大に消費したのでシロウとの稽古はしていない。

 リンは今私と居間でTVを見ている。

 シロウはおそらく土蔵か何処かにいるのだろう。
 
 
 「ねえライダー、貴女着替えなさい」


 唐突にリンがそう言ってくる。


 「何故ですか? 私はサーヴァントですから服装は関係ないのでは?」

 
 その服に概念武装等が施されているのなら別だが。


 「何言ってるのよ。

  貴女素材がいいんだからしっかりとした服を着ればバトラーもいちころよ」


 「まかせましたリン」


 私は即答していた。考えるまでもない。

 彼に気に入ってもらえるのなら服装ぐらい幾らでも変えてみえよう。

 リンは私が即座に答えたことにしばし唖然としていたが直に意地悪そうな顔をする。


 「へー、やっぱ貴女もバトラーのこと好きなんだ」


 彼女がサクラの姉とはとても思えないほど性格が歪んでいる気がする。
 
 それからネチネチと姑の嫁いびりの如く口撃された。

 あとで彼に言って何とかしてもらおう。

 
 服についてはリンが彼の所にいってから直に大量の服を持って戻ってきた。

 リンが言うには「アイツって四次元ポケットでも持ってんじゃないの」だとか。

 ところで服のサイズがどれも私に合ったのはどうしてなのだろう?

 しかも下着までしっかりとサイズが合っていた。

 極めつけは眼鏡だ。

 私が宝具を一つ使用して抑えていた魔眼を完璧に制御できる眼鏡。

 リンが選んだ服を着てこの眼鏡をかけた姿を見せたところ、
 
 彼女がしばらく石化したように固まった。

 やはり私の素顔が見るに耐えないと言うことなのか?

 少し憂鬱になったがリンが言うには見惚れていたとか。

 その後リンに言われて彼にこの格好を見せに行くと。


 「ほお、やはり美人は何を着ても綺麗だな」


 と、言われた。

 ……私がしばらく思考が停止したのもしょうがないと思う。 

 セイバーがその隣で「私にも服を……!」等と言っていたが気にならない。

 私は幸せでぼーっとしていたのだから。

 

 故に気がつかなかったのだ、シロウが居なくなっていたことに……。

 
 
 side by 凛


 迂闊だった。

 ライダーの着せ替えに集中してたからって士郎が家から出たのに気づかないなんて!


 どうやら士郎はイリヤスフィールに連れてかれたらしい。

 セイバーが言うのだから間違ってはいないだろう。

 だとするとアインツベルンの森、ここからだと結構時間がかかる。

 
 「どうバトラー? 戦闘はできるかしら」


 「厳しいな、まだ槍を使った影響が残っている。

  加えて相手がヘラクレスだ、どうなるか解らん」


 コイツが真面目に言うのだからそれは本当のことだろう。


 「セイバーとライダーはどうなの?」


 「私は無理ですね、剣も鎧もおそらく維持できない。

  出来るとしたらこの身を盾にするぐらいでしょう」


 「私の方も無理です、今戦闘などすれば魔力の枯渇でサクラが危険になる」


 そうすると八方塞がりだ。戦闘は出来ない。

 かといってあのアーチャーから戦わないで逃げ切れるとも思えない。

 
 「凛、この場合私が単独で衛宮士郎を助けに行ったほうがいいと思うが」


 ……それは私も考えた、足手まといの私たちがいるより彼一人の方が成功率が高い。

 だけど、


 「いけませんバトラー!

  シロウは私のマスターなのですから貴方が危険な目に会うよりは私が行くべきです!」


 「そうです、貴方一人で行くべきではありません!」


 と、こうなるわけね。

 どうしよう、迷ってる場合じゃない。

 直にはやられないだろうけど士郎が危険であることに変わりないのだ。
 
 
 
 side by エミヤ


 ふー、結局こうなる訳か。

 今俺たちはアインツベルンの城の前まで来ている。

 オレと一緒に来たのはセイバーと遠坂。

 桜とライダーは家でお留守番だ。

 ライダーが散々駄々をこねたが必ず帰ると言って納得させた。

 その際セイバーが膨れていたがなんでさ?


 先程イリヤとヘラクレスが城を出て行ったがアレがフェイクであることは知っている。

 だがどうしようもない、じっとしていても意味がないのでどの道入るしかないからだ。

 と、その時あの豪華絢爛な子の声が聞こえた。


 「どうしたのバトラー」


 「いや、今ここではない何処かで私を捻くれてるだの言った輩がいたのでね」
 

 今度会ったら、嫌いなものを食わせまくってやる。

 そう思いながら正面から入っていく。


 衛宮士郎はオレが前に閉じ込められたところに今回も居た。

 ただ違うのはベットの中に隠れるなどと言うアホなことをしていたことだ。

 セイバーと遠坂に説教されていたが自業自得だろう。

 しかしこの様な状況で微笑ましいことだ。
 

 さて、問題はこの後。

 オレの時はここでアーチャーはヘラクレスを六度殺して消えた。

 ここに来るまでに多少回復しているので戦闘は問題ない。

 だがヘラクレスがアーチャーな時点で歴史と大きく違っている。

 まあ、なるようにしかならないのだが。
 

 そしてロビーにでて、階段を下りて数歩進んだ所で声がかかる。 


 「――なぁんだ、もう帰っちゃうの? せっかく来たのに残念ね」


 振り向いた先には白の少女と巨人。

 
 「こんばんわ。あなたのほうから来てくれて嬉しいわ、バトラー」

 
 ぬ、確か前回は遠坂に話しかけてたような気がしたが。


 「私にそれを言うのか? 本来なら凛に対して言うセリフではないのか?」


 「ふふ、アーチャーがどうしてもあなたとは決着がつけたいんだって。

  もっともわたしもアーチャーにその分のお願いをしたけど」


 そう言ってさらにクスクスと笑うイリヤ。嫌な予感がする。

 
 「アーチャー、約束通り――


  ――狂いなさい」


 「うおおおおぉーーーーー!!!!」


 イリヤの声に答えるように意思ある咆哮をあげるヘラクレス。

 そして奴から今までを超えるプレッシャーが放たれる。


 まさか!


 「イリヤスフィール! 君は……いや、これはアインツベルンの仕業か。

  たわけが! 聖杯戦争のルールに違反するなど!」
 
 
 「へー、さすがねバトラー。

  ヘラクレスがクラスの重複をしてることに即座に気づくなんて。

  ふふ、誓うわ。今日は、一人も逃がさない」


 その声と共にヘラクレスが剣を出す。

 状況は前回よりも更に悪化したようだ。


 
 
 続く……のか?

 side by 凛
 
 
 「へー、さすがねバトラー。

  ヘラクレスがクラスの重複をしてることに即座に気づくなんて。

  ふふ、誓うわ。今日は、一人も逃がさない」


 そんな馬鹿なことがあるだろうか。

 クラスの重複?

 しかもヘラクレスなんていう化物がそれをしたって言うの!?


 ……勝てない。

 前回の戦闘だって狂化をされてなかったのにあれだけ苦戦したのだ。

 なら、とれる手段は一つだけだろう。

 ギリッ!

 不甲斐なさで自分を殺してしまいそうだ。
  

 そして意を決して我が執事に死刑宣告の如き命令を――


 「凛、先に衛宮邸に帰っていろ。

  料理は間桐桜が作るとしても食卓にお前達がいないのでは大河が暴れそうだ」


 ――この執事は……少し涙ぐみそうになる。

 
 「ふん、解ってるなら話は早いわね。任せたわよ」


 「なっ!? リン! 貴女はバトラーに死ねと言うのですか!?」


 セイバーに詰問される。そんなことは解っている。

 あのヘラクレスと戦えば、おそらくバトラーは消えてしまう。

 だと言うのに、


 「む、セイバー。君は私が"あの程度の輩"に負けると言うのか?」


 我が執事はそんなトンデモナイ事を口にした。


 「おい、アイツに勝てるのかよ?」


 「ふん、愚問だな衛宮士郎。

  我がマスターがアレを倒し尽くせと言うならそれに答える。

  それが執事というものだ」


 士郎の問いにも一瞬の停滞も無く答える。
 

 「へー、わたしのヘラクレスに勝つつもりなんだ」


 イリヤスフィールの嘲りを含んだ声、


 「でも、無理ね。さっきも言ったけど……一人も逃がさないわ」

 
 その言葉の意味、

 まさか!?


 「凛、どうやらお互い帰るのが遅くなりそうだな」


 ヤレヤレといった仕草で私の考えを肯定してくる。

 
 「どういうことだよ遠坂?」


 「既に結界を張られてるってことよ。

  私たちだけ先に逃げるっていう手段が取れなくなったわ」

 
 そう、つまり我が執事は足手まといを三人抱えて戦闘をしなければならないのだ。

 もっとも、私は彼の枷になるつもりは欠片も無いが。 

 

 side by セイバー


 巨人と赤い閃光のぶつかり合いが私の瞳に飛び込んでくる。

 自分以外の戦闘を見ることなど幾たびもあった。

 なのに、今までこれ程までに歯痒いものはなかった。

 現在の自分は足手まといでしかない。

 リンも最初は何かをする気だったのだろうが今は何も出来ないでいる。

 私は……本来バトラーと共に戦場に在れる筈だというのに……。
 
 
 「 I am the bone of my sword (我が骨子は捻じれ狂う)

  偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」
 
 
 彼の声で思考の海から浮かび上がり、信じられないものを見る。

 弓兵であるヘラクレスに対して剣とはいえ弓で射ったのだ。


 「ふざけるな、執事……!」


 怒声を伴ってヘラクレスの剣がその矢を叩き落とそうとする、が。

 
 「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 
 その途端矢が爆発する、Aランク級の攻撃力をもったソレ。

 隣にいるシロウやリンも唖然としているのが解る。

 だが、
 
 
 「穿て! ゲイボルク!」


 彼は止まらない。


 「斬殺せよ! 死刑執行人(エグゼキューショナーズ)!」


 本気で十二回倒しつくす気なのだ。


 「燃やし尽くせ! 深紅の支配者(クリマゾンマスター)!」


 やはり前回のアーチャーの如き仕業だ。

 もっともアレはこのように能力までも引き出してはいなかったが。
 

 「もう何でもいいからやってしまえ! 宇宙銀河ブレード!」


 今、変な言葉が聞こえたが幻聴だろう。

 視線を向けるとヘラクレスがいた地点を中心に爆煙に包まれている。

 如何にヘラクレスといえどただではすまない筈だ。

 だというのに、


 「……今度はこちらの番でいいのか?」


 悠然とそんな言葉を告げてくる。

 そんな馬鹿な……アレだけの攻撃を受けてまだ無事だと言うのか?


 「くっ! 令呪を発動させたか……!」

 
 幾分の疲れを含ませてそう言う。
 
 ……そうか! 

 サーヴァントに対する強制権であり、

 刹那的な命令なら恐ろしいほどの能力の強化すら出来るもの。


 「驚いたわ、バトラー。貴方がここまで強いとは思ってもいなかった。
 
  おかげで令呪を一つ使うはめになったじゃない」


 イリヤスフィールは事も無げにそう言う。


 「ふぅー、まさか全て防がれるとはな。

  誇るがいい、ヘラクレス。

  今の攻撃を防ぎきったのはお前で……百数十人目だ」

 
 ……は? あの攻撃を他に百数十人もいるというのですか!?

 場違いにもそんなことを考えてしまった。
 
 
 「……貴様の強さの理由は数多の強者達との戦闘によるものか」
 

 「その通りだ。どうも自分よりも強いものと戦闘する機会が多くてね。

  それもこれも歴代の我が主が喧嘩っ早いのが原因なのだが」

 
 先程と同様にヤレヤレといった仕草をする。

 それにリンも含まれるのだろうか?


 「そうか……。無駄話が過ぎたな、終わりだ」


 そう言いヘラクレスが弓を構える。

 有り得ないほどのプレッシャーに気圧される。

 狂化によって前回よりも宝具のランクが一つ上がったせいか!?


 「ナイン――


 その真名をもって私たちを、いやバトラーを滅殺せんとする。

 嫌だ、彼が消えてしまうなんて!

 私は形振り構わず彼の側に駆け寄ろうとして、


 「ほう、我が来る前に余興を始めているとは躾けがなっていないな」


 聞くはずの無い声を聞き、驚いて後ろを振り向くと、

 何時開いたのか解らない扉の向こうに、前回のアーチャーが悠然と佇んでいた。


 
 


 続く……のか?

 

 >死刑執行人(エグゼキューショナーズ)
  深紅の支配者(クリマゾンマスター)
  黒○剣とやらに出ていた武器……らしい。

 >宇宙銀河ブレード
 魔界戦記ディス○イア 私はやったことがございません。


 side by エミヤ


 「ナイン――


 くっ! 弓による、しかも狂化でランクが一つ上がったナインライブズ。

 防ぎきれるか?
 
 オレは即座に最高の守りを展開しようとする。


 「ほう、我が来る前に余興を始めているとは躾けがなっていないな」


 ぬ、このタイミングで一体誰だ?

 その声に聞き覚えは無いのだが。

 
 「……一つ聞きます、何故貴女が現界しているのですアーチャー」


 セイバーの声が妙に響く。

 彼女がアーチャーと言うのだ、ならば相手はギルガメッシュに他ならない筈だ。


 ヘラクレスを相手に背を向けるのは本来有り得ない行為だが、

 ギルガメッシュが来ているのなら背に腹は変えられない。


 意を決し振り向くと、
 
 そこには瞳に狂気を含んだ慎二と、金の髪に赤い目の絶対者がいた。



 side by 凛


 何なのよコイツ。

 有り得ない筈の八人目のサーヴァント。

 セイバーの言葉通りなら二人目のアーチャー。
 
 絶対にヤバイ、ヘラクレスに会った時を越える絶望感。

 何よりもその瞳、私たちを人と思っていないソレ。

 
 「ん? 久しいなセイバー。

  それにしても相変わらず貧相な胸だな」


 その言葉にセイバーの額にピシリ、と血管が浮き上がる。

 
 「あれ? 何で衛宮と遠坂がこんなとこに居るんだよ。

  まあ、ちょうどいいか。

  男だけやっちゃってよアーチャー」


 コイツはー! 私が怒鳴りつけようとした時、

 
 パチン、っとソレが指を鳴らし。

 士郎とバトラーに無数の刃が迫る。

 が、無数の刃は同じ無数の刃によって払われる。


 「ほう、貴様偽物(フェイカー)か?」


 フェイカー? 一体何だって言うのよ。
 

 「その通りだ……英雄王ギルガメッシュ」


 またもや相手の真名を言うバトラー。


 「くくっ、貴様、中々に博識だな、褒めてやろう」


 それにしてもギルガメッシュですって? 

 古代メソポタミア神話に出てくる半神半人の英雄、ウルクの王。

 不老不死の探求者、この世の全てを治めたとされる暴君。

 ……セイバーの件があるからコイツがギルガメッシュと言われても信じられる。

 
 「執事、我がマスターを連れて逃げろ」

 
 急に口を挟むヘラクレス。
 

 「……良いのか?」


 「構わん、それに……私一人の方が戦いやすい」
 

 「そうか……。凛、引くぞ」


 「ええ、士郎、セイバー。とっとと逃げるわよ」


 「は? ちょっと待てよ遠坂!

  なんでそうなるんだ!?」


 「馬鹿ね! ヘラクレスが時間稼ぎをしてくれるって言ってるのよ!

  その間にイリヤスフィールを連れて逃げるの!」


 私もバトラーも余力はほとんど残っていない。

 やっぱり回復しきれてなかったのだろう、

 さっきの攻撃時に私の魔力を大分持っていかれた。


 「ちょっ! 離しなさいよバトラー!」


 その怒声に目を向ければイリヤスフィールをお姫様抱っこするバトラー。

 隣を走るセイバーから殺気が漏れる。

 
 「ヘラクレスを置いて行けるわけ無いじゃない!

  私はヘラクレスのマスターなのよ!」


 そんな彼女の言葉を我が執事は無視する。


 「ヘラクレス、再戦を楽しみにしているぞ」

 
 そう言ってバトラーは一足早くロビーから消える。

 
 「ふん、舐められたものだ。我がこの程度の輩に負けるとでも言うのか」


 その声と同時に背後で無数の金属音が聞こえてくる。

 私たちは振り返らずにバトラーを追いかけて走る。


 
 side by 金ピカ


 忌々しい。 

 今我の前にはでかいだけの的が居る。

 宝物庫から取り出した無数の宝具が的に迫る。

 それを奴は全て弾き、回避し、防ぎきる。

 腐っても半神と言うわけか。

 
 「なら、倍でどうだ?」


 そう言い先程を倍する宝具を奴に放つ。

 だが、ソレすらも奴はやり過ごす。

 あの巨体でちょこまかと、正直うざい。


 「お、おい! ギルガメッシュ!

  全然攻撃が効いてないじゃないか!

  どうするんだよ!?」


 ぬ、五月蝿いなコイツ。

 言峰が余興だと言うから仮初のマスターとしてやったが……消すか?

 その間にも宝具を無数に展開してヘラクレスに対して攻撃し続ける。

 
 「ナインライブズ!」

 
 奴が剣によって弓の真名を発する。

 
 スッ――


 我の顔を何かが掠める、

 左手を上げ頬を触れば赤い粘着質の液体。

 
 「貴様! 王である我の顔に傷を負わせるとは何事か!」

 
 もう少し遊んでやろうと思ったが止めだ。


 「――――天の鎖よ(エルキドゥ)――――!」


 我の言葉と共に鎖がヘラクレスを拘束する。


 「ぬ! これは一体!?」


 「無駄だヘラクレス。その鎖は神を律する。

  故に神性の高い貴様にとってソレは天敵とも言えるだろうな」


 嘗て我の国を荒らした"天の牡牛"すら捕縛した鎖、

 いかにヘラクレスといえどもどうにもならんだろう。


 「さて、懺悔は済ましたか? なに、我は慈悲深い。

  直にでも貴様のマスターもあの世に送ってやる。

  まあ、聖杯の中にいく貴様には関係の無いことだがな」


 我は宝物庫からエアを抜きながらそう言ってやる。


 「疾く逝くがいい!――天地乖離す(エヌマ)――」


 「うおぉーーー!!!」

 
 なっ! 馬鹿な!? 天の鎖を無理矢理引き千切っただと!?

 この馬鹿力め!

 そして奴はすぐさま自身の最強の弓を構える。


 「射殺す(ナイン)――」 


 いいだろう、こうなったらどちらの宝具が強大か力比べだ!


 「――開闘の星(エリシュ)――!!」


 「――百頭(ライブズ)――!!」


 空間の断層が九つの射を飲み込みヘラクレスに迫らんとする。

 我が当然の如き勝利を確信したその時、

 一筋の閃光が断層の隙間を縫うように飛来する。

 
 「がっ!」


 く、左腕を持っていかれたか……。

 前方を見れば城ごと奴は消し飛んだようだ。

 ちっ!

 まさかこれ程の痛手を負うことになるとは……奴を過小評価しすぎたか。


 「おい! さんざんデカイ口叩いておいて何こんなに手間取ってるんだよ!」


 そう叫び我に触れようとしてくる下郎。


 「我に触るなと言った筈だが?」


 下郎の喉元に剣を突きつけてて忠告してやる。


 「くっ! わ、解ったよ! でも次はないからな!」


 そのまま踵を返し森の出口に向かっていく。

 一旦教会に戻るとするか。
 
 左腕も深手な上に、服も着替えないとならんしな。
 
 そう思いながら、仮初のマスターの後につづく。

 しかし、前を行く奴は出口までの道順をしっかりと記憶しているのか?
 

 そして森を歩きながらふと先程のフェイカーのことを思い出す。

 我の真名を一見で看破し我の宝具を防いで見せた……真に面白い。

 アレを我のものとするのも一興か。
 
 対して気の乗らなかった聖杯戦争に多少面白味が加わったようだ。
 


 




 続く……のか?


 side by セイバー
 

 夢を見た。

 夢の中で彼は初めて自分から自発的にやりたい事を見つけた。

 その後、彼は生涯を従者として過ごす。

 死後もただ主に仕え、数多の世界を渡り歩く。

 出会いと別れを繰り返し、なおも進み続ける。

 そんな彼を眩しいと思った。

 

 side by 士郎


 今日も平和な朝が――


 「何じゃこりゃーーーーーー!?」


 ――訂正、慌しい朝が来た。


 「ちょっとバトラーさん!

  なんなのよこのロリっ子とメイドっぽい生物×2は!?

  まさか昨日の夕食にいなかったのはコレの捕獲のため!?」


 何でオレに聞かずにバトラーに聞くかな?

 しかも初対面の方々にそれはないだろ。


 「大河様、落ち着いて下さい。

  こちらは切嗣氏のご息女のイリヤスフィール・フォン・アインツベルン様です。

  そちらの二人は世話係のセラとリーズリットです」


 流石は兄貴、兄貴に任せればオレの苦労がちょっと減って嬉しいぞ。

 
 「むむ、切嗣さんのご息女ってことは切嗣さんの子供ってことで……あれ?

  …………切嗣さんって結婚してたんかーーーーー!?」


 毎度毎度よくもまー朝から大声を出せるな藤ねえ。

 今回はオレがイリヤに耳栓をして、

 近くにいた桜がリーズリットさんを、ライダーがセラさんの耳を押さえてる。

 遠坂の叫びで慣れてるからな~。



 side by 凛


 は~、朝から騒がしかったわね。

 何かここ最近は恒例になってるけど。
 

 「藤村先生も学校に行ったことだしさっさと金ピカ対策をするわよ」


 「ちょっと待って、リンはアイツに勝てると思ってるの?

  ヘラクレスでさえやられちゃったのよ……」


 元気の無いイリヤ。

 当然だろう。

 ヘラクレスと二ヶ月も一緒に居たらしいのだから。

 そんな彼女をセラとリズが元気付けようとしている。

 彼女達はバトラーが城から抜け出す時に連れてきた。

 しかも見つけた理由が、

 「メイドの気配がした」

 だ。メイドの気配って何?

 一度アイツの頭の中を本気で覗いて見たい。


 「まあ、取り敢えずは戦力をどうにかしないとね。
  
  サーヴァントが三人居て戦えるのが一人じゃ話にならないわ」

 
 ところで、何時まで士郎にくっついてるのよこのロリっ子!

 確かにアンタのことはちょっとかわいそうかなとか思ったけど、

 コレとソレとは話が別よ!

 離れなさいよね!

 ソレは私のよ!

 ってコラ桜! ちゃっかり反対側に座ってるな!

 ぬぬ、主のピンチよバトラー! 

 ってアンタはアンタで何茶坊主に納まってるのよ!?

 セイバーもライダーも茶の飲み合いをしてるんじゃないわよ!


 ……このメンバーで金ピカに勝てるのかしら?


 
 side by 金ピカ


 「随分手酷くやられたなギルガメッシュ」


 我のマスターである言峰がマーボーを食べながら言ってくる。

 やめろ、近づけるな! 食わんと何時も言ってるだろうが!


 「五月蝿い。それでこの腕はどうにかなるのか?」


 「ふむ……ナインライブズにやられたと言ったな?
 
  アレは再生を繰り返すヒドラを倒したとされる武具だ。

  もしかしたら回復を妨げる概念武装がされているのかもな」


 そう言えばそんな伝説だったか?

 忌々しい、消えた後も我の邪魔をするなど。


 「そんなことはどうだって良いだろ!?

  ほら! とっとと衛宮をやりに行くぞ!」


 ……ふー。


 「言峰……」


 「ああ、まさか間桐の倅がこれほど使えんとは予想外だった。

  無駄な時間を使わせたなギルガメッシュ、好きにしろ」


 ふむ、流石はマーボー好きとはいえ我のマスターだな。

 話が早くていい。


 「失せろ下郎、貴様の聖杯戦争ゴッコに付き合う気はなくなった」


 「なっ!? どう言うことだよ!?

  僕はお前のマスターになったんじゃないのか!?」


 「馬鹿め。令呪の兆しさえ現れぬ輩に参加資格があるわけ無いだろう?

  貴様が勝手にそう思い、勝手に浮かれていたにすぎん。

  解ったらさっさと失せろ。貴様は……殺す価値も無い虫けらだ」


 「う、うわぁーーーーーー!!!!」


 ほんの少し我が殺気を出しただけで恥も外聞もなく無様に逃げていく。

 
 「優しいじゃないかギルガメッシュ。

  私は教会が多少汚れることを覚悟していたのだがな」


 「アレの為に我の財宝を使うなど恥にしかならん」

 
 アレのことなどもうどうでもいい。
 
 今はあのフェイカーをどう我の前に跪かせるかだ。

 くくっ、想像しただけでも快感だ。

 実際にそうさせた時どれだけのモノを味わえるか今から楽しみだ。 

 
 
 side by 慎二


 僕は何だ?
 
 何でこんな扱いを受けなきゃならない?


 くそっ! くそっ! くそーーー!!!


 僕は間桐慎二だ!

 間桐の後継になる筈だったんだ!

 それなのに何でだよ!

 
 「はー、はー……ぐっ! げほっ! げほっ!」


 畜生! こんな時に胸が!

 治まれ! 治まれよ!

 痛い! 痛い! イタイイタイイタイイタイ!!

 心臓の中を何かが動いてる!?

 くそっ! 
 
 まだ、まだ僕は何も手に入れて……。

 胸に走る激痛に耐えかねて僕はそこで意識を手放した。



 




 続く……のか?


 side by 士郎


 「バトラー、オレの投影魔術を見てくれないか?」

 
 朝食の後のお茶を片付けている執事に話しかける、

 それにしても台所がどんどんバトラーに侵食されてる気がするぞ。

 オレの最後の砦なのに……。
 

 「お前の?……ふむ、そうだな。

  未熟な投影でもないよりはマシか」


 えらい言われ様だが反論できない。

 オレが未熟なのは事実だ。

 だからイリヤに捕まり、ヘラクレスとの戦いの時も見てるだけだった。


 「凛のところに行かず私のところにきたのは賢明だったな。

  彼女ではお前の投影について深くは言えないだろうし、

  何よりソレについて感情面で区切りがまだついていないかもしれない」


 区切り?


 「何のだよ?」


 「自覚していないようだな……。

  当然と言えば当然なのかもしれんが、やはり自分では理解しずらいと言うことか。

  ……凛にも言われただろう?

  お前の投影魔術は普通の魔術師の用いるものとは違うと」


 ぬ、確かオレの投影したのを見せた時にそんなことを言われたな。


 「彼女は魔術師としては破格の待遇をお前にしてくれている。

  凛以外の魔術師ならお前は既に殺されているか、

  実験の道具とされているかもしれない」


 おいおい、物騒だな。


 「信じられないといった顔だな。

  まあ、自分の才能がどれ程の物か解っていないのだからそんなものか」


 オレの才能?

 そんなもの何処にあるって言うんだよ。

 自分で言うのもなんだけど、オレって凡人だぞ?


 「……まあ、おいおい理解していくことか。

  それで、投影についてだったな?

  助言をしよう、お前は戦う者ではなく生み出す物だ。

  常に最強の自分をイメージしろ。

  外敵は必要なく、お前の戦うべきは常に己がイメージだ」

  
 そう言って、また後片付けに戻るバトラー。

 何時になく直接的でない言い方だな。

 自分で考えて理解しろと言うことか?



 side by ???


 「――――よもや、蛇蝎魔蝎の類とはな」
 

 「カカッ、まだ生きておるか? 存外にしぶといの……」
 

 「――ぐっ!?」


 ほう、完全な状態で出てくるか。

 苗床としてはいまいちかと思うたが……。


 「……アナタが私のマスターか?」


 アサシンの腹より這い出てきた、

 白い骸骨の如き面をしたサーヴァントがワシに問いかけてきおった。

 外見に似ず以外に丁寧な口調。


 「いかにも、もっともこの身体は孫のものじゃがな」
 

 本体の方は何者かに消されてしもうたが……。

 カカカ、ワシはまだ終わりはせんよ。

 我が悲願、不老不死まであと少しなのじゃからな。

 

 side by キャスター


 これは……アサシンがやられた?

 信じられない、アレは正規のサーヴァントではないとは言え、

 その力は他の英霊と比べてもさほど劣るものでもなかったのに。


 「キャスター、サーヴァントか?」


 「ええ、おそらく」


 宗一郎様、私が何を先においても守ろうと決めた主。


 「マスターは下がっていてください。ここは私が何とかします」


 マスターは私の言葉に無言で頷く。

 寺に予め用意しておいた結界を張り外に出る。

 そこには、


 「カカカ、今宵は良い月夜じゃと思わんか?」

 
 酷く禍々しい気を発する、老人のような口調の少年が月を眺めていた。

 なんだというのか、アレは?

 魔力は余り感じない、サーヴァントの気配もしない。

 だというのにどういうわけか危機感を感じる。


 「そうね、良い月夜だと思うわ。

  なのに貴方の様な輩が来たせいでそれも台無しよ」


 「カカッ! 言ってくれるわ、魔女如きが……」


 魔女ですって!?


 「残念ね、そう言った輩を生かしておく気はないのよ」

 
 右手に魔力を集めながら怒気を含んだ声で言ってやる。

 相手の得体が知れないが、流石に私の魔術が効かないということはないだろう。

 
 「それじゃあ、さよなら」


 「ああ、お主がな」
 
 
 その声と同時に私の背後から影が迫る。

 魔力の気配がしなかった!?

 驚きながらもなんとかその影を避け、寺の方を見ると……。

 そこには短刀のようなものによって血を流した男が跪いている。 


 「そ、宗一郎様!」 

 
 なんで!? 結界が張ってあったはずなのに!?

 私はマスターの元へと走り出した。


 「余所見とはいかんのお」


 どこか揶揄するような声と共に背後より再び影が迫る。


 ドン!


 そんな音と共に私はマスターに押され。

 半身を影に食い取られた。

 ぐっ!

 どうやら魔力も大半を持っていかれたようだ……。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 マスターは、宗一郎様はどうなった?

 私が霞んだ目で辺りを見渡し、


 「そんな……宗一郎様」
 

 我がマスターは私を突き飛ばした体制で、右半身を失っていた。

 なのに、


 「ふむ……体が、勝手に動くとは……こういう、ことか」


 何時も通りの抑揚のない声で呟く。


 「逃げろキャスター……お前だ、けなら……逃げ切れる」


 「バカを言わないで! 私だけ生き延びてどうしろと言うのよ!?」
  

 そうだ、聖杯とて既に必要などないのだ。

 私は彼と共にいれるならそれでいい。


 「カカ、麗しき夫婦愛と言ったところかの?

  じゃが、それにも飽いた。

  せめてもの情け、共に闇に沈むがいい……」

 
 そう、アレが言い。

 先程よりも巨大な闇が迫る。
 

 「これが、私の……終焉か……さらばだメディア」


 「はい、また何時かお会いしましょう宗一郎様……」


 さようなら宗一郎様。

 愛して、いま、し……た。
 
 

 




 続く……のか?



 side by 士郎


 くそっ! 何だって言うんだ!?

 衛宮士郎、現在ライブでピンチです。


 「し、士郎。そっちは大丈夫なの?」


 「いや、もう駄目っぽい」


 「ふ、不覚でしたね先輩。

  まさかこんな結果になるなんて……」


 遠坂と桜もそろそろヤバイな。

 イリヤとセラさんは既に戦線離脱している。

 何故かリズさんは何時も通りの顔で未だに戦い続けている。

 そして何より、


 「どうした衛宮士郎、まさかこの程度で根をあげるきか?」


 あの執事は化物か!?

 絶対におかしい、断言できる。


 何で……何でバトラーはセイバーとライダーの料理を食べて平然としているんだ!?


 「ふむ、味はともかく破壊力に欠けるな……。

  これでは幻想種を倒すには至らないだろう」


 なにを平然と評価してるんだよ!?

 しかもコレで威力が少ないとはどういうことさ!?

 と言うよりも、幻想種を倒す料理って何だよ!?

 
 は~、何か色々と世の中の不条理について一晩中語りたい気分だ。


 「士郎、ゴメンネ……私、先に逝ってるわ」


 そう言って倒れる遠坂。

 ちょっと待てい! オレを置いて逝くな!

 って! 薄っすら目が開いてるし! タヌキ寝入りかよ!?


 「先輩、私幸せでしたよ……ガク」


 桜ーー!! お前さんもなんば言いよっと!!

 ガク、って口で言ってるじゃないか!?


 「全く、人の作った物を食べて倒れるなんて失礼な」


 セイバーさん、味見をしましたか?

 甘いお味噌汁とか無味無臭のシャケの塩焼きはある意味拷問です。


 「珍しく気が合いますねセイバー、その通りです。

  サクラもリンもだらしない、幾ら私たちの初料理だからといって、

  倒れるほど不味いはずがないじゃないですか」


 ライダー、肉じゃがに"まな板"は普通入らないぞ? 


 うっ! オレもそろそろ限界が近いようだ……。

 親父、もうすぐそっちに逝くよ。

 
 「む、大丈夫か衛宮士郎?

  修行が足りないようだな……良し、このオルト○リエスをやろう。

  なんかご飯が不味くなるという、四天王の銘のひとつだ」

 
 そう言いながら剣を渡してくるバトラー。

 四天王ってなにさ?


 って! ぬおっ!? 

 剣を受け取った瞬間から唯一まともだった白米まで不味くなったぞ!?

 おのれ執事め~、兄貴だと尊敬していたのにこんなところで落とすとは……。

 薄れ行く意識の中で妙に清清しい笑顔のバトラーが印象的だった。



 side by 凛


 えらい目にあったわね……。

 まさかセイバーもライダーもあそこまで料理が駄目だとは思わなかったわ。

 それを食べきったバトラーもアレだけど……。


 「それで? セイバーとライダーのことだけどアンタに案でもあるの?」


 「戦力の充実のことか……一番てっとり早いのはイリヤスフィールとの契約だな。

  彼女の魔力量は桁外れだ、彼女なら英霊二人分ぐらいの魔力を供給できるだろう」


 それは私も考えたのだが、


 「問題は納得してくれるかよね……」

 
 セイバーは堅物だし、ライダーも意外と融通がきかない。

 それにイリヤが承服しなければ意味がない。


 「もう一つは私と契約することだが……面倒だしな」


 そうね、バトラーと契約すれば……すれば?

 は? けいやく? 誰が? バトラーが?

 
 「……どう言うことよバトラー?」


 事と次第によっては、私の音速の右がテンプルを打ち抜くわよ?


 「主従の誓い、バトラーの能力ではなく私自身のスキルだな。

  コレを用いれば私の魔力量が一気に増加する。

  英霊の一人分ぐらいなら賄えるだろう」


 なっ!?


 「ちょっとアンタ! 何そんな便利な能力を黙ってるのよ!?」


 ん? 一発と言わず五、六発逝っとく?


 「しょうがないだろう、これはリスクが大きすぎる。

  君の人生の幾分かが制限されるのだからな」

 
 私の人生が制限される?

 
 「どう言うことよ?」


 「つまり――――――


  ――――――と言うわけだ」


 むむ、それって全然悪いことじゃないじゃない。

 と言うか寧ろドンと来い?

 そんなことなら最初っから言いなさいよ!


 「いいわよ、それでいきましょう」


 「は~、私の苦労だけが鰻登りしている気がするな……」


 なに溜息なんてついてんのよ、幸せが逃げるわよ?

 何かブツブツ呟いていたが決心がついたようだ。


 「汝、我が主となり我と共に歩みたもうか?」

 
 バトラーがそう言った瞬間私の令呪が光だす。


 「ええ、私がアンタの主人だし。バンバン命令してやるわ」


 私の物言いに対し彼は苦笑するだけで。

 その間にも令呪から出た光が私の周りを飛び交う。

 
 「契約はここに完了した。凛、君が我が主だ」


 光が治まり、私と彼を繋ぐラインが明らかに変化する。

 そんなこんなで私たちは二度目の契約をすることになった。


 ……ところでセイバーとライダーを説得できなかったらこれって意味なし?

 唐突にそう思ってしまった。



 side by ???


 「この後はどうするのだ、魔術師殿?」


 ハサンがそう聞いてきおった。

 こやつにアサシンと言うと拗ねて答えてこんのが玉に瑕じゃが、

 中々に役に立つので不問としておる。


 「そうじゃな、そろそろ慎二が目を覚ます。

  ワシも聖杯からの力を制御する為に少々眠らねばならん」


 力は大きいが御するのに意外と大変であることこの上ない。

 これが桜ならこれほど苦労はしなかったじゃろうが、

 カカ、その分馴染みは慎二の方が上。

 全く難儀なものじゃな。 


 「では魔術師殿が寝ている間は少年を何処かに監禁でもしていればよろしいか?」


 「ああ、それでよい。

  まあ、食事だけだしてやってくれ。

  ワシの方に対する栄養補給にもなるからの」


 「御意」


 カカッ! 起きた後は順々サーヴァントに喰ろうて行けばいいだけ。

 今はしばしの眠りにつくとするか……。
  
 

 


 続く……のか?



ネタ
 >オルト○リエス
 オー○ェンより


 side by エミヤ


 屋根で一人、空を見上げる。

 如何なる世界においても空は美しい。

 時に赤く、時に厚い雲に覆われようとも。

 また、粉塵が舞い上がり空が見えずともその空を想像することで補える。

 だから、ただ空を見上げる。

 今まで見てきた空を思い出しながら、

 同時に出会ってきた人などを思い出しながら、空を見上げていた。


 「空を見るのが好きなのですか?」
 


 side by セイバー


 「空を見るのが好きなのですか?」


 意を決して屋根に登り、彼に声を掛ける。
 
 今ライダーはサクラと話しているためいない。

 邪魔は入らないだろう。

 そう思いながら彼の隣に腰掛ける。


 「ああ、空は美しい。たとえどんな空だろうとな」


 彼の静かな声、

 
 「貴方は私とライダーのどちらをサーヴァントとして選ぶのですか?」


 今日リンとバトラーに言われたこと。

 そのせいでライダーと言い争いになったことは忘れたい。

 
 「……選ぶつもりはないのだがな。

  今なら私一人でも別段問題なく戦える」


 それは本当のことだろう、今のバトラーには何の制約も無い。

 何も気にすることなく宝具だろうとなんだろうと使用できるだろう。

 しかし……、
 
 サーヴァントとしての縛りが無くなっただけでここまで変わるものだろうか?


 「貴方一人でこの戦いを終わらせると?」


 「出来ればその方が良いだろうな。

  だが、何事にもイレギュラーは存在するものだ。

  私が思わぬところで不覚を取ることもあるだろう」


 だから、それを助けるために私を選んで欲しい。

 そう、声を高くして言いたい。

 
 「だが、私との契約は普通のものとは違うのでな。

  これ以上誰かを縛り付けたいとも思わんのだよ」


 それも説明された。

 彼と繋がったならキャスターの宝具であるらしい、

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)でも破戒できないと。
 
 故に彼が消えるまでこの世界に縛られることになる。


 「まあ、私を消せば良いだけの話なんだが……」


 ……そんなことは私にはできない。
 
 それはライダーとて同じことだろう。

 寧ろ彼女なら、私と違い柵の無い彼女なら、

 彼と共にいれることを喜び縛られることをよしとするだろう。


 「セイバー、君は聖杯を求めているのだろう?」

 
 その通りだ。

 私にはどうしても聖杯が必要なのだ。


 「ええ、貴方は知っているでしょうが聖杯が私には必要だ」


 「そうだろうか?」


 ……彼は何が言いたい?

 私の目的を知り間違っているとでも言いたいのか?


 「……いや、私がどうこう言える話ではなかったな。

  すまないセイバー。私では君を救うことが出来ない」

 
 な、何故彼は謝っている?

 私を一体何から救おうというのだ?


 「バト……」


 「……君を救うのは衛宮士郎だろう」
 

 シロウが?


 「アレはそういう存在だ。愚直故に出来ることもある」


 私にはさっぱり意味が解らない。

 だから今は、彼の隣に腰掛けながら彼と同じ空を見よう。

  
 「……セイバー、君の目に映る空は何か変わっているか?」


 「えっ?」


 突然の問いかけに驚き声を上げてしまう。


 「君の本来の時代の空と今の空、美しいということに変わりはあるか?」


 「いえ、たとえ時代が変わろうとも空は変わらず美しい」


 「そうだな……。

  アルトリア、私のサーヴァントになってくれないか?」


 ……えっ?

 あ、あの。その……い、一体どういう流れでそうなったのでしょうか?
 
 しかも私の、王になる前の名前で呼ばれたため顔が必要以上に赤くなる。

 
 「嫌ならそうと言ってくれ、君の意見を尊重しよう」


 「い、嫌じゃありません!
 
  で、ですが……先程も言ったように私には聖杯が必要です。
  
  ですから……」


 聖杯を手にしたら貴方をどうにかしなけらばならない……。


 「……すまない。私が考えなしだったな。

  だから泣かないでくれアルトリア」


 泣いている? 私が?

 王になってから一度たりとも泣くことが無かった私が……?


 「今ここで聖杯を手にした後のことを議論するのは止めよう。

  君の考えが変わるかもしれないだろう?」


 「……解りました。先のことは誰にも知ることはできませんからね」


 そう、実際どうなるかなど誰にも解りはしないのだ。

 現に私は今、彼を愛している。

 こんなことはこの聖杯戦争に呼ばれた時は思いもしなかったことだ。
 

 「ではアルトリア、契約を」

 
 「ええ、私はシロウと、貴方の剣になることを誓います」


 そう、私は彼だけの剣であることは出来ない。

 それは許して欲しいところだ。


 「……二股か?

  まあ、王族だったら構わんと言うことか……それに私も似たようなものだしな」


 「ば、馬鹿なことを言わな――」


 私が意見を言い終えるまえに唇を塞がれた。

 何で? 何で彼の顔がこんなに近い……? 

 せ、接吻をされている!?
 
 私の思考が遠回りをしつつ結論に達した時。

 プシュウーっと音をたてたかのように私の思考回路は停止した。 

 

 side by 慎二


 ううっ……こ、ここは何処だ?
  
 暗闇のせいで今一自身が置かれた状況が理解できない。 

 確か教会から走り出た所までは覚えている。

 僕を馬鹿にしたあの神父と金色のサーヴァント。

 ……思い出しただけで腹が、腹が立たない?

 何でだ? 

 今まで似たようなことの後は相手を呪い殺したい程の狂気が渦巻いていたのに。

 おかしい、おかしすぎる。

 自分はそこまで上等な人間じゃない。

 少なくともあのような扱いを受けたのに怒りを覚えないなど有り得ない。


 そんな事を考えていると次第に目が慣れてきた。

 ここは……家の地下のアノ部屋か……。

 そうなるとますます解らない。

 どうしてこんな所に居るんだよ?

 
 「どうやら起きたようだな少年」


 その声に驚いて即座に声の方を向く。

 そこには白い仮面をつけた人でない何かがいた。 

 直感した、コイツはサーヴァントだと。


 「どうした? 急なことで事態が掴めないか?」


 「いや、少なくともここが僕の家の地下でお前がサーヴァントだってことは解る」


 「それは僥倖、ではオマエの祖父の言いつけ通り大人しくしていて貰おうか」


 祖父? ということはアノ爺も聖杯戦争に参加してるってことか?

 それは解る、間桐とて聖杯を欲してアインツベルンや遠坂に協力したのだから。


 「それで? 爺さんは他に何か言っていたか?」


 「……聞いていた人物像と違うな。

  少年、オマエは私が恐ろしくないのか?」


 何言ってるんだコイツ?


 「だってお前は爺さんのサーヴァントだろ?

  だったら僕がお前を恐れる理由がないじゃないか」


 そう言ってやると何か考え始めるサーヴァント。


 「魔術師殿には取り合えず暫くは家から出ないようにと言付けられている。

  聖杯戦争中に出歩くなと言うことだ。

  おそらく孫であるお前を心配してのことではないか?」


 アノ爺さんが僕を心配して?

 はんっ! 絶対に有り得ないね。


 「ふーん、まあそれは良いよ。

  僕だって好んで死にたい訳じゃないからね。

  で? お前は何のサーヴァントで何て言うんだ?」 


 「……私の名はハサン・サッパーハ、クラスはアサシンだ。

  出来れば名で呼んでもらおうか」

 
 ハサン、確か間桐の蔵書の中で出てきたな……。


 「確か山の老翁だっけ?

  アサシンのクラスとして本来呼び出される存在。

  だから呼び出される全員がハサンって呼ばれる、あってるだろ?」


 「……少年、どうやらオマエのことを誤解していたようだな。

  魔術回路は無いらしいがその知識には感服した」


 ズバッと人の気にしてることを言ってくる奴だな。

 何処か衛宮のようだ、裏表が無いってところが。


 「それじゃあ、よろしく頼むよハサン」


 「心得た、時に少年。腹は減っているか?

  減っているなら私が料理を作るが」


 は? アサシンが料理?

 外見も合わせて全く似合ってない。

 そしてそう言われて空腹に気づいた。


 「ああ、頼むよ。

  それにしてもハサンが料理って似合わないな……」
 

 「そ、そうだろうか?

  ……私が山の老翁となってからの唯一の趣味なのだが」

 
 明らかに落ち込んでますと言った感じのハサン。

 コイツをからかうのは面白いかもしれない。


 「どうせ作るならその格好をどうにかしてくれよ?

  その黒づく目の上にエプロンなんてつけられたら夢に出そうだから」


 そう言ってやるとまたもや考え込み。
 
 
 「……善処しよう」


 と、言い残して地下から出て行く。

 どうやらライダーとは違ってこいつは僕と相性がいいらしい。

 
 ……それにしても、身体がおかしい気がする。
 
 まるで、僕の身体が何かの炉心になっているようだ。

 一体どうなってるのか疑問は尽きないが、

 今は空腹を満たす方が先だろう。

 出来れば食べれるレベルの料理が出てきてくれることを祈りながら地下から出る。
 


 




 続く……のか?



 side by エミヤ


 「……これはどう言うことですかバトラー?」


 ふっ、セイバー。

 ライダーに「私を捨てるのですか……?」と涙目で言われてみろ?

 たとえ執事と言えど抗えるものではないぞ?

 アレはある意味漆黒の魔狼の精神支配より抗いがたい。

 だから抜き身の聖剣を向けるのは止めてもらいたいな。


 「何か問題でもあるのですかセイバー?」


 ライダー、セイバーを挑発するのは止めてくれ。

 ついでに言うなら胸を押し付けるのも止めてもらいたい。

 セイバーの視線に殺気がこもるじゃないか。


 「……そう言えば貴女の真名はメドゥーサでしたね?

  だとしたら貴女の行いも頷けると言うものです。

  この、泥棒猫! 女版ランスロット!!」


 ……ランスロット卿ってそうなのか?

 
 「何を言いますか!? 私が正妻で貴女が側室でしょう!!」


 ふむ、茶がうまいな。

 そう思わんか? 衛宮士郎?

 
 「バ、バカ! こっちに話を振るな!

  オレにまで被害が及ぶじゃないか!!」


 ぬ、以前の料理の時の事を根に持っているのか?

 心の狭い奴だ。

 そんなことでは遠坂を落とせないぞ?


 「バトラー、アンタ実はタラシじゃないの?」

 
 「そうですよバトラーさん。ライダーとセイバーさんの両方だなんて……」


 失礼だな遠坂、オレは執事だぞ?

 執事がタラシなわけ無いだろう。

 それにタラシは既に死語ではないのか?

 そして桜、いずれ衛宮士郎がそうなるぞ?

 いや、この時点で遠坂と桜にイリヤで三人じゃないか。

 
 「バトラー、タラシ」

 
 リーズリット、このSS内で初めての発言がソレとは如何なものかな?


 「それで、バトラー様はどうしてこのようなことをなされたのですか?」


 セラ、君は真面目に聞いてくるな。


 「私としては二人のどちらかを選ぶという行為が納得できなかった。

  だから二人に聞いてみて決めたのだよ。

  それに……私は欲張りでね」

 
 たとえ二人を縛ることになったとしても失いたくないのだ。

 これがオレの我侭でしかなく彼女達をもしかしたら傷つけてしまうとしても……。


 「でも、結局これって二股よね?」


 イリヤ、何時からそんなことを言う娘になったかな?

 お兄ちゃんは悲しいぞ。



 side by 士郎


 ブンッ! ドカッ!

 
 「痛ぅ……!」


 脳天直撃セガサ○ーンと言った具合にセイバーの面を食らった。

 痛い、正直メチャクチャ痛い!

 今日は何時もに増して厳しいぞ!?

 やっぱさっきのライダーとのアレのせいか?

 だとしたらバトラーのせいだな。

 
 「セ、セイバー。できればもう少し手加減を……」


 「何を言っているのです!

  短期間で出来るだけ強くなりたいと言ったのは貴方の方でしょう!?

  さあ、次を始めますよ!」


 ふっ、遠坂、桜、イリヤ……ついでに藤ねえ。

 オレもう駄目かも……。


 「もう諦めるのか? 衛宮士郎」


 などと考えていたら元凶がきやがったよ……。


 「この野郎! お前のせいだろうが!?」


 「そうか? 私は特に何もしていないはずだが……」


 コ、コイツはーー!!


 「セイバー、少し休んでいたまえ。

  衛宮士郎の面倒は私が見よう」


 ……は? なんでさ?
 

 「む、私なら疲れていないので大丈夫です!」


 そうだ、もっと言ってやれセイバー。

 正直バトラーと戦うのはちょっと怖い。


 「セイバー、ここに何故かお茶セットがあるのだが」


 「任せましたよバトラー。やはり私も少し疲れているようだ」


 …………マジですか?

 それで良いんですかセイバーさん!?

 
 「さて衛宮士郎。私は人にものを教えるのは苦手でね。

  セイバーよりも厳しい実戦形式で逝くぞ?」


 苦手なら止めとけよ!

 って何真剣を持ってるんだ!?

 
 「言っただろ? 実戦形式だと」


 「実戦にも程があるわ!?」

 
 コイツ、ここでオレを殺す気じゃないだろうな?

  
 「お前が使うものは投影で出すがいい。

  魔術の訓練にもなるし両得だろう?」


 いいえ、死ねます。

 投影しつつ戦うなんて本気で死ねますよ!?


 「では逝くぞ」


 「って! マジか!?」

 
 まだ剣を用意してないぞ!?


 「大マジだ」


 こうなったら意地だ!

 絶対に執事に一泡吹かせてやる!! 
 
 

 side by ハサン


 「少年……シンジ殿。食事の準備が出来たぞ」


 久方ぶりの料理に知らず知らず熱が篭ってしまった。


 「……お前……ハサンか?」

 
 「……そうだが、何か至らぬことがあるだろうか?」

 
 あの黒尽くめの服装はダメだと言われたため、

 少々窮屈だがシンジ殿の妹の服を無断で借りたのだが……。


 「……メチャクチャ怖いぞ。

  って言うか、何で桜の服を着てるのさ?」


 「料理をするものは女性、と昔は決められていたので」


 「……じょ、冗談にしては笑えないよハサン」


 「私は至って真面目なんだが……」


 やはり変だったか?

 身体にフィットした黒服の上から通常の服を着るのは?


 「そもそもその白い面が怖いんだよ。

  それにその全身タイツ見たいなのは脱げよ?

  そうしないと怖さ倍増だ」


 むむ、そうすると素顔を見られるし、

 下着を着けない派の私としては心もとないのだが……。


 「善処しよう。

  ……着替えてくるが、料理が冷めてしまう。

  先に食べていてくれ」


 「ああ、解ったよ」


 そう言って階下に降りていくシンジ殿。

 さて、着替えるか。







 続く……のか?



 side by 凛


 「はー、紅茶が美味しいわ……」


 衛宮邸の居間で私と桜が寛いでいる。

 ほんの数日前には考えてもいなかった光景だ。

 
 「そうですね。遠さ……ね、姉さん」


 うわっ!

 面と向かって桜から姉さんって呼ばれるなんてやっぱり恥ずかしいわね。
 
 この場に桜と私しか居なくて良かった。

 だって絶対赤くなっているから……。
 
 私を赤面させたセリフを言った本人も真っ赤になって俯いている。

 やばっ、我が妹ながら本気でかわいいかも。
 
 はー、いいわね女の子って感じで。

 その点私は可愛げがないし、胸もない。

 このままじゃ桜に士郎を持ってかれるかも……。

 
 「そんなことはないぞ凛。君は十分魅力的だと私は思うがね」


 あっそう、気休めをありがとうバトラー。

 アンタが言うとなんか裏がありそうなのよね……ん?

 
 「ち、ちょっとバトラー! アンタ何処から湧いて出たのよ!?」


 「む、私をボウフラなどと一緒にしないでもらいたいな。

  そもそも、気づいてなかったのは凛だけで桜は気づいていたぞ?」


 うそでしょ? 

 そう思って正面に座る桜を見れば申し訳なさそうな顔をしている。

 ……まさか。

 謀られた?


 「ふむふむ、君の百面相を見るのも中々楽しいものだな」

 
 こ、こいつは~!

 私が思いっきり抉るようなボディブロウ付きの怒声を発しようとしたその時、


 「バトラー、そろそろ今後の作戦を練りたいのですが。

  ……何をやっているのですか、リン?」
 

 くっ! 

 セイバーのおかげで命拾いしたわねバトラー。

 後で覚えときなさいよ!?


 「遠坂、バトラーに突っかかるだけ無駄だと思い始めたんだけど、どうよ?」


 なに悟ったような顔で戯けたこと言ってるのよ士郎!

 売られた喧嘩は高く買うのが遠坂よ!


 「姉さん、それこそバトラーさんの思う壺な気がするんですけど……。

  って、聞いてませんね?」


 ふふ、とりあえず土下座は基本としてどうしてくれようかしら?



 side by 桜


 「――戦うべきは三組は、ランサーとそのマスター。慎二とギルガメッシュ。

  そして柳洞寺のアサシン、キャスター組ね」


 何時の間にか姉さんが仕切って話し合いは進んでいく。

 まあ、姉さんは何だかんだで目立ちたがりな面もありますから。

 
 「相手の居所の解っているアサシンとキャスターから攻めるのがいいと思うんだけど、

  皆はどうかしら?」


 「私もその意見に賛成ですね。ランサーは未だにマスターが解っていない。

  ギルガメッシュとシンジはおそらくイリヤスフィールを狙ってくる。

  通常なら待ちの作戦で攻めてくる者から倒せば良いのですが、

  サーヴァントが三体いる中に攻め込んではこないでしょう」 


 ……セイバーさんって食べるだけじゃなかったんですね。


 「ならばどうします? 

  柳洞寺を攻めるならまずあの変り種のアサシンをどうにかしなければならないでしょう?

  アレをどうにかした後にキャスターとの連戦は避けるべきですね」


 確かアサシンの真名は佐々木小次郎ってライダーは言ってた。

 
 「ならば私が単独で行ってこよう。

  私ならアサシンもキャスターもおそらく問題なく倒せる」


 バトラーさん、私を救ってくれた命の恩人さん。

 何処か先輩を感じさせる雰囲気を持つ人。

 
 「その行動は貴方のサーヴァントとして認められません!」


 「その通りです。何のために私たちが居ると思っているのですか?」


 それに対して当然の如くセイバーさんとライダーが反論してくる。

 アレですね、恋する乙女さんです。

 私も先輩と一緒になれたらいいなあー。

 でも。

 ……私はチラリと姉さんを盗み見る。

 うう、やっぱり綺麗だ。

 確かに私の方が胸は大きいけどそれ以外では負けている。

 先輩が姉さんのようなキリットした美人が好きだったらどうしよう。

 
 「……先輩」


 「ん? 呼んだか桜?」


 へ?

 
 「い、いえ。全然そんなことはないですじょ!?」


 「そ、そうか。ならいいんだけど」


 あう、変なところを見られちゃいました。

 しかも『ないですじょ』ってなんなんですか?

 穴があったら入りたいです。
 

 私は意を決して俯いていた顔を上げると視界に姉さんの顔が映る。

 ニヤニヤと何かを企んでいそうな顔。
 
 ああ、先輩が姉さんのことを赤い悪魔って言ってた意味がちょっと解りました。

 姉さん、妹は労わるべきだと思います。 
 


 side by ハサン


 シンジ殿が突然俯き、体の動きを止める。

 それと同時に放たれる禍々しい気配。


 「……魔術師殿か?」


 「そのとおり……ところで、お主はハサンか?」
 
 
 ぬ、まさか眠っている間にボケてしまったのか?


 「服装を変えただけなのだが、分からないだろうか?」


 「……カカッ! その格好を見たときの慎二の顔が見てみたいわい」


 シンジ殿の反応。

 いきなり食べていたものを噴出していたな。

 やはりこの素顔のせいだろうか?

 だがしかし、こればかりはしょうがない。

 山の老翁はその顔と実力で選ばれるのだから。

 しかも先代の独断と偏見によって。

 
 「まあ、そんなことはどうでもよい。

  ハサン、ワシが眠っている間に何かあったか?」


 「……セイバーとライダーの力がどういうわけか戻っている」


 「ぬ、それはちとやっかいじゃな。

  騎士王に、石化の魔眼、そして得体の知れぬ執事のサーヴァント。

  老体には堪える面々が集まっておるわい」


 ……確かに。

 英霊三体を相手にするのは自殺行為に等しい。
 
 特にあの執事……一体何者だ?

 私の気配遮断を持ってしても奴のせいで邸内にまでは入ることが出来なかった。

 奴の知覚領域は広く他愛のないことまでも探ってくる。

 流石にその領域の外から探っていた私には気づかなかったようだが危険な存在だ。 

 アレが居る限りマスターを殺すという私本来の戦い方は無理だろう。


 「どうするおつもりか? 魔術師殿」

 
 「そうじゃな、やはり駒を増やすしかなかろう」


 そう言って舌なめずりをする魔術師殿。

 シンジ殿と同じ顔だというのにその表情は酷く禍々しい。

 
 「行くぞハサン。ワシが次の眠りにつくまで余り時間が無い」


 ……つまりまだその力を御しきれてないというわけか。
 
 だとすれば後何回かはシンジ殿と会えるわけだ。 


 「……御意」


 次にシンジ殿が起きた時は何をご馳走しよう?







 
 続く……のか?


 「セイバー、分かっているとは思うがアサシンとは私が戦うのだからな」

 
 分かっていたことだがセイバーはやはり頑固者である。

 自分はアサシンと再戦を約束したのだから自分がアサシンと戦うべきだと主張してくるのだ。

 
 「……分かっています。キャスターに対してなら耐魔力の優れた私が戦うべきですし、

  純粋な剣の技量なら私以上であるアサシンは貴方に任せた方が良いというのも。

  ですが! 
  
  ……一人の騎士として彼と雌雄を決したいというのは間違いでしょうか?」


 ぬぬ、そんな目で見ても駄目なものは駄目だぞ?

 オレがキャスターと戦っても良いんだがアサシンをセイバーに任せるのは危険だ。

 アレの攻撃は下手をすればゲイ・ボルク以上に不可避である。

 よってアサシンに対しては遠距離から一気に殲滅することが最も有効的だ。
 
 セイバーが聖剣を使えば簡単だろうがそれを彼女はしないだろう。

 ならば、遠距離戦に特化した戦闘法ができるオレが戦うのは道理だ。
 
 ……そう言えば前回アイツはどうなった?

 前回キャスターが攻めてきた時はいなかったし、柳洞寺の門にもその姿はなかった。

 他のサーヴァントと違いアサシンだけが今のところマスターが分かっていない。

 キャスターはマスターを殺したと言っていたがアイツはどうなのだろうか?

 まあ、考えても仕方あるまい。

 できるなら、一成あたりがマスターでしたと言うオチだけは止めてもらいたいところだ。


 「ということで、セイバーを戦わせることはできない」


 「何が、ということでなのですか?」


 ぬ、通じないのか?

 かなりの確立で通じると思っていたのだが……。


 「む、柳洞寺に着いたな」


 「バトラー! 私の質問に答えてください!」

 
 ぬぬ、以外とこういうことにもしつこいな。

 ……ん?

 どう言うことだこれは?


 「セイバー、おかしくないか?」


 「そうですね、数日前に来た時とは明らかに雰囲気が違います」


 これは、誰かに攻め込まれたかもしれないな。

 オレ達以外ではランサーとギルガメッシュだが……そのどちらも当てはまらない。

 
 「上に行ってみるか。これが罠だとしても行かなければ始まらんしな」


 「はい、異論はありません」


 上を見上げながらそう話あう。

 それにしても、高いなおい。





 門にアサシンはいなかった。

 その為あっさりと柳洞寺に入れた訳だが。

 
 「バトラー、これは……」


 「ああ。キャスターは既にここには居ないな。

  やられたのか、それとも拠点を変えたのかは判断できないが」

 
 境内には魔力がほとんど無い。 

 色々と推測ができるが、如何せん情報が足りない。

 
 「一度戻りましょうか?」

 
 「それでも私は一向に構わないんだがな、

  其処にいる者はそうは思っていないようだ」
 

 そう、先程からオレの知覚範囲内に入ってきた存在。

 オレの気配を探る能力はずば抜けていると自分でも思っている。

 まあ、それ位の能力がなければ今まで生きて……もとい存在できなかったのだが。 


 「ちっ、よく気づいたなバトラー。

  これでも気配を隠すことは得意なほうなんだぜ?」


 そう言いながら青き槍兵が無防備に現れた。

 その言葉に偽りはあるまい。

 セイバーに気づかせないだけでもその技量が知れる。


 「君以上に気配を消す術に長けた存在を相手取ったことが何度もあるだけだ。

  彼等のソレに比べれば君の気配はありありと感じることができる。

  尤も……君が闘争心を隠しきれたなら話は別だろうが」


 「あー、そりゃ無理だわ。お前等を目の前にして闘争心を持つなって方が拷問だ」


 そう言って獰猛な笑みを浮かべるランサー。

 その顔が数多の世界の戦闘狂達を思い浮かばせる。


 「さて、無駄話を続けてもいいんだがセイバーが怖い顔をしてるんで本題に入るぜ?

  キャスターとそのマスター、アサシンを倒したのはお前等じゃないよな?」

 
 どうやらオレ達よりは情報を持っているようだ。

 それにしても……前回と随分違ってきたな。

 今更か。


 「ああ。君もその話し振りから察するに違うようだな」


 だとすれば残るはギルガメッシュだが……。


 「ランサー、貴方はギルガメッシュのことを知っていますか?」


 「あん? ギルガメッシュって確か最古の英雄王とか言う奴か。

  それで何でソイツの話になるんだよ。サーヴァントは7人出尽くしてるだろ?」


 ……言峰はまだランサーにそのことを話していないのか。

 確か前回も教会の地下で知ったようだったしな。

 
 「アレは前回から現界し続けているようです。イレギュラーと言ったところですね」
 

 「って事はソイツがキャスターとかを殺ったってことか」


 「いや、これはおそらく別の存在の仕業だろう」


 その言葉にセイバーとランサーが驚いてこちらを振り向く。


 「おいおい、八人目に加えて九人目ってか?
  
  ……冗談が過ぎるぞバトラー」


 ぬ、冗談だと思ったのかランサー。

 ちょっとショックだ。
 

 「落ち着けランサー。何もここで冗談を言うほど私は酔狂ではない。

  君も知っての通り今回の聖杯戦争は異常だ。

  私はもとよりヘラクレスのクラスの重複、前回のサーヴァントの参戦。

  ならばもう一つぐらいイレギュラーがあってもおかしくあるまい?」


 「……納得いかないがそういうことにしといてやる」

 
 ああ、言われなくても分かるよ。

 そこまで納得してません、って顔をされればな。


 「ではバトラー。直にでも戻って対策を練りましょう」

 
 オレもそうしたいんだがね。


 「待てよセイバー。まさかこのまま手ぶらで帰るつもりか?」


 やはりか……。


 「どういうことですランサー。まさか私達二人を相手にするとでも?」


 「お前さんこそどういうことだよ。

  サーヴァントが出会ったんだぜ、戦わない道理が無いだろうが。

  そもそも、数の不利程度で逃げ腰になる奴が英霊なんてなるか?」


 そう言いながら赤い魔槍を構えるランサー。

 どうやら本気で戦うらしいな。


 「セイバー、下がっていろ」


 「なっ!? 馬鹿ですか貴方は!?

  自ら不利になる愚を冒すというのですか!?」


 むむ、馬鹿は酷いぞ?

 そういうのは衛宮士郎にこそ相応しい……ってオレも元はそうか。

 
 「ランサーとは私の方が先約でね、決着がまだついていないのだよ」


 取り合えず、アサシンとセイバーの再戦をさせようとしなかったことは棚に上げておく。


 「ああ、そう言えばあの学び舎での一戦はお流れになっちまってたな」


 「そういうことだセイバー。ランサーとはけりをつけておきたい。

  ……色々と借りがあるしな」


 そう、このランサーではないとは言え。

 胸を貫かれて死に掛けたり、家のあちこち壊されたり、

 また不意打ちで胸を貫かれたり、何だかんだで最後には逃げる手助けをされたり。

 色々と借りがあるのだ。

 
 「……さてランサー、始めようか」


 オレは右手に一振りの剣を投影する。

 偽・螺旋剣(カラドボルグ3)、伊達に3の名を冠してはいない。

 通常の形であれば気づかれただろうがこれは改造しすぎで分かるまい。


 「へっ! お前も馬鹿だな。態々死に急ぐんだからな!」


 「ふん、侮ってくれるなよランサー。

  油断していると一瞬で座に戻ることになりかねんぞ?」

 
 その言葉を合図にサーヴァント中最速の英霊との戦闘が始まる。









 
 続く……のか?




 眼前で激突する赤と青。

 豪雨の如き突きの連撃をもって迫るランサー。

 それを避け、弾くと同時に放たれた矢の如く踏み込むバトラー。

 だが、それを上回る速度でランサーが前進するため踏み込みきれず間合いを離す。

 両者の動きに停滞はなく、その一撃一撃全てに必殺の意思が込められている。
 
  
 「はっ!」


 ガギン!
 
 
 裂帛の気合を込めた一撃でランサーがバトラーの右手の剣を弾く。

 だが、彼の右手には既に同じ剣が有りそれがランサーに対して振るわれる。

 
 「くっ!」


 ズザーー!

 
 ランサーがそれを見て取り、一息で間合いを離して再び構える。


 「……前も聞いたが、テメエ本気で何者だ?

  どんなトリックか知らんが宝具である剣を何本も出せる英霊なんて聞いたことがない」


 「それに答える義務は有るまい?

  君が気にすべきは如何に私を倒すかだろう」


 「そうだな、愚問だった。

  ……さて、そろそろ……逝け!」


 そう叫んだと思った瞬間彼は既にバトラーの目の前で槍を突いている。

 認める他はないだろう、青き槍兵はサーヴァント中最速の英霊だ。

 その、閃光の如き連続の突きにバトラーが押され始める。

 バトラーは確かに戦いが上手い。

 加えて戦い方が独特であり捉えどころがない為とても戦いづらい。

 私とて本気で彼と戦って勝てるかどうか微妙な所なのだ。

 だが、彼のアイルランドの大英雄はそれをさせない速さをもっている。

 
 「ぬっ――――!」


 またもやバトラーから剣が弾かれ地面に刺さる。

 これで丁度十五本目。

 しかし、彼の腕には既に同じ剣が握られている。


 「ちっ! いい加減うざったいな」


 「そう言うな、此方はようやく準備が整った所なんだからな」


 「何だと……?」

 
 準備?

 一体何をしていたと……アレは!?

 地面に突き刺さっていた剣がバトラーが掲げた腕につられる様に宙に浮かび、

 その直刃が螺旋を描くように捻れる。

 
 「包囲は完成した。受けるがいいランサー!

  偽・螺旋剣(カラドボルグ3)!」


 バトラーの声に応じ縦横無尽に宙を舞う。

 標的はランサー、迫るは十七本の剣郡。

 アレは回避できるタイミングでは無い、だというのに――


 「なめるなーーーー!」


 ――迫り来る剣郡を弾き、避けていく。

 そして、一瞬生じた隙間を縫うように先程を倍する程の速さで後退する。

 
 「む、矢避けの加護かそれに類するスキル。後は……仕切り直しといったところか」


 バトラーは自身の宝具を回避されたというのに冷静に相手の情報を吟味している。
 

 「……カラドボルグ。ますますテメエが何者か分からなくなったぜ。

  だが、ソイツを出したのは拙かったな。

  その剣がカラドボルグだと言うのなら、是が非でもけりをつけさせてもらう!」


 ランサーがさらに後ろへ一瞬で下がり境内の端付近まで到達する。
 
 まさかこの距離で助走をつけて突きをするなどというわけがない。

 だとすれば……まさか!?


 「バトラー! ランサーはアレを投げる気です!」


 「っ――――! I am the bone of my sword!」

 
 バトラーが今までで最も険しい表情で彼独自の詠唱を開始する。


 「突き穿つ(ゲイ)――――

 
 ランサーが豹の如く大地を駆け鷹の如く空に向かって飛翔する。

 その手に持つはゲイボルク、心の臓を穿つ呪いの魔槍。


  ――――死翔の槍(ボルク)!」


 青き槍兵の放った赤き槍が彗星の如く一直線にバトラーに向かう。


 「――――轟く五星(ブリューナグ)!」


 彼の詠唱が終わると同時に現れ、即座に放たれる一筋の閃光。

 それはゲイボルクを飲み込み、投擲の姿勢で滞空していたランサーを捕らえる。

 彼の槍はブリューナグ。クー・フーリンの父といわれる"長腕のルー"が持ちし槍。

 太陽の光と天空の稲妻を現す先が5本に分かれた姿を持つとされる伝説の武具の一つ。

 ソレを何故彼が……いや、今更バトラーにそれを問いかけてもしょうがな――


 ズシャッ!


 「ぐっ……!」


 ――肉を潰したような音と彼の苦悶に驚き、即座に彼の方を向く。

 そこには赤き槍に左肩を貫かれ辛うじて左腕が身体についているバトラーの姿。

 頭が一瞬で真っ白になる。

 一体何が起こったと言うのか!?
 

 「まさか、完全なものではないとはいえブリューナグを貫くとは……。

  ランサー。君のゲイ・ボルクは投擲宝具の中でも類を見ない力があるようだな」

 
 彼がその怪我を感じさせない口調で話し始める。

 まさかランサーがあの一撃を受けて無事だと?

 ヘラクレスならどうか分からないがランサーでは耐え切れる筈は……。
 

 「…………全く、驚かされてばかりだぜ。ブリューナグだと?
  
  この節操無しが!」


 そんな私の考えを吹き飛ばすように右腕が無く片目を閉じた槍兵が答える。

 流石に驚きよりも呆れてしまう。

 先程もそうだが死に体に等しい状態から二度も生き残るなど神業としか言いようが無い。
 
 
 「ふう、耳が痛いなランサー。確かに私は節操無しかもしれない。

  だが……これが私の戦い方だ。
 
  幾たびの世界を越えて磨き上げた術、それを否定される謂れは無い」


 「へっ、確かに俺がテメエの戦い方をどうこう言うのはお門違いだな。
 
  ん? ……ちっ! ふざけろよ!? 俺が何の為に……くっ! 解ったよ!」


 いきなり一人で喋りだすランサー。

 電波でも拾っているのだろうか?
 
 ……ところで電波とは何なんでしょう?


 「どうやらまた無効試合になったようだな」


 「……悪いな。腑抜けのマスターのご命令なんでね。

  全く、お前等が羨ましいぜ。あの嬢ちゃんにしろ坊主にしろ俺のマスターの百倍はマシだ」


 「そうか? アレはアレで色々と大変なんだが……。

  まあいい。ここで会ったのは偶然だ。

  ならば、決着は我々に相応しい時につけよう」


 ……は?

 まさか絶好の機会だと言うのにランサーを見逃すと?

 
 「バトラー、彼をここで倒すべきでは?

  疑うまでも無くランサーは強敵です。

  後々足元をすくわれる事になりかねません」

 
 こうは言ったが彼が何と答えてくるかは予想がつく。


 「ふむ、答える必要があるかな?

  君は既に私がどう答えるか予想しているのだろう?」


 ……完敗ですね。

 まさかそんな事まで先読みされるとは。

 いや、それだけ彼が私のことを理解してくれているということだろう。

 そう考えてしまい、顔が熱くなる。


 「お~、暑いな~。今って冬の筈だろ?」


 ランサーがニヤニヤ笑いながらそうのたまった。

 やはりここで滅殺しておくべきでしょうか?


 「おおっと。怖い顔すんなよセイバー。

  んじゃ俺はこの辺で失礼するぜ」


 片腕の槍兵はソレを感じさせない速度で去っていく。


 「ふう、彼の相手はある意味ヘラクレス以上に大変だな」


 それは相性の問題だと思います。

 彼の槍兵に対してはソレを上回る速度か速さを越えた力がいるでしょうし。


 「そう思うなら私に任せてくれればいいでしょう?」

 
 「……ああ、次回は君に任せて私はお茶の準備でもしているとするかな」


 そう言って彼は歩き出す。

 心にも無いことを。

 彼は戦いになったら真っ先に自分が戦おうとする。

 たとえ私やライダーの方が相性がよい相手だとしても。

 それが彼の優しさ。

 ともすれば私達に対する侮辱になりかねないというのに私はソレを嬉しく感じてしまっている。

 全く、我が事ながら随分と少女のようになってしまったものだ。
 

 ところで……私が柳洞寺に来た意味はあったのでしょうか?




 
 続く……のか?
 


 side by ランサー


 くそがっ!

 あの腑抜けの似非神父め!

 何が緊急事態だからさっさと帰ってこい、だ!

 せっかく満足のいく殺し合いがやれていたっていうのに。

 そんな事を考えいてたせいかさっきの戦闘を思い出す。

 今回もアイツの正体を看破できなかった。
 
 カラドボルグにブリューナグ、俺の関係者にあんな奴はいなかった筈だ。

 疑問はさらに増えたが戦い自体は十分楽しめるモノだった。

 俺が英霊なんぞになってから、いや生前の戦いを入れてもトップ3に入るほどの楽しさ。


 今回の聖杯戦争は正直粒ぞろいだ。

 少女の姿でありながらその力は化物染みたセイバー。

 おそらく誰もが最強と称するだろうアーチャー。

 真名をあっさり喋りやがったカタナ使いのアサシン。
 
 マスターが家の神父以上にアレだったが早さと力を兼ね備えたライダー。

 シングルアクションでAランクの魔術を連発してくるキャスター。

 そして、真名も何もかもが全く予想できないイレギュラーであるバトラー。

 マスターがいきなり変わったりそのマスターが腑抜けだったりしたが中々どうして、

 楽しいじゃないか。

 今回現界して一番気分がいい夜だ。

 だっていうのに、


 「って訳だからよ。今俺は気分が良いんだ。

  何処の誰かは知らんが見逃してやるからさっさと消えろ!」


 ヒュン!


 キン!


 俺の好意に返されたのは数本の短剣。

 付近からは俺が知らないサーヴァントの気配。

 ひょっとするとあの執事が言っていた九人目か?


 「ちっ! 馬鹿マスターが急かすんでな、とっとと殺らせてもらうぜ」


 そう宣言し――全力で右に飛ぶ。

 
 ゴウッ!


 そして、さっきまでいた地点を通り過ぎる影。


 「カカッ! よもやよもや、手負いの獣に避けられるとは思わんかったわ」


 一体誰だよ? この俺に不意打ちよろしく背後から一撃くれやがった奴は? 

 そんなことを考えながらゆっくりと後ろを振り向けば……あん?

 ライダーのマスターだったガキだと?

 それにしちゃあ、雰囲気やら言葉使いやらが違いすぎる。
 

 「おいおい、ライダーをあの執事にとられたからって他のサーヴァントでも見つけてきたのか?」


 「そういうわけではないんじゃがな。

  まあよい、死に損ないじゃが何かの役には立つじゃろうて」


 んだと?

 死に損ないとは言ってくれるな。

 しかし、さっきからうっとおしく短剣を投げてきやがるサーヴァントは何だ?

 正面きって戦ってこないって事はアサシンか?

 また飛んできた短剣を左手に持った槍で叩き落としながら考える。
 

 「はあ、どうでもいいことだな。

  じゃあなガキ、恨むんなら間抜けな自分を恨めよ」


 そう言って怪我のせいか、何時もより随分遅い速度で踏み込み槍を突き出す。

 
 「阿呆が……。ハサン!」

 
 俺の槍が届く前にガキが叫ぶ。


 「心得ている――――妄想心音(ザバーニーヤ)!」


 ハサンとか言う奴の言葉を聞き終える前に予備動作無しで前方に跳躍する。

 瞬間に感じるおぞましい気配、おそらくこれが奴の宝具だろう。

 宝具は対人用だったのかレンジが狭かったらしく俺の身体に異常は無い。

 にしても、楽しくない戦いだな。

 これならセイバーと連戦してたほうが万倍マシだ。

 そう心の中で溜息をつきながら構える。

 だがまあ、楽しくは無いがちっとはマジでやらないとキツイか。 



 side by ハサン


 私の宝具、妄想心音(ザバーニーヤ)

 今まで魔力をもって防がれたことはあった。

 だが発動するまでのタイムラグで避けられたことなどある筈が無い。

 なぜなら私が宝具を使用するときは必殺の間合いでもって仕掛けるからだ。

 それをあの槍兵は避けた。


 「……速いな。どうする魔術師殿?

  今の手負いのランサーでも私では手に余るかも知れぬ」


 そう、暗殺者が正面切って戦うなど下策。

 影からひっそりと相手の油断を突いて一瞬で殺すことが私達の戦い方。


 「そうじゃのう……地道にいくとするか。

  ランサーの魔力は底を尽きかけておるし、何より体調も万全ではない」


 確かに……だが、それなら先程の動きはどういうことだ?

 
 「おいおい、そんな相談してて良いのかよ?
  
  よそ見してると……一瞬で死ぬぜ!」


 怒号と共に青の槍兵が神速で迫る。

 それを、


 「カカッ! 刻死蟲よ!」


 「ぬっ!」


 魔術師殿の影より出でた黒き蟲が迎え撃つ。

 アレがただの蟲ではないことは先刻承知。

 ランサーもその尋常でない気配に気づいてか間合いを離す。

 それを追う蟲。

 あわやランサーが蟲に取り付かれると言う所で。

 ランサーがランサーである理由を私は知ることになった。

 
 「はあぁぁーーーー!」


 裂帛の気合で槍兵が突きを放つ。

 その速さは片腕だというのに私の動体視力を超え、蟲を確実に貫いていく。 

 瞬く程の間に無数にいた蟲が全て消え去っていた。


 「カカカ! 蟲ではお主の相手にならんか……。

  困ったのう。アレを使うしかないか……未だ御しきれておらんというのに」
 

 「まだやるのか? いい加減俺も面倒になってきたんだが……」

 
 「そう言うでない。お主が強いからこそコレを見ることが出来るのじゃて」


 その言葉を言い切った瞬間、魔術師殿の影が盛り上がる。


 「馬鹿の一つ覚えでまた蟲でも出すきか?

  時間の無駄だぜ!」


 再びランサーが魔術師殿を貫かんと迫る。

 だが――

 
 「■■■■■■■ーーーーーー!!!」


 ――それを遮るように巨大な何かが影より生じ咆哮を上げる。

 
 「なっ!? テメエはアー……」


 ズシャッ!!


 「ガァーーー!」

 
 不快な音と共に巨大な剣が槍兵の左腕を押し潰す。

 まさかコンナモノを隠していたとは。

 私は自分を呼び出した存在に対して初めて恐怖した。



 side by ランサー


 「ぬ、やり過ぎじゃ馬鹿者が。

  これではランサーが使い物にならんではないか」


 ……あ?

 このガキは何を言ってやがる?

 いや、今はそれよりも。


 「……くっ!

  ど、どう言うことだ!?

  …………なんで、ソイツが……?」


 「カカ。お主がソレを知る必要は有るまい?

  どうせ役に立たんのならさっさとワシに喰われるがよい」


 喰うだと?

 訳の解らんことをほざきやがる!


 「魔術師殿、手負いの獣は危険だ」


 「うむ、解っておる。ヘラクレスよ……殺せ」


 ガキの言葉に巨人は微動だにしない。

 
 「ぬ、やはりまだ御し切れんか……流石はギリシャ最大の英雄と言ったところかのう」


 「へっ! どうやらアーチャーは使いものにならんらしいな」


 「……死に損ないのお主よりは役に立つと思うが?」


 言ってくれるぜ!

 だが、そうは言っても限界が近いな……。

 ちくしょうが!

 アイツともう一度戦いたかったぜ!


 「おい、ガキ」


 「……ガキ、ガキと五月蝿い。

  ワシはなりこそ孫の身体じゃが精神は別物じゃよ」


 そういうことかよ、ガキも気の毒だな。

 だが、そんなことは関係ない。


 「…………死ね」


 「何じゃと?」


 「死ねって言ったんだよ!」


 俺は即座に相棒たるゲイ・ボルクを足で"持つ"。


 「――――突き穿つ(ゲイ)――――」


 狙うのはもちろんアーチャー。

 ガキを狙えば勝ちだろうが俺的に論外、アサシンでは役不足。


 「!? 殺れ! ハサン! ヘラクレス!」


 はっ! 今更焦っても遅い。


 「むっ! 妄想――」

  
 「■■■■ーーー!!!」
 

 アサシンとアーチャーが動くがコレも遅い。

 それにしても、この槍であのすかした執事をぶっ殺す予定だったのによ。

 全く……ついてないな。


 「――――死翔の槍(ボルク)――――!」


 「――心音!」


 俺が蹴り出した槍は寸分たがわずアーチャーの心臓を貫く。

 それと同時に俺の心臓も何かに握りつぶされたのが解る。

 視界が狭まり、世界が色を失くしていく。 

 
 「ぬ、まさかヘラクレス殺しを成し得るとは……」


 耳も聞こえなくなってきたか。

 まあいい。

 こんなもんだろ。

 心残りは有るがまあまあ楽しめた。
 
 
 そして、俺が最後に見たのは……振り下ろされる鉄塊だった。


 

 
 続く……のか?



 side by 士郎


 「遅い、遅すぎます! まさか……バトラーがセイバーの毒牙に!?

  サクラこうしてはいられません、柳洞寺へ向かいましょう」


 いや、毒牙ならライダーの方があってる気がするぞ?

 セイバーなら……喰う、かな。


 「駄目ですよライダー。バトラーさんにイリヤちゃんや私達の事任されたんでしょ?」


 「う、それはそうですが……」


 まあ実際遅いのは確かだが。


 「ふーん。人って、もといサーヴァントでも変われば変わるものね」


 煎餅をパリパリと食べながらライダーを見ておっしゃる遠坂。

 それはオレも同感だ。

 最初に間桐の家であった時とは大違いだ。


 ガララー


 ん? 噂をすれば何とやら。

 バトラー達が帰ってきたか?

 そう思い、気まぐれにも出迎えに行った。


 「遅いぞバトラー……、

  って何でお前が居るんだーーー!?」


 「ふん、五月蝿いぞ雑種。それに出迎えが貴様一人とはどういうことだ?

  王である我自らフェイカーに会いに来てやったというのに」


 玄関には無意味に態度のでかい、

 絶世と称されるに値するだろう金色の美女が立っていた。
 


 side by 凛


 はふ、士郎の淹れるお茶もなかなか美味しいわね。

 お茶請けのお煎餅もとっても美味しいし。

 
 「――って何でお前が居るんだーーー!?」


 などと居間で寛いでいるところに士郎の絶叫が玄関より聞こえてくる。

 まさか、


 「ライダー!」


 「解っていますリン。サクラ、イリヤスフィール達を頼みます」


 そう言って瞬時に玄関に向かうライダー。

 私も即座に追いかける。

 士郎が驚く相手、最悪サーヴァントかもしれない。

 しかし……衛宮邸の警報は鳴らなかった。

 もしや玄関から入ったら鳴らないとか?

 そんなことを考えている内に短い距離を走り終え、

 長身の眼鏡の美女と金色の豪華絢爛な美女が向かい合って対峙し、

 その脇で士郎がおろおろとする玄関に辿りついた。


 「……ギルガメッシュ……」


 そう、アインツベルンの城で初めて出会った本来居る筈のないイレギュラーなサーヴァント。

 慎二がマスターらしかったが今は居ないようだ。


 「ふん、ぞろぞろと沸いてくるとは虫の様だな」


 カッチーン! と来たがここは抑えよう。

 コイツは見た目と裏腹に最強といって過言ではない程の英霊なのだから。

 ……そう言えば、前回と違い左腕がない。

 おそらく、アーチャーを倒す代償に持っていかれたのだろう。

 しかし片腕を代償としただけで"あの"アーチャーを倒せるなどどれ程の化物だと言うのか。


 「英雄王様がこんな所に一体何の用かしら?」


 「……本来なら我に話しかけるだけで万死に値するが、まあよかろう。

  貴様はフェイカーが現界し続けるために必要だからな」


 むむ、ここは我慢よ凛。

 それにしても、フェイカーって何?

 アインツベルンの城でもバトラーに対してそう呼んでいたけど……。


 「さて……ライダーのサーヴァント、何故貴様が未だに現界している?

  脇役なら脇役らしく早々に舞台から退くのが礼儀であろう?」


 「それは聞き捨てなりませんね、

  貴女こそ前回の出演者が今回も出張るなど恥ずかしくないのですか?」


 両者から溢れ出る殺気で玄関が包まれる。

 くっ! こんな所で戦う気なの!?

 こうなったら令呪でバトラーを、って令呪は主従の誓いのせいで効果が変わったんだったー!

 うう、何もこんな時にその事を忘れているなんて……。

 ……ん?

 えっと、確かアイツから何か渡されていたような。

 そうだわ!
 
 アイツにベルの様なものを渡されてたじゃない!

 私を呼ぶときはこれを使えって。
  
 これよこれ。

 そして、私は高らかにその音を鳴らした。

 
 リーン♪


 …………何も起こらない。

 金ピカにライダー、士郎も何やってんだコイツ?

 と言った顔をしている……お、覚えときなさいよバトラー!?

 この借りは百倍にして返すわよ!


 パリーン!


 「きゃっ!」

 
 私の脳内でバトラーが泣いて許しを請い出した頃に居間からガラスの割れる音と、

 イリヤの悲鳴が聞こえてくる。

 まさか……慎二が別働隊として動いていたとか!?

 そう考え直に居間に向かおうとしたら、何かが居間から来た。


 ゴロゴロゴロゴロ、シュタッ!


 「ん、待たせたな凛」


 転がって来たかと思ったら即座に直立し挨拶をしてきた我が執事。

 
 「ちょ、ちょっとバトラー?

  一体どう言う登場の仕方をしてるのよ!?」


 「何を言っているのだ凛。これは太古の昔より伝達されし執事の登場の仕方だろう?

  我が師匠もそう言っていたぞ」


 自信満々と言った具合に胸を張って答える執事。

 ……一度コイツの師匠とやらにガンドを食らわせてやりたい。

 
 「む、これは珍しいお客だな。ふむ、汚い所だが上がってくれ。

  お茶をご馳走しよう」


 バトラーが金ピカの方を向きそんなことをのたまって台所へと消えていく。

 後に残された私やライダー、それに士郎はもちろんのこと。

 あの英雄王でさえ唖然としてバトラーを見送っていた。

 何と言うか、嵐の様な奴とはあの執事の様な奴の事を言うのではないだろうか?


 「……ああ、えっと、何だ。アイツもああ言ってたし。

  上がってくれ」


 その後、真っ先に再起動を果たした士郎が金ピカにそう言ったのだが。

 私もライダーも既に突っ込む気力が無かった事は言うまでも無いだろう。



 side by 慎二


 「……知らない天井だ……」


 僕は目が覚めると同時にそう言った。

 何故か言わなければならない気がしたんだけど……病気か?


 「どうだシンジ殿? 何処か身体に不具合はあるか?」


 「う、うわ!? ……ってハサンか」


 いきなりビックリするだろう。

 
 「一日程眠っていたので身体がダルイかもしれない」


 一日? そう言えば急に眠たくなったんだよな。

 それに、言われて見れば身体がダルイ。

 指先をほんの少し動かすだけでも億劫だ。
 

 「……ハサン、悪いんだけど何か軽食を作ってくれ」


 あまりこってりしたものなどは今はいらない。

 だが、空腹感は耐え難い程だ。
 
 其れを満たすためなら……。

 僕は何でもするだろう。


 「そう言うだろうと思って軽めの食事を用意しておいた。

  此処に持ってこようか?」

 
 僕はそれに声を出さず頷くだけで答えた。

 ……一体どうなってる?

 身体が何か別のものに変わっているようだ。

 はぁー……ん?

 そう言えば、家にはハサン以外にも他に誰か居たような?

 確か女だった気がするけど……気のせいか。




 続く……のか?



 side by 士郎


 「ふむ、我ながら中々良く出来たな」


 バトラーが自画自賛しながらタルト・ショコラを咀嚼する。

 む、確かに美味い。

 デザートやお菓子関係は専門外だがこれ程とは……。

 少し闘争心が湧いてきた。

 
 「ほう、流石は我のフェイカーだな褒めて遣わそう」


 英雄王も褒めてるぞ、ってライダーさんの方を見れません。

 だって石にされそうだから。

 
 「バトラーは誰の物でもありません、ましてや貴女等の物では……」


 「……この蛇が。どうやら今一度首を刎ねられ死にたいらしいな」


 一触即発の場面がこれで何度目だ?

 もうそろそろ胃に穴が開くぞ?

 
 「そ、それよりバトラー、柳洞寺はどうだったの?」


 ナイスだ遠坂!

 ……はて?

 何か忘れてる気がするぞ?


 「キャスターとアサシンは既にやられていたようだ」
 

 「えっ!? 嘘でしょ……」


 バトラーの発言に驚きの声を上げたのはイリヤだった。


 「どうしたのよイリヤ? そんなに驚くこと?」


 「だって、その二人は私の中に来てないのよ……?」


 は? 

 何でイリヤの中にキャスターとアサシンが来るんだ?


 「ふん、ならば自ずと答えは知れよう?

  そこの小娘の他に聖杯がいたということだ」

 
 金ピカが視線をバトラーから外さずにそう告げる。

 だが、その視線は恋する乙女などという生易しいものではない。

 猛禽が獲物を狙う目、それが一番妥当な例えだろう。

 ただ、その視線を受けてなお、のほほんと茶を淹れているコイツにちょっと憧れた。

 
 「イリヤの他に聖杯、つまりイリヤは聖杯ってことかしら?」


 遠坂が金ピカの発言をしっかりと理解して確認の問いをする。

 流石は遠坂だな。


 「……ええそうよ。私はアインツベルンに今回の聖杯として造られたの」


 何だって……?

 造られた?
 
 
 「ん? そう言えばそこの女も聖杯の器であった筈だが?」


 オレの混乱に拍車をかけるように金ピカが桜を見て不思議そうに呟く。

 むむ、そう言う表情"だけ"を見れば普通っぽいんだが。


 「……私の方はバトラーさんが何とかしてくれましたから」

 
 「ほう」


 感心したように声を出し再びバトラーを見る金ピカ。

 先程よりも視線に篭る熱の量が上がっている。

 
 「アレはほぼ完全にそこの娘と融合していた筈だが……。

  まあいい、余興は減ったが貴様の力の一端を知れたことで良しとしてやる」 


 えー、何故にそんなに王様ですか?

 ここまで来ると逆に感心するぞ。


 「ふう、サーヴァントが減ったのに問題が増えるなんて冗談もいいところね」


 「ああ、ランサーも結局倒せなかったしな」


 ふーん、ランサーね。

 アイツはセイバーが言うには生き残る事に特化しているらしいからな。

 幾らバトラーでもそう簡単には倒せないか……ん?


 「ちょっと待てバトラー。お前ランサーと戦ったのか?」


 「そうだが、それがどうかしたか?」


 「それを早く言いなさいよ! 全く、セイバーと二人がかりでも倒せなかったの?」


 そうそう、セイバーとこいつのコンビの強さはアーチャー戦で証明されてるからな。

 幾らランサーでも倒せるだろ。

 ……って、セイバー!?


 「おい、セイバーはどうしたんだよ?」

 
 居ないぞおい。


 「そう言えば見てませんね。大方お腹が減って動けないのでは?」

 
 ライダー、お前がセイバーをどう言う目で見てたかが良く解るよ。


 「セイバーならまだ柳洞寺ではないのか?

  私は凛に呼ばれたから戻ってきたが彼女はソレの範疇外だったからな」


 遠坂の持ったベル?を指差しながら言外に"置いてきた"と言いながらお茶を飲む執事。


 「なあバト――「ええ、そうですね。

  貴方がいきなり消えて私がどんな思いをしたか……思い知らせてあげましょうか?」

  ――セ、セイバー!?」


 オレのセリフを遮り極上な微笑みで現れたセイバーさん。

 その額にありありと浮かぶ青筋はなんでせう。
 
 
 「ん、お帰りセイバー」


 「……はー、ただいま戻りました……ってアーチャー!?
  
  何故貴公がここにいる!?」


 溜息をついたかと思ったらいきなり金ピカに食って掛かるセイバー。


 「落ち着いたらどうだ騎士王?

  尤も、理性がその胸と同等に乏しい貴様には不可能なことか?」


 「……よくぞ言ったな英雄王よ。現世での生、今宵限りと知れ」


 おうい! セイバーさんがキレてますよ!?

 バトラー何とかしろー!


 「セイバー、ここに君用のタルト・ショコラがあるのだが?」


 「ふう、アーチャー。今回は見逃して上げましょう」


 威厳たっぷりに金ピカに告げるが、その表情で台無しな気がする。

 それを見て金ピカは立ち上がり、


 「ふん、騎士王ともあろう者が餌付けされているとは嘆かわしい。

  ……さて、我は帰る。

  フェイ……バトラー、貴様が真に傅くべきは誰なのかよく考えておくのだな」


 「ギルガメッシュ、私の主たらんとするならば相応のものを見せてもらう事になるぞ?」


 何時もは飄々としている顔に、鷹の目を伴った鋭い表情をのせて金ピカに問うバトラー。

 両者の間を凄まじい殺気に似た何かが飛び交い、部屋の重圧が増す。

 ライダーの時以上のそれに背筋が凍りつきそうだ……。

 
 「覚えておこう、だが……貴様自らの意思で我に跪かせて見せよう」


 そう言って返す瞳に絶対者の光を灯して厳かに立ち去っていく。

 何て言うか、最後まで王様……もとい女王様って感じだったな。

 等としみじみと思っていたら、

 
 「バトラー、もう一つ頂けますか?」


 「では秘蔵の一品を出すとするか」


 「あっ、私にも一つ頂戴」

 
 「あー私もー!」


 「すみませんバトラーさん、私にも一つお願いします」


 「私も」


 「リズ、もう少し長めに話しなさい。
  
  出番が無くなるわよ? あっ、私にも一つ」


 リズさんとセラさん、あんた等何時の間に?

 あー、何て言うか一気に緊迫した雰囲気が消し飛んだな。

 まあいっか。

 それより皆が美味しそうに食べてるのにオレも興味がある。

 
 「バトラー、オレにも頼むよ」


 「ああ、もう無い」
 

 ……悲しくなんてきっとない。

 ああ、そうさ。

 悲しくなんてないやいコンチクショウ!

 何故か夜空のお星様になって微笑んでいる切嗣に内心でそう叫んだ。



 side by 言峰


 「ギルガメッシュ、一体何処へ行っていた?」

 
 十年来である我がサーヴァントに問いかける。

 
 「ふん、我が何処へ行こうと……いや、バトラーの所へ行っていた」


 私がマーボーをずずいと差し出そうとすると素直に答えてきた。

 これほどの料理を理解できないとは不幸なことだ。

 まあ、そのことは良い。

 問題なのは、


 「……ランサーがやられた」


 「ほう、バトラーと戦った後にでも襲われたか?」


 「その通りだ。相手は間桐慎二……あの少年だ」


 尤も、その中身はあの醜悪なご老体だが。

 
 「クー・フーリンともあろう者が落ちたものだな」


 「そう言うな、あの執事との戦いで消耗した後にサーヴァント二体はきつかったのだろう」


 ギルガメッシュが私の言に笑みを消し、考え込む。


 「待て、言峰。そのサーヴァントとは何者だ?」


 「一人はアサシンだ。あの戦い方は間違い無いだろう。

  ……もう一人はおそらくヘラクレスだ」


 「何だと? 馬鹿を言え。アレは我が剣で完全に消し飛んだ筈だ」


 ああ、その点がおかしい。

 アレは一体何だったのか?

 片目であり限界寸前だったランサーを通してでは完全には見ることができなかった。


 「恐らくだが、間桐慎二は聖杯だ。故にその中身と繋がっている可能性がある」


 そして、聖杯に注がれたヘラクレスと言う存在を一時的に使役していたのだろう。


 「アレと、か? だが通常の人間の精神ではアレに耐えられるとは思えんが……」

 
 「いや、あの少年は器として用いられているだけだろう。

  アレと繋がっているのはその体の内に潜んだ醜悪な蟲だ」


 蟲という単語にギルガメッシュが嫌そうな顔をする。
 
 この英霊はその不遜な態度と裏腹に蟲が苦手なのだ。
 
 以前、夏の時分に蝉が飛んできただけで宝具を展開したほどだからな。
 
 
 「それで? 今後の予定は何かあるのか?」


 蟲から離れようとギルガメッシュが話題を変えてくる。

 今少し虐めても構わんのだが後の報復が危険なので自重する。


 「さて? このような展開は私も予測していなかったのでね。

  流れに任せるとしよう。

  それに……どの道お前が最後には勝つのだろう?」


 「ふん、解っているではないか。

  たとえどれ程の相手だろうと全て踏み潰していくだけだ」


 ……流石は英雄王か。 

 だが……その驕りが足元をすくわなければ良いがな。

 その顔に猛獣の如き笑みを張り付かせた我がサーヴァントを眺めつつ、

 グラスに紅いワインを注ぎながら此度の聖杯戦争を思う。

 衛宮士郎がどう戦うのか。

 凛が勝ち残れるのか、ということぐらいしか楽しむ要素が無いと思っていたが……。

 愉しめそうだ。

 窓から覗く月を眺めながらゆっくりとワインを喉に通す。 
 




 続く……のか?



 side by ???


 喉が渇いた。

 空腹で背と腹がくっつきそうだ。

 それに……身体が燃えるように熱い。

 だから新都の公園のベンチで休む事にした。

 
 「おい、■■■じゃないか。お前何で学校サボってんだよ?」


 ん? 何だこの五月蝿いのは?

 全く、こっちの体調が悪い時に吠えるなよ。


 「ああん!? シカトかよ、おい?」


 別の何かがまた五月蝿く吠える。

 耳障りだ、何でこんなモノが生きている?
 
 
 「おいおい、お前等少し落ち着けよ。なあ■■■?

  実は俺達、ちょーっとお金が無くてさ。

  金持ちのお前さんに分けてもらいたいんだ」


 ニヤニヤと気色悪い笑みで訳の解らないことを言ってくる。

 ああ、不快だ。

 何て言うかもの凄くこいつ等が不快だ。

 だから、


 「五月蝿い、消えろ」


 簡潔にそう言ってやった。

 僕にしては優しいことにどうも見逃してやるようだ。


 「……っ!? テメエ、こっちが優しくしてやってれば付け上がりやがって!」


 「お前、立場が解ってんのか?

  まあいいや、お前のせいで俺達が不快な気分を味わった分はお前の妹で晴らさせてもらうよ」


 「はは、そいつは良い。一度あの顔が歪むとこ見てみたかったんだ」


 ……何を言っている?

 妹?

 僕にそんな奴が居たか?

 でも、そんなことはどうでもいい。

 折角見逃してやろうかと思ったけど、空腹にも耐えれそうにないから丁度良いか。

 そう思い、一番近くに居たボス猿っぽい奴の首を落とした。

 
 「ヒュコッ」


 飛んでいった頭から意味の解らない音が漏れる。

 辺りは出来損ないの、紅い水を垂れ流す噴水で汚く彩られる。

 残った二匹は事態の推移についていけないようだ。
 

 「えっ? な、何の冗談だよ?」

 
 「う、うわぁあああああああーーーー!!!」


 一匹は呆然と地面に尻餅をつき、もう一匹は走って逃げていく。

 それを少し眺める。

 もう手の届く範囲ではない。

 ……でも、何故か届く気がした。

 だから手を伸ばし、後ろから足をもぎ取った。
 
 それでソイツは動けない。

 後でゆっくりと食べれば良い。 

 その前に、腰を抜かし失禁したソレをどうするかだ。

 脂ぎっているし正直不味そうだ。

 でもまあ、僕は悪食だ。

 と言うより好き嫌いは多いが、捻くれているせいか人の嫌いなものを食べれる傾向にある。

 さて、鼻をつまんで食事をするとしよう。

 バキ、硬い。

 グシャ、不味い。

 ふう、これならハサンの料理の方が比べるのも馬鹿らしくなるほど美味しい。

 ……ああ、ハサンに内緒で出てきたから心配しているかもしれない。

 それに夕食の準備をしているだろうから、この辺で間食は止めておこう。

 何も無理して不味い物を食べる必要は無い。

 僕にしては行儀悪く食べ残しが散乱しているが。

 面倒なのでそのままにしてとっとと帰ることにした。

 夕食は何だろう?

 

 side by ハサン


 私が夕食を作っているとシンジ殿の気配が屋敷を出て行く。

 私は料理を一段落させて、後を追う。

 シンジ殿は当ても無くフラフラと散歩をするように歩いている。

 そうしている内に、新都と呼ばれる地域に入った。

 そして、ある場所に来たときに私は不快感に襲われる。

 ここは……何だ?

 生憎と魔術等には疎い私ではこの感触を言葉にする事が出来ない。

 私がそのような事を考えていると、

 座っているシンジ殿の前に三人のフリョウと言うだろう人種が立っていた。

 私は即座にダークを投擲できるように構え、事の推移を見守る事にする。

 シンジ殿はお世辞にも荒事に強いとは言えない。

 だから何時でも助ける事が出来るようにしていたのだが……。

 アレは……本当にシンジ殿か?

 魔術師殿と言われたのなら納得がいく。

 それ程の行いを眼前の少年は行っているのだ。

 ……そう言えば魔術師殿が言っていたか。

 『英霊を四体も取り込んだからのう、そろそろ慎二に影響が出るやも知れぬな』

 と。

 ならばアレがその影響だと言うのか?

 ……いや、私は所詮暗殺者でしかない存在だ。

 よけいな事を詮索する必要はない。

 ただ、シンジ殿が帰宅する時に夕餉を伴って出迎えるとしよう。

 それが、シンジ殿にとって良いかどうかは解らないが。





 続く……のか?


 side by 士郎


 「はぁっ!」


 オレの渾身の力を込めた双剣の一撃は同じ双剣を持つバトラーにあっさりと弾かれ、

 その衝撃で双剣は崩れ去った。

 そして、生じた隙を突かれて首筋に刃が押し付けられ何度目か解らない敗北が決定した。

 悔しいがコイツには勝てる気がしない……って最近そんな奴に会ってばかりなんだが。

 
 「衛宮士郎、お前は今何をしている?」


 唐突にそんな事を言ってくるバトラー。

 何って特訓じゃないのかよ?


 「ふう、お前は少しでも強くなるために努力しているのだろうが。
 
  私が仮に今の強さに到達するのに十年の年月を掛けたならば、

  お前もそれと同等の年月を掛けねば到達出来ないのは道理だろう?」


 そりゃそうだ。

 まあ、それはオレとコイツが同じポテンシャルを持ってたとしたらの話だが。


 「私の……アレは主か? いやまあそれはどうでも良いか。

  とにかく以前知人が言っていたことだが、

  自分よりも優れた技術を持っている者が居るのなら利用すべきだろう?」


 利用できるならな、でもこの場合は全く意味が解らないぞ?

 バトラーが強いからと言って、

 特訓してもらっているオレまでは簡単に強くはならないからな。

 
 「……頭の固い奴だな。お前のその双剣はどうやっって造り出した?

  ソレが出来るのなら答えは自ずと解るだろう?」


 オレは両手に持った双剣、干将莫耶を見つめる。

 これについての情報は既に得ている。

 投影の過程で解析しているからだ。

 ん? オレは担い手の経験までも加味している……それは十年を過ごしたことと同意なのか?

 試して見れば解るか……。

 
 「――――投影、開始」

 
 ここで、オレは普段なら踏み込まない領域へと足を踏み入れる。

 それはバトラーの練り上げた技。

 修練の年月、苦難の連続。

 アレな世界&アレな主人……!?
 

 「ぐっ!――――憑依経験、共感終了」


 脳裏に浮かんだ最後のイメージを渾身の力で振り払いつつ投影を完成させる。

 それは経験の投影。

 剣を媒介とした反則技に近いレベルアップ法とも言えるもの。


 「ふむ、試しだ。逝くぞ?」


 そう言ってアイツは今までのソレが嘘のような速さでオレに迫る。

 ……だが、その動きにオレは反応することができた。


 「つぁっ!」


 烈火とまではいかないが、それに近い連撃を何とか受けきる事が出来た。

 ただ受けきっただけであるが、先程までのオレなら到底不可能な事だ。

 そもそも、受けた時点で今までなら双剣が砕け散っていたのだが……。

 経験をより深く加味することで投影自体の練度が上がったのか?

 
 「ほう、一度で其処まで踏み込めるか……」


 バトラーが何かオレを褒めているようだが……もう限界です。

 其れまでの特訓の疲れと、最後に行った投影の影響でオレの意識は沈んでいった。



 side by セイバー


 私は今信じられない光景を見たのだろう。

 今までのシロウはお世辞にも強いと言えるものではなかった。

 尤もそれは私の立場から見てのものだが……。

 しかし、シロウがバトラーに言われた通り……かどうかは解らないが、

 今までと同じように投影を行い、バトラーが攻撃を仕掛けた事でその異常に気づいた。

 
 「つぁっ!」


 ソレは人では回避しきれない程の技を伴った攻撃、シロウには避けることは出来ないソレ。

 だが、シロウはそれを防ぎきった。

 ただの一度ではあるが英霊の攻撃をしっかりと防いだのだ。


 「ほう、一度で其処まで踏み込めるか……」


 バトラーが珍しくシロウを褒めているが、既に意識を手放しているシロウには聞こえていないだろう。

 私は倒れるシロウを確りと抱きとめる。


 「バトラー、先程のシロウは何をしたのですか?」


 あの短い助言で急に強くなれるのなら誰だって強くなれるのではなかろうか?


 「……衛宮士郎は投影によって剣などを造り出す時に担い手の経験をも加味する。

  つまり……ゲイ・ボルクを投影しようとすればランサーの戦いの経験すら得る事が出来るかもしれないのだ」


 その事実に息を飲む。

 それではシロウは……投影を行う度に強くなる?


 「尤も、アレは戦う者ではない。強くなると言っても高が知れている……」


 バトラーが自嘲的に呟く。

 それでも十分な程の強さを得れるのではないだろうか?

 
 「さて、衛宮士郎も気絶してしまってたことだし休憩にしよう。

  私は昼食の準備に入るが、君はどうする?」


 私は眠るシロウを見ながら考える。


 「そうですね……私はシロウが起きるまでは付き添っていようと思います」


 「そうか……ではまた後でな」


 シロウを介抱しながら道場に座る。

 そんな私に彼はとても優しい笑みを零して歩き去る。

 何故かバトラーは不意にそういう表情を見せてくれるので慌ててしまう。

 ……これからも、これからもこのような日々が続けば良いと心から思った。



 side by 凛


 「イリヤ、食事中にテレビを見るのは行儀が悪いから止めろって」


 「えー、別に良いじゃない」


 小食なため先に食べ終わって暇になったイリヤが足をパタパタさせつつテレビを見る。

 それを衛宮邸の主婦、もとい主夫こと士郎が咎める。

 私も食事中にテレビを見る習慣はないが、まあ(可愛いから)気にはならない。
 
 
 「――続いて、本日午前7時頃。新都の公園にて穂群原学園に通う生徒の遺体が発見されました」


 その放送に、私と士郎。

 それに桜とバトラーの動きが止まる。


 「遺体は三名で欠損が激しく、身元は付近に落ちていた財布のカード等からでしか判明で――――」


 これは……。


 「バトラー、貴方はどう思う?」


 「そうだな……サーヴァントが襲ったにしては杜撰だな。

  それ以外だと……すまないが想像できん」


 珍しく歯切れの悪いバトラー。

 まあ、これだけの情報じゃあ解ることの方が少ないからしょうがないか。

 でも……酷く気になる。

 
 「リン、気になるのでしたら私が見てきましょうか?」


 ライダーがそう言ってくれるが正直な所意味は無いだろう。

 どの道固有結界染みたあの場所では魔力の残滓を追うことは困難である。

 
 「いえ、それはいいわ」


 「そうですか。リンがそう判断したのならそれで構いませんね」


 ……何か久しぶりにまともなライダーを見た気がしないでもない。

 
 「ふむ、どの道今は動くに動けんか……」


 「バトラー、だったら午後もオレの特訓に付き合ってくれよ」


 むむ、士郎ったら私の魔術の授業のこと忘れてるのかしら?


 「ちょっと士郎「ダメダメー! シロウは私とデートするの!」

  って、イリヤ!?」


 何を言うのよ、この小娘は!?

 ガー、っと吠えそうになったその時、静かな殺気を感じた。

 見れば桜も目がキュピーンと言った具合に光っている。

 ……正直お姉ちゃんね、桜のことちょっと怖いと思っちゃったわ。


 「うーん、そうだな。夕食の食材も買わなきゃならないし。

  よし、行くかイリヤ」


 「うん!」


 ふふ、そう。私の事は無視な訳ね。

 今日の夜、覚えときなさいよ?

 私が士郎イビリのネタを考えていると桜と目が合った。

 ……私たちはアイコンタクトで情報を交わす。


 (桜、殺る……もとい、やるわよ?)

 (ええ、もちろんです姉さん)


 今、私たちは完全に姉妹としての絆を取り戻した気がする。

 そんな私たちの脳裏には、既に先程の事件のことはなかった……。







 続く……のか?


 side by シロウ

 
 イリヤと暗くなってきた新都を並んで歩く。

 既に買い物はすませ後は帰るだけだ。

 そんな光景が、傍目にはどう見えているだろうか?

 オレとイリヤでは兄妹ってことでは通りそうにないんだが……。
 
 
 「ねえシロウ、手……繋いで良い?」


 何処か不安げに、まるでオレに断れるとでも思っているかのように言ってきた。

 オレはそれに戸惑いながらも当たり前のように答える。


 「へ? ああ良いよ」


 「えへへ~シロウの手って暖かいね」


 その言葉を、イリヤはどんな気持ちで言ったのだろうか?

 声音は楽しげでありながら、表情は今にも泣き出しそうだ。


 「イリヤ、どうしたんだ?」


 「……アーチャー、ヘラクレスのことを思い出してたの」


 アーチャー、バトラーとセイバーを同時に相手にしても引けをとらない最強の名を冠するに値する英霊。

 イリヤのサーヴァント……いや、それ以上だった存在。

 
 「最初はね、ヘラクレスを制御するのに身体がとても痛くて何度もヘラクレスを貶したわ。

  でも……その度に『すまない』って言って頭を撫でてくれたの」


 ……その光景が目に浮かぶ。

 あの英霊は本当にイリヤのことが大切だったのだろう。

 だから、勝ち目の無い事を知っていてもイリヤを逃がすためにギルガメッシュと戦ったんだ。


 「ヘラクレスとは二ヶ月も前から一緒にいたのに……ありがとうって一言も言えなかった……」


 イリヤが俯き震えている。

 だが、泣いている訳ではない。

 ただ……後悔しているのだ。

 礼の一つも言えなかった自分に……。


 「……暗い話になっちゃったね」


 「いや、オレもセイバー達がそうなったらと思うとな……」


 今まで、オレは何の役にもたっていない。
 
 それこそ仮初のマスターと言ったところだろう。

 しかも、今はマスターですらない。

 ならば正義の味方を目指すものとして何をしたら良い?

 アイツ、バトラーならどうするだろう。

 あの、執事。

 オレの目的である正義の味方とは方向性が違うだろうに、オレを捕らえて離さないその在り方。

 切嗣以外で初めてオレが心から憧れた存在。
 

 「……シロウは、バトラーになりたいの?」


 「へっ? 

  ……いや、アイツはアイツだ。オレはオレの道を行くさ」


 そう、憧れは憧れでしかない。

 オレの行く道は既に決まっている。

 なら……進み続けるだけだ。

 どんな形であろうとオレはオレのやり方でこの戦いを終わらせる。

 だから―― 


 「ああ、やっと見つけたよ」


 ――何だ?

 唐突に聞こえてきた聞き覚えのある声、

 オレは辺りを注意深く探る。

 オレとイリヤは何時の間にか橋を越え、既に深山町へ入っていたようだ。

 そして、ある一点でオレの視点は止まる。

 海浜公園の灯りの下。

 そこには幽鬼の如くベンチに座る慎二の姿があった。 



 side by 慎二


 やっと見つけた器、その横には邪魔な何かがいるがまあいいか。 
 

 「慎二……お前どうして……?」

 
 その邪魔な何かは僕の名前を呼んだ。


 「はぁ? お前、誰だよ?
  
  僕はお前なんて知らない。僕が用があるのはそっちのガキさ」


 僕の言葉に邪魔者は絶句したようだ、だがどうでもいい。

 隣に居る柔らかそうな肉の"器"に僕は用があるのだから。

 そう、本来僕の中に来るべきアレの片割れを持つ器。

 だから、


 「さあ、お前の中にいるソイツを寄越せよ。

  心配しなくても痛みは……多分無いよ」


 半分しかないって変だ。

 だから補完する。

 もう半分を得る事で少しは満たされ、僕は……ボクハ?

 何かに成る……?

 ……まあいいか。

 とり合えずそうするだけだ。

 どうなるかは解らないが、後でハサンと考えれば良い。  

 
 「イリヤ、こっからの帰り道は解るな?」


 「えっ!? シロウ……戦う気なの?」


 どっちもブツブツと五月蝿いな。

 どうせ心臓をくりぬくんだから……生かしておく必要は無いか。
 
 決断したら即実行。

 僕は器に対して腕を向けた。


 「!? ト、投影開始!」

 
 アレ? 死んでない?

 訝しげによく見てみると、

 僕の腕から伸びた黒い影は邪魔者が何処からかだした双剣に遮られていた。

 へー、サーヴァントでもないのに影を防げるんだ……。

 器の横で荒い息を吐いて僕を睨んでいるソレに興味を持った。

 でも、


 「うざったいな。どうせ死ぬんだからじっとしてれば良いのに」


 殺してしまう事に変わりは無い。


 「慎二!?」


 「駄目よシロウ。アレに何を言っても無駄よ。

  だって……もうアレは間桐慎二じゃないもの」


 はは、何を言ってるんだか。

 僕は、僕は?
 
 ボクハ、ボクハ、ボクハ、ボクハ!?

 アレ? ワカラナイ、ボクハ……?

 
 「うわぁあああああああーーーー!!!」


 何だ!?
 
 僕は何だ!?

 解らない、解らない!

 

 side by 士郎
 

 「うわぁあああああああーーーー!!!」

  
 突然慎二が頭を抱えて叫び出す。

 一体何が?

 オレが介抱しようと走りだそうとした時、


 「シロウ! ……アレは聖杯として機能し始めてる。

  いえ、もう既に機能しているわ」


 慎二が……聖杯?

 イリヤや桜と同じ?


 「本来人にその機能は過ぎた物よ、それがホムンクルスだとしても。
 
  だから、聖杯として機能するための容量を空ける手段として人としての機能が消されていくの」 


 それじゃあ、もしかしたらイリヤがああなっていた?

 頭を掻き毟り地面を転がる慎二を見ながら想像した。
 
 ……それは、嫌だ。


 「……ううん。私なら、本来の聖杯として造られた私ならあんな風にはならないわ」


 まるでオレの心の声を聞いたかのようにそう言ってくる。

 そうこうしている内に慎二の叫び声は治まる。

 オレが再び慎二の方を向いた時、そこには慎二だった者がいた。

 髪の色は黒から白に近い灰色となり目は鈍い赤色に染まっている。

 そして、素肌の見える部位に何かの模様のような黒いアザが浮き出ている。

 ソレがオレとイリヤを見る。

 何の感情も感じられないその赤の瞳と目が合う。

 直感した。

 アレは危険だ。

 それこそあの英雄王、ギルガメッシュよりも危険だ!

 
 「投影開始――!」


 基本骨子を……馬鹿か!

 悠長にそんな事をしている場合か!?

 オレは工程の全てを省き幻想を一と成した。

 ――同時に、先程を倍する速さと力でオレの投影した干将莫耶に衝撃が走る。

 たった一度、たった一度のぶつかり合いで干将莫耶は砕け散った。

 これは……しょうがない。

 工程を省いたスカスカの剣では一度でも防げただけ上等だ。

 ただ……何故かその時、工程そのものが不必要なモノに感じた。


 「ぐっ! 投影……」


 オレは続けて投影をしようと集中する。

 ぐっ! あ、頭が割れるようだ……。

 さっき無理矢理投影したのがこれ程キツイとは……。


 「駄目よシロウ! このままじゃシロウの身体が……」


 そんな事は……無い。

 特訓の時は数だけならこの何倍も投影していたのだから。

 心配してくれるイリヤを一瞥してオレは再び投影を開始する。

 今アレはこちらを警戒してか何の行動もしてきていない。

 なら!
 
 その間に奴を打倒できるだけの幻想を造り出す。

 干将莫耶では駄目だ。

 オレに一番馴染んだ双剣ではアレに届かないと解った。

 だとすれば、あの剣を。

 戦場で彼女と共にあった黄金の剣を。

 実物もバトラーのおかげで見れた。

 今なら……今のオレなら出来るはずだ!


 「――――投影、開始」
 
 
 創造の理念を鑑定し、

 基本となる骨子を想定し、

 構成された材質を複製し、

 製作に及ぶ技術を模倣し、

 成長に至る経験に共感し、

 蓄積された年月を再現し、

 あらゆる工程を凌駕し尽くし――――


 ここに、幻想を結び剣と成す――――!
 
  
 「…………っ!」


 後ろでイリヤの息を飲む音が聞こえる。

 おそらくアレの攻撃が眼前に迫っているのだろう。

 だが、そんなことを気にしている余裕がオレにはない。

 今のオレは精神が高ぶり、神経が恐ろしい程に過敏になっている。

 正直、脳は溶けてなくなりそうなほどに熱を持ち頭は金槌で殴られたような頭痛で死にそうだ。

 体中からも汗が止めどなく出ているのが判る。

 そう、この黄金の剣の投影はオレにとって過ぎた業――。


 そんな状態だが、オレの掲げた腕の中には黄金の剣が確かにある。

 夢の中で彼女と共に戦場にあった。

 神話の再現とも言えるバトラーとセイバー、そしてアーチャーの戦いの中にあった。

 そして今、多少歪ながらオレ自身の手で再現された神秘がある。

 それを、確認したと同時に躊躇い無く振り下ろした。

 剣は何の感触もない程にあっさりと地面に到達し、朝露の如く消え去った。

 やはり……想定が甘かったらしい。

 
 「ぬぅあああーーーー!」


 オレの考えはその叫びによって遮られた。

 目の前でのた打ち回るソレ。

 剣の一振りで慎二だったソレ(以後慎二?と呼称)の右半身が跡形も無くなっていた。

 だがその失われた半身がゆっくりと蟲が這い出るように再生していき、

 同時に髪の色が戻り肌の模様が消えていく。
 
 元に……戻るのか?

 
 「ぬぐぅ! こ、これは一体どうしたことじゃ!?

  ぬう! こ、来い! ハサン!」


 残った左腕を二の腕辺りを輝かせて慎二?が叫ぶ。

 同時に辺りに魔力が溢れ、光が迸る。

 この光景は一度見たことがある。

 そう、ライダーとの戦闘でオレがセイバーを呼んだ時と同じ……!


 「くっ! イ、イリヤ! 早く家へ行け!

  何かは解らないがサーヴァントが来る!」


 今のオレでは……いや、どの道オレではサーヴァントの相手にならない。

 だったらそれが来る前にイリヤだけでも逃がさなければ。


 「でもシロウはどうす――「ぬ、これは……!? 魔術師殿……? 一体何が!?」――え?」


 イリヤの声を遮ったのは黒いサーヴァント。

 そこに居ると言うのに気配が薄く、今までに出会った他の英霊と同じサーヴァントとは思えない。


 「……ハサン、ここは……退く! 白き聖杯を目の前にして口惜しいんじゃが……。

  この身体ではな……。とにかく今は、現状を知りたい」


 「……御意」


 黒いサーヴァントは此方を一瞥した後、慎二?を抱えて夜の深山町へと消え去った。

 それを確認したオレは、


 「えっ? シ、シロウ!?」


 あっさりと意識を手放してしまった。

 
 そして、まどろみの中に落ちていく途中で……赤き外套の騎士を見た気がした。

 剣の乱立した、まるで墓標の如き丘でただ立っているその後姿。

 アレは……バトラー?

 疑問に思うがそれを確かめる術も無く、夢さえ見ない深遠たる眠りに再び落ちていく。 








 続く……のか?


 side by エミヤ

 
 今、オレが居るのはかつて過ごした部屋。

 目の前には、グースカ眠るかつての……自分。
 
 ……いや、既に道は分かたれた。

 イリヤの言によれば衛宮士郎は既に道を見つけている。

 ならばオレと同じ道は歩ま……そう言えばオレもこの当時は執事になるなんて思ってなかったな……。


 し、しかし慎二の変化か、聖杯の中身と繋がっているのか?
 
 あの呪いと……この世全ての悪と。

 耐えられるものだろうか?

 間桐慎二と言う存在がアレを?

 ……それに九番目のサーヴァント。

 全く次から次へと忙しない。

 これは最悪な事態を想定しておいた方が良いな。
 
 下手をすれば抑止として動く羽目になる。


 「バトラーさーん! 食事の準備が出来ましたから先輩を起こして下さーい!」


 ……さて、とり合えず影、アンリ・マユのことなどは凛達と話し合うとして。

 コイツをどう起こそうか?

 やはり師匠直伝そのまま天国へ逝けるトゲトゲハンマーを使うか?

 ……そう言えば、オレとコイツの決定的な違いがあったな。
 
 コイツの中には未だ鞘がある訳だ……。

 ……ふむ、執事として常に上を目指さなければならないからな。

 ここはもう一人の師匠?である奴のアレで行くべきか……。
 
 オレはおもむろに左腕を掲げ、その腕に幻想を造りだす。

 最高品質モーニングスター(おはようマイマザー 一番星くんグレート) 

 ……逝くか。
 
 オレはその手に持った幻想を躊躇せずに衛宮士郎へと振り下ろした。

 これは決して、嫉妬から来る行動ではない筈だ。
 

 
 side by 凛


 朝の食事を済ませ、居間でくつろぎながら話をする。

 藤村先生は既に学校へ出掛けているが……あの人は一体何を考えているのだろうか?

 私も士郎も桜でさえも休んでいるというのに何も言わない……。

 よく、解らない人だ。


 「うぅ、まだ身体が思うように動かんぞ」


 そんなことを考えていると、士郎がバトラーに恨みがましい目を向けながらうめくようにそう言った。

 何でもバトラーの起こし方が激しかったらしい。

 ……ちょっと、エッチっぽい。

 コホン!

 えっと、そう言う訳で先ほどの食事を私と桜、それにイリヤで代わる代わる食べさせてあげた。

 顔を赤らめ、それでも失った体力と魔力を回復させるために私たちの持つ箸に口をあける士郎。

 まるで親鳥に餌をせがむ小鳥のようで、私の征服欲が沸々と……っと、いけないいけない。

 でも……これはもの凄く癖になりそうだ。
 
 
 「凛、何をにやけている?

  ……ふっ、いや質問するだけ野暮だったかな?」


 何が言いたいのかしら、バトラー!?

 相変らず、私を見て口の端を少し上げからかう執事。

 ふふ、そろそろ堪忍袋の尾が纏めて切れそうだわ!


 「そう言うアンタは横に二人も侍らせて良いご身分だこと!」


 人数分のお茶とお茶請けを出し座ったバトラーの横に当然の如く真っ先に座ったライダー。

 ……その時の心の底から浮かべただろう笑顔は同姓の私から見ても綺麗なもので少し嫉妬してしまった。

 そして、そんなライダーの行動に触発されてセイバーも反対側にゆったりと腰を下ろす。

 その手は既に数枚目の煎餅を手にしている。

 なのに何でそんなに威風堂々としているのか少し聞きたくなったのは内緒だ。

 まあ、そうすれば今のこの状況の完成である。

 
 「リン、何を言うのですか?

  私はサーヴァントです。ならば彼の隣に居ようと問題ないでしょう?」


 ええ、そうねセイバー。

 だったらバトラーはなんで私の隣に居ないのかしら?

 ……別段いらないけど。

 
 「そうですね。バトラーの隣には私が居ます。

  ですからセイバー、貴女はリンの隣にでも行ってはどうですか?」

 
 「むっ! 何故そうなるのです!?

  そう言うライダー、貴女が行けば良いではないですか……っ!?

  あ、貴女は何をそのム、ムネをバトラーの腕に押し付けているのです!」


 バトラーを挟んで対峙するセイバーとライダー。

 その背後には通算何度目かの獅子と大蛇が見えるのは、幻覚……よね?

 
 「ライダーもセイバーもレディとしてはしたないわね。

  今はそんなことを言い合ってる場合じゃないでしょ?」

 
 人外大戦の勃発を収めたのは二人よりも確実に年下なイリヤ。

 ……何だろう?

 今一瞬だけイリヤが年上のお姉さんに見えたわ。


 「ふう、話が進まんな」


 バトラー、明らかにアンタのせいよ。

 その思いを瞳に乗せて思いっきり睨んでやる。

 
 「さて……イリヤ、君が気づいた事を教えてくれ。

  ……ああ、衛宮士郎。お前は喋らんで良い」


 私の睨みをさらっと流して話を進める。

 何気に士郎に対しては酷い事を言ってる気がするし。


 「そうね……今回の聖杯戦争、このままいけば多分間桐慎二が聖杯として機能するわ」


 はっ?

 あの慎二が?

 でも、アイツには魔力回路なんてなかったわよね?

 どう言うことかしら……?


 「考えられる話だな、桜に対して聖杯の欠片を埋め込むほどの輩だろう?

  間桐慎二に埋め込んでいたとて不思議ではない」


 「ちょっと待ってよバトラー。アイツには魔力回路がなかったのよ?

  なら聖杯として機能なん、て……?」


 アレ?

 何かを見落としている?

 
 「そんなのは関係ないわよリン。だって聖杯の器は教会にあるものでも代用出来るもの」


 じゃあ、冬木の聖杯って何なの?

 願いを叶える願望機、人知を超越した神秘。

 七人の魔術師が七騎のサーヴァントと共に闘い、最後に残った一組に与えられる極上の餌。

 二百年前に遠坂、マキリ、アインツベルンが集まって形作られた儀式によって顕現するもの。

 だったら……。


 「凛、あまり根を詰めるな。

  ハーブティーでも飲んで一息入れたほうが良い」


 私の目の前に少し甘い香りをさせたティーカップが置かれた。

 それに口をつけるとほのかなハーブの香りと甘さで頭がすっきりした。


 「ありがとうバトラー、おかげですっきりしたわ」


 「それは何より」

 
 ハーブティーを飲んでホッと一息ついたのも束の間。

 私の目の前には石化せんとばかりに睨みつけてくるライダーと、

 無表情で私を凝視するセイバーがいた。


 ……怖っ!

 二人とももの凄く怖いわよ!?

 
 ……その後も話し合いは纏まらず、

 結局相手の出方しだいと言う何とも受け身な方針に決まった。

 慎二とそのサーヴァントに対する情報が決定的に不足していたことが原因だ。

 それに私も含めて皆がそれぞれ何かを考えているようだった。


 ただ、そんな中でも何時も通り飄々とお茶を淹れるバトラーに少し呆れた。



 side by ハサン


 私の目の前で徐々に再生していくシンジ殿の身体。

 それは蟲が体内から出て身体へと変わっている様にも見える。
 
 
 「……やっと元に戻りおったか。

  ……ハサン、此度の事がどう言うことか説明してもらおうかのう?」


 やがて身体が再生しきった魔術師殿が私に問いかける。

 さて、どう答えるべきか……。


 「魔術師殿は何処まで把握しておいでかは存じないが……。

  どうもシンジ殿は魔術師殿が言っていた英霊四体の影響が出ているようです」


 「ふむ、具体的にはどうかのう?

  おそらく自我や記憶が薄れ、魔力の枯渇で常に餓えるようになっとると思うが」


 その通りだ。

 シンジ殿は既に妹であった存在のことも、おそらく魔術師殿のことも忘れている。

 それに、最近では人を食すようになっている。

 ……もしかしたらアレは既にシンジ殿ではないのかも知れない。
 
 
 「仰るとおりだ。シンジ殿は既に記憶が薄れ、常に餓えている」


 「ふむ……よもや繋がったワシではなく慎二の方に濃く影響がでるか……。
 
  これは少々予定外じゃな、早々に慎二を消すか?」


 ……それは……無理だ、魔術師殿。

 貴方ではその身体、その力を使いこなす事は出来ない。
 
 真に聖杯と繋がっているのはシンジ殿であって、魔術師殿は上辺に触れているに過ぎない。


 この事は気づいたと言うよりも偶然そう感じ取ったと言う方が正しい。

 おそらくは魔術師殿よりもシンジ殿の方との契約の繋がりが強いせいだろう。
  
 聖杯と繋がったシンジ殿を通じて様々なモノが私の中に流れてきた。

 ただ、それさえもほんの一部であろう。

 あれは……我々サーヴァントにとっては毒。

 ほんの少しでもアレに直接触れたなら……あのヘラクレスの様になるのだろう。


 そして、その本流をシンジ殿は受け止めている。

 上辺だけの魔術師殿とは繋がりの差は大きい。


 「ふーむ、しかし未だ力を御し切れていないからのう……。

  もう少し様子を見るとするか……」


 「御意」


 命を永らえたな魔術師殿。

 ……本来なら契約者である魔術師殿を裏切るなど考えもしないことだが、

 今の私には自身の名のことよりも、魔術師殿よりも、

 シンジ殿を何とかする事が大切……。

 ならば、裏切りの汚名を被ろうとも……致し方ない。

 
 「カカ、もうすぐか……待ち遠しいのお」


 シンジ殿と同じ顔を愉悦で歪ませ蟲は鳴く。

 それが叶えられることのないことだと思い、嘲笑と言うものをして見た。

 尤も、仮面に隠れて見えはしないだろう……。


 それが……今までで初めて、主を裏切ったと思った瞬間だった。 
 
    





 続く……のか?


 ネタ
 >最高品質モーニングスター(おはようマイマザー 一番星くんグレート)
 バスター○
 アビ○イルさんの秘密道具です。


 side by セイバー


 イリヤスフィールから聞かされた話によって、まるで金槌で殴られたような衝撃が私の頭を突き抜ける。


 「……では、この地に具現する聖杯は私が望むものではない、と?」

 
 ……いや、願いが叶う事はないと薄々気づいていた。

 ただ、心の何処かで未だそれを望んでいたことに衝撃があったのだ。
 

 「その通りよ、貴女は見てないから解らないでしょうけどね。

  間桐慎二が使っていた影は……アンリ・マユ。

  大聖杯と言う卵の中で孵る時を待つこの世全ての悪よ。

  あれに望んだ願いは屈折して叶えられる……そうね、偽りの願望機ってところかしら?」


 偽りの願望機。

 ならばキリツグが前回聖杯を破壊させたのは裏切りではない?

 だが、その結果としてこの地で数百人もの死傷者を生んだのだ。  

 ……心が波立つ。

 王に成ったときに切り捨てた筈の心に痛みが芽生える。


 ……しかし疑問もある。
 
 何故それを私だけに言うのか?

 あの場で、バトラーやリンがいる話し合いの場で言えば良かったことではないか。

 そうすれば恐らく大聖杯とやらが原因だと結びつける事が出来る。

 そのことを白き少女に尋ねる。


 「……リンは解らないけどバトラーはその事にはきっと気づいてる。

  多分あの英霊は時がくれば一人で行く気なのよ。

  だから大聖杯のことについては言わなかったの、彼はそのことを詳しくは知らないでしょうから」


 「それでは答えになっていない。

  あの場でそのことを言えばバトラーは一人で行く事は出来なくなる」


 お節介と言っても過言ではない程の元マスターであるシロウ。

 魔術師としては優しすぎるバトラーのマスター、リン。

 ……それと、一応主人思いであろうライダー。

 もちろん私も全力でそれを阻止しよう。

 バトラーが一人で行こうとするならば最低この四人をどうにかしなければならなくなる。

  
 「……無理ね。シロウやリンではそもそも英霊と戦うには力不足。

  ライダーとセイバーは魔力の供給を断たれればじり貧よ?

  彼が本気で一人でいこうとしたら止めることは出来ないわ」


 「それは……」


 ぐうの音もでない。

 今の状態でさえ彼を止める事など出来はしない。
 
 バトラーが一人で行こうとしたなら絶対に阻止は……出来ない。

 無力感が私を包む。

 戦う事すら出来ないのなら、私は何のために彼のサーヴァントとして存在するのだろうか……。


 「だがそれには穴があるな。

  そもそも私が一人で行くというのは君の考えだろう?」


 と、そこで突然背後から彼の声がした。


 「バ、バトラー!?

  何時からそこに居たのよ!?
 
  盗み聞きなんて紳士のすることじゃないわよ!?」


 「イリヤスフィール、君が何か隠していた事はマルッと何処までもお見通しだ。

  私を欺きたかったら、そうだな……何処ぞの奇術師にでも弟子入りしたらどうだ?」
 

 イリヤスフィールの三段疑問文にもいささかも動じずに彼はのたまう。

 しかし、奇術師に弟子入りすればバトラーを欺けるのだろうか?

 彼を騙そうとするなら……いたずら好きの老人なら出来るかもしれない。
 

 「では、一人で行く気はないのですね?」


 「もちろんだ。私一人で出来る事など高が知れているからな。

  まあ、相手がアンリ・マユでなければ私一人で何とかなったんだが……」


 アンリ・マユとはそこまで厄介な存在なのだろうか?

 彼の発言からはあの英雄王よりも厄介だと言っているように思える。

 私は"あの"英雄王を思い浮かべながらアレ以上に厄介だろう存在を想像してみる。

 ……うぁ。

 …………あ、甘いものでも食べて寝ましょう!


 「さて、長年の疑問も解消した。

  もう一度作戦会議をする前にお茶でもどうかな?」


 む、それは良い考えです。

 私は『ちょこたると』とやらが食べたいです。


 「あら? リンにすぐに知らせなくて良いの?

  職務怠慢はいただけないわよ」


 「それなら心配はない。
 
  リンなら己の力で大聖杯に行き着く」


 「そうかしら?
 
  リンって結構抜けてるからサクラとかシロウの助言で気づくんじゃない?」


 ……リン、少し貴女が不憫に思えてきました。

 ですが、今はかろりーとやらを摂取する方が先決です!


 「では、道場へ向かおう。

  ライダーがすでに準備をしてくれている筈だ」


 ……ちょっと待って下さい。

 今何と言いましたか?

 
 「バト――」

 
 私が疑問の声を上げようとするが、それを突然の声に遮られる。


 「バトラー、遅いですよ。もう此方の仕度は整いました」


 「そうか? では私もすぐに用意しよう」


 そう言って連れ立って歩いていくバトラーとライダー。

 ……はっ!?

 私は何を呆けているのですか!?

 本の少し出遅れたが"彼"を追いかけて開いている手にそっと手を繋ぐ事ぐらいは許されるだろう。

 イリヤスフィールの言によれば、後数日で聖杯戦争が終わる。


 その時、私は答えを出せるのだろうか?
 
 

 side by 言峰


 十年前と同様にこの地に膨大な魔力が満ちるのを肌に感じる。

 ふむ、あと僅かで終演の鐘がなるか。

 長いようで短かった五度目の聖杯戦争。

 此度はどんな結末を迎えるやら……。
 

 「さて……ご老体もそろそろ動き出す。
  
  聖杯もじきに現れるが……どうする、ギルガメッシュ?」


 「ふん、今回は確か寺に出現するのだったな?

  ならば、我はそこであの男を待つとしよう」


 私の問いかけにソファで寛いでいた英雄王は尊大に答えた。
 
 その顔は笑みで彩られている、尤もそれは猛獣の類だが……。

 それにしても珍しい事だ。
 
 この最強であろう英霊がここまで固執するとは……。

 確か、バトラーだったか?

 イレギュラーなクラスでありその存在自体も中々のものらしいが。

 ふむ、一度ぐらいは見ておきたいものだな。

 あの存在はどう言うわけか遠見などでは見れず全く持って詳細が解らんしな。
 

 「言峰、我は聖杯にも貴様の拘る雑種にも興味は無い。

  ……だがアレは我の獲物だ。よもや横から掠め取ろうなどとは考えていないだろうな?」


 ……全く、独占欲の塊か?

 殺気を放つのを止めろ。

 マーボーが不味くなる。

 
 「ではバトラーとやらはお前に任せるぞ?

  私はその間に下に行き、アンリ・マユの誕生を祝福するとしよう」


 「下……だと? 

  ……今回は通常の聖杯ではなく大聖杯とやらが具現すると言うのか?」

 
 通常時は頭の回転が速くて助かるんだがな。

 どうも何かに執着するとキレがなくなるのがこの英霊の欠点か。


 「その可能性の方が高い。それにアンリ・マユが誕生するのなら大聖杯の方が妥当だろう?」


 10年前、私の心臓の代わりとなった呪いの大本。

 ほんの僅かに具現しただけでアレ程の災害をもたらしたのだ。
 
 もしも、この世全ての悪が顕現したならば……私はかつてない至福の時を迎えれるのではなかろうか?

 再び己の思考の内に入り悦に浸っている我がサーヴァントを横目に、

 おそらく私も悦に浸っていることだろう。


 
 side by ハサン


 魔術師殿が未だ己の失策に気づかず私にシンジ殿を任せて眠りについてから数刻が経ち、

 ベッドで死んだように眠っていたシンジ殿が目を覚ました。
 

 「起きても大丈夫か、シンジ殿?」


 「……ああハサンか、何か身体が軽いんだ。

  それに行かなきゃならないって頭の中で何かが言ってる」


 行かなければならない、か。

 おそらく魔術師殿が言っていた柳洞寺の地下にある大聖杯とやらか。

 
 「何処へ行くのだ、シンジ殿?」


 「ん? ……えっと? 何処に行かなきゃならないんだっけ?

  ……ああ、思い出した。柳洞寺の地下だ。

  そこにアレがある……アレって何だっけ?」

 
 記憶の混乱、それに聖杯との繋がりの影響が濃くなってきているのか?

 ……おそらく大聖杯のある場所で彼等と最後の戦闘が行われるだろう。

 バトラー、セイバー、ライダーの三体の英霊。

 エミヤシロウ、トオサカリンの二人の魔術師。

 果たして私にシンジ殿を守りきれるか?

 正面からの戦闘ではセイバーはもちろんの事、ライダーにすら圧倒されるだろう。

 バトラーに至っては予測すらつかない。

 だが、負けることは確実だろう。

 ……この時ほど、アサシンと言うクラスであることを恨んだ事は無い。

 もしも自分が三騎士と呼ばれるクラスだったならシンジ殿を守りきれるだろうに。

 ……いや、詮無いことか。

 私がアサシンであることはどうしようもないことだ。

 ならばこの身を持ってどうにかするより他に手は無い。

 いざとなればこの身を捨てて一体でも多く道連れにすれば良い。

 
 「はは、もうすぐなんだ。
  
  もうすぐアレが産まれる、そうすれば僕の望みも叶う」


 「ほう、シンジ殿は何をお望みか?」


 これには少し興味を覚えた。

 私から見たシンジ殿は欲があるようで何処か達観している人間だったからだ。

 望んでもそれが手に入らないと……。


 「僕の望み? 取るに足らないことだよ。

  僕は……居場所が欲しい。

  僕だけの、僕だけのための居場所が……」


 その言葉を発して、再びシンジ殿は眠りについた。

 私に、柳洞寺に連れて行くようにと言付けて。

 シンジ殿の言から予測すれば後数日と経たずに今回の聖杯戦争は終わるだろう。

 その時……叶うことならシンジ殿と共に居たいものだ。

 シンジ殿の軽い身体を抱え、空に浮かぶ月を眺めつつそう願った。

 





 続く……のか?

 


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         それは有り得たかもしれない物語 そのよんじゅってんご



 side by 士郎


 現在道場前、オレと遠坂と桜は円陣を組んで作戦会議をしている。


 「で、どうする?」

 
 「どうするって、あの状況で私は入りたくないわね……」


 「私もです。あの中に入ったら、私きっと泣いちゃいますよ?」


 ……ああ、きっとオレも耐え切れずに逃げ出すよ。

 そう思いながら道場の扉の隙間から中を覗き見る。

 そこではバトラーが膝にイリヤを座らせてノホホンと茶を飲んでいる姿と。
 
 フルアーマーダブルセイバーとなった騎士王の姿、

 それと対峙するギリシャ神話における支配する女の意味を持つライダーの姿があった。

 ほんわかと絶対零度のコラボレーション。

 ……あの輪の中に入ったら体調を思いっきり崩しそうだ。

 セイバーとライダーだけなら何時ものようにバトラーの両側を陣取って丸く収まるところを、

 イリヤと言うアクセントが加わったために地獄絵図直前と言った具合になっている。

 この道場も切嗣との思い出の場所なんだから壊すなよー。


 「でも、あのレアチーズケーキは捨てがたいのよ!」


 「そうです先輩! あの苺のタルトには並々ならぬ美味しさが感じられるんです!」


 いや、もう夜中だよ?

 今から食べたら、ほら。

 太るよ?

 と、声には絶対に出さないで突っ込んでみた。

 ……以前これでえらい目にあったからな~。


 「ぬあ~セイバー! それは私が目をつけていたマス・ダマンドよ!」


 「ああぁ、ライダ~……よくも私のムース・グラッセを…………後でオシオキです」


 はは、食べ物の恨みは怖いってホントなんですね。

 またチラリと中を覗き見る。

 するとバトラーと確りと目が合ってニヤリと笑われた。

 まあ、これだけ大声で叫んでいればバレバレか。

 ってセイバーとライダーは気づいてないっぽい。

 ……良いのかそれで、一応サーヴァントなんだろ?

 と、考えているとバトラーが口をパクパクさせている。

 まさか読唇術をしろと!?

 などと思ったら直接耳に届いた。

 
 『冷蔵庫の一番奥にケーキを幾つかいれておいた。
 
  茶ぐらいは自分で淹れれるな?』


 だとさ。

 良かった、このままここで延々と愚痴られていたら溜まったものじゃない。

 バトラーに目で礼を言い二人を連れて台所へ向かう。

 ……それにしても、ほんと芸が多彩だよな。

 だけど今のはとても役にたちそうだ。

 今度教えてもらおう。

 居間に座って茶を淹れながらぼんやりと考えてみた。


 「士郎、不味い。淹れなおし」


 「マジですか!?」


 「先輩、これはちょっと……」


 ま、負けないぞ!

 泣いたりするもんか!

 そもそも紅茶の淹れ方なんて詳しく知らないやい!

 助けてバトラー――、


 『頑張れ』


 ――応援じゃなくてアドバイスをプリーズ!


 結局。
 
 この後、二人が納得するまで何度も茶を淹れました。

 ……ああ、お茶っ葉が勿体無い。

 

 続くかも……。



 side by バトラー


 オレにとって二度目の聖杯戦争がもうすぐ終る。

 話し合いの結果、大聖杯に力が満ちる前に破壊すると言うことになった。

 メンバーはオレとセイバーとライダー、それに遠坂と衛宮士郎の五人。

 イリヤは聖杯の影響がどうでるか解らないから置いてきた。
 
 桜には戦力外通告を下し、メイドの二人と共に衛宮邸とイリヤを任せた。

 二人ともかなりごねたがこればかりは譲れなかったため無理矢理言いくるめた。

 ふう、帰った後のフォローが一仕事だな……。

 などと家を出る前の騒動を思い出して内心苦笑する。

 現在は柳洞寺へと向かう道すがら霊体となって遠坂の後ろに憑いている。

 そして、思うのは今回の召喚されてからの出来事だ。

  
 衝撃と共にいきなり遠坂に召喚されたこと。

 かつて歯も立たなかった青き槍兵と中々の戦闘を行えたこと。

 再び会うことが出来たセイバーはやはりセイバーであったこと。

 ライダーが実は意外と女の子であったこと。

 過去の自分を見た時のよく解らない感情。  

 かつて狂戦士として絶対的な力を見せたヘラクレスがクラスの重複でさらに化物染みていたこと。

 妹のような存在であった桜が抱えていた苦悩と、衛宮士郎と言う存在に対する想い。

 イリヤに付き従うメイド二名。

 女性となってなお王様であったギルガメッシュ。

 アンリ・マユと同化しつつある前回は逝ってしまった間桐慎二。

 まったく知らない九番目のサーヴァント。

 かつて破壊した聖杯が本体ではなかった事。

 今向かっている大聖杯の存在……。

 
 オレと言うイレギュラーが劇に入るだけでこれ程シナリオに変更があるとはな。

 
 「バトラー、どうかしましたか?」


 そんなオレの雰囲気が伝わったのか、

 霊体になれないためにオレの横を何時もの姿のまま歩いているセイバーに問いかけられる。


 「いや、私も柄にもなく緊張しているようだ」


 「貴方がですか? それはないでしょう」


 おい、何故に断言しますかライダーさん?
 
 横から同じく霊体になっているライダーに突っ込まれた。

 
 「それもそうですね。

  バトラー、貴方が緊張しているなら私たちは極度の緊張のために気絶しているでしょう」


 ぬぬ、セイバーまで……。


 「はは、それは言えてるな。

  バトラーが緊張するなんてセイバーがご飯の御代わりをしないくらい有り得ないって」


 オレ達の声が聞こえたためか衛宮士郎が振り返って言ってくる。

 ほう、中々言うじゃないか衛宮士郎。

 覚悟は完了しているのか?


 「ほう……シロウ、それは一体どう言う意味ですか?

  聖杯戦争が終ってからじっ――――くりと説明してもらいますよ」


 「マ、マジか!?」


 ふむ、どうやら今のやり取りで肩の力が抜けたようだな。

 遠坂も何やってるんだか、と言った顔をして此方を見ているがその表情は柔らかくなっている。

 これなら問題はないか?
 
 と、雰囲気がホンワカした所で柳洞寺の長い階段の前に辿りついた。

 ……相変らず長いな。


 「境内の裏手の池に何らかの場が作られているようですね」


 「そっちは関係ないわね。アレは聖杯を欲しがるマスターに対する餌みたいな物だから。

  イリヤが言うには下の大空洞に大聖杯が有るみたいだから入り口は森の方ね」

 
 それじゃあ行くわよ、と遠坂が言って森の方へと入っていく。

 オレはその後姿に対して、


 「凛、私はここから別行動をすることになる」


 「はぁ!? 何言ってんのよ! これから大聖杯を破壊しに行くって言うのに!」


 「それがそうもいかない。どうやら上で私を待っているお姫様が居るようだ。

  このまま壁の花にしては後が怖いだろう?」


 そう、階段の上から感じるのは彼の英雄王の気配。


 「そういう訳だ。セイバー、ライダー。

  マスターとそこの未熟者を頼んだぞ」


 「……今回限りです。次は私と踊ってもらいますから!」


 ふっ、お安い御用だ。

 男性パートだろうが女性パートだろうが完璧に踊って見せよう。


 「まあ浮気も甲斐性の内とドラマで言っていましたから今回は見逃します。

  ……お気をつけて」


 毒されてる。現代に毒されてるよライダー。

 だが、その気遣い痛み入る。必ず無事に戻ってくるよう誓おう。


 「アンタは! ……私のサーヴァントなんだからね、

  負けたりしたら承知しないわよ!」

 
 そう叫んで衛宮士郎の腕を掴んで引きずっていく遠坂。
 
 おそらくその顔は真っ赤だろう。


 「くっ――――、心得たマイ・マスター」


 セイバーとライダーと目を合わせ、頷き合ってから階段をゆっくりと昇る。

 さて、お姫様の御機嫌はどうだろうか?
 
 

 side by ギルガメッシュ


 目を閉じかつて無いほどの昂ぶりを感じていると奴の気配が近づいてくる。

 奴はゆっくりと階段を上がってくる。

 まるで我を焦らすかのようにゆっくりと……。

 奴の気配が階段を登りきり我の前に来た所でゆっくりと目を開く。

 そこには何度と無く想像した姿と寸分違わぬバトラーが立っていた。

 
 「待たせたかな?」


 「そうだな、待たせすぎだ。

  常ならば極刑に処すところなれど……まさか我が待つという行為を楽しめるとは思いもしなかった。

  そのことを鑑みて今回は不問に処そう」


 そう、まるでこの時代の少女漫画とやらの恋する乙女のように我は心を躍らせていた。

 もうすぐバトラーが来ると胸の鼓動が速くなった。

 我の足元に跪かせ我の手の甲に口付けをさせる様を想像してかつてなく滾った。

 
 「それは光栄の至り」

 
 目の前に不遜に佇む男は我を前にして常と変わらぬ態度を崩さない。

 それどころかその口元は薄っすらとだが笑みを刻んでいる。

 その姿に我の顔にも笑みが浮かんでいる事だろう。

 
 「さて……一応ではあるが聞いておこう。バトラー、我のモノになれ」


 「それは聞いているのではなく命令だ。……まあ答えはNOだが」


 ふん、やはり拒むか。

 だが……嫌がる貴様を無理矢理我のモノにするのも一興。

 
 「ならば力ずくになるが……壊れてくれるなよ?」


 「ふぅ、余り女性を相手に手荒なことはしたくないのだが……そうも言ってられんか」


 その言葉を発した瞬間バトラーの目が鷹の如き鋭さを見せ、その視線が我を貫く。

 くぅ――これは……いかんな。

 余りの快感に……癖になりそうだ。 

 自然と顔に極上だろう笑みが浮かぶ。

 さあ、始めようではないか。

 月以外に観客の居ない、我と貴様二人だけの舞踏を。






 続く……のか?


 side by 凛


 「セイバー達はあのまま行かせて良かったの?

  上で待っているのはヘラクレスでさえ敵わなかったアノ英雄王なのよ?」


 大空洞への入り口を探しながら疑問に思ったことを言ってみる。

 この二人なら無理矢理にでもついて行きそうだったのに。


 「愚問ですね。彼が負けるとでも?」


 「セイバーと同意見になるのは気に食わないですが……その通りです。

  リンは彼が負けるとでも思っているのですか?」
 

 全く……何処からこの自信は出てきているやら……。

 まあ、かく言う私もアイツが負けるなんて思っていなんだけど。


 「ん? 遠坂、あそこって何か変じゃないか?」


 っと、士郎は真面目に探していたみたいね。

 感心感心。

 
 「間違いないですね。魔術で偽装されていますが奥に行けるようになっています」


 「それじゃあ行きましょ――っ!?」

 
 突然大気が震えるほどの魔力が柳洞寺の方から感じられた。


 「これは……バトラーとギルガメッシュか?」


 「そのようですね。ヘラクレスの時は近すぎて感覚が麻痺していたようですが、

  今は強大な力をはっきりと感じます」


 そうね、あの時はまだ主従の誓いをする前だったわね。

 ……ってこんなこと考えている場合じゃないわね。


 「……行きましょう。英雄王のことはアイツに任せたんだから。

  私たちもやることやらなきゃね。

  ギルガメッシュとバトラー、どちらかが勝つ前に大聖杯を破壊しないと」
 

 そう、どちらもが高純度の魔力の塊のようなものだ。
 
 それが聖杯に注がれればこの世全ての悪が具現するのが早くなってしまうだろう。
 
 だからその前に慎二を倒し大聖杯を壊さなければならない。

 その事は皆理解しているようで私の発言に無言で頷き順番に大空洞へと繋がる穴へ入っていく。
 

 ……ちょっと士郎、先に行きなさいよ!

 私はスカートでしかも短いのよ!?

 少々、いや、かなり愚鈍な士郎を蹴飛ばしつつ私も暗い穴の中へと入っていった。

  

 side by ライダー


 「……セイバー、少しいいですか?」

 
 私は前を歩くリンとシロウに聞こえないように小声でセイバーに話しかけた。


 「何か? ライダー」

 
 怪訝そうに、それでいて威厳を損なうことなくセイバーが私の方を向いて聞き返してきた。


 「このような事を貴女に頼むのは、私としても不本意なのですが……。

  私にもしもの事があったらサクラのことをお願いしても構いませんか?」


 するとキョトンっと先程までとは全く雰囲気の違う表情で首を傾げる。

 ……それは可愛いと言う言葉と無縁の私に対するあてつけだろうか?
 
 か、可愛いと言うことは認めますがそれでバトラーを誘惑したなら即座に石にしますよ!?


 「……何か急に寒気を感じましたが……気のせいでしょうか?

  まあそれは良いとして、サクラのことなら任されましょう。

  と言っても私がでしゃばらなくてもシロウもリンもきっとサクラの事を見てくれます」


 そう言って鮮やかに微笑む騎士王。

 ……全く、同じ女性として羨ましいほどの笑顔ですね。


 「では私からも頼みたい。シロウは無茶が過ぎる。

  出来ればそれと無く見ていてくれると助かります」


 「解かりました。私も短期間ながら共に生活して彼がどれ程無茶が過ぎるかは理解したつもりです」


 エミヤシロウ。
 
 出来る事ならこの戦いからも無事にサクラの元へ戻って欲しい。

 彼が居なくなったなら、サクラは笑えなくなる。

 
 「なあ遠坂、後ろで当事者のオレ抜きで話が進んでる気がするんだが」


 おや、どうやら前に居る二人にも話が聞こえていたようですね。


 「うーん、良いんじゃない?

  士郎が無茶をするのは本当の事だし」


 「……改めて言われるとちょっとショックだな。

  オレってそんなに無茶するか?」


 「「「ええ、もちろん」」」


 私とセイバー、それにリンまでもが頷いたため流石にシロウも落ち込んでいる。

 その光景を見てまたあの家で日常を過ごしたいと切に願う。

 今まさに戦場へ向かおうとしているのに我ながら暢気だとは思うが。


 「はぁ……ん?

  遠坂、何か広いとこに出たぞ」


 溜息をつきながらも歩いていたシロウの足が止まり前を示す。


 「へぇ、洞窟の中にしてはかなりの広さね」

 
 確かに、ここなら学校とやらの運動場の半分ほど入りそうだ。


 「カカッ! 喜んでもらえたようじゃな」


 !?

 この声は……!


 「慎二!?」


 シロウの驚愕の声が洞窟の中で木霊した。

 セイバーは既に抜剣し不可視の剣を構えて臨戦状態だ。

 かく言う私も既にバトラーから渡されていた短刀を構えシンジを見据えている。
 
 しかし、彼は本当にあのシンジなのだろうか?

 私が疑問を抱き口を開こうとした時、逸早くリンが呻くように呟いた。


 「間桐、臓硯……!」


 「察しが良いのう、流石は遠坂の娘よ」

 
 アレが……あの醜悪な老人だと言うのですか!?

 しかし、一体どうやって……?

 
 「得心がいかぬといったところか?

  なに、ワシもよもや孫の身体を使う事になるとは思ってもいなかったわい。

  桜の中の本体はどうやったのか殺されてしまったのでのう……。

  試験的に慎二の身体にも刻印蟲を入れておいて命拾いしたわ」


 ……こ、これが世に言うお約束と言うやつでしょうか?

 つらつらと聞いても居ない身の上話を始めるマトウゾウゲン。

 その話はなおも続くようだ。


 「カカッ! しかししかし、慎二の身体も捨てたものではない。
  
  聖杯との繋がりは桜以上よ……まあちぃとばかり強すぎたんじゃがな」

 
 「長話はそれぐらいにしてもらおうかしら?

  私達はお年寄りの実のない話を聞いているほど暇じゃないのよ」


 リン、目上の方に対して失礼ですよ?

 まああの老人になら構わないでしょうが。


 「……まあよい。

  さて、セイバーにライダーよ。其方から来てくれたとは好都合じゃ。

  その身を聖杯に捧げ我が悲願の礎となるが良い!」


 何を馬鹿なことを、人が英霊に叶うとでも……。

 ……?

 アレは……影が蠢いている!?

 
 「シロウ、リン。下がってください。
  
  何か……嫌な予感がします」


 セイバーには確か直感技能があるのでしたね。

 ならばその予感、現実となるかもしれませんね。


 「紹介しようかのう、我が忠実なる僕――


  ――ヘラクレスじゃ」


 「■■■■ーーー!!!」


 なっ!?

 アレがヘラクレス……?

 刻印の如き黒の文様が体中を覆い、理性などとは無縁の雄叫びを上げる目の前の存在が?


 「ば、馬鹿げてるわ!

  アーチャーはギルガメッシュにやられた筈でしょう!?」


 「そうでもなかろう?

  聖杯と繋がりし存在たるワシじゃ。

  聖杯の中に注がれし英霊を一時的に使役するのはあながち無理な事ではない」


 ……ならば何故他のサーヴァントを出さない?

 少なくとも柳洞寺にいたキャスターとアサシンは聖杯の中にいる筈だ。


 「だったら他のサーヴァントは出さないのか?

  こっちはセイバーとライダーの二人。

  そっちはアー……ヘラクレスが一人だろう?」

 
 アーチャーと言いかけて言い直しましたか。

 確かにアレはアーチャーと言うよりバーサーカーと言った方が合っていますしね。

 ただまあ、シロウが他のサーヴァントのことを指摘するとは意外でしたが……。


 「カカ、ワシでもヘラクレス一体を御すので一苦労よ。

  じゃがまあ、御主ら二人程度なら十分じゃとワシは思うておるよ。

  ――さて、ワシは最後の締めを行わねば成らぬでな、そろそろ行かせてもらおう。
 
  ヘラクレス、セイバーとライダーを確実に仕留めるのだぞ?」 

 
 そう言って踵を返し洞窟の奥へと悠々と歩いていくマトウゾウゲン。

 
 「……セイバー、リンとシロウを連れてアレを追いなさい」


 それがベストだろう。

 私とセイバーの二人係で戦っている間にリンとシロウを行かせることも出来る。

 しかしそれでは奥に居るだろう九番目に対抗する手段がない。
 
 ならば、私一人で時間稼ぎをすれば良い。


 「ま、待ちなさいよ! 

  ライダー、アレはアンタ一人でどうにかなるようなものじゃないわよ!?」 


 「その通りです、それに……アレが私を見逃すとは思えない」


 セイバーは眼光鋭くヘラクレスを見据えている。

 此方が隙を見せればアレは容赦なく襲い掛かってくると直感しているのだろう。

 ふう、確かに見逃してくれそうにありませんね。


 「リン、シロウ。貴方達の役割が多くなってしまいますがよろしいですか?」


 「おう、任せとけ」


 「大船に乗ったつもりでいてくれて構わないわよ?」


 ふっ、頼もしいですね。

 
 「来ます!」


 「■■■■■■■■ーーー!!!」


 大地を揺るがすほどの雄叫びを上げて巨体が迫る。

 くっ、あの質量で何て速さだろうか!?

 
 「はぁっ!」


 裂帛の気合を込めたセイバーの一撃がその大地を割るだろう一振りを受け止める。
 
 私は生じた隙に自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)を外しキュベレイを開放する。

 最近かけていた眼鏡は桜に預けてきた。

 彼からの贈り物を壊すわけにはいきませんから。

 
 「遠坂! 行くぞ!」


 「解かってるわよ! セイバー! ライダー!

  死ぬんじゃないわよ!」


 シロウとリンが走り出すと同時に魔眼でヘラクレスだけを捉えて重圧をかける。

 いかなヘラクレスと言えど、セイバーにすら重圧をかけた私の魔眼だ。

 狂化しようが免れる事は出来まい。

 ……ただ、その周りをうろちょろするセイバーを視界に入れないように心を配るのは骨が折れますね。


 …………さて、私とは違い神の一柱として称えられた英霊とどう戦いましょうか?
 
 
 
 side by ハサン


 今私がいるのは話を聞く所に寄れば大空洞(テンノサカズキ)と呼ばれし魔法陣。

 聖杯戦争の始まりの場所にして大聖杯が治められし魔力に満ちた空間。

 そこにはまるで泥の如き呪いの中で胎児の如くたゆとうこの世全ての悪(アンリ・マユ)がいる。

 この存在がシンジ殿を解き放つのか……。

 それを見上げていると魔術師殿が戻ってきた。


 「どうだったか? 魔術師殿」


 「カカッ、問題ないじゃろう。

  セイバーもライダーものこのことやってきおったわ」


 「上で英雄王と執事が戦っているようだが?」


 「それはそれで見物じゃろうな。

  どちらが勝つにしろ高純度の魔力が聖杯に注がれる事になるからのう」


 計画は順調と言う事か。

 
 「ではこの後は?」


 「そろそろ大聖杯から生れ落ちるアンリ・マユを御す準備をしなければな。

  カカカ、いよいよじゃ、いよいよワシの願いが叶う!」

 
 ……醜い。

 何故これ程までに己が欲望に染まりし者は醜いのだろうか?

 いや、シンジ殿もその点、欲望に染まるということでは魔術師殿と同じだ。

 なのに此処まで違いがあるのは何故だ?


 「じゃがその前に、そろそろ慎二を消さねばのう。
 
  これ以上は如何に孫であろうと邪魔でしかない」


 ほう、シンジ殿を消すと?


 「仕方ないことじゃ、これも間桐が悲願のためよ」


 先ほど己の願いの為と聞いたのは私の空耳だろうか?

 
 「魔術師殿、シンジ殿を本気で消す気なのか?」


 「なんじゃ? 情でも移ったか?

  そんなものは捨て置け、どの道既に壊れておるでな、消しても問題なかろう?」


 その通りだ。

 消しても問題ない。

 私の意志に従い右手の束縛が解かれる。

 そして、我が悪魔の右腕は対象の心臓の偶像を作り上げ、

 
 「では消すと――「妄想心音」――ガァ!?」

 
 その小さきものを躊躇いなく握りつぶした。


 「ハ、サン……貴様、裏切るか!?」

 
 シンジ殿と同じ顔が苦悶の表情を浮かべるが何も思わない。

 外見が同じでも中身が違うのだ、当然のことか。


 「その通りだ。私は裏切り者の烙印を押される事になるだろう」


 ……主を裏切ったと言うのに何の感慨も湧かない。

 ふっ、既に私も壊れていると言う事か。


 「くぅ……あ、後もう少し、と言うところで……」


 倒れ伏しそうになる"シンジ殿"の身体を受け止める。

 
 その顔は先ほどの苦悶の表情でなくとても穏やかな寝顔だ。
 

 ……さあ、もうすぐ終焉だシンジ殿。


 如何なる結末になろうとも私は貴方の側にいるだろう。
 

 だから、それまでの短き時を安らかに眠ると良い。

 




 続く……のか?



 side by エミヤ

 
 常日頃は意識して柔らかくしている視線を鷹の如く鋭くする。

 そして、直立し眼前に悠然と佇む金色の英霊を直視してオレは開戦を告げた。


 「いくぞ、ギルガメッシュ。
  
  全てを出し切る準備は万全か?」


 「ふん、何時でも掛かってくるが良い。

  貴様の持ちうる全てを……悉く踏み潰してくれよう!」


 ならば、言葉は要るまい。

 視線の先には右手を軽く上げその背後の"蔵"より無数の宝具を引き出す金色の姿。

 平時であれば、否。
 
 アレは戦場や乱世などにこそ相応しい大輪の薔薇。

 この世界では女性体であるとは言えギルガメッシュを美しいと思う日がこようとはな……。 
 

 ……さて、他のことを考えている暇などないか。

 彼の者はアーチャー。

 正にそのクラスこそ相応しいだろう。

 今まさに無数の宝具がオレを貫かんと射られるのだから。
 

 「掛かってこないのなら我からゆくぞ。簡単に逝って我を興醒めさせるなよ?」


 パチンっと言う軽快な音と共に幻想が迫る。

 その悉くを直視し、オレは丘より同様の幻想を引き出し瞬時に射る。

 それは二度とないだろう幻想と幻想の闘い。

 死の槍は死の槍を持って無に帰し、呪いの剣は同一の呪いを持った剣で相殺される。

 聖剣の原典となりし彼の剣にはかつて自分が投影した黄金の剣をぶつける。

 矢には矢を、槍には槍を、剣には剣を。

 打ち砕かれた幻想はゆうに数十を超え数百の域に達する。

 それでもなお、この闘いは終わらない。

 ギルガメッシュの放つ宝具にはオレが知らないものもあった。

 だが、ソレも瞬時に錬鉄され丘に突き刺さる。

 この闘いをこのまま続けるのならオレに負けはない。

 ギルガメッシュは過去においてもこのような闘いをした経験などありはしないだろう。

 だが、オレは違う。

 既にギルガメッシュと言う存在を知っていた。

 そして、過去に何度か同じような戦闘を経験しているのだ。

 ……オレが他のどの英霊にも勝る点があるとしたらそれは経験だろう。

 記録ではなく記憶としてリアルに更新され続ける経験。

 その経験から導き出す最適な戦闘法と武具。

 
 「じり貧だな英雄王よ。このまま潰えるか?」


 「ふん、流石は我が認めただけの事はある。
 
  貴様にかかっては真作も贋作もない……か。
  
  その全てが同等ならば真偽を論ずることに意味など有りはしないからな」


 素直な賞賛の声に多少驚いた。

 これが"あの"英雄王だったらどうだろうか?

 ……ふざけるな! 雑種! でお終いか?

 
 「だが、余興は余興。

  この程度で我の器を測れたと……奢るでないわ!」


 その瞬間、先ほどまでを倍する数の矢が迫る。

 当然それを迎撃せんと丘より同様の武具を引き出したオレの目に剣を構えたギルガメッシュの姿が映る。

 あの剣、乖離剣ではない。

 その事に安堵したのも束の間、

 それを構えたギルガメッシュは何を考えたのかオレとの間合いを詰めた。

 これにはオレも本気で驚いた。

 英雄王は担い手ではないためその能力を引き出しきれてない。

 加えて奴自身が達人と言うわけでもない。

 更に言えば自身の力に対する驕りから遠坂と同様にポカが多い。

 それが……この時点までの英雄王に対する評価だった。
 

 だが、間合いを詰めてオレの双剣と打ち合うギルガメッシュにそれが間違いだと思い知らされた。

 近距離で剣をぶつけ合っていると言うのに絶えず打ち出される宝具の矢。

 もしも彼女が片手でなければ不意を突かれたオレは致命的なダメージを負っていたかもしれない。

 それほど英雄王の剣技は見事なものだ。

 そして、数十合程打ち合った後ギルガメッシュの方が退いた。

 
 「ふん、どうしたバトラー?

  よもや弓兵だからと言って剣を使えないとでも高を括ったか?」


 その顔に満面の笑みを浮かべ英雄王は剣を下げる。
 
 オレを一瞬とは言え出し抜けたことが嬉しいのだろう。
 

 「……正直に言えば予想外だった。

  私もまだまだ甘いな……」


 過去の幻影に囚われ過ぎたか……。
 
 目の前の彼女と嘗ての英雄王は別ものと考えた方が良さそうだ。

 まあ、あの英雄王とではここまで闘いを楽しむと言ったことは出来なかっただろう。

 そもそもギルガメッシュを倒すことがこの戦闘の目的ではない。

 オレの役目は時間を稼ぐこと、大聖杯へと向かった何れかがそれを破壊するまでの踊りの相手。

 ならば多少羽目を外しても構わんだろう。
 
 なにより――オレ自身が眼前のギルガメッシュとの闘いを望んでいる。

 
 「ふっ、ギルガメッシュよ。君との闘いは心躍らされる。

  先程驚かされた礼と言っては何だが、今度は此方から行かせてもらうぞ?」


 「ほう、我に対し許可を求めるか……中々良い心がけだな。うむ、良かろう。

  全身全霊を持って我に見せてみよ」


 くっ――――、何処までも王と言うことか……。

 ならば、期待に沿おうではないか!
 
 
 「I am the bone of my sword」



 side by セイバー


 「どきなさい! セイバー!」


 その怒声に咄嗟に反応して横に跳ぶ。

 すると、私が先程までいた地点を閃光が通り過ぎヘラクレスへと突き刺さる。

 これは彼から渡されたライダーの短刀の力か?


 「くっ、無傷ですか……」 


 ライダーがその独特の瞳を細め苦々しく呟き、一瞬後には先程までと同様に高速で動き出す。

 私も一所に留まらずに素早く移動する。

 この時ライダーの視界を遮らないように動く事を意識しなければならないのは疲れる。


 「■■■■ーーーー!!!」

 
 雄叫びを上げてヘラクレスが私に迫る。

 流石にライダー程の速さで動く事が出来ないため私が目標になることは多い。

 私は足を止め万全の体制で挑んだと同時に、その剣と呼ぶには無骨な鉄塊が叩きつけられる。

 それを渾身の力で弾き、返す刃で手首を切りつけるがまるで鉄に当たったかの様に弾かれる。

 ……やはりヘラクレスにダメージを与えるにはそれ相応のモノでなければなりませんか。

 その点で考えるならば風王結界を纏わせたままでは無理だ。

 また、鞘から抜き放ったとて真名を開放せねばこの英霊に対しては届くまい。

 これはライダーの方とて同じだ。

 バトラーから渡された短刀は確かに宝具ではあるがヘラクレス相手には役不足だ。

 となれば騎英の手綱(ベルレフォーン)しかない。

 だが……どちらも発動までのタイムラグがあり、また避けられた場合リスクが高すぎる。


 「はぁっ!」


 思考の片隅で何か手はないかと思案しながらも、

 大部分は死をもたらす鉄塊を弾きかわす事に費やされている。

 結論は出ない。しかしこのまま時間を無駄にする訳にもいかない。

 これは、彼女に頼るしかありませんか……。


 「ライダー!」


 私の呼びかけに彼女は即座に反応した。

 それまでとは違う獲物を狙う蛇の如き速さでヘラクレスの首下を短刀で穿つ。

 ヘラクレスはその行動に優先順位を変えライダーへと迫る。

 どうやら理性の大半どころか全てをなくしているようでその思考は単純だ。

 しかしそれだけに一撃一撃が馬鹿げた威力なのは頂けないが……。

 ライダーでは一撃で現界できなくなってしまう。

 否、どんなサーヴァントでもあの攻撃を受けたなら致命傷となるだろう。

 そんな呆れるほどの危険を伴う囮を彼女がしている間に準備をする。

 風王結界を外し本来の姿を見せた我が聖剣に魔力を集中させる。

 私の宝具は如何にバトラーからのバックアップがあるとは言え何発も撃てまい。

 それにヘラクレスに同じ攻撃が効くとは到底思えない。

 ならば、一撃必殺!

 そう心に決め、戦友たるライダーの名前を叫んだ。


 「ライダーーーーーーー!!」


 「撃ちなさいセイバー! 私は寸前で避けます!」
 

 確かに、今のヘラクレスにはただ撃つだけでは避けられる。

 ライダーは私が撃つまで囮を続ける気なのだろう。

 ならばその心意気に答えましょう!


 「約束された(エクス)――――」


 魔力の高まりにだろうか?

 ヘラクレスが反応し此方を向くが、遅い!


 「勝利の剣(カリバー)――――!」


 今までに何度と無く私を勝利に導いた太陽の如き閃光が暗い洞窟を照らす。

 
 その、照らされ明るくなった私の視界は――――



 ――――迫る巨大な鉄塊で埋め尽くされていた。





 続く……のか?



 side by 士郎


 セイバーとライダーにヘラクレスを任せた場所からどれくらい走っただろうか?

 かなり走った気もするしそうでもない気もする。

 緊張のしすぎで頭がどうかしたのかもしれない。 


 「くそっ! 何でこんなに広いんだよ!?」


 「馬鹿っ! 愚痴言っている余裕があるならもっと速く走りなさいよ!」


 ぬ、ちょっとは気遣ってくれても罰は当たらないぞ?

 などと心の中で言っていると前方に明かりが見える。

 
 「……どうやらついたみたいね。

  良い、士郎? 目標は大聖杯の破壊よ。

  他の事は極力無視しなさい」


 「ハサンって名前のサーヴァントはどうするんだ?」

 
 相手は恐らくアサシンのサーヴァント、故に戦闘には特化していない……筈。

 以前あった時も絶望的な差は感じなかったことからオレでも足止めは出来る……と思う。
 

 「……私がやるわ」


 なっ!?

 いくらなんでも無茶だろ!?

 サーヴァントに魔術師は勝てないって口を酸っぱくしてオレに言ったのは遠坂じゃないか!?


 「反論は聞かないわよ。これがベストで他に手は無いんだから」

  
 ベストで他に手は無いって……。

 まあ大聖杯の破壊をオレの投影に任せるってことか。

 出来るのか……オレに? 

 確かにセイバーの聖剣を投影できたならある程度のものは破壊できるだろうけど。

 ……頭の中で聖剣を思い浮かべる。

 実際に目の前に見ているかのように寸分違わぬものがイメージされる。

 見た目だけではなくその奥の基本骨子や概念、経験に至るまでを解析しイメージをより強固にする。

 ……なんとか、なんとか一回だけならいけそうだ。

 これもバトラーの特訓のおかげか。


 ……?

 いきなり視界が無数の剣郡で埋め尽くされた。

 ここは、丘か?

 まるで剣が墓標の如く無限に突き刺さった丘。

 その中心、そこに背中を見せた赤い外套の……。

 
 「士郎、ぼぉっとしてるんじゃないわよ?」


 遠坂の声で突然現実に戻された。

 そんなオレの目の前には洞窟の中にあると言うには余りに広すぎる空間が横たわっていた。

 ……広すぎだろ、と寸前見ていた光景を記憶の隅にやって思う。

 って、アレは……十年前の時の黒い太陽!?

 
 「遠坂、アレって……」


 「多分アンタの思ってる通りよ。アレがアンリ・マユね」


 じゃああの時、地獄のような光景の中で一際目立ったアレがそうだったって言うのか?

 頭の中を取りとめも無い事が浮かんでは消える。

 妙に冷静になっている自分がいる。

 まるで心が鉄になったかのような。

 そんな中。


 「やあ衛宮。遅かったじゃないか。

  ……相変らずとろくさいな」


 何時もの人を馬鹿にしたような口調でにこやかにオレ達を見下ろしている慎二の姿が視界に入る。

 コイツは……絶対に慎二だよな?

 どう言うことだよ。


 「ど、どう言うこと!?

  アイツは、間桐臓硯はどうしたのよ!?」


 「あー、爺の事?

  僕を消そうとしたからハサンが殺しちゃったよ」
 

 何でもない、と言った具合に肩を竦めながら慎二はそう言った。

 とりあえず疑問は一つ解消されたがオレの中で新たに疑問が生まれる。

 
 「なあ慎二、お前少し前に会った時オレのことを解からなかっただろ?

  なのに何で今のお前はオレのことが解かるんだ?」
 

 「それだけ僕が聖杯として安定してきたってことさ。

  後、そうだな……英霊一体か二体、それで魔力は事足りるよ」


 後、一体か二体……ヘラクレスは除外するとして英雄王とバトラー。

 それにセイバー、ライダー。

 そしてハサンと呼ばれたサーヴァントの中から一、二体。

 
 「アンリ・マユが具現すれば多分僕と言う一個の意思は消えるだろうね。

  アレは人にどうこう出来る様なモノじゃないし」


 先ほどと同様に肩を竦め、苦笑しつつそんなことを言った。

 ……慎二の意思が消える?

 それは死ぬってことじゃないか。
 
 なのに、何でそんな顔が出来るんだ?

 
 「……慎二、アンタはそれで良いの?」


 「ん……? あぁーとお、さか? そう、遠坂だ。

  良いとか悪いとかじゃないだろ?

  そうなるだけなんだから」


 一瞬遠坂が誰かを解らずに頭を捻っていたがすぐに思い出したようだ。

 だが、帰ってきた言葉はおおよそ慎二の台詞とは思えないようなものだった。 
   
 一体この聖杯戦争の間に慎二に何があったんだ?


 「さぁ、そろそろ始めようか?

  このまま話を続けても僕は構わないんだけどね。

  それだとお前らが困るだろ?」


 いやさマジで何があった?

 何か悪いものでも食ったのか?


 「……随分と気前が良いのね。

  以前のアンタからは想像も出来ないわ」


 「そうかな? 僕は元々こんな性格だったと思うけど?」


 まあ確かに慎二は女の子には気前が良かったな。 

 
 「さてと……ハサン、悪いけど遠坂と遊んでてよ。

  僕は衛宮と遊ぶから」


 「御意」


 慎二の後ろから突然現れた黒い影。

 
 「……士郎、慎二の方は任せたわよ?

  向こうも私にサーヴァントをぶつけてくるみたいだし」


 サーヴァントを前に緊張しているだろうにはっきりとした、名前の通り凛とした声で任された。

 バトラーじゃないけど……任されたからには成し遂げて見せるさ。


 「ああ、そっちも頑張れよ」


 そう言って両手に双剣を投影して走り出した。

  
 ただ、目の前の敵を打倒するために。



 side by 凛


 喉が渇く。

 瞬きすら出来ない緊張から心が壊れそうだ。

 目の前に佇む黒き存在、サーヴァント。

 聖杯戦争という限られた条件によって魔術師が呼び出すことが出来る最高位の使い魔。
 
 "魔術師"では勝つことの出来ない存在。

 はたして私にコイツを足止めすることが出来るだろうか?

 ……いいえ、そんなことは考える必要なんて無い。
 
 出来るかどうかなんかじゃなく、やるんだから!
 

 決意を新たに軽く腰を下げ、右側を相手に向ける形で構える。

 父さんから言峰、そして私へと受け継がれた独特の格闘術の基本の構えだ。

 私がその気になれば魔力の助けなしでもそこら辺の格闘技の選手ぐらいになら勝てる。

 そして今の私は通常の魔力による強化に加えて十年間で用意した宝石でさらに強化している。

 普通の人から見れば十分化け物と言えるだろう。

 だが、目の前の存在はそれですら届かないかもしれない本当の化け物だ。 

 ……確かに目の前のサーヴァントからはセイバーやヘラクレス程の脅威は感じない。

 それでも、勝てると言い切れない。

 英霊と呼ばれる存在には切り札である宝具があるからだ。

 それの能力次第では圧倒的に実力で勝っていようと一瞬で勝敗が覆りかねないのだ。

 私は油断無くサーヴァント、ハサンを凝視する。

 どうやらハサンの方から仕掛けてくる気は無さそうだ。

 なら出来る限り作戦を練って――

 
 「凛、手伝おうか?」


 ――と、いきなり声をかけられ思考を中断させられた。

 うっさいわね。

 私は今必死なの!

 話かけんじゃないわよ!

 ……全く、アンタは教会でノホホンとマーボーでも食べてなさいよ!

 
 「ほう。では手助けはいらんと言うことか。

  私としてはさっさとそこのサーヴァントを倒したいんだが」


 まだぶつくさ言うわけ!?


 「綺礼、うっとしいわよ!

  少しは聖職者らしく静か……って、綺礼!?

  何でアンタがここにいるのよ!?」


 「聖杯戦争の監視者として結果を間近で見届けようと思うのは当然だろう?

  それに、聖職者の一人として新たな命の誕生を祝福しなければな」

 
 新たな命……?

 !?

 アンリマユ、あれの誕生を祝福しようって言うの!?

 ……まあコイツらしいって言えばらしいんだけど。 


 「そう……で、助けてくれるって言うの?」


 「ん? もちろんだ。師と弟子は強敵を前に協力し合って戦うものだろう?

  ……それにしてもどう言う事だ?

  お前には聖杯戦争用の服を送っただろう?」


 「誰があんな魔女っ子服を着るって言うのよ!?」


 フリルがこれでもかと言うほどついたウェディングドレスに似た純白の衣装を思い出して突っ込んだ。

 ふぅ……どこまで本気なんだか。

 まあ、ハサンを倒したいと言うのは解る。

 コイツがアンリマユの祝福をすると言うのならさっさと英霊をもう一体か二体倒しちゃえば良い訳だし。


 「良いわ、一時的だけど協力しましょう」


 「良い心がけだ。君の亡き父親も草葉の陰で喜んでいることだろう」


 あの薄ら寒い笑みを浮かべながらそんなことを言う綺礼。

 本気でコイツが何考えてるのか解らないわ。

 父さんもどうしてこんなやつを弟子にしたんだろう?

 
 「さて、では行くとするか」


 そう言いながら懐に手を入れ白いレンゲらしきものを……。

 ……って!

 
 「ちょっ、綺礼!?」


 そんなもんで戦う気!?


 「ん? どうした?」


 アレ?

 私がもう一度見た綺礼の手には刀身のない剣が数本握られていた。

 確か黒剣と言う教会の代行者などが使う武器だったと記憶している。

 ……となるとさっきのは幻覚だったのだろうか?

 
 「呆けるのは後にしたらどうだ? 今は目の前の英霊をどうにかするかを考えろ」


 アンタのせいでしょうが!

 っとに……でもまあ、綺礼がいれば何とかギリギリのところで足止めが出来そうだ。

 ……綺礼の思惑はともかくとして。

 
 ガキン!
 

 と、いきなり鋭い音を立てて短刀が地面に落ちる。

 くっ、私は馬鹿か!

 いくら何もしてこなかったからって注意を怠るなんて!

 
 「……綺礼、一応ありがとう」

 
 黒剣を指の間に数本挟み、ハサンを凝視しながら佇む綺礼に礼を言っておく。


 「礼ならもっと素直に言え。いや、礼を言うぐらいなら私が送った服を着ろ」


 まだ言うか!

 この戦いが終わったら一度きっちり話をつけておく必要があるわね。

 心の中で抹殺リストの上位に綺礼の名前を改めて書き直す。


 さて、と。


 「仮にも英霊なんだし、二対一だからって卑怯なんて言わないでしょ?」


 そもそも英霊の存在自体が卑怯なのだ。

 それに、私の目的はハサンを倒すことじゃない。


 「好きにすると良い、魔術師メイガス。

  尤も、お前と違い私は何も気にすることなく攻撃をさせてもらうが」


 こっちの考えはお見通しって事か。

 でも、慎二はコイツに遊んでるようにって言った。

 なら希望的観測ではあるが本気を出しはしない……と思いたい。


 「凛、後衛は任せたぞ?」

 
 突然綺礼が私の横を走りすぎてハサンへと迫る。

 その瞬間、遠くからペシペシ牽制して場を濁すと言う私の作戦は瓦解した。

 ……まあこいつと共闘して思い通りにいくなんて鼻から思ってなかったけどね。

 ガンドを撃つ為に魔力を指先に集中させつつ嘆息する。

 何で私の周りの男ってこんなんばっかりなのだろうか?







 続く……のか?


 side by ギルガメッシュ


 「I am the bone of my sword身体は剣で出来ている」


 我を目前にしていると言うのに、あろうことかバトラーがその鷹の目を閉じる。

 そして、その口から絶対の意思を込めた言葉が紡がれる。

 これは……詠唱? と言うことは魔術……。

 それにこの言語は確か、この時代の英語とやら。

 意味は……身体は剣によって構成されている……か?


 「Steel is my body心は鉄で,and fire is my blood血潮は鋼」

 「I habe created over a thousand blades幾たびの世界を越えて不敗」


 おかしい。

 この長さで世界に働きかけんだと?

 我は魔術を嗜みはしないが、その異常性ははっきりと伝わってくる。


 「Unknown to Deathただの一度も敗走は無く Nor known to Lifeただの一度の勝利も無し」


 ふむ……この男のことだ、我ですら思いつかない突飛な行動をするのかも知れぬな。 


 「Have withstood pain to create many weapons彼の者は一人 剣の丘にて剣を鍛つ」

 
 ……む、何だ?

 何時の間にか握っていた手を開けば、そこはジットリと汗ばんでいた。

 馬鹿な……この英雄王が緊張しているだと!?


 「Yet,those hands will never hold anything故にその在り方に意味はなく」

 
 ……改めて認めるべきか。

 我にとってこの英霊は、嘗ての唯一の友、エンキドゥと同等かそれ以上の存在だと。


 「So as I prayその身体は――unlimited blade works無限の剣で出来ていた」


 詠唱が終わったその瞬間、焔が走り世界が一変した。

 目に映る風景は今まで我とバトラーが居た筈の寺ではなく荒涼とした丘。

 そして、その地を彩るのは無限と言っても過言ではないほどの剣。

 これは…………固有結界……か。

 よもやこのような芸を目にするとは思わなかったな。


 「バトラー、これが貴様の切り札であることは解る。

  だが、流石の我にも理解しがたいモノがある……アレは何だ?」


 無限の剣の丘、そこまでは良い。

 これがバトラーにとっての"蔵"なのだろう。

 しかし、あの小山の如き異様な物体は何だ?


 「む、アレか?

  君から見て右から斬艦刀、断空剣、ディバインブレード……。

  人型の物体は魔を絶つ剣、デモンベインだ」


 未だ目を閉じたまま連なった山の如き剣郡や機械仕掛けの巨人の名を説明しだす。

 よもや、何処に何があるのか記憶しているのか?

 我は蔵の中のものを全ては把握できていないと言うのに……。

 
 「よもや……アレも貴様の無限の剣の内だとでも言うつもりか?」


 我も欲しいぞ。


 「外見だけの飾りでしかないがな。流石に中まで再現するには私の技能がまだ追いつかん」


 「……まあ良い。で?

  この地に我を招いて意味はあるのだろうな?」


 固有結界、確かに大層な能力だ。

 しかし、見たところ剣があるだけで先ほどまでと状況が変わっているようには思えん。

 元から武器が用意されている、その点では蔵から出さねばならない我より優位であると言える。
 
 しかし、そんなことは我も常時"王の財宝"を展開させておけば良いだけの話だ。

 ならば、固有結界の中でしかできないことがあると考えるのが妥当か……。


 「君が想像している通りだろう。

  私も世界から色々と制約を掛けられていてね。

  固有結界と言う私自身の領域を作り出さねば好き勝手できないのだよ」


 そう言った瞬間今まで閉じていた鷹の目が開かれる。
 
 その輝きに宿る殺気に気づくと同時に、我は地を蹴り上空へと跳ぶ。
 
 空中に展開した"王の財宝"より突き出た剣の柄に乗り眼下を見下ろす。

 するとそこには、先ほどまで我が立っていた場所を十数本の刃が貫いているのが見て取れる。

 そうか、ここは奴の心象風景たる固有結界。

 ならば、バトラーの意のままに何処からでも攻撃が可能と言うことか!

 
 「よく避けた。大抵の輩は不意の一撃を持って打倒できるのだがな。

  流石は英雄王と言ったところか」

 
 バトラーの賛辞を聞く……が、我とそこ等の木端を比べられても意味などあるはずがない。

 それに、我に対して不意をつくとは礼を欠いた行為ではないか!

 そのことを口に出そうとするが、そんな暇をバトラーは与えはしなかった。

 
 「だが……包囲は完了した。無限の剣牢から逃れられるか?」


 何時の間にか空に立つ我を中心に数え切れん程の剣が展開されている。

 そして、開いたまま掲げられていたバトラーの左手が閉じ、無限の剣郡が我へと迫る。

 ふん、全方位からの波状攻撃か。

 この一点においては我の"王の財宝"よりも使い勝手が良いと認めよう。


 だが――


 「エアよ」


 ――我が最強の剣であり盾であるエアを越えられるか?


 我の言を聞くと同時に、乖離剣エアが回転を始め膨大な風の渦を作り上げる。

 乖離剣、かつて世界を切り裂いた無名の剣。

 その本質は全てを薙ぎ払い壊し尽くす完全なる暴力。

 だが、使い方によっては強固な盾となりうる。

 それが、ただの余波だとしてもだ。
 

 「む、乖離剣エア……か」


 「ほう、この剣の名を知っているか。
  
  だが、解せんな。この剣の名は我がそう呼んでいるに過ぎんと言うのに」


 そのまま空に居てもよかったが、やはり大地に足をつけていたほうが良い。

 そう思い、足場にしていた剣の柄を蹴る。

 この男は先のような不意打ちを二度はしない。

 それを理解しているが故に無造作に着地する。


 「何、以前それを目にする機会があったというだけだ」


 む、この剣は我以外が持ちえるはずは無い。

 だとすると、我と会ったことがあると言うことか?

 ……いや、それは我ではない。

 我と同一の存在であろうと、今現在この場に居る我以外は我足りえぬ。

 
 「ふん、不愉快な話だな。
  
  ……まあ良い。それよりも、最後に一度だけ聞いておこう。
 
  我のモノになる気はないか?」


 「生憎と、私には既に主が居る。

  君のモノになることはできないな」


 予想通りの答えか。

 だが、奪ってこそ我のモノにしたと言う実感がある!
 

 「では、その身を砕き、その心をへし折って我のモノとしよう!」


 内なる昂ぶりを魔力に換え、エアへと送る。

 次の一撃は先ほどの余波とはわけが違うぞ?

 どうする、バトラー!


 「ふっ……ならば、全身全霊を持って応えるとしよう!」

 
 そう言ったバトラーの右手には剣が握られている。

 あれは……聖剣、彼の騎士王が持ちし星の一振り。

 なるほど、我のエアと打ち合えるだけのものだ。

 無限の剣の中にも聖剣のほかに選択肢はなかろう。

 ……だが!


 「天地乖離すエヌマ――――」

 
 その剣の力は十年前にしかと見極めている。

 その剣では……届きはしないぞ!
 

 「約束されたエクス――――」


 聖剣が背中の後ろに隠れるほど大きく振りかぶるバトラー。

 ぬ、どう言う事だ?

 この国では大上段と呼ばれる構えがあるが、それよりも深く振りかぶっている。

 アレでは振り上げることに無駄な労力がかかる。

 あの英霊がそんな無駄な動作をするわけがない。

 ……ふん、面白い。

 この期に及んでまだ隠し種があると言うことか。

 良いだろう。

 その悉くまで、我が王の剣で吹き飛ばしてくれる!


 「――――開闢の星エリシュ!」


 エアを振りぬくと同時に、破壊の渦が牙を向いてバトラーへと放たれる。

 そして、同時にバトラーが真名を開放しつつ"二振り"の星の剣を振り下ろす。
 

 「――――勝利の双剣カリバーズ!」


 エアの生み出す破壊の嵐と双剣より放たれた二条の光が一つとなって激突し、拮抗する。

 な、んだと?

 あろうことか、状況は五分。

 本来エアによって押し切られるはずが、逆に少しづつ押されている。

 くっ、よもやこのような手があるとは!

 これが、我の蔵との最大の違いと言うことか!

 聖剣の多重投影。

 本来有り得ぬ、幻想の二重奏。

 しかし……この程度で勝ったと驕るな!

 
 「バトラーーーー!」


 雄たけびと共に最大の魔力をエアへと送り、それに答えるようにエアの威力が増す。

 このまま、押し切ってくれるわ!


 ――が、そう思った矢先、突然身体が左にぶれた。

 意図した行動ではない為、集中が途切れる。

 その事態に唖然とし、左を向いて……理解した。

 ……そうか、今の我には左腕が無かったな。

 ふっ、よもや左腕がないことがここにきてこのような……。


 「ギルガメーーーッシュ!」


 その隙を見逃すはずも無く、バトラーの声が響く中。


 太陽の如き光の本流に飲み込まれた。



 side by エミヤ
  

 英雄王の乖離剣と、オレの双剣の激突はなんて事のないことで決着がついた。

 そう、彼女は己の身体が万全でないということを忘れていた。

 否、常時であれば片腕だろうと彼女が最強の英霊であることに疑いがあろうはずがない。

 しかし、如何に英雄王、如何に最高の神霊適正をもつ半神半人の英霊であろうと、

 世界を切り裂きし無銘の剣の最大出力を御し切れなかった。

 それだけだ。


 辺りを見渡せば、周りの風景は柳桐寺の境内に戻っている。

 固有結界、とりわけオレの"無限の剣製"は強固であるのだが、

 流石に乖離剣と二振りの聖剣の激突には耐えられなかった。

 
 そして、なおも辺りに視線を送っていると、金色の姿を発見する。

 まだ、息はあるな。

良かった。

 ……流石に英霊とはいえ女性を殺めるのは気が引ける。
 
 そう思いながら近づいていくと、英雄王はどうやら意識があるようだ。
 

 「く……は、腹立たしい奴だ……よもやエアをあのような手段で打ち破るとは……」


 「ふぅ、流石は英雄王。エアによって九割がた相殺されたとはいえ、

  双剣の一撃を受けて生き残るか……」


 エクスカリバーの二重投影。

 はっきり言えば賭けに近い行為。

 他の、制約のない世界でなら宝具を多重投影したことはある、

 現にこの世界でも"偽・螺旋剣3"や"干将莫耶"を多重投影していた。

 だが、制約の掛けられた状態での"エクスカリバー"クラスの神秘の多重投影は、

 長い執事生活でも二度目の試みだった。

 
 「……ふん、貴様の勝ちだ。さっさと止めを刺せ。

  我は情けを受けるつもりはない」


 ……何処までも王……か。

 セイバーとは別の意味で王なのだな。

 
 「ほう、それは潔いな。

  しかし、生殺与奪の権は私にある。

  この意味が解るな?」


 「貴様っ! 我に情けをかけ、誇りを貶すつもりか!?」


 「早とちりをするな。

  君の従僕にはなってやれんが、茶ぐらい共に飲んでやることはできるぞ?」


 オレの発言を理解できず唖然とする英雄王。
 
 む、その顔は何時もとは違い中々……。


 「……く、ふはははは。バトラー、改めて貴様を我のモノにしたくなった」


 やはり、自信満々と言った表情の方が映えるか。

 "あの"英雄王だと禍々しい限りだったが……。


 「それは光栄の至り。

  ふむ、そうだな。いつか君に仕えてみるのも一興か」


 この英雄王に仕えるのなら中々楽しめそうだ。

 ……もっとも、それ以上に苦労しそうだが。


 「その言、ゆめゆめ忘れるでないぞ?」


 「ああ、英霊エミヤの名にかけて誓おう」


 「エミヤ……? ふっ、そう言うことか」


 む、どうやら気づかれたか。

 まあ、名と投影魔術を知れば導き出されるのは当然か。

 しかし、ギルガメッシュがあの未熟者の名を覚えていたとはな。


 「さて、そろそろ起きたまえ」


 そう言って右腕を差し出す。


 ……が、オレの差し出した右腕を掴もうとした彼女の手が止まった。

 
 「くっ――! この、大喰らいの悪食め!

  我すらもその身に取り込むつもりか!」


 ギルガメッシュの左胸。

 そこに先ほどまでは存在しなかった黒い穴がある。

 これは……アンリ・マユか……!?   

 オレが驚愕している間にも、黒い穴は広がりギルガメッシュを飲み込んでいく。


 「ギルガメッシュ!」

 
 オレが咄嗟に伸ばした右腕でギルガメッシュの腕を掴む。

 くっ!

 だが、徐々に穴に引きずり込まれ、右腕に焼けるような痛みが走る。

 それは呪い。

 人類全てを呪い尽くし、殺し尽くす漆黒の泥。


 しかし、如何にこの身が霊体であろうと、この身が黒く染まることは有り得ない。

 何故なら、遥か昔。

 その呪いに打ち勝っているのだから!

 
 「ぬぁああああーーーー!」


 残された魔力をつぎ込み、穴からギルガメッシュごと右腕を引き抜く。


 「――っ! たわけ、離さぬか!

  このままでは貴様も喰われるぞ!」


 胸から上の部分だけでも穴から引き出したが、その身体の所々が溶けている。

 しかし、それでもなお、その姿は神々しく……美しかった。

 
 「馬鹿を言え!

  女性一人助けられず、執事を名乗れるものか!」


 「――っ、そうか。だからこそ我は惹かれたか。

  くく……いや、中々に愉しかったぞ。

  ではなエミヤ。……約定、違えることは許さんぞ?」


 その言葉を最後に、黄金の騎士はオレの手を振り払い、深遠の闇へと沈んでいった。

 その顔が、口元に皮肉げな笑みを作ったその顔が、誇らしげな子供のようで……。


 「ギル、ガメッシュ……」


 彼女の手を離してしまった右手を握り締める。

 ……何度目だろう。

 救おうとした命がこの手から零れていったのは。

 その度に思う。

 ……もしも、オレが正義の味方だったとしたら彼らを救えたのだろうかと。

 そんな、意味のないことを考えていると、ある物が目に映った。

 乖離剣、今しがた消えた英雄王の剣を拾う。


 「…………」


 ざっ、と音を立て、赤い外套を翻して歩き出す。

 乖離剣はその一瞬前に、主がいなくなったためか露と消えた。

 それはすなわち、完全に英雄王が聖杯に取り込まれたということだろう。

 ならば、遠からずアンリ・マユが誕生する。

 そうなれば……執事としてではなく、守護者として戦うことになる。

 急ぐか……。


 早足で柳桐寺の門まで来て、急いでいると言うのに足が止まった。


 「ギルガメッシュ。いつか、必ず我が剣を捧げよう」


 振り返ることなく、消え去った彼の王に告げ、新たな戦場へと向かう。

 
 さて、遠坂の元へ赴くまでに常のオレに戻っていないといけない。
  
 あの少女は、存外に聡い。

 心優しき主に心配させるなど、執事にあるまじき行為だ……。
 
  





 続く……のか?

 


 side by ライダー


 「約束された勝利の剣エクスカリバー!」


 セイバーの宝具が真名によって開放される。

 勝った。

 一瞬早くその場から離脱した私の思考にその言葉が横切る。
 
 あの聖剣の一撃にはいくらギリシャの大英雄と言えど跡形も残らないだろう。

 一度あの宝具と真っ向からぶつかった事があるが、後から考えれば冷や汗がでる。

 ランクA+とA++の差、それは覆しようが無いほどの差だったのだから。

 あの時、バトラーが間に入ってくれなければ今頃私は夜空のお星様になっているところだ。


 ……だが、勝利を確信した私が次の瞬間目にしたのは――


 ――太陽の如き輝きに身を焼きながらも止まらない巨人の姿だった。


 「……っ! セイバー、避けなさい!」


 私は知らず知らずのうちに叫んでいた。

 同時に、バトラーから渡された短剣で己の首をかき切る。

 血が陣を組み、ペガサスを召喚しようとするが……遅い!

 私は焦りながらセイバーとヘラクレスを見る。

 セイバーの顔、それは驚きに彩られその動きは止まってしまっている。

 ……当然だ、宝具の開放は英霊にとって文字通り『必殺』なのだ。

 セイバーも、まさかヘラクレスが剣を斜めに構え、突っ込んでくるとは思いもしなかっただろう。

 ……驚嘆すべきは、その剣の頑強さと、知性を失ってなお消えぬ戦闘の才だ。

 
 そうこうしている間に、ペガサスが召喚される。

 しかし、私が宝具を使う前に、ヘラクレスの剣がセイバーに振り下ろされる。

 くっ!

 間に合わない!

 私は、一瞬後に小柄で華奢な少女が潰される光景を想像してしまい思わず目を瞑りそうになる。

 っ! 私は馬鹿ですか!

 目を瞑るなど、現実逃避も良いところだ。


 私は、二度と目をそらしたり、しない!

 
 バトラーが美しいと言ってくれた紫紺の瞳でしっかりと見る。

 セイバーは……間一髪防御が間に合ったようで、無様に吹き飛んではいるが致命傷と言うほどではない。

 そして、ヘラクレスは横たわるセイバーに対して剣を振るおうとしている。

 その光景を見た瞬間――


 「ヘラ、クレーーーーース!!」


 ――私は、かつて無い程の怒声を発していた。
 
 ……別に心配などはしていない。

 ただ……セイバーがやられたら彼が悲しむからです。


 「騎英のベルレ――――」


 それに……ヘラクレスとて、無傷でエクスカリバー程の神秘を耐えたわけではない。
 
 代償に右半身のほとんどが消し飛び、体中無数の傷で覆われ無事なところなどない。

 あの規格外を倒すなら、今をおいて他には無い!


 「――――手綱フォーン!」

 
 助走距離は十分、こめる魔力は現界ぎりぎりまで振り絞る!

 これなら、確実にとった!



 
 ……が、この大英雄は本気で規格外だった。

 
 身体が満足に動かないと言うのに、その左腕に持った巨大な剣で私の宝具を迎え撃ったのだ。

 そう、エクスカリバーを受け止めてなお、原形を留めたその馬鹿げた剣で。


 そして、流星と化した私とヘラクレスの巨剣がぶつかった。 


 ペガサスにまたがった私に凄まじい衝撃がくる。
 
 が、一瞬の停滞の後、遮るものが無くなる。

 つら……ぬいた?

 宝具の効果が切れペガサスも送還されたが、私は勢いづいたまま洞窟の壁際まで転がるように吹き飛ぶ。


 くぅ、受身をうまくとれませんでしたね。

 それより……ヘラクレスは?

 言うことを聞かない身体を無理やり起こしてヘラクレスの状態を確認しようとして、

 今回現界して何度目か解らない驚きを覚えた。

 
 「そ、そんな馬鹿……な。何故、何故立っていられる……!?」


 私の視線の先、そこには両腕と顔の左半分を無くし、それでもなお微動だにせず立つ巨人の姿があった。

 ……しかし、幾らなんでもアレでは戦えまい。

 最初は確かに驚いた。

 ……が、ヘラクレスは立っているだけだ。

 あの傷は如何に英霊と言えど致命傷だ、じきに現界できなくなり消えるだろう。

 
 ……ふぅ、一先ず決着ですか。

 既に効力を失っている魔眼を閉じ、安堵する。

 バトラーは大丈夫でしょうか、それに奥へ向かったシロウとリンは。
 
 閉じた瞳を再び開けて、のろのろと立ち上がろうとして、
 
 視界に飛び込んできた光景に、言葉を失くす。


 私の視線の先、そこには、黒い模様を蟲の如く蠢かせて身体を再生させるバケモノがいた。

 蠢くソレはギシギシと音を立て骨を生み、肉を構成していく。

 異音が洞窟内に響く中――


 「ヘ、ヘラクレス……?」


 ――聞こえるはずの無い小さな声が木霊した。

 
 驚くことに億劫ではあったが、声のしたほうへ振り向く。

 そこには、洞窟の入り口側に呆然と佇む見慣れぬ服を着たイリヤスフィールの姿があった。

 
 何だろうか、私は余程神に嫌われているのだろうか?

 ……まあ、私や姉さまたちを化物に変えたあの女神他数名にまで好かれたいとは思いませんが。

 そんな馬鹿なことを考えている間に、ヘラクレスはノロノロとイリヤスフィールへと歩き出す。


 まずい。

 どういうわけか、ヘラクレスは私やセイバーではなくイリヤスフィールを狙っている。

 ぐっ、う、動きなさい!

 既に限界を超え、思うように動かない身体を叱咤する。

 が、先程の宝具にほぼ全ての魔力をつぎ込んだためか立つことすらままならない。

 セイバーもバトラーからの魔力供給が十分でない為か回復が遅い。

 こうなったら、イリヤスフィールに何とか逃げてもらうしかない。

 
 「逃げなさい! イリヤスフィール……っ!?」


 私はイリヤスフィールに対してそう言って……またもや驚愕した。

 
 白の少女の背後。

 
 そこには小山と見紛うばかりの巨体。

 
 居るはずの無い二人目のヘラクレスが巨大な弓を構えて立っており、


 「射殺すナイン――百頭ライブズ」 

 
 その、絶対の一撃を黒く染まったもう一人のヘラクレスに放ったのだから。



 side by セイバー


 不甲斐ない。

 それは、今の私自身を的確に表した言葉だ。

 聖剣を用いたと言うのにヘラクレスを仕留めることができず、ライダーに助けられた。

 そして、今は無様に地面に這い蹲っている……。

 ……いや、ライダーに助けられたことは感謝してもし足りない。

 だが、己の無力さに腹が立つ。

 私は……何時からここまで弱く成り果てた?

 聖杯の奇跡にすがろうとした日からだろうか?

 それとも、肉を持った仮初めの英霊になってからだろうか?

 いや、そもそも……私は強かったのか?

 円卓の騎士たちの中には私などよりも優れたものが何人も居た。

 戦場でであった者たちの中にも当然居た。

 私は……選定の剣を抜き、王になったことで強くなったつもりでいただけなのだろうか?

 
 「逃げなさい! イリヤスフィール……っ!?」


 ライダーの切羽詰った声が聞こえるが、立ち上がることすらできない。

 辛うじて頭を上げると、

 
 「射殺すナイン――百頭ライブズ」 


 そこには私とバトラーの二人を相手取ってなお勝っていた真の英雄と言える存在。

 そう、もう一人のヘラクレスが絶対の意思を込めた一撃を放つ瞬間があった。 

 放たれた九条の光は全て黒いヘラクレスへと殺到し、その身体を消していく。

 左腕、右の脇腹、右足……。

 一条ごとに身体を削られるが、黒いヘラクレスは先程のように回復はできないようだ。

 おそらく、ハルペーと似た能力があの宝具にはあるのだろう。


 そして、私とライダー、イリヤスフィールが呆然と見守る中……最後の一条が頭部を消し去る。

 黒いヘラクレスが消え去って、やっとイリヤスフィールが背後を振り返った。


 「アー……チャー?

  ……っ! 私の中に戻りなさい! 早くしないとアーチャーまで……!」


 突然イリヤスフィールが焦った声を出す。

 どういうことだろうか?

 あのヘラクレスは今までイリヤスフィールの中に居た?

 ……そうか!

 彼女は聖杯としてアインツベルンに作られた器。

 アインツベルンの城でヘラクレスがギルガメッシュに倒された時、バーサーカーとしての部分がマトウシンジに。
 
 アーチャーとしての部分がイリヤスフィールの中に注がれたのだろう。

 そして、それが今、全てマトウシンジの中の聖杯に奪われようとしている。

 
 「…………」


 巨躯の英雄はイリヤスフィールを見て、沈黙したまま、微かに笑って……その姿を消していった。


 「アーチャー……」


 後には、呆然とするイリヤスフィールだけが残されていた。


 「セイバー、立てますか?」


 っと、何時の間に来たのか、ライダーが私に手を伸ばしている。

 
 「ええ、何とか」


 私はライダーの手を握り、支えられながら立ち上がる。

 どうやら少しは回復したようだ。

 ……バトラーからの魔力供給が戻っている?

 と言うことは、彼はあの英雄王に勝ったということだろう。

 ……役立たずは私だけですか。


 「セイバー? ……別段、自分を責める必要はありませんよ。

  彼に任されたことはアレを倒すことではなかったでしょう?」

 
 ですが……、


 「そのとおりだ、セイバー。自分を責めることはない」


 「っ! バトラー、無事でしたか!」


 突然の声に振り向けば、そこには赤い外套をボロボロにしながらも無事な姿のバトラー。

 
 「ああ、外套がボロボロになってしまったがね」


 あの英霊を相手に外套がボロボロになっただけですか!?

 っと、よく見れば中の燕尾服とやらは無事なようですね。

 ……なんででしょう?


 「さて、そんなことよりも……どうやら事態は悪化しているようだな」


 「ええ。おそらくですが、じきにアンリ・マユが具現するでしょう」
 

 私を支えながらライダーがそう言った。

 ライダーの推測は間違ってはいないだろう。

 そもそも、聖杯に満たすべきは六体の英霊。

 今回はキャスター、アサシン、ランサー。

 アーチャーとバーサーカーの二体分のヘラクレス、それに……規格外の英雄王。

 これだけの英霊の魔力が注がれたのだ、ヘタをしなくてもこの世全ての悪は具現するだろう。

と、そんなことを考えていたら、


 「……セイバー、ライダー。
  
  二人でイリヤスフィールと衛宮邸に居る三人、他数名だけでもつれて冬木を離れてくれないか?」


 ボロボロの赤い外套を抜きながら、バトラーがとてもではないが了承できないようなことを言ってきた。


 「何を言っているのです!? 微力ながら私も……」
 

 「いや、あの呪いの泥に触れればサーヴァントでは一たまりもない。

  なら、君達が居ても何もできはしない……」

 
 『いや、帰って足手まといになるだけだ』 

 バトラーは途中で口を閉ざしたが、後に続くだろう言葉は容易に想像できた。 

 ぐっ、完璧に私は足手まといですか……。


 「……セイバー、先ほども言ったが。そう、自分を卑下することはない。

  君が不調なのは私に原因がある」


 「バトラーに?」


 それは一体どういうことだろう?


 「ああ、どうやら以前の回線と今回引いた回線が絡んでいるようだ。

  そのため君への供給がうまくいかない。

  セイバーの不調はそのせいだろう」


 「以前の回線?」


 どう言うことだろう?

 バトラーは以前に、サーヴァント、もしくは使い魔の類を使役していたのだろうか?


 「いや、こちらのことだ……。

  さて、どうやら時間が押しているようだ、そろそろ行くとしよう」


 「バトラー、どうやら私やセイバーが行っても邪魔になるようですね。

  では、サクラ達を伴ってなるべく冬木から離れた地に非難しています」


 「ああ。いや……そうだな、確かこの時期ならば三咲町が日本では一・二を争うほど安全な……。

  ……もとい、物騒では在るが何とかなる地だろう」


 三咲町……?

 たしかテレビのニュースとやらで放送していた地だったと記憶している。

 何でも、以前に吸血鬼事件が起こったとか何とか。

 
 「バトラー……口惜しいですが、その地で貴方の無事を待っています」


 「ふっ、そう待たせはしない」


 そう言って、彼はランサーに劣らないほどの速度で走り出した。

 腕を組み、上体をほとんど動かさずに……。

 い、一体どういう仕組みなんでしょう?


 「素敵です、バトラー」


 ……ライダー、流石にそれはどうかと。

 ……っと、こんなことをしている場合ではありませんね。


 「ライダー、イリヤスフィール、行きますよ」


 「ええ、私と貴方の足ならばまだ余裕があるでしょうが、時間はあるに越したことはありません」


 そう言った後に、『よいしょ』っと言いながらイリヤスフィールを抱き上げるライダー。

 そして、そのまま洞窟の出口に向かって走り出す。

 ……さて、私も行きましょう。


 走り出す前に一度だけバトラーの走っていった洞窟の奥を見やる。
 
 バトラー、必ず戻ってきてください。

 色々と知りたいこと、話したいことがありますから。

 そう内心で思ってから、先に行ったライダーを追って走り出した。




 続く……のか?


 side by 士郎


 ……眼前に迫る黒い影を避け、前方へと一歩踏み出しながら左手で持った莫耶を振るう。

 その一撃で更に一歩踏み込むスペースを作り、踏み出す。

 慎二まであとおよそ20m。

 その距離を確実に詰める。

 そのために、頭の中では目まぐるしく慎二の次の一手が予想され、
 
 それに対するオレの行動もシュミレートされていく。

 その一つ一つの行動、思考が、オレを確実に何かに変えていく。


 ……一体オレはどうしてしまったのだろうか?

 再び迫る黒い影を斜め前方へと身体を捻じ込むようにして避けながら考える。

 ……いや、そんなくだらないことを考えるな。

 オレはただ、アレの前に出て剣を振るえば良いだけだ。


 「へー、やるじゃないか衛宮。

  ちょっと前に会った時はこの一撃をどうにかするのにも一杯一杯だったのに」


 ソレが何かを喋る。

 しかし、理解している暇など無い。

 "衛宮士郎"にそんな余裕などありはしない。

 予測しろ。

 未来視の如く、先を予測しろ。

 それだけが、身体能力でも魔力でも劣る衛宮士郎のとりうる事ができる全てだ。 

 
 「……流石にうざったくなってきたよ、衛宮。
 
  それなら、こいつはどうだい?」


 ソレがまた何か言葉を発する。

 オレはその言葉を聴くと同時に、真横へと跳んだ。

 
 瞬間、オレのいた地点を鮫の頤のような影が大地を割って出現した。

 否、アレは鮫そのものだ。
 
 影の鮫は本物の鮫の如く背びれだけを地表に出してオレを中心に回りだす。

 ……こんなモノの相手をしている場合ではないと言うのに。

 しかし、放置するには危険すぎる。

 ならば、一瞬で消滅させる。


 「投影開始トレース・オン」


 脳裏に浮かぶは螺旋の剣。

 それは、何時か見た無限の剣の一。

 鮫程度に使うのは気が引けるが、今は四の五の言ってられない。

 
 「偽・螺旋剣」


 オレの右手に投影された捻じれた剣。

 それを、頤を開けた影の鮫に投擲する。

 放たれた螺旋剣は、影の鮫を跡形も無く消し飛ばして露と消えた。


 「はっ、こいつでも駄目なのか。

  じゃあ、これで最後だよ……衛宮」

 
 そう言って、ソレは影から這い出た黒の弓を構え、黒の矢を引き絞った。

 
 「――この世全てのアンリ――


 ならば、オレが振るうべき剣は決まっている。

 現時点でオレに可能な最高の一。

 勝利を義務付けられた黄金の一振り。
  

 「I am the bone of my sword身体は剣で出来ている」


  ――悪マユ――」


 放たれた、全ての呪いを持った漆黒の矢。

 それは決して早くはない速度で、しかし確実にオレに迫る。

 その漆黒の矢に対して、


 「勝利すべき黄金の剣カリバーン」


 オレは全力で前に踏み込みながら、両腕で持った黄金の剣を振り下ろす。

 放たれた金の閃光は黒の流星を迎え撃ち、相殺した。

 ……上出来だ。

 これでアレまでの距離は後5m。

 一息すら掛からぬ、オレの間合いの内。

 だが、安心はできない。

 なぜならアレにとっても必殺の間合いであり、黒い影ならば一瞬でオレを捕らえることが可能だから。

 
 ……しかし、予想していた攻撃はこない。

 流石に疑問に思い前を向けば、胸を押さえうずくまる……慎二。

 チャンスだ。
 
 オレは生まれた猶予を最大限に使い、慎二に肉薄し、再び投影した双剣を振りかぶり――


 視界に黒い影が飛び込むのも気にせず


 ――振り下ろした。


 下位とは言え、宝具である双剣の一撃は、

 人の身でしかないオレをして瀑布の如き一撃となり、相手の身体を爆発させる。
 

 だが、同時に心臓が何かに握りつぶされるような感覚を受けながらオレは――


 ――意識を手放した。
 


 side by 凛


 「三番! 開放!」


 私の虎の子の宝石、その一つである炎の魔石をアサシンに対して放つ。

 威力はだいたいAランク級、当たれば耐魔力のほとんどないアサシンぐらいなら一撃。

 だと言うのに、


 「っ! 当たんなさいよ!」


 私の財産の一つはドブに捨てられた。

 もとい、避けられた。

 しかし、その炎の後ろから飛び出る黒い影。


 「ふっ!」


 アサシンが避けた所へ綺礼が黒剣を投擲しながら間合いを詰める。

 はっきり言って、アイツが接近戦でどれだけサーヴァントに追随できるかは解らない。

 でも、闇雲に宝石を撃つよりも綺礼の作ってくれるだろう隙を突くほうが勝率が高いのも確か。

 なので、先ほども隙を作る為に苦渋を飲んで当たらないだろう一撃を泣きながら放ったのだ。

 
 「ほう、やるな。神父」


 だと言うのに、アサシンは格闘戦で私の数倍強い綺礼の攻撃を事も無げに回避する。

 ……これでサーヴァントの中で一番弱いって言うの!?

 
 「しかし、サーヴァント最弱とは言えどもこの身は英霊……。

  そうそうやられはしない……」


 そう言ったと同時に牽制の意味でか、私に投擲される黒の短刀。

 しかし、隙をつかれた訳でも死角から放たれた訳でもないのだから、

 幾らなんでも当たってはやれない。


 「呪いの魔弾ガンドっ!」


 私は短刀を避けながら指先に魔力を込めてガンドを放つ。

 普通は一々『ガンド』などと言わないのだが、威力を気持ち上げるために意味ある名を叫んでいるのだ。

 だが、それでもガンド程度では効き目が薄いため、手持ちの宝石の魔力を上乗せしている。

 ……現在までに、数千万円相当の宝石を使い切りました。


 ……ブッ殺!!


 たかがアサシン程度に何でここまで宝石を使わなきゃならないのよ!

 相手がセイバーとかあのアーチャーが相手だというのならまだ納得がいくと言うものなのに。

 くーっ!
 
 家のサーヴァントは何をちんたらやってるのよ!

 さっさと来て倒しなさいよ!

 じゃないとハサンのせいで破産しそうだわ。
 

 …………さ、寒っ!

 自分で考えておいて本気と書いてマジと読むぐらい寒いわ!


 「炎よ」


 「ぬっ、概念武装か……」


 っと、そんなくだらないことを考えている間にも向こうは真面目に戦っているみたいね。

 どうやら綺礼が黒剣の概念武装を使ったようだ。

 黒剣には何らかの、大体は火葬式典と言う教会独自の概念武装が施されているのだが。

 綺礼が持っている黒剣も火葬式典が施されていたようだ。

 ……一応元教会の代行者らしいから、綺礼って。
 
 
 ガガガガガガ!


 な、何事!?

 少しの間戦闘から意識を離していた私に聞こえてくる騒音。

 慌てて綺礼の方を見た私は唖然とした。


 「ぬ、現代の銃火器とやらか……しかも弾丸に祝福儀礼済みの……。

  ……厄介な代物だな」


 そこには両手に持ったマシンガンをぶっ放す神父の姿が……。

 ……まあ、十字架型でないだけマシと言えばマシなのだが。

 ものすごくシュールな光景よね。


 「ふむ、サーヴァントとはつくづく理不尽な存在だな。

  再認識させてもらった」


 綺礼は弾がなくなったのか、両手に持ったマシンガンを捨てて再び黒剣を構えた。

 ……私はマシンガンからどれぐらいの速さで弾が放たれるのかは知らないが、

 どうやらアサシンは、殆ど全ての弾を避けきったようだ。

 ホント、理不尽な存在よね。

 
 「……このままでは埒が明かないな。

  ……仕方在るまい、大盤振る舞いだ――受け取れ」


 そう言うと同時に、綺礼の両腕に4本づつ黒剣が握られ、それが次々と投擲されていく。

 それは、弾丸もかくやと言うほどの速さで突き進み、

 しかも多少の追尾機能がついているのか、避けたアサシンに一度だけ方向を転換して迫る。

 これには、いかにアサシンと言えども余裕がなくなったようだ。


 ふー……私は意識を集中させながら深呼吸をする。

 ここが、ポイントだ。

 おそらくだが、綺礼はアサシンが隙を生むような状況を作ってくれるだろう。

 ……よっし!

 腹を括ったわ!

 こうなったら、残った宝石を全弾叩き込んでやろうじゃないの!

 破産がなによ!

 一文無しだろうと人間何とか生きて、生きて……士郎の家に厄介になろう。

 ついでに、お金に関してはバトラーに何とか稼いできてもらおう。

 うん、主人思いのサーヴァントでホント嬉しいわ!

 
 よし、これで後顧の憂いは消え去ったわ!

    
 「凛!」


 綺礼に名を呼ばれて意識を向ける。

 既に残った宝石は、全てメインの宝石と同様の属性になるようにセット済みだ。

 これならば、たとえ"あの"ヘラクレスであろうと確実に殺れるほどの代物だろう。

 状況に関してはアサシンの位置以外確認する必要などない。

 綺礼がこの場で私の名を呼ぶなど、アサシンを仕留める絶好の瞬間に他ならないからだ。

 だから、


 「Es last frei. 解放、EileSalve一斉射撃――――!」

     
 全力で、"風"の属性に統一した全ての宝石を開放した!

 凝縮された風の弾丸は一瞬でアサシンへと肉薄する。

 よし!

 避けられる状態ではない!

 私が勝利を確信した瞬間、視界に仮面越しでも何故か窺えたアサシンの笑みが飛び込んできた。


 「――――」


 アサシンが何事か呟く。

 すると、アサシンの眼前に迫っていた風の弾丸自体が避けるように明後日の方向へと飛んでいった。

 ……有り得ない。
 
 アサシンに対魔力はないし、身に纏っている衣服からもそのような効力は窺えない。

 だとしたら何故……?


 「ぐっ!」


 はっ!?

 綺礼のうめき声に私が顔を上げると、胸を真っ赤に染めて倒れる神父の姿と、

 異様に長い腕を垂らしたアサシンの姿があった。

 くっ、綺礼!


 「残念だったな魔術師メイガス。

  最後に放った魔弾、風でなければ確実に私を屠っていただろう」


 風でなければ……?

 ……まさか!?


 「気が付いたか、私には風除けの加護がある。

  人の魔術程度の風ではたとえどれ程のものであろうと効きはしない」


 ……万策尽きたわね。

 手持ちの宝石は二流三流のものばかり。

 私自身も強化のしすぎで体力的にも魔力的にも限界寸前。

 頼みの綺礼も私のミスのせいでやられてしまった。

 傷が左胸であることから心臓をあの腕で……。 

 ……ふぅ、まあ綺礼には悪かったけど時間稼ぎとしては何とかなったかしら?

 後はバトラーと士郎頼みになっちゃうのが気に入らないけど……。
 
 
 「……何か言い残すことはあるか、魔術師メイガス?」


 「ないわ」


 そう言って私は目を閉じる。

 たしかバトラーには何故か単独行動のスキル、しかもかなり上等なものがついていた。

 私が死んでもしばらくは現界できるはずだ。

 ならば、何とかなるだろう。
 

 「そうか、では……逝くが良い!

  妄想心ザバーニー――……っ、慎二殿!!」


 へっ?
 
 突然、アサシンが焦った声を上げた。

 私はその声で閉じていた瞳を開けて慎二の居る方を見る。

 するとそこには、胸を押さえて苦しむ慎二と双剣を投影しながら慎二に駆け寄る士郎の姿。


 そして、私が事態に着いていけないでいる間に、全てが終ってしまった。


 双剣の一撃で爆散するアサシン。

 アサシンの黒の腕で、魔力によって作られた本当の心臓とリンクする擬似的な心臓を握りつぶされる士郎。

 髪の色が白、瞳が赤になり、顔に何らかの模様を浮かべる慎二。

 黒の太陽から溢れ出る呪いの泥。


 私は無意識に倒れる士郎へと駆け寄り、

 姿が変化したが何の反応も見せない慎二と呪いの泥から士郎を抱えて離れる。

 
 十分に離れてから、事態を完璧に認識した私は意思が折れてしまい、膝をついた。

 ……何てことだ。

 私の最後の最後の大ポカのせいで全てが終ってしまった。

 士郎が死んでしまった。

 綺礼も死んでしまった。

 アンリマユの誕生を阻止できなかった。

 慎二は……まあどうでも良い。

 
 ……私は座りなおし、眠ったように倒れる士郎の頭を膝に乗せた。


 「ごめんね、士郎。

  私のポカのせいで……ほんとにごめんね……」


 士郎の頭を撫でていると、士郎の顔に水滴が落ち、その姿が歪む。

 ああ、私は泣いているんだ。

 泣かないって決めたのに。

 こんな時に泣くなんて。

 これではまるで、弱い女ではないか……。

 
 ……でも、もうどうしようもない。

 アンリマユの呪いの泥は刻一刻と此方へと進んでくる。

 私たちを飲み込み洞窟を抜け、十年前のように冬木を蹂躙し、その呪いを全世界へと広げるだろう。

 ……まあ、その前に抑止が動くだろうがそれはかなり遅くなってから。

 少なくとも冬木が守られることは……。

 眼前で私たちを飲み込もうとする泥を見上げながら冬木の住民に謝る。

 そして覚悟を決め、士郎の頭をかき抱いて目を閉じた。 

 でも、


 「――光の護封剣――」


 物語は意外と都合の良い様に作られているようだ。


 「ふむ、少し遅れたが……ロスタイムぐらいはあるだろう」


 色々と言いたい事があるのに頭がごちゃごちゃになって言葉が出ない私に対して、

 呪いの泥を遮るように三本の光の剣を展開しながらバトラーはそんなことを言ってのけた。

 



 続く……のか?


 side by エミヤ


 「バトラー、遅いじゃないの……!」


 遠坂、衛宮士郎に膝枕をしながら上目遣いで睨まれても……な?

 それに、これでも急いで来たのだ。

 戦闘が終ってからの移動には、某十傑衆ご用達の移動術を使用していたんだぞ?

 ……それでも遅れたことに変わりはないか。

 だが、
 

 「そう言ってくれるな。英雄王の相手は中々骨が折れたんでね」


 そう、あの英霊相手に手を抜くなど自殺行為に他ならない。

 だから本気で戦ってきたのだ。

 それでも中々の速さで終えてたと自負できる。

 
 「……でも、もう遅いわよ。

  アンタがこの剣でどれだけ時間を稼げるか知らないけど、時間の問題でしょ?」


 「確かに、これは時間稼ぎのために出したのだからな。

  さっさと其処の未熟者を起こしてけりをつけるぞ」


 通常時は使用できない、究極の防御の一だぞ?

 アイアスより使い勝手が悪いが効力は折り紙付だ。

 まあ、発動するのは良いが効力の効いている間は使用者すら解除できないけど。


 「……はっ?」


 遠坂、鏡を見るか?

 ものすごく面白い顔をしているぞ?
 

 「ど、どう言うことよ!?」


 「こういうことだ」


 そう言って、オレは手刀の形で振り上げた右手を――


 メキャ!


 ――衛宮士郎の頭に対して右斜め45度から良い具合に振り下ろした。

 ふむ、まあ少しは中身が詰まっているんではないか?


 「な、な、何してんのよ!?」


 「何を驚く凛。昔からこうするとチョット位のものなら直るぞ?」


 そう、古き良き時代からの伝統だ。

 他の世界でも通用するぐらいだから全世界共通の伝統なんじゃないか?

 師匠もよくやってたしな。

 ……天人の遺産とか、ドラ○ン種族とかに。

 ……あの時はやばかったな。

 
 「そんなんで死んだ人間が……って、何で心臓が動いてるの!?」


 ……ふむ、やはり繋がりは切れてもセイバーが現界し続ける限り鞘の恩恵を受けることができるか。

 どうやらオレの一撃でしっかりと回路が繋ぎなおされたようだ。

 しかし、


 「……流石は全て遠き理想郷……と言ったところか」
 

 まさか本当に助かるとは。

 恐れイリヤの鬼子母神だな……ん?

 変換を間違えたか?


 「……バトラー、後で色々と説明してもらうわよ?」


 「まあ待て、それよりも衛宮士郎が気が付くようだぞ?」


 オレの言葉に慌てて下を向いて昔のオレの顔を確認する遠坂。

 ……何でこの可愛げのある性格があんなに捻くれるんだ?

 師匠と共に、世界の謎の一つだな。

 剣に遮られた呪いの泥に視線を向けて、そっと溜息をついた。



 side by 士郎


 気がつくと剣の丘に立っていた。

 何度か見た事があるため取り乱すことは無い。

 ただ、今までは背中しか見れなかった赤い外套の騎士がその鷹の目でオレを見据えており、

 その姿がよく知った執事と同じであったことに驚いた。


 「……小僧、また来たのか?

  全く、人の領域にずけずけと土足で上がるなと言うのだ」


 赤い騎士は煩わしそうに言う。

 その姿はバトラーに酷似していながら別のものだった。


 「……ふん、まあ良い。どれでも好きなものを持っていけ。

  貴様もいずれ到達する領域だ。少々早かろうと……支障あるまい」


 オレは辺りを見渡し改めて驚く。

 古今東西あらゆる剣がそこにはあった。
 
 そうか、アイツもこれと同じものを持っているのか。

 そんな中、一本の剣がオレの目に止まった。

 無限の剣の中の異端。

 まるで中身のない、オレが以前投影していたガランドウの模造品。

 それが何故か、あの執事と重なって見えた。


 「ほう、それに気がついたか。

  ならば、貴様もその資格があると言う事か……」


 はっ?

 何だよ、資格って。

 
 「……一つ、覚えておけ。

  固有結界アンリミテッド・ブレイドワークス。

  それがこの……剣の墓標の名だ。
   
  衛宮士郎、貴様は……なんと名づけるのだろうな?」


 無限の剣製、確かにここはその名に相応しいだろう。
 
 赤い騎士はオレに背を向け指を弾く。

 そして、世界が閃光を放ちながら弾けた。

 目を開けることの出来ないほどの光の中、


 「あの男、英霊エミヤの中でも異端と呼べる者と関わった結果、見届けさせてもらうぞ」


 その言葉を聴いた瞬間オレの脳天に突き刺すような痛みが走り、意識が覚醒してきた。

 目を開けたオレの目の前には涙を流す遠坂と赤い騎士と同様の背中。

 まあ、何故か赤い外套を纏っていないんだけど、何かあったのか?

 
 「士郎! 良かった……バトラーの言ったとおりね……」

 
 「感動の場面に水を差すようで悪いんだが。凛、状況を再確認してくれないかな?」

 
 よく見ればバトラーは剣を盾のようにして呪いの泥を防いでいる。

 そうか……オレが剣の丘に逝っている間にこの世全ての悪が具現したのか……。


 「ふむ、どうやら私たちが何かを理解したようだな衛宮士郎。

  ならばアレのことは任せたぞ」


 溢れ出る泥の中心、慎二の居る地点を目で示しながら言う。

 
 「凛、ようやく君に私の宝具を見せる時が来たようだ。

  少々危険だが付き合ってもらうぞ」

 
 「はっ? ……アンタ、最初から最後まで私をからかってたわね!?」


 「気にするな、時効だ」


 おい、時効ってそんなに早いのかよ。

 こんな状況でありながらその在り方が変わらないバトラー。

 確かに……異端だよな。

 ……さてと、オレも自分の役目を果たさないとな。


 「遠坂、行ってくるよ」


 「……帰ってきなさいよ?」


 「おう」


 短いやり取りを終え、振り返らずに走り出す。

 このまま行けば呪いの泥に突っ込むことになる、だが。
 

 「――偽・乖離剣」
 

 バトラーがオレに解析できない剣を振り、それを払う。

 心の中で礼を言いつつさらに加速する。


 不思議だ。

 心がとても"平ら"だ。

 海面に例えるなら波一つ無いと言ったところか。

 今まさに死ぬかもしれないのに……。

 ビュン!

 横合いから飛び出てきた錐の如き黒い何かを前に倒れこむようにして避ける。

 当然倒れそうになるが、手をつき、その反動を利用してそのまま走る。

 そうしながら、オレは目の前の死の具現、嘗て親友であり間桐真二と呼ばれた存在を見つめた。

 一度心臓をやられる前……っと、二度目か。

 その時は恐ろしいほどに何も感じなかった。

 正に冷えた鉄の如く不動だった。

 しかし今はどうだろう?

 何も感じないのではなく、感じてなお……心が揺るがない。

  
 さぁ、やることは一つ。

 目の前の存在を打倒する。

 後のことを考える必要などない。

 オレよりも優れた、本当の英雄がいるのだから。

 その、もしかしたらオレも到達出来るかもしれない遥か先の背中。

 今一瞬だけでもそれに追いつき、追い越して……みせる!

 
 「――I am the bone of my sword――」


 故にこの一節。

 他の言葉は今のオレには不要だ。 

 身体は剣で出来ている。

 だから何者にも負けず。

 何者をも打倒できる。

 オレ自身がそのことに疑問を抱かねば実現しうる理想。

 そんなオレの腕に重みが掛かる。

 "無限を束ねし一振りの剣"

 オレが導き出した答えの形。

 その雛形だ。

 生まれたばかりで重みも何も無いが、オレだけの剣。 

 それを、ただ振りかぶり。

 振り下ろした。 

 
 ズバッ!


 そして、剣は少しの抵抗の後、ソレの身体を左肩から両断した。

 剣が大地に突き刺さった衝撃を感じてからしばし、"慎二"の瞳が黒に戻り意思の色が見て取れるようになった。


 「……ふん、僕の負けにしといてやるよ衛宮」


 最後まで。

 最後まで慎二らしいその言葉に苦笑する。


 「……じゃあな、慎二」


 「……先に逝ってるとするよ……まあ、出来たらハサンに会えたら良いんだけどね」

 
 そう言って、その身体を崩しながら器用にも片方しかない肩をすくめて見せる。

 それが、慎二との最後の会話。

 だけど……慎二はこの結末に不服はないらしい。

 何故ならその顔には、後悔の色が見れなかったから。

 ……十の内九を救う為に切り捨てた一。

 ……謝罪はしない、するわけにはいかない。

 それは慎二に対する侮辱と言える行為だからだ。

 オレは慎二の死を背負っていくのだろう。

 いいさ、慎二。

 オレの未来がどうなのかは解らない。
 
 もしも、バトラーのように英霊になったとしたら、"この"聖杯戦争で会うのだろう。

 ……ああ、それはそれで英霊になった時の楽しみができたな。

 オレは慎二に背を向けて歩き出す。

 アンリ・マユは消えたままだが、きっとバトラーと遠坂ならなんとかするだろう。

 それ、まで……ちょっと寝るか。

 急激な回復に心体共についていけなかったオレは、安心しながら意識を手放した。
 



 続く……のか?



 side by 凛


 「で? アンタの宝具って言うのを見せてもらおうかしら?」


 バトラーの作った花道を走っていく士郎の背中を見送り、そう聞く。

 自分でもかなり険悪な表情をしているのがわかる。

 だってそうでしょ?

 宝具は持ってないだ、主から貰ったものが武器だなどと戯言ばかり言っていたのだから。
 

 「そう怒るな、凛。これを宝具と言えるかどうかは微妙なところだからな」


 は?

 微妙って何よ?

 腕を組んで余裕を振りまきながらそう言うバトラーに内心で突っ込む。

 ……ふぅ、目の前に絶望が迫っていると言うのにこの緊迫感の無さ。

 やはりバトラーの存在が大きいのだろう。

 先程までの悲壮感やら何やらが全部吹き飛んでしまった。


 「……これを見せるのは君で七人目になる。

  先の六人の主人はなかなかに私を驚かせてくれたものだよ」


 またまたどういうことよ?

 アンタが見せたのにアンタが驚いてどうするの――


 「I am the bone of my sword身体は剣でできている」


 ――っと、私が問いただす前にバトラーから以前聞いた詠唱が聞こえてきた。

 以前はその詠唱に悲しみを感じた。

 どこか、孤独染みていたからだ。

 しかし、

 
 「Steel is my body,血潮は鉄で and fire is my blood心は鋼」


 今回のソレに感じるのは力強さ。


 「I habe created over a thousand blades数多の世界を越えて不敗」


 それに、絶対の自信。


 「Unknown to Deathただの一度も後悔は無く Nor known to Lifeただの一度も振り返らない」


 バトラーは英霊になってから常に誰かに仕え、主の剣となって戦い続けたのだろう。


 「Have withstood pain to create many weapons彼の者は一人、剣の丘にて主を待つ」 


 だからこその『I am the bone of my sword身体は剣でできている』という詠唱なのだろう。


 「Yet,those hands will never hold anything故にその生涯は尽くすことに用いられ」


 だからこそセイバーではなく、バトラーと言うクラスなのだろう。


 「So as I pray,unlimited only one blade worksその身体は無限からなる一振りの剣で出来ていた」


 そして、バトラーが最後の一節を詠唱した瞬間世界が反転する。

 現実がバトラーの心象世界に書き換えられる。

 それは世界に対する明らかな反逆。

 通常であれば莫大な魔力、莫大なナニカを代償にしなければ成し得ない奇跡。

 なのに、その英霊は何てことはないと言った顔でその荒野にただ君臨していた。

 何も無い荒野。

 バトラーの目の前にある剣の突き刺さった岩以外には、ただ荒野が地平線の彼方まで続いている。


 「さて、抜きたまえ。私にも抜くことができるが……それでは面白みに欠ける」


 荒野の君臨者たるバトラーが出会ってから一番威厳のある声で言う。

 だけど、面白みって何よ?


 「何か、アーサー王の選定の剣みたいね」


 「まさしくその通り。これは彼のアーサー王が抜きし選定の剣と似たものだ。

  凛。君は、私の主に相応しいかどうか今一度この場で試されることになる」


 へ~、やってやろうじゃないの!

 誰が主か骨の髄どころか魂の奥底にまで書き込んでやるわよ!

 私は内心の勢いをそのままに、ガッと剣の柄を掴んだ。


 ……えっと、掴んだのは良いんだけど、抜けなかったらどうしよう?

 凛ちゃんピンチ!

 抜けなかったら一生バトラーにねちねちいびられるわ!

 それこそ嫁が姑にやられるぐらいの凄いやつを!

 
 「……早くしたまえ。指定してアレを招いたとはいえ、

  呪いの泥がこの荒野を満たせば固有結界は自ずと崩壊する。

  そうなれば、冬木は滅亡するぞ?」


 ぐっ、解ってるわよ!

 抜けば良いんでしょ、抜けば!


 「てりゃー!」


 私は両手でしっかりと持った柄を思いっきり掛け声付きで引き抜いた。

 
 スポン


 抜けました。

 岩ではなく、豆腐に突き刺さってたんじゃないかと言えるぐらい簡単に。

 バトラーにしてやられたって感じね。

 ……まあ、それはともかく。

 私は引き抜いて両手で持った剣に目を向けて驚いた。

 そこにあった刃は――――

______________________
|           |
|           |
| ――――赤 |
|           |
|           | 
| ――――何もない  |
|           |
|____________________ |


ーーーーー赤


 side by 凛


 そこにあった刃は赤。

 いや、何十色と言う色が煌いている中で一際赤が目立っていると言う方が正しい。

 しかも、カッティング途中の宝石のようなその形は……まさか!

 宝石剣!?

 そんな馬鹿な!

 何でコレがバトラーの固有結界にあるのよ!?

 
 「ふむ、いささかインパクトにかけるな。

  やはり私が宝石剣を見たことがあったのがまずかったか……」


 へっ?

 見たことあるの!?


 「ど、何処でよ!?」


 「もちろん、宝石の翁のところでだ。

  実際に使用されるところも何度も見た」


 ……大師父!

 魔法をポンポン見せんで下さい!


 「……もう良いわ。それで、この剣は使えるの?」


 宝石剣、いえ。

 第二の媒介として。


 「当然だ。私自身ではおそらく使用できないだろうが、君になら使える。

  ソレは、そう言うモノだ」


 へんなの。

 バトラーの固有結界にあったそれが、私にしか使えないなん……そうか!

 だから、こいつは執事なんだ。

 仕えることを至上とした、異端の英霊。

 故に、その身は無限の剣。

 故に、その身は無限からなる一振り。

 ……。


 「この剣の銘は?」


 「それは君が決めたまえ。

  まあ、あえてつけるのなら……宝石剣・凛だろうな」


 宝石剣・凛……ね。

 確かに、"私"の剣であるならそれで合っているんだろうけど。

 ……これ使ったからって大師父に殺されないわよね?


 「……さて、時間もおしている。
  
  真名を唱えながら振りたまえ。それで、けりがつく」


 「ふー、じゃあいくわよ!」


 気合を込めて、もとい、魔力を込めて私は赤く輝く剣を振りかぶる。

 ……真名って、さっきの宝石剣・凛で良いのかしら?

 バトラーが即興で付けた真名であってるの……?

 ……ええぃ!

 ままよ!


 「宝石剣万華鏡に映る・凛赤いあくま!!」

  
 真名を開放しつつ振り下ろした赤の剣から、膨大な魔力がほとばしる。

 それは、私の魔力の許容量を遥かに超えた一撃だった。

 真っ直ぐにアンリ・マユに向かっていく閃光の如き赤。

 その赤には、彼方の世界――限りなく近く限りなく遠い世界の光景が映っている。


 バトラーに似た赤い弓兵に死刑宣告の如き命令をする私。
 
 ヘラクレスにつかまれながらも切り札の宝石でその頑強な頭部を吹き飛ばす私。

 不意をつかれ、綺礼に攻撃される私。

 自らのサーヴァントに裏切られた私。

 キャスターと思しき魔女に対して接近戦を仕掛ける私。

 誓いを新たにし、消えゆく赤い弓兵を見上げる私。

 桜を……殺すことを誓った私。

 赤い弓兵に助けられた私。

 アンリ・マユに侵された桜に対して宝石剣を振るう私。

 戦いらしい戦いをせずに聖杯戦争を終らせた士郎の居る世界で笑う私。

 眼帯をつけ、冷えた鉄の如きアーチャーと聖杯戦争を戦う私。

 何故か女になってる赤い弓兵の居る世界でセイバーが良いなぁと思っている私。

 

 その、どれもが真実。

 実際に何処かの世界で起こった出来事なのだろう。

 ……最後の一つはなるべく見なかったことにしたいけど。

 ……と、とりあえず、今私たちが居る世界も無数に分岐する可能性の中の一つにしか過ぎないのだ。


 ねえ、そうなんでしょう?


 バトラー……いえ。



 ――――英霊エミヤ――――



 side by エミヤ


 遠坂が振るった赤の宝石剣の力。

 数多に存在する平行世界から強い思いを招き。

 それを魔力に上乗せすることで、究極へと至ったソレ。

 ふっ、見た目は宝石剣でありながらその実、味のあるものになっていてオレ的にかなり満足な一品だ。

 ……まぁ、他の主人のモノに比べれば数倍はマシなもので内心ホッとしているのも確かなんだが。


 それはさておき、


 「凛、先に行ってくれ……後始末は私がつけよう」


 すでに、我が心象世界に招き寄せたアンリ・マユの大本は遠坂の一撃で消滅した。

 その際、固有結界は霧散し現実世界に戻った。

 そして、決着がついたためかアホ丸出しで眠る衛宮士郎を見つけ、アンリ・マユの残滓から離し今に至る。
 

 残されたのは、大聖杯から溢れ出たこの世全ての悪の残滓。

 残滓でありながらその一滴で冬木は十年前の如く業火に焼かれ灰燼に帰すだろう。

 それを防ぐこと、それが守護者としてのオレの任務。

 ならば果たさなければなるまい……。
 

 「なっ!? 馬鹿言ってないでさっさとここから離れるわよ!
  
  外に出てから柳桐寺ごと吹き飛ばせば良いじゃない!」


 いや、中々過激な発言だな。

 まるで未来の……赤い悪魔のようだよ。

 だが、それでは駄目だ。

 この手のモノは虱潰しに消去していかなければ必ず何処かに残る、そう言うものだ。


 「君はその未熟者を連れてさっさと行くといい。

  ……なに、すぐに掃除して君達にお茶を淹れるとしようじゃないか」


 「…………絶対よ?

  アンタは私のサーヴァントで私はこの先もずっとアンタのマスターなんだからね!」

 
 オレの発言、そして雰囲気から事の次第を察してくれたのだろう。
 
 だから、不器用な激励の言葉を残して嘗て共に過ごした少女は衛宮士郎を背負って走り出したのだ。


 ――"衛宮士郎"――嘗ての己。


 真鉄の心を開花させ、自身を鋼へと昇華させることで英霊への道を歩き出した愚か者。

 あの赤き英霊、アーチャーへの布石。


 だが……きっとアイツが英霊になることはないだろう。

 如何に心を鉄に変えようとしても彼女達がいては徹しきれまい。

 ならば、案ずることもないか。

 そう。今は眼前の泥を掃除しなければならない。

 しかし、オレに回ってくる仕事はきつい仕事ばかりじゃないか?
 
 一度抑止に対して文句を言わねばな。

 そう思いながら掃除に適した剣を取り出そうと自己の内に埋没しようとして、

 オレは背後に近づいてくる気配に問いかけた。


 「何故君がここにいるのかな――――


 
 
 

  ――――イリヤスフィール」




続く……のか?



 side by エミヤ


 「何故君がここにいるのかなイリヤスフィール。

  いや――――ユスティーツァだったか?」


 見間違うことなくイリヤの姿をしたソレ。

 しかし、そのあり方に違和感を覚えさせ、この場で有り得そうな存在と言えば一人だけ。

 かつての世界でイリヤや宝石の翁が言っていた彼女に他ならないだろう。


 「やはり貴方には解るようですね。
 
  確かに私はユスティーツァと呼ばれたもの、そのなれの果て」


 ふむ、存在としては英霊に近いその在り方、魂魄にいたっては模造品。

 第三を用いて仮初めの魂を作り上げるとは恐れ入る。


 「……どうやら私がどのようにしてこの場にいるかは検討がついたようですね。

  では、率直に用件だけをすませましょう」


 そう言って、ユスティーツァは居住まいを正し、ドレスの裾を掴んで華麗にお辞儀をした。


 「感謝します、仕える者バトラーにして錬鉄の英霊エミヤ様。

  アインツベルンに掛けられし呪いを解いていただき何とお礼を言っていいか」


 イリヤと意識のシンクロがなされているため、オレの真名を知ったのか?

 いや、そうであるならば"錬鉄の英霊"や"仕える者"などと言う二つ名を出せないだろう。

 この世界ではそう呼ばれる前提条件が皆無で……宝石の翁がいたか。

 ……まあ良い。どの道意味のない思考だろう。

 それよりも。


 「アインツベルンが聖杯戦争に縛られたことを呪いと表現する辺り……君も後悔した口か?」


 「ええ。私が天の杯ヘブンズフィール、大聖杯のシステムの一部となったのは私自身の意思ですから構いません。

  ですが……聖杯に固執するあまり、手段と目的を履き違えるのはどうでしょう?」


 悲哀を篭らせた声音でありながらその顔は無感情で、人形を思わせる。

 恐らく、彼女には感情を表現すると言うことすら教えられていなかったのではなかろうか?

 アインツベルンに作られし最高の魔術回路。

 システムの一部と成るべく生まれたモノ。

 イリヤ達アインツベルンのホムンクルスのオリジナルと言っても良い存在。

 そんな彼女に感情などは不要だと当時のアインツベルンの者達は考えたのだろう。

 本当にそうであるなら……全く持って不愉快な。

 
 「……貴方は優しい。だからこそ数多の英霊やイリヤが惹かれているのでしょう」


 「世辞を言っても何もでんよ……さて、長話をしていては私がここに残った意味がないな」


 ユスティーツァとの会話を止め、再び剣の選定を始める。

 ふむ、こんなところか。


 「全投影オールバレット、真名開放フルオープン」


 複数の対人宝具による真名の一斉開放。

 広範囲に効果は及ばないが、その全てが必中、そして必殺であることは疑いようのない事実だ。

 現に呪いの泥は跡形もなく消し飛んでいる。

 ……守護者として現界している時はリミッターが掛からないのが利点だな。
 
 
 「凄まじいものですね……コレが何の制約も掛けられていない英霊の力……」


 「ふむ、そう考えると聖杯戦争と言うシステムは良く出来ている。

  我々は魔法使いにも使役できないと言うのに魔術師でないものですら主に仕立て上げるのだから」


 まあ、このシステムがなければ今こうしてオレが居ることもなかっただろう。

 セイバーと出会うこともなく……って、待て。

 聖杯戦争のシステム云々は置いておくとしてだ。

 もしも"あの時"弓道場に残り、ランサーにやられなかったら何も知らずにイリヤに殺されてたんじゃ……?

 ……想像するだけで恐ろしい。

 よもや一度死に掛け……もとい、死ななければ確実なバッドエンド直行だったとは……。

 
 「ふっ、我が人生は綱渡りの如し……か」


 あんな~こ~と~そんな~こ~と~あ~った~のさ~。
 
 一体何度"消滅"しかけたことか……。


 「? どういうことです?」


 ん? つい口に出してしまっていたか。


 「いや、気にするな。

  ……さて、そろそろお別れかな?」


 彼女が礼だけを言いにわざわざ現れたとは思えん。

 恐らく、最後の後始末か。


 「ええ。大聖杯が破壊されたとは言え門は開いたまま。

  それを閉じておかなければ、この街は異界と化すかもしれない……」


 確かに数多の世界でも無限力などと言われるモノと同様である"座"と繋がったままではどうなるか想像できんな。

 最悪、この地では常に野良英霊が闊歩する神代の時代のようなデンジャラスゾーンになりかねん。

 ……そして、それを魔術師が使役しようと頑張る。

 サーヴァント、ゲットだぜ!

 っと言った具合に……むむ、某ポケモ○マスターを思い出すな。

 オレが限界するなり、いきなりマス○ーボールなど投げやがりやがって。

 流石のオレもアレには抗うことも出来ずにゲットされてしまったではないか。

 
 「バトラー様、もう一度礼を。最後に他愛のないお話ができて良かった……。

  ……では、イリヤスフィールをお願いいたします」


 「了解した。では、またなユスティーツァ」


 その言葉を聞いて"微笑み"頷いて、ユスティーツァは消えた。

 これで長いようで短かった聖杯戦争が終結する。

 だがまぁ、この後が大変なのかもしれないな。

 オレの時とは違い大聖杯を消し飛ばしたことで冬木では二度と聖杯戦争は起こらない。
 
 つまり、「   」に限りなく近づくことが出来るだろうモノを消失させてしまったのだ。

 その事で、アノ時計塔の馬鹿者どもがどう反応するか……。

 尤も、宝石の翁やマジックガンナーなどの超規格外がこない限り我がマスターには指一本触れさせないが。

 そのように、今後のことを考え少々面倒だと思いながらも、


 オレは……帰ってから何の葉で茶を淹れようかを模索し始めた。




 続く
 


 side by 士郎


 聖杯戦争が終わり一ヶ月と半月。

 春の日差しが眠気を誘う中――

 パキ

 ――と言う音を立ててオレの投影したランプが砕け散った。


 「……てへっ」

 
 無言で遠坂がこちらを見つめ……睨んでくる。

 オレはその圧力に屈して可愛らしく笑ってみた。

 ……何故か、バトラーなら本気で上記のソレができそうな気がしたのは内緒だ。


 「言い残すことはそれだけかしら、士郎?」


 いや、まだ言いたいことはたくさんあるぞ?

 ちょっぴり怖くて口が回らないんだが……。


 「あーっもう! 何で簡単な投影すらできなくなってるのよ!?
 
  ……これじゃあ、時計塔に一緒に行けないじゃないの!」


 遠坂に解らないことをオレに言われてもな~。

 しかも後半声が小さくなったせいで聞こえなかったし。

 まあ、投影のことを聞くならバトラーに聞いた方が良いんじゃないか?

 ちゃぶ台に置いた茶をズズゥー、と啜りながらそんなことを考えていた。

 すると、俯いていた遠坂が顔を上げて――――

 
 「この能天気アホ馬鹿がー!!」


 ――――吼えた。


 「何だよそれはー!?」


 オレも、吼えた。
 



 side by エミヤ


 くく……。

 これだから執事は辞められない。

 主である遠坂と未熟ではあるが一歩を踏み出した衛宮士郎を見ながらそう思う。

 
 「ふぅ、シロウとリンには困ったものですね。
  
  アレでは子犬がじゃれ合っているようにしか見えません」


 「貴方がそれを言いますか?

  むしろ食事に関した時のセイバーの方が……いえ、言わぬが花ですね」


 セイバーとライダー、の微笑ましい舌戦が繰り広げられる。

 たいがいライダーが打ち勝ってセイバーが剣を構えるパターンなんだが……。

 家には対サーヴァント用の抑止力がいる。

 
 「二人ともほどほどにしたら?

  幾ら育ちが雑だからってレディとしてそれはどうかと思うわよ?
 
  ねえ、桜もそう思うでしょ?」


 そう。我らがイリヤスフィールである。

 定位置となりつつあるオレの膝の上でサーヴァント二人に妖艶に微笑む。

 二人のメイドはアインツベルンの城の補修やらなんやらで居ないため羽を伸ばしたいほうだいだ。


 「ふぇっ? わ、私はその……セイバーさんもライダーも可愛いし綺麗だし羨ましいなぁって……」


 動けないオレにかわって居間でお茶を淹れながらも遠坂と衛宮士郎を羨ましそうに見ていた桜が、

 突然の問いかけに驚きつつしどろもどろに答える。


 「褒めていただいてありがとうございます、サクラ。
 
  しかし、何時も何時も何故バトラーの膝に座っているんですかイリヤスフィール?

  それと、雑とは何ですか! 雑とは!」


 「真に不本意ながら私もセイバーに同意見です。私だって座りたいのに……っと、それはそうと。
 
  サクラ、羨ましいのなら二人の間に割ってはいるぐらいしなければ駄目だと思うのですが」


 え?そ、そうかな?と言いながら両手を胸の前でギュッと握り、桜が決意の表情をする。

 オレもそれに対してサムズアップしてGOサインを出すと桜が戦場に赴くように歩き出して――

 
 「わ、私も混ぜてください! しぇんふぁい! ……あぅ」


 ――噛んだ。

 ……あー、何だ。

 今日も衛宮邸は平和だ。

 桜を加えて微笑ましくじゃれあう三人を見つめながらそう思う。

 ふぅ、たまにはこのような息抜き的な現界も悪くはない。
 
 ……まあ、オレの現界のほぼ全てが息抜きとも言えないこともないが。
 

 「ねぇ、バトラー。そう言えば貴方ってリンが死ぬまで契約が続くのよね?」


 と、いきなりイリヤが話しかけてきたので意識を戻す。


 「ああ。私と凛との契約は彼女の終焉によって解かれる。

  もっとも、その後も現界し続けることは可能だがね」


 実際、過去に仕えた主人を看取った後にその子孫や主人が守った世界の末を見たこともある。

 ……たいがい途中で抑止に呼ばれるパターンなんだが。

 
 「ふ~ん。じゃあリンが死んだら私がバトラーのマスターになってあげるね。

  バトラーのおかげで普通のヒトよりも長生きできるみたいだし」


 ……は?
 
 な、何だって~!?

 このオレをここまで驚かせるとは……イリヤ、恐ろしい子。


 「ふむ……仕方がありませんね。バトラーと共に現界し続けるためです。
  
  イリヤスフィールがバトラーの主になることを了承しましょう」


 言葉とは裏腹に、それは名案ですね、といった具合にコクコクうなずいているセイバー。

 いや、もうちょっとイリヤが主になった場合を考えたほうが……。


 「えっ? 何言ってるのよセイバー。

  貴女は……解雇に決まってるでしょ、この……役立たず」


 ほらな?

 イリヤ……ホント容赦ないな。

 
 「そ、そんな!? 駄目です。やっぱり駄目ったら駄目なんです。

  イリヤスフィールがマスターなんて真っ平ごめんです!」


 イリヤがオレのマスターになった場合、自分がどうなるかを想像して涙目で講義してくるセイバー。

 正直可愛いのだが……何か笑えるな。


 「決めるのはバトラーだもーん。貴女はいいから黙ってなさい。

  この……無駄飯喰らい!」


 「ぐっ!」


 イリヤの口撃、セイバーにクリーンヒット。


 「いざという時頼りにならない最優!」


 「あうっ!」


 イリヤの口撃、セイバーにクリティカルヒット。


 「少女体型!」

 
 「かはっ!」


 イリヤの口撃……って、ちょっと待て。

 今のはイリヤの方にこそ相応しいのでは?


 「ふぅ、むなしい勝利ね」


 イリヤが畳に倒れ付してシクシク泣いているセイバーに勝ち誇る。

 
 「……さっきから見てればあんたら何やってんのよ?

  こっちは私と士郎のロンドンラブラブ時計塔生活について話し合っているって言うのに」


 「そうでしゅよ。"私としぇんふぁい"のしっぽりにゅれにゅれにゃ新婚しぇいかつのプランを考えなきゃならないんでしゅから」


 ……二人とも顔が赤い。

 何時の間にアルコールが?

 むむむ、どう言うことだ、衛宮士郎?

 オレは二人に両腕をホールドされて息も絶え絶えな衛宮士郎に目で問いかけた。


 (そんなのオレが聞きたいわ! と言うか、助けて下さい)


 ああ、大体理解した。

 まあ頑張れ。

 オレは事態を察知するとあっさりと衛宮士郎を見捨てる。

 ……当然と言えば当然だろう。

 
 「さて、イリヤスフィール。マスター云々の話は先の話だ。

  ……そうだな、天気も良いことだ。あの三人は置いて花見にでも行くとしよう」


 「う~ん、確かにまだまだ先の話……になるかどうかはリン次第ね。

  良いわバトラー、確りとエスコートして頂けるかしら?」


 「喜んで」


 そう言ってイリヤの手をとって歩き出す。

 実は既に花見用の食事の準備はできている。

 まあ予想外の展開で三人分の食事が余るが……セイバーなら絶対大丈夫だ。

 
 「ふぅ……行きましょうか、ライダー」

 
 「ふふ、そうですねセイバー。さ、行きましょう」


 後ろからはセイバーとライダーの凸凹コンビが手を繋いで走ってくる。


 この時が何時まで続くのかはわからない。


 だが、今この時が永遠に感じるほど充実していることは疑いようがない。

 
 なあ切継。

 
 オレは正義の味方とは別の道を選んだ。


 だけど、オレはオレにできる精一杯で誰かが笑っていられるように頑張っているよ。

 
 春の日差しの下、遠いどこかに思いを馳せながらゆっくりと歩き出した。


 
 




 それは有り得たかもしれない物語 

 
 fin

 



 side by 凛


 そこにあった刃は……刃は……って、何もないじゃないの!?

 さっきまで突き刺さっててたけど見えてた刃の部分は何処に行ったのよ!?

 ……少し落ち着こう。

 もしかしたらセイバーの持ってたのと同じやつかもしれな……って、本気で刀身が無いじゃない!

 
 「ふむ、いささか意表を突かれたな。

  凛のことだからさぞおどろおどろしいモノか金ピカゴージャスなモノが出てくるとばかり思っていたが」


 ……アンタ、喧嘩売ってる?


 「……もう良いわ。それで、この……剣?は使えるの?」


 一応だが聞いておく。

 もしかしたらライトセ○バーやゴルンノ○ァの如く刀身が後から出てくるのかもしれないし。
 
 と言うか、出てこないとしたらこれは宝具、って言うか剣として成り立つんかい!


 「当然だ。私自身では……使用できないが君になら使える。

  ソレは、そう言うモノだ」


 ……何か言いよどんだわ。

 皆もそう思うでしょ?

 思うわよね?

 ってか、バトラーの固有結界にあったそれが、私にしか使えないなんて馬鹿らしい。


 ……いいえ。待って、凛。

 そもそもコイツの存在からして馬鹿らしいのよ?

 だったらこんな馬鹿げた宝具の一つや二つ……何とか許容できるわ……よね? 


 「で? 一応だけど聞いておくわ。この剣の銘は?」


 「宝石剣リンリンだ」


 宝石剣リンリン……ね。

 ……?

 パンダの名前だったかしら?

 …………って、馬鹿言ってんじゃないわよ!


 「バトラー!? アンタ私を馬鹿にしてるの!?」


 「何を行き成り……?

  私はいたって真面目だが?」


 さも心外だとでも言いた気に真顔で首を捻るバトラー。

 ……本気で言ってるんならなおのこと悪いわよ!!


 「ちなみに、真名の開放時には『マジカルリンリントキメキラブラブコケティッシュボンバー』

  と、叫ばなければいけないから注意するように」


 「……本気と書いてマジと読むぐらい、待ちやがれや」


 それを私に、遠坂凛に言えと?

 それは死刑宣告以外の何者でもないじゃないの!

 
 「よく考えろ。言うは一生の恥。言わぬ場合はこの場でデッドエンドだぞ?」

 
 あっ、一生の恥なんだ。

 やっぱり。

 ……なおのこと言えないじゃない!


 「ふむ、やる気ナシか……では仕方がない。
 
  とっておきだったが、使うと良い」


 何よ、もったいぶってホントはもっと良い物があるじゃ……って何じゃそりゃ!?


 「もちろん……本気狩るマジカルリンリンスーツバトラーズエディションリミテッドモデルだが……それが何か?」


 アンタのエディションがどうした!?

 リミテッドモデルがどうした!?

 それを私に着ろと言うのか!?

 ピンクのフリフリ満載でなおかつコレでもかと股下数cmまで上げられたスカート丈。

 どういう意図なのか、オヘソの部分は丸見えだし。

 両腕両足の部分は動くのに邪魔だろと言うほど巨大なリボンがついている。

 二ーソックスは標準装備なのか畳んで置いてあるし。

 そしてそして、左胸と背中の部分には某胴着の如く凛と書かれている。

 ……そんな、極限なまでに着たくない一品がそこにはあった。 


 「私が着るのはバイオレンスにもほどがあるだろう? 

  ならば、この場でコレを着るものは……君以外有り得まい?」

 
 ザッ……ケンナ!

 私は、遠坂凛なのよ!?

 たとえ全財産失うことになってもそんなもの着るもんですか!


 「む~。何と我侭な……。
  
  凛、君一人が恥をかくだけで冬木の、いや。

  世界の人々が救えるのだぞ? これはもう英雄と言っても過言ではない!

  そう。今回の件をもって君は英霊の階段をスキップにホップして駆け上がるのだ!」


 英霊?

 つまり、こんなアホな宝具をもってこんなアホな服を着たままどっかの誰かの為に戦えと?

 ……そんなの、何たらレンジャーに任せるわよ!

 私は優雅に椅子に座りながらワインを飲みつつお金にまみれた生活をしたいのよ!」

 
 「……それはいささか俗物すぎるような気がするな」


 「私は良いのよ! って、あ~もう!

  アンタならこんなの出さなくても聖剣でも何でも出してアンリ・マユぐらい吹き飛ばせたでしょ!」 


 絶対出せたわよね?

 それで、簡単に吹き飛ばせるところをココまでアホ見たいに引っ張ったんでしょ!?


 「いや。幾ら私でも同じ日に三度あれ程の神秘の投影はしんどいし……正直メンドイ」


 メンドイんだ。

 ふ~ん。

 それでこんな、世界を自分の心象風景で塗り替えるなんて大掛かりなことしでかしてるんだ。

 いいわ……やってやろうじゃないの。

 やってやるわよ。

 やらないでか!

 
 「宝石剣リンリンマジカルリンリントキメキラブラブコケティッシュボンバー!!」


 ……私の魂の叫びとは裏腹に、何も起こりやがらない。


 「くっ――――」


 私の耳に聞こえてきた、聞こえてはならない笑い声に私はギシギシと音を立てて首をめぐらせた。

 するとそこには、右手を握って口の前にあてて笑いを噛み殺す我が執事がいやがりました。

 
 「…………ナニカ、イイノコスコトハアルカシラ?」


 「くっくっ……ああ、いや待て凛。
 
  まさか君が本気で言うとは思っても見なかったんでね、つい……な?」


 な? じゃないわよ!

 殺すわよ?

 さっきも言ったけど、今度こそ本気と書いてマジで殺しにかかるわよ!?

 それこそ生まれてきてゴメンナサイって大声で叫びたくなるぐらい惨たらしく!

 
 「ああ、先ほどの件で今回現界したことの元は十分取れた。

  これは……それにたいする対価だ」


 は?

 と、私が疑問を浮かべる間もなくバトラーが右手に何かを持って絶対なる言葉を言いながら一閃した。

  
 「主を使って面白おかしく遊ぶ為にはこれぐらい強くなきゃならんのよブレード!バトラービーム」
 

 ちょっとバトラー。

 どんな言葉にルビふったのよ!?

 ってか、ビームって何さ!?

 それで消し飛ぶこの世全ての悪もどうよ!?


 「ふっ、執事は勝つ!」


 高らかに宣言するバトラーの顔はとても満ち足りていて……激しくムカついた。

 だから、


 「世界も狙える黄金の右!凛ちゃんトキメキストレート」

 
 コレぐらいのことは許されるだろう。

 私の必殺の右を受けて、赤茶けた空を華麗に吹っ飛ぶバトラーを見ながら何となく思った。 






 ……これが、今回の聖杯戦争の結末である。

 時計塔で事細かにノンフィクションで伝えてやったって言うのに、あの馬鹿共!

 お~ぅ、これがジャパニーズアニメーションですか!?

 ヤック・デカルチャ~!

 などと、お前らほんとに英国人かと言いたくなるような反応が返ってきたあげく、お咎め一切なし。

 ……その後に、どうだ、大丈夫だっただろ?

 と言いたげなバトラーが更にむかついて殴ったのはまた別のお話。
 



 続かない……ってか、続くわけがないです



ケイネス「どうぶつの森だと……!?」
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:13:51.10 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「街中でキャスターを捉え追跡したまではいいのだが……」

ケイネス「まさかアインツベルンの森に入って行くとはな」

ケイネス「仕方がない。ランサー」

ディル「はっ」

ケイネス「キャスターを追跡し駆逐しろ。セイバーと鉢合わせることがあれば、共闘に持ち込むのだ」

ディル「御意」

ケイネス「よし。私は単身でアインツベルンの城に乗り込む」

ケイネス「ふふふ……キャスター討伐の報酬は私が独占してやる」

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:14:54.50 ID:akAOWbw/0
期待

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:17:07.27 ID:eVFwcH4H0
 森

ケイネス「か弱い結界だ。アインツベルンの魔術とはこんなものか」

ケイネス「まあ、一応は警戒もしておこう。何せアインツベルンは御三家様の一角だからな」

駅員「ウッキー!!」

ケイネス「……ぬ? サルか?」

駅員「もうすぐ汽車が出発するっキャ!」

ケイネス「?」

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:19:21.59 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(な、なんだ? サルが人語を……?)

駅員「さあさあ、早く乗るっキャ!」

ケイネス「貴様……何を言っている」

駅員「私は駅員ですっキャ! ウッキー!」

ケイネス「答えろ。貴様は何者だ。魔物の類かサル」

駅員「ウッキー!」

ケイネス「……」イラッ

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:21:00.15 ID:eVFwcH4H0
車掌「出発しまーす」

駅員「ああッ。早く早くお客さん!」

ケイネス「うわッ、やめろ! 私は客人などでは……」

駅員「よいしょっ」

ケイネス「ぬわぁ!」

 ~♪(汽車のBGM)

駅員「良い旅を!」

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:21:35.07 ID:GX6E26Mv0
全力で支援する

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:24:23.89 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(何ということだ……これはきっと敵の罠だ。私としたことが、こんな単純な罠に……)

ケイネス(クソッ! こんな汽車、ヴォールメン・ハイドラグラムで木っ端微塵にしてくれる!)

みしらぬネコ「やあ」

ケイネス「!?」

みしらぬ「珍しい旅人さんだね」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:24:44.48 ID:1IR8EC0k0
ケイネスは出てくるだけで面白いな

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:27:56.77 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(今度はネコだと!? アインツベルンめ、いったい何の魔術を……!)

みしらぬネコ「どうしたの? 凄く怖い顔」

ケイネス「……」

ケイネス(サルもそうだったが、奴等は基本的に敵意も殺意も皆無らしい)

ケイネス(否、それが作戦か。油断させたところを……窮鼠ネコを噛むとはこのことだな)

ケイネス(まあ、作戦が露呈したからには貴様らに勝機はない。ロード・エルメロイの恐ろしさをとっくり教えてやる)

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:30:02.92 ID:EqsxyZ9i0
期待

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:32:14.22 ID:eVFwcH4H0
みしらぬネコ「面白い旅人さんだなぁ。名前は何ていうの?」

ケイネス「……」

みしらぬネコ「あーっ、無愛想すぎるよ。オレだって生きてんだからね、無視は傷つくよ」

ケイネス「……」

ケイネス「冥土の土産に教えてやる。私はアーチボルト家九代目当主……」

ケイネス「ケイネス・エルメロイだッ!!」

ケイネス「Fervor,mei sanguis!」

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:35:44.13 ID:eVFwcH4H0
みしらぬネコ「うわー! 何それ凄い! 何の手品!?」

ケイネス「Scalp!」シュパパパ

みしらぬネコ「ぅおッ、あぶなっ」スッ

ケイネス「避けただと!?」

みしらぬネコ「危ないでしょ! 暴力よくない! くらえネコパンチ!」

ケイネス「ぐわァ!!」

ケイネス(ヴォールメン・ハイドラグラムが何の苦もなく突破されただと……!?)

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:37:08.46 ID:uyIw6rhN0
ケイネスも言峰も切継も雁夜もネタにされるのに
一人だけネタにされにくいトッキー

動物の森に龍之介放したら面白そうだなwww


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:37:41.85 ID:EqsxyZ9i0
みしらぬネコ強すぎワロタ

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:40:02.91 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(こ、ここここいつは何者だッ! まさか、これひとつがサーヴァントなのか!?)

ケイネス(確かに、幾ら私でもサーヴァントへ直接攻撃することは不可能だ。サーヴァントにサーヴァントで対抗する他ない)

ケイネス(待て。そう考えると、今の私は相当の窮地に陥っていることに……!)

ケイネス「令呪を以て命ずる! ランサー、今すぐこのバケモノを始末しろ!」

ケイネス「……」

ケイネス「ランサァアァアアアア!!!」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:43:30.89 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「ランサーどこだ! まだ近くにいるだろう!! こんの役立たずめが!!」

ケイネス「出て来い! 令呪だぞ令呪!! ソラウ!! そうだ!! ソラウ助けて!!!」

みしらぬネコ「あの……大丈夫?」

ケイネス「ウオオオオオオオオオオ来るな来るな! 私の聖杯戦争はこんなところでは終われん!!」

みしらぬネコ「せーはいせんそー? ってなに?」

ケイネス「ウオオオオオオオぉぉぉぉ……? な、んだと……?」

みしらぬネコ「せーはいせんそー……ふむふむ、イナリ家具の掘り出しモノの名前かな?」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:44:29.14 ID:W1g9Jek90
ケイネス落ち着け

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:46:56.55 ID:xQ4BJXks0
マミさん並の豆腐メンタル

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:47:39.36 ID:eVFwcH4H0
車掌「次はカワ村ぁ、カワ村でございます、ウッキー!」

ケイネス「かわむら……?」

みしらぬネコ「おっ。もうカワ村まで来たのか」

ケイネス(……なんだ……? 今までのは私の一人相撲か?)

みしらぬネコ「キミはここで降りるの? それとも、もっと先まで行くのかな?」

ケイネス「ぬ? あ、ああ! 私はここで降りよう」

ケイネス(早くアインツベルンの森に戻らなければ……。敵陣とはいえあの森が愛しいぞ)

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:48:29.96 ID:JuSzOSNL0
ケイネスって自分の村に穴掘りまくって侵入者を迎え撃ちそう

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:49:31.22 ID:eVFwcH4H0
駅員「カワ村ぁ、カワ村へようこそ。ウッキー!」

ケイネス「ま、また貴様か!!」

駅員「? 誰ですキャ?」

ケイネス「ッ!? ……違うサルか……?」

駅員「よく分からないけど、歓迎いたしますキャ! カワ村は良いところですキャ!」

ケイネス「……」

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:52:37.32 ID:eVFwcH4H0
車掌「出発いたします! ウッキー!」

ケイネス「……」

ケイネス「ふむ。また趣のある森へと来てしまった」

たぬきち「ちょっと、ちょっと! そこの人ーっ!!」

ケイネス「……今度は何だ?」

たぬきち「ふぅ! 間に合っただも!」

ケイネス(タヌキか)

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:53:19.71 ID:yJiQfPxgO
虎とライオンに期待してる俺がいる

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:53:22.19 ID:CZgyDui90
どうつぶのもり知らないけど支援

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:53:32.71 ID:BRw3vXD90
守銭奴北

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:55:08.21 ID:YAz35KtG0
アイマススレかとオモタ
支援

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:55:23.17 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「何か用か?」

たぬきち「あなたはアレだなも! さっき連絡があったコトミネさんだなも!」

ケイネス「? いや、私はコトミネではない。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ」

たぬきち「あれ? そうだっただも? すみません、人違いでした」

ケイネス「フン、気にするな。私は行くぞ」

たぬきち「コトミネさん遅いだも……」

ケイネス(コトミネ……)

ケイネス(ん? コトミネ……?)

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:55:38.43 ID:cSe5XAi80
なんだこれwwwwwwwwww

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:56:34.29 ID:EqsxyZ9i0
マーボーさん何やってんすかwww

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:58:35.41 ID:kMEe33ui0
期待age

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 14:59:43.73 ID:3nGHP2d/0
これは期待

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:01:37.25 ID:fCQJf+gh0
支援

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:03:24.93 ID:YYvlVmvE0
これは期待

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:06:20.71 ID:BRw3vXD90
こいつはキツネとゴキブリ(赤)に期待wwwwww

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:07:44.45 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(確か監督役、そして聖杯戦争の初っ端、脱落した者の名もコトミネではなかったか?)

ケイネス(ますますわけが分からん。何故アインツベルンの森から出た汽車がコトミネに……)

ケイネス(あの汽車や不可思議な動物共も魔術的なモノ……奴等は繋がっていた、ということか?)

クワトロ「ぁあ、こんにちわぁ」

ケイネス「む」

クワトロ「はじめましてだねぇ」

ケイネス(今度はカエルか……)

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:09:04.27 ID:W1g9Jek90
何故この組み合わせを思い付いたのか

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:09:29.65 ID:lW0zZjDZ0
何でどうぶつのもりにした

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:10:53.36 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「丁度いい。貴様に聞きたいことがある」

クワトロ「んん? なにぃ? ところでキミ名前はぁ?」

ケイネス「私はケイネスだ。――コトミネという名を知っているか?」

クワトロ「ことみねぇ? う~ん、ちょっと分からないなぁ」

クワトロ「……あ、でもさっきたぬきちくんの店でそんな名前を聞いたような……」

ケイネス(たぬきち? たぬき、ち……さっきのタヌキの名か)

クワトロ「本人ならよく知ってると思うなぁ」

ケイネス「そうか。そのたぬきちとやらの店はどこだ?」

クワトロ「地図見せたげる~。ここだよぉ」

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:13:51.29 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「恩に着る」

クワトロ「うん~じゃあねぇ」

ケイネス(ここの連中は親切なようだ。ソラウとは大違いだな……)シュン

ケイネス(……そろそろたぬきちの店だ)

ケイネス(それにしても、タヌキが店を開いているなど妙な話だな)

ケイネス「お、ここか。……何て貧相な店構えだ」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:15:00.43 ID:W1g9Jek90
ここにいた方がケイネスは幸せだな

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:15:16.94 ID:fCQJf+gh0
コトミネさんカワ村ってまたベタな

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:16:44.97 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「邪魔するぞ」

綺礼「あっ」

ケイネス「あっ」

綺礼「……」

ケイネス「……」

たぬきち「おーっ! さっきのケイネスさんだも! いらっしゃいだも!」

ケイネス「あ、ああ」

ケイネス(何故、言峰綺礼が作業着を着てパイプイスに腰掛けているのだ……!?)

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:18:46.78 ID:v/HYpFzi0
ワロタ

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:19:01.84 ID:eVFwcH4H0
たぬきち「コトミネさん、ちょっと待っててだも! 準備があるだなも!」ササッ

綺礼「ハイ」

たぬきち「ケイネスさん。悪いけど買い物ならまた後でにしてだも!」

ケイネス「分かった」

綺礼「……」

ケイネス「……」

綺礼「何故、貴様がここにいる?」

ケイネス「私のセリフだ!」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:20:20.02 ID:fCQJf+gh0
ワロタ

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:21:03.06 ID:JWBKcy4d0
これは期待www

支援

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:21:39.98 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「まあこの際それはいい。私には聞きたいことが山ほどあるのだ」

綺礼「何だ」

ケイネス「この……カワ村だったか? カワ村の住民や汽車に乗っていた動物共は何なんだ!」

綺礼「彼らは、とても心優しい。人間とは大違いだ」

ケイネス「そういうことを聞いているのではないッ!」

綺礼「ここはどうぶつの森だ」

ケイネス「……」

ケイネス「どうぶつの森だと……!?」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:24:45.62 ID:2Qo5LXTY0
なんなんだこれはどうやって終わらせんだよ

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:26:15.54 ID:W1g9Jek90
愉悦を見つけたのか?言峰。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:27:00.55 ID:Emlervvf0
いいね

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:27:34.39 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「ふざけているのか? そのままではないか!」

綺礼「ふざけてなどいない。ここはどうぶつの森という世界なのだ」

ケイネス「世界……だと? 冬木はどうした? ここは日本の冬木市であろう!」

綺礼「ある種の固有結界だ。この空間を作り出した術者がいる。聖杯戦争のマスターの中にな」

ケイネス「何……! まさか、貴様かッ?」

綺礼「私ではない」

ケイネス「フン。その固有結界にむざむざと入ってしまったというわけか、私達は」

綺礼「かのロード・エルメロイが、見習い修了程度の魔術しか心得ていない私と同程度か」

ケイネス「精々粋がっておけ。それと貴様、その服装だと引越し業者にしか見えんぞ」

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:31:52.93 ID:eVFwcH4H0
綺礼「これは店長に着ろと言われたのだ。ここで働く身となっては是非もない」

ケイネス「……貴様、今何と言った?」

綺礼「私はここで働く身なのだ」

ケイネス「聖堂教会に勤める神父が、固有結界の中でオンボロ商店のアルバイトだと? 滑稽の極みだな」

綺礼「ここから出る方法が見つからぬ内は、とりあえず金を蓄えておく他ない」

ケイネス「戯言を。ここは固有結界だ。何をしようが、それは外の世界に影響しまい」

綺礼「何を考えている? ロード・エルメロイ」

ケイネス「決まっているだろう。片っ端から住民を襲い、ここから出る方法を模索するのだ」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:31:54.36 ID:2DZ4QZ3t0
>>48
どうぶつの森に終わりなんてない

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:33:05.01 ID:WK9Z8YRZ0
だれの固有結界だよ

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:33:35.86 ID:fCQJf+gh0
ケイネスそれはあかん

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:36:18.85 ID:eVFwcH4H0
綺礼「人情に欠けた輩だな。時計塔の講師というのは」

ケイネス「何とでも言うがいい。貴様、敵の固有結界に閉じ込められているという危機感を持て」

綺礼「幸いにもこの中に我らの敵と思わしき生物はいない。まるで日本の片田舎だ」

ケイネス「日本という国は醜い。私が綺麗になるまで掃除してやる」

綺礼「……」

ケイネス「戯れ合いはここまでだ。精々虚無の生活を楽しむがいい」

綺礼「……」

綺礼「ここに私の求める愉悦が在るのなら、喜んで閉じ込められよう……」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:36:42.82 ID:YAz35KtG0
before →after
汚いケイネス 綺礼なケイネス
ってわけか?

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:39:23.07 ID:eVFwcH4H0
 外

ケイネス(固有結界……それはサーヴァントの持つ宝具による力だ)

ケイネス(だが奴は、聖杯戦争に参加しているマスターの術だと言った)

ケイネス(……ありえるものか? それとも私を欺いたのか?)

シドニー「あ、こんにちは」

ケイネス「ぬ」

シドニー「えへへ」

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:42:12.81 ID:gkrOMuKs0
ケイネス萌え

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:42:17.44 ID:eVFwcH4H0
シドニー「初めまして。引っ越して来た方ですか? 私はシドニーです」

ケイネス「……ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ」

シドニー「かっこいいお名前ですね。これからよろしくお願いします」

ケイネス「あ、ああ……」

ケイネス(やけに可愛らしいコアラだな)

シドニー「あっ。ケイネスさん、よかったらこれどうぞ」

ケイネス「む、何だこれは」

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:42:22.52 ID:fCQJf+gh0
しえ

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:45:13.51 ID:eVFwcH4H0
シドニー「リンゴです♪ この村の特産品なんですよっ」

ケイネス「……どれどれ」ガブッ

ケイネス「!!」

ケイネス(何だ……こんなリンゴ……いや、こんな美味い食べ物、口にしたことがない……!!)

シドニー「どうですか?」ニコニコ

ケイネス「……ああ、とても美味い。ありがとう」

シドニー「よかったぁ」

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:48:31.32 ID:bmqk7+xvO
馴染んでんじゃねーかwww

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:48:41.29 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(ああ、どんなに良い腕前の料理人も、これに敵う味は作り出せぬであろう)

ケイネス(これは自然の味、そのものなのだ。人間の手が加えられたものではない)

ケイネス(……バカな。ここは固有結界だ。全て幻想、偽りなんだ……)

シドニー「ケイネスさんっ!」

ケイネス「ッん?」

シドニー「まだ引っ越して来たばかりですから、村のこと分からないでしょう?」ガシッ

ケイネス「ぬぉっ、ま、まてっ」

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:49:12.00 ID:2Qo5LXTY0
シドニーなら仕方ない

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:51:13.81 ID:lW0zZjDZ0
これは微笑まし過ぎて無性に口角が上がるwwww

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:51:28.09 ID:eVFwcH4H0
 たぬきち商店

たぬきち「――ふぅ。コトミネさんはよく働いてくれて助かるだも!」

綺礼(……ここも、外と同じか……)

たぬきち「最後の仕事だなも! 村の掲示板に、この店について宣伝してほしいだも!」

綺礼「分かりました」

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:51:47.06 ID:CZgyDui90
片っ端から住民を襲い、ここから出る方法を模索するのだ(キリッ

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:53:15.71 ID:eVFwcH4H0
 掲示板

綺礼「……」

綺礼「現実にも、虚無にも、私の求める愉悦はないのか……」カキカキ

『嗚呼、求めるモノは何処に――』

綺礼「よし。これでアルバイトは終わりだ」

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:54:41.83 ID:lmOCc1Lc0
パプワくんのパプワ島に来た殺し屋達と同じ流れだなwww

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:56:17.55 ID:eVFwcH4H0
シドニー「ここが郵便局です! たぬきちさんにローンを支払ったり、貯金したりもできます!」

ケイネス「ほうほう」

シドニー「すぐそこにあるのは、見ての通りゴミ捨て場です!」

ケイネス「ゴミ捨て場の周囲に大量の花が咲いているのだが……」

シドニー「あっ。あれはこの村のトキオミさんっていう方が植えたんですよ」

ケイネス「フム。トキオミか……トキオミ……? どこかで聞いた名だな」

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:57:07.11 ID:fCQJf+gh0
トキオミさん何してるんですか

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:57:28.56 ID:lmOCc1Lc0
何人来てるかwktk

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 15:58:39.25 ID:eVFwcH4H0
シドニー「ささっ、次行きましょう! えへへ、ほら早く早くっ」

ケイネス「ハハハ、そんなに急ぐな。時間はたっぷりあるのだ……」

ケイネス「……、時間は……」

ケイネス(そうだ……こうしている間にも聖杯戦争は続いている)

ケイネス(ランサーは今もキャスターと戦い、もしかしたらセイバーとも死闘を繰り広げているかも知れない)

ケイネス(……)

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:00:50.20 ID:1ae3+YNUO
追い付いた支援

ケイネスさんどうぶつの森にいたほうが幸せになれそうだな

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:01:23.17 ID:WoDZ628X0


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:02:13.93 ID:eVFwcH4H0
シドニー「海ですよ」

ケイネス「海だな」

シドニー「スズキという魚がとてもよく釣れます。『またお前かーっ!』って叫んでる人も結構いますよ」

ケイネス「釣りか……。ソラウのエロ画像スレに釣られた経験しかないな……」

シドニー「?」

ケイネス「何でもない。次の案内を頼む」

シドニー「はいっ!」

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:03:36.67 ID:fCQJf+gh0
汽車だから64、GCの方だろうから広いんだろうなー

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:04:25.85 ID:kMEe33ui0
DSは狭いのか

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:05:50.91 ID:eVFwcH4H0
シドニー「博物館です。入ってみましょうか!」

ケイネス「おお。こんな立派な建物が……」

フータ「zzz」

ケイネス「館主らしきフクロウが寝ているぞ」

シドニー「夜行性の方なんです」

ケイネス(習性は反映されているのか)

シドニー「虫コーナー行ってみましょう」

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:07:08.45 ID:mHThNhfjO
ケイネス馴染みまくってんじゃねーかwww
まさかマスター全員いるのか?ムサイなwww

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:09:11.99 ID:fCQJf+gh0
>>79
村の住人の数が15人から8人に減ったのは大きいと思うんだ

83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:09:15.70 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「おお、広――」

ケイネス「ぬわァッ!!? 何だこの黒いのは!!」

アナウンス『お客様にお願いいたします』

アナウンス『館内を這っているゴキブリは、トキオミ様から寄贈された大切なモノです』

アナウンス『踏みつけてしまわないよう注意してください』

ケイネス「これが例のゴキブリか! トキオミという奴はこんな不潔な生き物を……!」

シドニー「まぁまぁ。見た目は気持ち悪いですけど、カみたいに刺したりしませんよ」

ケイネス「そ、そうか。なら良い」

シドニー「ほら、クモですよ! これもトキオミさんの寄贈です!」

ケイネス「八本も足が……恐るべしトキオミ」

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:12:31.73 ID:eVFwcH4H0
シドニー「ふぅー……楽しかったですね!」

ケイネス「ああ。化石コーナーにはひとつも展示されていなかったが」

シドニー「トキオミさんいわく『売りたくなってしまうんだッ!!』だそうです」

ケイネス「売るのか?」

シドニー「化石はたぬきちさんが高く買い取ってくれるんですよ」

ケイネス「あのタヌキはいったい何の商売をしているんだ」

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:14:22.82 ID:eVFwcH4H0
 海

綺礼「ふぅ。一段落ついたな」

時臣「~♪」

綺礼「!?」

時臣「おっ、引いてる引いてる……!」

時臣「おりゃあああッ!」

時臣「……ッ、またお前かーっ!!」

時臣「くそッ、どうしてこうスズキばかり……」

綺礼「こんにちは」

時臣「ひゃあああッ!!?」

86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:15:38.26 ID:v/HYpFzi0
時臣めちゃくちゃ楽しんでるじゃねーかwww

87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:16:08.23 ID:mHThNhfjO
トッキー萌え

88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:17:57.74 ID:eVFwcH4H0
時臣「きっききききっきれいれいれい!!? どどどどどうしたこんなところで!! ハッハッハ!!!」

綺礼「少年のような顔でした。我が師の意外な一面を見ることになるとは」

時臣「……何故キミがここにいるのだ」////

綺礼「知らぬ間に入り込んでしまいまして……。師はどうしたのです? やはり迷い込まれましたか?」

時臣「いや、私は……フフ、そろそろ潮時か」

綺礼「?」

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:19:02.64 ID:lW0zZjDZ0
クソワロタ

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:19:05.39 ID:fCQJf+gh0
まさか

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:21:10.28 ID:rO7zS6M70
トッキーかわいい

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:23:24.41 ID:eVFwcH4H0
綺礼「まさか、ここはあなたの固有結界なのですか?」

時臣「さすがだよ綺礼。サーヴァントにしか成しえない固有結界を、私の発動したものと見抜くとは」

綺礼「いったいどうやって……」

時臣「恥ずかしながら、ギルガメッシュを呼び出す際に少々術を失敗してね、部屋の片隅にこれが残されていた」

綺礼「……? これは、鈍器ですか?」

時臣「鈍器ではない。決して鈍器ではない。俗に言うゲーム機という奴だ」

綺礼「ゲーム機? この鈍器が?」

時臣「鈍器ではない」

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:24:06.07 ID:CZgyDui90
ドンキー?

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:24:18.58 ID:v/HYpFzi0
GCか

95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:24:50.44 ID:gHW5y9+U0
固有結界は別に人間でも出来ます

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:27:52.14 ID:eVFwcH4H0
時臣「どうやら未来の玩具を招き寄せてしまったらしいんだ」

綺礼「……ニンテンドーゲームキューブ」

時臣「そう。そして、中にはどうぶつの森と書かれたディスクという円盤」

時臣「そこのパワーボタンと呼ばれる白いスイッチを押し、固有結界が発動する」

綺礼「そんなことが……」

時臣「まさかとは思ったが、事実だ」

時臣「おそらく二次元の世界に自身を具現化させようとした魔術師がこれを作ったのだろう」

綺礼「……」

97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:28:17.31 ID:kMEe33ui0
GCは鈍器、持ち手有るし

98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:33:27.95 ID:eVFwcH4H0
時臣「そろそろ、終わりにしよう。聖杯戦争という現実に目を向けなければ」

綺礼(……村に荒らされた形跡はない。ロード・エルメロイ……)

綺礼「少し時間を頂けますか」

時臣「ん?」

綺礼「気になることが」

時臣「分かった。では、今夜零時にこの結界を取り去る」

綺礼「感謝します」

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:36:26.74 ID:eVFwcH4H0
綺礼「……」

綺礼「ん? ……オノが落ちている」

綺礼「ふむ、それにしてもこの村は邪魔な木が多い」

綺礼「……」

 カンッ カンッ ズドドド……

綺礼「オォウ、三発で倒れてしまうとは」

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:37:19.15 ID:eVFwcH4H0
 カンッ カンッ ズドドド……


 カンッ カンッ ズドドド……


 カンッ カンッ ズドドド……


 カンッ カンッ ズドドド……

101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:37:40.82 ID:kMEe33ui0
切りまくんなwwww

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:38:00.43 ID:akAOWbw/0
愉悦に目覚めたか

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:39:43.72 ID:eVFwcH4H0
 カンッ

綺礼「む。ミノムシか?」

綺礼「……」

 カンッ ズドドド……

綺礼「フフフ」

クワトロ「ウワァー!! 木が!! 木がない!!!」

綺礼「!」

綺礼「しまった、切り過ぎた」

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:42:02.46 ID:IT7rlQKFO
ワロスwww

105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:42:36.50 ID:kMEe33ui0
ハチでてこなかったっけ

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:42:54.51 ID:eVFwcH4H0
 交番

ケイネス「いやぁ、良かった良かった。まさか水銀を落とすとは」

シドニー「うっかりさんですね」アハハ

おまわりさん「良かったでありますね!」

ケイネス「うむ。苦労かけたな」

シドニー「」

ケイネス「ん? どうしたシドニーよ」

シドニー「」

ケイネス「? ……え」

シドニー「」

ケイネス「木……が……ない……」

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:43:41.83 ID:kMEe33ui0
綺礼が荒らしてるじゃないかwww

108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:44:47.43 ID:1kLCbmKZ0
ワロタwwwwwwwww

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:46:41.59 ID:p0o2C+UEO
先生の頭と掛けているのか

110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:49:25.78 ID:eVFwcH4H0
シドニー「え、え、え……」

クワトロ「やめてぇえええっっ!!」

シドニー・ケイネス「!?」

綺礼「ハッハッハ! 虫網で、住民を、叩く。ハッハッハ!」

ケイネス「!! おい神父! 何をやっている!」

綺礼「ん? ああ、ロード・エルメロイか。久しいな」

ケイネス「さっき会ったばかりであろうが!」

綺礼「そうだったかな? いやはや、何もかも懐かしく感じる」

111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:50:42.17 ID:nB27j7h4O
これが愉悦か

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:55:14.54 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「許さぬぞッ……!!」

綺礼「ほう、やる気か? 今ならばロード・エルメロイも片手で葬ることができそうだ」

ケイネス「調子に乗るな外道が! Fervor,mei sanguis!」

綺礼(と、言っても私はこいつには勝てない。だが私には秘策がある)

綺礼(時臣師の元へ戻らねば……)ダダッ

ケイネス「ire:sanctio!」

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:55:42.87 ID:V68uLfzH0
木を切ることが愉悦ってwwwww

114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:58:09.70 ID:VUhVKtDS0
虫網わろた

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 16:59:02.25 ID:YAz35KtG0
ケイネスのSSでランサーが空気なのは珍しい

116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:00:24.71 ID:eVFwcH4H0
綺礼(木を全て切ったのが手痛いミスか。まあ、海はそう遠くもない)

ケイネス「待て! ネズミめが!」

綺礼「生憎だが、私はこの村の汚い連中と違ってヒトなのでね」

ケイネス「きっさっまぁああああああ!!! ッぅお!?」ズボッ

ケイネス「ぐわァア!!? な、何だッ!!」

綺礼「フフフ……落とし穴の種だ! フハハハ!!」

綺礼「果たして幾つ仕掛けたかな?」

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:03:40.17 ID:nghxaC3kO
きたないさすがきれいきたない

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:05:33.65 ID:lj+e//UQ0
スズメバチとかタランチュラとかも出てきそうだな

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:05:57.12 ID:p0o2C+UEO
追いついた
トッキーがGC扱えるのは驚きだわw

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:06:18.45 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「くッ……小細工を……!」

綺礼(時臣師は……あそこか)

綺礼「我が師よ! 助太刀をお願いします!」

時臣「ん、どうした綺礼!? って何だこの無残な村の姿は!?」

綺礼「奴です! あのロード・エルメロイの仕業です!」

時臣「何ッ……おのれぇぇえええ!!」

ケイネス「貴様はアーチャーのマスターか! フン、友好関係を築いていたわけだな!」

時臣「来い、ロード・エルメロイ!」

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:07:04.15 ID:kMEe33ui0
なすりつけwwww

122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:08:08.64 ID:HwMKUSUI0
マスターソードを使え!

123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:09:55.60 ID:OFK1zr3tP
ケイネス先生ってとりっぴい役の人だろ

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:10:16.54 ID:eVFwcH4H0
綺礼「というわけで、先にタイを釣った方が勝ちです」

時臣「行くぞ!」シュッ

ケイネス「行けぇ!」シュッ

綺礼「いかにスズキが多いとはいえ、タイもなかなか釣りやすい魚です」

ケイネス「……」

時臣「……」

綺礼「先に釣るのはどちらなのでしょうか」

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:11:43.71 ID:vAPMds610
綺礼が何をしたいのかさっぱりわからん

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:14:03.53 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「!」キュピーン

時臣「ッ?」

ケイネス「……」スッ

時臣「何だそれは?」

ケイネス「携帯電話だ。ソラウに持たされた」

時臣「……?」

綺礼(何をする気だ……?)

ケイネス「2ちゃんねるにスレ立て……『名前をタイにして書き込んだらソラウのエロ画像zipやるよ』と」

時臣・綺礼「!?」

127 : 忍法帖【Lv=31,xxxPT】 :2012/03/05(月) 17:14:59.41 ID:jIQVPwYQ0
工エエェェ(´д`)ェェエエ工

128 :タイ:2012/03/05(月) 17:15:09.48 ID:IZ0zaTG00
クマー

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:16:10.61 ID:9yVZcFsH0
お前は一休さんかwwwwwwwwwwwwwwwww

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:16:41.38 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「見ろ、もう三人もタイという奴からの書き込みが来た! タイ釣れたぞ!」

綺礼(何言ってんだこいつ)

時臣「……どういうことだ?」


時臣「おっ、引いてる。それっ! やった! タイだ!」

綺礼「時臣師の勝ち」

ケイネス「はぁ!!?」

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:20:29.94 ID:LogQX+3d0
負けてんじゃねぇかwwwwwwwwww

132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:20:48.05 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「何を言っている! ふざけるな!!」

綺礼「ふざけているのはお前だ。まさかロード・エルメロイがくだらんダジャレ好きの親父だったとはな」

ケイネス「理屈は通っているであろう!」

綺礼「屁理屈だ」

綺礼「とにもかくにも、この勝負は時臣師の勝ちだぞ」

ケイネス「そ、そんなッ……私はッ……」

綺礼「残念だったな」

133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:21:01.34 ID:CZgyDui90
ちゃんねらwwwww

134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:23:34.81 ID:eVFwcH4H0
シドニー「ケイネスさん……」オロオロ

ケイネス「シドニー!」

シドニー「うぅ、カワ村が……カワ村がぁ……」

ケイネス「よしよし、元気を出せ。木は何度でも蘇るさ」

時臣(この男、本当に木を切った張本人なのか?)

綺礼「……」

時臣(まさか、とは思うが……言峰綺礼……)

クワトロ「いたいよぉぉ」

時臣「ん、キミは……」

135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:26:23.32 ID:eVFwcH4H0
時臣「どうかしたのかい?」

クワトロ「ぅぅう、そこの作業着のおじさんに頭を叩かれたんだよぉぉ」

時臣「! 綺礼っ」

綺礼「……はい」

時臣「本当なのか?」

綺礼「……」

時臣「……そうか。残念だよ綺礼」

綺礼(戯れが過ぎたか……確かにこの村、台風一過のような惨状に……)

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:30:29.90 ID:eVFwcH4H0
綺礼「師よ、そのゲームキューブにはリセットボタンなるものもついていますよね?」

時臣「ん? ……ああ、確かにあるな」

綺礼「それを押せば、また村は初期の状態に戻るはずです」

時臣「そうなのか?」

綺礼「はい」

綺礼(データをセーブしていなければの話だが)

時臣「……だが、それでは私が博物館に寄贈したゴキブリやクモは……」

綺礼「消えますね」

137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:30:51.29 ID:cxkKeTVn0
綺礼が網でカエル叩いてるの想像したらクッソワロタwwwwwwwww

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:32:50.44 ID:P2+Aq3ts0
どうしても、ステイナイト側で再生される

もちろん言峰だけだが

139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:34:02.91 ID:eVFwcH4H0
時臣「……」

綺礼(この遠坂時臣という男、私とは違って娯楽の楽しみ方を心得ている)

綺礼(どうぶつの森という固有結界は未来のゲームそのもの。だが私は破壊と暴力からしか愉悦を得られなかった)

綺礼(それに比べて遠坂時臣は、虫取りや釣りに悦を得ているのだ)

時臣「……この村が元に戻るのであれば、それが最善だな」

時臣「キミの傷も元に戻るよクワトロ」

クワトロ「ほんとぉ!?」

140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:35:26.36 ID:SFusyV+E0
怒られるぞ!

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:37:19.12 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「ちょっと待ってくれ」

時臣「何だ?」

ケイネス「そのリセットボタンとやらは、シドニーと私の出会いも消してしまうのか?」

綺礼「そうだな」

ケイネス「……私はシドニーが好きだ」

シドニー「えっ!?」////

綺礼(お前には妻がいるだろうに)

時臣「ひゅーひゅー」

綺礼「口笛が吹けないのなら無理に吹かなくても」

時臣「すまん」

142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:38:19.03 ID:UGvX2s5d0
なにやってんだおっさん

143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:39:31.96 ID:tjpPfFEP0
おっさんと動物…

144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:41:18.69 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「シドニー……リンゴ、ありがとう」

シドニー「ぇ、ぁ、ぁぅぅ」/////

ケイネス「さらばだ。リセットだけでなく、私は元の世界に戻らねばならない」

シドニー「……」

時臣「再びここに戻ることが出来るのは、聖杯戦争に生き残った者だけだ」

綺礼(私は暇なときに何度でもリセットして木を切りに来るつもりだが)

時臣「僅かな別れか、永遠の別れか、それはロード・エルメロイ次第だ」

ケイネス「言うではないか。私のランサーをあまり舐めないで頂きたい」

時臣「キミこそ、私の黄金のサーヴァントを見て戦意喪失しただろう?」

145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:44:26.00 ID:eVFwcH4H0
綺礼(それにしても、私が悪いという流れが去っている。この馴れ合った空気は性に合わんな)

綺礼「そろそろ、リセットボタンを押してもよろしいでしょうか」

時臣「私は構わない」

ケイネス「……私もだ」

シドニー「ケイネスさんっ」

ケイネス「大丈夫だ。必ず会いに来る。たとえキミが記憶を喪っていてもな」

シドニー「うぅっ……」ブワッ

綺礼(とんだ茶番だ)

146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:46:03.75 ID:d2joGsaz0
なにこれ切ない

147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:46:45.85 ID:eVFwcH4H0
綺礼「それでは……」

クワトロ「ばいばいっ」

シドニー「ケイネスさんっ、絶対会いに来てくださいねっ!! 私も大好きですッ!!」

ケイネス「(´;ω;`)」

時臣「またゴミ捨て場に花を植える作業だな……」

綺礼「……」カチッ

 プツン……


148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:46:58.82 ID:mHThNhfjO
>私のランサーをあまり舐めないで頂きたい

ランサーが聞いたら嬉しすぎて泣くぞ

149 : 忍法帖【Lv=4,xxxP】 :2012/03/05(月) 17:47:48.81 ID:sxNDQwCR0
ケイネスがかわいい

150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:51:08.69 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「……ハッ」

ディル「ご無事ですか、ケイネス殿!」

ケイネス「ランサー……」

ディル「ご報告があります。キャスター、セイバー、ライダー、バーサーカーは脱落しました」

ケイネス「……な、に?」

ディル「ケイネス殿の消息が絶ってから三日……聖杯戦争は大きく動きました。残す敵はアーチャーだけです」

ケイネス「おお……おおっ!」

151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:51:58.05 ID:B8EU5gEHO
良スレだ

152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:52:46.54 ID:aWeuCi4N0
リセットさんコナカッター

153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:53:19.94 ID:YYvlVmvE0
ケイネス先生が報われる時が来たか

154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:54:31.37 ID:eVFwcH4H0
綺礼(よく考えたら、リセットではなくパワーボタンでも良かったんだな。二度手間だった)

時臣「まさか、ロード・エルメロイと私以外は脱落していたとは……」

綺礼「アサシンの件は未だに露呈せず、ですね」

時臣「ああ。早急に決着をつけ、聖杯を手にした後、どうぶつの森をやろう」

綺礼(どっぷりハマっているな。魔術師に向いていないんじゃあるまいか)

時臣「さぁ綺礼。支度だ。アサシンを全員連れて行く。――英雄王、いらっしゃいますか!」

綺礼「……」

時臣「……」

時臣「……あれ?」

155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:57:50.44 ID:V68uLfzH0
急展開キタ━(゚∀゚)━!

156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:57:55.54 ID:eVFwcH4H0
時臣「英雄王! アーチャー! ギルガメッシュ!」

綺礼(何も言わず三日も留守してたらそりゃ愛想つかされる。よりによって聖杯戦争の最中に)

時臣「くゥ! このままではアサシンだけでランサーを仕留めなければいけない……!」

綺礼「総動員で奇襲をかければあるいは……」

時臣「そうだな。それが一番良い。だが……だが……! 英雄王なら確実なのだ……!」

綺礼(本当に肝心なときに足下を見ない人だ)

157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:58:27.77 ID:kMEe33ui0
ランサーの忠誠心ぱねぇ

158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 17:58:50.79 ID:cxkKeTVn0
さすが慢心王やでぇ…

159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:03:20.79 ID:mYdO8LKu0
( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!

160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:04:04.92 ID:eVFwcH4H0
ケイネス(まさか三日も経っていたとは……あの固有結界は現実よりも時の刻みが遅かったのか?)

ケイネス(しかし、ディルムッド・オディナ……私が三日間、何をしていたのか問いもせず……)

ランサー「……」

ケイネス「ランサー」

ランサー「はい」

ケイネス「何も聞かぬのか」

ランサー「主は訳あって席を外していたまでのこと。それが敵の撃破に関係ある事柄なら、それは問うまでもありません」

ケイネス(ごめん……許婚いるのにコアラの女の子と遊んでた……)

161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:05:02.91 ID:2js88Fx00
やーいお前のマスターエルメロイー

162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:06:02.95 ID:B8EU5gEHO
コアラendか

163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:06:47.21 ID:eVFwcH4H0
ディルがランサーになってた


ケイネス「……とにかく、アーチャーとの決戦だ。準備は万端だろうな」

ディル「はっ。いつでも行けます」

ケイネス「よし! 気合を入れて行け! 正念場だぞ!」

ディル「はいっ!」

ケイネス「やるぞ!!」

ディル「オォッ!!」

164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:06:57.04 ID:CZgyDui90
トッキーとマーボーを足止めしてたってことにできなくも・・・ない・・・いや、むりか



165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:08:51.61 ID:eVFwcH4H0
綺礼「……師よ、本当に良いのですか? もし失敗したら……」

時臣「そのときは……そのときだ」

綺礼「はい……」

綺礼「やれ、アサシン」

女アサシン「はい」







女アサシン「はぁッ!」シュッ

ディル「甘いぞ!」カキーン

166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:11:11.14 ID:q5dMzoCi0
令呪使って慢心王呼べよ

167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:12:42.80 ID:eVFwcH4H0
女アサシン「くッ……」

ディル「アサシンか。何か裏があるとは思っていたが、まさか二人目が現れるとはな」

アサシン2「甘いのは貴様だ」スッ

ディル「ハァッ!」カキーン

アサシン3「残念だったな」

アサシン4「我らは群のサーヴァント」

アサシン5「たった四、五人ではないのだ」

アサシン6「その首、貰った!」

ディル「ぐあぁあッ……!!」

168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:15:00.13 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「ランサー!!」

ディル「け、いね、す、どの……」

ケイネス「しっかりしろ!」

ディル「申し訳……ありま、せぬ……必ずや……せ、いは、い……を……」

ケイネス「もう良い。お前はよくやった! ディルムッド・オディナ、お前は騎士として立派であったぞ!!」

ディル「……ッ……ありがたき……しあわ、せ……」シュゥゥゥ

ケイネス「ディルムッドオオオオオオオ!!!」

169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:15:46.30 ID:3nGHP2d/0
報われねぇなディル

170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:15:48.97 ID:aWeuCi4N0
ランサー…

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:16:59.78 ID:eVFwcH4H0
時臣「……」

綺礼「……」

時臣「……」

綺礼「これで、ロード・エルメロイを殺す意味はなくなりましたね」

時臣「……」

綺礼「よくやったアサシン。作戦通りだ」

時臣「……」

綺礼「魔術師も、敵の魔術師に情けをかけるものなのですね」

時臣「ふふふ……」

172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:18:03.20 ID:mHThNhfjO
おいディルさんなめんなよ、流石に分裂アサシンにゃ負けねーよwww

173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:20:32.88 ID:iBOLbXGC0
ランサーも流石にそこまで弱かねーよといいたいところだが

こまけぇこたぁいいんだよ

174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:21:21.78 ID:kMEe33ui0
おいおい、ディルさんはキャスター、セイバー、ライダー、バーサーカーをマスター無しで撃破したんだぞ
「残す敵は」って言ってるじゃん

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:22:24.49 ID:vXqCpIGa0
でも対軍宝具なしのランサーじゃアサシン軍団には勝てないだろ、相性が悪い

176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:22:46.69 ID:lpyV402g0
>>174
すでに満身創痍ということか

177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:23:46.14 ID:eVFwcH4H0
綺礼「令呪を三画、『ランサーを確実に排除せよ』という命令に使用しただけでも、あの力ですか」

時臣「少なからず効力はあるからな。……英雄王ならば、ロード・エルメロイ諸共消し去っていただろう」

綺礼「逆に助かりましたね」

時臣「……さて」

綺礼「聖杯の儀式ですか?」

時臣「いや、どうぶつの森」

綺礼「……」

178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:24:02.38 ID:iBOLbXGC0
どっかいりょくが たりない !!

179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:24:02.98 ID:7HApuPgL0
ここで慢心王登場に期待

180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:24:40.10 ID:kMEe33ui0
ときおみwwww

181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:26:51.21 ID:lpyV402g0
この時臣はすっごく友達になりたい

182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:27:01.82 ID:2Qo5LXTY0
4人目の住人は誰だ

183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:29:14.76 ID:vXqCpIGa0
切嗣だろう
まさしく理想の争いのない世界なんだから

184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:30:02.72 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「……」

ケイネス「私はディルムッドの忠誠心を舐めていた……」

ケイネス「ディルムッド伝説の先入観で、奴には忠誠心がないものと決め付けていた……」

ケイネス「……」

ケイネス「アサシンは、言峰綺礼の差し金……なのに私を殺さないとなると……」

ケイネス「遠坂邸、か」

185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:31:37.64 ID:aWeuCi4N0
金のアイテムあるしなぁ…

186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:35:08.48 ID:3nGHP2d/0
>>182
キリツグじゃね

187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:35:08.81 ID:eVFwcH4H0
時臣「来たか」

綺礼「来ましたね」

ケイネス「……サーヴァントを殺されたんだ。貴様らと馴れ合うつもりはないが……」

ケイネス「シドニーには、挨拶を交わしておきたい」

時臣「ああ」

綺礼「……」カチッ




188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:37:41.53 ID:GX6E26Mv0
美しすぎる聖杯戦争……

189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:40:03.32 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「……ぅ」

ギル「ははははははは!! 愉快だ愉快! もっと飲め!」

たぬきち「だもだもだもwwwww今日は朝まで付き合うだもwwwww」

ケイネス「あ、アーチャー!?」

時臣「英雄王!? な、何を!?」

ギル「ん? ああ時臣か! いやいや何とも風情のある村ではないか!!」

時臣「今まで何を……?」

ギル「お前が姿を見せなくなったから、しばし冬木から身を退いていたのだ! この世は醜くも美しい!」

190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:43:13.36 ID:eVFwcH4H0
時臣「……お、お気に召したようで何よりです」

綺礼「師よ、既に聖杯戦争は終わっています。もうギルガメッシュに用はないのでは」コソコソ

時臣「いや、まあ、そうだが……こんな楽しそうにしている人を自害させるのは気が引ける」

ケイネス「シドニーはどこだ……?」バッ

ギル「ほら時臣! 綺礼! 飲め! この褌タヌキはなかなか飲みっぷりが良いぞ!」

綺礼・時臣「はぁ……」

191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:44:42.81 ID:q5dMzoCi0
ギルなんにもしてねーw

192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:45:54.06 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「シドニー! シドニー!」

村長「何を探している?」

ケイネス「誰だッ?」

村長「僕はカワ村の村長だ。衛宮切嗣という名前だが」

ケイネス「エミヤ……? ともかくシドニーを知っているか?」

村長「ああ。そこにリンゴの木がたくさんあるだろう。その先だ」

ケイネス「すまない。恩に着る!」

村長「走るな、危ないぞ」

193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:46:39.96 ID:aWeuCi4N0
キリツグ村長かよ

194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:49:27.30 ID:eVFwcH4H0
ケイネス「はぁ……はぁ……」

シドニー「?」

ケイネス「……ふぅ。こんばんは」

シドニー「こんばんは」

ケイネス「(´;ω;`)」

シドニー「!?」

シドニー「ど、どうしたんですかっ……?」アセアセ

ケイネス「シドニーィイイイ」ダキッ

シドニー「ひぁっ。……あなた、あたたかいですね」

ケイネス「私は、ケイネス。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト」

シドニー「かっこいいお名前ですね! 私はシドニーです」

ケイネス「よろしくな、シドニー……」

195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:51:32.23 ID:+stE/TM40
(´;ω;`)

196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:51:53.52 ID:7Q48sVwWO
何かほっこりする

197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:52:09.48 ID:mHThNhfjO
ケイネスがソラウたん要らないなら俺がもらうわ

198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:53:17.08 ID:eVFwcH4H0
綺礼「……」

ギル「ははははははは!!」

時臣「うぇひひひひひひ」

たぬきち「だもだもだもだもwwwwww」

綺礼「……」

綺礼「衛宮切嗣……お前はどこにいる」

ギル「お? 何か言ったか綺礼?」

綺礼「いや、何でもない。私も飲もう」

ギル「今日はノリが良いな。さあ、来い。クワトロとかいうカエルが素となった酒だ! 美味であるぞ!」

綺礼「その酒は遠慮したい」

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/05(月) 18:56:17.15 ID:eVFwcH4H0
 海

綺礼「……」

村長「……」

綺礼「! お前は」

村長「! 言峰……綺礼」

綺礼「……」

村長「……」

綺礼「いや、やめておこう。私は、お前を殺す意味を見失った」

村長「それは、聖杯戦争が終わったからか?」

綺礼「違う。ともかく、いいのだ」

綺礼「私は木を切っていれば……それだけで満足だ」

村長「……何だそれは」

 完

 


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