力を欲することは誰にでもある。 自らの無力を痛感するとき、私の中にその思いが湧き上がる。 力なんて碌なもんじゃない。誰かを傷つけるばかり。 そう思ってもこの想いは止まらない。 そんな力でも誰かを救う事が出来るなら…… 私は…… 「おっ……落ちてるっ! 落ちてるぅぅぅっ?」 頭上には白い雲と青い空が何処までも広がり、眼下は果てしなく広がる海で埋め尽くされている。 そんな世界の中でハーフエルフの少女、ティファニア・ウエストウッドは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、重力に任せて落下していた。 普通はそんな経験はしないし、ただただ落ちていくというのは恐怖だろうからティファニアの様子は仕方ない。 そんなティファニアにミルアの声が届く。 「テファっ! 大人しくしていてくださいっ! 必ず助けますっ!」 ミルアも重力に任せて落下しながらティファニアに声をかけた。 すると背中に背負われていたデルフが、 「嬢ちゃんっ! 来たぞっ! 後ろだっ!」 「えぇいっ! くそっ!」 めったに口にしないような言葉を吐き、ミルアは体を捻り後ろを向き、デルフを構える。 鈍く黒色に輝くソレがミルアに迫っていた。 時間はミルアとティファニアが自由落下をする少し前までさかのぼる。 ウェストウッド村を旅立ったミルアとティファニアはトリステインに向かうため、まず地上に降りる手段を考えた。 手段と言っても船を使うことぐらいしか思い浮かばず、いざ港へと行っても内戦が終わったばかりの為か、あるいは別の理由なのか港はほぼ封鎖状態で、一部の船のみが動いていた。 日がまだ高く、船員や船員相手の商売人が港内を行きかう中、ローブを羽織り、フードを目深に被ったミルアが目立たぬように港内を観察していた。 動いている船は大砲やら、その砲弾など軍用の物と思われる物資を積んだ輸送船や、食料やその他の物を積んだ商船と思われるような船だけで、渡航用の船は何処にも見当たらない。 頭の中にに「密航」という言葉が浮かび、ミルアはため息をつく。 いくら帽子やフードで隠しているとはいえティファニアはハーフエルフだ。ミルアとしてはリスクのある行動は避けたかったのだ。 それにニューカッスル城で暴れた自分の容姿が知られていないという保証もない。 そもそも密航ってどうしたらいいんでしょうか? そのあたりロングビルからレクチャーを受けとけばよかったとミルアは内心で頭を抱える。 早く村を出ることに意識を集中しすぎていたのだ。 ミルアとティファニアの二人は港から少し離れた小さな森の中に身を潜めていて、ミルアは淡い期待を胸に、ティファニアにどうしたらいいと思うか尋ねてみたがティファニアも困惑して首を横に振る。 悪いことはそう簡単にはいかないらしい。 どうしようかと二人して悩んでいるとミルアに背負われているデルフが不意に、 「とりあえず昼間はじっとしていた方がいいな。下手に動いて人目につくわけにもいかないだろ?」 それを聞いたミルアはふむふむと頷いた。 そして、日が沈んでからミルアたちは行動を開始した。 日が沈んでからの密航といっても別段、高度な潜入を図るわけではない。というのも日が沈むまでミルアは密航の手段を考えていたのだが碌なものが浮かんでこなかったのである。 荒事専門、正面突破、力任せ。そんなミルアであるから仕方ないと言えば仕方ない。事前に知識や情報があればマシではあるが今回はそれもなく、早々にあきらめた。 結果としてミルアは力任せという方法をとることにした。 とはいっても密航であるから正面突破はしない。それをすれば密航ではなくなるし、単なるハイジャックである。 で、どういう方法かと言えば「船に穴をあけて忍び込む」というものである。 普通密航の手段として、そんな事は考えないと思われる。 ミルアは自分より体の大きいティファニアをやや強引に背負い、元々ミルアの背を陣取っていたデルフはティファニアの背に。二人と一本は暗がりの中、港に向かって飛行を開始した。 「すごい……船って大きいのね」 暗がりの中、ミルアの背の上でティファニアが小さくつぶやく。 ミルアは港の桟橋に繋がれた船の下に潜り込んでいた。明日の早朝には出発するという事は船員から盗み聞きしてわかっている。行先はガリアらしいが詳しい場所まではわからなかった。 ミルアたちの眼下に広がるのは漆黒の闇。昼間なら遥か下に青い海が見えただろうが、夜に見えるのは何処までも続く闇だけ。 そんな闇をちらりと見てからミルアは正面を見る。 そこに見えるのは船の側面部分。 指先をぴんと伸ばした左手から魔力で作られた半透明の刃が伸び、それを船の側面に突き刺す。すんなりと突き刺さったそれを、ミルアは円を描く様に切り抜く。 抜け落ちてしまわないように切り抜いた船の側面を、ミルアが中へと押しやった。 すると人がくぐれるほどの大きさの穴がぽっかりと開き、ミルアたちはそこから船内へと潜り込む。 潜り込んだ先には木の箱や樽が所狭しと並べられており、どうやら貨物室のようだった。 「ビンゴ」 貨物室を見渡したミルアは小さくそう呟いた。 穴をあける前に一応、ミルアは様々なものを透過できる視界で人の有無を確認していたのだ。その上でそこが貨物室だろうと辺りをつけた。 結果みごと大正解。密航に成功したわけである。 あとは地上に着くまで見つからないようにおとなしくしているだけだ。 ミルアとティファニアはそろって貨物室の一番奥にある貨物の間の小さなスペースに体を滑り込ませて朝が来るのを待つことにした。 夜が明けたのであろう。船が動きだし、その僅かな振動でミルアは目を覚ました。 隣を見ればティファニアが小さな寝息をたてている。 このまま何もなく地上につけばいいのだけど。と。 そう思ったミルアは、ふと貨物室の中を見渡す。 港に着いた時から気になっていたことだ。 内戦が終わり、新政府が樹立した今でもまだ他国との国交は正常とは言えない。 にも関わらず先ほどの港はどういう訳かにぎわっているように感じた。と、いっても行きかう貨物は武具や貴金属など、随分と偏っていたが。 実際、ミルアが見る分にはこの貨物室も貴金属がメインのようだった。中にはマジックアイテムと思われる何やら奇妙な力を感じる代物もある。 ミルアは首を傾げて、これら貨物の使い道を考えてみるがほとんど思いつかない。 ましな思いつきは精々「お金にかえる」程度だった。 しかし、どうにも、行先がガリアと言うのがキナ臭くて仕方ないなぁ…… ミルアがそう思った時、不快な音が耳に届く。 生理的な嫌悪感とでもいうのだろうか、背中を冷たい汗が伝ってゆく。 貨物室の壁の向こう。どこまで広がる空から空気を震わせる低い音が聞こえる。 そしてその音はこちらへとどんどん近づいてくる。 ミルアの目は貨物室の壁を透過してソレを捕らえた。そしてソレが今自分たちがいる船の四方八方から迫っていることに気が付いた。 囲まれたっ? ミルアがそう思い、ティファニアの手を掴もうとした時、激しい衝撃が船全体を襲った。 ティファニアは飛び起きて驚いたようにきょろきょろとする。 体の軽いミルアに至っては衝撃で貨物室の中を転がり、その先にあった貨物に背中をぶつけてしまう。 ミルアが急いでティファニアの下へ戻ろうとした次の瞬間、バキバキという音と共に貨物室の床からソレが突っ込んできた。 ソレは、アルビオンへ向かう際にマリー・ガラント号とイーグル号を襲った巨大な蜂だった。 その姿にティファニアが悲鳴をあげ、まるでそれ呼応するように次々と巨大な蜂が船底や壁を突き破りさらに貨物室に突っ込んでくる。 ティファニアの下へ駆けよろうとしたミルアの前に一匹の蜂が立ちはだかる。 ミルアは舌打ちをする。武器であるデルフは今現在ティファニアの傍の床に転がっていてミルアの手の届く範囲にない。 魔力刃で対応しようとしたミルアが身構えた時だった。バキバキと言う音が連続で周囲に響き始め、次の瞬間、貨物室が崩壊を始めた。 巨大な蜂が次々と船に突っ込んできて穴をあけていたのだから仕方ない事なのかもしれない。おまけに貨物室と言う性質上、それなりに重量がかかっているのだから。 しかしミルアにとって一番問題だったのは、その崩壊にティファニアが巻き込まれたことだった。 悲鳴をあげて空へと投げ出されるティファニア。 「テファっ!」 ミルアは声をあげると蜂の脇をすり抜けデルフを拾い上げると自らも空へと飛び出した。 一方のティファニアはそんなミルアに気が付くことなくパニックを起こしていた。自らの体を抱きしめるように小さくなりながらも泣き叫ぶ。 ミルアはティファニアへ声をかけるも周囲の羽音が五月蠅くてティファニアへ届かない。 とにかくテファの下へ行かないと。 ミルアがそう思った矢先、 「嬢ちゃんっ! 来たぞっ! 後ろだっ!」 「えぇいっ! くそっ!」 デルフの警告にミルアは珍しく悪態をつき体を捻り後ろを向くとデルフを構えた。 その直後、ミルアに向かって一匹の蜂が体当たりを試みる。 ミルアはデルフを大きく振りかぶり、勢いよく薙ぐように振るう。 その一撃は蜂の強固な外骨格に阻まれ、斬り伏せるという事は出来なかったものの、ガツンという音と共に蜂の体は大きく横へ弾き飛ばされた。 しかし落下中のミルアもその反動で蜂とは反対側へと飛ばされる。 手足のふりで何とか態勢を立て直したミルアへデルフが、 「嬢ちゃんっ! 次は上から三匹来るぞっ!」 このっ! しつこいっ! 今度は内心で悪態をついたミルアは背中を下に向け、体を上からくる三匹の蜂へと向ける。そして左手で槍を投擲するような構えを取った。 すると左手の平にばちばちと放電する光り輝く槍が現れる。 蜂の強固な外骨格を貫くためにいつもより魔力の込められた槍を、ミルアは力いっぱい投擲した。 風を切る音と共に一直線に飛んで行った光り輝く槍は、迫る三匹の蜂の内の一匹の額に深々と突き刺さり、次の瞬間爆発した。 爆風により残り二匹の蜂だけでなくミルアも吹き飛ばされる。しかしミルアは吹き飛ばされながらも、ティファニアの位置を確認し、そこへ向けへ飛翔する。 落下を続けていたティファニアを正面から抱き留めるミルア。 傍から見れば体の小さいミルアがしがみついた様にしかみえない。 む、胸が邪魔で背中まで腕が回りきらないっ! そんな焦りを抱きつつもミルアはティファニアの体を支えた。 その後ミルアは何度かティファニアに呼びかけて見るがほとんど反応が見られない。 恐怖のあまり気絶してしまったのだから無理もない。 ミルアも、ティファニアが気絶しているだけと気が付いて、ほっとする。 そしてミルアはここに来て、初めて自分たちが乗っていた船の惨状を見ることになった。 「酷い……」 「あぁ、確かにありゃ酷いな……」 ミルアとデルフは思わずそう呟く。 船は至る所に蜂が張り付いていた。ぱっと見ただけでも百匹近くはいるのではないのだろうか。 蜂の体は全身黒いため、船体を覆う様に張り付くさまは一つの大きな黒い塊だった。 そして張り付いた蜂たちによって船体の至る所を食い破られぼろぼろと崩れ落ちてゆく。 あれでは飛ぶことのできない平民の船員たちは助からない。仮に飛べたとしても蜂たちの餌食だ。 「嬢ちゃんよ……一応忠告しておくが助けに行こうなんて思うなよ」 デルフの言葉にミルアは小さくピクリと反応した。 そんなミルアの反応に気が付いているのか気が付いていないのか、デルフは続ける。 「今の嬢ちゃんの状況じゃ救出どころか戦闘もままならない。逃げるのが一番の選択だと俺っちは思うんだがね。幸いなことにあの虫どもはどういうわけか船にご執心のようだし」 ミルアはデルフの言葉に奥歯をぎしりと噛みしめる。 デルフのいう事をミルアは理解できた。ティファニアという護衛対象がいる中、消耗の激しい空中戦。おまけに相手は通常の刃物が聞かない強固な外骨格を有する巨大な蜂。その数も百近く。 そんな状況で戦闘どころか救出など高望みににもほどがあった。 「なぁ嬢ちゃん。こんな状況だ。自分と友達を優先してもいいんだぜ? 誰も薄情なんていわないだろうよ。少なくとも嬢ちゃんの周りにはそんな人間いないと思うけどね」 ミルアはほんの僅かな間、崩れゆく船を見つめると、急いでその場から離れてゆく。 「もし私にもっと力があれば何とかなったと思いますか?」 船や蜂が小さく見えてゆく中、ミルアがそう呟く。 するとデルフは小さく柄をかちゃりと鳴らし、 「さぁ、どうだろうな……どれだけ力があっても嬢ちゃんの体は一つだからな。何処かで限界がくるさ」 ミルアにとってデルフの言葉は理解できるが、それでも胸を締め付けられる思いだった。 もっと自分が強ければ。いや何処かに彼らを救うための選択肢があったのではないのか。 ミルアがそう思う中、不意にニューカッスル城での王党派の面々の顔が浮かび、胸にずきりと痛みが走る。 時折思い出したかのように自らの不甲斐なさに対する痛みがぶり返す。 私は、たぶん……きっと、これからもこの痛みとは縁が切れない。 「申し訳ありません」 ミルアから漏れたその言葉はいったい誰に対する謝罪なのか……ただただ、どこまでも続く空に溶けていくだけであった。 「おーい。ハーフエルフの娘っこ。いい加減に起きろー」 そんなデルフの呼び声にティファニアは目を覚ました。 自分が何処かにうつ伏せで倒れているのは理解できた。 顔をあげてみる。日の光に周囲が照らされる中、前方には森が、後ろに顔を向けてみれば何処までも続く水、水、水。 最初は大きな湖だと思ったティファニアだったが、鼻をつく塩の香りに、その大量の水が話に聞く海だと気が付いた。 そして、ここにきてふと気が付いた。 なぜ自分は一人なんだろう。ミルアは何処? そう思ったティファニアは初めて体を起こした。 「み、ミルアっ?」 ティファニアはそう驚きの声をあげた。 それはミルアがティファニアの体の下敷きになっていたからだ。ちなみにデルフはさらにその下にいる。 ティファニアは慌ててミルアを抱き起した。そして体中についた砂を払うとミルアを揺り起こそうとした。 「おい、娘っこ。今、嬢ちゃんを揺らすんじゃねぇ」 突然のデルフの言葉にティファニアは「え?」と疑問の声をあげた。 次の瞬間、ミルアがせき込んだと思ったら、それと同時に吐血する。 「えっ? ど、どうしてっ?」 突然の出来事にティファニアは顔を青くする。 しかしデルフは落ち着いた様に、 「とりあえず嬢ちゃんを地面に下ろしな。あと、体を横に向けといたほうがいい。吐いた血を喉に詰まらせちまうから」 その言葉にティファニアは顔を青くしたまま従う。 ティファニアはデルフに従ってミルアを横にすると、自らが身に着けていた指輪に視線を移した。 その指輪はエルフであった母の形見で、水の先住魔法が込められており、込められた魔力を消耗することにより、どんな怪我でもなおすことができるものだった。 その母にティファニアはよく言われていた。「困っている人を見つけたら必ず助けてあげなさい」と。 今、目の前で血を吐いているのは自分の友達になってくれた人だ。なにを躊躇う必要があるのか。 ティファニアがその指輪の力を使おうとしたとき、 「そいつはもしかして先住の魔法が込められているのか?」 デルフの言葉にティファニアは頷いた。 するとデルフは、 「そいつで治療するつもりならやめときな」 「どうしてっ!」 「嬢ちゃんの体は特殊でな。ほっときゃ大抵の怪我は治る。たぶん手足がもげても大丈夫なんじゃねぇかな」 デルフの言葉にティファニアは驚く。 そんなティファニアに構うことなくデルフは、 「それに、その指輪、お前さんにとって大事な物なんじゃねぇのか?」 「えぇ……この指輪は母の形見なの」 ティファニアが少し顔を伏せてそう言うと、 「ならなおさらだよ。その指輪を使って嬢ちゃんを治療しても、嬢ちゃんは後々その事を気にしちまうよ」 デルフにそう言われてティファニアは悩んだ。 本当にそれでいいのだろうか? と。 友達の為なら躊躇うべきではないのではないのか? しかしデルフのいう事も理解できた。 ミルアなら形見の指輪を使ったことを気にしてしまう。ティファニアにも何故かそう思えたのだ。 ティファニアは少し厳しい顔をして、 「本当にミルアに何もしなくてもいいのね?」 念を押すようにそう問うティファニアにデルフはかちゃりと柄を鳴らして答えた。 「普通の人間なら疲れたらぶっ倒れるところを、嬢ちゃんの場合、度を超えて血を吐くだけだよ」 やや、おどけたように言うデルフにティファニアは眉をひそめる。 実際には血を吐くほど体内がぼろぼろになっているのだがデルフはあえてその事を告げなかった。 ティファニアはミルアの口元の血を拭いながらあることに気が付く。 本来なら最初に気が付くべきことだったのだが、ミルアの状態が状態だけに忘れていたのだ 「ねぇ、デルフさん。いったい何があったの?」 「お前さんは何処まで覚えてるね?」 「えぇと……そう、貨物室が崩れて空に放り出されて……」 そこまで思い出してティファニアは身震いする。あの時の恐怖を思い出したのだろう。 しかしそこから先が思い出せなかった。 「あぁ、その後な、嬢ちゃんがお前さんを空中で拾い上げて、とりあえずその場から逃げたんだよ。どうしようもなかったしな。そこからは嬢ちゃんにとっては大変だったろうな。下は海。周りを見渡しても、どこまでも海。船がとっていた進路を頼りに陸地を目指して丸一日近く飛んでたんだよ。お前さんを抱えたまま」 デルフの言葉にティファニアは唖然とした。 ミルアはその小さな体で丸一日近く自分を抱えたまま空を飛び続けていたのか、と。 そして気が付いた。もしかして――― 「ミルアが今、こんな状況なのは……」 「お前さんの想像どおりだよ。無理して飛び続けた結果だよ。途中でふらついても決してお前さんを離さないんだから大したもんだよ」 「私、ミルアになんて謝ったら……」 「そこはお礼だろ? まぁ嬢ちゃんの事だ。『お礼なんていいです』とか言いそうだけど」 「それでも私はお礼を言うわ。友達だからこそ嬉しいもの。だからちゃんと私の気持ちを伝えるの」 ティファニアがそう言った時、ミルアが目を開いた。 それに気が付いたティファニアが口を開こうとした時、ミルアは不意にティファニアの髪に触れる。 「何処も、怪我はありませんか?」 どこか力なく問うミルアにティファニアは何度も頷き。 「私は大丈夫だよ。ミルアが守ってくれたから」 ティファニアはそう言い、自らの髪を触るミルアの手に、自らの手を重ねる。 「ありがとう」 ティファニアのその言葉に、ミルアはほんの僅かに、本当にほんの僅かに微笑むとよろよろと立ち上がる。 無論ティファニアは慌てて、 「だ、だめだよ。まだじっとしてないと」 そう言ってミルアの体を支えるティファニア。 ミルアはティファニアに体を支えられつつも、 「かといって、ここでじっとしているわけにもいきません」 「でもここが何処かすらわからんぜ?」 デルフがそう問うとミルアはフードをかぶり、 「まずは誰かに道を尋ねる。基本はそこからです」 ミルアはハッキリとそう言うが体の方はまだ調子が良くないようで左右にゆらゆらと揺れている。 見かねたティファニアは自らも、その特徴的な耳を隠すようにフードをかぶると、ミルアに背を向けて、その場にしゃがみ込んだ? 「テファ?」 ミルアがそう疑問の声をあげるとティファニアは僅かに振り返り、 「私がミルアを背負うわ。さっきミルアを抱き起した時すごく軽いなって感じたの。デルフさんと一緒でも大丈夫よ」 その言葉に僅かにとまどうミルアだったが、やがて諦めたようにおとなしくティファニアに背負われる。 やっぱり軽い。 ティファニアはそう思いつつもしっかりと立ち上がり、 「さぁ。行こう」 そう言って歩き出したティファニアの表情はとても嬉しそうだった。 ―――ぎちぎちぎち ――――ここよりあとがき――――読みやすさを考慮して改行箇所を増やして行間を開けてみました。ど、どうでしょうか……