何故、そんなものが此処にあるのか。 それは誰にもわかりませんでした。 けれど、それが此処にある訳。 彼の存在。 私の存在。 それらが全て繋がっているとしたら。 世界は誰かの手のひらの上なのかもしれません。「一応聞いておくわ。それは何?」 ロングビルが用意した馬車の上、ごとごとと揺られながら、ルイズはミルアの背に背負われた棘付きの鉄球を指差し聞きました。 するとミルアの回答は「学院長に借りた」の一言。 ミルアの小さな背中には、借りた鉄球とデルフリンガーが半ば強引に背負われていた。 一方デルフの本来の相棒である才人は腰に『双頭の片割れ』を背中にキュルケからプレゼントされた大剣を背負っている。 背中に大剣と鉄球という妙な出で立ちのミルアを、手綱を握ったロングビルがちらりと見てやった。 そんなロングビルにキュルケは、「ミス・ロングビル、どうして貴方がわざわざ手綱を? そんなもの付き人にさせればいいのでは?」 そう問うキュルケに対してロングビルはにこりとして、「いいのですよ。私は随分以前に貴族の名をなくしていますから」 その答えにキュルケは驚いたような顔をした。 貴族の名をなくすということは今は平民ということになる。 しかし、今のロングビルは魔法学院学院長の秘書という立場だ。 平民がつけるような立場ではない。「貴族の名をなくしたとはいいますけど、今は学院長の秘書をなさっているのでしょう?」「学院長は貴族や平民といった身分をあまり気にしないお方ですから。……身分の違いなく不埒な行為を働きますが」 キュルケの問いにそう答えたロングビル。 ロングビルの最後の一言にキュルケは苦笑した。「そのあたりの事情ぜひ聞かせていただきたいわ」 そう問うキュルケに答える気はないのかロングビルは笑みだけを返した。 キュルケはそれで、諦めることなく再び問おうとした。 しかし、そんなキュルケの肩を掴み止めた者がいた。 ルイズだ。 キュルケはルイズを見て、「なによ」「なによ、じゃないわよ。あのね、あんたのとこのゲルマニアじゃどうかは知らないけど、トリステインじゃ人の言いたくない過去の事を、根掘り葉掘り聞こうとするのは恥ずべき行為なのよ」 そう言いきるルイズにキュルケはふんと呟きそっぽを向いた。 そんなキュルケに代わりルイズがロングビルに謝罪するとロングビルは笑顔で首を横に振る。 その光景を才人はやれやれといった様子で眺め、タバサとミルアは手綱を握るロングビルの背中を、ただ黙って見ていた。 馬車は徐々に暗く深い森へと入っていく。 じめじめとした空気が肌にまとわりついてくる。 森を吹き抜ける風もぬるりと肌をなでてゆく。「ここからは徒歩で行きましょう」 ロングビルがそう促し皆が馬車から降りる。 深い森に、日の光は十分には届かず足元も怪しいほど薄暗かった。 そんな中、キュルケは才人の腕に、自らの腕を絡めて、「薄暗くて、怖いわ……」「いや、動きづらいんですが……」 うそ臭く呟くキュルケに才人は困ったようにもらした。 普段なら才人にとってもおいしい状況だが、周囲の環境がそんな余裕をなくしていた。 ある意味、通常運転のキュルケは見事である。 そんな二人の背中をルイズは、そら恐ろしい顔で睨みつけていた。 こっちもこっちで通常運転だった。 深い森を進んでいた一行は開けた場所に出た。 森の木々は途切れ、日の光に照らされたその場所は魔法学院の中庭に匹敵するほどの広さで、その中央にはぽつんと廃屋があった。 元は木こり小屋なのか、朽ちた炭焼き用らしき窯や、傍らには朽ちた薪などが積まれている。 一行はすぐに廃屋に向かうことなく森の茂みに身を潜めながら作戦をたてることにした。 フーケが廃屋にいる可能性を考えてのことだ。 タバサは地面にちょこんと正座し自らの杖で地面に絵を描き始める。 作戦の概要を皆に伝えるためだ。 皆も地面にしゃがみこみ、ミルアもタバサの横に正座する。 タバサはがりがりと地面に絵を描きながら、「まずは偵察。廃屋に近づき中にフーケが居るかどうかを確認する。中には入らず外からのぞきこんで確認すること。これにはすばしっこい人にやってもらう」 タバサはそう言うと才人を指差した。 才人も自らを指差し「俺?」と確認する。 そんな才人にタバサは頷き、「フーケが居たら挑発して逃げて。フーケが得意のゴーレムを使うには廃屋の中は狭い上に土が足りない。必ず廃屋の外に出てくる。そこを皆で集中砲火。呪文を唱える前に、一気にフーケを封じ込める」 タバサの説明が一通り終えると、才人は背中の大剣を抜く。 左手のルーンが光っていることを確認した才人は一気にかつ静かに廃屋へと近づいた。 そして窓からそろそろと中を確認する。 右から左へと廃屋の中を確認するが、中には誰も居らず気配もない。 一部屋しかなく隠れるような場所もないが相手は国中に名を轟かせている盗賊である。 油断はできないと、才人は慎重に何度も確認した。 やがて、才人は茂みに身を潜める他の皆に、廃屋内に誰も居ないというサインを送る。 そのサインを確認した皆が恐る恐る廃屋に近づいてきた。 タバサは扉に近づくと杖を振り、「罠はない」 その傍に立っていたミルアも廃屋を眺めながら、「中には本当に誰も居ないようです」 その言葉に才人は若干の疑問を感じたが、自ら扉をあけ、中に入ってゆく。 ルイズは警戒の為、廃屋の外に残り、ロングビルは周囲の偵察といってその場を離れた。 その後、廃屋内に入った才人たちは何かフーケの手がかりはないかと、廃屋内を家捜ししていた。 すると、チェストをごそごそと漁っていたタバサが、「あった」 と声をあげる。 その腕にはフーケに盗まれた『破壊の杖』が抱えられていた。「それが『破壊の杖』?」 そう驚く才人にキュルケは頷いて、「間違いないわ。以前、宝物庫を見学したときに見たもの」 それを聞いた才人は小さく「なんでこれが」と呟き、ミルアも腕を組み何かを考えていた。 しかし、何かに気がついたのか突然廃屋を飛び出す。 廃屋に居た他の者が何事かと思った瞬間、「皆さんっ! 伏せてっ!」 ミルアのその声に咄嗟に伏せる廃屋組み。 次の瞬間、轟音と共に廃屋の屋根が吹っ飛ばされた。 屋根が吹っ飛ばされ気持ちの言い青空が見える。 その青空をバックにフーケの巨大なゴーレムがそこに居た。 廃屋にいた才人たちは慌てて廃屋の外へと飛び出した。 それと同時にタバサが杖を振る。 瞬時に生み出された竜巻がゴーレムに直撃するがゴーレムはびくともしない。 立て続けにキュルケのファイヤーボールに浴びせられるも、やはりびくともしなかった。「一時退避」 タバサはそう言うと森へと向かって走りだす。 その後をキュルケも追う。 才人も逃げようと、ルイズとミルアの方を見た。 するとミルアはルイズの手を引きその場から逃げようとしていたが、ルイズが必死になって抵抗していた。 才人は急いで二人に駆け寄り、「何してんだよ、破壊の杖は取り戻したんだ。早く逃げるぞっ!」「嫌よっ! ここで逃げたらまた馬鹿にされるっ! 『ゼロのルイズ』だから逃げたんだって!」 才人の言葉にルイズは睨みつけるようにして答えた。 しかし才人はルイズの腕を掴み、「そんなこと、言いたい奴には言わせておけばいいだろっ!」 才人の言葉にミルアも頷く。 そんな三人をゴーレムは無視して、逃げた二人を追いかけ始めた。 ルイズはそんなゴーレムの背中を睨みつけ、「サイトがギーシュのゴーレム相手に何度殴られても立ち向かったように、私にだってプライドとかはあるのよ……今でこそまともに魔法は使えないけど、それでも私は貴族なのよっ! 貴族は敵に背を向けないっ! 今、逃げたら私は魔法が使えないどころか貴族ですらなくなってしまうのよっ!」 ルイズはそう叫ぶとミルアの手を振りほどき背をむけているゴーレムへと駆け寄っていった。 そして杖を抜くとゴーレムの背中めがけて振り下ろした。 何を唱えたのか、しかしそれは旨くいかず、ゴーレムの背中の一部が小さく爆発する。 ぱらぱらと土が零れ落ち、ゴーレムはゆっくりとルイズの方へ振り返った。 ルイズの頭上に大きな影がさす。 ゴーレムはその巨大な足を上げ、ルイズを踏み潰そうと、前へと踏み出した。 やられる。 ゴーレムの足がルイズの視界を埋め、ルイズは思わず目を瞑った。 しかし、そんなルイズを大剣を片手に駆け込んだ才人が、空いた片手で抱きかかえ、ゴーレムの足下からすり抜ける。「シャインっ! バスターっ!」 才人がルイズを救出すると同時に、空をきったゴーレムの足へとミルアの魔法がぶっ放される。 日の光が降り注ぐ昼間にもかかわらず、まばゆい光を放つそれはゴーレムの足を消し飛ばすと思われた。 しかし、「げっ……まじかよ……」 才人はその光景に驚き、ミルアも僅かに舌打ちをする。 ミルアの魔法が直撃した場所は表面が鉄で覆われ、ミルアの魔法はその鉄を僅かに焦がしただけだった。 魔法が直撃する寸前に鉄に錬金されていたのだ。 憎々しげにゴーレムを見ていた才人だったが、ふと自分が抱えているルイズが泣きじゃくっているのに気がついた。 女の子にぼろぼろと泣かれて、才人はあせりながら、「おい、そんなに怖かったのかよ」 そんな才人にルイズは顔をぐしゃぐしゃにしながらも首を横に振り、「怖かったけど、それよりも悔しくて……自分が情けなくて……」 泣きじゃくりながら、鼻声でそう言うルイズに才人は視線を右往左往させた。 最初こそ、無謀なことをしたルイズをひっぱたいてやろうかと思ったが、こうもぼろぼろ泣かれては才人としてはどうしようもなかった。 泣いている、しかも同年代の女の子の慰め方なんか知るわけもない。 こちとら彼女もガールフレンドもまともに居たためしないわっ! と内心嘆く才人。 そんな才人にゴーレムが迫ってくる。「嘆く暇もしんみりする暇もくれないわけね……」 次の瞬間、ゴーレムの膝に棘付きの鉄球がめり込み、その膝の一部を抉り取った。「ミルアっ!」「タバサさんのシルフィードが来てます。そこまで後退します」 才人はミルアの言葉に頷きルイズを抱えたまま走り出す。 二人は降下してきたシルフィードの下までたどり着くと、すでにシルフィードの背にはタバサとキュルケが乗っている。 才人が抱えていたルイズをシルフィードの背に乗せると、「貴方達も」 タバサの言葉に未だぐずるルイズを見ていた才人はタバサを見ると、首を横に振った。「どうして」 そう呟くタバサに才人は苦笑しながら、「悔しいって……ルイズが言ったんだよ。その気持ち、俺にはよくわかる。だからさ、何とかしてやりたくなるんだよ」 そう言って才人はルイズの頭に自らの手をぽんと置くと、にかっと笑って、「俺がお前の悔しいって気持ちを、あのゴーレムにぶつけてきてやるよ。だから泣くな」 才人の言葉にルイズは泣き止み、あっけに取られる。 すると才人の隣に立っていたミルアが才人の上着のすそをくいくいと引きながら、「『俺が』ではなく『俺達が』に修正願います」「付き合ってくれんのか?」 そう言ってミルアを見下ろす才人に、ミルアは僅かにため息をつくと、「最低限『破壊の杖』さえ奪取できればあとはまぁ、危険がないようにと思っていたんですが、お二人を見ていて気が変わりました。やってやろうじゃん、ですよ」 気合を入れるようなところなのに、台詞の最後にいたっては完全な棒読みなミルアに才人は軽く吹いた。 そんな二人にタバサは頷くと、「わかった。援護はする」 そう言い、タバサの後ろに座っているキュルケも杖をあげて答えた。「サイトっ! ミルアっ!」 そう叫ぶルイズを無視してシルフィードが空へと舞い上がる。 それを確認した二人はゴーレムに向きなおった。 まいったな俺、あのルイズに惚れちまったのかね。と内心ぼやく才人。 まいりました。なんかこの二人、放っておけません。本当にやってやろうじゃんですよ。と、こちらも内心ぼやくミルア。 それぞれ思うところはあるが、自らの得物を手に構える二人。「ナメんなよ。金属っても部分的だろうがよ。所詮はたかが土くれっ!」 ゴーレムを睨み、そうはき捨てる才人にミルアも頷く。 才人は大きく息を吸い込む剣を握る手に力をこめて、「こちとら、ゼロのルイズの使い魔だっつうの」 そう言いゴーレムへ向かって駆け出した。「サイトっ! ミルアっ!」 ルイズはシルフィードの背から二人の名を呼びながら、必死に杖をふった。 少なくとも今は、ルイズにとっては自分の魔法の成否など、どうでもいいのか、小さな爆発がゴーレムのいたるところで起き、ぱらぱらと、その土くれを落としていく。 足場であるシルフィードがゴーレムの頭上を旋回する中、タバサとキュルケも杖を振り、それぞれの魔法がほんの僅かではあるがゴーレムの体を削っていた。「私達の精神力とフーケの精神力どちらがもつかしらね?」 そう苦笑しながら杖を振るキュルケに、「根競べ」 タバサはそう言うと地上で戦う二人を見てやり、ちらりと森の方へも視線を向けた。 腕を何度も振り上げ、重量任せにその拳を地面に叩きつけるフーケのゴーレム。 振り下ろした直後にその拳が鉄に錬金されてる故にその一撃一撃は強力で、一発でも直撃すれば死は免れそうもなかった。 そんなゴーレムの攻撃を才人とミルアの二人は軽業師のようにひらりひらりとかわしてゆく。 その為、地面のいたるところがゴーレムの拳でできたクレーターだらけになっていた。「く、ら、えぇっ!」 そう叫び大剣を、地面にめり込んでいるゴーレムの腕に振り下ろす才人。 その太刀筋は土くれの腕を見事に斬り落とすのかに見えた。「折れたぁっ?」「はいぃっ?」 ゴーレムの腕に直撃した瞬間、キュルケからプレゼンとされた大剣はぱきりと綺麗な音を立てて折れた。 その瞬間を目撃したミルアも思わず素っ頓狂な声をあげる。 上空でそれを目撃したタバサとルイズは思わずキュルケに非難の視線を向けた。 僅かに口元をひくつかせながらキュルケは視線をあさっての方向へ泳がせる。 そして折れた刀身が、ゴーレムの腕に跳ね返り才人の眉間へと向かって飛んできた。「おぅわっ!」 才人は妙な声をあげながら仰け反るようにして飛んできた刀身を回避した。 しかし勢いあまってそのまま尻餅をつく。 ゴーレムはこの隙を見逃さなかった。 尻餅をつく才人へゴーレムはその巨大な拳を振り下ろす。 冗談じゃない。こんなところで。 いや、どんなところでも才人さんを死なせてたまるか。 ミルアは駆け出した。 駆け出したミルアを含め、才人の身を案じる誰もが、世界の時間の歩みがとても遅く感じた。 そんな中ミルアは鉄球を投げ捨て、背中に背負ったデルフを振り、その勢いで鞘を脇へと投げ捨てる。 間に合えっ! 間に合えっ!「いけっ! 嬢ちゃんっ!」「うおぉおおぉっ!」 デフルが叫び、ミルアの雄たけびがその場に響いた瞬間、才人は頭上から迫るゴーレムの拳から恐怖のあまり声もあげず、目を閉じた。 しかし、自分の身には痛みも衝撃もこない。 恐る恐る目をあけると、「み、ミルアっ?」 才人の目の前、才人の体を跨ぐ様にミルアが立っていた。 ゴーレムに背を向け、手にしたデルフを、両手で担ぐように持ち上げ、ゴーレムの拳を受け止めている。「相棒っ! 嬢ちゃん、無事かっ?」「お、おう……」 デルフの問いに才人は声を詰まらせながらも答えた。 しかしミルアは答えず目を閉じ、すぅ、と息を吸い、「ああぁぁああああぁっっ!」 カッと目を見開き、これでもかと雄たけびを上げるミルア。 それと同時にミルアの体内で生み出された膨大な魔力が、赤い光の粒子となって背中や肘、膝裏から噴出した。 赤い光の粒子はすさまじい圧力となって巨大なゴーレムを押しのけ、ミルアをゴーレムの一撃から解放する。 そしてミルアは振り向きざまにデルフで力いっぱい空を薙いだ。 次の瞬間、赤い光の刃がデルフから放たれる。 赤い光の刃は、翼を広げた大きな鳥のようにゴーレムへと飛翔し、その巨大な胴を両断した。 今のはなんだ? と、その光景にあっけにとられる面々。 才人はぽかんと口を開け、上空のルイズやキュルケも目の前の出来事を信じられないというような顔をしていた。 タバサも驚いていたがそれよりもミルアへの興味が大きくわいていた。 しかし、一番驚いていたのは他でもないデルフだった。 今の何? 俺っちに何がおきたの? と慌てふためくデルフ。 生まれてこのかた六千年。 こんな経験初めてだよ。 おでれーたっ! デルフが生まれてはじめての体験を噛みしめていた中、胴を両断されたゴーレムの上半身が、ずるずると、下半身をその場に残し、後ろにずれていく。 誰もが、やったと思った矢先、ゴーレムの胴が再生を始め、その上半身は下半身の上でとどまった。「ちくしょうっ! まだ再生できるのかよっ!」 立ち上がりながら、悔しそうに吐く才人。「嬢ちゃんの一撃は強力だけどアレじゃ駄目だ。もっと派手にぶっ壊さねぇと」 デルフの言葉に、才人はあることに気がついて上空を旋回するシルフィードを見上げ、「そうだっ! 破壊の杖っ! あれなら―――」「いえ、私がやります」 才人の言葉をミルアが遮った。 それに対して才人は疑問の表情を浮かべ、「どうして?」「あれは恐らく単発式なのではないのですか? でしたら、あんな土くれに使うのはもったいないです。ですから、私がやります」 ミルアはそう言い投げ捨てた鉄球を拾い上げ、「さて、これから少々暴れようと思います。お付き合い願えますか才人さん?」 そう言いながらミルアはデルフを才人に差し出す。 そのミルアの表情は、才人には、ほんの僅かに微笑んでいるように見えた。 だから、才人も笑みを浮かべると、「あぁ、もちろんだよ。俺にとってはミルアも相棒だからな。それに言いだしっぺは俺だぜ?」 才人はそう言い、差し出されたデルフを手に取り構えた。 二人して駆け出し、ゴーレムもそれを迎え撃つ。 風を切る轟音と共に振り下ろされるゴーレムの拳。 それを右へとかわしたミルアは、振り回した鉄球を、既に振り切ったゴーレムの手首へと直撃させた。 ばこっという音と、土くれを空中に舞わせ、ゴーレムの手首が砕け、その先の拳が脱落する。 ミルアはそのまま鉄球を遠心力を使い振り回し、ゴーレムの膝の一部を抉り取った。 そんなゴーレムを才人がすれ違いざまにデルフで斬りつける。 小さくはあるが確実に削っていく才人をゴーレムも無視できず、なんとか才人を捕らえようとしていた。 そして、ゴーレムの頭上からはルイズの爆発とキュルケの炎が降り注ぎ、ゴーレムの注意を削いでいく。「才人さんっ! 離れてっ!」 そんなミルアの言葉に才人はミルアのほうを振り向いた。 手にした鉄球を頭上でぶぅんぶぅんと大きく振り回しながらミルアが突っ込んでくる。 才人がゴーレムから離れると、ミルアはそのままゴーレムの股下へと滑り込んだ。 そして、大きく振り回された鉄球がゴーレムの両膝を打ち砕く。 再生も間に合わず、バランスを崩したゴーレムがゆっくりと、仰向けに倒れていく。 ゴーレムが地に沈む直前、膝下を失ってもなお二十メイル以上ある巨体の背中をミルアの小さな体が受け止めた。 受け止めた衝撃で、僅かに身をかがめたが、徐々にゴーレムの巨体を持ち上げていく。 その光景を、才人たちが何度目かの驚愕の顔で見ていると、「うあぁぁぁあぁあああっっ!」 ミルアの雄たけびが響き渡り、再び膨大な魔力が、その小さな体から噴出した。 場を染める赤い光の粒子。 その中でミルアはゴーレムを抱え上げ、その巨体を頭上でぐるぐる回し始めた。 やがてそれは風を生み、周囲の落ち葉や砂埃などを巻き込み竜巻状となってゆく。 上空を旋回していたシルフィードが危険と判断し更に距離をとる。 砂埃が目に入らぬよう、手をかざし目を細めていた才人は、ミルアが何をするのか直感した。 それは昔見たヒーローが使った技だ。 その身を化け物にされ、人でなくなってしまっても、人の為にと命を削り、戦い続けた、不屈の魂をもつヒーロー。 それと同じ技を再び目の前で見ることができる。 その事実が、戦闘で高ぶっていた才人の心を更に興奮させた。「いっけぇぇえええっ!」 才人の号令にあわせミルアがゴーレムを放り投げた。 きりもみしながら、その巨体が宙を舞う。 そしてその回転を留めることなく、重力に従い落下を始め、そのまま回転任せに、地面をえぐるようにして墜落した。 その巨体を粉々に散らせながら。