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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-12    ドライブ
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/24 21:55
 サウスゴータの屋敷の門をガンダーラ商会製の最新型自動車がくぐる。このモデルは今までの機種より馬車っぽさが減って自動車らしくなっており、車高も低く操縦性が高い。サスペンションシステムの性能向上で車高を落としても地面の凹凸による振動を十分に吸収することが出来るため、風石発電機への影響が少なくなったことにより実現できた車体だ。
 滑らかな動きで屋敷の正面に停まると運転手が降りてきてトランクを開く。メイド達が運んできた大きなスーツケース二つを積み込んで暫く待つと、ようやく建物からマチルダが出てきた。
 運転手と一つ二つ言葉を交わし、悠然と後部座席に収まる。運転手は後部ドアを閉めると運転席へと戻り、ゆっくりと車を発進させた。

 その様子を五百メイル以上離れた街中の建物から魔法具を使って見ている男達がいた。前日にガンダーラ商会のオーナーであるウォルフ・ライエ・ド・モルガンが久しぶりに城を訪れていたので何かあるかと思っていたが、早速動きがあったようだ。

「どうやら動きましたぜ。国王の騎士団にも教えてやった方が良いでしょう」
「あの大きな二つのスーツケース。まず間違いないな、おぞましい存在があの中に入っていることだろう」
「やはりここに逃げ込んでいたというわけか。まったく、太守ともあろう方が見下げ果てた行いだ。まあ、おかげでサウスゴータ家を潰せるのだがな」
「サウスゴータ家の財産は議会の管理物になるのだろう? まさか国王が全て没収とかは無いよな」
「王家がそんなことを言い出せるものか。我々が王家に反旗を翻したら大変なことになるのだ、めいっぱい気を使ってくれるわ」
「うむ。王家が気を使っている内に我々は王家の力を徐々に削いでいけばいいのだな」
「まずは王弟を処刑させることだ。当然理由を公表など出来るはずもないのだから、貴族達の信頼を著しく失うことになる。貴族達の支持を失った王家…これは楽しみだ」

 ここで密談しているのは貴族派を名乗る派閥の一団。王家を倒し、貴族による共和制を最終目標に掲げる彼らに秘密を嗅ぎ付けられたのがアルビオン王家にとっての不幸だった。

 貴族派に追い立てられるように王家は今回の事件を秘密裏に解決しようと奔走しているが、その王家にとって想定される最悪な結末とはシャジャル達が名乗り出てモード大公とエルフとの間の娘であるティファニアの存在が明るみに出る事。この場合、おそらく王家は存続を続けることが出来なくなる事が確実と思われる。
 その次に悪いと思われる解決方法がシャジャル達を見つけ出して秘密裏に始末し、モード大公も処刑するという結末だ。王にとって権力基盤を強化する存在である弟を失うという事態は避けられるものなら避けたいが、兄王に妾と娘を殺された王弟という存在は政治的に危険すぎるので処刑せざるを得ない。証拠はないとは言え、貴族派に弱みを握られるというのもこれが最悪に次ぐ結末と言える理由だ。証拠の有無にかかわらず、情報が漏れた場合モード大公の処刑という事実は噂に信憑性を与えてしまう。
 最も穏便な結末はシャジャル達が誰にも知られることなくサハラへと帰る、というもの。貴族達はまだ証拠を掴めてはいないので、王もしらを切る事が出来るしモード大公を釈放することも出来る。モード大公もシャジャル達がサハラへと帰ったのなら諦めるはずだろう。
 だがこの結末にはその過程で常に一つ目の結末の可能性が残る。途中で露見するリスクがある以上、その存続を第一とする王家としては次善の策として二つ目の結末を目指さざるを得ない。

 貴族派達は王にモード大公を殺させることによりその権力を揺るがそうとしている。王家が滅んでもそこらの公爵が出てきて王位に即いたのでは意味がない。王家の力を少しずつ削り、減らし、自分たちのものへとしていくのに、今回の事件は実に都合の良いものだった。



 マチルダを乗せた自動車は街中を軽やかに駆け抜け、やがてサウスゴータ家御用達の帽子店の前で停車した。道を行く馬車などの邪魔にならない端に停まるとマチルダは運転手を待たせ、建物の中へと消えた。停まっている自動車の後部座席はスモークガラスとなっており、中の様子は見えない。その事がいっそう追っている者達の疑念を確かなものにさせた。
 暫くして帽子のケースを抱えて戻ってきたマチルダを乗せてまた自動車は走り出し、今度は仕立屋の前で停車する。他にも靴屋やアクセサリー店など何軒も回った後、ようやく車は城門へと向かう。ロンディニウム方面の門である北門へ向かっているようだ。

「読み通り北門へ向かうみたいですな。街中で逃げられるとやっかいだ、やはり門から出てしばらく行った岩山で止めましょう」
「ああ、人目に付く訳にはいかないし、あそこなら逃げ場はないしな。いいか、確実に仕留めるのだぞ」
「たとえ相手がエルフといえど、我ら近衛騎士団引けを取るつもりはありませぬ」
「その意気だ。たのむぞ、差し違えてでも倒して貰わねば王家の未来はない」

 マチルダの車の後を付けるこの風石馬車に乗っているのは、王の特命を受けた警視長官と王家直属の近衛騎士団長。今回の情報が王家にもたらされて以来、首都警察を率いる警視長官自らが捜査を行い、近衛騎士団は捜査を手伝いつつ戦闘に備えてきた。
 首都の治安を守るために王家によって創設された首都警察の初めての大きな仕事が、首都ではない地での王家自身の不祥事の捜査になるとは、国王の予想もしていなかった事態ではあろうが、貴族達に知られずに事件を収拾させるためには仕方のないことだった。
 既にサウスゴータから出ている主要な街道にはそれぞれ二十名からの近衛騎士団を配置している。おそらく先行する自動車が予定しているポイントに行くまでには近衛騎士団は六十名に増えるだろう。
 現在後を追っている五台の馬車に分乗している騎士や警察官を入れれば百人近い戦力だ。二人のエルフと一人のメイジに対しては十分な戦力と思われた。



 マチルダを乗せた車はシティ・オブ・サウスゴータの城門をくぐるとグイッと加速した。続いて城門をくぐった風石馬車などを置き去りにしてアルビオンの大地を駆ける。
 運転席に座るのは前日の夜に開拓地から急遽ウォルフに呼び寄せられてマチルダの護衛に付いたモレノ。ウォルフに頼まれた時は渋ったが、任務が美女の護衛と聞くと二つ返事で了承した女好きだ。彼は久しぶりの訪問となるアルビオンを満喫しているようだった。

「いやいや、楽しいですな。辺境の地から呼び出されたかと思ったら、こんな美女と二人きりのドライブだなんて、ウォルフ様も中々粋なことをしてくださる」
「あんた、モレノって言ったっけ、随分と調子が良いけどロマリアの出身かい?」
「おやおや、まだろくに話もしていないって言うのに出身地が分かってしまうなんて、これは運命の出会いに違いない。ロマリアはサンテ・ペルテ島出身・風のトライアングル・モレノ三十歳独身です、よろしく」
「ちょっと、疲れちゃうから少し静かにしていてくれるかい? まったく、ロマリア男ってのはこんなのばっかりかい…」
「お疲れですか、それはいけませんね。マチルダ様のような美女には笑顔がよく似合う。ここは気の利いたロマリアの小咄を一つ…」
「多分それを聞くともっと疲れそうだからやめとくれ。それよりちゃんと前を見なよ、前」
「おっと」

 ルームミラーに映るマチルダに目を奪われて、危うく道行く馬車に追突しそうになる。軽くハンドルを切って躱したが、運転支援ガーゴイルに注意を受けた。

「ただ今の運転は 危険度 2 です。注意力が 低下している兆候が 見受けられます。自動運転に 変更する事を お勧めします」
「うるせえ。ガーゴイルのくせに人間様に意見してんじゃねえ」

 車体の中央、ダッシュボードの前に上半身だけという形で据え付けられたこのガーゴイルは、発電管理など電気系統の制御はもちろんの事、ナビゲートや自動運転などもしてくれる優れものだ。しかし、モレノは気に入らないようでしょっちゅう文句を言っている。
 ガリアの御者ガーゴイル制作者組合と共同開発したものを組合で製造、パーツとして輸入してきてガンダーラ商会の工場で自動車制御用の魔法基盤を追加して組み込んでいる。高価なものなのでコスト高の原因ではあるが、制作者組合と懇意になって以来素材の斡旋や人材派遣もして貰えるようになり、ガーゴイル用土石の入手やメイジ不足に困るような事は無くなった。 

「……ガーゴイル相手にムキになっているんじゃないよ」
「いえ、マチルダ様。こう言っちゃあ何だけど、こいつは失敗じゃないかなあって思うんですよ。交差点を突っ切ろうとすると勝手に減速するし、ちょっとスピード上げたくらいで一々注意してくるし、苛つきますわ」
「馬車よりスピードが出るんだから、安全対策をするのは当然だろう。気に入らないなら自動運転に任せればいいじゃないか」
「男のロマンを分かっていませんね。自分でハンドルを握るのが良いのですよ」
「だったら注意されないような運転をするんだね。さっきの交差点ではセグロッドの子供達が飛び出してきたし、今だって馬車に突っ込みそうになった。あんたがいいかげんだから怒られるんだよ」
「どっちもまだ余裕があったんですって。俺様の運転技術をこいつは分かってない。そこがむかつくんですよ」

 マチルダが注意してもまだブチブチと文句を言っている。ウォルフから信頼できる護衛を付けると言われたが、もう少しましなのはいなかったのだろうかとマチルダは嘆息し、窓の外に目を向けた。
 外は見慣れたサウスゴータの景色が流れている。もしかしたらしばらく見ることは出来なくなるかも知れないその景色を、目に焼き付けるように何時までも見続けた。

「おっとマチルダ様、前方で正体不明の騎士団が道を塞いでいます。いかがなさいますか?」

 そのまましばらく走った後、車を減速させながらモレノが聞いてきた。言われて前方見ると、確かにマンティコアなどに騎乗した一団が道を塞いでいた。五十人ほどはいそうな騎士達は全員金属製の鎧で武装しており、山賊などが出会ったら一目散に逃げ出すであろうと思われる偉容だ。

「いかがって、停まるしかないだろう」
「突破する、とかUターンして逃げる、とか皆殺しにする、とか選択肢があるかと思いますが」
「……直前で停まっとくれ。話を聞いてみるさ」
「かしこまりました」

 ゆるゆると走って部隊から一人前へ出ている騎士の横で停車する。マチルダは窓を開けて声を掛けた。

「いったい何なんだい、これは。ここは街道だよ、いったい何の権利があって占拠してるんだい?」
「こちらの自動車に不法行為の疑いが有りとの通報を受けている。捜査をするので乗員は外へでるように」
「あたしはサウスゴータ太守の娘だよ、誰かと勘違いしているんじゃないのかい?」
「勘違いなどしておりませんとも、マチルダ・オブ・サウスゴータ様」

 騎士は油断無く杖を構えたまま告げる。後方の騎士達も誰一人自動車から視線を外さなかった。

「……あんた達の所属は? 仮にも貴族の車を調べようってんだから高等法院か貴族院の捜査令状を持っているんだろうねえ?」
「我々はテューダー王家の近衛騎士団だ。緊急事態故、捜査令状は所持していない。これは命令ではなく、依頼だと認識して貰いたい。貴女もアルビオンの貴族ならば王家の依頼には従った方が賢明だと思うが」

 騎士が示す紋章は確かにテューダー王家のもの。王家の近衛がこれだけの数で一地方であるサウスゴータに出張って来ているのは異常なことだ。マチルダは肩をすくめると大人しく従うことにした。

「従うかどうかは依頼の内容にもよるさね。まあ、いいさ。モレノ、降りるよ」
「はいはい、ただ今」
「……賢明です。無駄な事はしない方が良いですな」

 しぶしぶ、といった風情でマチルダとモレノが自動車から降りる。騎士は相変わらず二メイル程離れた場所に立ち、油断する様子はない。

「それで、どうすればいいんだい?」
「後ろのトランクを開けるように。ミス・マチルダは立ち会ってくれ」
「構わないが、なんだか仰々しいね。モレノ」
「はいな」

 マチルダの指示でモレノが運転席のノブを操作し、後部のトランクを開ける。騎士達が移動して車から五メイル程離れた場所にずらりと並んで杖を構えた。
 そうこうしている内に街道を通りたい他の馬車が渋滞し始めるが、関係のないものは騎士に追い払われると慌ててUターンして逃げていき、その他の馬車からはぞろぞろと騎士や警官が降りてきて包囲に加わった。

「このスーツケースの中身を検めます。ミス・マチルダ、開けて下さい」
「女性の荷物を開けさせるなんて、一体どういうつもりだい。この事は王家に抗議するよ? 王家の態度次第では貴族院に訴え出ても良いくらいさ」
「捜査が終了したらいくらでも訴えて下さい。これは近衛騎士の職務で行っていることですから」

 大きく開けたトランクの前に移動し、騎士はマチルダにその中に鎮座する二つのスーツケースを開けるように要求してくる。貴族の女性の荷物を男性が検めるなど、紳士の国と言われているアルビオンではまずあり得ないような事態だ。さすがにマチルダはやんわりと抗議するが騎士に譲歩する気配は無い。

「あんた、名前はなんて言うんだい? 教えとくれよ」
「……アレックス・マクリーンだ。いいからさっさと開けろ」
「女の荷物を漁った男って有名にしてあげるよ、サー・アレックス。覚悟しとくんだね」

 アレックスと名乗った騎士は嫌そうに顔をしかめたが無言で更に荷物を開けるよう促す。マチルダはモレノに命じてスーツケースを降ろさせると鍵を開けて一歩下がった。
 ごくり、と後ろに立って杖を構える騎士達のだれかの喉が鳴る。皆一様に緊張している中、アレックスはスーツケースの前にしゃがみ込み、おもむろにその蓋を開けた。

「何だと?」

 スーツケースの中を占めていたのは色とりどりのドレス。旅行中の貴族の娘の荷物としては極一般的ではあったが、アレックスの求めていたものではなかった。慌ててもう一つのスーツケースも開くが、こちらも靴や化粧品やウィッグ等、普通の荷物で一杯だ。

「馬鹿な、ガセだったのか?」

 アレックスは荷物に手を突っ込んで引っかき回すが、そんなことをしてみても普通の荷物は普通の荷物のままだ。
 何人かの騎士が車に近付いて『ディテクトマジック』で念入りに調べているが、そちらも怪しいところは何もない。証拠がなければ近衛騎士団といえど何も出来るものではなかった。
 マチルダはモレノと目を合わせて肩をすくめると、アレックスの側に歩み寄り、話しかけた。

「あたしは明日魔法学院の卒業式でね。用意が色々あるから早いとこ寮に帰りたいんだが、まだ何か用はあるのかい?」
「あ、いや、問題ない。今荷物を元に戻す……」

 慌ててアレックスが道に散乱した衣装などをスーツケースに戻し始めるが、小さな白い布を手にしたところでその動きを止めて硬直した。妙齢の、貴族の女性のそんなものを本人の目の前で手にするなど、どうリアクションを取って良いのかまるで分からない。
 動くのをやめてしまったアレックスのすぐ横で、マチルダは『レビテーション』を唱えて荷物を全て宙に浮かせ、手早くスーツケースに詰め込んで蓋をした。
 アレックスは何も出来ずにその様を見ているだけだ。マチルダはスーツケースを車のトランクに再び収めると、いい笑顔でアレックスの方へ向き直り、その手に握ったままだった布を奪い取った。

「ああ、何というか、その。そ、そんなのが入っているとは思わなかったんだ……」
「女の衣装は珍しいのかい? そんなに欲しいんなら、これはくれてやるからさっさとあたしの目の前から消えとくれ」

 奪い返したその布を拡げると勢いよくアレックスの頭に被せた。白く輝くその布の名はパンツ。女性が下着として服の下に着るもので、男性が頭にかぶるものではない。

 この瞬間、アレックスに"パンツかぶり"という一生消えることのない二つ名が付いた。


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