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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-5    初診
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:e96bafe2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/03 00:40
 ゲルマニアに広がる黒き森、その只中にそびえ立つツェルプストーの居城。様々な建築様式が混ざり合う城の中庭で、キュルケは母親と一緒にティータイムを楽しんでいた。
 夕方にはまだ早く昼食後というには遅いこの時間、いつもは午後の休憩がてら辺境伯と夫人の二人で過ごすのが常だが、何故だか今日はキュルケが前もってこの中庭に来ていた。

「あらあなた、お仕事ご苦労様」
「うむ。何だ、キュルケも来ていたのか。昨日は返事をしなかったが、公爵子息にちゃんと詫び状を書いてきたのか?」
「ええ。よく考えたらわたしも乱暴だったわね。もう十三歳なのだし、少しはお淑やかにした方が良いかしら」

 ひらひらとメイドに代筆させた手紙を振ってみせる。

「うむ、良い心がけだ。公爵子息とは縁がなかったが、お前程の器量なら縁談などいくらでもある。どれ、ワシが出しておこう」

 厳かに頷いてキュルケから手紙を受け取る。詫び状で公爵の体面を立てられるので、今回の件はこれでお終いだ。そもそも焦がして欲しいなどと口走ったのは向こうなのだから。
 前日は険悪な雰囲気になっていた親娘だったが、キュルケから折れたので辺境伯の機嫌も良くなりティータイムは和やかな雰囲気となった。

「縁談かあ……そう言えば、わたしの好みははっきりしているけど、ウォルフってどういう女の子がタイプなのかしらね。全然分からないわ」
「ウォルフちゃんってまだ十歳でしょ? そういうのは早いのかも知れないわね」
「十一歳になったみたい。父さま、ウォルフって結構有望株なんでしょ? いつかどこぞの子爵が娘を売り込んできたって怒っていたわよね」
「……ガンダーラ商会が拠点を置いた所はいずれも大きく発展し、おかげで税収も随分と上がっている。ガンダーラ商会ではなくウォルフの知識そのものに価値があると言う事すら理解していない馬鹿者どもが、商会を誘致する為だけにウォルフを抱き込もうなどと…勿論、そんなのは全て蹴散らしてやったわ」
「価値を知っている貴族がウォルフに手を伸ばしてきたら、父さまはどうするの?」

 キュルケの目が、悪戯好きのネコのように鋭く光り、その口は美しい弧を描く。辺境伯は娘の様子に胸がざわつくのを覚えたが、一般論で答えた。

「まずはワシに話を通す事だな。ゲルマニアにおけるウォルフの後見貴族たるワシに挨拶もせず、直接取り入ろうとする輩など許す訳にはいかん。もっとも、ワシの睨みがきいている中でそんな事をしようとする貴族などそうはおらんが」
「父さまの事を怖がらない貴族だったら? 例えば公爵とか、そういう有力貴族が自分の娘と結婚させようとしてきたらどうするの? 父さまもエリーザベトやロベルティーネをウォルフの辺境開拓団に送り込んでいるみたいだけど、同じような事する貴族が出たら、どうする?」

 エリーザベトやロベルティーネはツェルプストーの一族で、マリー・ルイーゼと同じくキュルケの従姉妹だ。ウォルフと年頃の近いこの娘達を辺境伯は何度か手伝いと称して開拓団へ送り込んでいた。
 一回二週間程送り込んでくる辺境伯の意図は明白だったが、彼女たちにはそれぞれ護衛数名も付いてくるので単純にメイジの労働力と見れば結構な量になる。メイジはいくらでも欲しいウォルフはありがたく受け入れている。戦闘もさせられず、専門的な作業も無理なので『レビテーション』で工事現場の手伝いをさせたり、木の根を掘り起こした際に出てくる虫を焼き殺す作業に従事させたりしている。

「たとえ公爵だろうと、ゲルマニアでワシを敵に回してまでそんな事をするものはいないだろう。何だお前、何か知っているのか?」
「別にー? じゃあ、ゲルマニアじゃなかったら? 元々敵だったら? 例えば、ラ・ヴァリエールがウォルフにちょっかい出してきたら、どうする?」
「……」

 にこやかに話す娘の前で、辺境伯はその状況を考える。ウォルフはまだまだ技術力は上がると言っている。モーグラは時速二百五十リーグくらいだが、時速五百リーグくらいで飛ぶ貨物船を近いうちに完成させるし、将来的にはもっと速度を上げるとの話だ。
 もしその将来にガンダーラ商会が拠点をトリステインに移したら、よりガリアやアルビオン、ロマリアとの距離が近いトリステインの方が発展し、ツェルプストーはその周辺地域の一つに成り下がってしまうかも知れない。それほどウォルフの持つ技術は脅威だ。マイスターメイジ全ての能力を結集しても未だその技術を理解し切れていないツェルプストーにとって、手放す事など想定も出来ない。

「トリステインの石頭どもが、ウォルフに手をのばす事など有り得ん。ガリアのラ・クルスでは有るのかも知れないが、トリステインではガンダーラ商会は蛇蝎のごとく嫌われておる」
「ふーん、じゃあ、どうしてなのかしらねえ」
「何がだ。何か知っておるならさっさと言え」

 頬杖をついてニヤつきながらこちらを見る娘に苛ついて、つい強く言う。ヴァリエールがウォルフに手を出すなんてあり得ないと思っているし、ガリアの方も風石の試掘で何カ所がボーキサイトの鉱脈を発見しているのに採掘の許可が下りないとウォルフがぼやいていた。とうていウォルフの技術を正当に評価しているとは思えない。ウォルフが根を張る場所はゲルマニア以外には無いはずだった。

「ルイズって言うんだって」
「誰がだ」
「ラ・ヴァリエールの三女。ウォルフと同い年の可愛い女の子で、今日ウォルフは呼ばれて会いに行っているそうよ」
「な……」

 僅かに狼狽える辺境伯をキュルケは頬杖をついたまま観察するように見ている。その目は本当に楽しそうだ。

「ちょっと、確認に行ってくる」
「いってらっしゃい。ウォルフはヴァリエールの用事が済んだら父さまの所に顔を出すって言ってたわ」
「……」

 辺境伯は憮然とした表情を作ると、キュルケは無視して妻に断りを入れ、執務室へ戻っていった。

「キュルケちゃん、いくら父さまが可愛いからってあんまりいじめちゃだめよ? あの人はわたしの旦那様なのですからね」
「……母さま、わたし、父さまを可愛いなんて思った事ないのですけど」
「ふふふ、あなたならきっとすぐに分かるようになるわ。きっとね」
「そういうものなのかしら。あ、そうそう母さま、この間討ち取ったワイバーンの皮で、母さまのブーツを作らせてみたの。ちょっと履いてみてくれる?」
「あらあら、嬉しいわね。あなたの分はちゃんと作ったの?」
「もちろんよ。母さまのとお揃いになるわ。ほらこれ」
「まあ、素敵。良い娘を持って幸せだわ、うふふ」

 辺境伯のことなど忘れたように、親娘二人きりにもどったティータイムは賑やかなものになった。



 一方、ツェルプストーのティータイムより少し前の時間、ウォルフは約束通り飛行機に乗ってラ・ヴァリエールを訪れていた。
 余計なトラブルがないか心配だった国境警備の竜騎士は、ウォルフを確認すると左右に展開して竜の頭を下げ敵意のない事を示し、国境で滞留させられる事はなかった。国境からそのまま案内する竜騎士に付いて真っ直ぐに飛べば、ラ・ヴァリエールの居城まではあっという間だった。
 先に着陸した竜騎士に続いて城の前庭に着陸したウォルフを出迎えたのは、ラ・ヴァリエール公爵本人だ。

「ラ・ヴァリエールへようこそ、ウォルフ君。長旅で疲れたろう、客室を用意した。まずはゆっくりと疲れを取ってくれたまえ」
「あ、いえ、三十分もかかっていませんから、お気遣いは無用に願います」
「そ、そうか。そう言えばあの飛行機とやらは随分と早く飛べるのだったな」
「ええ。今乗っているのは速度を重視した試作機ですが、市販しているモーターグライダーでもボルクリンゲンからここまで三十分は掛かりませんよ」

 トリステインでもモーターグライダーは入手して国防に使えるか研究したそうだが、加速性能、機動性、耐火能力全てで火竜に劣るため、その評価は低かった。
 火力がないので試験的に小型の大砲を搭載してみたら飛行性能が大幅に落ちたため結局取り外し、購入した機体は結局トリスタニアの上空警備に使用しているという。上空でも暖かく広いキャビンのおかげでこちらの用途では好評だそうだ。
 戦闘力としての竜には劣るが竜籠よりは実用的なようだ、そんな話を公爵としながら案内されるまま城内へと移動する。竜も戦列艦も航行できない高度を飛べるというのに随分と低評価だ。余所の国では爆撃機として相当数すでに配備しているというのに、何とものんびりとした話でウォルフは軽く溜息を吐いた。
 跳ね橋を渡って城門をくぐり、広い中庭を横断してと結構な距離を歩いた先ではルイズと、そのルイズによく似た髪色の女性がウォルフを待っていた。

「紹介しよう、妻のカリーヌだ。カリーヌ、こちらがウォルフ・ライエ・ド・モルガン殿だ。遠路はるばるサウスゴータから来てくれた」
「あ、いえボルクリンゲンで仕事をしてましたのでさほど遠くから来たという訳ではありません。初めましてミセス・ヴァリエール、お目にかかれて光栄です」
「初めまして、ミスタ・モルガン。私どもの娘のためわざわざお越し下さったとの事、感謝します」

 ラ・ヴァリエール公爵夫人はルイズとよく似た容貌で、今は笑顔の形になっているがその目は笑っておらず、鋭い光を放っていた。ウォルフはその眼光を多少不快に思いながらも受け流し、何の反応も返さなかった。娘をウォルフのような得体の知れない少年に診せる事を納得していないのかも知れない。
 公爵の家中統率能力を下方修正しながら横を見るとルイズがその公爵夫人の横で、指示を待つガーゴイルのように硬直して立っている。訝しげなウォルフの視線に笑顔を作って答える。

「ラララ・ヴァリエールへようこそ、ミスタ・ウォルフ。歓迎いた、いたしますわ」
「……どうも」

 噛んだ事には触れずに挨拶を返す。ルイズはとても緊張しているみたいだが、どうも隣の公爵夫人が原因のようだった。
 ルイズや夫人とのぎこちない挨拶が終わり、次は例の病弱な次女になるわけだが、公爵によると彼女は今日は体調を崩して自室で安静にしているとのことなので、早速移動する。
 


 その部屋は上流貴族の私室としても広く、統一された豪華で上品な内装と日当たりの良い大きな窓が印象的な居心地の良いものだった。何故か部屋の中には多種多様な動物たちがいて、それらが心配そうに窓のすぐそばに設置された豪華なベッドを囲んでいる。部屋の入り口にウォルフとルイズを残し、公爵夫妻はベッドに横たわるこの部屋の主に話しかけに行った。
 ウォルフはその部屋に一歩入ったとたんその異様な雰囲気に飲まれ、自然と足を止めていた。確かに部屋の中に動物が数十匹もいるのは尋常ではないが、ウォルフが異変を感じたのはそれとは関係ない部分で、部屋の中に滞留する魔力素の質だ。何者かの意志を帯びた魔力素がこの部屋に広がっていて、一種の結界のようになっている。
 系統魔法しか使わないメイジでは気付かないだろう希薄な気配だが、ラグドリアン湖の精霊や精霊魔法を行使するアルクィーク族と交流のあるウォルフにはわかる、精霊魔法の気配だ。
 その魔力素の異常の中心にいるのはこの部屋の主であるルイズの姉、カトレアだった。

「……エルフ?」

 ウォルフにとってあまりに異様なその状態に思わず言葉を漏らした。離れている公爵夫妻達は気付かなかったようだが、隣に立っていたルイズは目を丸くしてウォルフの方へ向き直った。

「ちょ、ちょっと、何でちいねえさまがエル――」
「ウォルフ君、来てくれ。紹介しよう」

 小声で詰問してきたルイズを遮ってベッドの脇から公爵がウォルフを呼んだ。ウォルフは仕草でルイズに黙っているように頼むと、呼ばれるままにベッドサイドへと移動した。

「こちらが今日お前を診てくれるウォルフ君だ」
「まぁまぁ……初めまして、不思議なお方。ラ・ヴァリエール公爵が次女、カトレア・イヴェット・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。今日はよろしくお願いします」

 間近で見るカトレアはルイズによく似た、しかし随分と柔らかい印象の女性で、血色は良いし親譲りのピンクブロンドの髪は艶やかに輝き、一見しただけでは病人とは思えない。穏やかな表情で優しげに微笑み、どこか諦観を含んだ目が唯一病人であることを思わせる程度だ。

「こちらこそ、よろしく。ウォルフ・ライエ・ド・モルガンです。若輩者ですが、普通のメイジとは違う考え方をするようなので今回呼ばれました」
「本当、普通の殿方とは随分違っていらっしゃるようですね。ルイズと同い年だという話でしたけど、ずっと年上のような気がします」
「ははは、年寄りじみているとはよく言われます。では早速ですが、いくつか質問に答えていただけますか?」

 カトレアはいたずらっぽい目をしてウォルフの事をとても興味深そうに見てくる。ベッドの上で座るその体は、病弱だという割にルイズや公爵夫人とは違い随分とふくよかな体つきに見える。顔や肩、ウエストなどは細いようだが胸の辺りのボリュームが全く別物と言った感じだ。
 公爵に許可を得て早速問診を開始する。いつからどのように具合が悪いのか、具体的な症状はどのようなものか、具合が悪くなる特定の条件などはあるのか、事細かく聞いていく。

「何でもないときに具合が悪くなる事もありますけど、魔法を使った後はかなりの確率で体調を崩している気がします」
「月のものは有りますか? また、周期は安定してますでしょうか」
「はい。大体一定だと思います」
「初潮後に病状について何か変化を感じた事はありませんか?」
「そう言えば、月経中は体調を崩す事が多いです……けど、それはそういうものなのでは?」

 ずけずけと質問するウォルフの事が気に入らないのか、問診中にまた公爵夫人から殺気が漏れてきたが、あくまで無視している。隣のルイズはかなり怯えているが。
 また公爵に断ってから魔法でカトレアの体を精査する。内臓や骨の状態、血液・リンパなど体液の流れ、魔力の流れ、ホルモンバランスなど魔法で分かる事を把握していく。
 特に腫れている臓器やおかしな箇所は見あたらなかったが、いくつか細かい癌があったので水の秘薬を使用して治しておいた。
 染色体検査のため口腔粘膜を採取し、最後に注射器で血液も採取して今日の診察はお終いだ。これらの検体を採取する時には公爵に説明を求められたので一応詳しく解説しておいた。本当は尿も採取しようと思っていたのだが、背後からのプレッシャーにより断念した。

「じゃあ、今日はこれで終了です。採取した血液などを検査して診断を下したいと思います」
「ありがとうございました、先生」
「う、先生は勘弁して下さい。正式な医者でも何でもないので」
「では、ウォルフさん、とお呼びしますわ」
「ええ、それでお願いします」

 カトレアは診察中もそれが終わっても、何が楽しいのか終始ニコニコと笑顔だった。ウォルフはそんな彼女に挨拶を済ませ、公爵達を促して部屋から出る。
 応接室と呼ぶにはあまりにも広いホテルのロビーのような部屋に案内され、そこでウォルフは公爵に見解を尋ねられた。

「どうだった、ウォルフ君。何か分かった事はあったかね」
「なかなか難しいですね。澱みがいくつか有りましたので、それは治療しておきました。カトレアさんの病状は原因不明の要因により、不定期に澱みが出来て時々それが重症化するというものでしょうか?」
「……その通りだ。どんな水メイジに診せても、毎回澱みを完治しているのにこんなふうに繰り返し澱みが現れるなどあり得ない事だと言う」

 澱みとは癌の事で、ハルケギニアでは癌は治る病気だ。少なくとも水の秘薬を用意できる貴族で癌で死ぬ者は殆どいない。風は遍在し、水は流れる。生命において生と死は常に一対で、それは水の流れに似ている。人間の体の中で細胞は常に生と死を繰り返しているが、死ぬ事を忘れた細胞が増殖を繰り返して体に悪影響を与えるのが癌という病気の本質。
 ウォルフの前世の医学では癌細胞とは遺伝子にその発生原因があるとされているが、ハルケギニアの医学では水の魔力の部分的な枯渇がこの病気の原因だとされている。故に水の魔力を与えてきちんと魔力が流れるようにすれば癌細胞は死滅する。水の魔力の豊富な水メイジなどでは自然治癒するのが普通でまず癌という病気にかかる事も少ない位だ。

「そもそもカトレアの症状の難しさはそれだけではない。一カ所の澱みを魔法で抑えようとすると直ぐに他の場所に澱みが現れるのだ。まるでイタチを追うようだと言われた事があるくらいだ」
「それは水の魔力が体内で凄く不安定になっているからですね。破けた布を直そうと、弱った布を無理に引っ張ったら他の場所が破れるようなものです。澱みだけでなく全身に魔力を流して補強する必要がありますね」
「うむ。いつも腕の良いメイジに完治して貰っているが、それでも長くは保たない」

 そもそもカトレアのように念入りに全身を精査して癌細胞を全て死滅させたのに一ヶ月も経たずに再発する事など、これまで観察された事のない症例なのだ。原因も分からなければ治療法も全く分からなかった。

「今のところわたしにもその原因が何であるのか、特定できません。一度帰って詳しく調べたいと思いますので、お三方もご協力お願いします」
「ん? 勿論協力は惜しまないつもりだが…」

 ウォルフの言葉に幾分落胆している公爵にウォルフは綿棒を取り出して見せた。ウォルフお手製の口腔粘膜採取キットだ。
 何か遺伝的な疾患があるのか、染色体を詳しく調べてみようというのだが、まだウォルフに生物学の知識が少ないので染色体やDNAを調べても病気の治療方法がわかるとは考えていない。しかし、こういった機会に知識を積み重ねる事は必要だと思っているし、原因の特定には繋がるかも知れないので頼んでみた。

「ちょっと口腔粘膜を採取させて下さい。公爵と公爵夫人、それにルイズの三名で結構です。何、痛くはありません、この綿棒で五、六回頬の内側を擦るだけです」
「別に、いいけど、ちょっと変態的なのが嫌だわ」
「原因が遺伝に起因するものか調べる必要があるんだ、変態って言うな。ほら、口を開けて、あーん」
「……あーん」

 ルイズが少しいやがったが、三人とも協力はしてくれた。公爵夫人に「あーん」した時には顔を真っ赤にしてこめかみをぴくぴくと痙攣させていて、かなり辛抱をしている事がうかがえた。ちなみに最後になったラ・ヴァリエール公爵にはそれまでの手順通りに自分でほおの内側を綿棒で擦って貰い、それを横で見ていた公爵夫人からはさらに強い威圧感がウォルフに向けて発せられた。
 染色体の検査などは精密な作業になるので、ボルクリンゲンで行う事にしてこの日はこれでいったん帰る。飛行機まで送るという公爵にウォルフは遠慮して建物のエントランスで別れたが、ルイズだけは話があるとの事で一緒に飛行機まで着いてきた。



「ウォルフ、ちいねえさまのことエルフってどういう事よ! いくらウォルフでも変な事言うと怒るわよ」
「ああ、つい出ちゃったんだ。オレ、ラグドリアン湖の精霊と話した事有るんだけど、その時と雰囲気が似ていたから。先住魔法使う人間みたいな存在ってイメージで」
「…ま、まあちいねえさまは精霊みたいに純粋な存在だから、仕方ないけど。エルフは無いでしょう、もう言わないでちょうだい」
「言わないって。つい出ちゃっただけだから」

 ハルケギニアでエルフみたいというのは獰猛で残忍な人間であるという意味になるので、ウォルフのあれは聞かれているとは思っていなかったために出た言葉だ。

「はあ全く、あんなの母さまに聞かれたら大変よ? 母さまってすっごいメイジなんだから」
「ああ、怖そうなお母さんでルイズも大変だね」
「……ウォルフあなたって相当な大物ね。そういえば母さまの殺気をあんなに涼しそうに受け流す人って初めて見たわ」
「オレ、一応公爵の客だったんだけど、それにあんな殺気ぶつけてくるってどうなの? 君のお母さんって日頃からあんな感じなの?」
「それは――いつもあんな感じね。自分に相談しないで、ウォルフみたいな子供にちいねえさまの事を任せた父さまの事が気に入らないのよ、きっと」
「まあ、実際に何言われたわけじゃ無いけど、もう少し大人になった方が良いんじゃないかな」
「……それで、母さまにもあーん、ってしたのね?」
「子供には子供の対応をってね。はは、こめかみにぶっとい血管浮いてたろ、見た?」
「怖すぎて、顔なんて見られなかったわよ……」

 ルイズは目を丸くしているが、ウォルフとしてはいくら気に入らないとは言え、貴族の妻なのだから夫の客にはもっと愛想良くしろよ、と思う。
 ラ・ヴァリエール公爵のような壮年の貴族が、政府の職を辞して社交界にもあまり出ず、自分の領地に籠もっているのはあの性格のきつそうな妻にも原因があるのかも知れない。

「子を守る母親ってのはナーバスになるらしいって思っておくよ」
「そうしておいて。わたしの系統を秘密にしておいて欲しいって頼んだのをウォルフが断ったのも気に入らないらしいの」
「普通に考えて秘密になんて出来ないだろ。ハルケギニアで虚無の系統の発現は王の帰還を意味する。私に出来る事じゃないよ」
「やっぱり、そういう話になってくるのよね。母さまはそれが嫌みたい」
「貴族たるメイジはその支配の根拠を魔法に置いている。始祖に授かった神の力である魔法を使えるのだから人々を導く地位にいてもよいってことだな。そして貴族達を統べる王はその根拠を始祖の血に置いている。元々ハルケギニアは神が始祖のために用意したものだからその子孫が受け継いでいくという理屈だ」
「うん…」 
「貴族達は六千年間始祖の血統を王として戴いてきた。君を王として戴くかどうかは貴族達が決める事なのだろうけど、王が王であることを隠して逃げるって事は許される事じゃないと思う」
「はあ、わかったわ。虚無の系統に生まれついちゃったんですものね、覚悟するわ」

 実際問題として、ルイズが虚無である事がトリステイン国内に広まると、様々な思惑が渦巻く事になるだろう。その中でルイズ自身が危険に曝される事を公爵夫妻は懸念しているのだ。

「実際の話としては君がトリステインの王位に即くって事は可能性が低いかな。アルビオンのウェールズ王子の所に嫁いでその子供の一人をアンリエッタ王女の子供と結婚させるってのが一番可能性が高そうだ」
「ちょっと、何よそれ。わたしの結婚って勝手に決められちゃうの? 一応、婚約者がいるのだけど」
「へえ、その歳でもうそんなのいるんだ。どんな相手?」
「隣の領の、ワルド様」
「そこの爵位は?」
「子爵」
「…そんなの君が虚無だって分かった瞬間に無かった事になってそうだけど。そもそも公爵令嬢の嫁ぎ先じゃないだろ子爵って」
「父親同士が友達なのよ。いいじゃない、子爵だって」

 ルイズの頬が赤くなっているのを意外な気持ちでウォルフは見た。普通爵位が下の貴族に嫁がせられるというのは貴族の娘にとって屈辱を伴うものだが、ルイズにはそれを感じている様子がなかった。
 しかし彼女の将来にはいろいろな可能性が考えられるが、そのまま子爵に嫁入り、というのは最も可能性が低そうだ。

「トリステインの女王になって貴族の半分くらいをぶっ潰せば子爵と結婚しても誰も文句を言わないかも」
「いやよ、そんなの。恐怖の女王みたいじゃない。大体、アンリエッタ様だっていらっしゃるのに王位だなんて…」
「可能性は色んな事が考えられるよ。今のところ虚無のメイジと言っても何か出来る訳でもないし、他の人は信じない可能性の方が大きいけど、覚悟はしておいた方が良いね」
「人ごとだと思って好き勝手言っちゃって…」
「いや、だって人ごとだし」

 丁度飛行機についたので話を終わらせて乗り込む。また翌日の来訪を約束してウォルフはツェルプストーへと飛行機を発進させた。


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