その日カールの元を一人の客が訪れていた。
「やあ、これは久しいなあラ・ヴァリエール公爵、サウスゴータへようこそ!」
「ご無沙汰しております、ミスタ・ストラビンスキー」
カールの屋敷に現れた壮年の男性をにこやかに出迎え、久方の再会を喜ぶ。
その客、ラ・ヴァリエール公爵は少し緊張した面持ちで挨拶を返した。
「しかし、いつ以来じゃろうなあ、ワシがこちらに来てからは初めてじゃから二十年近くぶりになるか」
「不肖の弟子の分際で、いつも手紙での挨拶ばかりで申し訳ない」
「弟子などと・・・三十年以上も前の事じゃよ。立派な貴族になられたな」
目を細めてラ・ヴァリエール公爵を見る。少年の頃の面影は其処此処に残っていて懐かしく感じさせた。
「しかし、公爵家の当主ともあろう者がお忍びで他国まで来るというのはただごとではないな、手紙に書いてあった娘のことか」
「はい、いくらやっても魔法を成功させることが出来ないのです。そこで先生にも話を聞けば何かヒントになることがあるのでは、と藁にも縋る思いで参りました」
「ふむ、しかしお主や奥方が長年見てきてできなかった物をワシがすぐに何か言えるとも思えんのじゃが・・」
「いや、実は手紙に書いてあった少年のことでこちらに来る決心をしたのです。なんでも魔法を爆発させた、とか」
「ああ、ウォルフの事じゃな。アレは吃驚したわい、普通に『発火』の魔法を教えておったらいきなり爆発したんじゃ」
ひっくり反っておったわい、と続け思い出してにやりと笑う。
「その子のことです。実は私の三女はただ魔法が成功しないのではなく、全て爆発を引き起こしてしまうのです」
「なんと・・・」
全ての魔法が爆発する、そんな聞いたことのない現象に絶句する。公爵令嬢がそんなことになっているとしたら、確かに問題であろう。
「ですから、私は先生に尋ねたいのです。その子の魔法は何故、爆発したのか、そしてどうやって成功するようになったのかを」
「あの時はたしかイメージの問題と言っておったが・・・ワシには解らんのだよ」
「解らん、ですか・・・」
「ああ、解らん、な。あの子の魔法は往々にしてワシの理解を超えておるのじゃ。」
「そうですか・・・・」
がっくりと落ち込んでしまった公爵を気の毒そうに見やる。
僅かな望みにかけこんな所まで来たことが無駄になってしまい、その横顔に浮かぶ徒労感は隠しようもなかった。
「その子は連れてきているのか?」
「はい、アルビオン旅行ということで連れてきました。今は宿屋に置いてきています」
「ではウォルフに直接その子の魔法を見せたらどうじゃろう。彼なら何か気付くかも知れん」
「その子にですか・・・その子は今何歳で?」
公爵が躊躇する。噂が立つのをおそれているのだろう。
「十一歳じゃ。大丈夫、賢い子じゃよ。余計なことは口にせん」
「ルイズと同い年ですか、ううむ・・・」
「ワシも一緒に見るが、おそらくワシよりはウォルフの方が何か解る可能性が高いと思う。あの子はわしら大人とは全く違う物の見方をしている」
結局翌日にウォルフを呼んでルイズの魔法を見せることにした。
「初めまして、ラ・ヴァリエール公爵、お嬢様。ウォルフ・ライエ・ド・モルガンです。よろしくお願いします」
翌日の午後、ウォルフはカール邸の中庭に来ていた。
最近はあまり来ることもなく、たまにお茶によるだけであったがウォルフにとってはいつもの場所である。
紹介を受けて挨拶を返したウォルフの前にいるのはトリステインのラ・ヴァリエール公爵と、長いピンク色の髪が特徴的なその三女である。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
素っ気なく応えるルイズは少し緊張しているようだった。
昨夜ヴァリエール公爵に聞いていたとはいえ、同年代の男の子に自分の失敗魔法を見せるのは初めてなのだ。
ウォルフはその鳶色の目に怯えを感じ取り何も言わなかった。
「ではルイズ、何か魔法を使ってみなさい。カール先生とウォルフ君が見ていてくれるそうだ」
「はい、お父様・・・・・《レビテーション》!」
ボカンと音を立ててルイズがねらいを付けた石の辺りが爆発して散った。
ルイズは悔しそうに下唇をかんでいるが、ウォルフは驚きに大きく開いた目を輝かせていた。
「実際に見ると話以上じゃの。どうじゃ、ウォルフ何か分かったか?」
「いいえ、今のだけではちょっと・・ミス・ヴァリエール、系統魔法も使ってみていただけますか?」
何故か目をキラキラさせ嬉しそうに話し掛けてくる少年に若干引きながらも、公爵を見上げ許可を得ると続けて魔法を使った。
「《発火》!」ボカン!
「おお!風系統もお願いします」
「《ウインド》!」ボカン!
「水系統も」
「《凝縮》!」ボカン!
「土も」
「《練金》!」ボカン!
カールはあまりにもデタラメな魔法に掛ける言葉もなかったし、ヴァリエール公爵も目元を抑えて俯いてしまっている。
ルイズは杖を握りしめた手を震わせ下を向いて今にも泣きそうだ。
そんな中で一人ウォルフだけが嬉しそうにうんうん頷いていた。
「何じゃウォルフ何か分かったのか?」
その言葉に公爵とルイズの視線が集まるのを感じながら、言葉を濁す。
「いえ。コモンマジック、系統魔法で全て同じように爆発していますね。・・ちょっとカール先生と二人で話をしたいのですが・・・」
「公爵とワシとは三十年来のつきあいじゃ、遠慮は要らん、ここで話せ」
「推測なので、公爵様達にとって余計な事を耳に入れてしまうかも知れません。ちょっとその前にカール先生の意見を聞きたいのです」
存外に頑なな態度で二人きりになることを要求するウォルフに折れ、公爵親子に断ると別室に向かった。
「で、推測とは何じゃ、話してみよ」
「恐らくミス・ヴァリエールの系統は、・・・虚無です」
「なっ・・・・・・」
「ほぼ間違いないと思います。私が虚無についてこれまでに立てた仮説に一致しますし、今観察した内容もその正しさを裏付けています」
「ど、どのくらいの確率でそうじゃと思っている?」
「九十九パーセント。いやあ、さすが公爵家ですねぇ、凄いなあ。伝説の系統を目にすることが出来るとは思わなかった」
ウォルフの研究では魔法の発動には魔力素という物がかかわっていることが分かっている。
これは四種類有り、それぞれが火土風水に対応している。これが大きく複雑になり自意識を持つようになった物が精霊と呼ばれる存在である。
しかし、この魔力素はもっと小さな存在、"さらなる小さな粒"から構成されているらしいことが分かってきて、それをウォルフは魔力子と呼んだ。
恐らく虚無の系統は、この魔力子を直接操る事を専門とする系統なのだろうと仮説を立てていたのである。
そして、この魔力子を直接操ることが出来るのならば、時間や空間そのものの操作が魔法で可能になると予測していた。
ウォルフが観察したところによると、ルイズは魔力素を操ろうとして、それを構成する魔力子を引っこ抜いてしまっているようだった。
そのため魔力素が魔力素として存在することが出来ず爆発を起こしているみたいなのである。
精霊がいたら皆殺しにしてしまいそうな魔法だ。
「虚無の系統と言ってもルーンなど伝わっておらんぞ。・・・・これは公爵に話して彼に判断してもらうべき事ではないか?」
「それでもいいですけど、今のところ推測だけですからね。信じない可能性もあります」
「ふーむ、お主はどうするつもりじゃ?」
「私に二三日貸してもらえませんか?コモンマジックなら出来るようになる可能性があります。それが出来るようになってから話した方が面倒が少ないのではないでしょうか」
「公爵令嬢をそんな猫の子を借りるように言うでない。お主成功させられるのか?」
「『ライト』とか『レビテーション』とかなら教え方によっては成功すると思います」
それからも話し合ったが結局ウォルフの言う通り公爵に提案する事にした。
そしてウォルフがルイズを連れてド・モルガン邸に行ったら公爵にも話し、納得してもらうのだ。
ルイズが魔法を成功する前に話して、頭から拒絶されたくはなかった。
「ああ、待たせたの、ちょっと話が纏まらなかったんじゃ」
「それで、先生の判断はどうなりましたでしょうか」
「ウォルフの言うことは正しそうでもあるんじゃが、何分推測が多くての、もっと慎重に判断すべし、と言うことになったんじゃ」
「と、言いますと?」
「ルイズ嬢をウォルフに二日ばかり預けてみんか?それくらいあればコモンマジックなら出来るようになる可能性が高いそうじゃ」
「理由はなしで、ですか・・」
「そうじゃ、済まんがいい加減なことを言うわけにはいかんのじゃ」
「ううむ・・・・ウォルフ君、率直に言ってくれたまえ、君は、ルイズの魔法をみてどう思った?」
公爵がウォルフに向き直り尋ねた。その体から発せられる覇気は、さすが一流のメイジと思わせる物だった。
「興味深いですね。他に誰も例がないというのがまた・・・ただ、私の魔法理論ではあり得る現象です」
「ふむ、ルイズの魔法が普通にあり得る、と・・・・・」
「普通、とは言いませんが。普通であろうと無かろうと、そこに"在る"現象は在るのです」
どうもハルケギニア人は自分が理解出来ないことを有り得ないと言って済ませてしまう傾向がある。
なぜそれが起きているのかを考えることを放棄してしまうのだ。
ルイズももう十一歳とのことである。
こんなに大きくなるまで虚無の系統である可能性を全く考慮せずに、ただ漠然と魔法の練習をしていたらしい事に愕然とする。
どう考えてもルイズの魔法が普通ではないことは一目瞭然だろうに、魔法が爆発するなんて"普通、有り得ない"事だからと考えることをやめてしまうのだ。
普通、有り得ないのであれば、普通ではない場合の可能性を精査すべきなのだ。
「・・・分かった。君の"魔法理論"でルイズを指導してみてくれ」
「かしこまりました」
改めてウォルフはルイズに向き合った。
ルイズは拗ねたように口を尖らせそっぽを向いている。
「じゃあ改めてよろしく、ミス・ヴァリエール・・・長いからルイズって呼んでいい?」
「いいんじゃない?あんた先生らしいから」
中々難しそうなお嬢さんである。
「じゃあルイズ、まずはオレの家に移動してちょっと魔法を使ってみよう」
「何で移動するのよ、ここでいいじゃない」
「うーん、ここはもうじきカール先生の生徒達が来るんだ。ほら君の魔法はその・・・刺激的だから」
「わわ分かったわよ!移動すればいいんでしょ!」
そう怒鳴るとルイズはウォルフより先に立って屋敷から出て行ってしまう。
ウォルフは慌てて公爵とカールに挨拶をして後を追うのであった。
何とか反対方向に歩いていってしまっていたルイズを引き戻し、ド・モルガン邸に着いた。
出迎えたサラにちょっと大きな音がするけど気にしないように言って、他の使用人にも伝えてもらった。
「さて、ルイズ。練習を始める前に確認をしておきたいんだが、君は今の自分の現状をどう考えている?」
「どうって?」
「トリステイン屈指の名門ラ・ヴァリエール公爵家の三女。一流のメイジである両親の間に生まれ、美しいピンク色の髪と愛くるしい顔立ちにすらりと均整の取れた健康な体を持ち、将来はかなりの美人になると思われる。公爵の話によると頭脳も明晰で努力家。優しく思いやりがあり、前向きな性格をしている」
「そそそそうね、そそそんな風に言われることもあるわね」
べた褒め、と言っていいウォルフの言葉に思わずルイズの頬が赤くなる。
「反面、魔法の才能はゼロ。何をやっても爆発し、そのたびに両親や周りの者に迷惑を掛けている。その原因は全く不明で、それ故将来的にも期待は持てず、使用人にも気を遣われる始末。・・・オレから見るとこんな感じだけど、君としてはどう?」
「なななんで、ああああんたなんかにそんな事言われなきゃならないのよ!」
目に涙を浮かべ、拳を振るわせながら睨みつけてくるルイズと目を交わし、続けた。
「ねえルイズ、君は本当に魔法が使えるようになりたい?君が魔法を使いたいって思うことは、とても辛いことなのかも知れないよ」
「ああああたりまえじゃない!わわ私がどれだけ魔法を使えるようになりたいって・・・」
とうとうポロポロと涙がこぼれてしまうがそれでもまっすぐにウォルフを睨み続ける。
その涙をウォルフは美しいと思う。
「魔法さえなけりゃ君はとても幸せな人生を送れた筈なんだよ?公爵様は優しいし、君が魔法を諦めるって言えばきっとそれでも幸せになれる人生を用意してくれると思うんだ」
「・・・私は貴族よ!そんな卑怯な人生を送りたいなんて思わないわ!」
「絶対に諦めないと言うんだね?」
「そうよ!私が諦めるのは、私が死んだときだけよ!」
存在の全てを掛けて少女が叫ぶ。
もう涙は止まっている。睨みつけて来るその瞳をどこか眩しい気持ちでのぞき込み、ウォルフも決意する。
「じゃあ、オレは約束しよう。ルイズ、オレは君が魔法を使えるようになる方法を知っている。君が諦めないのなら、君が魔法を使えるようになる、その方法を教えるよ」
「私、魔法、使えるようになるの?」
「大変だけど。これまでの考えを全部捨てなきゃならないんだ。これまでのルイズは魔法が使えないルイズ、それを捨てて魔法が使える新しいルイズになるんだ」
「魔法が使える新しいるいず・・・・」
ルイズの手を握り、至近距離でその鳶色の瞳を見つめながら小さい子供に言い聞かせるように語りかける。
ルイズもどこか呑まれたように見つめ返していた。
「そう、だからこれからオレが言うことを全部信じて欲しいんだ。この屋敷にいる間は"うそ"とか、"有り得ない"とか"そんな筈はない"とかは言っちゃだめだ。いい?オレが言うことをそういうもんだって思って魔法をイメージするんだ、できる?」
コクコクと頷くルイズ。どこか幼児化しているようだ。
暫くルイズを落ち着かせるために深呼吸をさせる。
「いい?魔法を使いたいって思うことが魔法を使えるようになる事じゃないんだ。自分のイメージと世界とを合わせるのが魔法なんだ!つまり魔法が出来るようになるには、世界を知ればいいんだ」
じゃあまず一つ教えよう、と石を一つ手にとり説明を始める。
「ルイズ、この石は手を離すと地面に落っこちてしまう。何でだと思う?」
「そりゃ、物は下に落ちるものだからよ」
「じゃあ何で月は落ちてこないの?」
「月にはきっと月の精霊がいて・・・」
「違うよルイズ。月には精霊なんていない。正解はこの世界には万有引力という物が存在するからなんだ」
「?万有引力?」
「そう、この世界の全ての物体にはお互いに引っ張り合う力が掛かるんだ。その大きさは物体の重さに比例し、距離の二乗に反比例する」
「???」
「全ての物は互いに引っ張り合っているんだ。地面に落ちると感じるのは地面の方が圧倒的に重いからで、月が落ちてこないのは月を引っ張る力と月が地面の周りを回って懸かる遠心力が釣り合っているからだよ」
「全てが引っ張り合う・・・」
「そう、それでその力を媒介する小さな粒がグラビトンていう素粒子なんだ」
「素粒子・・・」
「ブリミル様の粒理論ってあるよね、そのもっとも小さな粒を素粒子って呼ぶんだ」
「・・・」
「つまり、この石から出ているグラビトンを出さなくするようなイメージで魔法を使うと・・・《グラビトン・コントロール》」
ふっという微かな音とともに石が上空に舞い上がる。
やがて魔法を切られた石が地面に音を立てて落ち、ルイズはそれを口を開けて眺めていた。
「そそそんな魔法って聞いたこと無いわよ、おおオリジナルなの?」
「オリジナルって言うか、『レビテーション』に含まれる魔法の成分を抜き出しただけ。ものすごく単純な上にルイズには適しているって思ったから」
魔法の成分を抜き出すなんて聞いたこと無いわよ、と叫びそうになるが、思い返せばさっきから聞いたことのないことばっかりだった。
新しいルイズになるんだ、と繰り返しつぶやき、心を落ち着かせ考える。
「つまり地面と石との間に働いているグラビトンってやつを動かなくするイメージでいいのね?」
「そうそう、飲み込みがいいね。動かなくするって言うか、オレは出させなくするっていうイメージでやっている」
しばらくルイズは目を閉じて「新しいルイズ、魔法が使える新しいルイズ」とぼそぼそ繰り返し呟いていたが、やがて目を開き、眼前の小石を睨みつけた。
「やってみる。グラビトン・コントロールね、グラビトン・コントロール、グラビトン・コントロール・・・・いくわ!《グラビトン・コントロール》!」
ふらっと一瞬石が揺らいだと思うと、ふっという音とともに上空高くに舞い上がった。
「ルイズ、魔法を切って。石が上がりすぎて危ない」
そう横から声を掛けるが、ルイズは目を見開いたまま空を睨み絶賛魔法行使中である。
しかたないので手を伸ばし、杖を取り上げるがルイズはそれに気付いた様子もなかった。
やがて風に流された石が少し離れたところに落ちてきたので、ウォルフが『レビテーション』で回収した。
「はい、ルイズが魔法で飛ばした石。爆発してないよ」
じいっと石を見つめていたので杖と一緒に渡すと、その石を抱きしめたまま座り込んで泣き出してしまった。
暫く宥めていたのだが、まったく効果はなく泣くに任せるしかない。
こんなにすぐに魔法を成功する事が出来た、と言うことはルイズが心からウォルフのいうことを信じたと言うことだ。意地っ張りなだけで結構素直な女の子なのかも知れない。
ルイズの頭を撫でながらそんなことを考えていたら、
「ウォルフ、様、何、女の子泣かせて、いるんですか?」
背後から液体窒素よりも冷たい声がした。
「サラ、これはオレが泣かせた訳じゃなくて、彼女は初めての魔法を成功させた喜びの涙を・・・」
「先程は手を握りしめて何か囁いていましたよね?」
「見てたんだ・・いやいやそれは誤解だから。あれはただ彼女の心に言葉が届くように言い聞かせていただけ・・・」
「心に言葉が届くように・・・ですか」
何か何時になくねちっこく絡むサラにこれはだめだと判断し、逃げ出すことにした。
「あ、もうこんな時間だ。サラ、ミス・ヴァリエールをカール先生の所まで送ってくる。ほらルイズ、立って。帰るよ」
カールの屋敷に着くまでずっとルイズは泣いていて、その心にのしかかっていた重圧を思いウォルフは何も言わず隣を歩いた。
ただ、カールの屋敷についてもまだ泣いていたルイズと一緒にヴァリエール公爵の前に立ったとき、ウォルフは自分の判断を後悔した。
ルイズの涙を見たヴァリエール公爵のまわりの温度が下がり、大気中の水分が凝縮しだしたのだ。
ウォルフにとって幸運だったことは、公爵が攻撃する前にルイズが公爵に抱きついて誤解が晴れたことだ。
「魔法、まほ、魔法・・・・」
ズビズビと鼻を鳴らしながら公爵の胸でルイズは泣き続けた。