その日、サウスゴータ市議会議員コクウォルズ男爵、もといコクウォルズ子爵はアルビオン王国の首都ロンディニウムに来ていた。国内各地の貴族達の別邸が並ぶ一角、その中でも一際立派なモンローズ公爵の屋敷に呼び出され、恐縮した面持ちで公爵の前に立っていた。
「コクウォルズ君、今回の件で君は子爵になった訳だが、君たち南部の貴族が得たものに対して我々が得たものは少ないような気がするのだが、君はどう思っているのかね?」
「申し訳ありません。結局エルフの身柄を確保できなかったのが痛手でした。王家に決定的なダメージを与えられず、モード大公と太守を失脚させただけではたいした利益を得られませんでした」
肥満した体を億劫そうに動かすとモンローズ公爵は葉巻に火を付け、紫煙をコクウォルズ子爵に吹きかけた。アルビオンの貴族連合レコン・キスタの重鎮である彼が聞きたいのはそんな言葉ではなかった。
「ふん、君たちはサウスゴータ地方を実効支配する事に成功したがな。まだ文句はあるぞ、ガンダーラ商会を追いだしたのはどういう訳だね、彼らの持つ技術は有用だと言っておいただろう」
「ガンダーラ商会の工場を丸々手に入れようとしたのですが、法律の隙間を突かれ、逃げ出されました。工場の設備の内、いくらかはまだ手に入れる算段をつけているところですが」
「やれやれ、出来れば全て手に入れたかったんだがね。かのお方もガンダーラ商会の技術を手に入れる事には期待しているんだ。これ以上落胆させないでくれよ」
「はっ」
コクウォルズ子爵は平身低頭と言った様子で頭を下げる。
「まあ、結果的には王家に適当な情報を流してアルビオンを出て行くガンダーラ商会の船隊を襲わせたのは良い判断だった。結構な損害が王立空軍にあったそうではあるし」
「はっ。まさか王立空軍をはねのけてしまうとは思っておりませんでしたが。あちらには『業火』が護衛に付いたと聞いて様子を見ましたが、良い判断でした」
「そこでだ。戦力がダウンした今こそがねらい目だ。今こそ王家の威信を更に下げ、貴族達の心を王家から引き離すべき時だ。モード大公の所領や財産はほとんど王家の物となったので、王家そのものの財力は強化されていると言えるだろう。時を置けば被害を受けた空軍も回復してしまう。そうなる前に、何かいい手はないものかね?」
「……今からでもこちらでエルフの身柄を抑える事が出来れば、王家との勝負は決するとは思うのですが」
「出来るのかね?」
「我々はまだサウスゴータの娘・マチルダと行動を共にしていると睨んでいます。あの小娘がサウスゴータから逐電する時なら一緒に確保できるはずです。エルフを確保さえ出来れば王家など終わったも同然。教会に持ち込んで異端認定を受けさせ、モード大公の罪とそれを隠蔽しようとした王家の罪を公にすればそれまでです」
「ふむ。分かっているだろうとは思うが、ここが正念場なのだ。なんとしてもこの好機を逃す訳にはいかないのだよ。頑張ってくれたまえ」
「かしこまりました。詳しい作戦になるのですが――」
ガンダーラ商会やマチルダ、更にはエルフの戦闘力を考えると南部の貴族だけでは出来ない事もある。いくつか、作戦について公爵と相談して子爵は下がった。公爵の様子を見る限り、なんとか満足させる事は出来たようだった。
コクウォルズ子爵は自分の馬車に戻り、馬車をサウスゴータへと急がせる。馬車には息子のギルバートが乗っていたが、その存在を気にする事はなく、その口からは罵倒の言葉が次々に吐き出された。
「糞がっ! 何が、我々が得たものが少ないような気がするのだが、だ。元々何もしてないのだから得る物だって少なくて当たり前だろうがっ!」
「父上、まだ外の路上には人もおります。あまり大声を出されませぬよう」
「いいか、ギルバート、やはりモンローズ公爵はだめだ。自分の利益にしか頭にない二流の貴族だ。やはりお前の嫁にはノルマンベイ侯爵の息女が良いな。先週のお礼はちゃんと出したか?」
「はい。パーティーから帰ってその日の内には」
「うむ、それでよい。やはり貴族たる者交わるのは一流の人物でなくてはならん」
父上のお知り合いは二流の人物が多いようですね、と言いたくなるが、ギルバートは黙っていた。そんな事を言ってもこの父親は癇癪を起こすだけだという事はこれまでの経験で嫌という程分かっている。
「しかし、どうだ? お前は結構ガンダーラ商会に入れ込んでいたようだが、政治というものの力をまざまざと見せつけられただろう」
「……はい。まさか、あのガンダーラ商会が、サウスゴータから出て行かなくてはならなくなるなど、想像も出来ませんでした」
「ふふふ、社会の和を乱し、私利私欲に走った者の末路など似たような物だ。平民に媚びたところで意味はない。貴族への配慮を忘れてはならん」
サウスゴータで民衆の敬意と親愛の情を集めていたガンダーラ商会が、議会の活動により撤退を余儀なくされたのにはギルバートも驚いた。サウスゴータ太守の不祥事もあったが、ガンダーラ商会がここまで何も出来ずに排除されるとは思っていなかった。
父親であるコクウォルズ子爵はこれで以前の正しいサウスゴータへ戻ると言っているが、本当なのだろうかとギルバートは思う。彼はガンダーラ商会が出来る前の閉塞した町の雰囲気を覚えている。あれが正しい町のあり方で、あれに戻る事をよしとしている父親の話は、やはり納得できるものでは無い。
「では、父上。私はここの文具店に用がありますので、ここで失礼します。あまり無理はなさいませぬよう」
「うむ。しっかり勉強するように。あと、学院で大事なのは人脈を作る事だ。人付き合いはしっかりな」
「はい。失礼します」
ギルバートはこれ以上父親と一緒の車内にいる事が耐えられず、学院の寮へ向かう乗合馬車がある駅で父親の馬車から降りる。
走り去る馬車を眺めながら、試合では遂に勝てなかった幼なじみを思い出した。一体何があったのか、彼に尋ねてみたいものだと思うのだった。
そんな動きをつゆ知らず、ウォルフはサウスゴータのド・モルガン邸、翌日からは議会の管理下に置かれるこの生家で久しぶりに父と兄に再会していた。護衛任務の合間であり、チェスターから後一便で全ての資材を運び出せる目処が立ったウォルフは幾分リラックスして家族の無事を喜んだ。
「父さん、災難だったね。無事で良かったよ」
「ウォルフ、済まん。お前達を平民にさせてしまった」
「そんな事気にしてないから、父さんも気にしなくて良いよ。まあ、人生こういう事もあるさ」
「そうそう、ウォルフの言う通りだよ、父さん。ここから這い上がるのが男ってもんだろう」
「……あれ? 兄さん随分元気そうだね。落ち込んでたって聞いてたけど」
「何を言っているんだウォルフ。何時までも下を向いちゃいられないだろ。俺はもう歯を食いしばって歩き始めているぜ」
「そ、そうなんだ」
「……ウォルフ、クリフはマチルダ様に慰めてもらったんだ。一瞬で立ち直ったよ」
「ああ……」
「ははは、そろそろ立ち直る頃合いだっただけだって」
当初酷く落ち込んでいたクリフォードも、訪れたマチルダの「一緒に平民になっちまったね」との言葉で立ち直った。それこそマチルダがびっくりする程素早い立ち直り方だった。
父と兄が笑っているのを見てウォルフも安心した。ド・モルガン家はいつも明るかったが、この状況でこれなら心配は要らないだろう。二人がこんな目に遭ったのはウォルフやマチルダのとばっちりだと言える。少なからず責任を感じていたウォルフにとってこの明るさは救いだった。
ガンダーラ商会がサウスゴータから撤退する最後のフネは、ウォルフがこの旧ド・モルガン邸に建てた方舟になった。元はただの倉庫だがチタニウム合金製のモノコック船体を持ち、十分な強度があるし、船腹が開いて大型の荷物を積み込めるので普通のフネには積み込みにくい設備や長尺物などを陸路ここまで運び、積み込んでいた。ここまでの道中では議会の連中から嫌がらせを受けたりしたが、街の人達の助けもあり、無事に輸送する事が出来た。五メイル進むごとに検問を受けたりしていたのだが、役人達は市民から投石の集中砲火を浴び尻尾を巻いて逃げ帰った。
方舟はもしかしたら受けるかも知れない襲撃の事も考えて、完成済みの船外機を四機舷側に取り付けて高速で飛行出来るVTOLに改造した。プロペラの向きを水平から垂直まで変化させる事が出来るのがポイントで、この機構のおかげで離陸がスムースに行える。廃船にする予定のフネから登録票を剥がしてきて貼り付けたので、法律的にも立派なフネとなった。
既にリナがある程度作業を済ませていたのでウォルフは取り付け部位の補強と搭載作業をしただけであっという間に改造完了だ。軽く試運転をして早速飛び立つ事にした。風石が積んであるので最悪一機でもエンジンが動いていたら飛行できるので気が楽だ。
ニコラス達はウォルフの手伝いをしてくれていたが、作業が終わると親子三人地上に降りてきて、長年暮らした屋敷を眺めた。クリフォードとウォルフにとっては生家であり、ニコラスにとっては苦労して手に入れた初めての屋敷だった。それぞれの思いがあり、やはり最後はちょっとしんみりとした。
「んー、じゃあオレは行くから父さん達も気をつけて」
「おう、お前も気をつけろよ。そっちのフネには我が家の全財産が載っているんだからな」
「うん、母さんも待っている。ドルトレヒトで会おう」
ニコラス達が見守る中、ウォルフが乗り込んだ方舟は六年間据え付けられていた支柱から解き放たれ、空に浮かんだ。作った時はまさかこんな事になるとは微塵も思っていなかったが、人生何があるか分からないものだ。
励起させた風石と、四機の風石エンジンの力により方舟はぐんぐんと高度を上げる。議会に言われたのか竜騎士が追ってきたが、特に何をする事もなく、高度が六千メイルを超えたら地上へと戻っていった。
次第に遠ざかるサウスゴータの街をウォルフは甲板から見詰める。転生を経験したウォルフといえど、故郷を追われるのはやはり辛いものだ。二度と行く事は出来ない日本よりはましと自分に言い聞かせながら何時までも五芒星の形を見詰めた。
上空八千メイルまで上がるとプロペラを水平にして飛行する。先にチェスターの工場を出ていた最後の船団にはすぐに追いついた。飛ぶ事を想定して作っていない船体はバランスが悪く、風石を併用しないと安定しないが、ただ飛ぶだけならば飛行に問題はないようだ。ウォルフは雲の中に隠しておいた自分の飛行機を呼び寄せると移動し、また警備体制に就いた。
これまでエルビラと交代でアルビオンを脱出する船団の警備をしてきたが、結局三度目に空賊を装った艦隊を撃破してからは一切手を出してくるものがいなくなった。もう何度もフネがノーチェックで出国している訳で、ガンダーラ商会がエルフを匿っていたとしても既にアルビオンを出ている事は確実な訳なのだから今度こそ諦めて欲しいと思う。
今回もちょっかいを出してくるものは無く、ゲルマニアへの最後の航行は平穏なものだった。
一方のクリフォード達は議会の役人に屋敷を引き渡し、マチルダ達と合流してトラックの連隊にてアルビオン東部の町、ノビックを目指した。この連隊が運ぶのが最後の荷物で、チェスターの工場は綺麗に空となった。明日、議会の連中が略奪に来るのだろうが、彼らが手に入れるのは空の建物だけだ。
このトラックにはチェスターにあった編み機の内フネに積みきれなかった小型のものや資材が積んであり、ノビックでまた一部の工場を始めるために運んでいる。撤退の過程でアルビオン王家とも対立してしまっているので、工場の再開は未定となってしまったが、今のところ最初の予定通りに行動している。工場と一緒に移住する予定だった工員も同行していて、ニコラス達はその道中の護衛と言う訳だ。合流した時にはそろそろ夕刻となっていたが、今夜中には護衛任務を終了し、ニコラス達もノビックを発ってゲルマニアへ向かいたいので道を急いだ。
見張りを兼ね、クリフォードはマチルダとトラックのコンテナの上に登り、周囲を警戒しながら話をしていた。
「うーん、じゃあ、クリフはガリアで魔法学院に入り直すので決定かい」
「先生の話では一学年の時の単位は認定されるだろうって事だから、あと二年くらいなら良いかなって思ってさ」
「別に魔法学院なんて行かなくても良いんじゃないかい? あたしも二年次以降はあまり習う事がなかったくらいだったよ?」
「うん。でも、ウチは母さんが魔法学院を途中退学しているからさ。あまり話したがらないけど、息子には卒業して欲しいって思ってるみたいだから」
「……ああ、それは行くべきだねえ。しかし、意外だね。あのエルビラがそんな面もあるんだねえ」
「母さんは魔法はあんなだけど、ウォルフとは違って割と普通だから。魔法学院卒業していないって事で、色々悔しい思いもしたみたい」
「よく分からないけど、世間ってのはそういうものなのかね。でも、二年かあ……それまでまた離ればなれなんだね……」
「マチルダ様……」
「……様ってつけるのはよしとくれって言っただろ? 過去は関係ないし、先の事は分からない。だけど今は、身分なんて無い同じ平民なんだ」
「マ、マママ、マチルダ」
「何だい? クリフ。ふふ、初めて名前だけで呼んでくれたね」
「マチルダ」
「ふふ、だから何だい? クリフ」
こんな感じで、甘ーい雰囲気満点な二人だが、油断はしていなく、その気配に気付いたのは二人同時だった。
「クリフ」
「うん。父さんに風で伝えた」
「モレノ、上がってきとくれ」
「……少々、お待ち下さい。ちょっとお二人が甘すぎて胸がもたれてしまって……」
「ななな何盗み聞きしてるんだい! いいからさっさと上がってきな!」
モレノはふざけた事を言っているがすぐにコンテナの上に上がってきていた。マチルダ達の横に立って後方を睨む。即座に使い魔の烏を送って情報収集させた。
「風石馬車……十台くらいですね。このトラックなら速度を上げれば振り切れそうですが」
「……この先もずっと道が細い。伏兵がいたら挟み撃ちにされてしまう。工員達の安全を考えると、乱戦は避けたいんだけど」
「それでは各個撃破しましょう。後ろのは私が始末します」
「頼めるかい?」
「はい。すぐに追いつきますので、警戒しながらゆっくりと進んでいて下さい」
マチルダが頷くのを確認するとモレノはレーザー銃を構えてトラックから飛び降りた。そのまま街道の上に立ち塞がり風石馬車が追いつくのを待つ。何もせずに待つのも何なので、街道脇の木を切り倒して街道を塞いだ。
いかにも山賊といった出で立ちで追ってきた連中は、道を塞がれて怒り心頭のようだ。馬車を止めるやいなや数人のメイジが降りてきて、モレノに攻撃を仕掛けてきた。使い魔からの情報でそうだろうとは思っていたが、どうやら確かめるまでもなく、敵のようだ。
「小賢しい真似をしやがって! 死にやがれ《エア・カッくふっ」
詠唱を最後までさせるまでもなくレーザー銃を腰だめに構えて額を撃ち抜く。この銃はレーザーが反射する危険性があるので水平には撃たない。必ず角度をつけて撃つように心がけている。
「て、てめえ、何しやがっ」
「おい、こいつやばいぞ、変な杖持って、むぐっ」
「やばいやばいやばい、逃げろ、エルフだ」
エルフを追ってきたのだとしたら、エルフと判断した瞬間に逃げるというのはどうなのかとモレノは思ったが、後ろの方の馬車はもう方向転換をして逃げ始めている。
ウォルフに今回の事件の事を聞いていたのでエルフと言われても特に何も思わない。逃げる者は追わず、残った者を一人ずつ始末していった。
五分とかからずに襲撃者達は静かになった。練度の低さから近衛騎士団とは思えない。何か身元を示す物証はないかと軽く探してみたが、どこぞの貴族の紋章が入ったナイフが一本見つかっただけだった。
捜索を諦め、セグロッドに乗ってマチルダ達を追う。暫く走ると道を塞いで戦闘が行われている現場に出くわした。
闘っているのはマチルダの使い魔のモス。ハルケギニアで最も硬い鱗と鋭い爪を持つランドドラゴンの成竜だ。周囲を取り囲むメイジを爪で弾き飛ばたりブレスで焼き払ったりと奮闘している。トラックは見あたらないので先に進んでいるようだ。数がいるのでどうしてもその車列は長くなり、一度止まると守る事は難しい。トラックが止められていない事に安堵しながらも嫌な予感を感じ、モスに加勢する。
「モス、手伝うぜ」
「ギュル? ガー!」
「くそ、新手か! もういい、引けっ引けえっ!」
ランドドラゴン一頭を持てあましていた十人程の襲撃者達は、モレノが参加した事により逃亡を図ったが、瞬く間にモレノとモスによって打ち倒された。
今度は遺留品を確認する事もなく、モレノはモスに飛び乗った。ランドドラゴンは地上最速の幻獣。トップスピードはセグロッドよりも遙かに速い。
「ギュ?」
「頼む、モス。お前のご主人様の所へ急いでくれ。嫌な予感がするんだ」
「ギュルー!」
まだ戦闘の興奮が冷めないらしく周囲を睥睨していたモスだったが、モレノの言葉を受けて猛然と走り出した。モレノが時速百リーグ以上でありながらシルキーなその乗り心地を堪能する間もなく、マチルダに追いついた。
マチルダは、攻撃を受けたのか横転したトラックとそのトラックに道を塞がれた五台のトラックとを守りながら襲撃者達を斬り倒している最中だった。
見るとクリフォードとマチルダのゴーレムがトラックとその乗員達を守り、マチルダは敵の真っ直中に切り込んで剣舞を披露している。マチルダが舞う度に血しぶきが上がり、襲撃者の戦意は減少していたのだが、そこにランドドラゴンが走ってきた勢いそのままに突入してきて遂に戦意はゼロになった。
「ダメだ、逃げろ逃げろ! こんないかれた奴に付き合ってられるか!」
「ハッハー! 逃がす訳無いだろう? 最後まで付き合って貰うよー!」
モスがメイジをなぎ倒し、その背中からモレノがレーザー銃を撃ちまくり、逃げ出したところにマチルダが飛びかかって斬りまくる。襲撃者達はここでもあっという間に殲滅された。
「モレノ! モスと一緒に先を追ってくれ、まだ襲撃があるかも知れない」
「はっ、そのつもりです。マチルダ様もお気をつけて!」
襲撃者を片付けるとモレノは直ぐにまた先行隊を追いかける。先行する車列には織物工場に勤めていた平民とその家族がバス二台分同行している。マチルダとガンダーラ商会にとって絶対に守らねばならない存在だった。
横転したトラックはタイヤを交換すればまた走れそうとの事なので、マチルダとクリフォードは交換を待って後を追う。ここまで執拗な襲撃を受けるとは想定していなかった。エルフの所在を掴んでいない以上、王家にとってもうガンダーラ商会を襲う意味は無いはずなのに。
先行隊には傭兵の護衛部隊が二十人位いるが、強力なメイジは傭兵の隊長とニコラスくらいしかもう残っていない。もし、もう一度襲撃を受けたら今度こそ護衛を引きはがされてしまうかも知れない。
モレノは不安を感じながらモスを急がせるのだった。