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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔
Name: エンキドゥ◆197de115 ID:92c06cc6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 05:19


シンジはフーケ討伐を買って出たことを、ディラックの海より深く後悔していた。
だが、それでもなおルイズたちが傷つき蹂躙されるのを考えるだけでたまらなかった。
それは、彼のトラウマの一つを激しく揺さぶる想像だった。
彼には、彼女らが盗賊に、あの恐ろしいゴーレムに勝てる要素が一つも見つけられなかったのだ。
もちろん、だからといって、

(はぁー、何であんなこといっちゃったんだろ……。昔っから雰囲気に弱いって言うか、ええカッコしいって言うか……。考えてみれば、最初にエヴァに乗ったのだって、これのせいなんだよな……)

多少の愚痴はしょうがない。

シンジは今、服の着替えと、先日買ってもらった武器を取りに、ルイズの部屋に戻ってきていた。
戦闘になる可能性が高いため、おろしたての服では動きづらいし、せっかく買ってもらった服を汚し、破くのもイヤだった。

「よう、相棒、コンビを組んでの初仕事だな。 まあ、俺がついてりゃ百人力よ!」

先日買った、しゃべる魔剣デルフリンガーだった。
シンジはデルフリンガーを一瞥して言った。

「悪いけど、連れて行かないよ」

「なっ!」

「理由は言わなくてもわかるよね」

解る、解るがしかし……、納得するわけにはいかない!
デルフは未来を幻視する、やっと出会えた使い手に役立たずと言われ、やがてまたどこかの武器屋に売られ。邪魔者扱いの日々。店の飾りも売れ残りも、もうごめんだった。
それに、ルイズに彼の正体を探ることを頼まれている。
シンジが着替え終えるのに二分もかかるまい、その間になんとしても口説き落とさなければならない。

「なあ~、相棒、俺を連れてけって。 俺は役に立つんだぜ」
「デルフ、危険なんだよ!」
「いやいや、危険だから俺を連れて行くんだろう!」

剣が安全なところにいてどうしろと言うのか。

「そんなこと言ったって、……デルフには何か特別な力があるの」
「おうとも、よく聞いてくれた。 おいらの索敵能力はそこらのインテリジェンス・ソードの比じゃねえぜ!」
「何それ?」

シンジが食いついた。

「なんでぇ、しらねえのかよ。インテリジェンス・ソードにはよ……」

とうとうと、インテリジェンス・ソードの効能を述べるデルフ。

「ふーん……、まあいいや、折れても恨まないでよね」
「おっ、と言うことは」
「うん」

シンジはデルフリンガーを背中に背負い、急いで中庭に向かった。


第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔


中庭には、オールド・オスマンとミス・ロングビル、それにサラマンダーのフレイム、風竜のシルフィードが待っていた。
他の教師たち、それとルイズたち三人は授業に向かったのか、すでに姿はなかった。

「すいません、お待たせしました」

「馬車を用意しようかと思ったが、風竜がおるでな、竜籠を付けておいた。それとな……」

シンジはオスマン氏に小声であることをささやかれた。

「……」 
「わかりました。では行ってまいります」
「ミス・ロングビル!彼を導いてやってくれ」

すでに、竜籠に乗り込んでいたミス・ロングビルに声をかけた。

「もとより、そのつもりですわ。よろしくミスタ・シンジ。どうぞミス・ロングビルとお呼びになってください」
「よろしく、ミス・ロングビル、ミスタは結構です。どうぞ、シンジとお呼びください」

そう言って二人は頭を下げあった。
シンジは竜籠ではなく、その背中に乗り出発した。シルフィードは一鳴きすると、その青い翼をはためかせ、驚くことに垂直に地面を離れ始めた。
これと、空中停止(ホバリング)は竜騎兵として最高技量を持つものが、最高の風竜を手に入れて初めて可能といわれる技術の一つである。
風竜の翼は鳥のそれと違い、かなり固定されているため、このような細かい作業には向いていないためだ。
また、風竜の翼は滑空用と言われ、あまりはためくのにも向いていない。
第一竜の巨体を浮かすための翼としてはひどく小さいため、幻獣と呼ばれる生き物達は、先住魔法を生まれながらにして身にまとい、それにより揚力を得ているのであろうとも言われているが、それを乗り手が引き出すのは容易ではない。
世界最強の一角、空中竜騎兵隊で、また風竜の群生地で有名なアルビオン出身のフーケであるが、これを見るのは久しぶりである。
使い魔であるという少年シンジの技量に素直に感心させられた。
またそれを見ていたオールド・オスマンも、

(さすがは「ヴィンダールヴ」をその身に刻まれた者よ)

と感心しきりであった。

「我が魔法学院は、君の努力と貴族の心、それに伝説の力に期待する。……生きて帰ってくれよシンジ君」

オールド・オスマンはそうつぶやくと、急いで学院長室にもどった。





サラマンダーは、その体形と体の割りに短い足から、足の遅い生き物という印象を受けるが、実は本気を出せば馬より早く走ることの出来る運動能力を持っている。
ただ、跳ねるように走る為、人の乗用には向かないが。それでも、風竜のスピードにはもちろんかなわない。そのため、シルフィードにはかなり低空をゆっくり飛んでもらっている。
二匹の使い魔は、かん高い泣き声で意思の疎通を図っているようだった。

(どうしたい、青いの、随分と調子が良さそうじゃないか!)
(むふー、なんだかえらく力がわいてくるのねー!きっと、背中の天使様が力を分けてくれているのねー!その証拠に、いままで出来なかった事がらっくらくに出来るのねー!)
(天使様ぁー、そりゃあんたが背中に乗せてる精霊様のことかい?)
(当然なのね!って精霊じゃないのね。 この方は『大いなる意思』の御使い。つまり天使様なのねー!)
(はっはっは、そりゃちがうよ。僕にはわかるんだ。君が背中に乗せているのは、間違いなく精霊様だよ。ほら、その方のお腹の辺りから波動を感じないかい?僕らに力を貸してくれる精霊たちの波動をさ。その方はきっと沢山の精霊様が集まって、人間のフリをしている遠い場所から遊びに来た精霊様さ)
(違うのね!この方は精霊たちを使役しているだけで、お腹のそれは精霊を生み出してる天使様の力の元なのね!第一こんなにはっきり姿を現す精霊なんて聞いたことないのねー!)
(そりゃ、天使だって一緒だろう。 いやいや、だいたい天使なんて人間たちの作った伝説上の物で……)
 
二匹の使い魔、フレイムとシルフィードは互いに自説を曲げようとはしなかった。
シンジはそれを聞きながら、

(僕は一体、どんな風に見られているんだろう)

などと考えていた。





「ミスタ・シンジ! そろそろですわ! ここらで降りて、あとは歩きませんと見つかってしまいます!」

竜籠はシルフィードの首から下げられる格好になっているため、背中に乗るシンジとの会話は大声で行われる。

「ミス・ロングビル! 一度上空を通過します! その場所になったら教えてください!
シルフィード! フレイムにそこで待つよう言って!」

シルフィードはかん高いイルカに似た泣き声でフレイムに指示をだす。ミス・ロングビルの指示に従い、シンジはシルフィードに命令し方向を決める。
やがて、森の一部に、ぽっかりと空けた場所が見えた。
まるで、森の空き地といった風情である。 およそ、魔法学院の中庭ぐらいの広さだ。
真ん中に廃屋が見えた。元は木こり小屋だったのだろうか。
朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。

「ミス・ロングビル! あそこで間違いありませんか?!」
「ええ! 確かにあそこです!」
「一度、大回りでもどります! ミス・ロングビル、杖のご用意を!」
「はい! 大丈夫ですわ!」





一方その頃、学院のちょっと郊外。

「場所がわかった・・・」

タバサである。
どうやら、視覚の「共有」によりシルフィードを通して状況を見守っていたようだ。

「よーし、しゅっぱーつ!」

元気な声で出立を告げたのはキュルケである。

「ふっふっふっふ、待ってなさいよシンジィ。 ご主人様をないがしろにした報いをたっぷりと思い知らせてあげるんだから」

ルイズまでいた。
三人はそれぞれ馬に乗り、風竜の飛んでいった方向を見定めそちらに馬を走らせていたのだ。
それに、キュルケとタバサの二人は使い魔との感覚「共有」ができる。
そのため、かなり正確な場所を把握できた。
ミス・ロングビルは「馬で二時間」と言ったが、それは早足程度の速度で、ここからなら急がせれば30分弱ぐらいで着いてしまいそうだった。

「ルイズ、キュルケ、現場に着いたら……」
「わかってる、シュバリエのあなたの指示に従え、でしょ」
「そう……ルイズもいい?」
「いいわ」





時間を少しさかのぼる。
ここは、学院本塔内の螺旋階段の中腹、ルイズは少しうなだれ気味に歩いていた。
活躍の場を取られたことに、がっかりしていたルイズにキュルケが声をかけた。

「ルイズ、行くつもりでしょ」
「場所もわからないのに、どうやって行くのよ」
「あら、優等生のあんたが「共有」を忘れるとは思わなかったわ」

ルイズは、はっとした。しかし、自分にはシンジとの感覚共有は無い。

「キュルケ、あんたはどうすんの」

キュルケはニヤッと笑った。

「当然行くわ。あいつはメイジを、……ううん、この私を嘗めた。そして、ツェルプストーの名を持つものが、戦いに赴くのを使い魔のみに任せたなどと、どこの誰にも言わせない為にも」

ザワッと空気がゆれた。なんと言うプライド、そして魔法力。

「じゃあ、じゃあなんで」(何であたしを止めたのか?)

……いや、わかっている。
あの場で言い合いをしている間に、フーケに逃げられては元も子もないからだ。あの騒ぎの中で彼女は誰よりも冷静に判断している。そこに思い当たり、ルイズは自らを攻めた。
自分の視野の狭さが恥ずかしくなる。

(魔法が使えないなら、頭脳で勝負しなければいけないのに、遅れを取っている。それも、忌々しいことに ツェルプストーの名を持つものに。こんなことでは、あの強大なる使い魔“シンジ”を手足のごとく扱うなど夢のまた夢だ。心を強く持ち、冷静に判断を、さもなくば、私はただ泣き喚き、守られるだけのお姫様に墜ちる。……昔のように)

それだけはごめんだった。
ルイズは奥歯を強くかみ締め、再度の覚悟を発露する。

「私も行くわ!行って、あいつに貴族を見せる、そう約束したのよ!」

その答えにキュルケはまた、ニヤッと笑った。だが……。

「そうはいかない。シンジにあなたのことを頼むと言われた」
「「タバサ!」」

またも、失策である。三人で歩いていたと言うのに、失念していたのだ。
ルイズは説得を試みる。

「タバサ、どうかお願い。あたしは貴族に、立派な貴族になりたい。それは戦いを使い魔にのみ任せ、それで杖の誓いを守ったなどと平気な顔で言えるやつのことじゃない!」

キュルケが後をつないだ。

「……傷つけられたプライドは、十倍返し!そうでしょうタバサ」

タバサは二人を睨みつける。キュルケとルイズも負けてはいない。十秒ほどそうしていたが、溜息と共に、タバサは諦めた。

「わかった。 ただし……」

キュルケは一度言い出したら聞きはしまい。タバサ自身この陽気でがさつで騒々しくて、そして心の温かい友人を失いたくは無い。

「私もいく」





シンジはミス・ロングビルと森の茂みに身を隠し、廃屋を見つめていた。
シルフィードは空に、フレイムは、ちょっと離れた茂みに布陣している。

「ミス・ロングビル。 ここまでで結構です。 どうかお戻りください」

「それは聞けませんわ。あなたを置いて一人逃げ帰ったなどと言われては、ミス・ヴァリエールに絞め殺されてしまいます」

シンジは出発前に学院長に言われたことを思い出した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「シンジ君、ミス・ロングビルのことじゃが、道案内が済んだら帰して欲しいのじゃ。昨晩から歩き詰めで、恐ろしく疲労しているはずじゃからな。無論、そうは言ってもメイジの常で簡単には帰ろうとはせんじゃろう。そこで、これと、こいつを連れて行ってもらいたい」

そう言って、シンジに手渡したのは学院の秘宝「眠りの鐘」そしてオスマン氏の使い魔「モートソグニル」だった。

「わかりました、僕もそのつもりでした」
「普通であれば、ほぼ一方通行である通信手段じゃが、君の「ヴィンダールヴ」なら双方向通信が可能なはずじゃ。これで、学院と連絡を取り続けられる」
「学院長、なんでもご存知なんですね」

シンジは我知らず、オスマン氏に非難の眼を向けていた。

「なんでも、と言うわけでもない。だが、君は今注目の的なのでな。ま、勘弁してもらいたい」

それは、覗きの行為への謝罪だったのだろう。なるほど、確かにシンジには使い魔たちと会話を交わす能力がある。しかし、逐一覗いていなければ、わからないはずだ。

「出来れば、もうやめて頂けるとうれしいんですが」
「ほ、君が無事学院に帰ってきたら考えておこう。そうそう「眠りの鐘」の使い方じゃが……」

オスマン氏は「眠りの鐘」の効果や使い方、有効範囲などを説明した。

「わかりました。では行ってまいります」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「わかりました。 杖をしっかり握ってください」

そういわれて、フーケは一瞬自分の杖に注意を向ける。シンジは片手をベルトのナイフにやっており、「ガンダールヴ」発動中である。すばやく、ミス・ロングビルの背後に回ると、「眠りの鐘」を鳴らした。

“カラ~ン、カラ~ン”

たちまち崩れ落ちるミス・ロングビルを支え、シルフィードを呼び寄せる。

「ごめんなさい、ミス・ロングビル」

シンジは上着のポケットから、「モートソグニル」を出し、話しかける。

「学院長、彼女は義務を果たしました。 よろしいですね」
「ちゅう、ちゅうちゅちゅっちゅちゅちゅ。 ちゅうちゅちゅちゅ、ちゅうちゅちゅちゅちゅちゅちゅりゅをちゅちゅちゅちゅちゅ」(うむ、よくやってくれた。もちろん彼女はその義務を果たしたとも)

いかに使い魔とは言え、声の届く範囲のはるか外で、このように使い魔を使役出来るものはまれである。やはり、オールド・オスマンは並のメイジではない。シンジはミス・ロングビルをシルフィードの竜籠に入れた。

「では、引き続き、フーケ探索を続行します」

「ちゅう、ちゅうちゅちゅ、ちゅちゅちゅ、ちゅちゅちゅちゅちゅちゅ」(うむ、くれぐれも気を付けてくれたまえ)

モートソグニルはシンジの肩にとどまり、状況を見続けるつもりのようだ。

「シルフィード、彼女を連れて学院にもどってくれ。 君のご主人様によろしく」

シルフィードは短く低く鳴いて上昇を開始、学院に向けて飛び立っていく。それを見届けると、シンジは背中の剣を抜いた。

「ひゅう、やっとで出番か」
「デルフ、小声でお願い。 あの中を視れるかい?」
「おう、誰もいねぇよ。 もちっと近づいてみてくんねぇか」
「うん、信用するよデルフ」

デルフリンガーを抜いたときからガンダールヴは発動している。シンジは一足飛びに小屋へと近付いた。

「どうだい、デルフ」
「ん~、やっぱ誰もいねえな」
「よし」

シンジは普通にドアを開け、中に入る。すぐに怪しいチェストを見つけ、あっさりと「破壊の杖」を見つけ出した。

「学院長、ご覧になっていますか? 「破壊の杖」は取り戻しました」
「ちゅう(略)」(うむ、よくやってくれたシンジ君。では、それを持って学院にもどりたまえ)

「え、フーケはどうするんですか」

「ちゅ(略)」(なに、モートソグニルがおるでな、そいつをそこらに放してくれればわしとの「感覚共有」により正体がわかる。 正体のばれた盗賊など真昼の幽霊のごとしじゃ)

どうも良くわからないたとえではあるが、言いたいことはなんとなくわかった。

「はあ、それでは戻る事にします」
「ちゅ(略)」(うむ、そこをすぐに出たまえ。 その場所では魔法の良い的じゃ)

そう言われ、逃げる気になった時に、デルフリンガーが口を挟んできた。

「相棒、なんか近づいてるぜ。馬に乗った人間が三人だ」
「フーケか!」
「いや、それはまだわかんねーけどよ」
「学院長、申し訳ありません、一旦通信を切ります」

とは言え、モートソグニルとの「共有」にて通信を行っているため切るべきスイッチがあるわけではない。モートソグニルは、すばやくシンジの肩から降りて小屋の隅に隠れる。

「デルフ、そいつらはどっちから来てる?出来れば距離もお願い」
「ドアのほうだな、距離は200メイルほど、すぐに離れないと見つかるぜ」

シンジはドアと反対方向の壁板にむかい、デルフリンガーを振るった。

(小屋の持ち主さん、ごめんなさい)

数回の斬撃で、小屋にもう一つの入り口が出来る。シンジは「破壊の杖」を引っ担ぎ、すばやく森の中に隠れた。

「デルフ、フーケはどの辺にいるかわかる?」

「こう、離れちまうとおぼろげにしかわかんねえけど、俺らが来た森からこの空き地への入り口があったろう。あそこら辺で止まってるな。用心してんのかな?」
「わかった。大回りで後ろに回って奇襲をかける」





デルフリンガーが探知したのはルイズ、キュルケ、タバサの三人組である。三人は馬に乗り、眼深にフードをかぶっている。

「うーん、こう周りに何にもないと、奇襲もへったくれもないわね」

なにせ、フーケはスクエアと言うふれこみだ。
奇襲でもかけなければ、とても勝ち目などありはしない。
おまけに土メイジは地面を伝わる振動などにも敏感で、うっかり近づいて見つかりでもしたら眼も当てられない。
それに、先発したシンジたちの動向も気になる。

「キュルケ、あんたのフレイムは今どの辺にいるの」
「ちょっとまって、えーと……いたいた、あら向こうもこっちを見つけたみたい。ちょっと呼ぶわ」

キュルケはフレイムとの「感覚共有」にて場所を探り、呼び出した。

「タバサ、シルフィードは?」
「来る途中で見かけたので呼んでおいた。上空で待機させている」





シンジは欝蒼(うっそう)とした森の樹木の間を忍者のように飛び回り、探知した彼女らの後ろに回ることに成功する。
森の樹木にさえぎられ、シンジには彼女らはまだ良く見えない。

(三人組か、いっぺんに制圧しないと面倒だな)

「おい、相棒。 今気づいたんだが……」
「しっ」

デルフリンガーが何か言いかけるのを、鞘に押し込んで止める。



「二人とも、黙って聞いて。……後ろに何かいる」

小声で、注意を呼びかけたのはタバサだ。二人はその警告にビクッと身を震わせる。
彼女は風系統のトライアングルメイジである。風系統メイジは音に敏感である。
何者かが、かなりのスピードでこちらに向かっているのを感知していた。
タバサとしてはすぐに警告を発したかったが、なにぶん敵は早すぎた。
その敵が、後方の自分の魔法の有効範囲外でいきなり止まった。
タバサは自分の馬だけ後ろに向け、場所を入れ替え二人と相対する。
こうして、ルイズ、キュルケは森の空き地に向き、タバサは今来た森の入り口に馬頭を向けた。

「私が合図をしたら、空き地に散って。それと攻撃魔法の準備を」

ルイズとキュルケは声も無く、小さく頷くことで了承を示した。二人ともに杖を取り出し握る。

(殺気を完璧に殺した凄腕のやつ、おそらくはこれがフーケ)

タバサはこの二人のフーケ探索を了承したことを後悔していた。相手は完璧にこちらの上をいく、超一流の使い手だ。
北花壇騎士団七号として長年働いてきたカンが告げる。「逃げろ 」と。

後ろの気配に気を配りながら、周りを見渡す。ふと気が付くと乗っている馬がおかしい。まるで、凍ったように微動だにしないのだ。馬は臆病な動物で、見知らぬ場所では常に足踏みを欠かさないはずなのだ。

(これは、敵の攻撃?)

そう思った瞬間叫んでいた。

「二人とも馬を捨てて逃げて!」

タバサの得意技、ウインディ・アイシクルの詠唱は終わっている。それは、空中の水分を氷結させ、何十にも及ぶ氷の矢で相手を貫く攻撃魔法。
タバサは精神力を杖を介して魔法に注ぎ込んだ。
たちまちのうちにかなりの数の氷の矢が空中に形成され、わずかに空気を削る音と共に発射される。
全弾同時発射ではない。1本ずつをわずかな時間差で、敵の気配を追いながらの発射である。
かわしても、かわしてもすぐに次の矢が襲ってくる。
これにより、質量弾のホーミング能力の低さと、魔法発動終了後のわずかな詠唱時間をカバーする。
着弾先には敵はもういない。だが、その間にすでに次の氷の矢は補充済みだ。
タバサは威力ではなく手数と頭脳で勝負をかけるタイプである。出来れば、隙を尽きたいところだが現状では無理だ。
ちらりと後ろを振り返ると、二人はすでに空き地に逃げていた。

「よし」

タバサは二回目のウインディ・アイシクルを敵の気配のするほうに発射するとすぐさまフライの呪文を唱え乗馬を捨て、空中に浮かび空き地のほうへ逃げ出した。もう少しで、みんなの所へ、そう思いちらりと後ろの気配を探る。

“ぞくり”

背中にいやな感覚が走る。敵は真後ろ。樹木を足場代わりに、まるで飛び跳ねる銃弾だ。
風メイジの「フライ」で逃げる自分にやすやすと追いつき、しかも後ろを取られた。
タバサは慌てて、空中で体を回し敵に相対しようとするが、わずかに遅れる。

「「タバサ!」」

キュルケの援護のファイヤーボールが、タバサの後ろに迫る賊に襲いかかるが、それはあっさり弾かれる。
不可視の壁によって。
だが、おかげでほんの一寸、賊との隙間が開く。
その間隙をついてルイズの爆発が敵を襲う。ノーコンの剛速球投手だったルイズだが、前回のシンジとの魔法練習で何かを掴んだようだった。
吹っ飛ばされる敵。だが、すばやく空中で体勢を整えると森に逃げ込んだ。
何かおかしい、なぜ魔法を使わないのか。使われなくとも、圧倒されているが。

“ピュ―――――”

タバサはシルフィードを呼んだ。このままではジリ貧だ。自分のウインディ・アイシクルはすべてかわされ、キュルケのファイヤーボールは弾かれた。
わずかに効いたと言えるのはルイズの爆発魔法だけだ、一度引いて体勢を整える必要がある。

「退却」

キュルケとタバサは一目散に逃げ出した。 シルフィードはちょっと離れたところに着地していた。
そうだ、ルイズは!いた、敵の消えた森の入り口で仁王立ちしている。

「出て来なさいフーケ!」

(あの、馬〇!)

「逃げなさい、ルイズ!」

キュルケが叫ぶ。
だが、ルイズは唇をかみ締め、森に向け杖を構える。

「イヤよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」

目が真剣だった。

(諦めはしない。こんなところで。この程度の危機が何だというのだ。この程度の脅威に怯え逃げ出すようでは届かぬ場所に、きっと“ゼロ”ではない自分はいるのだ!)

だからルイズは唇をかみ締め、最後の覚悟を決める。

しばらくして、森から何かが投げ込まれた。すわ、敵の攻撃かと緊張する。だがそれは見覚えのある長剣。 

「相棒ひでえ!」

その後、森から声がした。

「ルイズさん!僕です!」





「ルイズ~、もうかんべんしてあげなさいよ~」
「べ、別に怒ってないわよ」
「そんなこと言って、シンジ君凹んでいるわよ」
「ほら、タバサも機嫌直して!」
「別に……」

珍しくタバサも拗ねていた。
いろいろ、シンジにも言いたい事はあったのだが、すべてルイズにシャットアウトされてしまった。
特に、ルイズの「ご主人様に間違って襲いかかる様な使い魔は、ご飯抜き」の一言は朝からバタバタしていて、何も食べていないシンジにはことのほかこたえた。
これは「ガンダールヴ」の弱点の一つ、発動中は時間が間延びして感じるために音が聞こえづらくなってしまう。そのため彼女らの声が聞き取れなかったのだ。
おまけに三人とも、眼深にフードを被っていたため顔が見えなかった。

それに、シンジはこの3人に、「こないで下さい」と言って、了承を貰っていると思っていたため、まさか後をつけてくるとは思わなかったためだ。
結局シンジが、主人を含む3人だと認識したのはルイズに爆発魔法を食らった後だった。

「ひどいやルイズさん……」





ここは先ほどの森の茂みの中である。
いつまでたってもフーケは来ず、みんなで痺れを切らしていた。なぜか、ほけっとしたミス・ロングビルもいる。
シルフィードが帰る途中でタバサに呼ばれたため、帰りそこない竜籠の中で眠っているのを発見されたのだ。

「辺りを偵察してきます」と言った、ミス・ロングビルのセリフは、シンジを含む全員に反対された。相手はスクエアだ、できれば全員で隙をつき攻撃したい。それに、仮に偵察途中でフーケに見つかり人質にでも取られたらやっかいだ。

タバサが声を上げた。

「ルイズ、あなたに言いたいことがある。さっき、私が退却を指示した時、なぜ従わなかった。ここに同行する時に、私に従う約束だったはず」

タバサの目に冗談では済まされない光があった。ルイズは俯き、小さな声で、「ごめんなさい」と言ったきり黙ってしまった。
タバサもさほど追求はしなかった。あの時、賊に襲われたと思ったルイズの叫びを思い出したからだ。

『イヤよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!』

ゼロゼロと煽られ馬鹿にされるのが、そんなに悔しかったのか。これは危険だ、と感じた。
名声欲、名誉欲にかられ行動を取ることの危うさは、さして集団戦闘を経験していないタバサにもわかる。

「帰る」

タバサがそう言ったのでシンジはほっとした。今、小屋の中にはモートソグニルがいる。 もし後でフーケが現れても跡をつけることも可能だ。

「で、でもあの、……フーケはどうするんですの?」

そうミス・ロングビルは主張したが、モートソグニルのことを説明すると微妙な顔をして黙ってしまった。





「……というわけで、“何事もなく”「破壊の杖」を取り戻しました」

破壊の杖を無事取り戻した事を学院長へミス・ロングビルと“二人”で報告し、そのまま退室しようとすると、シンジがオスマンに呼び止められた。
 
「まあ、待ちたまえ。わしとしては学院の名誉を守った君に褒賞を与えたいのじゃが……」
「それは、ルイズさん達とミス・ロングビルにお願いします。ボクの分があるのならそれも含めて」
「彼女らには、無断で授業を抜け出したことを不問にする。という褒賞を与えよう」

シンジはそれを聞き、(あちゃー、ばれてたのか)という顔をした。

「ふっふっふ、君はまるで御伽噺に出てくるイーヴァルディの勇者のようじゃな」
「なんですかそれ?」
「ま、よくある英雄譚じゃ。わずかな恩や食事で命を賭け、巨大な敵に立ち向かい人を救う。そして何処ともなく去っていく」
「僕は、どこにも行きませんよ」
「おお、勿論じゃとも、少なくとも君の話を聞くまではどこにも消えないで貰いたいしのう」

オスマン氏はそう言って、また含み笑いをする。

「君はひょっとして、楽器を扱えるのではないかな?」

これにはシンジも驚いた。いままでそんなことは誰にも言っておらず、たとえ二十四時間覗かれていても、わかるはずの無い情報だからだ。

「学院長、まさか人の心が読めるんですか?」
「それこそ、まさか、じゃな。君の両手についた使い魔のしるし「ガンダールヴ」と「ヴィンダールヴ」、その伝説の使い魔にはそれぞれ二つ名があるのじゃ。すなわち、「神の盾、ガンダールヴ」、そして「神の笛、ヴィンダールヴ」おそらく「神の盾」は見せてもらったんじゃろうのう。君が何と呼んでいるのかは知らんが。……ま、それは置いといて、「ヴィンダールヴ」の二つ名「神の笛」からひょっとしてと思ってな」
「……」
「その顔からすると、どうやら当たりのようじゃな。君がどんな楽器を得意とするのかは分からんがもしよければ用意するが」





「シンジ、どうしたのそれ」
「学院長に貰いました。 お古だそうです」

シンジがご褒美にと貰ったのはチェロだった。
貴族の基礎教養には楽器の演奏も含まれる。もっとも大概は物にならないのがほとんどだが、オスマン氏も若い時に、このチェロをやっていたがどうも才能がなかったようで、例の「場違いな工芸品」の部屋に置きっぱなしにしていたようだ。

(やっぱ、ガラクタ置き場じゃん)

と、ミス・ロングビルは思ったが、彼女もフーケ捕縛に協力し、初めてフーケの尻尾を掴んだ最大の功労者として、臨時ボーナスを貰っていたため黙っていた。
余談では有るが、彼女が「破壊の杖」で稼ごうとした金額の最低ラインは臨時ボーナスと同額であった。







おまけ
フーケの夢

シンジはミス・ロングビルの後ろに回り「眠りの鐘」を鳴らした
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ミス・ロングビル=フーケの心の中で、戦いの鐘がなった。

「では、まず僕が偵察に行ってきます」
「どうぞ、お気をつけて」

さて、まずはお手並み拝見とばかりにシンジを送り出す。シンジは背中の剣を抜くと、いささかへっぴり腰で偵察に向かう。

(あらら、風竜扱いはうまいけど、こう言う荒事はあんまり経験が無いみたいね)

だだっ広い広場の真ん中に、ポツンと小屋があるのだ。抜き足差し足で行ってもあまり意味は無い。それに気づいたのか、いきなりダッシュで小屋に取り付いた。はたから見れば、かなり間抜けで笑える行動である。

シンジは開いている手に、投げナイフをつかむ。窓に近付き、おそるおそる中を覗いてみた。
小屋の中は、一部屋しかないようだった。部屋の真ん中にほこりの積もったテーブルと転がった椅子が見える。崩れた暖炉も見えた。
部屋の隅には薪が積み上げられている。どうやら炭焼き小屋のようだ。
そして、薪の横にはチェストがあった。木で出来た大きな箱である。どこにも人の隠れるような場所は見えない。シンジは扉を開け、中に入った。フーケはそれを確認し、巨大ゴーレム生成の詠唱を開始した。
長い詠唱が終わり、巨大ゴーレムがその地面より立ち上がり始める。

「きゃああああああああ!!」

頃合いを見計らって、悲鳴を上げた。
それが聞こえたのか、シンジは勢い良く小屋から飛び出した。肩にはしっかり「破壊の杖」を担いでいる。

「どうしました! ミス・ロングビル!」

そこでシンジは見た。森が立ち上がるのを。それは見る見るうちに高くなり人型をとった。

「フーケのゴーレム!」

シンジは、作戦が失敗したことを悟った。フーケがゴーレムを作り上げる前に見つけ、捕縛する。
それ以外に、フーケに勝つ手段はない。そう、思いつめていたのだった。
ミス・ロングビルがこちらに逃げてくる。

シンジはミス・ロングビルの手を掴み、走って逃げ出した。片手には「破壊の杖」、もう片手にはミス・ロングビル。
シンジは、森の中に逃げこもうとするが、それはいきなり出来た壁に阻まれた。
シンジは意を決して、

「ミス・ロングビル、ここは僕が食い止めます。 どうかあなた一人でも逃げてください」
「いけません、ミスタ・シンジ。……「破壊の杖」を使ってください」
「し、しかし、これは今はこの国の宝でしょう。僕が使うわけには」
「ならば、私が使います。 どうか使い方を教えてください」

シンジはしばらく考え込むが、やがて諦めたように、

「わかりました、僕が使います。 これは我が国の武器、最強の杖。そして僕はそれを使うことを許された一人です」

シンジは杖を掲げ、先端をゴーレムに向け、呪文を詠唱し始めた。

「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」

杖の先端に光が集まる。まぶしくてとても眼を開けていられないほどだ。

「我と共に来たり、我と共に滅ぶべし!」

呪文の詠唱の終わりと共に、杖から七色の光の奔流がほとばしった。光はまっすぐ、フーケのゴーレムに当たる。すると、ゴーレムを形どっていた精神力が一瞬で霧散したのだ。
たちまち、土の山に還るゴーレム。
シンジはそれにとどまらず杖を振り回し、周囲を取り囲もうとしていたすべての壁にこの光を当て始めた。
すべての壁が崩れ去り、そこはまたもとの空き地へともどった。

「す、すさまじい、威力です、ですわね」

心なしか、ミス・ロングビルの声が上ずり、震えている。

「ボクの故郷では、「悪魔の杖」と呼ばれていました。正式名称は「スティンガーミサイル」です」
「ま、まさしく悪魔の杖。 それはミスタ・シンジにしか使えませんの」
「いいえ、先ほどの発動ワードを知っていれば、誰にでも使えます。 最後に破壊対象を頭の中に思い浮かべると小さな針から、大きな船まで自由自在に破壊することが出来ます」

フーケは心の中でニヤリと笑う。知りたいことは、すべてわかった。
あとは……

「あ、ミスタ・シンジあれは!」
「え」

フーケはシンジの注意をそらし、「眠りの鐘」を鳴らす。

「う、うう、なんだ。 急に眠気が・・・。 ミス・・・ロングビル・・・逃・・げ・・て・・・」

その言葉を最後にシンジは眠りこけてしまう。

「ご苦労様、そしてごめんね~」

フーケは、破壊の杖を手に取り、先ほどシンジが唱えていた「発動ワード」を唱え始めた。先ほどと同じように、光が杖の先端に集まる。

「おっと、我と共に来たり、我と共に滅ぶべし!」

自分に襲い掛かろうとした二匹の使い魔をその寸前で塵に返した。

「やれやれ、こいつらのことを忘れていたよ。 こりゃーばれたかもね。しかしこりゃ売るわけにもいかないね」

少々、残りの給料が惜しい気もしたが、まあいい。その代わり、とんでもないものが手に入ったのだ。あの、四ヶ月間の苦労が報われた瞬間だった。

その日から、「破壊の杖」と「ミス・ロングビル」それに「平民の使い魔」は学院から姿を消した。
そして、次の週からこのところ鳴りを潜めていたフーケが「破壊の杖」強奪より、また活発化し始めていた。
そして、どんな強固な壁も、いや、あるときは軍隊でさえもすべて「破壊の杖」で蹴散らしていく「土くれ」のフーケが、「悪魔」のフーケと呼ばれるようになるのにさほど時間はかからなかった。
そして、今夜もまたフーケの哄笑が街に響き渡る。

「ほーほっほっほっほ……」

Fin
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あの、ミス・ロングビル大丈夫ですか」

ふと目を覚ますと、シンジが自分を心配そうに見下ろしていた。その後の話を聞き、フーケは絶望した。
生徒とは言え、トライアングルメイジが二人そして、強力な使い魔が2匹もいるのだ。
何とかチャンスを、と思い。「辺りを偵察してきます」と、言ったら、全員に却下された。
この場で事を起こそうにも火と風のトライアングルメイジがいるこの状況では、すぐに制圧されてしまうだろう。

(ああ~、あの四ヶ月はなんだったの~)(幕間話2 フーケを憐れむ歌、参照願います)

もしかして、と思い、夢の中で聴いた呪文を、シンジの抱える「破壊の杖」に触りながら密かに唱えたがうんともすんとも言わない。
そうこうしているうちに、小屋の見張りは学院長の使い魔に任せ帰る事になった。
だんだん離れていく、森の小屋を眺めながら、フーケは心の中で血の涙を流した。





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