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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第三十話 演劇の神 その1
Name: エンキドゥ◆197de115 ID:130becec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 06:02



赤い紅いアカイ、どこまでも赤い世界。
上も下もわからない。境界線はあいまいで、酷く狭いようにも果ても無く広いようにも感じる。
そこに彼は浮かんでいる。沈み込んでいる。たゆたっている。流されている。
開けた口から漏れたわずかな気泡が上へ上へと浮かんでいく。苦しくはない、むしろ気持ちがいい。ワルドに開けられた胸の穴も、わずかな痒み意外はもう何も感じない。
気が付くと首と頭の下に豊かな肉感がある。浮かんでいるのに膝枕をされているのだ。
その膝枕の主は、豊かな赤毛と碧い瞳を持つ美しい少女。

「やっと、アタシのものになったわね」
「……」

見つめあう感情のこもらない瞳と愛おしそうな瞳。

「先ずは、アタシのことが好きだって言いなさい」
「……アタシのことが好きだ」

鷹揚の無い、感情のこもらない、そんな声。

「あー違う違う。んーと、史上最強超絶無敵に素敵でお美しいアスカさま、僕はあなたの下僕です。どうか僕をあなたのおそばに一生居させてください。あなたの為なら何でもします。そう海に眠る真珠を、夜空に輝く星を、地底に潜むダイヤをもってあなたを飾りましょう……」

だが、少女はそんな反応の薄いシンジにかまうことなく、妄想のような言葉をとつとつと告げていく。
シンジが操り人形のように、オウムの様にそれを繰り返す。
そして少女の長い長い途切れることの無い、

哄笑。


第三十話 演劇の神 その1


“カツンッ”
魔剣が留め金を鳴らす。シンジがいつでも喋れるようにと買ったばかりのころに、鞘に切り込みを入れたのだ。
今は彼が自分の意思でそうしているのか、それとも担いでいる者の振動に、自然と揺れ動き偶然かみ合わさっているものか?
気にするものは誰もいない。



「シンジのアガシオン?」

声をあげたのはギーシュだった。
ここハルケギニアにおいて、アガシオンとは物語に登場する「指輪の精」「ランプの魔神」等の人の言いなりになる便利な精霊のみをさすのではない。
彼等の魔法そのもの、あるいは未だ説明のつかない魔法現象の仮説としても登場する。
人がそれを行うのではない。もって生まれた、神に貸し与えられた魔法の素質「アガシオン」が「呪文-ルーン」に応え精神力と引き替えにそれを行うのだ。
というものである。

「うーん、ぼくらはそういったオカルトめいたものでもないんだけどね。いってみれば魂に転写された情報体ってところか。この人形にはそれを収める為の器(うつわ)がついていて、これ幸いともぐりこんだんだけどね」
「あなた方はどこまでついてくるつもり」

そう声をかけたのは、メイドのほうだった。
今は全員が礼拝堂を出て、走り急ぐルイズを先頭に廊下を進んでいた。

「どこまでって、そりゃあ……」
「そこのメイド!なんで止めとかないのよー!」

荒げた声でルイズがわめく。

「よく考えたら、あなたの言うことを聞く必要は無い」

いまひとつ鷹揚の無い無感情な声で、メイドが答えた。

「それに私はメイドという名前ではないわ」
「へえ、なんてお名前?」

そう聞いてきたのはキュルケだ。

「レイ」

短くそう応えた。その返事にキュルケは「プッ」と笑いを漏らす。

「なに?」
「あー。だって、ねえ」
「シンジのアガシオンがレイじゃ、出来過ぎって物よ」
「そっちのお人形さんは、アスカあたりかしら?」
「名前など、……いや、そうだな僕はセフィロトのケテル(王冠の座)ってとこでどうだい?」

それは森羅万象と人間のかかわり、あるいは系統魔法を直感的に表した象徴図、また魂と精神の設計図。そして自然万物を発生させるもの。つまりは生命の樹(セフィロト)。そしてケテルとは生命の樹の最上に位置するセフィラー(天使あるいは魂の座)である。
またキュルケは「ぷぷ」っと笑った。

「ずいぶんとまた酔っ払ったお名前ねぇ」
「おかしいかな?今迄で一番、自分の本質に近い名前を言ったつもりだったけど」
「それじゃあ、そっちのレイさんはマルクト(王国)?それともイエソド(基礎)?ひょっとしてダァト(知識)かしら?」
「……」
「そのどれでもないよ。彼女をあらわすならクリフォト(再生、あるいは悪魔の樹)のセフィラー、リリスってとこだ」

☆☆☆

「ひーんひーん、お姉さまー。体が、体が重いのねー、苦しー立ち上がれないー!なんで、なんで!精霊どこいったのねー!」
「ミス・シルフィード。がんばりたまえ、君はおそらく僕らとご主人達の脱出の要(カナメ)となるはずだ」

ここは、城壁と城の間にある使い魔たちの放牧場だ。
泣き喚いているのはタバサの使い魔のシルフィードである。彼女は腹ばいになったまま苦しそうにわめいていた。
そんな彼を励ましているのは、ギーシュの使い魔「ヴェルダンデ」だ。
みしみし、ぎしぎしと彼女の肉が、そして体重そのものが、その体形にそぐわないほどに細い骨を、彼女自身を押し潰そうとしていた。

「ああ、もう。あんたの父ちゃんや母ちゃんは何にも教えてくれなかったのかい。そら、深呼吸おし!ハイ!吸ってー吸ってー吐いてー、吸ってー吸ってー吐いてー、吸ってー吸ってー吐いてー……」

そう言ったのはワルドの騎獣、グリフォンのバルバリシアだった。彼女もまたシルフィードを叱咤している。

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、……」
「よーしよしよし、ハイ次に吐いた息が体の回りに留まるようにイメージしてー!」
「お、おおおお、なんか気持ち楽になってきたような……」
「そうか、竜の『ブレス』はそのまま精霊魔法だからな、体内に蓄積された精霊を変換せずに、そのまま吐き出してるのか!さすがは軍属、物知りだな」
「おっおおっおおお!さっすがお姉さま、何でも知ってるのね。シルフィー完全ふっかー……」

勢い込んで立ち上がろうとしたシルフィードだが、またへにゃへにゃと座り込んでしまう。

「馬鹿だね、自重おし。あんたのそのでかい図体じゃ身にまとわせるのがせいぜいか、せめてもう半分ぐらいの大きさならねえ。はてさてどうしたものか」
「シ、シルフィー大きくないのね、一族じゃ一番のチビだったのね。……お姉さまもモグラもなんで平気なの?」

その質問には、さあ?と頭をひねった。

「こっちも、いつまでもあんたにかまっちゃいられないのさ。なんかさっきからうちの隊長殿(ワルド)が呼んでるみたいなんでね」
「シルフィーもさっきから、ご主人様の声がとぎれとぎれに聞こえてきて、行かなきゃいけないみたいなのね」
「君らの感覚はさすがに鋭敏だねえ。僕には全然だ」

ヴェルダンデが感心して、そう漏らした。

「だが君らに負けぬこの鼻が、主人の危機とその居場所を嗅ぎ取っている。急げシルフィード」
「さすがのあたしでも、そのでかい図体を縮めろとは言えないよ。悪いけどここまでだね。あんたの主人が生きてたら……どうしようもないか」

バルバリシアもヴェルダンデも人語を操ることは出来ない。

「半分……縮める……、うっうっう、死にたくないのね。まだ食べたいものが一杯一杯あるのね。精霊少ないけど人生賭けるのね。……風よ!……」

☆☆☆

「ここね」

それは、シンジがワルドに刺された部屋の扉の前だった。

「そう、覚悟はいいかい」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。よし、覚悟完了!あけてちょうだい」

ケテルと名乗る、シンジの姿をした「スキルニル」はその扉を開いた。扉の向こうは、半透明のピンクの壁。

「な、んだい、こりゃあ」

ギーシュは癖になっているのか、その壁に造花の杖を向けた。無意識にディテクトマジックを唱える。
バチバチと壁と杖の間で火花が飛び散った。感覚を読むどころではない。

「うひゃあ、さ、最大級の反応って!?」
「この壁は、彼の魔法で出来ている。ということ?」

ギーシュ達は、ルイズの態度からシンジ関係だろうと予測していたが、これでは中に入ることすら出来ない。
ついっとルイズが前に出る。

「ケテル、リリス。さあ、あたしをあいつの、我が使い魔の元へ」

ケテルは小さくうなずき、壁に手をあてた。

「ん」

奇妙な感覚に眉根をよせる。
どうしたの?とレイ。

「いや、……すまない、一緒に頼む。この体のせいかも知れないが、どうも抵抗が大きい」

レイと名乗ったそのメイドも一緒に、その半透明の壁に手を当てるが、その壁にも“二人の体”にも何の変化も表れない。


☆☆☆


「あーはっはっは……あー面白かった。さーて次はっと、そうねー目を開きなさい」

少女はシンジにそう命令する、だがシンジの目は先ほどから薄目にだが目は開きっぱなしだ。何を命令したのか?

「ニューカッスル」城に突き立った赤い十字の塔、その中央にある数十の膨らみに薄い亀裂が走る。亀裂はみるみる広がりやがて上下に避け始めた。
その、亀裂の中身は……瞳だった。常識外の巨大な目が十字の塔に数十と開いていく。
そして、それまで赤く薄暗いだけだった少女のいるその場所が、みるみるうちに明るくなってくる。果ても無いほど赤一色だったその場所に太陽の光が差し込んできた。

そこに展開されるのは、青空、遠くの山々、すぐ近くには欝蒼と茂る森、そして空を飛ぶ木造船の群れ、そして視界をぐるりと取り囲む螺旋状の白い雲。
少女はそれらを見渡しニヤリと笑う。

「パスは繋がっているようだけどコイツから追い出され、あいつらには思考力は無しっと、さて」

少女はシンジの胸に手を当て、その手をゆっくりと、まるで水の中に手を浸すように埋没させていく。

「んーと、これかな?こっちかな?」

少女の手が、シンジの体の中を泳ぐたび、シンジの体はビクンビクンとはねる。

「ふふふんのふんっと、何が出るかな、何が出るかな、ぽーんっと」

まるで歌うようにふざけるように少女の手はシンジの体内を蹂躙する。そして少女の手は、そのみぞおち付近で止まる。

「あっはっはっはっは、最悪のハズレね。あいつらにとって。うっふふふふふ、念のため、もう二~三本ひっぱっときますか」

ニヤニヤ笑いながら、何やらシンジの体内でその手を握る。少女の額にはなにやら奇妙な文字列が輝いていた。

「イッツ、ショータイム」

彼女はいったい何をしているのか?見れば白の上空を渦を巻くように回転する白い雲、その一部が千切れるように別れ一本の紐となって城の上空に集まってきた。
それらは毛糸の玉のように丸まりパキパキとガラスか薄い氷の割れるような音を立て、自らを形作っていく。それは縦横十メイルほどのブルークリスタル。巨大なる塊。そして美しき正八面体だった。

「あっはっはっは、ちっこーい。力も姿も千分の1ってとこかしら?でも、まあ、あいつら相手のお遊びには十分ね。さあ、かかってらっしゃい」

まるで、少女の声が聞こえたかのように空中戦艦は行動を開始した。
二重隊列になり、みずからを水流で覆い、打ち出される数百の砲弾。
もしそれが現実の光景であれば、大砲の発射音が響きわたるはずだが、この空間には何一つ聞こえてこず、ただ空船の舷側がチカチカと光りわずかな煙が上がるのみである。

“ばちばちばちばちばち……”

飛んできた砲弾は、ほぼ城壁の真上にて、まるでガラス板に無数に小石を落としたような音と共にはじかれる。目には見えない障壁によって。

「敵側のターン終了っと、さてさてお次は、ずっとずっとアタシのターンと行きましょうか」

次の瞬間、青白く真っ直ぐな光が空軍艦の円周起動上に現れた。真っ直ぐに伸びた真昼の雷光(ライトニング)。だがこの光は彼等が考えているような放電の魔法ではないのだ。
微細な粒子を光の速さほどにも加速した荷電粒子砲の一撃である。木造船やそれらを取り巻く水流程度では止めようが無い代物だ。
事実、最初に当てた無人の空船は紙のように切り裂かれ真っ二つになる。
だが、そこに隠れる指令船に当たる頃には減退、拡散し、彼等の言う「水流シールド」に受け止められてしまった。

「あんりゃあ、意外としょぼいわね。ま、いいけど。第二撃発射用意!」

すでに生き残りの空船は逃げにかかっているようだ。だが遅い!そして盾となり今はこちらにつっこんでくる焼き討ち船となったゴーレム船の「水流シールド」など、この少女からすればシャボン玉同然である。
だが、あまりもあっさり後退する艦隊に違和感を覚える。

「ひょっ!」

少女は空を見上げた、分厚い雲のその先を。

「あは、考えたわね、考えたわね、考えたわね、考えたわね……、でも無駄」

再び、少女の額の文字列が輝く。
紡がれる次なる糸は、空中に現れし夜の傘。それは上から見ても下から見ても。
先触れに現れるのは、上下に二つの小さな黒点。その間にはまるで水墨をこぼしたように暗く深く極限までに薄い闇が広がっていく。

そして、小さな夜が「ニューカッスル」城の頭上に訪れる。

☆☆☆

「船長は確か空軍には珍しい魔法学院出のインテリですよね。なんですかアレ?」
「やかましいわ!入ったけど出てねえよ。素行が悪くて追い出されたんだ。でもよ……」

ニューカッスル城の頭上より、夜が広がっていく、それはわずかな時間で城をすっぽりと覆ってしまった。

(なんか、引っかかるもんがあるな、そうだ学生当時に読んだファンタジーにあんな怪物がいたな……よく見りゃあのサイコロも……。)

「でも……なんです?」
「いやーな予感だけビンビンにしやがる」

そこに、かねての計画通り「レキシントン」が振ってきた。
落下する「レキシントン」のスピードは、その巨大さもあいまって酷くゆっくりに見えた。だが実際には飛来する弓矢の速度だ。
つっこませたゴーレム船も奇跡のようなタイミングでほぼ同時に城壁に到達する。どう考えても詰みだ。

“どぷん”

全空軍艦の甲板員。そして操舵輪を握る船長はそんな音を聞いた。水音?いやもっと粘度の高いなにか、そうまるでシチューにスプーンを落としたような音だ。
「レキシントン」は一瞬だけ止まって見え、ふっと消えてしまった。ボロボロだったが、半分以上生き残っていたゴーレム船も同時に。
城を覆っていた闇の衣は瞬時に消えさり。そこにはまた先ほどと変わりない風景が広がっている。すなわち半壊した「ニューカッスル」城、そこに突き刺さる赤い十字の塔、そして……。

「な……ん」

絶句。ただ絶句。
そこには、青く巨大なクリスタルがその外縁部を輝かせていた。
我に返ったのは甲板長が一瞬だけ早かった。

「船長!」
「反転!全速後退!!水流シールド解除!風メイジ共、全員甲板にて回頭と後退に協力しろ!他のメイジは全員、船のケツにシールド!水でも土でも火でもいい!全力展開!」

悲鳴のような絶叫で命令を下す。だが空軍艦とはいえ、それほどすばやく動けるわけでもない。
そして船長の権限ギリギリの後退命令。撤退命令はまだ出ていない。だが多少なりとも勘の良い船長は皆似たような行動を取っていた。
そこに、二撃目の青白い光『ブリューナク』

「早……」

だがその発射角度は、城を取り巻く空軍艦のはるか上に伸びていった。いや、上どころではない。その光線は城のほぼ真上に発射されたのだ。

「くっそ……なんでばれやがった」

船長は、その軌道を見て歯噛みして悔しがる。

「船長?やつらは何を?」
「アレが狙ったのは多分……」

雲の上に伸びる光は、まるで鞭のように揺れ動き雲を切り裂いていった。
そして、雲の中で発光、爆発音、降り注がれる瓦礫、破片、それらは予備として用意されていたのであろう二撃目のトールハンマー、つまりは「レキシントン」の後ろ半分だった。確認は出来ないが放出前だったため、運搬用の竜母艦もただでは済むまい。

「通信兵!何か指示はないか!」

呼ばれた通信兵は、手を複雑に動かしいまだなんの指示もないことを示した。
城の上空に浮遊し鎮座する、青いクリスタルは再度その外縁部に光を伴い始める。

☆☆☆

「入れないって、どういうこと」

ルイズの叫びにレイが応える。

「抵抗が大きい、壁の親和性が低くなり硬く締め付けられている」
「わからない。何が起こっているのか。このままだと……」

「俺を使え」

それまで忘れられていたデルフが声をかけた。

「デルフ?」
「俺を使え、ガンダールヴもどき。インチキヴィンダールヴはここに残って嬢ちゃんらを守ってな」
「ふん、信用できるのかい?」
「するしかねえだろ!おたがいによ」

シンジの姿をしたスキルニル、ケテルは鼻を鳴らし背中の剣を抜く。

「ああ、おめえじゃねえな。そっちのメイドの方か?レイとか言ったな、リリスだったか?まあどうでもいい俺を掴みな」

ケテルはちょっと肩をすくませ、黙ってデルフリンガーをレイに渡した。

「それで、どうなるの?」
「こうさ!」

叫ぶなり、その刀身が輝き始めた。みるみるうちにデルフの錆は消え、刃紋が整いギザギザだった刃の部分は、今まさに磨がれたように鋭く変化した。
皆はあっけに取られデルフを見つめている。

「それで?」
「ちぇ、ちったあ驚きな。おうご主人様、こいつと一緒に俺を掴んでくれ。中に入るのは俺とコイツとご主人様だけだ」

訝しい顔をしながら、ルイズはデルフの柄を、そのレイと名乗る女と握った。

「ご主人。俺は重いぜしっかり持ってな」

いくらデルフが重いとはいえ、女性二人が握っているのだ。おまけにレイがその重量のほとんどを支えている為、ルイズはその重さを感じることは無い。だが黙ってその握りを強くする。

「これでいい?」
「おっし、んじゃあいくか」

デルフはなんの指示も出さない。だがレイとルイズのふたりはあらかじめ決められた動作をこなすように、その刀身をピンクの半透明の壁に押し当てた。

「ん」「あ、あれ」

デルフを掴む二人は驚く。今、一瞬だが体を「操作」されたのだ。

「すまねえな」
「いい非常事態だから許す。いそいで」
「今ので、俺の中の精神力はすっからかん。さて!」

デルフの刀身の先、壁に押し当てられた箇所がまるで光の粒子のように飛び散り始める。音も無く周囲に撒き散らされた光の粒子は、今度はデルフの刀身に再び吸い込まれていくのだ。

「ふん、いいたかねえが極上だな」
「そうか、そういうことか!」


☆☆☆


三撃目の「ブリューナク」が発射された。今までと違い、その光の鞭は子供が棒を振り回すように、すばやく回転される。
だが、船本体を傷つけることは無く、それはやや上方を通り過ぎた。

「うお!」
「なんだなんだ。警告のつもりか?」
「ただ警告のためにだけヘキサゴン・スペルを使うなど、余裕のつもりかクソッ!」
「もうここまでです。司令殿、どうか撤退命令を!どうやらあの魔砲撃は我々に“逃げろ”と言っているようです」
「わからんぞ、後ろを向いたところを撃つつもりかもしれん」
「何の為にそんなことをする必要があるのですか、向こうはこちらが前を向いていようと腹を見せていようとお構い無しに撃沈できるのですぞ」
「黙れ!この敗北主義者が!今のは警告ではなく、たんに精神力と気力が切れる寸前で狙いがずれただけだ。あんなでかい魔法がそう何発も続けて撃てるものではない」

ここは、レコンキスタの空中艦隊、その旗艦「キャネーリ」号の後甲板上、空軍司令サー・ジョンストンはその光景を見ていた。この手の戦闘においては、たとえ勝っても一割の被害を出せばその勝利を誇れぬといわれている。ましてや敵側にほぼ一方的に蹂躙され、相手には何の被害も与えずでは自分の無能を証明するようなものではないか。戻ったときの上司の詰問を想像し彼は顔色を変えている。

「希望的な予測で指揮を執られては、兵どもがたまりませぬ。ここはお引き下さい。クロムウェル閣下もこの様子を「遠見の鏡」にて見ているはずです。撤退は恥ではございませぬ」

頭ではわかっていても、自尊心がそれを拒んできた。だが……。

「……やむをえぬ撤退だ!伝令!撤退命令を伝えよ。全船崖下に退避。急速下降せよと。……それと傭兵どもに突撃命令を伝えよ。よい目くらましになってくれるはずだ」

伝令は、急いで敬礼し走っていった。

「失礼ですが司令殿。突撃命令は少し前に命じておきました。あやつらでも今の光景を見てしまった後では怖気づくでしょうからな。何、一旦動いてしまえば五万の軍隊です。止まりたくとも止まれるものでは有りませぬ。またあの魔法形式では我らのような空船を攻撃するのには向いていますが、果たして五万の人間をことごとく殺しつくせるものですかな?」

そして彼は、越権行為の謝罪を行い処罰を求めた。

「そうか、貴様はよく出来た副官なのだな……。このことはクロムウェル閣下に報告しておく」

サー・ジョンストン空軍司令長官はそれだけ告げた後、後ろを向き肩を震わせていた。

☆☆☆

「おう、サイード。おめはちっとどいてな。これから突貫(突撃)すっからよ」
「だんちょー、俺の名前覚える気ないっすね」
「へっ、これが終わったら覚えてやんよ」
「だんちょー!やばいっすやばいっす。そんなつまんないフラグ立てちゃだめっすよ!」
「ああん、旗(フラッグ)がどうしったってぇー?!」
「だーかーらー!」
「ああ、後で聞く。あーとーで!」

団長と呼ばれる男は、右手をうるさそうにふって少年を追い払う。
後方で、低く、太く、でかい音で角笛が鳴る。突撃への準備の合図だ。本当の突撃の合図はこの後になる。

「あ、ちょ、やべえ」

少年は慌てて傭兵団の突撃の邪魔にならぬよう身をよけようと急ぐ。そして、ひょいっと後ろを見た。
そこには見渡す限りの肉の壁がそそり立つ。いずれもかの少年よりも頭ひとつはでかい、力自慢、技自慢の傭兵たちだ。先ほどまで少年と話をしていたヒゲ面の大男は、くだんの少年が視界から消えたことで安心したのか。突撃の準備を始める。
両手を大きく広げ、できるだけ大きな声でほえるのだ。
彼の武器は二メイルほどの柄を持つ戦場斧(変形杖)、それを急いで上に差し上げる。叫ぶ、足を踏み鳴らす、武器を振り回す、手のひらで体のあちこちを叩く。すなわちハカダンス(ウォークライ)自らの力を誇示し、相手を威嚇し、心を戦場用に殺戮用に染め上げる。
ハカダンスは、大きな傭兵団の長が見本をしめし、団員がそれにあわせて舞い踊る。戦闘前だというのにまるで祭りの前のような光景だ。事実これは宗教的な意味合いがある。彼等傭兵たちの神、戦女神ブリュンヒルデに見初められ、美しき乙女戦士のワルキューレにヴァルハラへと迎え入れてもらい死後「エインヘリヤル」(始祖ブリミルのヴァルハラにおける軍隊、またはその兵士のこと。英雄と呼ばれる者のみが選ばれ、ヴァルハラにおいて様々な特権をもらえる)となる為の儀式なのだ。

「うぉー、スゲエな。五万人のウォークライか!」

その様子を見て、逃げていろと指示をされたはずの少年はその原始舞踊の光景に見入ってしまう。ハカダンスはほんの三十秒ほど、最後に団長が“ウォー”と吼えて突撃となるのだ。

そして、当然のごとく少年は逃げ遅れる。


☆☆☆


「む、映像が切れたぞ。現地はどうなっておる」

ここは「レコン・キスタ」の総司令部である。彼等上層部は揃って、ここに在らざる遠き戦場を映し出していた「遠見の鏡」を見ていたが。それが5つともほぼ同時に見えなくなってしまっていた。現在はただの鏡である。

「やれやれ、安物を使うからこうなるのだ。アーティファクト・メイジ(マジックアイテム職人)を呼べ」
「まてまて、母から習ったことがある。右斜め45度をひねるように叩くと調子がよくなるのだ」
「こらこら、爆発のショックで場が乱れているだけだろう。待っていればもうじき回復するはずだ」

オリバー・クロムウェル総司令官は右手を挙げ、皆を制した。

「落ち着きたまえ諸君。……ミス・シェフィールド。……うん、ミス・シェフィールド居ないのかね」
「かの秘書君でしたら、なにやらあわてて出て行ったようですが」
「そういえば、彼女は何者ですかな」
「閣下はどちらでお雇いに?よろしければ優秀な女官を何人か手配させますが」

「そ、そうか、なに所用を言いつけようと思っただけだ。問題ない」

そう笑顔で応えた総司令官の右手は固く握り締められ、背中にはうっすらと汗がにじんでいた。


☆☆☆


「どうした、何があった」

ウェールズは伝令の兵士を伴い走る。このあと父王と共に「ヘキサゴン・スペル」を撃たねばならぬのだ。「フライ」程度のわずかな精神力も今は惜しい。彼の王錫に輝く「ブレイド」の光も今は最小限の大きさに戻している。小さく灯した「ブレイド」の光は、現状において絶やすことはできぬ。いざという時はこれで身を守るしかないのだから。油断、それこそがもっとも恐るべき敵であることを今更ながらに思い知った。

「王が……あなたをお呼びせよと、急いでお呼びせよと」
「父が?ふむう」




地下港への階段、それを大急ぎで下りている時にそれは起こった。

「くわっ」「おおう!」

いきなり空気が変わった。今までと今を比べれば、窒息寸前の魚がいきなり水に戻されたような感覚だ。みずからの腕で自分を抱きしめる。ぞわぞわと留まっていた血が一斉に流れ、麻痺していた触覚がその身に戻り始めたような感覚を覚えた。

「なんだ今……」

それは過ぎ去った過去ではない、今なお続く経験なのだ。
そして、

「「うわっ!」」

ウェールズも兵士も慌てて耳を押さえる。今までの五倍十倍の音がその耳に飛び込んでくる。
それは、ほんのわずかの違いだったのだろう、常人であれば気がつかないような。だが彼等メイジには酷い感覚の差として表れた。特にウェールズは、首筋に溜っていたチリチリとした焦燥感が消え、とてつもない安心感、万能感がその身を満たしていた。
彼は慎重に、自分を抱きしめる自分の腕を外した。

「んーーー……ふーーー」

軽く鼻で深呼吸、今恐ろしく気分がいい。たった今生まれ変わったような爽やかな気分だった。
ふと、上を見れば“よどみ”が登っていくのが“観える”。見えているわけではない、そう感じるのだ。そしてウェールズ自身の調子のよさはその“よどみ”の中にあった。
“よどみ”の向こう側、即ち今までウェールズがいた空間、ニューカッスルの地上部分。それはわずかな速さで上へ上へと登っていく。

「待っておれ」

ウェールズはそう指示すると“よどみ”の境界線へと近づいていった。慎重に、慎重に、指で探り手をつっこませ、王笏を伸ばした。そして、『ディテクトマジック』(探知魔法)をかける。
何も、何も引っかからない。その空間からは何一つ帰ってこない。ただただ空虚であるだけだ。目に見えている階段、壁すら“無い”ことになってしまっている。かろうじてところどころに備え付けられているランプの火がその熱を伝えてくる程度だ。

彼ははっとして、肉体的にどこかおかしなことは無いかと確認するも、特に変わった兆候は無い。

「殿下、……時間がありませぬ」
「う、うむ」

首をひねりつつも、ウェールズは兵に従い、また階段を下りていった。先導する兵を見ながらも”そういえば“と思いついたことがあった。

「君。命令とはいえ、あの空間に突っ込んでくれたのか。すまない、礼をいう」
「い、いいえ。来た時にはあのような境界はありませんでした。私も驚いております」
「……そうか」

なるほど、あの奇妙な空間の境界線は上へ上へと登っていった。移動しているのか、またはその領域を縮めているのだろう。ウェールズの脳裏には、なぜかあの使い魔であるという少年の顔がちらついた。




地下の秘密港では、これまた奇妙な光景が広がっていた。天井に張り付くように横たわる「イーグル」号。なぜか縛られ、拘束された数人の者たち、その中には見知らぬ顔もあり見知った顔も何人か存在していた。見知った顔の中には彼の宿老であり、国にとっても重要な“円卓の騎士”たるパリーまでいたのだ。彼は他の円卓の騎士とは違い、知恵をもってなる番外の「コックマー」(知恵の座、ここにおいては官僚の長のこと)の一人である。
そして、……数十人の人垣。

「殿下……こちらへ。王がお呼びです」

人垣が割れていく、そこには横たえられた現王ジェームズ一世の姿があった。その姿は弱弱しく戦装束の胸元には赤くシミが出来ていた。

「父上!」

慌ててウェールズは、王に駆け寄る。そしてその手を取った。父王の回りでは数人の水メイジが彼を治療しようと、また命をつなぎとめようと必死に呪文を唱えている。
そして、その声に気づき王は薄目を開いた。

「ウェー……ルズ。我が息子よ」
「父上、どうか、どうか喋らないで下さい」

治療中であろう水メイジを見る。急ぐようにとも力を出せとも言わない。その様子を見れば全力を尽くしていることはわかる。下手に声をかけ集中力を乱すわけにもいかない。
ただ短く“頼む”とだけ告げた。

「誰だ!誰が父上をこんな目に!」

周りの者たちの目線は、拘束された者たちに向けられた。彼等はうなだれウェールズの厳しい視線から逃れようとしている。その様子にかっとなり、王笏に展開する「ブレイド」を再び元の大きさに戻した。風がとてつもない勢いで「ブレイド」の光にまとわりつき回転を始める。

「なぜだ、なぜこんなことを」
「どうか殿下。そのものたちの詮議は後ほど、今は王のお言葉を……」

兵士たちが慌てて、激昂するウェールズ皇太子をなだめ抑える。彼は怒りつつも再びブレイドを収めた。

「父上」
「お前に、お前に王権を渡す。継承の儀を……」
「父上、そんなものは……」

……戦争が終わってから、と告げたいが、この様子ではもはやいかぬであろう。
ウェールズは目をつむり、わかりましたと告げた。そして立ち上がり王笏を掲げる。

「皆のもの杖を掲げよ。私を王と認めるものは、その柄を捧げよ。異議あるものは魔法を唱えよ」

そこにいる全員が膝をつきウェールズに、杖の柄を捧げる。皆、王の状態が解っているのか、まるで訓練されたような一致した動きだ。本来で有ればこの後、一人一人が名乗りを挙げ支持を表明するのだが、そんな暇も余裕も無い。それにここに居る全員は皆ウェールズの友人といっていい間柄の者ばかりである。……それはあそこに拘束されているもの達も同じであるのだが。

「王よ、皆の承認を得ました。どうぞ継承のお言葉を……」
「我が、息子、ウェー……ルズを次の、王とする」

それがアルビオン王としてのジェームズ一世最後の言葉となった。
ウェールズが大急ぎで誓いの祝詞を捧げる。

「我は、不動の献供において、始祖の言葉を受け継ぐものなり。国と民と貴族の長としてわが身はあれど、その身は空なり……父上、父上!」

ここに、アルビオンの新王ウェールズ一世が誕生した。








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