初めまして。作者の秀八です。
この作品はFateとながされて藍蘭島のクロスオーバー作品です。
駄文ですが、読んでいただけると幸いです。
なお、設定はできるだけ尊重しますが、遵守しないのでよろしくお願いします。
2014年1月1日に投稿開始。
4月7日、投稿名を改正しました。KUON⇒秀八。
12月13日、チラ裏より移動。誤字脱字の訂正と加筆しました。
8月28日、番外編、更新しました。
10月10日、After編、XXX板に投稿しました。
第1話「あらわれて」
昼下がり、藍蘭島の空は雲ひとつない快晴。そんな天気と同じくらい、嬉しそうに腰をくねらせながらぶつぶつと独り言を言う巫女装束の少女。
「ふんふんふーん♡」
「うにゃ? あやねどうしたの?」
「やあ、あやね」
後ろから声をかけられて、頭の左右で結った癖のない黒髪が揺れる。涼やかな目もとが印象的な美少女だが、
見る影もないほどだらしなく垂れ下がっていた。
「えへへへへへへ」
振り返るとにやにやと笑いが止まらない様子で巫女服姿の少女・あやねは声の主たちに返事をする。
「あらあら、行人様にすずじゃない。二人こそどうしたの?」
「うん、オババに呼ばれてね」
「あやねこそどうしたの? すごく浮かれているようだけど……」
あやねに声をかけたのは幼馴染にして、終生のライバル(あやねが勝手に思っている)のすずと藍蘭島唯一の男の子、東方院行人。
「うふふふ……わかる~?」
「うにゃ……それだけにやけてたら分かるよ~」
「ふふっ、じゃあ、教えてあげるわ……」
あやねは隠し切れないように両手を広げ、天に届けと言わんばかりに大きな声で言い放つ。
「ふっふっふっ……ついに、ついに私も式神を手に入れたのよ!」
「……式神……?」
「……まち姉のてるてるまっちょみたいなの?」
二人の反応はいまいちだった。顔を見合わせる二人を驚かそうとあやねはさらに言葉を重ねる。
「その通りよ! しかもただの式神じゃないわ! なんと……」
「あははははっ……何を言っているだ二人とも。この世に式神みたいなオカルト的なものが存在するわけないじゃないか」
あやねの話を遮り、行人はあっさりと否定する。非科学的なものは存在しない。良くも悪くも日本の現代っ子・行人の言葉にげんなりするあやねとすず。
「……相変わらず、行人様は幽霊や呪術の類を信じないわね」
「行人、目の前で見せられても信じないから……」
二人は揃ってため息をつく。
「ま、まあいいわ……信じる信じないは『彼』を見れば分かるでしょうし……」
そうすれば、行人様も私に惚れるかも…… ぐふふふふっと下心丸出しの笑顔を浮かべ、あやねは宣言する。
「いでよ、伝説の英霊! 錬鉄の騎士、衛宮士郎よっ!!」
両手を上げて。あやねは力の限り叫ぶっ!!
叫ぶ!
叫ぶ。
叫んだが……何も、起こらなかった。
「……あやね……?」
静寂の中、あたりを見回していたすずが困惑した様子であやねを見つめている。
「あやね……?」
「あれ……?なんで出てこないのよっ!?」
虚空に向かって叫ぶあやねの痛々しい姿に行人は思わず声をかける。勝ち誇った表情から一変、慌てふためいた様子であやねは必死に弁明する。
「い、行人様……これは、ち、違うのよ? ちょっとした手違いで……」
その時、何かが聞こえた様子で、再び横を向いて叫ぶあやね。
「分かっているよ……ほら、えっとあれだ……手品が失敗したんだね?」
励まそうとする行人の優しい笑顔があやねの心に突き刺さる。
「ち、ちがうの…………」
あやねは真っ白に燃え尽きたかのように膝を付く。
(も、もうだめだぁ~)
想い人の前で醜態を晒してしまっては、もう行人と結婚なんてできない。
落ち込むあやねを嘲笑かのうように。
(くっ……やはり、君はからかい甲斐があるな)
あやねの脳裏に直接話しかける皮肉げな声が。
「し、士郎っ! あんたどこにいるのよ!!」
がばっと起き上がり、鬼の形相で辺りを見回すあやね。
「どことは心外だな。わたしはずっと君の傍にいたのだがな?」
何もないはずの虚空から、低く落ち着いた男性の声が響く。
「うにゃあ!? だ、誰?」
「ついに手品が成功したの!?」
怒りに震えるあやね、怯えるすずとわくわくと興奮する行人。
そんな三人の前で、音もなく姿を現した赤い外套を纏った長身の『男』。
「う、うそ……どこに隠れていたんだ!?」
「こ、この人が、あやねの式神さん?」
「正式には、『まだ』彼女の式神ではないのだがね」
腕を組んで、ニヤリと笑う青年。
「行人とすずだったか。いつまでいるか分からんがよろしく頼む」
二人は改めてあいさつをする青年を見上げる。
180もの長身に褐色の肌と灰色ががった白髪。
何より印象的だったのは、鉄さえも貫くのではないかという鋭い眼。
藍蘭島では見ないタイプの人間に戸惑う行人とすず。
「あ、どうも……」
「えっと……」
「ああ、すまない。大切なことを言い忘れていたな」
青年は組んでいた腕を解き、真っ直ぐに二人を見つめる。
「私の名は、衛宮、衛宮士郎。ただの……しがない弓兵だ」