「よう、メイルスティア!久しぶりじゃねぇの?元気?」
軽く手をあげて挨拶するデュマだったが、ラリカの表情がやけに強張っているのに気付き、眉を潜める。
「あんだ?なんでキレてんだテメッ・・・!?」
「良かった・・・、ホントに戻ってきた・・・。」
デュマが言い終わる前に、そう呟いて地面に崩れるように座り込むラリカ。
先ほどまでの強張った表情がすでになく、安堵の笑みが彼女から漏れていた。
その目には少しだけ涙が溜まってるのが分かる。
「アレ・・・、どうしたんだろ私・・・。」
軽く目を擦るラリカ。
そんな彼女を無言で見つめていたデュマだったが、少し間を置いて話し出す。
「なんで泣いてんのか分からんが、そんなトコに座ってねぇで、まずは打ち合わせでもしようや?なんのためにオレが戻ってきたか、知らねぇわけでもあるめぇ?」
座り込むラリカに手を差し伸べ、デュマはニヒルに微笑む。
「・・・、確かビームがどうと・・・。」
立ち上がりながら言いかけたところで、彼女は何かに気付いたようにデュマから視線を外す。
その先には、まだ倒れたサイトに寄り添うルイズの姿があった。
見学をしていた生徒達は、もう興味をなくしたように、ぞろぞろとその場を去っていく。
貴族に勝った平民、ではあるが結局は平民ということだろうか。
「そういやお前、あの小僧の姉じゃなかったっけ?使えねぇ弟は消しても問題ないとか言ってたが、ヤツは意外に使えると・・?」
言い終える前に、ラリカは2人の下に駆けて行く。
「チッ、げんきんな野郎だぜ・・・。」
ニヤリと笑い、デュマもゆっくりと歩き出す。
「ああもう!重いのよこの馬鹿!!」
倒れているサイトに罵声を浴びせながらも、頑張って運ぼうとしているルイズ。
その時、サイトの体が急に軽くなった。
宙に浮く彼を不思議そうに眺め、ルイズがゆっくりと後を振り向く。
「手伝います。ミス・ヴァリエール。」
「アナタは・・・。」
ルイズの目線の先、そこには灰色の髪をした少女が立っていた。
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爽やかな青空の下、サイトは可愛いウサギを追いかけて走っていた。
どこまでも広がる草原に、ウサギとサイトだけが駆け回っている。
ピョンピョンと跳ねる度にピコピコと上下に動く小さな丸い尻尾が愛くるしい。
サイトに捕まると、ウサギは困ったように鼻をヒクつかせるが、暴れて逃げようとはしなかった。
フワフワな、まるで綿毛のようなウサギを優しく抱き上げるサイト。
柔らかくて暖かい、柔軟剤を使った羽毛布団でも、こうはいかないだろう。
抱き上げられて、プルプルと小刻みに震えるウサギのお腹の辺りにサイトは顔を埋めた。
頬に触れる繊細な毛が、彼に恐ろしいほどの安堵感を与えてくれる。
いつまでもこうしていたい、そう感じたサイトは知らず知らずのうちに呟いていた。
「ああ・・・しあわせ・・・?」
ゆっくりと目を開けると、そこにはやはりウサギの毛があった。
もう一度目を閉じようとしたものの、なぜか自分がベッドの上に寝ているような感覚があったことと、ウサギを抱き上げているはずの両手が自由なことに気付き意識を戻す。
そして、
「うおおおああああ!!?」
フワフワな毛の正体に気付いたサイトが大声を上げてベッドから勢い良く落ちる。
その目線の先、ベッドの横にはあのデュマがいた。
ベッドに向かって、あのトサカのような髪を垂らしている。
そう、あのフワフワで柔らかく暖かい毛の正体はデュマの髪の毛だったのだ。
「あら、起きたのアンタ?」
尻餅をついてデュマを指差すサイトの後方で、ルイズが呟く。
慌てて振り向くサイトの目に、ムスっとした顔で睨み付けてくるルイズが飛び込んできた。
「ルイズ!って、何なんだ!?なんでアイツが!!」
「馬鹿ね、アンタが倒れた後、ここへ運ぶのを手伝ってくれたのよ・・・、そいつじゃなくて・・・、彼女がね。」
ルイズの視線の先には、控えめに微笑むラリカの姿があった。
「良かった、もう大丈夫そうですねサイト。」
「ラリカ!?って、じゃあ2人で俺の看病をしてくれたのか?」
驚いた後、彼は照れくさそうに笑う。
「あ・・・、なんか迷惑かけちまって悪かったな・・・。」
そんなサイトに、黙っていたルイズが口を開けた。
「そうよ!貴族様2人がアンタみたいな使い魔の平民の看病をしてあげてたのよ!?ご主人様に感謝しな・・・!?」
「アヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
ルイズの言葉が終わらないうちに、ヤツが大声で笑い出す。
そう、デュマだ。
「ウフフフ・・・アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
不快な馬鹿笑いを続けながら、ベッドに倒れこむ。
バタバタと足を動かしながら腹を押さえて笑い転げるデュマを唖然と見つめる3人だったが、しばらくしてルイズが口を開けた。
「アンタ、アイツの髪の毛がよっぽど気持ちよかったみたいね。」
その一言で、サイトの表情が変わる。
「そうだ!!何なんだよあれは!!気持ち悪いな!!」
「フヘヘヘ・・・、どうだった?このオレのパーフェクトヘアーの気持ち良さはよう!!」
ハァハァと肩で息をしながら、デュマがようやくまともに話し出す。
笑いすぎたせいか、その目には涙が浮かんでいる。
「な・・・なにを!!」
「うっとりしてたわよ。」
思い出して軽く笑うルイズにつられて、ラリカも笑っている。
そんな様子に、サイトの顔が恥ずかしさで真っ赤になった。
「ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!オレの髪の毛は宇宙最強だぜぇ!!アヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」
再びバタバタと笑い転げるデュマ。
更に、つられて笑い出すルイズとラリカによって、静かだった部屋が急に騒がしくなったようだ。
そんな中、サイトだけが肩を落として絶望していた。
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つづく