「ヒィ~ヤッハァ!!」
黒い煙は人の形を成し、目の前の男を作り出した。
ショッキングピンクの全身タイツに、トサカのような髪型。
そう、闇の帝王の息子「デュマ」である。
彼は、驚くラリカを尻目に歓喜の雄たけびをあげながら、付近を跳びまわる。
いや、跳ぶだけでなく転がる。
跳び、転げ、そして笑い続ける。
「ウヒャヒャヒャヒャ!!自由!じゆぅぅぅうどぅあぁぁ!!ヒャ~ッハァ!!」
「あ、あなたは・・・。」
煙から誕生した奇怪な男に対し、ラリカは震える声で問いかけた。
矢尻は向けたまま。
「あぁあん?」
ラリカに背を向けていたデュマは、不機嫌そうな声でゆっくりと振り返る。
彼女を見据えるその目は、まさに「死んだ魚の目」である。
「あ・・・あなたは・・・何なんですか?」
「・・・。」
ラリカの問いかけに、デュマの口角がゆっくりと上がった。
そして、まるで水面の水鳥がごとき優雅な動きで彼女に向かって歩を進めてきた。
矢を握る手に力がこもる。
「ち・・・近寄らないでください!!」
得体の知れない「何か」に対し、必死でひり出した声は恐怖で震えていた。
「ウへへへ・・・。怖がらなくていいんよ?んんん~~。」
死んだ魚の目をしたのまま、デュマは更に歩を進めてくる。
距離にしてわずか数メートルまで近付いた時だった。
「いやっ!!」
耐え切れず、矢はデュマへと放たれた。
--------小鳥さん 談
インポッシブルですわ・・・。
アタシもこの島じゃあかなりの古参ですけど、あんなの見たことないですわ。
枝にとまるかとまらないかの擦れ擦れの位置でホバリングをしながら、小鳥さんは続けた。
ほら、見てよコレ。
アタシの必殺技「低空ホバリング」。
絶妙な速さで羽を動かすことで、遠目からみたらまるで枝にとまっているように見えるわけ。
でも実際には浮いてる。
これ見たら大体のヤツは腰抜かすわけよ・・・。
こんなことできるアタシがよ?
アタシが間髪入れずに「インポッシボー!」って叫んで側頭したわけよ。
話しながらホバリングは、さすがにキツかったようで、小鳥さんはそのまま枝にとまった。
距離にしたら2メートルくらいかしら?
あっ、アタシで例えると胡桃2個分くらい?
え?分かんないって?
とりあえず「スーパー近い」ってことよ。
そこから矢を放たれたら普通どうなると思うかしら?
「DEAD」よね?
脳天直撃でTHE ENDってパティーンでしょ?
チチチと笑い、小鳥さんは続ける。
刺さって死にました。なんて話をアタシがするとでも思って?
そんなわけないじゃない・・・。
アタシが「インヌ ポッスィ ボンソー」って叫ぶくらいの事が起こったわけよ。
そう・・・。
「デュマ」様は・・・。
「ポメラニアン」になったのよ。
つづく