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No.32233の一覧
[0] SAVIOUR~虚無とゼロ~【チラ裏より】[風羽鷹音](2013/05/25 23:21)
[1] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零一話 零との邂逅[風羽鷹音](2012/09/13 14:22)
[2] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零二話 刻まれる伝説[風羽鷹音](2012/09/13 16:32)
[3] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零三話 垣間見るゼロ[風羽鷹音](2012/09/13 18:55)
[4] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零四話 使い魔とおまけ[風羽鷹音](2012/07/15 22:30)
[5] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零五話 青銅と伝説[風羽鷹音](2012/07/15 22:31)
[6] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零六話 平民で使い魔で伝説で[風羽鷹音](2012/07/15 22:32)
[7] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零七話 平民で使い魔のおまけで……[風羽鷹音](2012/07/15 22:32)
[8] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零八話 行く先は街[風羽鷹音](2012/06/17 10:35)
[9] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零九話 デルフリンガー[風羽鷹音](2012/06/17 10:37)
[10] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一零話 土くれ[風羽鷹音](2012/06/17 10:41)
[11] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一一話 宝物庫[風羽鷹音](2012/05/27 20:50)
[12] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一二話 土くれを穿て[風羽鷹音](2012/06/17 10:43)
[13] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一三話 フーケの最後[風羽鷹音](2012/06/17 10:46)
[14] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一四話 双月の下『氷槍』は踊る[風羽鷹音](2012/06/17 10:48)
[15] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一五話 大国の懐刀[風羽鷹音](2012/06/23 07:04)
[16] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一六話 なぞらえられた態度[風羽鷹音](2012/06/25 18:51)
[17] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一七話 トリステインのお姫様[風羽鷹音](2012/07/01 09:58)
[18] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一八話 告げられる密命[風羽鷹音](2012/07/07 12:07)
[19] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一九話 疑問と影[風羽鷹音](2012/07/16 02:59)
[20] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二零話 血の円舞[風羽鷹音](2012/09/10 02:36)
[21] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二一話 浸食される空[風羽鷹音](2012/08/25 06:52)
[22] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二二話 ゆれる心[風羽鷹音](2012/08/25 06:53)
[23] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二三話 決別と約束[風羽鷹音](2012/09/06 13:05)
[24] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二四話 ニューカッスル防衛戦[風羽鷹音](2012/09/14 05:42)
[25] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二五話 ウエストウッド村[風羽鷹音](2012/09/19 22:06)
[26] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二六話 外の世界へ[風羽鷹音](2012/09/30 20:19)
[27] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二七話 降下[風羽鷹音](2012/10/14 00:13)
[29] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二八話 岐路[風羽鷹音](2013/02/17 19:57)
[30] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二九話 選ばれた命[風羽鷹音](2013/03/10 04:20)
[31] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 三零話 羽を休める場所[風羽鷹音](2013/04/24 23:32)
[32] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 三一話 草原に咲く花[風羽鷹音](2013/05/25 23:20)
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[32233] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一九話 疑問と影
Name: 風羽鷹音◆be505e3b ID:bf7a1dba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 02:59
 徐々に徐々に、この旅は混迷を極めてくる。
 そんな気がしてなりませんでした。
 これは、ほんの序曲に過ぎない。
 この先に何が待ち受けているのか。

 私はまだ、事態を甘く見ていたのかもしれません。










「物取りですか?」

 物取り、つまりは強盗。
 いつの時代も物騒ですね。何より装備が物々しい。ミルアはそんな事を考えながら首をかしげた。
 襲撃してきた男達が持っていた縄やら紐やらで、本人達を拘束し尋問を始めてから僅か数秒、男達はすらすらと喋り始めた。
 男達の話を一通り聞いたワルドは「ふむ」と頷くと、

「物取りにこれ以上時間をかけても仕方ない。捨て置こう」

「いいのですか?」

「街に着いたら衛兵に報告すればいい」

 ミルアの問いにそう答えたワルドは、ルイズを抱えてグリフォンにまたがる。
 そして、視線を前に向けた。
 そこにはラ・ロシェールの明かりが見える。

「今晩は街で一泊して、明日の朝一番の船でアルビオンに渡ろう」

 ワルドはそう言ってグリフォンで駆け出す。
 才人もそれを追って馬を走らせた。
 ミルアは少し考えこんでいたがやがて自分も馬に乗ると先をゆくワルドや才人を追いかけた。



 『女神の杵』と呼ばれるラ・ロシェールで一番上等な宿に一行は到着していた。岩肌を切りだした様な街並みに石造りのその宿はとてもなじんでいた。
 そこの一階の酒場で才人は完全にだれていた。何処となく血色も悪い。
 一日中馬に乗っていたのだから仕方がない。
 見ればミルアもややげんなりしている。
 床と一体になっている、岩から削りだしたテーブルはぴかぴかに磨かれており、頬をくっつけて、ぐてっとしているミルアの顔が映るほどだった。
 向かいに座っている才人はささやかな癒しを求めて、無抵抗なミルアの頬を指でつついている。一突きするたびに徐々に血色がよくなって、ほっこりしてる才人。まるで指先から生気を吸い取ってるような彼はある意味人外かもしれない。
 しかし、いい加減にしろ、といわんばかりにミルアが才人の指を掴み、そのままぐぐっと力をこめて握る。

「あだだだっ!」

 情けない悲鳴をあげる才人の下に、アルビオン行きの船へ乗船する為の交渉をしに『桟橋』へ行っていたルイズとワルドが戻ってきた。
 じんじんと痛む指をさすっている才人の横に座ったルイズは「なにやってんのよ」といいながらテーブルに頬杖をつき、

「アルビオン行きの船は明後日にならないと出港しないそうよ」

 そう不機嫌にいいながら、未だぐてっとしているミルアの頬をつつく。

「急いだ結果がこれだが、明日一日ゆっくり休めることを考えれば、これはこれでよかったのかもしれないね」

 ワルドはそう言い、ルイズのまねをしてミルアの頬をつつく。
 一方でつつかれているミルアは、その表情を変化はさせていないものの、湧き上がるオーラが「イラついてますよ私」と語っていた。
 それに気がついたのは優秀なスクウェアの風メイジであるワルド。空気を呼んだ彼はいち早く指を引っ込めた。
 しかし、空気を読み損ねたルイズはその指をミルアにつかまれ、そのままぎりぎりと締め付けられる。

「あいたたたっ!」

 才人同様、声をあげるルイズを見て、ワルドは苦笑しながらも、

「先ほど、宿の部屋は取っておいたよ」

 そう言って懐から部屋の鍵を二つ取り出し、テーブルの上においた。
 するとルイズはその一つを掴み、

「ほらミルア、こんな所でだれてないで、部屋のベットで寝なさい」

 そう言ってミルアの首根っこを掴み、そのまま二階の部屋へ向かおうとした。
 それに若干慌てたワルドはルイズを呼び止め、

「ルイズ、すぐ後で話がしたいんだ。二人きりで。いいかな? 場所はここで」

 その言葉にルイズは僅かに首を傾げたがすぐに頷き、そのままミルアを引き連れて部屋へと向かっていった。
 ワルドは小さくため息をつくとテーブルに残っていた鍵を手にし、

「さて、使い魔くん、僕たちも一旦部屋に行こうか」

 ワルドに「使い魔くん」と呼ばれ、どことなくむっとした才人だったが、しぶしぶ立ち上がるとワルドの後について屋へと向かった。



 街で一番上等というだけあって部屋の作りはそれなりに豪勢だった。
 木製の机や椅子はニスが塗られぴかぴかにされている。
 小さいながらも化粧台が備え付けてあり、固定化の魔法で枯れることのない花なども飾ってあった。
 水差しなどもとても綺麗なガラスで出来ている。

「じゃぁ私、ワルドに会って来るわ」

 部屋についてミルアをベッドに放り投げたルイズはそう言って部屋を出ようとした。
 ベッドに突っ伏したミルアあったがむくりと起き上がると、

「私も散歩してきます」

「は? 今から? 月も隠れていて外は真っ暗よ?」

 ルイズがそう言うとミルアは頷き、

「大丈夫です。夜目は利きますから。部屋の鍵はルイズさんが持っていてください」

 ミルアはそう言うとルイズの脇をすり抜け、そのまま部屋を出てゆく。
 そんなミルアの背中を見ていたルイズは軽くため息をつき、

「さっきまでだれてた癖になんなのよもう」

 そう言って部屋を出ると手にした鍵で部屋を閉めた。



 宿を出たミルアはそのまま駆け出し街の外へと疾走する。
 街の外へ出たところで地を蹴り、そのまま空中へ舞い上がった。普段は魔力の燃費が良くないので飛ばないだけで、必要になれば跳べるのである。メイジが空を飛ぶときに使う「フライ」の魔法のように空中に浮いたミルアは、そのまま加速していき、自分達を襲撃した自称物取り達の下へと向かう。
 しばらくすると闇の中で、芋虫のようにうぞうぞと動いている男達が見えた。
 どうやら街の衛兵達はまだ来ていないようだ。
 アルビオンとをつなぐ港町ゆえ人の行き来も激しくいざこざも多い。おまけにそのアルビオンが内戦状態ゆえに色々と忙しいのかもしれない。
 ミルアは男達に気がつかれないようにゆっくりと空中から近づいていった。少し近づいたところで男達の話し声が聞こえる。

「街の衛兵たちが来る前になんとかしないとやばいぞ」

「とはいっても、結構しっかり縛られてるんだが」

「せっかくの前金もこれじゃパーだよパー」

 そう言った男の背後にゆっくり降り立ったミルアはそのまま男の背中を踏みつけ、

「物取りが前金とか、何の話ですか?」

 そう言ったミルアの瞳が僅かに赤く光る。
 闇夜に浮かぶ赤い瞳はかなり不気味で男達は驚いて軽い悲鳴を上げた。
 ミルアはそんな男達を蹴り飛ばし、

「うるさいです。とにかく前金云々の話を聞きたいのですが」

 そう言ってぐりぐりと男達を飛び石のように次々と踏みつけてゆく。
 すると一人の男が愛想笑いを浮かべながら、

「え? 前金? 知らない知らない。なんのことだか……ぶぐっ!」

 前金を否定する男の腹に、展開された「双頭の片割れ」の先端がめり込む。
 片刃の剣のような形をしているが刃がないため突き刺さってはいないが、鈍器としては十分で、ミルアは「双頭の片割れ」で腹を突き、すねを殴りつけた。
 気絶するほどではないがかなり痛いことに変わりなく、精神的ダメージも蓄積された男は半泣きで、

「や、雇われたんだよ。俺達、アルビオンの王党派についてたんだが旗色が悪くなって逃げてきたんだ。そしたらラ・ロシェールの酒場で白い仮面をかぶった男のメイジに雇われたんだよ。その男に、あんたらの特徴を教えられて、ここで襲撃しろって」

 地面の上でうごめきながらも男はそう言った。
 その話を聞いてミルアは内心で舌打ちをする。
 これは、密命のはず何処でばれたんでしょう? 姫さまの様子だと頼れるのはルイズさんだけのはずだったから、そうぺらぺらと話すはずもない。護衛を姫さまから依頼された衛士隊隊長のワルドさんが、無断で単独行動出来るはずもないから、なんらかの理由をつけて単独行動してると考えたら、やっぱり衛士隊方面から情報が漏れたのでしょうか? ミルアが一人考え込んでいると、男の一人が、

「嬢ちゃん気をつけな。俺達を雇ったメイジは、相当の使い手だぜ。一応俺達も傭兵として戦場に立ってきた身として、あのメイジがただもんじゃないってのはなんとなく―――」

 男はそこまで言ったところでミルアに首根っこをつかまれ、そのまま後ろへ放り投げられる。
 地面に顔からダイブした男だったが、なんとか振り返ってみて驚いた。
 先ほどまで自分が転がっていた地面が何かでえぐられたように裂け目が出来ている。

「風系統の魔法、『エア・カッター』」

 ミルアはそう呟き正面を見据える。
 先ほど男の話に出ていた白い仮面をつけたメイジがミルアの視線の先にたっていた。漆黒の杖を手に、仮面の男は油断なく構えている。
 先に動いたのはミルアだった。地を蹴り、一気に踏み込む。「双頭の片割れ」で仮面の男の胴を薙ごうとするが、仮面の男は後ろへ飛びのきそれをかわした。
 追撃しようとするミルアに対して仮面の男が杖をふる。
 風系統の魔法「エア・ハンマー」目に見えない風の鎚がミルアを襲うが、ミルアはそれを正面から受け止め、その場に踏みとどまった。
 ミルアは背中に背負っていた鉄球を右手で構えると、そのまま仮面の男めがけて投げつける。
 棘のついた鉄球が、仮面の男へと一直線に飛んでゆく。
 ミルアが手にしている鉄球の鎖が、ミルアの魔力を養分にするかのごとく、じゃらじゃらと音を立てて何処までも伸びていった。
 しかし、その鉄球は仮面の男の目前で、再び放たれた「エア・ハンマー」によって弾かれる。弾かれた鉄球は蹴りあげられたボールの様に弧を描き、ミルアの頭上を飛んで行った。
 ミルアはそれを見ることなく、鎖から手を離し、鉄球は、どしんと音を立てて、状況を静観していた男たちの足元へと落ちる。
 驚いて小さな悲鳴をあげる男たちをしり目にミルアは「双頭の片割れ」を左手に構え、仮面の男へとじわりじわりと近づいた。しかし仮面の男は杖を構えたままじりじりと後ろへ下がる。
 双方の距離は約二十メイル。
 漸く雲から顔を覗かせた双月が、ミルアと仮面の男の姿をはっきりと映し出す。
 仮面の男の背格好はワルドと大差ない。その雰囲気から、先ほど男たちが言っていたように実力は相当のように感じる。
 先に動いたのは仮面の男だった。詠唱し杖を振る。その杖から放たれる「エア・カッター」そして「エア・ハンマー」
 それらが次々と間髪いれずにミルアに襲いかかった。
 ハルケギニアのメイジ達は魔法を使用する際、それぞれに対応したルーンを唱えなければならない。絶え間なく魔法を放つためにはそれだけ素早く的確にルーンを唱える必要がある。ミルアに向かって次々と魔法を放つ仮面の男は、体の動きも詠唱も早く、それだけの実力を備えてるということだった。
 絶え間なく襲いかかってきた魔法に対してミルアは右手を正面に突きだし、半透明の魔法陣状のシールドを展開し、自らに向かってくる魔法を受け止める。右手に衝撃が伝わってくる中、ミルアはそのまま前へと駆けだした。
 ミルアの使う魔法は、仮面の男にとって見たことがないものであり、例え、驚いて僅かに動きが鈍ってもおかしくはない。
 しかし、仮面の男は内心はどうかはわからないが、驚いたそぶりを見せることなく、攻撃の手を休めなかった。
 それでも怯むことなく前進してくるミルアに、仮面の男は攻撃手段を変えることで対抗してきた。
 ミルアの目の前で風が渦を巻き始め、それは一瞬で四メイルを超え、シールドを展開したままのミルアを飲み込む。
 見た目通り体重の軽いミルアはいとも簡単に空中へと巻き上げられた。
 視界が上下左右滅茶苦茶な中、ミルアはほんの僅かに仮面の男を捉える。呼吸すら満足にできない状況で、ミルアは一瞬だけ見えた仮面の男めがけて「双頭の片割れ」投げつけた。
 投擲された「双頭の片割れ」はブーメランの様に回転しながら仮面の男へと迫る。そして、仮面の男が咄嗟に構えた杖をへし折り、そのまま胸部に直撃した。
 杖が折れたためなのか仮面の男への攻撃が効いたからなのか、竜巻は消滅し、ミルアは解放されて、そのまま地面に墜落した。ミルアはすぐさま仮面の男の状況を確認しようと視線を向け、驚く。
 仮面の男は、ぼんっ、と音を立ててまるで煙の様に消えてしまったのだ。

「今の……何?」

 ミルアはそう言って首をかしげた。 そして周囲を見渡そうとする。
 
 次の瞬間、ミルアの横っ面に「エア・ハンマー」が直撃して、ミルアはまるでボールの様にバウンドしながら転がって行った。

 地面に指をたて、何とか転がってゆく自身を途中で止めたミルアが顔をあげる。転がってる途中でぶつけたのか、派手に鼻血が流れているが、そんな事を気にすることなく敵を睨みつけた。
 どういう理屈か、三十メイル程前方に居る仮面の男は杖を構えミルアの方へ駆けてくる。手にした杖には、それを中心にして風が渦巻いている。
 まるでドリル。あれで突かれたりしたら痛いだろうな。などと考えるミルア。
 周囲をチラ見すると視界の端、二時の方向、十メイルの距離に「双頭の片割れ」が落ちている。
 ミルアがそちらに右手をかざすと「双頭の片割れ」は地面の上でカタカタと震え始め、唐突にミルアに向かって飛んでゆく。それを受け止め、そのまま、こちらに向かってくる仮面の男めがけて自らも駆けだした。
 仮面の男が突きだした杖を「双頭の片割れ」の腹で受け止める。ガガガガと連続的な音を立てながら杖からの衝撃に耐える「双頭の片割れ」
 うわ、やっぱりドリルですか。ミルアはそんな事を思いながら「双頭の片割れ」をぐいぐいと押してゆく。
 それに負けじと仮面の男も自らの杖を押し込む。
 膠着状態かと思われた時、ミルアが仮面の男の杖を横へと流した。力の行き場をなくした仮面の男が僅かによろめく。その腰をミルアは横から思い切り蹴り飛ばした。
 先ほどのミルアの様に地面を跳ねながら転がってゆく仮面の男。よろめきながらも立ち上がった仮面の男の、杖を持った右手に金色に輝く一本の鎖が巻きついた。驚いた仮面の男はその鎖の先を見る。ミルアが左手を突きだし、その正面に魔法陣が浮かび、そこから鎖は伸びていた。
 ミルアは左手を強く引き、一気に仮面の男を引きよせた。その勢いは仮面の男の足が完全に宙に浮くほど。そして引き寄せられた仮面の男を、勢いのままに「双頭の片割れ」で突きあげた。しかし仮面の男は先ほどと同様にまるで煙か何かの様に、ぼんっと音を立てて消えてしまった。
 今度はと、油断なくミルアは周囲を見渡す。
 しかし視界に映るのは縄で縛られたまま、地面の上でうごめいている元自称物取りの男たちだけであった。





「何? 今戻ってきたの?」

 ミルアはラ・ロシェールの宿に戻り、部屋に向かったところでルイズと鉢合わせした。
 ルイズの顔を見てみると、お酒でも飲んだのだろうか僅かに顔が赤い。

「ルイズさんは今までワルドさんと?」

 ミルアがそう聞くとルイズは頷き、

「えぇ、一階の酒場で」

 ルイズはそう言い部屋に入ろうとして、あることに気がついた。
 廊下のランプだけではよくわからなかったが、よく見ればミルアの顔、主に鼻や口周りが真っ赤である。
 ルイズはミルアの顔を両手で、がしっと掴むと、

「ちょっと、あんた血まみれじゃないっ!」

 その言葉にミルアは自らの顔を手で擦ると、

「あ~……ほんとですね。あれです。さっき顔から転んだときに鼻血出してたんでしょうね」

 そう淡々と言うミルアにルイズは呆れたように、

「顔から転んだ? 何、間抜けなことしてるのよ」

 ルイズはそう言いながらハンカチでミルアの口周りをごしごしと拭った。既に血は完全に乾いていて簡単に拭うことが出来た。
 その後二人揃って部屋に入ると、ミルアはうつ伏せでベッドに倒れこみ、ルイズはその隣のベッドに腰かけた。
 ベッドに腰かけたまま、しばらく窓の外を眺めていたルイズだったが、

「さっきね、ワルドにプロポーズされたわ。この任務が終わったら結婚しようって……」

 ミルアはごろりと仰向けになり隣のベッドのルイズに視線を移した。ミルアの目にはルイズは元気がないように見えた。どうしてだろう、嬉しくないのだろうか? ミルアはそんな事を思いながら、

「姫さまと同じような顔をしていますよ?」

 ミルアの言葉にルイズは驚いたような顔をして、

「え? 姫さまと?」

 その言葉にミルアは頷いた。ルイズの顔は明らかに何かしらの不安や悩みを抱えてるように、ミルアには見えた。
 ルイズは軽くため息をつくと、

「私って魔法が使えないでしょ。私には姉が二人いるんだけど、二人は普通に使えるし、父上も母上も貴族としてもメイジとしてもとても立派な人たちで、私の自慢の家族で……なのに私は……」

 そう言っているルイズはどんどん沈み込んでゆく。このままベッドに埋もれてしまうのではないかと思うほどに。

「ワルドがね、言うの。サイトは伝説の使い魔『ガンダールヴ』だって。だから私も立派なメイジになれるって。笑っちゃうわよね。私がそんな伝説の使い魔なんて召喚できるわけないじゃない」

 沈み込んでいきながらそう言うルイズにミルアは「ちがう」と言いたかった。才人の左手のルーンの件、四大系統はおろか、それに属さない初歩的な魔法まで全て爆発という結果にいきつくルイズの系統は、学院長と話した通り「虚無」の可能性が高い。しかし自分がそれをいっても信じてくれるのか。そう思うとミルアは言いだすことができなかった。
 ミルアが頭を悩ませているとルイズは、

「それに私ね、小さい頃は確かにワルドに憧れてたわ。でもその頃は結婚とかよくわからなかったし、その後今まで何年も会ってなかったのよ。確かに今でもドキドキはするけど、これって本当に好きなのかよくわからないのよね?」

 ルイズの言葉にミルアは首をかしげる。
 生まれてからずっと、その手の事は無縁だったミルアとしてはそういう好き嫌いはよくわからない。なんとかしてルイズを元気づけてあげたかったが何をすればいいのか、何を言えばいいのかなにも思いつかない。力をふるう以外、本当に自分は駄目だなと、やや自虐的な思考が頭をよぎる。
 ルイズはそんな首をかしげ悩んでいる様子のミルアをみて、

「って、あんたみたいな小さい子にこんな話しても仕方ないわよね。あぁ私何してんだろう」

 そういってルイズは頭を抱えた。しかし不意にミルアを見て、

「あぁ、でも安心して、もし私が結婚することになってもあんた達の面倒はちゃんと見るから」

 そう言い僅かに笑顔を見せたルイズはミルアの頭をくしゃりと撫でた。





 そろそろいいだろうかと、ベッドの上でミルアはむくりと体を起こした。
 隣のベッドを見れば、ルイズは小さな寝息立てている。
 ミルアはベッドを抜け出し、部屋の外へと出た。そして自分たちの部屋と才人たちの部屋のちょうど真ん中あたりに位置する廊下に腰をおろす。
 これは夜中の襲撃を警戒してのことだった。
 ミルアはルイズや才人たちに、あの物取りたちが雇われた者だということを話していない。少しでもルイズたちに休んでいてほしいというのが理由だ。それに今話して焦らせてしまっても意味がない。
 寝る前にルイズから聞いた話によれば、明日の夜は双月が重なる「スヴェル」の月夜と言われていて、その翌朝は浮遊大陸であるアルビオンがここラ・ロシェールに一番近づくそうだ。
 それ故に、それまでは黙っておこうとミルアは決めた。
 そして今一人、廊下で見張りをしているわけである。部屋の窓には一応簡単な侵入探知用の魔法を張ってある。これでたぶん大丈夫と、よくわからない根拠で頷くミルア。
 そこでふと誰かが階段を上ってくる気配を感じてそちらに視線を移す。人影が見え、それを見たミルアは、

「あれ? ロングビルさん?」

 ミルアの視線の先にいたのは学院長秘書の元「土くれのフーケ」本名「マチルダ」ことロングビルだった。ロングビルもミルアに気がつき、

「ミルアじゃないかい。こんなところで何やってるのさ?」

 ロングビルのその問いにミルアは、しれっと、

「アルビオンへ旅行です」

「嘘だね」

 ミルアの嘘はあっさりと切り捨てられた。
 少しむっとしたようにミルアは、

「嘘じゃありません」

「ただ旅行って言うならともかく、よりにもよって内戦まっただ中のアルビオンへ旅行って馬鹿だろ?」

 ロングビルが呆れたようにそう言うとミルアは小さく「あ」と呟く。しかしミルアはすぐに気を取り直して、

「そういうロングビルさんは何処へ何をしに?」

「アルビオンへ旅行に」

 あなたがそれを言うのですか? と内心で突っ込むミルア。黙って、じーっとロングビルを見ているとロングビルはくっくっと笑い、

「旅行ってのは嘘だよ。前にも話したかもしれないがアルビオンには私の妹みたいなのがいてね。最近、内戦の関係で物騒だし心配でね。それに久しぶりに会いたいってのもあって、あのスケベ爺から休みをもらってきたのさ。気のいいことに宿代も出してくれたしね」

 そう言って一枚の羊皮紙を取りだした。何が書いてあるのかミルアにはわからなかったが、恐らく休暇の許可を書いた物なのだろう。しかしよく見れば所々、インクが滲んでいる。もしやこれは涙か汗だろうか。しかも学院長の署名は何故か赤黒い何かがしみ込んでいる。これは血だな。そう判断したミルアは、考えるのをやめにした。どうせ碌な事じゃない、と。

「で、実際の所、やっぱりアルビオンへ行くのかい?」

 ロングビルの問いにミルアは僅かに考え込み頷く。しかし次の「何をしに?」という問いには首を横に振った。

「まぁいいさ。私が言うのもなんだけど気をつけな。雇い主である王党派が負けると踏んで逃げ出した傭兵やらがうろついてたり、最近では空賊の噂も聞くからね」

 そう言って自分の部屋に向かおうとするロングビルをミルアは呼びとめた。
 そして自らの懐から小さな紙束をとりだす。それは一辺が五サント程の正方形の羊皮紙で、複数枚が細い糸で束ねてあった。そこから一枚切り離したミルアは、それをロングビルに手渡し、

「お守りです。持っていてください」

 そう言われたロングビルはその紙を見て怪訝な表情をした。
 その紙には魔法学院の制服に使われているタイピンと同じ五芒星が描かれていた。これだけなら特に問題はない。ただの五芒星ならば。問題はその五芒星が血で描かれていることだった。

「なにこれ」

「お守りです」

 怪訝な表情のまま問うロングビルにミルアは「お守り」と強調する。
 その様子にロングビルはあきらめたように、

「わかったよ。そこまで言うならありがたくもらっておくよ」 

 そう言うとロングビルは、その「お守り」を懐にしまい、自分の部屋へと向かっていった。
 再び一人になったミルアは、しかたないとばかりに、その場に座り込み壁に寄り掛かると、向かいの壁の染みを数え始めた。



 どれほど時間がたったであろうか、ミルアは壁に染みを数えるのにもあきて、自らのひと束だけ長い後ろ髪を手繰り寄せ、その髪の毛を一本一本数えていた。
 そしてふと廊下の突き当たりの窓に目をやると朝日が差し込んでいる。
 もう朝か。ミルアがそう思っていると才人たちの部屋から物音と話し声が聞こえてきた。
 ミルアもルイズを起こすために自分たちの部屋へと入る。
 部屋の中ではルイズが可愛い寝息をたてていた。ミルアはルイズの元へ近づくと、 

「ルイズさん朝ですよ。起きてください」

 ミルアがルイズを揺さぶると、ルイズは目を覚まし、

「ん……あれ、ここ何処?」

「ラ・ロシェールの宿ですよ」

「あぁ、ごめん思い出した」

 ルイズはそう言ってベッドから降りると傍らの椅子にかけてあったマントを羽織った。
 すると部屋のドアがノックされ、

「ルイズ、僕だ、ちょっといいかな?」

 声の主はワルドだった。
 ルイズはミルアに頷いて見せて、ミルアは部屋のドアを開けた。

「ワルドさんおはようございます」

「あぁ、おはようミルアくん」

 ワルドが挨拶を返すと、ミルアは「どうぞ」と言ってワルドを中へ通した。
 ルイズがワルドに「おはよう」というとワルドも「おはよう」と返した。ルイズは不思議そうな顔をして、

「朝早くにどうしたの?」

「あぁ、ルイズにぜひお願いしたい事があってね」

 なんだろうとルイズとミルアは思わず顔を見合わせた。
 ワルドは微笑すると、

「なに、難しい事じゃないさ。ルイズに立会人をお願いしたくてね」

 立会人という言葉にルイズは「なんの?」と首をかしげた。

「ルイズの使い魔くんとの決闘の立会人さ」

 ワルドのその言葉にルイズとミルアはそろって「はい?」と声をあげた。







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