探したい相手の特徴を聞いたものの、「最高にCOOL」「人知を超えたパワー」「スペースカウボーイ」など、まったく役に立たない情報ばかりで、結局コルベールを加えた4人がかりでも見つけることはできなかった。
とりあえず怪しいヤツを発見したら報告するように言伝し、3人と別れたデュマは適当に学院をブラついている。
(このデュマ様のバディが最高にカッコイイからって、誰が隠しやがったんだ?)
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、少し離れた場所から聞きなれた声が聞こえて来た。
「デュマ、見つかった?」
(ピ・・・ピンクゥァァァ!!?)
口を押さえて咄嗟に物陰に隠れるデュマ。
彼の存在に気付いていないため、ルイズは目の前のサイトと話を続ける。
「いや、まだだ。そう遠くには行ってないと思うが・・・、どこに隠れたんだ。」
「アンタが任せろって言うから!!ドジ!!」
「ごめん・・・、でも説教なら後からにしてくれ。まずは早くデュマを探そう。」
「・・・、そうね。じゃあアンタは外を探してて。私はラリカの部屋に行ってみるから。」
2人がその場を離れて行くと同時に、デュマは物陰からズルリと這い出した。
(あぶねぇ・・・、完全にアイツ等の存在を忘れてたぜ。)
キョロキョロと辺りを見回し、額に浮き出た汗を拭う。
2人の姿がないことを確認し、デュマは這い出た格好のまま地面を勢い良く殴りつける。
(ちくしょお!!なんでこの闇の貴公子が、あんなチビ2匹に怯えねばならんのだ!!屈辱、屈辱、くつじょくくつじょくつじょくううううう!!)
目を血走らせてバンバンと地面を叩くデュマだったが、急に誰かに呼ばれた気がしてビクッと振り向く。
そこに立っていたのは、黒髪の少女だった。
他の学生達とは違った服装をしている。
「・・・、ラリカさん?どうしたんですか?」
黒髪の少女、シエスタはデュマを不思議そうに覗き込んでくる。
(誰だコイツ?)
「あ、すみません!もしかして、私のこと覚えてませんか?!」
あわわ、と慌てるシエスタ。
「急に声を掛けてしまい申し訳ございませんでした」と、深々とお辞儀する彼女も見ながら、デュマはニヤリと笑みを浮かべた。
(メイルスティアの知り合いか!?ウフェヘヘヘ・・・、コイツァ使えそうだぜ!!)
すぐに立ち上がると、呆気にとられるシエスタの手を引いて強引に暗がりへ連れていく。
事態を飲み込めないで驚くシエスタに、デュマは優しく微笑みかけた。
「すっげェ覚えてるよお前の事。むしろすげぇ好き。」
「へ?好き・・・ですか・・・?」
更に呆気に取られるシエスタだが、構わず続けるデュマ。
「ちなみにお前の名前なんだっけ?」
「えぇぇぇ!!?」
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「ラリカさんっぽく・・・ですか?」
首を傾げるシエスタ。
「そう、お前の知ってるメイルスティアはこんなじゃねぇだろ?」
両手を開いて自分をアピールするデュマ。
シエスタはそんな姿を見て「はぁ・・・。」と間の抜けた返事をする。
「だからよ、オレにヤツの話し方とか行動パターンを教えろって言ってんの。」
沈黙が流れる。
「・・・ラリカさん、どうされたんですか?」
「・・・記憶喪失ってヤツよ。」
「へ?」
「暇つぶしにスキップしてたら踏み外して後頭部から勢い良く落ちたんだ。そしたらメイルスティア本来の記憶をポッカリ持ってかれちまったってヤツ。だからシエスタ、お前の名前も綺麗サッパリ忘れてたって事だ。アンダースタンドゥ?」
とっさのデタラメな嘘だが、シエスタは一応信じたようだった。
「大変ですね、私もスキップには気をつけます」とか何とか言って眉をひそめている。
「でも、記憶喪失になる寸前の出来事はちゃんと覚えてるんですね・・・?」
「隅から隅までバッチリ覚えてるぜ。ヤベェだろ?天才だろオレ?」
なぜか自信満々に答えるデュマに、シエスタは「記憶喪失ってそういうものなんですね・・・、何だか複雑です・・・。」と納得してしまった。
「ふむふむ、なるほど、な~るなる。」
「あの・・・、ちゃんと聞いてますか?」
「九分九厘完璧だ。今からやってみるから、何か話せや。」
場所を変えて数十分、デュマは大人しくシエスタのレクチャーを受けていた。
自信満々のデュマに、少しだけ間を置いてシエスタが演技を始めた。
「あの、ラリカさんはどういった料理がお好きなんですか?」
「アタシ、スキキライ、ナイ。」
「・・・。」
してやったり、の顔で反応を待つデュマだが、シエスタは唖然としている。
「どうした?あまりに完璧すぎて声も出ねぇのかシエスタァ!!ヒャハ♪」
「なんでカタコトなんですか・・・?」
「あああぁん?」
というわけで、シエスタによるデュマへのラリカ研修は更にしばらく続いた。
一応今回は命がかかっているため、デュマも真剣のようだ。
そして、
「・・・、最後に。私の知っているラリカさんはもっとおしとやかで、優しい方でしたから、それだけは気をつけて下さいね。」
まぁ、一回しか話したことないですけど・・・、と小さく加えるシエスタだったが、デュマはそんな小さなことは気にしない。
グッと親指を立てて見せ、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう。スーパー助かったわシエスタ。」
言って、ニヤリと微笑むデュマに対し、シエスタもニヒルな笑みで応える。
「でも・・・、やっぱり記憶喪失になってもラリカさんは平民の私と対等に話をしてくださるんですね。何だか嬉しいです。」
まだ仕事の途中だったと、慌ててその場を去るシエスタの背中を見送りながら、デュマは舌舐めずりをした。
(ウヘヘヘ・・・、後はあの豚共を召集して最後の仕組みだずぇ!!)
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つづく