恐ろしい爆発。
崩れ去る学園寮。
その上空で、ショッキングピンクの人面鳥、デュマが高らかに笑っていた。
「ヒャア~~~ッハッハッハッハッハッハァ!!壁をぶち破るつもりが、建物全てを破壊しちまったぜぇぇぇ!!怖い、怖いよぉ!!オレ自身が怖いよぉぉぉお!!」
しばらく笑った後、彼は辺りをキョロキョロ見回す。
「やべぇやべぇ、勢い余ってメイルスティアの野郎も潰れてちゃあ、つまんねぇ・・・。」
何度かクルクルと瓦礫の上を旋回したが、何も見つからない。
フッと微笑み、デュマはそのまま降り立った。
「あっけねぇ最後だったなメイルスティア・・・、まぁ所詮このデュマにかかればヤツも道端の雑草に過ぎなかったってことか・・・。」
先ほどの大笑いとは違い、今度はどこか寂しげに笑うと、彼は再び翼を広げて飛び立とうとした。
その時だった。
「ほぅ・・・、誰が雑草だって?」
後方から、聞き慣れたあの声が聞こえてきた。
振り返るデュマの目に飛び込んできた光景、それはまさしくあの女の姿だった。
黄金の玉座に堂々と座り、片肘を立てて不適に微笑む魔女。
最初に出会った時とは比べ物にならないほどの「凄み」が、彼女から発せられている。
「メ・・・、メイルスティアァァァァ!!!」
大声を上げて睨み付けるデュマ。
「誰かと思えば・・・、貴様かデュマ。魔界から蘇り、わざわざまた殺されに来たか?」
クスっと笑うメイルスティアに、デュマの表情が更に険しくなる。
「テメェ!!」
デス・ブレードをかざして勢い良く飛び出そうとする彼の前に、急に人影が現れた。
黒髪に青い特殊な形をした服装、そして手には大きな籠を持っている。
「あん時ぁ世話になったなぁ・・・、デュマぁ。」
手にしたデカい籠を見せびらかすように揺すり、黒髪の少年・サイトはデュマに笑いかけた。
「メイルスティア様ぁ、コイツの始末は俺ッチに任せてくださいよぉ。」
鼻につく高い声で言い、ケタケタと笑うサイト。
その目は、死んだ魚のように濁っている。
「3分だ。」
そんなサイトに一言浴びせ、玉座のメイルスティアは続いてデュマに視線を移す。
「デュマよ、貴様ごとき小物の相手をしてやるほど、この私も暇ではないわ・・・。我が愚弟・サイトを相手に3分持てば考えてやらんでもない。」
あの早朝の井戸前で、サイトを苛めようとしたことを彼女があれほどまでに怒った理由が分かった。
サイトというこの死んだ魚の目をした籠男は、メイルスティアの弟だったようだ。
デュマが軽く納得したところで、サイトが先に動いた。
手にしたデカい籠をブンブン振り回して、無防備なデュマへ向かってくる。
「でひょひょひょひょ!!籠で殺してやるずぇ!!籠で!!籠でぇ!!」
防御する間もなく、サイトの振り回す籠がデュマの顔面をとらえる。
カサっと乾いた音、デカい籠とは言え所詮は麻でできた軽いもの、ダメージはゼロに近い。
「どうだ、痛いか?痛くて死ぬかぁ!!?でひょひょひょひょ!!!」
特殊な笑い方をしながら何度も何度も籠で攻撃してくるサイト。
カサッ、カサッと軽い音がして、なんとなくウザったい。
「ま・・・まだ死なんのかぁぁぁ!!ハァ、ハァ・・・。」
しばらく繰り返したところで、サイトは息を切らしてしまったようだ。
もちろんデュマは死ぬどころかピンピンしている。
そんな彼を冷めた目で見、デュマは小さく呟いた。
「サイトよ・・・、愚民にしては良くやった。もう諦めろ。」
クイっと軽くデス・ブレードを振る。
その瞬間、サイトの身体は数十メートル吹き飛ばされた。
「あひぇああああああ!!」
情けない声で叫び、彼は籠と共に地面に叩きつけられる。
ゴロゴロと土煙を上げ転がるサイト、そして唯一の武器であるデカい籠もその手から離れてしまった。
「いてぇ、いてぇよお!!ハンパねぇよ!!あんな怪物に勝てるわけがねぇよおおお!!」
涙とヨダレをダラダラと垂らした上に土がこびりついて更に汚らしい顔になりながら、彼は這うようにデュマから離れていく。
その先には、メイルスティアの玉座があった。
「お助けぇ!!メイルスティア様ぁ、お助けくださいませぇぇぇ!!」
そんなサイトに、メイルスティアは無言で片手を差し伸べる。
助かったとばかりにその手を取ったサイトだったが、その希望に満ちた顔は一瞬で絶望へと変わった。
手を取ったメイルスティアが、彼を上空へと放り投げたのだ。
あの華奢な腕でどうやってサイトを投げ飛ばしたのか、デュマが驚いていると、彼女は手足をバタつかせているサイトに杖を向けた。
「ひいいいい!!やめ、やめ・・・やめぇぇぇえええ!!えばぁ!!」
瞬間、目にも止まらぬ早さで伸びた杖が、サイトの心臓を貫いた。
目を見開き、しばらく口をパクパクしていたが、彼はそのまま絶命した。
溢れ出る血が、杖を伝って地面へ垂れる。
「な・・・。」
「んんん~?どうしたデュマ?」
上空でユサユサとサイトの死体を揺らしながら楽しそうに笑うメイルスティアに、デュマが続ける。
「テメェ!そいつぁ弟じゃなかったのかよ?!」
「それがどうした?使えない弟をどうしようが、私の勝手だろう?」
クスっと笑い、彼女は軽く杖を振って死体を投げ飛ばすと、いつの間にか元の長さに戻った杖に残った血をペロリと舐める。
そんな姿を見たデュマは、戦慄すると同時にどこか嬉しさを感じていた。
「面白ぇよメイルスティア。さすが、このオレが唯一敵として認めただけのことはある。」
自分を操った挙句に自殺させ、更に自分の弟をも手にかける非道さ。
そして、あの邪悪な微笑みこそ自分のライバルに相応しい。
デュマは目の前にいるメイルスティアを単なる復讐の相手ではなく、好敵手として認めたのだ。
「フハハハハ!!デュマよ、貴様はなぜこの私に向かってくる?よもや復讐などという、くだらん理由ではなかろうな?!」
今にも襲い掛かろうとしているデュマを冷静に、そして見下した目で見やると、彼女は続ける。
「2度目の命、この私の為に使う気はないか?」
「またテメェの言いなりになれってか?ナメてんじゃねぇぞ?」
「くだらんぞデュマ!!愚民とは言え、この私の弟であるサイトを葬ったそのパワー、ここで散らすのは惜しいと言っておるのだ。」
「金も、権力も、圧倒的なパワーの前では無力だと思わんか?」
「思うよ。」
「いいか、この学園にはその圧倒的なパワーを秘めた恐るべき秘法が隠されていると聞く。サイトが死んだ今、その秘法を手に入れるためには貴様の強力が必要なのだ。」
「げぇ!!マジでスゲェ話じゃねェか!!そのパワー、割り勘にしてくれるなら乗るぜ?」
「Yes I am」
「Good!!」
こうして、闇の貴公子ジャップル・デュマと、破壊の魔女メイルスティアは手を組んだ。
手にしたものに圧倒的なパワーを与える伝説の秘法を手に入れるために。
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今は昼食の時間、誰もいない静かな部屋で一羽の鳥が横たわっている。
カーテンの閉じられたその部屋には小さな穴が開いており、陽の光がわずかに差し込んでいる。
地面に散らばった壁の破片からするに、鳥は外からこの部屋へ飛び込んで来てしまったのだろうか。
懐かしい床・・・、そういえば洗脳されて自害した時もこの床で眠った覚えがある。
ゆっくりと目を開けるデュマ。
何が起こったのか最初はまったく理解できなかったが、床を伝う自分の血を見て状況を把握した。
なるほど・・・、夢だったか・・・。
勢い余って破壊してしまった学園寮、そしてあのメイルスティアも、全て自分の夢だった事を悟り、彼はゆっくりと瞼を閉じた。
鋭い刃のようだったデス・ブレードが今ではサラサラヘアーに戻っており、デュマの空けた小さな穴から吹く風に揺られる。
闇の貴公子ジャップル・デュマはこうして2度目の命の幕を静かに下ろした。
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つづく