ラリカの部屋でくつろぎながら、デュマは今後の身の振り方を『じじい』と相談していた。
「やっぱアレか?あのルイズの精神を乗っ取っちゃうのが早い?」
「デュマ様、ワシには話がまったく見えませぬ・・・。あのルイズとかいう小娘のバディなど、乗っ取る価値もないかと・・・。」
「じじい、テメェは相手を外見でしか判断できぬ愚か者か?ヤツの内面を覗いてみろ!!恐ろしい獣が隠れておるわ!!」
「はうぁぁ!!この『じじい』、内面を見るのを忘れておりましたぁぁ!!」
そんなやりとりをしているのは、丁度正午あたりの時間帯。
学園の生徒であるラリカは部屋に戻ってきていない時間である。
窓ガラスが強引に割られているところから、デュマが勝手に入ったことは間違いない。
ベッドに寝転がりながら、デュマは続ける。
「でもよ、確かにあの小娘のバディで行動するのは気が進まねえよな。オレが欲しいのはあのパワーだけよ・・・。」
「うふぇへへ、デュマ様。この『じじい』に良い考えがございますじゃ!!」
「ほう・・・、申してみよ。」
「ワシを取り込んだ時同様に、ヤツもデュマ様の一部にしてしまってはいかがですじゃ?」
『じじい』の言葉に、一瞬驚いた表情を見せるデュマ。
そして、ニヤリと微笑んだ。
「初めて、貴様を右手に取り込んで良かったと感じたぞ!!ヒャハ!!」
「ははぁ!!ありがたき幸せ!!」
ひとしきり笑い転げた後、真顔に戻るデュマ。
「となると、メイルスティアの存在は邪魔だな・・・。早めにぶっ殺しておかないと、後から面倒になりそうだぜ。」
デュマの脳味噌に、あの時の記憶が蘇る。
メイルスティアの精神を乗っ取った後に、ルイズに襲われた記憶だ。
あの2人が仲良しならば、ルイズを取り込んだ後必ずメイルスティアの復讐が始まるに違いない。
『洗脳』の能力は克服したが、ヤツが他にどんな危険な能力を持っているのか定かでないため、下手な行動はできない。
「デュマ様、確か以前にあのメイルスティアという小娘の肉体を乗っ取ったとおっしゃっておりましたが?」
「そうよ、乗っ取った事があのルイズにバレたため、恐ろしい攻撃を受けた。あの恐怖は、あの屈辱は忘れん!!」
あの時の記憶が鮮明に蘇り、あまりの怒りに握り閉めた拳から血が吹き出る。
「うふぇへへへ・・・、デュマ様。この『じじい』に良い考えがございますじゃ!!」
「調子いいじゃねぇか?言ってみろ。」
「今度はバレないように乗っ取れば良いかと。」
「!!!?」
先程よりも更に驚いた表情を見せるデュマ。
「『じじい』テメェは天才か!?」
「ははぁ!!」
「ヒャハハハ!!運が向いてきやがったぜ!!メイルスティアの肉体を乗っ取り、そのまま油断したルイズを取り込んでくれるわぁ!!」
今はデュマ以外誰もいない寮で、デュマの笑い声だけが高らかに響いていた。
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私の目標は「バッドエンド回避」と「なるべく幸せな人生」。
使い魔が前回と違うというイレギュラーはあったが、そんなものは小さなズレ。
私のような『物語』と関係のない小物の使い魔など、はなからどうでも良かったに違いないのだ。
ラリカは、あの見慣れない使い魔の事を考えながら自分の部屋の前に立っていた。
「ロック」を解除し、ゆっくりと扉を開けると、予想していなかった光景が目に飛び込んできた。
あのトサカ男が、ベッドに寝転んでいるのだ。
しかも、窓ガラスはバラバラに砕け散っており、一応綺麗に掃除されていた自分の部屋が酷い状況になっている。
「な・・・な・・・。」
あまりの驚きに声にならない声で呻いていると、トサカ男がゆっくりと立ち上がった。
「ようメイルスティア、遅かったな。」
ニヤリと笑みを浮かべるトサカ男。
なぜだか知らないが、鳥肌が立つ。
「ア・・・アナタは私の使い魔・・・よね?」
「フヘヘヘ、そうだずぇ?オレぁお前の使い魔よ。」
そう言いながらゆっくりと距離を詰めてくるトサカ男。
自分の使い魔だというのに、コイツが何を考えているのかまったく分からない。
まだムカデの方が扱いやすかったのではないか?
「そう怖がるなよ?大丈夫、怖くないから、顔をよ~く見せてごらん?ご主人様ぁ!!」
甘ったるいニュアンスでそう言うと、トサカ男は一気にその顔を近づけてきた。
そして。
「んぐぅ!!」
ラリカは唇を奪われた。
『コントラクト・サーヴァント』の時とは違う、何か恐ろしい感覚がラリカを包み込む。
口に含んだ氷がゆっくりと溶けていく感じ。
自分が自分であるという感覚が消えていく感じ。
薄れていく意識の中で、ラリカは悟っていた。
小さなズレなんかじゃなかったことを・・・。
「バッドエンド回避」「なるべく幸せな人生」、それは夢のまた夢だったことを・・・。
次は、もしかしたら次に生まれ変わるときは・・・。
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部屋には、ラリカしかいなかった。
トサカの使い魔の姿は忽然と消えていた。
「フフフ・・・、アハハハ!!ヒャ~ハッハッハッハッハッハッハァ!!」
高らかに笑い声を上げるラリカの右腕には、奇妙な顔があった。
老人を思わせるその顔は、ラリカの笑い声に合わせて目を見開く。
「おおお!!デュマ様!!新しい体を手に入れましたか!!」
「ヒャハハハハ!!なじむ!!この感覚!!実にいいぞ!!」
両手を見つめ、笑い続けるラリカ。
いや、そこにいるのは『ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア』ではなく、その肉体を乗っ取った『闇の貴公子・デュマ』であった。
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つづく