悪事と悪意は必ずしもイコールでは結べない。 善意から悪事を働くこともあるということ。 いや、善意とかそういう物じゃなく、守りたい、助けたいという内からくる何かによって悪事を働くこともあるのだろう。 その気持ちは私にもわかる。 かつて私も同じように罪を犯したから…… 今なお私は、私ができる事で償おうとしている。 この方法が最善であると願って。 待っていてください。 私は必ずあなたの元へ帰ります。 ゴーレムが木っ端微塵に砕け散り、その破片が再生しないことを確認したミルアは、その場に大の字になって倒れこんだ。 仰向けに倒れこんだので視界いっぱいに広がる青空がとても心地いい。 そんなミルアの元へ才人や、シルフィードから降りたルイズやキュルケが走りよってきた。「おいっ! ミルアっ大丈夫か?」「もう嫌です」 心配する才人の言葉にミルアが返す。 その言葉に才人たちは困惑した。 そんな三人を他所にミルアは、「もうあんな重いもの投げません。疲れました。ごめんこうむります」 目を閉じ駄々をこねるような台詞にキュルケがぷっと吹き出し、それを皮切りに才人やルイズも笑い出した。 それに若干むっときたのかミルアは倒れこんだままそっぽを向く。 やがて、才人があることに気がついて辺りをきょろきょろと見回した。 あれ? そういえば、と才人が、「そういえば、タバサは何処行ったんだ?」「なんか戦闘中に、地上から援護する、とか行って一人で勝手に降りて行っちゃったのよ」 才人の疑問にルイズが答える。 しかし地上からタバサの援護は一度もなかった。 才人が首をひねっていると、倒れこんだままのミルアがついっとある方向を指差す。 ミルアが指差す先、森の中からできたのはタバサだった。 タバサを見た三人は驚く。 それはタバサが気を失ったロングビルの襟元を掴んでずるずると引きずってきたからだ。 しかも縄でぐるぐると縛ってある。 三人は慌ててタバサに駆け寄り、「どうしたのっ? 彼女怪我でもっ?」 ルイズが慌てて聞くとタバサは首を横に振り、「ミス・ロングビルがフーケの正体」 タバサの言葉に三人は「え?」と固まる。 最初に硬直が解けたキュルケが、「タバサ、それ本当?」「本当。彼女がゴーレムの欠損部分を再生させているところも見たし、最後にゴーレムが木っ端微塵になった後は舌打ちした後、地団駄踏んでたから間違いない」 タバサがそう答えると才人はロングビルが地団駄踏むさまを想像してぷっと吹く。 そんな才人は置いといて今度はルイズが、「それでどうやってフーケを?」「注意力が散漫になってたから背後からエアハンマーで一撃。近くの木に体を打ちつけて気絶した」 あっさりという具合に話すタバサにキュルケは手を叩き、「凄いわタバサ、さすがシュヴァリエの称号を持つだけのことはあるわ。さすが私の一番の友達っ!」 キュルケの言葉にタバサは照れているのか僅かに顔をそらす。 やがて、その視線を未だ倒れこんでいるミルアに視線を移し、「彼女は?」「疲れたみたい。まぁあんな常識はずれなことしたから無理はないけど」 ルイズが苦笑しながら答えるとタバサは、「私にミス・ロングビルが怪しいと教えてくれたのは彼女」「なにそれっ? どういうこと?」 私は聞いてないわよ、とルイズが食いついた。 そんなルイズの疑問に答えるようにタバサは視線をミルアに向けたまま、「学院が襲撃され、彼女がゴーレムと戦ったとき、フードの中の顔が見えたらしい。あの夜、迎えに行った私に話してくれた」 タバサの答えにルイズは不満そうな顔をして、「なによ。私達には何も言わないで」「一番他人に悟られなさそうなのは私、とのこと」 タバサの言葉に才人とルイズ、キュルケの三人は顔を見合わせる。 しばらくして三人して何かに納得したかのようにうんうんと頷く。 ちなみに、誰が誰のことを見て納得したかは謎である。 そんな三人を見ていたタバサは倒れこんだままのミルアの元へ歩いていった。 そしてミルアの覗き込むようにして、「帰ろう」 そう言い、手を差し出し、ミルアはその手を掴んだ。 ごとごとと揺れる馬車の中でフーケは目を覚ました。 彼女は自分がロープでぐるぐる巻きにされている事に気がつくと、「そうかい、ばれて捕まっちまったのかい」 そう言い諦めたような笑みを浮かべた。 そんなフーケにルイズは腕を組んで、「そういうこと、これであんたもおしまいね」「まったく、とんだ貧乏くじを引いちまったみたいだね」 フーケはそう言いミルアをちらりと見て、「遥か遠い異国のメイジって言われたけど、そんなんで納得できないね。あんた化け物かい?」 フーケのその言葉に才人がかちんときてフーケに詰め寄ろうとした。 しかしそんな才人をミルアが片手で押さえ、「あなたに聞きたいことがあります。何故、破壊の杖を強奪した後、学院に戻ってきたのですか?」 ミルアの問いにフーケはにやりとして、「何でだと思う?」「あんたねっ! 自分の立場がわかってるのっ?」 そう怒鳴るルイズを無視してミルアは、「破壊の杖の使い方がわからなかったんですね?」 ミルアの答えにフーケはけらけらと笑い、「正解さ。いくら名の知れたお宝でも使い道がわからないんじゃ、売るときに値を叩かれるからね」 フーケの答えに才人はなるほどと頷く。 ミルアは続けて、「では、次の質問です。あなたの本当のアジトは何処ですか?」「は? そんなもんあるわけないだろ。こちとら根無し草でね。お宝のあるところ、あっちへ行ったりこっちへ行ったりさ。まぁ一応、身を休める所とかはあるけどね。休むだけさ。下手に不在のときに誰かに見られたらやばいから、なぁんにもありはしないけどね」 そう吐き捨てるフーケにミルアは誰にも気づかれないような小さな笑みを浮かべ、「では、あなたは定期的に、何処に送金しているんですか?」 ミルアのその言葉に、才人やルイズ、おとなしく聞いていたタバサやキュルケも驚いた。 そしてフーケも一瞬あっけに取られ、すぐに、はっとしたように、「送金? なんの事だい?」 わけがわからないという風に肩をすくめる。 しかし、その背中にはじっとりと汗をかき始めていた。「お宝や、それを売って得たお金を溜め込むようなアジトもないし、豪遊すれば必要以上に人目につくと思われますし……」 ミルアはそう言いフーケの様子をじっと見ながら一呼吸置くと、「何より学院長からあなたの身の上に関して聞かされました。本名は確か、マチルダさんでしたか?」 その言葉にフーケは驚きの表情をして、「あのジジイっ! 調べてやがったのかいっ!」 ちくしょうっ! と縄で縛られているにもかかわらずジタバタとするフーケことマチルダにルイズが、「で、あんた何処の誰に送金してんのよ。結構なお金になるでしょ」 その言葉にマチルダはふんっと鼻をならしそっぽを向き、「こちとら食わせなきゃならないガキどもがたくさんいるんでね」「あら、あなた子持ちだったの」 驚きながらそう言うキュルケにマチルダは顔を赤くして噛み付くような勢いで、「子供なんか産んだ覚えないよっ! 孤児だよ孤児っ! あたしの妹分が孤児院みたいのやってて大変なんだよ」 マチルダはそうまくし立てると、そのまま馬車の中で強引に横になりそっぽを向いた。 不貞寝する気である。 その様子にルイズはややジト目で、「核心をつかれたら、案外ぺらぺら喋ったわね」 そう言いぷっと軽く笑う。 それに対して僅かにぴくりとマチルダが反応した。 ミルアはふぅと息を吐くと、「正直助かりました。しらをきりとおされたら私にはどうしようもなかったので。誰かを問い詰めるのは得意ではないので」 そんなミルアにタバサが、「土メイジが墓穴を掘った」 そのタバサの言葉にキュルケやルイズが笑い、才人も苦笑する。 そしてマチルダは、本格的に不貞寝してやろうかと拗ねていた。 やがてふいに、「あの子達どうなるんだろうね」 そう呟いたのをルイズは、「何、同情を引こうって言うの? 確かに動機は善意と呼べるものかもしれないけど、あんたのやってきたことは間違いなく悪事よ。あきらめなさい」 そう言いきるルイズにマチルダはふっと笑い、「そんなことわかってるさ。あたしもあの子らには自分が何をやってるのか一度も話したことはないし。話せるわけもなかったからね。ただね……ままならないなと思ってね……」 そんなマチルダの言葉にルイズはぎりっと奥歯を噛みしめた。 わかってはいる。自分が魔法が使えないことも、孤児たちのことも。世の中は本当にままならない。 ルイズはそれが悔しくてたまらなかった。 そこへミルアが、「学院長からの伝言です。盗みを止め、今後もまっとうに生きていく気があるのなら、学院長秘書を続けても良い、との事です」 その言葉に馬車内の全員がぽかんとした。 ミルアは続けて、「おまけに給金は相談に応じるそうです。学院長はとてもお人よしのようです。もっともマチルダさんが秘書を続けるには、此処に居るほかの方にもお人よしを求めることになりますけど」 ミルアがそう言うとマチルダは自ら、文字通り床に額を打ちつけ、「頼むっ! 見逃してくれっ!」 その行為に、ミルア以外の四人は顔を見合わせた。 やがて、やれやれといった具合に肩をすくめると、回答をルイズにゆだねる。 そのルイズは苦虫を噛み潰したような顔をして、「学院長がそう言うのなら仕方ないわ。ただし、これが最初で最後よ。それと、これはあんたの為じゃないわ。あんたのところの孤児のためよ。あんたはその子達のためにもまっとうに生きなきゃならないんだからね。私達を裏切ることは、その孤児達を裏切ることと同義よ」 そう言うとルイズはぷいっと明後日の方向を向いてしまった。 これを機に「土くれのフーケ」はこの世界から姿を消すこととなった。 学院に戻ったミルアたちはオスマンと、何故か学院長室にいたコルベールに事の顛末を報告することなった。 当然のことながらマチルダの縄は既に解かれている。「ふむふむ、なるほどの。皆よくやった。そして、とりあえず、おかえり、と言っておこうかのミス・サウスゴータ」 マチルダ・オブ・サウスゴータ。 それは彼女が失った貴族としての家の名だった。 オスマンの言葉にマチルダは吐き捨てるように、「本当に調べてやがったのね」「つい最近だがの。酒場でスカウトした事をコルベール君に話したら散々酷いことを言われての。ちょっと反省して身辺調査を」 てへっと笑うオスマンにコルベールが「ちょっとだけですか」とぼやく。「で、本当に給金は相談に応じてくれるんだろうね? こっちは食わせないといけないガキがたくさんいるんだよ」「その辺に偽りはないわい。本当、感謝してもらいたいもんじゃよ。これで君も手紙やらに自分の職業を堂々と書いて近況報告とか書けるじゃろ?」 マチルダの言葉にオスマンが返すと、マチルダはそっぽを向いた。「むしろ、おつりとか、のぉ?」 そう言いながらオスマンはマチルダのお尻に手を伸ばした。 次の瞬間、どんっという音と共にオスマンの足元に鉄球がめり込む。「すみません手が滑りました」 しれっとそう言うミルアに、オスマンは顔を引きつらせながら、すすすっと後ろへ下がる。 見ればルイズやキュルケ、タバサやマチルダも、よくやった、という表情でミルアを見ていた。 ちなみに才人は怯えている。「まぁ、これからもよろしく頼むよ。あぁそうそう、一応これからもミス・ロングビルということでいかせてもらうがいいかね?」 オスマンの言葉にマチルダはしぶしぶ頷き、「仕方ないさ。今更本名で生きようにも都合が悪すぎる。こちとら潰された家の生き残りだからね」 マチルダの言葉にうなずいうたオスマンは今度はルイズたちに視線を移し、「もしフーケを生け捕りにしていたならシュヴァリエの授与申請をしてもよかったのじゃが、さすがに盗品の奪還だけでは宮廷の連中は首を立てにふらんじゃろうしな。すまないの」 その言葉にルイズはとんでもないと首を慌てて横にふる。 キュルケはわざとらしく「あら残念」と口にした。「しかし、誰もなしえなかった盗品奪還を生徒達だけでやってのけたことは、きっちりと報告しておくからの。さすがに何かしらの褒賞はあろう。ついでに仕事しろとの嫌味もあわせて」 いたずらっぽくニヤリと笑いながらそう言うオスマンにルイズたちは苦笑した。 そしてオスマンは才人やミルアに視線を移すと、「すまんが、君らは貴族ではないからのさすがに宮廷からの褒賞はないじゃろう。少ないかもしれんが後にわし個人の懐からいくらか出そうと思うのじゃが、よいかね?」 才人は黙ってコクコクと頷き、ミルアも小さく頷いた。 それを笑顔で確認したオスマンは、ぽんぽんと手を叩き、「さてと、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『破壊の杖』が戻ったのじゃから予定どおり執り行う」 その言葉にキュルケは顔を輝かせて、「いけないすっかり忘れていたわ」「それは大変じゃな。今夜の主役は君達じゃ。せいぜい着飾るとよい」 オスマンの言葉にキュルケとタバサは連れ立って学院長室を後にする。 ルイズもその後に続こうとしたが、ふいに足をとめ才人達のほうを振り返った。 「こないの?」という顔のルイズに才人が「後でいくよ」と告げ、ルイズも学院長室を後にする。 オスマンもマチルダとコルベールに退席を促した。「さて、何かわしに話があるのじゃろ?」 オスマンの言葉に才人は頷き、「あの……『破壊の杖』は杖なんかじゃありません。あれは俺の世界の武器です」 才人の言葉にオスマンはその瞳をきらりと光らせ、「ふむ、君の世界とな?」「俺はこの世界の人間じゃありません。ルイズの召喚で異世界からやってきたんです」 その才人の言葉にオスマンは考え込むように僅かに頷く。 そしてその視線をミルアに移し、「君は彼にくっついて来てしまったんじゃな?」 オスマンの言葉にミルアは頷いた。「それで、その『破壊の杖』は何処で手に入れたんですか」 やや焦りを見せながらそう問う才人にオスマンは何処か遠い目をして、「『破壊の杖』はの、わしの命の恩人の形見なんじゃよ……」 そうしてオスマンは語り始めた。 若い頃、異国をめぐっていた時のこと。 大きなワイバーンに不意をつかれ、命の危機に陥ったとき、二本の『破壊の杖』を持った一人の青年が現れ、その内の一本を使いワイバーンを吹っ飛ばし、助けてくれたこと。 しかし、青年は既に深手を負っており、看病の甲斐なく命を落としてしまったこと。 そしてオスマンは彼を弔い、二本の『破壊の杖』の内、一本を青年の墓に、残りの一本を学院の宝物庫にしまいこんだ、と。「生前、彼はうわ言で何度も口にしていた。ここは何処だ、元の世界に帰りたいと……」 オスマンがそう言うと、才人は少し残念そうに「そうですか」とだけ呟いた。「すまないの。あまり役に立つような話ではなかったようじゃな」 オスマンの言葉に才人は黙って首を横に振った。 そして今度は自分の左手の甲を差し出し、「この使い魔のルーンは何かはわかりますか? 武器を持つと光って体が軽くなったりするんです。武器も自在に使えるようになるし」「それなら知っておるガンダールヴのルーンじゃ」 聞きなれない言葉に才人が僅かに眉を寄せる。「ガンダールヴは伝説の使い魔での、あらゆる武器を使いこなしたそうじゃ」 オスマンの言葉に才人は自らの左手に刻まれたルーンを見つめながら、「どうして俺が……」「わしにもわからん」 その言葉に才人はがっくりとうなだれた。 魔法学院の学院長なら何かしら情報を持ってるかと思ったが、結局中途半端に終わってしまった。 そんな才人にオスマンは歩み寄ると、「じゃがなガンダールヴよ。わしは君の味方じゃ。改めて礼を言わせてくれ。恩人の形見を取り返してくれて本当にありがとう」 そう言って才人の手を両手で握った。 才人は僅かながら気を持ち直し、少し照れくさそうに、「いえ、お役に立てたのなら……俺、そろそろ行きますね。あんまり長居するとルイズに怒られそうだし」 才人の言葉にオスマンはかっかっと笑い。「君も着飾ると良い。なに、衣装はこちらで用意しよう」 オスマンの言葉に才人は頭を下げ、退出しようとした。 しかしミルアがその場を動かないことに気がつく。 何か話があるのかな? と才人はミルアに、「俺、待ってようか?」「いえ、大丈夫です。才人さんは先に行ってください」 ミルアがそう言うと才人は少し不思議そうな顔をして頷き、そのまま学院長室を後にした。 僅かな沈黙が学院長室を満たすがやがてオスマンが口をひらき、「君の本題はなにかね。いや、先のサイト君との会話で何か聞きたいことがあるのではないかの?」 その言葉に、ミルアはオスマンの瞳をまっすぐに見つめ、「才人さんを伝説の使い魔といいましたね」「確かに言ったの」「では、その伝説の使い魔を召喚したルイズさんはいったい何なんですか? 正確に言えば彼女の系統はなんですか?」 そう問うミルアに、オスマンは自らの席に腰を下ろし、「コルベール君からは何か聞いたかね?」 その言葉にミルアは首を横に振る。 オスマンは「そうか」とだけ呟くとしばらく考え込み、やがて、「虚無という伝説の系統がある。始祖ブリミルが使ったとされる系統じゃよ」「ルイズさんが、その虚無の系統だと?」 ミルアの言葉にオスマンは僅かに驚いたような顔をした。 その表情の意味することがわからずミルアは首をかしげ、「なんですか? その顔は……」「なに、君は感情の起伏が乏しいようじゃが、なかなか強烈な殺気を向けてくるの。まだ出会って間もないはずじゃが、君にとって、それほどにミス・ヴァリエールは大事かね?」 オスマンの言葉にミルアは腕を組んで考え込んだ。 しかしいくら考えても一向に答えがでない。 ミルアは仕方なく、「少なくとも放っておけないとは思ってます」「ふむ……さて先ほどの質問じゃがな、ガンダールヴを使役したのは始祖ブリミルじゃ。そのことを踏まえれば、ミス・ヴァリエールの系統が虚無である可能性は高い」 少し重く、その言葉を吐いたオスマン。 それを聞いたミルアは軽くため息をつき、「これからどうなるんでしょうか……」「どうなるとは?」「現代によみがえった伝説。このまま平穏無事、とはいかないでしょう。たぶんですが……」 ミルアの言葉にオスマンも頷き、「時代の流れ、とか言うやつじゃな。まぁしかし、大丈夫じゃろ。ミス・ヴァリエールは友人に恵まれておる。本人は認めたがらないじゃろうが。それに―――」 オスマンはそこまで言うと真剣な目つきでミルアをまっすぐに見つめ、「君もおるしの」 その言葉にミルアは僅かに首をかしげた。 オスマンと話したのは今回を含め二回だけだ。 何故、この人は私を信用してる?「伊達に年はくっておらんよ。わしの直感が言っておる。君は信用できるとな」 その言葉にミルアはやれやれと首を横に振り、「あなたはお人よし過ぎます。私のことといい、フーケの件といい」「その話に乗った君も十分お人よしじゃろ。それにわしは、わしにできる範囲の事をしたまでじゃよ」 オスマンはそこまで言うとぽんぽんと手を叩き、「ほれ、君も舞踏会の準備をしなさい。君の衣装もこちらで用意しよう」 首を横に振るミルアにオスマンは頑なに譲らず、結局ミルアは折れた。 オスマンはそんなミルアを送り出しつつ、「そういえば君、今いくつなんじゃ?」 その問いにミルアは黙って左手を突き出し、その指で自らの年齢を示した。 そしてそのまま学院長室をあとにする。「嘘じゃろ?」 学院長室に残されたオスマンは一言、そう呟いた。