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No.16701の一覧
[0] 今日も、この世界は平和だ (ゼロの使い魔 オリ主・転生)[石ころ](2018/07/27 01:05)
[1] 01 エピローグ(1)[石ころ](2018/07/27 00:38)
[2] 02 エルフと吸血鬼(1)[石ころ](2018/07/27 00:39)
[3] 03 エルフと吸血鬼(2)[石ころ](2018/07/27 00:40)
[4] 04 エルフと吸血鬼(3)[石ころ](2018/07/27 00:40)
[18] 05 エルフと吸血鬼(4)[石ころ](2018/07/27 01:38)
[19] 06 エルフと吸血鬼(5)[石ころ](2018/07/27 00:42)
[20] 07 微風の騎士(1)[石ころ](2018/07/27 00:43)
[21] 08 微風の騎士(2)[石ころ](2018/07/27 00:43)
[22] 09 微風の騎士(3)[石ころ](2018/07/27 00:44)
[23] 10 微風の騎士(4)[石ころ](2018/07/27 00:45)
[24] 11 微風の騎士(5)[石ころ](2018/07/27 00:45)
[25] 12 微風の騎士(6)[石ころ](2018/07/27 00:46)
[26] 13 微風の騎士(7)[石ころ](2018/07/27 00:47)
[27] 14 微風の騎士(8)[石ころ](2018/09/07 05:06)
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[16701] 03 エルフと吸血鬼(2)
Name: 石ころ◆3b8a8997 ID:ecb31cdf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/07/27 00:40

 ファーティマ・ハッダードがアーディドと出会ったのは、まだ自分が幼く、そして孤独だった頃だ。

 当時、ファーティマには友達と呼べるような者が誰もいなかった。子供たちからは「裏切り者の一族」と言われて疎まれた。いや、子供たちだけではない。大人たちですら、皆が皆、ファーティマとその家族や親族のことを白眼視していた。
 なんで、わたしがこんな目に――そう思って、思い浮かぶのは、顔も知らぬ叔母のことだった。ファーティマは親から聞かされていた。わたしたちがこうなったのは、すべてシャジャルという女のせいだと。彼女はエルフを裏切り人間のもとについたが、当然その大罪は国に残された一族にも影響を及ぼした。反逆者を出したハッダード一族は国から追放すべきだ――そうした意見が“評議会”で議題に上がるほどに。
 幸いにして、その案はぎりぎりの票差で否決されたという。それでも、だからといって今までどおりに生活できるわけがなかった。一族はほかのエルフたちのほとんどから蔑まれ、まるで自分たちが罪人であるかのように扱われていた。
 ――だからファーティマも恨んでいた。叔母のせいでわたしは、と。

 ある日の夕方、ファーティマがアディール郊外にある自宅に外遊びから帰ると、見知らぬ少年が居間にいた。どうやら来客らしいが、ファーティマたちの一族の事情から、ほかのエルフたちとの親交はこれまでほとんどなかったので、誰か他人が家に来るということに珍しさと驚きを覚えた。

 少年に応接していたのはファーティマの母だった。母はファーティマに少年のことを嬉しそうに紹介した。彼はアーディドと言い、評議会に所属する議員の祖父を持つような、首都アディールでも名の知れた一族の生まれらしい。
 そんなアーディドがこの家に来たのは、シャジャルの裏切り――エルフでありながら人間に与し、国を捨てて人間世界ハルケギニアに降ったまでの経緯について、またファーティマたちがどれほど困窮しているかという現状について、聞きたかったからということらしい。さらにテーブルの端にはパンや果実の入った袋が置かれていたが、それは彼がパン一つ買うのも苦しい我が家を心配して持ってきてくれたとのことだった。

 ファーティマは理解できなかった。名高い家柄のエルフが、「裏切り者の一族」とまで言われるような自分たちに、なぜ関わるのか、なぜ助けるのか。
 その疑問を口にして、ファーティマは母から窘められた。しかしアーディドはそれを気にせず、淡々と述べた。

『不当に差別されるあなたたちを支援することの、何がおかしいのか。あなたたちは何一つ、悪事も道徳に反する行為もしていない。だから、あなたたちが遠慮する必要はない』

 ファーティマより少し年上といった程度なのに、ずいぶんと大人びた話し方をする少年だった。しかし、その言葉には強く籠められた真摯さが感じられた。とくに、今まで親族以外にこんな態度を取られたことのなかったファーティマにとっては、それは新鮮で印象的だった。

 その日以来、アーディドは定期的にファーティマの家を訪れるようになった。その際に、彼は生活に必要な物資を持ってきてくれただけでなく、ファーティマの遊び相手にもなってくれた。また、簡単な勉学を教えてくれたり、魔法について指導してくれたりもした。

 アーディドは優れた魔法の“行使手”だった。当時は比較対象がほとんどいなかったせいでわからなかったが、今ならば、彼は全エルフの中でも頂点に座するであろう天才だと言うことができる。
 アーディドが言うには、精霊との契約においてもっとも重要なのは、あまねく存在する精霊の力の大小、偏りを感じ取り、そこに生じている“流れ”に沿って、彼らに語りかけることらしい。……それ以上に詳しい説明もされたが、はっきり言ってファーティマには理解できなかった。とにかく、彼は「精霊の力の流れ」を正確に把握できるようで、それによって強力な“契約”を交わすことができるらしい。

 それ以外にも、アーディドはこの国――ネフテス国以外の場所の話もよくしてくれた。どうやら彼は、時折この付近にやって来る東方の商人に接触して、いろいろと人間の国についても聞いているらしい。それまで人間の国についてはたった一言「敵国」としか教えられてこなかったファーティマにとって、ガリア王国やロバ・アル・カリイエなどの様子を聞くことは、何よりも楽しく興味深かった。

 そんな日常を続けて、年月が過ぎて……。

 全てが一変したのは、アーディドと出会ってから八年後のことだった。

 家のドアを誰かがノックした。その日はアーディドが訪問してくる予定だったので、彼だと思ったファーティマはすぐにドアを開けた。だが、そこには見知らぬ青年のエルフがふたりいるだけだった。
 だれ? とファーティマが誰何する前に、彼らは一枚の紙面を目の前に差し出した。そこに書かれた文の下には、評議会の決議を示す印が捺されていた。

『評議会でお前たち一族の拘束が決定した。“ネフテス国に対する反逆を企てている”という理由でな。まあ、大人しくするんだな』

 呆然とするファーティマを退けて、おそらく評議会から派遣されてきたのであろう騎士ファーリスたちは、家の中に踏み込んできた。
 その時の居間には、母のほかにファーティマの叔父も来訪していた。騎士たちはファーティマに言ったことを再度、母と叔父にも宣告した。

『――ふざけるなッ!』

 母はファーティマと同じように憮然としていたが、叔父は激怒した。それに対して、騎士たちはサーベルの柄に手をかけて従うよう脅しをかけた。
 それでも、叔父は臆さなかった。ずいと前に進み、家から出ていくように怒鳴る。しかし騎士たちも、命令なので退くことはできぬと強く言うばかりだった。
 やがて感情が昂ったせいか、叔父はとうとう騎士たちに手を出してしまった。軽く小突く、程度ではあったのだが、それでも騎士は怒り狂った。

『……この“裏切り者の一族”めッ!』

 一瞬の出来事だった。抜刀し、素早く突き出されたサーベルは、狙い違わず叔父の腹部を貫いた。
 騎士がサーベルを引き抜くと、叔父はばたりと人形のように倒れた。その血に塗れた叔父の姿は、ファーティマにとっては今でも忘れられない。

『……先に仕掛けてきたのはコイツのほうだ。こうなりたくなかったら、大人しくしておけ』

 冷たい声でそう言い、騎士たちはファーティマたちに外へ出るように促した。
 だけど、動けなかった。叔父が目の前で突き刺されたことのショックも大きかったが、もし彼らに大人しく従ったとしても、反逆罪の疑いが取り消されることに、一縷の希望も抱けなかったからである。民族反逆罪は……死刑。

 ……もう、終わりだ。
 そう諦めた時だった。

 彼が現れたのは。


『――邪魔だ』


 アーディドの一言で、暴力的な風が二人の騎士を壁に打ちつけた。一瞬、彼らはうめき声を上げたが、すぐに動かなくなった。気絶したのだ。
 精霊による力だった。室内であるのに、これほどまでに強い風を行使できるのは、行使手がアーディドだったからだろう。

 アーディドは無言で、倒れている叔父のそばに近寄った。そして、左手を傷口のほうに持っていく。
 すると……アーディドの薬指にはめられた指輪の、青い宝石が溶けだした。ぽたぽたと傷口に垂らされるその液体は、叔父の身体に沁み込んでいき――

『傷はふさがった。命に別状はないだろう』

 その宝石は、おそらく水の精霊石だったのだろう。単独で精霊の力を凝縮することのできる行使手は数少ないが、アーディドの実力ならば水石を作りだすことも容易なはずだ。
 アーディドは、珍しく暗い声色で言葉を続けた。

『……申し訳ないことをした。あなたたちを排除しようと画策したのは、俺の祖父だった。俺があなたたちの一族と交流していることを嫌って、祖父はそのような暴挙に出たのだろう。俺も迂闊だった』

 ファーティマも、母も、事情を呑みこむまでしばらく時間がかかった。そして、ようやく理解して先に発言したのは、母のほうだった。

『どう、してくれるの……!? こんなことになって! 評議会まで完全に敵に回って、もうおしまいよ!』

 ヒステリックに叫ぶ母に、ファーティマは何か失望のようなものを感じた。アーディドの祖父が評議会議員だと聞いて、母は喜んでいたではないか。なのにいま、こうしてアーディドを責めるのは、どこか卑怯なように思えた。

 母の言葉を聞いたアーディドは、少し考えてから、決心したように口を開いた。

『おそらく、ハッダードの一族でアディールにいる者は、もう拘束されているだろう。そして俺には、評議会の決定を覆す政治的な権力は持ち合わせていない。だが……一つだけ、別の手法はある。“力ずく”で議会側を脅迫すれば、拘束された一族の解放くらいは望めるはずだ。ただし、以後ネフテス国に在住することはむずかしくなるだろう。いちおう、衣食を保障できる当てはあるが……』

 どちらにせよ、このまま何もしなければ反逆者として投獄されるのだ。だとしたら、アーディドに従うしかない。
 しかし、アーディドの言葉には不明な点が二つあった。すなわち、「“力ずく”での脅迫」と「衣食の保障」である。母がそれについて詳細を聞くと、アーディドはとんでもないことを平然として言い放った。

『アディールの中心部の“契約”を奪えばいい。要求を呑まねばすべてを破壊すると脅せば、かならず従うだろう。捕らえられた一族を解放したのちは、風竜を用意させ、それを使って“東”を目指す。そこで、いずれかの隊商キャラバンの人間に接触できれば、俺の作れる精霊石を対価に保護してもらえるはずだ』

 あまりの発言に、ファーティマも母も唖然とした。アーディドは、たった一人で国全体を相手取り、堂々と亡命を図ろうと言ったのだ。こんなことを思いつくのは、普通に考えれば狂人かよほどの愚者であろうが、しかしアーディドはそのどちらでもなかった。

 彼はそれを実現させられる、稀代の天才だった。

 それからのことは、まるで空想のような出来事だった。
 アーディドはファーティマと母、そして目を覚まさせた叔父を連れて、そのままアディールに向かった。当然ながら、それまでに騎士たちに見つかり、攻撃されもした。だが――騎士たちの行動は、すべて無駄だった。魔法を使おうにも一瞬でアーディドに契約を奪われ、精霊を支配されるのだ。そして騎士たちが近づこうとすれば、精霊たちがアーディドを守るために彼らを吹き飛ばす。
 まさに、鉄壁だった。それがいっさい破られず、カスバ――評議会本部にまで難なく到着したのだから、もはや呆れ笑いしか浮かばない。当然ながら、ほかの騎士や評議会議員たちにとっては悪夢でしかなかったであろうが。
 ファーティマたちが評議会本部の中に入ると、それを出迎えたのは、議員とおぼしきエルフの一員を伴ったネフテス国統領、シャーワルだった。

『……まさかこんなことになるとはな。いくらなんでもやりすぎではないか、アーディドよ』
『あんな決議がなぜ通された?』
『知っているだろう、最近の評議会は浅慮な過激派どもが幅を利かせていることを。きみが私に懇願した“あの時”のように、上手く議員に根回しするほどの力はないのだ』

 シャーワルは目を伏せ、アーディドはどこか苦々しそうな雰囲気を漂わせた。二人が交わした“あの時”が何を指しているのか、この時のファーティマには理解が及ばなかった。

『……まあ、きみの反抗のおかげで、きみの横暴な祖父殿は失脚せざるをえなくなることは喜ばしい。評議会でもっとも影響を持ちながら、強硬な排他主義を崩さない彼には、こちらも頭を痛めていたからな。むろん、この騒ぎで私も統領としての座を失うことになるだろうが……あとは、きみに任せることになるだろうな、テュリュークよ』

 シャーワルは隣に控えたエルフに、ちらりと目を向けた。テュリュークと呼ばれた彼は、複雑そうな表情で頷く。それを確認してから、シャーワルは視線をアーディドに戻した。

『それで、要求は?』
『拘束されたハッダード一族の解放。それに食糧といくらかの金品、そして風竜の用意を』
蛮人人間の国に行くつもりなのか?』
愚物エルフの国に住めなくなったのだから、そうするしかなかろう』

 皮肉げに述べたアーディドに、シャーワルは呆れたような溜息をついてから、「わかった」と言った。

 その後は、驚くほどスムーズに事が進んだ。アーディドの要求どおり、評議会の決議によって拘束されていた一族は解放され、全員が無事に評議会本部に集められた。なかには人間の国に亡命するということに難色を示す者もいたが、こういう事態になった以上、最終的にはアーディドの案に全員が賛成した。

 そして十分な頭数の風竜と、食糧およびいくらかの金品も用意された。あとは、このネフテス国を飛び去るだけである。アーディドに続いて、皆は評議会本部の入り口から外へ出た。ややこしいこともこれでようやく終わりか、と安堵したファーティマの胸に銃弾が飛び込んできたのは、次の瞬間であった。

 だが銃弾が胸を抉る寸前、その凶弾は強力な精霊の力によって進路を捻じ曲げられ、真っ直ぐと来た道を戻っていった。そしてすぐに、銃弾を放ったらしき男たちの胸に穴が開いた。
 アーディドの行使していた“反射カウンター”の魔法による業だった。外で待ち伏せして一斉射撃を行なった者たちは、全員が反射によって自分の銃撃を受けて倒れていた。

『では、行こう』

 自滅した彼らには目もくれず、アーディドは風竜に乗り込んだ。ファーティマたちも少し遅れて、アーディドに続いた。その間に襲おうとするエルフは誰もいなかった。もはやアーディドをとめることはできないと悟ったのだろう。

 アーディドの風竜には、ほかにファーティマと父母が乗った。準備が整うと、タイミングを合わせてすべての風竜が飛び立った。少し遅れて、下方から「アーディドッ!」と叫ぶエルフの声が響いた。ファーティマはアーディドのほうを見たが、彼は何事もなかったように顔を前に向けていた。もしかしたら、さっきのはアーディドの親族だったのかもしれない。だけど、そのことを確認する気にはなれなかった。
 高度が上がるにつれて、生まれ育った国の首都の姿が小さくなる。もはや、ここに戻ることはできないのだ。そう思うと少し不安がこみ上げ、それを振り払うようにファーティマはアーディドに尋ねた。

『人間の国にわたしたちが行っても、大丈夫なのかな……?』
『少なくとも俺の知る商人は、人間だろうがエルフだろうが利益があれば付き合うという性格だ。それでもエルフの特徴は目立つから、隠しておいたほうが無難かもしれないが』

 そう言って、アーディドは首元のスカーフに手をかけた。すると突然、そのスカーフは生物のようにうごめき、次の瞬間にはアーディドの耳が――人間特有の短く丸みのある耳に変わっていた。
 どうやらそのスカーフには意思が付与されており、風の精霊の力も宿されているようだ。これを使えばつねに“変化”の魔法を行使させて、人間と同じ姿を取れるらしい。

『人間の姿に化けるのは、いやか?』
『ううん、そんなことはないよ』

 アーディドに会ってから、人間についてはいろいろと聞いて知った。その人間像とファーティマの知るエルフを比べてみると、あまり違いはないように思えた。ほかのエルフたちは人間を蛮人と呼び、劣ったものとして見下しているが、本当にそうなのかは疑問が尽きない。
 それにファーティマたちの一族が同じエルフたちから受けた仕打ちは、あまりに理不尽だった。もはやファーティマには、エルフという自分の種族をそこまで価値づけることができなかった。
 だけど、「人間に化けなければいけない」ということには、ファーティマは少し残念な気持ちだった。それは人間が嫌いだからというわけではない。

 ――エルフとしてそのまま、いがみなく人間と一緒にいられる世の中だったらいいのに。

 そして、ふとファーティマは思い出した。人間と一緒にいることを望み、国を捨てた叔母のことを。
 昔は何も考えず、ただ見知らぬ彼女のことを恨んでばかりだったが、こんなことになった今のファーティマには、別の感情が湧いていた。

 彼女は今、どうしているのだろうか。
 人間と暮らして、幸せでいるのだろうか。
 もしできるのなら、会って聞いてみたかった。
 そして、どうして自分の国を捨ててまで、人間に付いていったのかも知りたかった。

 そんな想いを抱いてから、六年が経って……。




















 ファーティマがアーディドの部屋を覗くと、そこには室内を整理している彼の姿があった。

「…………」

 ファーティマは意外すぎる光景に驚いた。アーディドの部屋は最近いつも怪しげな魔法道具マジック・アイテムの研究で散らかっており、それを片づけようともしていなかったのだ。ファーティマはそのことを何度も注意していたのだが、ようやく彼もその気になったのだろうか。

「どうしたの、急に?」

 そう尋ねると、アーディドは整頓作業の手を休めて振り向いた。

「ファーティマか。そろそろ、頃合いだと思ってな」
「……頃合い?」

 妙な言葉に、ファーティマは首を傾げた。ただの掃除をするのに頃合いと言うのも、何かおかしい。
 どういう意味かと聞いたファーティマに、アーディドはとんでもないことを言いだした。

「近いうちに、ガリア王国のほうへ行くつもりだ」

 あまりに唐突過ぎて、ファーティマは一瞬、思考停止してしまった。

「……ガ、ガリアぁ? どうして、そんなところに……?」

 そうは言ったものの、そういえばアーディドがたまにガリア語の勉強をしていたのを思い出した。それに大陸西方――ハルケギニアに存在するメイジの“系統魔法”についても、彼はいろいろと調べていたはずだ。

「やらなければならないことがある。そのために、“アレ”に時間を費やしていたのだからな」

 アレ、とはおそらく、アーディドの作っている奇妙なマジック・アイテムのことだろう。芋虫のような外見をしたそれは、風石が近くにあると自動的にそこへと這いより、風石を食らって精霊の力を霧散させるのだという。
 しかしファーティマは、なぜそのようなものを作るのか、アーディドから教えられていなかった。利便性の高い風石を破壊させる必要性にも思い当たらない。だが、彼にとっては何よりも重要なものらしい。

「……どれくらいの間、向こうにいるの?」
「わからない。場合によっては、五年以上かかるやもしれない」
「そ、そんなに……!?」

 予想外の回答に、面食らってしまう。五年以上……となると、この地にやってきてからの時間より長くなる可能性もあるのだ。
 ファーティマにとって、アーディドはもはや家族同然だ。長い別れになるとわかってしまっては、すぐに受け入れられるものでもない。
 何を言うべきなのだろうか。ファーティマが困惑して立ちつくしていると、やがてアーディドがおもむろに口を開いた。

「向こうでは、きみの叔母――シャジャルにも会おうかと思っている」
「……え?」

 もう何度、驚かされているのだろうか。
 シャジャル。顔も知らぬ、ファーティマの叔母。彼女がいなければ、今頃はそのままネフテスで暮らしていただろう。だけど彼女がいなければ、アーディドやここの人間たちにも出会わなかったかもしれない。
 そんなファーティマの人生を左右した彼女に、アーディドは会うのだと言う。

「どう、やって? 彼女がどこにいるのかも……」
「心当たりはある。おそらくアルビオンという浮遊大陸の国の、モード大公のもとにいるだろう」

 ほとんど確信に近い口調だった。西方の人間世界に行ったことないアーディドが、なぜそんなことを知っているのだろう。疑問を口にしてみたが、アーディドはその理由を教えてくれない。
 だがその代わりに、彼はファーティマに問う。

「――シャジャルに会いたいか?」

 せこい質問だった。
 だってそんなふうに言われたら――頷くしかないだろう。

「……会いたい。会って、話してみたい」
「それを実現させたかったら、すまないが俺に付き合ってもらいたい。長旅にはなるだろうが、まあ、つまらなくはならないはずだ。向こうはこの地とはかなり文化が違うし、何よりも、ファーティマにとってよい経験になるはずだ」

 そして、いつもほとんど表情を動かさないアーディドが、久しぶりに微笑を浮かべた。





「俺と一緒に来ないか、ファーティマ?」

 ファーティマは強い意思で答えた。

「……うん、行かせて。シャジャル――わたしの叔母のところへ」










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 執筆した当初は原作20巻までしか出ていない状況でした。
 そのため21巻に合わせ、ハッダード一族の境遇描写に修正を加えています。



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