じじいと同化したデュマは、まさに縦横無尽だった。
だが、やはり手からビームを出すことができなかったため、自ら命を絶つ決意をするのだった。
「やべぇ、もう死ぬしかねえよガチで。」
死んだ魚のような目でそう言うと、デュマは傍らにあった剣(魔剣セシル)を首元に宛がう。
「な・・・、何を言っておりますデュマ様!!ビームが出なくとも、アナタ様は最強ですじゃ!!」
右手に取り込まれた『じじい』が必死に叫んだため、剣を止めるデュマ。
「んなことぁ百も承知よ。でもよ、やっぱドカーンって派手にやりてぇじゃん?」
「で、ですが!今度死んでしまったら再復活できないかもしれないのですぞ!?もし運よく復活しても、ビームは出ないかも!!」
「バカかてめぇは?やってみねぇと分かんねぇだろ?なんだか今回はいけそうな気がすんだよね。」
剣を両手でしっかりと掴み、切っ先を喉元に当て、目を閉じるデュマ。
「お待ち下さい!!デュマ様!!なにとぞ!!なにとぞぉぉぉ!!」
「うるせぇよ。ぶっ殺すぞコラ?」
『じじい』の必死の制止を無視し、一気に貫こうとした瞬間、異変は起きた。
デュマの目の前に、あの空間の歪みが発生したのだ。
あの日、デカいムカデを退治している最中に発生した空間の歪みが。
「あぁぁん?」
手を止めるデュマ。
驚いた表情で、その歪みを見つめる。
「いかがなされました!?」
「ヒャハ!!おもしれえ!!おもしれぇよ!!」
剣を収め、笑い出すデュマに『じじい』は呆然としている。
「メイルスティアぁぁ!!今行くぜぇぇ!!」
そう叫ぶと、デュマは勢い良く地面を蹴り上げ、歪みの中へと吸い込まれていった。
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全長5メートルはある、巨大ムカデ。
どっからどう見ても敵モンスターだろ?とツッコミを入れたくなるような使い魔だ。
前回の私はマジ泣きしながら嫌々契約したが、今回は2回目ということもあって、すんなりいける気がする。
そんな安易な考えのもと、使い魔召喚の儀式を行った。
「ヒィ~ヤッハァ!!闇の貴公子・デュマ参上!!」
「!?」
目を見張る。
まだ物語りは始まっていないのに、私の計画は始まっていないのに・・・。
なぜここで、私の知っている『物語』が変わってしまうのだ!?
「ヒャハハハ!!懐かしい、懐かしいぞ!!この風景、この感覚!!」
目の前に現れた得体の知れない人間?が笑いながら何かを話している最中、後方でルイズの爆発が聞こえた。
「わぁ、うちのクラスで使い魔に平民を呼び出したヤツが2人て。」
「ゼロのルイズならまだしも・・・。」
少し離れた位置で、ルイズは『物語』どうように先生や生徒と言い合いをしているが、私は何も口に出せなかった。
というか・・・、この人間?は何者なんだろうか・・・?
「ようメイルスティア。ぶっ殺しちまったと思ってたが、まだピンピンしてんじゃん?」
ニタニタと笑いながら、全身タイツのトサカ髪の男が近寄ってくる。
なんだか私の事を知っているようだが、こっちは皆目検討もつかない状態なため、受け答えできない。
「ミス・メイルスティア!アナタも早く儀式を続けて下さい!」
コルベール先生の声が聞こえる。
そうだ、今はとりあえず『物語』を進めるしかない。
「我が名はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
習った通りにラリカはトサカ男の額に杖を向ける。
「ウフェヘヘヘ、洗脳の儀式か? いいぜ、今回はテメェの精神を乗っ取る事ぁしねぇ。オレの闇のパワーで洗脳を跳ね除けてやるずぇ!!」
儀式は成功し、トサカ男の額にルーンが刻まれた。
これで、この男はあの巨大ムカデの変わりに私の命令に従うようになるはず・・・だった。
「効かねぇ!!洗脳も、貴様の魔術も、このデュマ様には効かねえ!!」
ルーンは間違いなく刻まれているはずなのに、好き勝手話し出すトサカ男。
主人は使い魔と意思疎通が図れるはずなのに、彼の意思がまったく読めない。
『物語』の主人公である平賀才人とルイズならともかく、私のような脇役の使い魔がこんな特殊であっていいのだろうか?
目の前で笑っているトサカ男をぼんやりと見つめるラリカ。
「じゃあみんな教室に戻るぞ。」
今は考えても仕方がない。
意思疎通はできないが、言葉を話す人間には違いない。
後でゆっくりと話を聞けばいい・・・、『物語』はまだ始まったばかり。
脇役の私の使い魔がムカデではなく、代わりの男だったとしても・・・、そこまで影響はないだろう・・・。
ラリカはまだ独り言を言っているトサカ男を置いて、他の生徒と共にその場を後にした。
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「んだ?メイルスティアの野郎、何も言わねぇで行っちまったぜ。」
「デュマ様、あの小娘とアナタ様の関係を聞いても?」
「あぁ?話すのめんどくせぇよ・・・。長ぇうえに複雑だし。」
「げぇ、お願いしますじゃ。ワシだけ蚊帳の外は嫌ですじゃぁぁ!!」
「うるせぇよ。ぶっ殺すぞ?」
と、デュマと『じじい』が話していると、その目にサイトとルイズが飛び込んできた。
何か言い争いをしているようだ。
何か叫んだと思ったら、ルイズがサイトをぶん殴って黙らせた。
「うひょ!ハンパねぇなあの女!!」
からかうような声を上げて喜んでいると、ルイズがデュマを睨みつける。
「なによ!?」
「あぁん?」
「ていうか・・・、何者?」
他のクラスメイトはもう教室に戻ったはずだった。
いるとしたらクラスメイトの召喚した使い魔だけのはずが、見たこともない男がルイズの目の前にいた。
「ルイズ、だっけか?テメェもしかしてオレの事を覚えてねぇとか言うんじゃあねぇだろうな?」
「何を・・・言ってるの?」
眉をひそませるルイズ。
構わず続けるデュマ。
「ヒャハ!!そりゃ好都合。テメェの爆発攻撃はハンパねェからなぁ?もしかすっと、この世界で最強なんじゃねェの?」
「え?何それ?私がいつも魔法失敗して爆発させちゃってるのをバカにしてるの?」
「バカに?おもしれぇ冗談じゃねぇかルイズ!!オレはお前のその力を高く評価する!!その力とオレが組めば最強だ!!」
男は大真面目で、とても嘘を言っているようには見えない。
理解できない部分も多いが、これまで自分の魔法が褒められたことなどなかったため、少し嬉しかった。
「な・・・なによ。そんな事言って・・・、ほんとは皆みたいに私を無能だとか思ってるんでしょ?ていうか誰よアンタ?」
「オレは闇の貴公子・デュマ。テメェと仲良しのメイルスティアの・・・、旧友ってヤツ?」
過去を思い出してクスクスと笑うデュマ。
その右手の『じじい』は、初めて聞いたとばかりに目を輝かせている。
「メイルスティア・・・って確か・・・。」
「ウヘヘヘ・・・、今度その爆発魔法のやり方を教えてくれよ?ビームが出ねぇから、その魔法がすげぇ欲しい。」
ニヤリと笑みを浮かべると、デュマは勢い良く地面を蹴った。
通常の人間の約5倍の跳躍力を持つ彼の姿は、一瞬でルイズの視界から消えてしまった。
何が起こったのか把握しきれず、しばらくポカンとしていたルイズだったが、近くに倒れているサイトを思い出すと、駆け寄って行った。
「デュマ・・・。」
気絶しているサイトを横目に、ルイズは自称・闇の貴公子の名前を小さく呟いた。
つづく