大空を駆け抜ける翼はそこで眠りについてました。 いずれ来る戦場へと舞い戻る為に。 その身に刻印を刻み、新たな主を心待ちにして。 翼に魂はないのかもしれないけれど、魂のあるものが翼を身にまとうのをひたすらに待ち続けて。 そして、その身に刻んだ刻印が、私にある事実を告げていました。 才人は青い空の下、何処かわからない草原をデルフ片手に走っていた。 隣にはルイズがおり、才人の空いた左手を握り一緒になって走っている。 しばらく走ったところで沢山の巨大な虫に囲まれたミルアを見つけた。 ミルアが苦戦しているのは一目でわかった。 時折片膝をつきながらも襲い掛かってくる虫を双頭で殴り飛ばす。 だがそれも長くは持ちそうになかった。 ミルアを囲む虫の輪。それが徐々に狭まっていく。 だから、と二人は走る速度を上げた。ミルアのいることろに少しでも早くたどり着くため。助けられてばかりはもう嫌だと。 ルイズが杖を抜き、失敗魔法の爆発でミルアを囲む虫達を次々と吹き飛ばす。 才人はルイズの手を放すとさらに速度を上げルイズが撃ち漏らした虫たちを一刀のもと切り捨てていく。 「ミルアっ! 大丈夫か?」 「ミルアっ! 大丈夫なのっ?」 才人とルイズがそう問うと、ミルアはややふらつきつつも、 「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます。才人さん。ルイズさん」 ミルアがそう礼を言うと、 「何言ってるんだよ。ミルアは俺の相棒なんだから助けるのは当然だろ?」 「ミルアは私の従者なんだからね。こんな所で勝手に倒れられちゃ困るわよ」 才人は、にかっと笑みを浮かべて言い、ルイズはやや照れたように顔を赤くしていた。 「それでも……ありがとうございます」 ミルアはそう言って、今まで一度も見せたことのない、年相応の可愛らしい笑顔を才人やルイズに向けて見せた。 ―――ウルの月、ティワズの週、マンの曜日――― 才人が目を覚ますとそこはいつもと変わりないルイズの部屋だった。 窓から日が差し込んでおり既に朝であった。 才人が隣を見れば未だにルイズがくぅくぅと眠っている。 アルビオンでの出来事以降、才人はルイズのベッドで眠ることを許可されていた。 無論手を出せばどうなるかは火を見るよりも明らかなので才人は必死に思春期男子としての、いや健康的な男としての衝動を必死になって押さえていた。 ベッドは狭くなるが、せめてミルアを挟んで川の字なら何とかなるはずだ。と才人はミルアの帰還を心待ちにしていた。というよりも早く帰ってきてくれと祈っていた。 そんな時に夢を見た。 自分とルイズが一緒になって窮地に陥ったミルアを助ける夢。 最後に見たミルアの笑顔。 少なくとも才人はあんな笑顔は見たことはない。 何せ夢である。 そう夢だ。 そこで才人はあることに気が付いた。 夢という事は、ミルアを助ける自分たちや、ミルアの笑顔。あれはもしかして自分の願望なのか、と。 「うわ……まじで? えぇ~?」 才人はベッドの淵に座り込んで頭を抱えた。 ミルアを助けたいというのは納得できた才人だったが、あの笑顔は、あの反則的に可愛らしい笑顔は駄目だった。 そんな笑顔を望む自分が恥ずかしてしょうがない。というか大丈夫か俺? と才人はうんうんと悩む。 するとルイズも目を覚ましたのか、むくりと起き上がり目を擦る。 そしてぽつりと、 「何……今の夢……」 そう口にした後、すぐに才人同様に頭を抱え込み、これまた才人同様にうんうんと悩みだした。 どんな夢を見たのかと才人は尋ねるも、ルイズは顔を赤くしながらも絶対に夢の内容を語ることはなかった。 その日のお昼頃、才人はルイズを始め、ギーシュ、キュルケ達と馬にまたがって学園の外にいた。 「しかしタルブの村なんて随分と急な話よね」 キュルケがそう言うと、 「だが僕としては丁度良かったね。タルブと言えばワインが有名だ。現地で買ってきた上物をプレゼントすればモンモラシーもきっと許してくれるだろうからね」 と、未だ以前の二股の一件を許してもらえていないギーシュがやや、情けない声でそう答えた。 「ギーシュはわかるとして、なんであんたまでついてくるのよ?」 ルイズが不機嫌を隠すことなくキュルケに言う。ついでに睨み付けている。 そんなルイズの刺々しい物言いもどこ吹く風とキュルケは、 「だってミルアからの手紙によれば今タルブの村にはタバサもいるんでしょ? だったら私も行ってもいいじゃない? タバサは私の親友よ?」 キュルケの言い分を理解できるだけにルイズは、うぐぐとキュルケをにらみながらも押し黙る。 親友なら仕方ないと諦めるルイズの脳裏にちらりとだけイクスの顔が浮かぶ。しかしルイズはそれをぶんぶんと首を横に振って消し去る。 それを不審に思った才人が「どうした?」と聞くがルイズは、なんでもないと言い放つ。 「けどミルアも勝手だわ。アルビオンでは私たちに学園で待っててくれなんて言っておきながら、急に手紙でタルブの村に来てほしいだなんて。しかもイクスやタバサ、シエスタまでいるって話じゃない」 ルイズがぷんぷんとそう言うと、才人は苦笑しながら、 「イクスやタバサがいるのはちょっと驚きだけど、タルブの村ってシエスタの故郷らしいし、ちょうど休暇をもらって帰省してたみたいだな」 「しかも手紙によれば情勢の芳しくないアルビオンで、ミス・ロングビルから面倒を見ていた孤児を二人託されたって……あの子、アルビオンで何やってたのよ」 そう言って手紙を持つルイズの手はぷるぷると震えている。 事実ミルアはルイズに黙ってかなりまずいことをしている。無論離れていたので相談することもできなかったのだが、独断でやりすぎなのは間違いない。全て包み隠さずに話せば爆発魔法の一発や二発は免れないかもしれない。 そんなルイズを才人は「ははは」と乾いた笑みを浮かべながら見ていた。 しかし才人もミルアが孤児を二人も託されたという事には驚いていた。 「なんていうかさ、ミルアってお節介だよな」 ふと頭によぎった言葉を才人は口にした。無論悪気はない。ただ何となくそう思ったのだ。現にそのお節介にいろいろ救われている気もするし、何処かで誰かを救っているのだろう。 だが才人達は知らないし、ミルア自身も別段気が付いていない。 そのお節介は、色々なものを際限なく背負う無謀な行いだという事に。 タルブの村に着いた才人達を出迎えたのはミルアであった。 尻尾の様な後ろ髪を風に流しつつミルアは、ぺこりと頭を下げて、 「ようこそタルブの村へ」 そう言ったミルアの体がふわりと浮きあがった。 当の本人はきょとんとした感じだが無理はない。 ミルアの無事な姿を見て感極まった才人がミルアを抱え上げて、その場でくるくると回りだしたのだ。 「おぉい相棒……おれっちは無視かい?」 ミルアに背負われたままのデルフリンガーが何処か悲しそうな声をあげる。 しかし才人はデルフリンガーの存在に気が付くとさらに回る速度を上げた。 そんな才人の尻をルイズが蹴り飛ばし、才人はしぶしぶといった具合にミルアを下ろした。 「無事な姿を見て嬉しいのはわかるけど限度があるでしょう。恥ずかしいわね」 ややジト目のルイズから才人は目をそらしつつ、 「あはは……つい」 そう言う才人から視線をミルアに移したルイズは、 「とりあえず、あんたが元気そうでよかったわ」 何処かそっけない態度を装うルイズにミルアは一言だけ「ありがとうございます」と口にする。 そんなミルアを見て、ふと才人は妙な感じがして、 「なぁ、ミルア。何かあったのか?」 その一言にミルアはぴたりと動きを止めた。 普段から表情はほぼないと言ってもいいし、その挙動も小さい。しかし少なからず共に過ごした時間がある才人やルイズからすれば、再会したミルアの態度は何処か違和感を感じた。 何処となく強張っているそんな感じがしたのだ。 そんなミルアの態度にルイズは、 「べ、別に私はあんたが色々勝手にしたこと怒ってないわよ? そりゃあ、色々驚いたけど。ねぇサイト?」 「そうそう、手紙の内容に驚きはしたけど無事で何よりだし、俺もルイズも怒ってねぇよ」 ルイズと才人がそう言うもミルアは特に反応を示さない。 何か違ったのだろうかと、困惑気味に才人とルイズは顔を見合わせる。 ミルアは少し考えるようなそぶりを見せた後、 「取りあえず、私が預かった二人を皆さんに紹介しますね」 ミルアはそう言って才人達を伴って歩き出した。 「は、はじめまして。ティファニア・ウエストウッドといいます」 タルブの村にある小さな宿の一室で、イクスやタバサを交え、フードを被ったままのティファニアは才人達にぺこりと頭を下げる。 そして、そんなティファニアをまねるようにエルザもぺこりと頭を下げた。 「?」 下げた頭をあげたティファニアは才人やルイズが唖然としているのを不思議そうに見る。それはエルザも同様だった。 一方の才人やルイズは、その視線をティファニアのすさまじく大きな胸に注いでいた。 なにせティファニアの、頭を下げる、上げる、という一連の動きによりその大きな胸が思い切り大きく揺れたのだ。 音にすると「たゆんたゆん」とか「ぶるん」とかいう具合の。 才人は男の子としての本能的なものに逆らえず、ルイズはないものねだり的な、二人はそんな意味合いを込めてティファニアの胸を凝視していた。 ――――これは本物なのか? そんな馬鹿な! 才人とルイズの気持ちが見事にシンクロする。 しかし、そんな二人に、 「二人とも何を固まっているのですか?」 普段通りのミルアの冷めた声に、才人とルイズは現実に引き戻される。 「あ、いやゴメン。えぇと俺の名前は平賀才人。ハルケギニア風に言うとサイト・ヒラガって言うんだ。よろしく」 「わ、私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 にこやかに自己紹介をする才人とは対照的にルイズはティファニアに対抗するように胸をはる。 そんな二人に続く様にキュルケやギーシュもそれぞれ自己紹介をする。一応言っておくとギーシュもしっかりティファニアの胸を凝視していた。しかたない。男の子だもん。ギーシュだもん。 「ねぇ、ところで、あんたどうして屋内でローブ着たまんまで、おまけにフードまで完全着用じゃない。暑っ苦しいわね」 ルイズはそう言って訝しげにティファニアをみた。 才人達も同様の疑問を持っているのか、ルイズの言葉に僅かに頷く。 そんな様子にティファニアは困ったような顔をしてフードをさらに目深に被る。そしてミルアの方をちらりと見る。 するとミルアは何か考え込むように僅かに首を傾げていたが、やがて、 「皆さんには驚かないでほしいのですが……」 ミルアはそう言うとティファニアを見て、 「テファ、フードを取ってください」 ミルアのその言葉にティファニアは固まる。 それは無理もないことである。 ティファニアにとって、才人達は初対面の相手だ。しかも貴族相手に自分のハーフエルフとしての特徴的な耳を見せるのには抵抗があって当然である。 ティファニアが渋っていると、ミルアはティファニアの手を握り、 「大丈夫ですよ。私が傍にいます。それに彼らも私にとっては大切な友人です」 そんなミルアの言葉には大した根拠はない。 それはティファニアにも理解できた。 けれどティファニア、はなんとなく、どことなく「大丈夫。何とかなる」そんな気がしてきた。 自分の手を握るミルアの小さな手を少しの間見つめていたティファニアは、恐る恐る目深に被っていたフードを取り払った。 「エっ、エル――――」 エルフと言おうとしたルイズの口を背後からイクスが塞ぎ、同様に声をあげそうになったギーシュの口をミルアが跳びかかる様にして塞ぎ、キュルケの口を、タバサが杖でキュルケの後頭部を殴る、と言う形で塞いだ。 「取りあえず落ち着いてください。一切危険はありませんから。わかりましたか?」 ギーシュに馬乗りになったままミルアが三人に目を向ける。 三人ともミルアの言葉に黙って頷く。 一方の才人はわけがわからず、 「どゆこと?」 そう声をあげる。 「エルフは人間の天敵、宿敵みたいに見られているんですよ、ハルケギニアでは。なんでも過去の戦争において幾度となく敗北してきたそうですから。それとエルフなどが使う先住の魔法と呼ばれているものが、メイジの使う魔法よりも強力というのがあるようです」 ミルアがそう答えると才人は「へぇ」と声を漏らした。 日本出身の才人としてはティファニアは、耳の少し長くて胸の大きな美少女に思えなかったのだから、反応が薄いのも無理はなかった。 「な、なんでエルフがこんな所にいるのよ」 イクスから解放されたルイズがティファニアを睨み付けるようにしてそう声をあげる。先ほどからティファニアがその身を縮めているためか、恐怖心は何処かへ行ってしまっている様である。 どうもそれはギーシュも同じようで、 「話を聞く限り、エルフとは凶悪な種族とばかり思っていたが、実際見てみると……うん、なんだか芸術品のようだな。君もそう思うだろ?」 そう言って才人に同意を求めると、才人は腕を組み黙って頷く。 そんな二人にキュルケは軽くため息をつくと、 「とにかく事情は説明して頂戴」 そう言ってタバサにどつかれた後頭部をさする。 「まず、正確に言えばティファニアはエルフではありません。ハーフエルフです」 「ハーフ……人とエルフの間にできた子供なんだね彼女は?」 ミルアの言葉にギーシュが質問で返すと、ミルアはこくりと頷く。 「ミス・ロングビルが援助していたのが彼女なのね?」 続いてのキュルケの質問にもミルアはこくりと頷いた。 ミルアはちらりとティファニアの方を見た後、 「あまり詳しくは話せませんが、ミス・ロングビルや、そのご家族が貴族の名を失ったのは、テファとその両親を庇った為だそうです」 ミルアがそう言うとティファニアは、上目づかいでちらちらとルイズたちを見ながら、 「あの、お父さんが貴族で、お母さんがエルフで……それで、その……」 ティファニアがそこまで行ったところでルイズが片手を突き出して待ったをかける。 ルイズの行動にティファニアはやや驚いたような顔をする。 はぁ、と小さなため息をついたルイズは、 「別に詳しい話までしなくていいわ。なんとなく概要はわかるし。あんたの事情にそこまで踏み込む気はないから」 言葉の通りルイズは概要が理解できていた。 人間の宿敵ともされるエルフと情をつうじ、子までなす。ハルケギニアほぼすべての人間が信仰するブリミル教からすれば異端もいいところである。 なにせブリミル教徒にとって聖地とされる地はエルフによって占拠されているのだ。 そのような事情を考えればティファニアの境遇は簡単に想像がつく。 ティファニアの両親は異端とされ命を奪われたのだろう。 そして彼らを庇ったロングビルの一家も同様に。 「あ、あの……ありがとう」 ティファニアが消え入りそうな声でルイズに礼を言うと、ルイズは僅かに顔を赤くしてぷいっと、そっぽをむいた。 そんなルイズをやや首を傾げながら見ていたミルアだったが、ふいに才人の方を見て、 「才人さんに見てもらいたいものがあるのですが、ついてきてもらえますか?」 そう言ってミルアは才人の目を真っ直ぐに見た。 才人達がタルブの村にたどり着く二日前のこと。 「ねぇタルブの村に寄り道しようよ。ワインがおいしいんだよっ!」 シルフィードの背で突然イクスがそんな事を言い始める。 ミルアとしては特に問題はなかったのだがタバサが明らかに面倒そうな雰囲気を醸し出していた。 そんなタバサの反応に気が付いたイクスは、後ろからタバサを揺さぶりながら、 「ねぇタバにゃん、行こうよ。むむむ……反応薄いなぁ……そうだっ! おごるっ! ワイン数本おごっちゃうよっ!」 イクスがそう言ったことでタバサがやれやれと言う具合にシルフィードの進路を僅かに変える。 一人「やった」などとイクスが言っていると、タバサがぼそりと、 「ワイン十本」 「うぇっ? え? 十本?」 タバサの発言にイクスは驚いた様に確認するも、タバサは頷いて無情にもイクスの問いを肯定する。 「え、えげつない……タバにゃん容赦ないなぁ……というか私の財布大丈夫かなぁ」 半ば頭を抱えるようにそう呟くイクスに、その一連のやり取りを聞いていたティファニアは「あはは……」と苦笑している。 そんな感じで空を進んでいた一行はやがてタルブの村へたどり着いた。 そして、そんな一行を出迎えたのは里帰りをしていたシエスタであった。 「まさかミス・ニーミスやミス・タバサが来られるとは思いませんでした」 笑顔でそう言うシエスタに、タバサは杖でイクスを指して、 「コレの我が儘。ワイン、ワインと五月蠅い」 タバサの酷い言い草にイクスはただ一言「酷い」と漏らす。 シエスタも苦笑しながら、 「この村のワインは有名ですから。でも、そこまで求められると、この村の者としてとても嬉しく思います」 「楽しみ」 タバサの一言にシエスタは満面の笑顔を浮かべる。 そしてイクス達の後ろにいたミルアや、ティファニア、エルザに目を向けると、 「えぇと……ミルアさんと……」 シエスタが首を傾げてそう呟くと、ティファニアはフードを目深に被ったまま、やや伏し目がちに、 「えと、私はティファニアといいます。ま……ロングビル姉さんの仕事を手伝うために学院に……」 「まぁ、ミス・ロングビルの妹さんなんですね?」 シエスタがそう言うとティファニアは小さく頷く。 「こっちがエルザです。孤児なのですが、道中色々あって拾う事にしました」 ミルアがそう言ってエルザを紹介する。 吸血鬼故、日光が苦手なエルザはティファニア同様、フードをかぶったままぺこりと頭を下げた。 シエスタは、孤児と聞いて何処か複雑そうな顔をする。しかしイクスが何処か黙って遠くを見ていることに気が付いて、 「ミス・ニーミス、何か?」 そう尋ねるシエスタに、イクスは僅かにニヤリとして、 「ん、いや……あそこに見えるのは何かなぁって……」 そう言って、ある方向を指差す。 その指差す先を目で追う一行。 シエスタはその先をみて「あぁ」と納得したように、タバサやティファニア等は、なんだろうアレは? という具合に、そしてミルアは小さく「え?」と声をあげた。 ミルア達の視線の先にあったのは、明らかに神社を模した建物だった。 どうして異世界であるこんな所に、ただ似ているだけなのか。ミルアがそう思っていると、 「あれは私の曾お爺ちゃんの故郷の寺院を再現した物なんですよ」 「へぇ、そうなんだ。シエスタの曾おじい様は異国の人なのかな?」 シエスタの言葉に、イクスがそう問い返すとシエスタは頷き、 「はい。遠い東から来たと言っていました。あの建物には曾お爺ちゃんの宝物が安置してあるんです」 「ふぅん。宝物ね……それってどんなの?」 イクスの言葉にシエスタは困ったような顔をする。 「宝物といっても私たちには価値がわからないんですよ。ガラクタなんて言う人もいますし」 「興味あるなぁ。具体的にどんな感じ?」 言いよどむシエスタにイクスは軽く詰め寄る。 「えぇと……『竜の羽衣』といって、それを纏った者は空を飛べるらしいのですが、曾お爺ちゃんは色々言って結局空を飛んで見せたことはなかったそうです。でも曾お爺ちゃんは働き者で、一生懸命働いてお金を貯めて貴族様に固定化の魔法を『竜の羽衣』にかけてもらって、その『竜の羽衣』を安置するために自分の故郷の寺院に似せたあの建物を建てたんです」 詰め寄るイクスに対して、やや上体をそらしつつ答えるシエスタ。体が僅かにぴくぴくしているのは、その不自然な姿勢の為であろう。 「なるほど、なるほど」 イクスはそう言って、何故か満面の笑みを浮かべる。そして不意にその視線をミルアに移し、 「ねぇミルミル、興味持った?」 ミルアの顔を覗き込むようにそう尋ねてきた。 そんなイクスを、ミルアはちらりとだけ見て、すぐに視線を神社を模したであろう建物に戻すと、 「そうですね……興味はあります」 それを聞いたイクスは、うんうんと頷くと、 「というわけでシエシエ、その竜の羽衣っていうの見せてくれないかな?」 そう言ってイクスはシエスタにすり寄る。 シエスタは、そんなイクスの行動に苦笑しつつも頷いて、 「ミス・ニーミスがそこまでおっしゃるなら、私に断る理由なんかありませんよ」 そう言って一行を竜の羽衣が安置されている建物へと案内してくれた。 「おぉ……何やらすごいねぇ」 竜の羽衣をみたイクスはそう感想をもらす。 しかしタバサやティファニアは目の前の物がなんなのか全く想像もできず、きょとんとしている。 そんな中、ミルアは一人拳を握りしめていた。 深緑色をした、大空を駆け抜け戦うための翼。 いくつかの種類があるなかで「零式艦上戦闘機五二型」と思われるソレ。 A6M1計画に始まり、通称「ゼロ戦」と呼ばれ、大日本帝国海軍で使われていた戦闘機がミルア達の目の前に鎮座していた。