(これまでのあらすじ:冬木市の魔術師・遠坂凛は、来る聖杯戦争に向け最強のサーヴァントを召喚せしめんとしていた。英傑の霊を使役するサーヴァントの優劣は、聖杯戦争そのものの優劣に繋がると言っても過言ではない)
(勝者の望むものを与えると云われる聖杯をかけた7人の魔術師による争い。それが聖杯戦争だ。凛はこのときのため、万全の備えをしてきた。体調、月日、時間、全ては完璧だった。しかし凛は家中の時計の針が一時間ずれていたことを忘れており……)
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」屋敷の地下に設えられた召喚陣に手をかざしながら、凛は室内を巡る魔力の奔流に確かな手ごたえを感じていた。(((完璧!間違いなく最強のカードを引き当てた!)))舞い上がる超常のつむじ風に思わず目をつむった。力は、巡る。
やがて魔力の激流が収まり、室内に元のかび臭い静寂が戻ってくると、凛は恐る恐る目を開いた。薄暗い室内にはろうそくのおぼつかない灯りだけがかすかに揺れている。無音。いくら薄明りの中を見まわしたところで、石造りの地下室の中には凛以外の人影はなかった。召喚陣が輝きを失い沈黙する。
(((まさか、失敗?でも手ごたえは確かにあったのに)))凛の脳裏に喜ばしくないイメージがよぎる。聖杯戦争での勝利は遠坂家代々の悲願だ。戦いに負けたのならまだいい。父もそうだった。だが戦わずして終わることなど出来ない。もう一度確かめようと凛が顔を上げた、その時だ!
KABOOOOM!頭上から鳴り響いた轟音と振動に、凛は思わず腰を抜かした。ぱらぱらと天井から埃が降り注ぐ。まるで何かが屋敷に激突したかのような衝撃だ!「まさか」凛は柱時計を振り返り、初めて自分の失敗に気づいた。「やっちゃった」だが覆水盆に返らず。凛は立ち上がり、地下室を飛び出す。
階段を駆け上がり、轟音の発生源と見られる居間へと駆け込もうとする。だが先ほどの衝撃で歪んだか、扉が開かない。「この、この、この!!」苛立ちに任せた強烈な前蹴りが扉を破った!勢いのまま踏み込んだ室内は、台風にかき回されたかのような惨状を呈している。そして、男はそこにいた。
背の高い男は凛に背を向けていた。男は全身を赤黒の装束に身を包み、首元にはボロ布めいたマフラーが風もない中不気味にたなびいている。男が振り返る。その口元を覆うメンポ(面頬)には恐怖を煽る字体で「忍」「殺」の文字が刻まれている。男は凛の姿を認めると、しめやかにオジギをした。
「ドーモ、はじめまして。アヴェンジャーのサーヴァント、ニンジャスレイヤーです」ジゴクめいた声音で男がアイサツする。
「……ニンジャ、ナンデ?」凛は呆然とつぶやいた。
タマゴスシをください。