爆発音で目が覚める。
デュマを探して早朝から学園中を歩き回ったこと、ミス・ヴァリエールの使い魔と長く話した精神的疲れもあり、ラリカは授業をサボって部屋で眠っていたのだ。
ぼーっとする頭を軽く振り、ゆっくりと立ち上がる。
顔でも洗うかと、歩き始めたところでラリカは停止した。
窓に、デュマが張り付いていたのだ。
あれだけ探し回ったのに、いったいどこに隠れていたのか。
主人は使い魔の見ている光景を共有することができると聞いていたが、なぜか彼の視覚を共有することはできなかった。
窓に張り付いて何か叫んでいるデュマを部屋に入れてやる。
「ビームが出ません、助けてください。」
流れるような動きで土下座したデュマが発した言葉に、どう反応して良いか分からず、目をパチクリするラリカ。
そういえば、最初に現れた時もビームがどうとか言っていた気がする。
「陛下、まさかあの小僧に手を出したことをまだ怒っておいでで?」
反応しないラリカに痺れを切らし、デュマが再び口を開いた。
「アレは事故です。ヤツが陛下を馬鹿にしたので、このデュマめが懲らしめてやろうとしただけにございます。陛下が御所望とあれば、今すぐにヤツの首を!!」
と、また勝手に行動しようとするデュマを止める。
「いえ、別に怒ってはいないんですが・・・。喧嘩などの騒ぎを起こさないで欲しいなと・・・。」
「え?怒ってねぇの?じゃあ早いとこオレに魔力を分けておくれよ!!」
ラリカが怒っていないと分かると、急に態度を変えるデュマ。
ただ、魔力を分けて欲しいという願いの意味がラリカには分からなかった。
「魔力を分ける・・・ですか?」
「そうそう、陛下に魔力を分けてもらわねぇとビームが出ねぇんよ!!だから、早くオレに魔力を!!」
期待を込めた目でラリカを見やるデュマだが、そう言われてもどうしようもない。
魔力を相手に分け与えるような魔法は習っていないし、そういう魔法があるというのも聞いたことがない。
日ごろの勉強不足が祟ったのか、それとも彼は自分よりも位の高いメイジなのか・・・。
「あの・・・、魔法が使いたいけど使えない・・・という理解でいいんでしょうか?」
「グレイト!!さすが陛下!!」
「という事は・・・、杖が欲しい・・・とか?」
恐る恐る思い浮かんだ事を聞いてみるラリカ。
だが、「杖」という言葉にデュマは首を傾げる。
「いや、杖なんてあっても意味ねぇですぜ陛下・・・?アンタの魔力をオレに分けてくれって言ってるだけよ?」
「あ、いえ、そういった魔法は使えないんですが・・・。」
「・・・、マジで?」
「マジです・・・。」
その後しばらく沈黙が続く。
気まずい雰囲気が流れ始めた時、なぜかデュマがクスクスと笑い出した。
「陛下、まさかこのデュマをからかっておいでで? ていうか実はまだあの小僧のことで怒ってらっしゃるとか?」
「へ?」
「ウヘヘへ、陛下も人が悪いや!!アレッスか?ウサギの狩りくらいビームなしでやってみろって事ッスか?」
何を言っているのかさっぱりなラリカは、目をパチクリさせている。
だが、そんなことお構いなしにデュマは続けた。
「そうやってオレを試そうって魂胆ッスね? ヘヘヘ、逆に燃えてきましたよ!!」
と言って、すくっと立ち上がる。
そしてマントからゆっくりと金槌を取り出した。
それを見て、最初に出会った時の事を思い出してラリカは身構えるが、その必要はなかった。
デュマはその金槌を振り上げることなく机に置いたのだ。
「でも、コイツじゃあウサギは狩れねぇんスよ・・・。できればもっと大きなエモノが欲しいんスけど、何か頂けませんかねぇ?」
ニタニタ笑いながらそう言うデュマ。
気持ちが悪いというか、かなり怪しいのは間違いない。
魔法が使いたいと言ってきたと思えば、杖はいらないからウサギを狩るために、金槌に変わる武器が欲しいと言い出す。
まったく何がしたいのか分からない自分の使い魔に眉を潜めるラリカ。
答えが見つからず黙っていると、デュマが机の引き出しを勝手に開けた。
そして、
「な・・・なんじゃこりゃあああ!!!」
目を見開いて叫ぶ彼の目線の先には、狩猟刀があったのだ。
極貧貴族のラリカが、食料調達のために幼い頃から使っていた狩猟刀。
食事が用意される学園では使う必要はなくなったのだが、護身用に机の引き出しに入れておいたものだ。
「すっげぇ!!チョ~カッコイイ!!痺れる!!」
目を輝かせて叫ぶデュマ。
狩猟刀にそこまで反応する人間を始めて見たと、軽く驚くラリカ。
その時、彼女の頭にふと良い考えが浮かんだ。
「あの・・・、もし宜しかったら差し上げても構いませんよ?」
「ふええええ!!?」
狂喜乱舞するデュマを見て、ラリカは小さく微笑んだ。
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つづく