「デュマよ、最近デカいムカデが良く現れて町を襲っているのは知っておろうな?」
「いいえ知りません。」
「・・・、とにかくワシはそのデカいムカデに困っておる。」
「ぶっ・・・・・・!!!」
「?」
「殺すっ!!陛下を困らせるヤツぁミナゴロシだあああああ!!!」
今まで怖いくらいの無表情で正座していたデュマだったが、急に額に血管を浮き立たせるほど激昂し立ち上がる。
もちろん陛下も彼がそんなに反応するとは思っていなかったらしく、少し驚いているようだ。
さっそくその場を立ち去ろうとするデュマを制し、陛下は続ける。
「まだ話は終わっておらぬ、落ち着いて聞け。」
「勘弁なんねぇッスよ!!こうして話してる間にもムカデの野郎が陛下を困らせてるんですぜ?くだらねぇ話はいいから、さっさと出撃させてくれよ!!」
明らかに陛下を敬ってはいない言葉の応酬。
陛下も慣れているらしくデュマの言葉はスルーする。
「城下町を越えた林の向こうが発生源らしいという報告を受けたが・・・、兵隊共では手に負えんらしい。そこで、ワシの半身であるお前の出番というわけだ。」
「ムカデごとき、赤子同然よ!!」
そう言って、またもやさっそくその場を離れようとするデュマ。
陛下も流石にもう止めなかったが、最後に一言だけ付け加える。
「お前はどうも落ち着きが足らん。良いか、くれぐれもムカデ以外のモノに危害を加えるで・・・」
話半分で、「ヒャハッ」と跳び立ってしまったデュマの姿を見つめながら、陛下は大きな溜息を吐く。
「また暴走しなければ良いが・・・。」
デュマは屋根の上を縦横無尽に跳び回っていた。
常人の約5倍の跳躍力を持つ彼にとって、所狭しと建ち並ぶ城下町の民家の屋根を伝って跳び回ることは容易いのだ。
「ヒャッハァ!自由だ、オレは自由だァァァああ!!」
しばらく同じ場所を何度も跳び回りながら狂ったように笑い続けていたデュマだったが、ふと立ち止まって脳を働かせることにした。
(それにしても・・・、なんでオレはヤツには逆らえねぇんだ?
基本的に傍若無人なオレだが、ヤツの前では従順な兵士になり下がってしまう。
やはりアレか?オレがヤツの破片から産まれたにすぎないからか!?)
数秒停止していたデュマだったが、一応結論を導き出したので考えるのを止めた。
真顔のまま、右手をゆっくりと手前に向けると手からビームを出す。
デュマの掌から発射された緑のビームは、一直線に突き進み、一軒の民家を破壊した。
煙が立ち込める光景を見つめ、ようやく表情を取り戻す。
「フゥェヘヘヘ・・・、まあちいせぇことはどうでもいいぜ。オレはたった今、この瞬間から自由だ!!」
ヒャハっと屋根を蹴り、デュマは城下町の先にある林へと姿を消した。
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そういや、結局ヤツに言われた通りムカデを退治してたなオレ・・・。
朦朧としながらそんなことを考えていると、少しずつ意識がハッキリしてきた。
薄目を開けると、なんだかこじんまりした部屋に自分が寝ていることに気づく。
しかもなぜか縄でグルグル巻きに縛られているようで、体が思うように動かない。
「あ・・・、目が覚めた・・・。」
女の声が聞こえる。
聞き慣れた声だからだろうか、あまり不快ではない。
声のする方向をゆっくり振り返ると、そこには灰色髪の少女が座っていた。
事態を把握し、目を大きく広げて驚くデュマ。
「あ・・・あの・・・大丈夫ですか?」
小さな、そして怯えた声で尋ねる少女だったが、デュマは聞いていない。
「なんで・・・なんでアンタがこんなトコに!?」
「へ?」
「なんでテメェがオレの前にいるんだぁぁぁぁぁああ!!ひえぇぇぇぇぇぇ!!」
縛られて満足に動かせない身体を上下左右に揺すりながら意味不明な言葉を発するデュマ。
「自由が、オレの自由がぁぁぁぁあああ!!」
縛られているのが余程悔しいのだろうか。
灰色髪の少女、ラリカはそんなデュマを警戒しながらも口を挟んだ。
「お・・・落ち着いて下さい。ちゃんと話を聞いてくれたら、縄を解いてもいいですから・・・。」
到底聞いてはくれないだろうと思い発した言葉だったが、意外にも通じたようだ。
彼はパタッと上下左右の動きを止める。
「すいません、もうしません、ごめんなさい。殺すのだけは勘弁して下さい。」
召喚してから気絶している間以外ずっと叫んでいたトサカ男が、急に大人しくなったのを見て逆に不安を感じたラリカだが、彼がその後しばらくの間、無表情のまま良い子にしているのを確認すると、小さく溜息を吐いた。
右斜めに座っていたが、ゆっくりと彼の正面へ移動する。
もちろん距離はある程度保っているが、先程よりはずっと話しやすい位置である。
「話を、聞いて欲しいだけなんですが、大丈夫ですか?」
目の前にいるのは一応自分が召喚した使い魔であるし、気絶している間に契約の儀式も済ませた。
使い魔は基本的に主人に従順であると聞いていたが、これまでのトサカ男の行動を見ているとまるで信用できない。
小さく深呼吸し、ラリカは目の前のトサカ男へ話しかける。
「アナタの名前は?」
「今更何を仰います、オレの名は”デュマ”にございます。」
「平民ですか?貴族ですか?」
「どちらかと言えば魔族にございます。」
「え・・・?貴族ですか?!」
「そんなちいせぇ事はどうでもいいんスけど、陛下はなんで尋問してんスか?自分何も悪いことしてねぇッスよ?」
「え・・・、いや、別に疑ってるわけじゃないですけど・・・。」
「じゃあパパッと縄解いてオレを自由にして下さいよ。ハンパねぇッスよ。」
モゾモゾと動きなら話を終わらせようとするデュマ。
一瞬だけかしこまった態度をしていたが、もう我慢できないようだ。
また暴れだすのではないかと、少し焦りながらラリカは続けた。
「最後に!最後に1ついいですか?!」
彼女から発せられた最後の言葉、それを聞いてデュマはニヤリと微笑んだ。
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つづく