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No.32233の一覧
[0] SAVIOUR~虚無とゼロ~【チラ裏より】[風羽鷹音](2013/05/25 23:21)
[1] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零一話 零との邂逅[風羽鷹音](2012/09/13 14:22)
[2] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零二話 刻まれる伝説[風羽鷹音](2012/09/13 16:32)
[3] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零三話 垣間見るゼロ[風羽鷹音](2012/09/13 18:55)
[4] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零四話 使い魔とおまけ[風羽鷹音](2012/07/15 22:30)
[5] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零五話 青銅と伝説[風羽鷹音](2012/07/15 22:31)
[6] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零六話 平民で使い魔で伝説で[風羽鷹音](2012/07/15 22:32)
[7] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零七話 平民で使い魔のおまけで……[風羽鷹音](2012/07/15 22:32)
[8] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零八話 行く先は街[風羽鷹音](2012/06/17 10:35)
[9] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 零九話 デルフリンガー[風羽鷹音](2012/06/17 10:37)
[10] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一零話 土くれ[風羽鷹音](2012/06/17 10:41)
[11] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一一話 宝物庫[風羽鷹音](2012/05/27 20:50)
[12] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一二話 土くれを穿て[風羽鷹音](2012/06/17 10:43)
[13] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一三話 フーケの最後[風羽鷹音](2012/06/17 10:46)
[14] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一四話 双月の下『氷槍』は踊る[風羽鷹音](2012/06/17 10:48)
[15] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一五話 大国の懐刀[風羽鷹音](2012/06/23 07:04)
[16] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一六話 なぞらえられた態度[風羽鷹音](2012/06/25 18:51)
[17] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一七話 トリステインのお姫様[風羽鷹音](2012/07/01 09:58)
[18] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一八話 告げられる密命[風羽鷹音](2012/07/07 12:07)
[19] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 一九話 疑問と影[風羽鷹音](2012/07/16 02:59)
[20] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二零話 血の円舞[風羽鷹音](2012/09/10 02:36)
[21] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二一話 浸食される空[風羽鷹音](2012/08/25 06:52)
[22] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二二話 ゆれる心[風羽鷹音](2012/08/25 06:53)
[23] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二三話 決別と約束[風羽鷹音](2012/09/06 13:05)
[24] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二四話 ニューカッスル防衛戦[風羽鷹音](2012/09/14 05:42)
[25] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二五話 ウエストウッド村[風羽鷹音](2012/09/19 22:06)
[26] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二六話 外の世界へ[風羽鷹音](2012/09/30 20:19)
[27] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二七話 降下[風羽鷹音](2012/10/14 00:13)
[29] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二八話 岐路[風羽鷹音](2013/02/17 19:57)
[30] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二九話 選ばれた命[風羽鷹音](2013/03/10 04:20)
[31] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 三零話 羽を休める場所[風羽鷹音](2013/04/24 23:32)
[32] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 三一話 草原に咲く花[風羽鷹音](2013/05/25 23:20)
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[32233] SAVIOUR~虚無とゼロ~ 二二話 ゆれる心
Name: 風羽鷹音◆be505e3b ID:bf7a1dba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/25 06:53
 大切な誰かを守る為に自らの命を犠牲にする。
 後に美談となりえる話。

 けど、残された人は?

 残された人はどうすればいいのだろうか。

 何かを守る為には何かを犠牲にしなければならない。
 それが現実。辛くて厳しくて悲しい現実。
 けれど、それでも私は何を犠牲にすることなく、守りたいと思う物を全てを守りたいと思ってしまう。
 例えそれが夢物語だとしても。
 間違いなくそれが私の本心。










「そうかい、姫は……僕のかわいい従妹は結婚してしまうんだね」

 アンリエッタからの手紙を読んだウェールズは、そう言って笑みを浮かべる。
 その笑みを見たルイズや才人、ミルアはその笑顔が何処か寂しそうに見えた。
 しばらく手紙を眺めていたウェールズだったが、

「なるほど、姫の望みは理解した。あの手紙は大切なものだが、姫の望みは私の望み。すぐにでも返そう」

 それを聞いたルイズは嬉しそうに頭を下げた。
 そんなルイズを見てウェールズは苦笑しながら、

「しかしながら手紙は今、ニューカッスルの城にあってね。面倒ではあるだろうけど足労願うよ」

 そう言うとウェールズは部下に、

「ところで、あのマリー・ガラント号の積荷は?」

「はいっ! 硫黄とのことです」

 それを聞いたウェールズは満足げに頷き、

「船長に伝えてくれ相場の三倍で船ごと買い取ると」

 ウェールズがそう言うと、部下はそれを伝えにマリー・ガラント号へと向かった。
 そしてイーグル号を先頭にした二隻は、浮遊大陸のジグザグとした海岸線を雲に隠れながら縫うようにして進んでゆく。
 三時間ほどの経ったころであろうか、大陸から突き出した岬が見えてきた。岬の突端に大きな城があり、その遥か上空に巨大な船が浮かんでいる。
 ウェールズは城を指差し、

「あれが我らのニューカッスル城だよ」

 そして遥か上空の船を指差し、

「あれは叛徒どもの船、かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だよ。もっとも叛徒どもの手に渡ってからは『レキシントン』と名前を変えられているけどね。レキシントンというのは奴らが我らから最初に奪った土地の名でね。よほど名誉に思っているのか、嫌がらせか」

 そう言ってウェールズは苦笑する。
 そんなウェールズにかける声も思い浮かばず、才人たちはレキシントン号を見た。
 本当に巨大な船だった。イーグル号の二倍はあろう大きさ、何枚もの帆をはためかせ、舷側からは大量の大砲が突き出している。
 真正面から挑めば圧倒的な火力で一瞬にして沈められてしまうのは目に見えていた。
 するとレキシントン号が僅かに降下を始めたかと思うとニューカッスル城に対して数発の砲撃を加える。
 どーん、という体を震わすほどの大きな音と共に大砲から砲弾が放たれ、城壁に直撃し、城壁の一部がガラガラと崩れていった。
 その光景にルイズが息をのむ。
 そんなルイズに気が付いたのかウェールズは、ははは、と笑い、

「あれは単なる嫌がらせさ。本気でやれば今頃城は瓦礫と化しているよ」

 それを聞いたミルアは、

「どうして本気でこないのですか?」

「我らが瓦礫の下敷きになれば死体の判別が付きづらくなるからね。奴らは王族を葬ったという確実な証拠がほしいのだろうさ」

 ウェールズがそう答えるとルイズが「ひどい」とつぶやいた。
 それが聞こえていたらしくウェールズはルイズに笑みを向け、

「ありがとう。やさしい大使殿」

 その言葉にルイズは少し照れたように顔を伏せる。
 ウェールズはルイズたちの顔を見渡して、

「さて我らは奴ら叛徒どもに気づかれないように城へと向かう。なに、心配することはない。奴らの知らない秘密の出入り口というものがあるのだよ」

 そういうウェールズの瞳はいたずらっ子のように輝いていた。



 日の光が届かない大陸の真下。その雲の中をイーグル号と、イーグル号の航海士が乗り込んだマリー・ガラント号が
地形図と測量と魔法の明かりだけで進んでゆく。日の光が届かぬ雲の中ゆえかひんやりとした空気が肌をなでてゆく。魔法による明かりがなければ視界はほぼゼロと言ってもいい。明かりがあっても雲の中ゆえに目の前はほとんど真っ白である。
 二隻の船は少しでも進路がそれれば真上の大陸に座礁するであろうぎりぎりの位置を維持して進んでいた。

「我々はともかく叛徒どもにここまでの技量はないからね。それ故に我々は秘密裏に動けるわけだよ」

 ウェールズはとても得意げだった。
 そこへミルアが近寄り、

「皇太子さま、お聞きしたいことが」

「ん? 何かね?」

 ウェールズがそう尋ねると、ミルアはウェールズを見上げ、

「先ほど襲ってきた虫はなんなんでしょうか?」

 その問いにウェールズは腕を組むと、

「ふむ、実は我々にもよくわかっていないのだよ。ここ一年程前から姿を見せるようになってね。初めは大陸内だけでちらほら見かける程度だったのだが、最近は外に出て船を襲う様になったみたいなのだよ。もっとも大陸周辺だけゆえにあまり知られてはいないがね」

 ウェールズの答えにミルアは僅かに首を傾げた。
 無論、ミルアにもあの虫に見覚えはない。ただガリアでの一件と言い、どうにも気になる。あの巨体である。どんどん繁殖されてはかなわない。しかも認知度も極めて低くほぼゼロと言ってもいい。
 ふと船が停止したことに気が付いたミルアは上を見上げた。
 すると、そこには直径が三百メイルもあろう大穴がぽっかりと空いている。
 魔法の明かりに照らされながらも穴の先は全てを飲み込むような闇。その光景は、恐怖なのかなんなのか、とにかく気持ちが大きく揺さぶられるものがあった。
 二隻の船はその穴の中をゆっくりと上昇していく。
 しばらく上昇したところで白く光るコケに照らされた大きな鍾乳洞にたどり着いた。
 そこには秘密の港があり、二隻の船は、その港へ入り込み接岸した。
 ウェールズはルイズたちを引き連れタラップを下りてゆく。
 するとウェールズのもとへ背の高い老メイジが駆け寄ってきた。
 彼はマリー・ガラント号を見て、

「殿下、これは大した戦果ですな。まさか船をまるまる一隻とは」

 心底嬉しそうに言う老メイジに、ウェールズは笑みを浮かべて、

「喜べ、パリー。なんと積荷は硫黄だ。火の秘薬だぞっ!」

 ウェールズがそう叫ぶと港でウェールズたちを出迎えた兵たちから歓声があがった。
 パリーと呼ばれた老メイジは目に涙を浮かべながら嬉しそうに、

「反乱がおきてより今日まで苦汁を舐めさせられてばかりでしたがこれで、奴らに一矢報いることができますな」

 そう言うパリーの肩にウェールズは手を置き、

「あぁ、叛徒どもに栄光ある敗北というものを見せてやろう。王家は決して弱敵ではないとな」

 ウェールズの栄光ある敗北という言葉にルイズと才人は、はっとする。
 ミルアも僅かに眉をひそめ、自身が不快感を感じていることに気が付いた。
 そんな中、パリーはルイズたちの方を見て、

「して、殿下。この方々は?」

「あぁ、彼らはトリステインからの大使殿だよ。重要な用件でね。私を訪ねてきたのだよ」

 ウェールズの答えにパリーは頷き、

「そうですか。おぉ、重要なことを伝え忘れておりました。明後日の正午、攻城を開始すると、叛徒どもが伝えてまいりました」

「そうか、どうやら私は間に合ったようだな」

「はい、殿下。つきましては明日の夜は祝宴を開こうと思いまして」

 パリーの言葉にウェールズは頷くとルイズたちに振り返り、

「祝宴には是非君たちも参加してくれ」

 一点の曇りもない笑顔。本当に楽しそうに笑顔を向けてくるウェールズに、ルイズを始めとして才人やミルアは胸を締め付けられるような感じがした。





 城へと着いたルイズたちは、件の手紙を受け取る為、ウェールズに引き連れられて、ウェールズの居室へと向かった。
 そんな中、ミルアだけがルイズたちのために用意された客室で休んでいた。
 ラ・ロシェールでの襲撃と先の空中戦。疲労困憊というわけではなかったが、今いる場所が明後日には戦場になることを考えて、少しでも休んでおきたかったのと、皇太子の部屋にぞろぞろと行くのはどうかと思ったためだった。
 石造りの壁に、簡素ではあるが使う者に礼を尽くした綺麗な調度品。そしてベッドが一つ。
 少しの間ベッドに横たわっていたミルアだったが、ふいに起き上がると窓へと近寄る。
 すでに日も完全に沈み、夜空には月が輝いている。
 スヴェルの夜。赤い月が白い月の後ろに隠れる夜。
 一つに重なった月が青白く輝いている。それはミルアに、地球で見る月を思い起こさせた。
 ふと、ミルアは港で見た兵たちの顔を思い出した。
 皆が一様に笑顔だった。明後日には死ぬであろうというのに。恐らくは何か強い思いで、死への恐怖を押し殺しているのだろう。それが何かはなんとなく想像はできる。
 生まれて数年のミルアでも死への恐怖はある。好きな人の笑顔を見ることも、言葉を交わすことも、触れることもできなくなる。自分が自分であるという意識がなくなる。深遠なる闇。漠然とした無。
 言い表しきれない無への恐怖というのがミルアの中にあった。しかし未だにそれを押し殺す術をミルアは持っていない。あるのは死んでたまるかという生への強い執着。あるいはその執着こそが死への恐怖を押し殺しているのかもしれない。
 一人もんもんと頭を悩ませていると、ルイズが部屋へと入ってきた。一目見て沈んでいるのがわかる。
 そんなルイズへミルアは歩み寄り、

「手紙は返してもらえたのでしょう? なのにどうしてそんなに沈んでいるのですか?」

 首を傾げそう問うミルア。
 ルイズは無言でベッドに向かい、そのままうつ伏せに倒れると、

「姫様が望んでいた手紙は返していただいたわ。けどね私わかっちゃったの。その手紙は恋文だったのよ。殿下に届ける手紙をしたためていた時の姫様の表情や、姫様の手紙を返していただいた時の殿下の表情……」

 そう言ってルイズは懐から手紙を取出し、

「聞いてみたら殿下も否定されなかったわ。これは恋文だって……これが反乱軍の手に渡るのは確かにまずいわ。殿下が言うには、姫様は手紙の中で殿下への愛を、始祖に誓ってるのよ。始祖への誓いは婚姻の際のみ許されるもの。このままじゃ姫様はゲルマニア皇帝との重婚の罪を犯すことになる。それじゃ同盟はご破算よ」

 ミルアはルイズのいう事に納得して、その手紙を見た。
 ルイズが取り出した手紙はそれはもうぼろぼろだった。やぶれているとかではなく、なんども手紙を開いたり閉じたりした痕跡があった。
 そして手紙を懐に戻すと、

「私、殿下に亡命を進めたわ。きっと姫様もそれを望んでいるもの。お友達として姫様の事はよく知ってるわ。姫様が愛する人を見捨てるはずないのよ。だからきっと、あの密書としての手紙にも亡命を進める一文があったはずなのよ。なのに殿下は……」

「亡命を拒否したのですか?」

「えぇ……手紙にも亡命を進める一文なんてないって……でもそれをおっしゃった時の殿下の表情……殿下を嘘をおつきになったのよ。私、一生懸命説得したわ。でも駄目だった……どうして? 愛してる人が死なないでって思っているのに自ら死を選ぶのよ……」

 ルイズはそれきり黙ってしまい、しばらくすると小さな寝息を立て始めた。
 ミルアはルイズに歩み寄ると、着けっぱなしのマントを外してやり、それをベッドの脇へと置く。
 窓から入り込む月明かりがそんな二人を照らしていた。
 ミルアは窓の外の月を見上げ、

「気分が悪い」

 そう一言だけ呟いた。





 翌日の昼ごろ、ミルアは崩れた城壁の上に立ち、岬の出入り口を呼べる場所を眺めていた。そこから少し先に反乱軍レコン・キスタが扇状に布陣し岬の出入り口を完全に封鎖している。ネズミ一匹逃がさないつもりである。
 ミルアは僅かに振り返り城を見る。
 城内では今夜の祝宴にむけてメイドたちなどがせわしなく働いていた。

「敵の進行は明日の正午だ。そう警戒しなくてもいいのではないかな?」

 そう声をかけられてミルアは下を見る。
 城壁の足元にはワルドがいてミルアを見上げていた。
 ミルアは城壁から飛び降りると、

「伝えてきたとおりに来るのであれば、それでかまわないのですけど。布陣を見てみるとなんとも物々しいです。なにより数が多い」

「敵の数は五万、対して王軍は三百。万に一つも勝ち目はあるまい」

 ワルドの言葉を聞いたミルアは首を傾げ、

「三百の王軍を倒すのに五万ですか? 無駄に多くないですか? 兵糧だって無尽蔵ではないでしょうに。それに岬内に五万も入りきりませんよ。岬内に入ったところで城からの一斉掃射を浴びるのが目に見えています」

 ミルアがそう言うとワルドは腕を組み、

「殿下の言っていた通り、彼らは王族を倒したという確実な証拠がほしいのだろう。空から艦砲射撃を加えれば跡形も残らない可能性もあるからね。それに一番の望みは降伏することかもしれない。それなら余計な損害を出さずに済むし、王族の身柄も確保できるからね」

 なるほど、圧倒的戦力差を見せつけて降伏を促しているのだろう。もっとも王軍は玉砕する気まんまんではあるが。ミルアはそんなことを考えながら城の遥か上空を見た。
 視線の先にレコン・キスタの船、レキシントン号が見える。その周囲には竜にまたがった竜騎士の姿も確認できた。
 なんだか見せつけているようで、いやらしい。思わず撃ち落としてやりたい衝動をミルアは必死に抑える。
 そんなミルアへワルドは思い出したかのように、

「そうだ、君にも伝えておこうと思ってね」

「何をですか?」

「明日の朝早くに、僕とルイズの結婚式を此処の教会であげようとおもってね」

 ワルドの言葉にミルアはきょとんとする。こんな状況下で? ミルアがそう思っていると、ワルドもそれを察したのか、

「僕たちの婚姻の媒酌を是非とも皇太子殿下にお願いしたくてね。こんな機会は一度きりだろうからね。皇太子殿下も快諾してくれたよ」

 ワルドの言葉にミルアも納得した。確かに皇太子さまに頼めるのは今しかないのだろうと。

「サイト君は結婚式に出席してくれることになってるんだが、君はどうする? できれば君にも出席してもらいたいのだけど」

 その問いにミルアはしばらく悩んだ後、首を横に振り、

「残念ですがギリギリまで此処で見張りでもしておきます。せっかくの結婚式です。無粋な輩に邪魔されてもかなわないでしょう?」

 ミルアがそう言うとワルドは苦笑して、

「君のいう事もわかるが、ルイズと仲のいい君にも出席してほしかったな」

「申し訳ありません。ですが少々言いたいことが」

 ミルアのその言葉にワルドが不思議そうな顔をして、

「ん? 何かな?」

「おめでとうございます。ルイズさんを幸せにしてください」

 その言葉にワルドは笑顔を浮かべ、

「ありがとう。ルイズは幸せにするよ。おっと、勘違いしないでくれよ、君もサイト君もルイズと一緒にいてもらうよ? サイト君はルイズの使い魔だし、君も優秀だからね。それにルイズはまだ学生だからね。新婚生活はしばらくお預けになるさ」

 ワルドはそう言うと、はっはっはっと笑いながら城へと戻っていった。
 一人残されたミルアは、

「つまり結婚しても今までと変わりないと」

 そう呟いていた。



 こういうのを最後の晩餐というのだろうか。ミルアは目の前のパーティーを見ながらそう思った。
 夜になって始まったパーティーはそれはそれは豪華なものだった。
 明日の決戦を控えた貴族の男性たちは皆一様に着飾り、その家族であろう夫人や娘、息子も着飾っている。
 テーブルの上には蓄えてあった食材をすべて使ったのであろう、大量の豪勢な料理が並んでいた。簡易の玉座には、アルビオンの年老いた王である、ジェームズ一世が腰かけ、パーティーを楽しむ臣下たちを楽しげに見守っていた。

「最後だってのに随分と豪勢なんだな」

 パーティー会場の隅で、ワイン片手の才人がそう言うと、隣にいたミルアが、

「最後だからでしょう」

 そう言いながら料理を口に運ぶ。右手に持った大きな皿には料理が山のように積まれている。まったくもって遠慮がない。
 そんな中、王が臣下に対して明日、非戦闘員を乗せた避難船に同乗し此処を離れるようにと進めるが、その言葉に臣下たちは誰一人頷かず、王からの突撃命令のみを待っていることを告げる。
 臣下たちのそんな態度に王は僅かに涙を滲ませて「ばかものどもが……」短くそう呟いた。
 会場が再び喧騒に包まれる中、トリステインからの客であるルイズたちのもとには引っ切り無しに貴族たちが料理やお酒などを進めてきた。
 ルイズや才人はそれを精一杯の作り笑いで受け取り、ミルアも遠慮なしに受け取って、皿の上の料理の山がさらに高くなってゆく。
 ミルアがふとルイズの顔色を窺う。完全に沈み切っていた。
 ルイズはこの強引な空気に耐え切れなくなったのか僅かに首を横に振ると、そのまま足早に会場を後にし、ワルドがその後を追った。
 才人も何か苦しそうな表情をしている。
 するとそこへウェールズがやって来て、

「君はラ・ヴァリエール嬢の使い魔らしいね。人が使い魔とはなんとも珍しいな」

 才人はウェールズを見た。何か言いたげな表情で。
 それに気が付いたウェールズは、

「どうしたのかね?」

「あの、失礼ですけど、怖くはないのですか?」

 才人の問いにウェールズはきょとんとして、

「怖い? 何がかね?」

「その……明日、死ぬことが」

 その言葉にウェールズは笑みを浮かべ、

「私たちの事を案じてくれるのかい? 君は優しい少年だな」

 ウェールズの言葉に才人は首を横に振り、

「俺だったら怖くて此処の皆のように笑う事なんてできません」

 才人がそう言うとウェールズは、はははと笑い、

「皆怖くないわけではないさ。王族も貴族も平民も、皆死ぬのは怖いさ。だけどね……」

「だけど?」

「皆守りたいものがあるんだよ。その思いが死への恐怖を押し殺してくれる。私だってそうさ」

「守りたいものって?」

「名誉や誇り。対外的にはそう言うだろうが、実際のところ家族や愛する人だろうな皆」

「姫様とか?」

 才人がそう問うとウェールズは少し照れくさそうに、

「私の場合はそうなるね」

 それを聞いた才人は首を横に振り、

「でも姫様はあなたに生きてほしいって思ってるはずです。手紙にだって亡命してくれって書いてあったんでしょう?」

 その言葉にウェールズは首を横に振り、

「いや、姫はそんな自国を危険にさらすようなことは書いていないよ。私が亡命すればレコン・キスタは王族を逃がしてしまったと、躍起になって私を追ってトリステインに攻め入るだろう。それがわかりきっていながら姫が私に亡命を進めるはずがない」

 才人はしばらく黙るがやがてウェールズに頭を下げると、足早にその場を後にする。
 そんな才人の背中を見送っていたウェールズに、今まで黙っていたミルアが、

「顔にでてましたよ」

「何がかね?」

 ミルアはウェールズの顔を見ることなく、

「先ほど才人さんに手紙の事を聞かれて、否定された時です。実際には亡命するように書かれてたんですね」

 ミルアがそう言うとウェールズは周囲に他の誰もいないことを確認してから、やれやれという具合に、

「まいったね。そうか私は顔に出していたかい」

「ですが、貴方の言う事も理解できます。姫様の身を案じてあえて死を選ぶということ」

「そうか。理解してくれると助かるよ」

「伺っても?」

「何をかね?」

「レコン・キスタは何がしたいのですか?」

「ハルケギニアの統一と『聖地』の奪還だよ」

 聞きなれぬ単語にミルアは首を傾げ、

「『聖地』?」

「今はエルフが占拠している土地さ。統一や聖地の奪還。その理想は良いが、武力でもってそれをなそうとすれば多くの民草が犠牲になる。奴らはその犠牲の事を考えていない。だから我らは奴らの行いを許すわけにはいないんだよ」

 ミルアは少し考え込むと、

「先ほどは理解できるといいましたが正直なところ、姫様の心中を想えばあなたに死んでほしくはありません。無論、貴方だけに限らずこの場にいる方々にもですが」

 ミルアのその言葉にウェールズは苦笑して、

「君も先ほどの少年と同じでやさしいのだな」

 その言葉にミルアは首を横に振り、

「やさしいわけではありません。ただ単に私が嫌なんです。姫様が悲しむのが。その姫様を見てルイズさんが悲しむのが。私が嫌なだけ、結局、私のわがままなんですよ」

 そう言うミルアの頭にウェールズはぽんと自らの手を置き、

「たとえ君のわがままだとしても、私は君がやさしい子だと思うよ」

 そう言ってほほ笑むとやさしくミルアの頭を撫でた。
 するとミルアはウェールズを見上げ、

「同じです。姫様に撫でられた感じと、貴方に撫でられた感じは」

「そうかい? それは嬉しいね」

 本当に嬉しそうに言うウェールズに、ミルアは懐から小さな一枚の羊皮紙を出した。それはラ・ロシェールでミルアがロングビルに渡した物と同じものだった。
 ミルアはそれをウェールズに差し出し、

「お守りです。持っていてください」

 きょとんとして「いいのかい?」と言うウェールズにミルアは頷いて見せた。

「ありがとう」

 そう言ってウェールズはミルアから、そのお守りを受け取り懐へとしまう。そしてミルアが手にしている大量の料理に視線を移すと、

「食べ盛りだろうから、遠慮せずたくさん食べてくれ。腕を振るってくれた料理長たちも喜ぶだろう」

 ウェールズはそう言うとパーティーの喧騒の中へと戻っていった。
 その背中を見送ったミルアは、

「食べ盛りね……いくら食べても縦にも横にも大きくならないんですが……」

 ぼそりとそう呟き料理を口に放り込む。
 そして皿の上が寂しくなってくると、歓談する貴族たちの間をぬって、料理が乗るテーブルへと向かった。



 ミルアが部屋に戻るとそこにはベッドに突っ伏しているルイズがいた。
 近づいてみるとぐすぐすと泣いているのがわかる。

「ルイズさん、どうかしましたか?」

「ねぇ、ミルア……皆明日には死んでしまうのにどうして笑っていられるの?」

 その問いにミルアはベッドに腰掛けると、

「守りたいものがあるから、と言ってましたよ。家族とか……」

「サイトも同じことを言ったわ。でも、愛する人が生きてほしいって思っててもなの? 逃げたっていいじゃない。みっともなくたって逃げて逃げて、とことん逃げてもいいじゃない。どうして残される人の気持ちを考えてくれないの?」

 ミルアは答えることができずに黙った。正確なところは所詮他人の自分にわかりっこない。それにいくら言葉を並べたところで今のルイズに理解してもらえるとは思わなかった。
 しばらく悩んだところでミルアは、

「ルイズさん。こんな事言っても慰めにもならないと思いますが、私は絶対に死にませんよ。どんなに絶望的な状況でも、どんなにぼろぼろになろうとも生きて、生きて貴方の所へ戻ってきます。貴方を残したりなんかしません私は貴方の従者兼護衛ですから」

 ミルアがそう言うとルイズが顔をあげる。突っ伏していたためか鼻の頭が赤い。
 不意にルイズはミルアの頭を抱き寄せ、

「早くトリステインに帰りたいわ。ここには分からず屋のお馬鹿さんがいっぱいだもの」

 ルイズの言葉にミルアは黙って頷いた。
 この時、ミルアの心中は、ただただ悔しいという思いでいっぱいだった。自分にはどうあがいても誰かを癒してあげることなどできないと。泣き顔なんて見たくない笑っていてほしい。けれど自分には何もできない。何をすればいいのかわからない。それが悔しくて苦しくて、痛かった。





 翌日の早朝、ルイズはワルドに連れられてお城の敷地内にある教会にやってきていた。
 朝早くワルドに起こされ、

「今から僕たちの結婚式をあげよう」

 そう言われてさすがに面食らった。
 事態が飲み込めずにワルドに連れられ歩いているといつの間にか才人が後ろにいて、目が合うと一言「おめでとう」と言われた。
 何故だかわからないがそれがとてもショックだった。その為か考えることもできず、いつの間にか教会にたどり着いていた。
 見ればウェールズがすでに礼装を身にまといルイズたちを待っていた。
 アルビオン王家の象徴である七色の羽がつけられた帽子をかぶり、同じく王家の象徴である明るい紫のマントを纏っている。
 半ば放心状態のルイズを余所に、ワルドは魔法の力で枯れることのない花があしらわれた冠と、新婦のみが身に着けることを許される純白のマントをウェールズから受け取った。

「さぁルイズ……」

 ルイズはぼんやりとしたまま言われるがままに冠とマントを身に着けた。

「綺麗だよルイズ」

 ワルドにそう言われてもルイズはなんとも思わなかった。
 ちらりと才人をみれば、何処か寂しそうな笑顔をこちらに向けている。
 それを見たルイズはより一層悲しくなり、そして胸が痛かった。
 なぜ悲しいのかすらわからない。何故胸が痛むのかわからない。
 才人の見せた笑顔がウェールズの笑顔とかぶった。
 大切な何かをあきらめているような、でもそれでも大切だと強く思っているような笑顔。
 いいの? 私、ワルドと結婚しちゃうのよ? そう問いたいと思い、同時に疑問に思う。
 何故自分は才人にそんな事を問いたいのか。
 才人の事を考えて不意に才人のいろんな表情を思い出した。
 普段のへらへらとした何処か頼りなさげな表情、土くれのフーケのゴーレムに立ち浮かう時に見せてくれた笑顔、空で虫にさらわれ、そこから助け出してくれた時「もう離さないから。ちゃんと俺が守るから」そう言ってくれた時の真剣な表情。
 思い出していてルイズは自分の顔が熱くなるのを感じた。それと同時に胸が高鳴る。
 いったい自分はどうしてしまったのだろうか。
 この感じはなんなのだろう。
 幼いころに感じたワルドへの想いとは少し違う。
 才人の事を想えば想うほど、胸が高鳴り、苦しくて痛い。

「新婦?」

 そうウェールズに声をかけられてルイズは、はっとした。
 いつの間にか式は進み、新郎新婦が誓いの言葉を述べるところまで来ていた。
 ルイズは内心で慌てた。
 どうする? どうすればいい?
 誰も答えなんて教えてくれない。これは自分自身の心の問題だ。助言はしてもらえても決めるのは自分自身。
 決断しなければならない。自分はどうしたいのか。
 ルイズは、すぅと深呼吸をする。
 そんなルイズを他の面々が怪訝な表情で見た。
 そして深呼吸を終えたルイズは真っ直ぐにワルドを見る。
 その表情は何処か悲しげで、けれど確かに強い意志が、その瞳から感じられた。

「ルイズ……?」

 ワルドはルイズの表情を見て戸惑った。
 そしてルイズは、

「ごめんなさいワルド。私、貴方と結婚できないわ」

 確かに、そうはっきりと口にした。







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