崩れるように膝を着くラリカ。
そして、少しだけ間を置いてデュマもその場に倒れてしまった。
静まり返る食堂。
「ラ・・・ラリカ!!」
声を発したのはサイトと、ルイズだった。
膝を着いたまま動かないラリカに駆け寄り、声を掛ける2人。
「大丈夫かラリカ?」
「大丈夫?」
頭を押さえながらゆっくりと立ち上がるラリカ。
少しだけ苦しそうに眉を潜めている。
「大・・・丈夫。」
そう呟き、ゆっくりと視線を地面に倒れているデュマへ向けた。
白目を剥いてだらしなく気絶している。
何かを考えるようにその姿を見つめていたラリカだったが、しばらくして興味を失ったように目線を外し、フラフラと歩き出した。
「ラリカ、デュマは・・・いいのか?」
サイトが後ろから声を掛けてくるが、ラリカは軽く手を上げるだけでそのまま食堂から出て行ってしまった。
残されたサイトとルイズが慌てて追いかける中、デュマの体はゆっくりと薄れていった。
今起こった一連の騒動、そしてデュマの消滅を呆然と見ていた生徒達が騒ぎ出したのはそれからだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ラリカはゆっくりと井戸へと向かっていた。
自分に起こった事が理解できないのか、虚ろな瞳でフラフラと歩く。
「ちょっとラリカ、大丈夫なの?」
「どうしたんだよ!!何があったんだよ!!」
後方から2人の声が聞こえるが、今の彼女に構っている暇はなかった。
一刻も早く、確かめたい事があったのだ。
足早に井戸へと到着すると、そのまま食い入るように水面を覗く。
そこに写っているのは、灰色の長い髪に少しキツめの目が特徴的な、見慣れた自分の顔だった。
確かめるように自分の顔を軽く撫で、何かを確信した彼女は小さく笑みを浮かべた。
「なんで無視するんだよ?どうしたんだ?」
そんなラリカの肩を掴み、強引に振り向かせたサイトだったが、彼女の表情を見て言葉を失った。
悲しんでいると思っていた彼女が、笑っていたのだ。
「ど・・・どうしたのラリカ?」
心配そうに顔を見上げるルイズ。
「フフフ・・・、ハハハッ!!ハハハハ!!!」
顔を片手で押さえ笑い出すラリカに、サイトとルイズが驚いている。
ひとしきり笑ったところで、ラリカはゆっくりと口を開いた。
「あら、ピンク髪のルイズちゃんとサイト坊ちゃんじゃない。いつからいたのかしら?」
今まで見たこともないような不気味な笑みを浮かべ、妙なテンションで話しかけてくるラリカ。
「どうしたんだラリッ・・・!?」
近寄ったサイトだったが、腹部に鈍い衝撃を受けて目を見開く。
ラリカの細い腕が引き抜かれると同時に、膝を着くサイト。
「ラ・・・、ラリ・・・カ・・・?」
虚ろな目で見上げるサイトを尻目に、唖然としているルイズへ近寄っていくラリカ。
その顔は笑ったままである。
「ど・・・どうしたのラリカ!?何かへッ・・・!!?」
「ハイッ!ハイィィィィィ!!」
瞬間、間抜けな叫び声とともに右から平手打ちが繰り出され、無防備だったルイズの頬を捉えた。
反動で顔が左で振れるが、流れるような動作で続けられる往復の平手打ちか彼女を張り倒した。
地面に倒れ、頬を押さえるルイズは、自分に何が起こったのか理解できていない様子である。
「なっ、何をっ!!?」
「フフフ・・・ハハハッ!!ヒィャ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」
地面に倒れる2人を見下し、ラリカはまた大きく笑い出す。
あの大人しかった彼女からは想像できないような下品な笑い。
そんな彼女を見て、ルイズが声を荒げた。
「アナタ・・・誰なの!?」
ルイズの問いかけに、ラリカは笑いを止める。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「オレが誰かって?ククク・・・、オレはメイルスティア様だぜぇ?!」
睨みつけるルイズに顔を近づけてケタケタと笑うラリカは、狂ってしまったようにしか見えない。
それを見ていたサイトが、驚いたように声を上げた。
「まさか・・・お前!?デュ・・・デュマか!!?」
その言葉に、ラリカの表情が一瞬真顔に戻る。
ゆっくりとルイズから目を離し、後方のサイトへ視線を向けた。
「デュマ様だろう?」
未だに膝を着くサイトへと歩み寄るラリカ。
「デュマ様だろうが!!このクズがぁぁ!!!」
同時に繰り出された回し蹴りは、サイトの顔をモロに捉え、地面へ転げさせた。
「ワンコロの分際で、デュマ様を呼び捨てにするとは・・・、身の程をわきまえろ!!」
「サイトッ!!」
とっさに駆け寄り、ラリカを睨みつけるルイズ。
その目には涙が溜まっているのが分かる。
「アンタは・・・、アンタなんかがラリカなわけがない!! ラリカの事は・・・そんなに知らないけど、だけどアンタだけは違う!!」
必死に叫ぶルイズに、それまで怒りを露にしていたラリカの表情がパッと明るくなる。
そして、そのまま地面に倒れると、腹を押さえて大声で笑い出した。
足をバタつかせて下品に笑い続けるラリカ。
そんな中、頭を押さえた状態でサイトが立ち上がった。
「デュマ・・・、お前は・・・デュマなのか・・・。」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!ヒィエ~ッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘ!!」
サイトの問いかけを無視して笑い続けるラリカ。
その下品極まりない笑い方は、嫌でもあのデュマを連想させた。
「ホントに・・・、ホントにデュマなの!?笑ってないで答えなさいよ!!」
ルイズの叫びが通じたのか、ようやくラリカは笑うのをやめて立ち上がる。
笑いすぎて流れた涙を拭い、肩で息をしながら口を開く。
「ククク・・・、ご名答だよお2人さん。 オレはメイルスティアじゃなく、デュマ様よ。」
「・・・ッ!!じゃあラリカは!!ラリカはどこに行ったの!?」
身を乗り出すルイズを片手で制し、ラリカは続ける。
「まあ、焦るなって。今からこのデュマ様が面白ぇ話を聞かせてやるからよぉ!!」
「クッ・・・。」
2人に睨みつけられる中、ニヤニヤと笑うラリカ。
話を聞かないことには、何がどうなっているのか理解できない2人は黙っているしかなかった。
「メイルスティアの野郎が、このオレを再び洗脳しようとしたことは覚えているよなぁ?」
「・・・。」
「だが、ヤツの想像を遥かに超えるパワーを身につけたオレは洗脳を免れ、更にヤツの精神を奪う事に成功したのだ!!」
「!?」
「フヘヘ・・・、そうよ!!ヤツの精神はこのデュマ様が乗っ取った!!貴様等の前に立っているのはメイルスティアの体をした・・・デュマ様なのだぁ!!」
得意げに話すデュマに、驚きを隠せない2人。
信じたくはないが、目の前のラリカがおかしくなってしまったのは事実。
彼女の話を頭から否定する事はできなかった。
「じ・・・じゃあラリカは!?」
「死んだ。」
「へ?」
「ヤツぁたった今、オレの精神に飲み込まれて・・・死んだ。」
一瞬の静寂。
「ふざけるなぁ!!」
最初に動いたのは、サイトだった。
拳を振り上げてラリカに迫り、一気に振り下ろす。
が、その攻撃は寸でのところで停止してしまう。
「くっ・・・。」
目の前にいるのはラリカ。
精神を乗っ取られたにせよ、その姿はラリカそのものなのだ。
異世界に召喚され、途方に暮れていた自分にできた唯一の友達。
そんな友達を、彼は殴る事などできなかった。
悔しさに顔を歪めるサイトに、ラリカは微笑んだ。
「ありがとうサイト・・・、デュマに乗っ取られたなんで嘘・・・。ちょっとふざけてみただけなの・・・。」
先ほどの憎たらしい笑みとは違い、あの優しい微笑みを向けるラリカ。
そのまま頬の横で停止したサイトの拳を軽く握り、そっと下ろさせた。
「え・・・?ラリ・・・。」
「その甘さが・・・鼻につくんだよ!!」
瞬間、くわっと目が見開かれると同時に繰り出された拳は、気を緩めたサイトのわき腹に深く食い込んだ。
油断し、無防備だったサイトは小さく呻いて前のめりに倒れてしまう。
そんな彼を踏みつけ、ラリカはまた大声で笑い出す。
「笑う笑う笑う笑うぅ!!ヒィヤ~ッハッハッハッハッハッハッハ!!!愛しのラリカが戻ってきたと思ったか小僧!!ヒャハハハハ!!」
背中を丸めて苦しそうに倒れるサイトを何度も踏みつけて狂ったように笑うラリカ、いやジャップル・デュマ。
その時、眩い閃光が辺りを包み込んだかと思うと、巨大な爆発が巻き起こった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
つづく