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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-15    温泉にいこう
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/15 23:42
 時は少し遡ってマチルダが近衛騎士団と一悶着を起こしたその日、アルビオンを脱出したウォルフとシャジャル達は北寄りの航路を取って東の山脈へと向かっていた。途中何度も確認したが追ってくるものはなく、行き先を知られる心配は無さそうだった。
 これまでの緊張からか、シャジャル達親娘は出発して暫く経つと舟を漕ぎ始め、もともと一人分だったのを二人で座れるように改造した窮屈な席で折り重なるようにして眠っていた。

「シャジャルさん、ティファニアさん、起きて下さい。そろそろ目的地に着きますよ」
「ふわ…? あわわ、済みません、あの、どれくらい眠ってました?」
「五時間くらいですね。随分と気持ちよさそうに寝てましたよ」
「そんなに……済みませんでした。ほら、テファ、起きて」
「うにゅうう……ふあ……おはよございます……」
「おはよう。ほら、前を見てごらん、あの山脈の端に小屋が建ってるんだ」
「……うわあーっ!」

 ティファニアは最初まだ寝ぼけていたが、ウォルフに言われて外の景色を見たとたん息を飲んだ。雪を被った雄大な山脈が眼前に迫り、荒々しい岩肌は天に突き刺さりそうだ。
 飛行機に乗った時はなるべく外から見えないように身を屈めていたし、飛び立ってすぐに雲の中に入ってしまったこともあって景色はあまり見ていなかった。生まれてから今までほとんどの時間を屋敷の中で過ごしてきたティファニアにとって、こんな景色は想像すらしたことのないものだ。

「すっごい、すっごい、すっごい! お母さん、あれ何?」
「あれが山よ。サウスゴータでも見たでしょ」
「ちょっとだけ見たけど、あんなにとがって無かったわ。どっちが本当の山なの?」
「どっちも山よ。山にも色々あるの」
「こっちは凄い森……あ、下のは川ね? なんだか絵とは違う……」

 山に仰天し、森に感嘆し、渓谷を流れる川に驚愕する。ティファニアの驚きは止まるところを知らないようだ。

「凄いね! お母さん、外の世界って凄いね!」
「……そうね」

 ずっと娘を閉じこめていたことを思ったのかシャジャルは言葉少なに答える。やがて飛行機は目的の小屋を視界に捉え、高度を下げた。



「本当にこんな所にお家があるんだ……結構大きいけど、何でこんなところに建てたの?」
「明日紹介するけど、ここよりもっと東にいるアルクィーク族との交易の拠点にしたり、地質調査をしたり。最近は測量の拠点として使っていたな」
「火竜が結構飛んでいますけど、何か精霊との契約でこの地を守っているのですか?」
「魔法具で防御しています。何度も追っ払ったから、もうここには近付こうともしませんよ」

 火竜の湯に建てた小屋に着き、荷物を降ろす。長ければ数ヶ月はここで暮らして貰う予定なので結構な荷物の量だ。トラベルポッドと呼んでいる機体の下部に取り付けた着脱式の荷物入れを半分近く占有していた。

「ふーん、ウォルフさんって色々やっているのですね」
「まあ、何でも屋って感じになっている。じゃあ、ちょっと建物開けてくる」
「あ、わたしも行きます!」

 鍵を開けに行くだけなのにティファニアも付いてきた。荷物を持って建物まで行き鍵を開けて中に荷物を運び入れる。こちらの建物は最初に建てたドームハウスとは別棟になる石造りの平屋で、眺めの良い大きな窓を持つリゾート感溢れる建物だ。
 ウォルフが持ってきた大量の荷物をティファニアが運び込んでいる間に、ウォルフは窓の全面を覆っていたチタニウム製の雨戸を外し、窓を開けて風を通す。この建物は魔法により窓を開けても硫化水素ガスは入ってこないようにしてあるので室内を通る風は爽やかな高原の風だ。

「わあー――」

 室内に入ってきたティファニアが歓声を上げる。西の森を見渡す床から天井まである大きな窓は額縁のようだ。その額縁越しに景色を見渡せる一番良い場所には座り心地の良いソファーが置いてある。思わずティファニアはそこに座って景色に見入った。
 呆けているティファニアを放っておいて、ウォルフは室内掃除用小型ガーゴイルのスイッチを入れる。空中を浮遊して窓などを拭きつつハタキがけをするメイドロボⅠとチリやホコリを集めて拭き掃除するメイドロボⅡの二種類だ。どちらもアルミ削りだしのアームを持つメカメカしい造りで女の子の格好はしていないし、メイド服も着ていない。そもそも人間の姿すらしていないのだが、クリフォードにはその点でダメ出しを食らった。正直そこまで気を配ってガーゴイルの製作をしていられない。

 ガーゴイルが動き出したことを確認してウォルフは水回りなどの確認に向かう。ここは水源がないので水にはいつも苦労する。源泉はいくらでもあるので温泉水なら豊富なのだが。雨水を集めてトイレなどに使う中水槽に水が溜まっていることを確認して、上水槽には魔法で水を溜める。地熱利用の床暖房のバルブを開けて暖房を開始し、最後に源泉地帯に行って温泉の浴槽を洗って湯を張れば、宿泊準備完了だ。
 浴槽に湯が溜まるのを待つだけとなって宿泊棟に戻ると、まだシャジャル達は荷物の整理をしていた。

「あ、ウォルフさん、寝室が二つあるのですが、私たちはどちらを使えばいいでしょうか?」
「どちらでも……オレはどちらでも構いませんから、二人別々に寝たければツインの方を、一緒が良いならダブルの部屋にすれば良いでしょう」

 シャジャルに聞かれたティファニアがダブルを選んで、今日はウォルフはツインの部屋に寝ることになった。この宿泊棟は将来のリゾートホテル経営のためにモデルルームとして造ってみたのだが、中々良い雰囲気に仕上がっている。
 高い天井に真っ白な漆喰で固められた壁と落ち着いた色合いのウッドフローリング。ベランダはウッドデッキになっていて室内からそのまま出られ、天気の良い日はここで食事をするのも楽しい。テーブルや家具は趣味の良いデザインで統一され、スプリングの効いた大きなベッドと厳選された寝具が快適な眠りを約束する。
 小屋と聞いていたのでもっと粗末なものを想像していたシャジャルは恐縮しているほどで、ティファニアは好奇心をあらわにしてあちこち見て回っている。荷物をあらかた片付けた二人にウォルフは建物の使い方を一つずつ教え、最後に少し離れた場所にある温泉へと案内した。

「わああ……でっかいお風呂。あっちの建物は何ですか?」
「ああ、あっちは女湯として建てたものなんだ。露天風呂に入れないとか我が儘言う奴がいてね」
「ええー、ここで泳いだら気持ちよさそうなのに」
「えーと、今夜はオレが居るから、こっちは男湯って事で、明日以降なら好きなところに入って良いから」
「このお風呂に入りながら景色を見たいなあ……」

 どうやらティファニアはこの露天風呂が大分気に入ったようで、今すぐにでも入りたげにしている。シャジャルはそんな娘の様子を目を細めて見ていた。



 夜になり、アルビオンから持ってきた食材を調理して夕食を作る。シャジャルもティファニアもそこそこ料理が出来たので安心した。貴族の妾という立場の人だと料理をしたこともないということも結構多く、心配していたが杞憂だったようだ。
 夕食後、ウォルフはシャジャルに今後、どのようにして生きていくつもりなのか、突っ込んだところを聞いてみた。マチルダがそばにいると中々聞きにくいことだ。

「その……今のところは、何も考えられません。大公様を愛し、その愛の結晶であるティファニアを育てることが私の喜びでしたので…」

 そうなんじゃないかなとは思っていたが、案の定何も考えていない事が判明した。モード大公もシャジャル達の存在がばれると言うことを考えもしていなかったみたいだし、似た者カップルなのかも知れない。
 特技も何もないそうだし、金が稼げそうな特技は精霊魔法だけ、それもハルケギニアでは使えないものだ。

「今はテファと二人、何とか生きていければいいのですが、今後、どうしたらいいかとなると……」
「その、エルフの部族に帰るって事は絶対に出来ないのですか?」
「……無理です。私たちの部族にとって人間と関わる事が既に禁忌なのです。禁忌を犯した私は、おそらく、見つかった瞬間に殺されてしまうでしょう」
「……お母さん」

 不安げにすがりつくティファニアをシャジャルは愛おしそうに抱きしめた。その顔は穏やかで、優しい母の顔だ。

「サハラがダメとなると、もっと東方に行くか、さもなくばやっぱりハルケギニアで暮らすって事になりますね」
「そうですね。大公様が生きているのなら、ハルケギニアからはなるべく離れたく有りません。……魔法で耳さえ隠せば気付かれにくいとは思います。どこか、メイジの少ない村で親子二人ひっそりと暮らせれば良いのですけれど」

 ポロリとシャジャルの頬を涙が伝う。これまで彼女の世界のほとんど全てだった男、モード大公との別離が現実のものとなって認識できてしまった。
 ポロポロとまた真珠のような涙を零すシャジャルをこんどはティファニアが抱きしめている。
 ウォルフはこうしたしんみりとした雰囲気が苦手だ。泣いてる暇があったら笑えばいいのに、などと思いながらシャジャルが落ち着くのを待った。

「す、済みません、色々と尽力頂いてるのに、こんな……」
「お気になさらず。じゃあ、話を続けます」

 親子二人きりでここでずっと暮らしていくのが安全なのだろうが、その孤独にはきっとこの二人は耐えられないだろう。実際には人のいる地で暮らさざるを得ないのだろうが、その場所も、収入を得る手段も、何もシャジャルは考えていない。
 マチルダには二人の暮らしくらい援助することは難しくないだろうが、メイジの少ない田舎という条件で、親子二人が仕事もせずに暮らしているのは目立ちすぎる。
 二人の言葉遣いや所作、容姿や物腰などはとうてい農民には見えないものだ。普通の農村に移り住んでもすぐに噂になることは間違いない。

「とりあえず、オレがやっている開拓地なら、今移民ばっかりだから移住しても目立たないで済みます。シャジャルさんの職業を含めてマチ姉とも相談しながら、こちらで決めようかと思いますが、それでよろしいですか?」
「お任せいたします。マチルダさんにも、ウォルフさんにもご迷惑ばかりおかけして、本当に申し訳ありません」
「マチ姉はともかく、オレは下心がありますから、気にしないで良いですよ。ところで、シャジャルさん。モード大公が釈放されるまで、ここでアルバイトしませんか?」
「ア、アルバイト、ですか?」

 下心があると言われて驚き、アルバイトなどと言われて何のことか分からず、パチクリと瞬きをしてウォルフの顔を見詰めた。

「はい、短期の非正規労働ですね。ここでぼーっとしてても暇でしょうし、働いていれば気も紛れるかなって思うのですが」
「それは、構いませんが、ここでどんな仕事があるのでしょうか?」
「よくぞ聞いてくれました」

 別室に隠れたウォルフが紙の束を抱えて戻ってきた。それをテーブルの上に拡げ、シャジャル達に見せた。

「これは…地図ですね、この渓谷のものでしょうか。こっちの設計図は何になりますか?」
「ここの上流、二十リーグ程行ったところの地図になります。ここにダムを建設し、水路を介して南の草原を灌漑するという計画があるのですよ。とりあえず測量は済ませてあるのですが、この水路の基礎工事をしていただけませんか?」

 言われて改めて詳しく地図を見てみる。ダムの高さは百メイルを超えるし水路の長さが五十リーグにも及ぶ大工事だ。素人の自分に何かできるとは思えないが、何もすることがないというのも事実だ。
 詳しく話を聞くと、最初は岩場に溝を掘るだけで良いと言う。温泉地より南の斜面に印が付けてあるので、そこに水がゆっくりと流れるような傾斜をつけて水路を掘って欲しいと言う。岩場なので重機でどうこうするより魔法で加工してしまった方が早いかも知れないのだという。
 それを聞いてシャジャルも安心した。精霊魔法にとって土木工事は得意分野だ。エルフの町には高層建築が立ち並んでいる程で、その土地の精霊と契約しながら水路を掘り進むくらいならシャジャルにも出来そうに思えた。

「それくらいなら私一人でも出来そうですね。是非、やらせて下さい」
「ああ、良かった。一人と言わず、ティファニアさんとお二人でお願いしたいです」
「ええ? わ、わたし、魔法使えませんよ?」

 急に話を振られてティファニアは驚いているが、シャジャルはティファニアを見詰め、何か考えている風だ。

「そうですね、ここはもうハルケギニアではないのですから…テファ、杖を」
「杖? はい」

 差し出された母の手にティファニアは何の疑問も持たず自分の杖を渡した。

「《炎よ、燃えさかる炎よ。宿りて杖を、燃やし尽くせ》」
「えっ、わっ……」

 左手に杖を持ったシャジャルが詠唱を唱えて軽く右手を振ると、たちまちの内にティファニアの杖は炎に包まれた。
 シャジャルが手を離してもテーブルの上で宙に浮いて燃えていたが、やがて燃え尽きてウォルフがさりげなく用意した皿の上に灰となって落ちた。

「あ、あう……そりゃ、わたしは、魔法の才能がないけれど……」

 魔法が使えないなりに長年愛用してきた自分の分身とも言える杖を燃やされ、ティファニアは涙目だ。一応、『念力』とかなら成功することもあったというのに。

「あー、ティファニアさん、落ち込むことは無いと思うよ? 精霊魔法を習得するのに系統魔法の杖は邪魔らしいんだ。杖を燃やしたのは精霊魔法を習得するためだよ」
「えっ、本当? わたし、出来損ないなのに、精霊魔法使えるの?」
「あなたが出来損ないなんて、誰が言ったの? ハルケギニアで精霊魔法が使えても意味はないので教えなかっただけよ。本当は系統魔法を使えるようになって欲しかったんだけど……」
「本当? お母さん、本当にわたし、魔法が使えるの?」
「ええ。精霊魔法は精霊の存在を感じ、精霊と契約し、大いなる意志の下で行使する魔法です。その理とは別の理で行使される系統魔法は精霊の存在を感じる妨げになるようです。精霊に祝福されて生まれてきたあなたです。杖を無くせば精霊の存在を感じられるようになるでしょう」

 ティファニアは呆然としている。系統魔法も精霊魔法も才能がないと思っていたのに、精霊魔法は普通に使えると言われてもピンと来ないのだからしょうがないだろう。
 シャジャルはエルフの姿をしているティファニアが系統魔法を使えるようになることで、エルフと人間との融和を進めたいと思っていたそうだ。エルフが人間の中で普通に暮らし、人間が普通にサハラを訪れる、そんな未来を夢見ていたとのことだ。

「ところで、ウォルフさんは精霊魔法にもお詳しいのですね。テファに魔法が使えるようになると仰っていたのは精霊魔法の事ですか?」
「ティファニアさんは系統魔法も使えるようになると思いますよ。精霊魔法はそんなに詳しくはないですけど、最近知り合いのメイジが杖を燃やしてアルクィークの村で精霊魔法を覚えたんです。だからです」
「まああ……メイジの方でも精霊魔法を使おうとする方がいるのですね。それにテファがブリミル様と同じ系統魔法を使えるようになるなんて、素敵」

 ただの系統魔法じゃなくてブリミルと全く同じ虚無魔法なんですけどね、と言いかけたが、やめた。どうもシャジャルはブリミルのことをアイドルかなにかのように思っているようで、面倒くさいことになりそうだったからだ。いまもどこかウットリした目でティファニアを見ているし。

 とにかくまずは精霊魔法ということで、水路の工事をしながらティファニアは魔法を覚えるということになり、二人のアルバイトが決まった。



 深夜、ウォルフは寝る前に露天風呂へ向かった。夕方にも一度入っているが、満天の星空の下入るのは格別だ。一人静かに湯を楽しもうと思っていたのだが、外に出たとたんティファニアが追ってきた。

「ウォルフさん、どこ行くの?」
「ん、寝る前にひとっ風呂。寒いから中入ってな」
「……わたしも行く。ちょっと待ってて」 

 ティファニアはいったん建物に戻るとすぐに風呂の支度をして外に出てきた。聞くとウォルフと話をしたいと思って部屋に来ようとしたところだと言う。
 住むところを追われ、こんな地の果てまで逃げてきたのだ、色々と不安に思うこともあろう。ぽつぽつとアルビオンでの思い出などを話すティファニアに相槌を打ちながら温泉までの道を歩いた。

「じゃあ、オレこっちだから」

 露天風呂との分かれ道まで来たのでティファニアに断るが、何故か一緒に付いてくる。女子浴室はもう少し上の方に歩いたところにあるのだが。

「あの、わたしもこっちに入ってみたいんだけど、ダメ? まだお話ししたいし」
「……オレ、男なんだけど、気にしないの?」
「? お父様とも一緒に入っていたもの、気にならないわ」

 ティファニアは十一歳にしてはもう出るところが随分と出ている。とりあえずモード大公がアメリカだったら逮捕されるような父親だと言うことはわかった。
 ウォルフも最近思春期に入ってきて色々と微妙なのだが、温泉好きの一人としてこの素晴らしい露天風呂に入りたいという希望を断ることが出来ない。

「今日くらいかまわないか。おいで、一緒に入ろう」
「はいっ!」

 一応気を使って脱衣所ではティファニアに背を向けてさっさと服を脱ぎ、先に脱衣所を出てきた。
 月明かりが照らす中、湯面からはうっすらと湯気が上がり、幻想的な雰囲気を醸している。ウォルフはワクワクする気分のまま浴槽に近付くと、湯加減を見てかけ湯をし、ゆっくりと浴槽に入る。体を沈めながら「あ゛ー」と声が出るのは仕様だ。

「熱くない?」

 背後から声がしたので振り向くと、ティファニアが足の先でチョンチョンと湯に触れて湯加減を見ているところだった。
 当然ながら全裸で、斜め後ろから月の光を受けて白く輝くその姿はファンタジーとしか言いようがない程美しい。

「綺麗だな」

 思ったままに呟いて、その裸身を眺めた。全身はまだ子供らしく細いのに胸部の膨らみはもう女性としての存在を主張し、アンバランスでいながらどこかバランスの取れているその裸身は、幼いながら神々しいまでの美貌と相まって現実の存在では無いかのように思える。

「綺麗?」

 湯の中から自分を見詰めるウォルフと目があったティファニアは後ろを振り返る。そこには山裾から上がってきた双つの半月が大地を照らしていた。

「本当、綺麗!」 
「うん、綺麗だね」

 温泉の周りは溶けているが、山にはまだまだ雪が残っている。その雪が月の光を反射して暗い夜空に輝く様は壮絶な美しさで、ティファニアは初めて見た光景にまた息を飲んだ。ウォルフの台詞が棒読みだがそれを気にする様子はない。

 その後、あらためて湯に入ろうとしたティファニアが、かけ湯をしないでそのまま入ろうとしてウォルフに怒られたり、何気なく歌った歌が虚無の歌でウォルフに詰め寄られたりしたが、概ねのんびりと二人で温泉を楽しんだ。
 色々と話もしたが、一番盛り上がったのはマチルダの話だ。ティファニアの前ではレディとして振る舞っていたらしい彼女が、サウスゴータではおてんば姫と呼ばれ、アルビオン中に轟く剣鬼という二つ名まで持つという話は初耳とのことだった。



「あー、気持ちいいなあ。大分月が上がってきましたね」

 ティファニアは浴槽の縁に頭を乗せて大の字になった体を湯に浮かべ、星空を眺めている。おかげで色々とけしからんものがウォルフから丸見えになってしまっているが、気にする様子は無い。

「胸くらい隠しなさいよ、もういい年頃なんだから」
「あ、お母さんにお婿さんになる男性以外には見せちゃいけないって言われてたんだ、どうしよう」
「そうだよ、将来テファのお婿さんになる男にばれたら、決闘騒ぎになるかも知れないんだからな?」
「ええっ決闘する事になっちゃうの? じゃあ、一緒にお風呂入ったの、内緒ね?」
「うん、内緒にしておいてくれ、オレの社会的な立場の為にも」

 風呂に入っているだけだし問題はないと思うが、サラやマチルダあたりにばれたら色々と面倒なことになりそうだ。人はこうして秘密を抱え、大人になっていくものなのだろうか。

「ふふ、でも、こんな素敵な温泉に男の子と二人で入っているなんて、昨日までは考えもしなかったなあ……」
「あー、うん。アルビオンには温泉無いしね」
「わたしね? ずっと、ずっとお屋敷の外に出てみたいって思っていたの。お母さんにそれを言うと悲しそうな顔をするから、あんまり言えなかったんだけど」

 ティファニアは生まれてからずっと屋敷の中で育ったという。そう思うのは当然だろうと思う。

「だから、外の世界に連れ出してくれたマチルダ姉さんやウォルフさんには、とても感謝しているの……ありがとう」
「その内、何処にでも好きに行けるようになると思うよ。ハイランド、ラグドリアン湖、火竜山脈、綺麗なところはいくらでもあるし、ガリアやゲルマニアは勿論、トリステインなんかでも楽しい街はたくさんある……今は、我慢だな」
「楽しそう……山や川だって絵本とは全然違ったし、全部行ってみたいわ」
「山や川だってもっともっと色々あるよ。そこの川はずっと下った先で彷徨える湖って言う、時期によって大きさを変える湖に流れ込んでいるんだ。流れ込む辺りでは川幅ももっと広くなっていてね、ここらへんとはまるで違う川のようだよ」
「うう、行ってみたいなあ……」
「そこなら、明日アルクィーク族の村に行く前に寄る事も出来るな。行ってみる? 彷徨える湖の湖岸にはね、天然ガスが湧いていて泥の塔がいくつも……」

 どうも世界の話が好きなようなので、今まで行ったあちこちの話を詳しくしてあげるとティファニアは目を輝かせて聞き入り、更に世界周航の計画を話すと是非自分も連れて行って欲しいと頼んできた。ウォルフが話すこの世界の話はティファニアの冒険心に火を付けたようだ。

「クルーは何時でも募集しているさ。だけど、使えない人間は連れて行けないからな。明日から、魔法の練習頑張ってくれ」
「はい! お母さんに教えて貰って、絶対に使えるようになります!」

 勢いよくティファニアが答える。何にせよ目的が出来たのは良いことだ。アルビオンにいた頃はおどおどしていた目に力が入るようになった。
 テファ、と愛称で呼ぶ程には親しくなった少女の返事に、ウォルフは満足気に頷くのだった。


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