ポメラニアン
言わずと知れた猛獣。
敵であろうとなかろうと、近づく者には容赦なく吠え、あわよくば喉元を狙う。
だが本当の恐ろしさは、その凶暴な性格ではない。
ヤツが分泌する「ポメラニン」と呼ばれる酵素である。
「ポメラニン」は相手の脳に働きかけ、自分に対しての恐怖心を緩和させる。
人によってはその効果は絶大であり、ポメラニアンを抱き上げて、連れて帰りたくなる症状にみまわられるはどだ。
人間の膝よりも小さく、フワフワな毛に覆われた愛らしい見た目と「ポメラニン」により、相手の警戒心をほぼ皆無したうえで、鋭い牙によって息の根を止める。
古い文書には、こう記されている。
「ポメ会ポメ可見死覚悟。ポメ会ポメ不見牙殺。ポメ不会幸福」
ポメに会い、ポメを見たら死を覚悟せよ。
ポメに会い、ポメを見なければその牙によって殺される。
ポメに会わないことこそ幸福である。
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「キャウンッ!!」
弓を放つ瞬間、ラリカは目を閉じていたため、その声に違和感を覚えた。
先程の男であれば「ぎゃああ!」が想定できる叫び声だが、聞こえたのは弱々しい小動物のような声。
ゆっくりと目を開くと、そこには予想だにしない光景があった。
矢が刺さって倒れているのは、あの男ではなく仔犬なのだ。
ラリカはとっさに倒れる仔犬のに駆け寄った。
「ク・・・クゥゥン・・・。」
ヒクヒクと体を痙攣させ、駆け寄るラリカを見つめる仔犬。
「うそ・・・何で仔犬が?」
状況が飲み込めない彼女は、仔犬の傍らにしゃがむ。
左肩に矢が刺さっており、そこから流れたであろう血がフワフワな長い毛を赤く染めている。
先程の仕留めたウサギよりは大きいが、矢を受けたこの仔犬はもう助からないだろう。
状況は飲み込めないが、仔犬の最後を悟り、ラリカはそっと刺さった矢を抜こうと手を差しのべる。
その時だった。
虚ろだった仔犬の目が見開き、ラリカを睨み付けたのだ。
「いてぇ・・・。いてぇよおお!!」
愛らしい姿からは想像もできないような声で呻く子犬。
その声はまさに先ほどの男である。
サッと手を引き、ラリカは子犬から距離を置く。
「うふえへへへ・・・。いてぇじゃねぇかよぉ!!」
ふらふらと立ち上がり、子犬はラリカを睨み付ける。
その目は愛くるしい子犬のキラキラした目ではなく、先ほどの男同様に「死んだ魚の目」をしている。
見つめれば永遠の闇に堕ちてしまいそうなそんな目を・・・。
「いてぇ!いてぇよおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ポメラニアン(デュマ)は、そう叫ぶと凄い勢いでゴロゴロと転がる。
矢の刺さった左肩からは、ブシュッ、ブシュッと血が噴き出る。
その様子は痛々しいが、デュマの叫び声によって緩和されている。
「なっ・・・、なにを・・・。」
それを見つめるラリカの表情が恐怖で歪む。
「ヒイィィィィヤァァァァァアア!!!」
左右に転げまわり血を吹き出すため、みるみるうちに辺りは血で染まっていく。
もう狂っているようにしか見えない。
もちろんポメラニアンをポメラニアンたらしめているフワフワの長い毛も真っ赤に染まっている。
「なんなの!?なんなの!!」
耐え切れなくなったラリカが叫ぶと、ピタリと動きを止めるデュマ。
ゆっくりと四本の脚で立ち上がると、目の前のラリカに焦点を合わせる。
そして、ラリカの目を見据え、ポメラニアン(デュマ)は歌い出した。
-------挿入歌----------
「Iするがゆえに・・・」
オレの瞳は宇宙
アナタの瞳は太陽
大きさが違う
大きさが違う
瞬く間に、スケールが違う
LaLaLa
LaLaLa
Somebody Help Me
オレを助けろ
明日までには助けろ
今飛び立つ オレ
--間奏--
オレのパワーはマンハッタン
アナタのパワーはハムスター
大きさが違う
もう比べようがない
なんたって単位が違う
LaLaLa
LaLaLa
This is an umbrella(傘)
オレを助けろ
そろそろ助けろ
今羽ばたく オレ
-------挿入歌----------
狂気に満ちたこれまでの笑い声とは違い、優しい歌声。
あまりに唐突なことに、ラリカは声を出せないでいる。
歌い終わったデュマは目を閉じて余韻に浸っている。
「・・・どうだ?」
「!?」
「即席で奏でたこのデュマ様の歌はどうだと聞いている・・・。」
目を閉じたまま、ラリカに語りかけるデュマ。
「え・・・えと・・・。」
「・・・。」
歌声は優しかったが、歌詞の意味が分からないため何と言っていいのか分からず、困惑するラリカ。
それもそのはず。
人形から急に発生した煙、その煙から誕生した人間が、更に急に仔犬へ変身。
自らの放った矢を受け、血を吹き出しながら転がった後、歌ったのだ。
もうどうしようもない。
「どうした女?このデュマ様に遠慮しているのか?」
目を閉じているものの、いつ爆発するとも知れない緊張感がそこにはあった。
このまま感想を言わずにいたら、恐らく目の前の仔犬は怒り出す。
そんな直感が彼女にはあった。
「えっと・・・、凄く声が綺麗で・・・。」
「・・・ふむふむ。・・・で?」
欲しがるデュマ。
「歌詞も・・・すごく独創的で・・・。」
「ほう・・・・、それで?」
もっと欲しがるデュマ。
「よ・・・よかったと思います!!」
どうにかヒリ出した感想。
精一杯の回答に、デュマの動きが止まった。
閉じた目をゆっくりと開き、また魚の腐ったような目をラリカに向ける。
「そうか・・・。オレの心の叫びが、お前の心に響いたか・・・。」
口角を上げ、デュマはニヤリと笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ歌ってみろ。」
「え?」
「さっきの歌だよ・・・。もちろん暗記・・・したよな?」
「!!?」
つづく