「恐ろしいパワーが学園に隠されていて、世界征服のためにラリカがそれを狙っている・・・だっけ?」
復唱するサイトに、デュマがニヤリと笑った。
「飲み込みが早ぇじゃねぇの?知っててオレを謀ったのかよ?見かけによらず策士だなテメェはよォ!!ヒャハ♪」
サイトは目の前でベラベラと話すデュマを胡散臭そうな目で見つめる。
洗濯が終わって、ようやくまともに話せると思ったのに、第一声がコレだと先が思いやられる。
「確かにこのファンタジー世界ならそんな事もあるかもしれないけどさ・・・、ちなみにそれはラリカが自分で言ったのか?」
「じらしてんじゃねぇよダボが!!今はテメェの質問タイムじゃなくて、このデュマ様の質問タイムだっつ~の。」
バシバシと地面を叩き、デュマは続ける。
「いいか小僧、オレはお前がメイルスティアの弟だからこうやって丁寧に聞いてやってんだぜ?少しでも妙な行動をしてみろ・・・? バラバラの肉片にしちまうぜ?」
「は?俺がラリカの弟・・・?」
あまりに話しが突飛すぎるため、まったく理解できていないサイトが口を挟むと、デュマがゆっくりと背中の剣を抜いた。
青く光る魔剣・セシルである。
「うおお!」と軽く叫んで距離を取るサイトを睨みつけ、デュマが続ける。
「もう我慢なんねぇよ・・・、完全にキレちまったよオレ・・・。」
ペロリとセシルを舐めるデュマの目は、完全にイってしまっている。
流石にそれを見てサイトも恐ろしくなったのか、両手を突き出してなんとか制しようとする。
「ま・・・待て待て!!少し冷静になってくれ!!」
「冷静・・・?オレは至って・・・冷静だずぇ!!!ヒャッハァ!!」
瞬間、セシルを振りかぶったデュマがサイトへ向かって突進してくる。
声にならない叫び声をあげて、その攻撃を避けるサイト。
地面に転がりながら、「待て!ちょっと待て!!」と叫び続けている。
「な~に避けてんだ小僧?すぐ楽にしてやるから良い子にしてろよ?」
勢い良く振り下ろしたせいで地面に突き刺さってしまったセシルを抜き取り、またサイトに向かって構えるデュマ。
なにがなんだか分からないサイトも、どうにか立ち上がる。
「わ・・・分かった!分かったから、ちゃんと話を聞くから剣を収めてくれ!!」
「大丈夫・・・、テメェの首を刎ねたら、ゆっくりとお話を聞かせてやるよ・・・。ウヘヘヘ・・・。」
ニヤニヤと笑いながら近寄ってくるデュマ。
そんな姿を見ながら、これ以上の説得は無意味と判断したサイトが背を向けて走り出す。
「ヒャハハハハハ!!そうだ逃げろ!!このオレを楽しませろ!!」
逃げ行くサイトの後姿を見ながら、デュマは大声で笑う。
「ウヘヘヘ・・・、馬鹿な野郎だぜ・・・。追い詰められたウサギが逃げる先には巣がある・・・。そう、ヤツの逃げる先には必ずオレの捜し求める秘宝があるに違いねぇ!!」
そう叫び、地面を蹴ると宿舎の屋根まで跳び上がる。
「ヤバイのは誰だ? ヤバイのは・・・オレか!? ヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」
走り去るサイトの姿が見えなくなると、デュマは屋根の上で大声で笑い出した。
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「あの・・・、その・・・、あの時は本当にありがとね。」
隣に座るラリカに言うルイズ。
照れくさそうだが、どこか楽しそうである。
「いえ、サイトは・・・知り合いですからあれくらいは・・・。」
控えめなラリカに、ルイズが微笑む。
「アナタは、私の使い魔のことを馬鹿にしないのね・・・。」
そう言われて、はっと気付くラリカ。
そういえば、あまりに普通に接していたせいで忘れていたが、サイトは平民だった。
平民の使い魔を召喚した、ゼロのルイズ。
あのミスタ・グラモンの一件からあまり公に馬鹿にする者もいなくなったが、確かに彼女と彼女の使い魔は特殊だった。
とは言うものの、自分の使い魔もアレでは・・・。
「それに、私が魔法を使えないことを馬鹿にすることもないし・・・。」
馬鹿にしないのではなく基本的に興味がないのだ、とも言えずラリカは愛想笑いを浮かべる。
他人に興味がなかったのか、他人と接するのが怖かったのか、そんな私がなぜか今はサイトやシエスタ、そして私よりも裕福で高い位の貴族であろうルイズまでと話している。
よくよく考えてみると不思議だった。
「そういえば、アナタの使い魔も・・・チキュウ?とかいう所から来たのかしら?」
チキュウ・・・、そういえばあの井戸の場所で最初にサイトと話した時にそんなことを聞いた覚えがある。
「いえ、デュマは・・・、デュマのことはまだ私もあまり良く分からなくて・・・。」
眉を潜めるラリカに、ルイズは取り繕うように続ける。
「確かに・・・、アイツは私にも理解できないわ・・・。でも、サイトを救ってくれたりして、意外といいヤツなのかも・・・。」
「私も・・・、そう思いたいです・・・。」
優しく微笑むラリカに、ルイズの顔も緩む。
「じゃあ、あ・・・あれね!私とラリカは・・・、同じ何だか分からない生物を使い魔にしてる・・・仲間って事ね!!」
少し恥ずかしそうに言うルイズに、少しだけ間を置いてラリカも頷いた。
「知り合い」「友達」「仲間」、そんなものとは無縁だと思っていたが・・・、これも彼が現れたお陰なのかな?と、ふと思う。
その時だった。
扉が勢い良く開かれ、食堂に聞き慣れたあの声が響いたのは。
「ラ・・・ラリカ!!ルイズ!!助けてくれ!!」
飛び込んで来たのはルイズの使い魔、サイトだった。
肩で息をしながら2人の下へ駆け寄ってくる。
「な・・・なんなのよアンタ!!貴族様の食事の邪魔をするなんて・・・!!」
「デュ・・・デュマが!!デュマが急に襲って!!」
驚き、辺りを見回すラリカ。
食堂にいた生徒達の注目が自分達に集まっていることを知り、少し躊躇する。
「ラリカ、ここは目立つから場所を変えましょう。」
そう言って、食堂を後にするルイズの後を追う2人。
「また何か騒ぎ起こすのかよ」などと、生徒達が口々に言っているのが聞こえる。
だが、そのからかうような話し声も、ガラスをぶち破って入ってきたあの男によって悲鳴に変わった。
青い剣を手にした、闇の貴公子・デュマである。
「ヒャッハァ!!見つけたぜサイトォ!!」
食堂の出口に差し掛かっていたサイトに叫ぶデュマ。
「デュマ・・・。」
そんな彼を見つめ、小さく呟くラリカだったが、彼女の姿は彼の目には入っていないようだ。
机の上を歩きながら、サイトとルイズへと向かうデュマ。
「な・・・なんなのよアンタ!!私の使い魔に何しようっての!!」
怯えるサイトの前に立ち、杖を構えるルイズに、デュマがニヤリと笑みを浮かべる。
「なんにもしやしねぇよ・・・、ただちょっとぶっ殺すだけだずぇ!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!」
「なんだよアイツ・・・、完全にイカれてるんじゃないか?」
「怖い・・・。」
などの声が、食堂の端へと避難した生徒達から聞こえてくる。
「ウフフフ・・・、アヒャヒャヒャヒャ!!!ヒャ~ッハッハッハッハッハッハァ!!ヤバイのは誰だ?ヤバイのは・・・オレかぁ!!?」
更に大声で笑い出すデュマに向かって、1人の少女がゆっくりと歩き出す。
灰色の髪のその少女は手に杖を持ち、彼を睨みつけている。
「デュマ・・・、これ以上は・・・止めてください。」
「メ・・・メイルスティアァ!!」
ようやくラリカに気付いたデュマが驚きの声を上げ、後ずさる。
「テメェがいけねぇんだ!!あの秘宝の場所をオレに教えねぇから!!だからあの小僧を殺して聞き出そうと!!」
明らかにうろたえているデュマを尻目に、ラリカは後ろのルイズに問いかける。
「ルイズ、確認させてください。1度死んでしまった使い魔との契約は解除されてしまうんですよね?」
「?・・・、た・・・確かそうだったと・・・。」
なぜそんなことを聞かれたか理解しきれていないルイズだが、一応答える。
「じゃあ、その後また復活した使い魔との契約は・・・、同じように儀式を行えば戻るのでしょうか?」
「え・・・?そんな事は・・・、今までに事例がないから・・・。」
答えきれなかったルイズだったが、はじめからそれを予想していたかのようにラリカは一言「ありがとう」と言って、再びデュマに視線を戻した。
「テ・・・テメェ・・・、まさかまたこのオレを洗脳しようってんじゃねぇだろうな?」
手にしたセシルを構えるデュマに、ラリカは真顔で頷く。
その目は、今までになく鋭い。
「フ・・・ヘヘヘ・・・、なかなかの威圧じゃねぇかメイルスティア!!だが・・・、生まれ変わったこのデュマ様に、同じ手は二度と通じねぇ!!」
そう叫び、攻撃してくるかと思いきや、デュマはセシルを投げ捨てて手を広げた。
驚くラリカに、笑いながら続けるデュマ。
「さあ、やってみろ!!テメェの洗脳が上か、このオレのパワーが上か!!今ここで証明してやるぜぇ!!」
言い終わらないうちに、ラリカは走り出していた。
再び、デュマと契約の儀式を行うために。
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つづく