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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/22 00:42
 ゴトゴトと、昔ながらの馬車は路面の凹凸を拾いながら街道を走る。ラ・ヴァリエール公爵令嬢にして王立魔法研究所次席研究員エレオノール・アルベルティーヌは憮然として移りゆくトリステインの景色を眺めていた。
 時折馬車が大きく揺られ、エレオノールの体も揺さぶられるが気にならない。彼女の頭の中は前日にトリスタニアのアカデミーで行った中間報告の時の事で一杯だった。

「ふーむ、確かに謎のスペルにより魔法が発動しているようだが。ミス・ヴァリエール、これだけの内容で君の妹を虚無と認めるのは無理な話ではないかね」

 その通りだ。こっちから虚無と認めろなんて話をした事はない。王家には可能性があると報告しただけだ。

「きみが通常の研究を離れて一月が経つが成果は何もないとしか言えないようだね。きみ、いくら王家からの依頼とは言え給与泥棒と言われてもしょうがない状態だよ、これは」

 だったらお前がやって見ろと言いたい。大した成果を上げてない奴程他人の研究にはケチを付けるものだ。

「所詮、虚無など伝説に過ぎないのではないか? ラ・ヴァリエール公爵ともあろう方が、何を考えているのか」

 ルイズの魔法が普通ではないのは確かじゃないか。説明できないのなら、黙ってろ。

 また一つ馬車が大きく揺れた。橋を渡るようだ。エレオノールは眼下を流れる川を眺めて溜息を吐いた。



 研究開始から一ヶ月、成果は全く上がっていなかった。ルイズとの関係は最初から破綻し、今も修復できていない。言われた事はやるし質問すれば答えるが、それだけだ。ルイズは毎日やる気もなく杖を振り、ただひたすら時間が過ぎるのを待っている。
 今、ラ・ヴァリエールに戻っても研究が進む見込みは無い。考えると気が重くなるばかりの現実を前に、エレオノールは深々と溜息を吐く事しかできなかった。

 やがて馬車はラ・ヴァリエールの城へと滑り込む。エレオノールはまた一つ大きく溜息を吐いた。



「ルイズ! ルイズは何処!?」

 今日帰る事は伝えていたし、レッスンの時間まで約束していたというのに部屋に行ってもルイズはいなかった。どうやらまた逃げ出したみたいだが、近くのメイドを捉まえて尋ねても要領を得ない。
 ここのところエレオノールがガミガミとルイズを叱り、ルイズは目の端に涙を浮かべながらそれに耐えているという事が多かったので使用人達は皆ルイズに同情的だ。
 おかげでルイズが逃げ出す度にエレオノールは自分で探し回る羽目になる。使用人達に命じても、見つかりませんでしたとの報告しか上がってこないからだ。今回も一人城内を探し回り、門番を締め上げてようやくルイズが城外に逃げ出した事を掴む事が出来た。

 すぐさま竜車を用意させ、ルイズを追う事にした。最初の頃は真っ直ぐにカトレアの領地に逃げ込んでいたルイズだが、ここのところは学習したのか領地の別の街に逃げ込んでいるようで、夕方まで時間を潰してから悠々と城に帰ってくる事が多い。
 帰ってきた時にいくら説教しても何処吹く風だ。横を向いて聞き流している。

 今日こそはそんなことになる前に捕まえてやると気合いを入れて竜車に乗り込んだ。
 エレオノールは焦っていた。ルイズが虚無でないのならばいいのだ。文句は言われるだろうが、王家とアカデミーとに勘違いでしたと断りを入れればそれで済む。
 虚無だった場合には確実にその証拠を手に入れなくてはならない。もし虚無の僭称と認定されてしまったらルイズがどんな目に遭わされるのか想像も付かない。証拠も掴めず、それなのにルイズが虚無だと自称している現状はとても危険なものだった。
 ルイズのここのところの行動から推測して捜索する方向を決め、まずは一番近くの街へと向かった。

 しかし、広いラ・ヴァリエール領内に逃げたルイズを見つけ出すというのは難しい話だ。ここのところセグロッドを手に入れているので行動範囲が広くなっているし、最近はエレオノールの裏をかくような逃げ方をする事も多い。何の手掛かりも得られないまま一つ目の街から移動し、エレオノールはラ・ヴァリエール最大の都市ティオンにまで来た。
 南の門から街へ入り、周囲に目を光らせながら緩やかな坂になっている大通りを歩く。門番はルイズを見ていないとの事だったがそれだけでここにいないという証拠にはならない。注意深く路地路地に目をやりながら中央大広場まで到着した。
 
 この街の中央大広場には大きな教会が建っていて、エレオノールはここにルイズがいるのではないかと目星を付けていた。このような大きな街の神官にはラ・ヴァリエール家のものと顔見知りの者も多いので、それらの人を頼って時間が過ぎるまで匿ってもらっているのではないかという推測だ。

 ルイズを探してその広場に足を踏み入れたエレオノールは、そこがいつもとは違う雰囲気になっている事に気がついた。平日のそろそろ夕方というこの時間、いつものこの広場にはそれ程多くの人がいるという事はなく、皆お喋りしたりベンチに座ったりして思い思いに時間を過ごしているが、今日の中央大広場はなにやら様子が違う。広場にはいくつものテントが立ち並び、なにやらビラを配っている人やテントに人を呼び込んでいる人がいて、教会には若い女性が連れ立って入っていく。テントは食べ物を出してたりなにやらパネルを展示したりしていて結構な人が群がっている。何が起こっているのかエレオノールには分からなかった。

「お姉さん! そこの美人のお姉さん! メガネを掛けた、そう、そこのあなた!」
「わ、わたし?」

 何事があるのか広場を見渡して近くのテントを覗いてみようとしたエレオノールは、唐突に一人の少年に声を掛けられた。調子の良い感じでにこやかに話し掛ける少年は、ルイズと同じくらいの年頃だろうか、くりくりと良く動く深緑の瞳がエレオノールの印象に残った。
 しかし、いくらお忍びで比較的質素な身なりにしているとは言え、こんな平民の少年に話し掛けられてはいそうですかと返事をするエレオノールではない。ツンと尖った鼻を逸らして少年を無視し、教会へと行こうとした。

「無視しないでよ。ねえお姉さん、お姉さんは結婚しているの?」
「何だってのよ。結婚なんてしてないわ。喧嘩売ってるの?」

 その行く先を塞ぐように回り込まれてつい、相手をする。結婚という単語に反応してしまった。

「おお、お姉さんみたいな美人が未婚だなんて、トリステインの男共は見る目が無い。ねえ、恋人はいる?」
「い・な・い・わ・よ! よし、その喧嘩買ってあげてもよろしくてよ。わたし今とても虫の居所が悪いの」
「喧嘩は遠慮しまーす。ストレスの多い現代、女性が一人で生きていくのは大変ですよね? あなたを理解し、あなたを必要とする優しい男性があなたを待っています。こちらをどうぞ、そちらの教会で随時詳しい説明を行っています。興味がお有りでしたら是非足をお運び下さい!」
 
 少年はエレオノールにビラを手渡すともう次の女性に話し掛けていた。キャッチセールスに引っ掛かったのかとそのビラに目を落とすと、そこには意味不明の事が記してあった。

『開拓地に春到来! 素敵な出会いがあなたを待ってます! ゲルマニア大横断の旅 交通費宿泊食事代全て無料! ふるってご参加ください』

 どうも旅行パンフレットのようだが全て無料というのが解せない。よくよく読んでみると下の方に『十六歳から三十歳位までの独身女性限定』と書いてある。これはもしや大々的な人攫いなのではないかと思ったエレオノールは先ほどの少年の所へ詰め寄った。

「ちょっとあなた! これは一体誰の許可を得てしている事なの?」
「おっと」

 ツカツカと近寄って首根っこをつかまえたつもりなのに、少年は寸前でスルリとその手から逃れた。

「いや誰の許可って領主様の許可を得なきゃこんな事出来ないよ。教会だって借りてるんだし」
「嘘おっしゃい。ラ・ヴァリエール公爵は領民を大事にする方よ。こんな人さらいまがいのあやしい事を許可するはず無いわ」
「人さらいまがいって何さ。ちゃんと許可は取ってるよ。ホラこれ」

 ごそごそと懐を探って書類を取り出す。何でこんな少年がそんなものを持っているのか訝しみながら確認すると、確かにそこには事業の内容と父ラ・ヴァリエール公爵のサインが記してあった。
 確かにここのところトリステイン国内では比較的景気の良いラ・ヴァリエール領内では、周辺地域から流入してくる流民が問題になっていたが、こんな事を父が許可するとは中々信じがたい。

「そんな、本物だわ……んん? ウォルフ・ライエ開拓団?」
「そう、そのウォルフ・ライエ開拓団の団長、ウォルフ・ライエです、よろしく。お姉さんはちょっと性格きつそうだけど、美人だしもてると思うよ? 結婚予定がないなら参加してみないかな、将来有望だぜ」
「あなたがっ!!」

 調子よく勧誘していたのだが、キリキリと歯を噛み締めながら憤怒の表情で睨み付けられてウォルフはさすがに驚いた。こんな美人さんに親の敵を見るような目をされる覚えはない。

「あれ、お姉さんオレのこと知ってるの? そんな目で見られる覚えはないんだけど」
「……ちょっとここでは。そうね、教会で部屋を借りましょう。あなた、ちょっと顔を貸しなさい」
「えーと、オレ忙しいんだけど。良い知らせを待っている男達がいるんだよ」
「待たせておきなさい」

 ウォルフが控えめに抗議するがエレオノールは無視してさっさと教会へ入って行ってしまう。こっちも無視してやろうかとも思ったが、ラ・ヴァリエール公爵のサインを一目で見分ける人物だ、無碍にしない方が良いかもしれない。
 まあ、本来この勧誘活動は出張してきた開拓団員達だけでやる予定だったのだが、今日はルイズに会えなかったので手伝っているだけだ。とりあえず手に持っていたビラの束を近くの開拓団員に渡すと彼女の後を追った。



「こ、これはエレオノール様! あなた様もお見合いツアーにご参加なさるので?」
「ななな何でわたしがそんなものに参加するのよ! あなたも喧嘩売ってんの!?」

 教会に入るなり顔見知りの神官が声を掛けてきたが、エレオノールはまなじりを釣り上げて一喝した。

「そうでございますよね、いくらなんでも平民相手の……あ、いや申し訳ない、つい早とちりを」
「……まあいいわ。随分人が多いわね、神官も手伝っているの?」
「いやあの、奥の中庭に椅子を出して説明会を行っていますが、混雑するもので案内を。これは公爵様の方から要請がありましてこんな事に」
「ああ、いいのよ別に。文句があって来た訳じゃないの。ちょっとあちらの少年と話をしたいので部屋を貸して下さる?」

 後から入ってきたウォルフを振り返って神官に依頼する。神官はウォルフが責任者であることを知っているので得心がいったように頷いた。

「畏まりました。中庭側は説明会で騒がしくなっておりますので反対側の小部屋をご用意いたしましょう。人払いをしておきます故、お帰りになる時にお声をおかけ下さい」
「ありがとう。暫くお借りします。あ、その前にお茶をお願いしますわ」
「すぐにお持ちしましょう」

 ロマリアでは傲慢な神官が多いとのことだが、ここラ・ヴァリエールではそんなことはないようだ。交渉した時も温厚だったし、と後ろから眺めていたウォルフはそんな風に判断した。
 神官が用意した部屋は信者達が話し合いをするのに使ったり、神官に相談事をする時に使う小部屋だ。シンプルな内装で仕上げられた部屋の一角にはソファーと小さなテーブルがあって、座って話を出来るようになっている。エレオノールはそのソファーにウォルフを誘った。

「お座り下さい。ウォルフ・ライエ・ド・モルガン殿。予てからあなたとは話をしたいと思っていました。ラ・ヴァリエール公爵家の長女エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールです。カトレアとルイズが世話になったみたいね、お礼を言っておくわ」
「ああ、成る程ルイズのお姉さんでしたか。しかし、お礼……」

 随分と居丈高に言われたので唖然としてしまったが今のは一応お礼だったらしい。ルイズから話は聞いていたが、聞きしにまさるとはこの事だと思う。

 お茶を持ってきた教会の小姓が下がると、正面に座ったエレオノールは早速用件を切り出す。

「ミスタ・モルガン。話というのはルイズのことです。あなたは何故――」
「あ、ちょっとお待ち下さいエレオノールさん。それはなくなりましたのでウォルフ、もしくはウォルフ・ライエとお呼び下さい」
「は? 無くなったとは、何が?」
「最近父が爵位を失いましたので、ド・モルガンは無しです。ただのウォルフ・ライエですね」

 爵位を失ったなどと言う重大事をしゃらっと言うウォルフには驚くが、興味のないことなので流す。もちろん、平民になったくせに態度のでかい子供だとの認識はしっかり持った。

「では、ミスタ・ウォルフ。わたしがあなたに聞きたいことは、何故、あなたはルイズのことを虚無と判断したのですか? ここ一ヶ月、私はルイズの魔法を研究してきましたが、虚無であるという証拠は得られませんでした。今のところ、あなたがルイズに虚無だと教えて、その教えを受けたルイズが魔法を使えるようになった、その事のみがルイズを虚無のメイジたらしめています。あなたは何故ルイズを見て虚無だと思ったのですか?」
「あの、ルイズは虚無魔法『エクスプロージョン』を使えると思うんですが、それじゃダメなんですか?」
「あんなのはいつもの失敗魔法と何ら変わりありません。あんなのが虚無魔法だなんてとてもアカデミーでは主張できません」

 ただの平民がルイズのことを呼び捨てにする事に苛つきながら答える。この領内にはルイズのことを呼び捨てにする平民などいない。いや、いて良い話ではない。

「虚無魔法なんだけどなあ。何で判断したかって言われても、今のところ観察した結果としか言いようがありませんね」
「そんな曖昧な判断で人の妹に虚無だなどと吹き込んだのですか?」
「いや、まだ研究中ですし、分からない人には理解しがたい事かも知れませんが、ルイズが虚無であることは間違いないと思います。いずれ明らかになるでしょう」
「研究はわたしがしています。明らかになる見込みなど全くありません。それなのにルイズは虚無だと主張することをやめない。これは、とても危険なことなのです」
「……えーと、それでオレに何をしろと?」

 お互いの主張は平行線をたどるしか無く、ウォルフは話にならないと思いながら投げやり気味に聞き返した。ちょっと、ビラ配りに戻りたくなってきた。

「ルイズに虚無のメイジではない可能性があることを納得させて欲しいのです。ルイズはちょっと、そうほんのちょっと頑固なので今は少し意固地になっていて、こちらの言うことに耳を貸さなくなっています。虚無だと最初に吹き込んだあなたがそれを否定すれば、少しはこちらの言うことに耳を傾ける気になるかも知れません」
「いや、虚無じゃない可能性、無いし」
「……」

 こんなに丁寧に話しているというのに平然としてこちらの言うことに耳を貸さない平民を睨み付ける。しかし、睨まれたからと言ってルイズが虚無ではない可能性など出てくるものでもない。魔力素をあんなに簡単に破壊できるメイジが普通のメイジである筈はないのだ。ウォルフはエレオノールの視線を気にすることなく頭の後ろで手を組み、ソファーに大きく沈み込んで足を投げ出した。エレオノールに良く聞こえる盛大な溜息までセットだ。

 過去エレオノールの前でこんな態度を取った平民はいない。怒鳴りつけてやりたくなるが、エレオノールは何とかそれを堪えた。

「……有るか無いかはこちらが判断することなのよ。私達は、トリステイン王立魔法研究所としては虚無だという確証は得られていないの。ということは虚無じゃない可能性があるって事なのよ」
「あなた達がルイズを見て虚無じゃないと判断するなら、それはそれで良いじゃないか。話は平行線になるけど、誰が困るという訳でもないし」
「虚無だと証明できない者が虚無だと主張することは虚無の僭称になるわ! これはブリミル教においてとても大きな罪よ。ルイズが異端認定されてしまうかも知れないじゃない! 誰が困るって、わたしが、今、とても困っているわよ!」

 思わず何度もテーブルを叩いて叫ぶ。ルイズのために良かれと思ってやっているのに全く分かって貰えない。アカデミーの連中は話にならない。あげくこんな平民にまで舐められる。
 エレオノールは感情が高まりすぎて、呼吸が苦しくなる程だ。暴れ出そうとする感情を抑えようとしている内に、何だかとても悲しくなってきてしまった。
 
「もうイヤよ。いくら言い聞かせてもルイズは言うこと聞かないし、逃げるし。じじいどもは好き勝手なこと言うし」
「あー、異端認定かあ……面倒くせえ。そいつらだってルイズが虚無じゃない証明なんて出来ないと思うんだけど」
「異端認定に証明なんて必要無いのよ! あの子まだあんなに小さいのに、非道い。非道いわ。ねえ、そんなことになったらどうしたらいいの? ねえ、あなた。あなたに責任取れるって言うの?」
「あ、いや責任って。そういう話になるの?」

 とうとうポロポロと涙をこぼしながらウォルフに詰め寄る。

「こんなに頑張っているのに誰も分かってくれない。家臣達だって全員わたしがただルイズに意地悪していると思っているのよ? でも、仕方ないじゃない! わたしだって意地悪なんてしたくないわ。心配なのよ! 心配で心配でしょうが無いの。ねえ、分かる?」
「あ、はい。分かります。お姉さんが実は妹思いの優しい人なんだなあって分かりました」

 ウォルフだって男なので女性の涙は苦手だ。体を起こしてとりあえずエレオノールを慰めることにした。

「カトレアはこんな大変な時だってのに自分の領地に籠もって。『ルイズは虚無なのだから心配しなくても大丈夫よ』なんて慰めるだけなんて本当の優しさじゃないわ」
「んー、でも優しくしてくれる人が家族にいるのは大事だよ。役割分担だと思って気にしないのが一番さ」
「お父様もお母様も全然分かってくれない。最近はむしろわたしのことを困った姉って目で見ている気がするし」
「いや、それは思い過ごしじゃないかな。公爵はあなたのことをとても頑張っているって言ってたよ」
「ルイズだってわたしのことなんて意地悪ばばあって思っているに違いないわ。わたしなんて誰にも理解して貰えないで、みんなに嫌な奴って思われながら一人年を取っていく運命なんだわ」
「そんなこと無いよ、少なくともオレは理解した。お姉さんの小さな胸には大きな優しさが詰まってるって」
「おう。……誰の胸が何だって?」
「いや、そこだけ反応しないでよ」

 いくら慰めても反応がないのでこっちの言うことは耳に入ってないのかと思ったが、ちゃんと聞こえていたらしい。カトレアとの差が気になってつい思ったことが口に出てしまった。ルイズの未来はどっちだ。

 エレオノールの懸念は理解できる。最悪でロマリアが出てくる事態になるかなとウォルフは考えていたが、そんな事になる前にアカデミーが虚無ではないとレッテルを貼る可能性は高いみたいだ。
 虚無の可能性がある者に対して、証拠も無しにそんなことをしないだろうとのウォルフの思いは、どうやらアカデミーという存在を良く理解していないだけらしい。ラ・ヴァリエール公爵の影響力もあるのでまさか異端認定はされないだろうとは思いたいが、ルイズの嫁ぎ先が無くなるような事態は起こりそうな気もしてきた。

 しかし、そんなことよりもウォルフにとって今問題なのは、目の前でドロドロとした怨念を溢れさせているエレオノールだ。触れれば祟り神にでもなってしまいそうで、下手な対応は出来ない。
 絶体絶命のピンチに思えるがこの状況を打開する目処は立っている。この教会の神官が人払いしたというのに、さっきからドアの外で室内の様子を窺っている存在がそれだ。
 ウォルフは杖を振って『念力』でそのドアを開いた。



 唐突に開かれたドアの前に俯いて佇んでいたのは特徴的なピンク頭の少女。気配から予想していた通り、覗いていたのはルイズだった。

「良いお姉さんじゃないか、ルイズ。君のことが心配なんだってさ」
「……」

 立ち上がってウォルフを締め上げようとしていたエレオノールは視線を移し、そこに探し人を見つけて唖然とした。考えてみればこの教会にはルイズを探しに来ていたので彼女がいることは不思議ではないのだが、今みっともなく泣き喚いていた所をルイズに見られていたのかと思うと何ともバツが悪い。

「ちびっ! ちびルイズ! ああああなた今まで一体――」

 袖口で涙を拭って、気恥ずかしさをごまかすように叫んだエレオノールの声はすぐに止んだ。室内に走り込んできたルイズが、エレオノールの胸の中に飛び込んできたからだ。

「ルイズ、あなた――」
「ごめんなさい。姉さま、ごめんなさい。姉さまのこと、ずっと意地悪ばばあって思ってました」
「……」

 思わずいつものようにほっぺたをつねり上げそうになったが、腕の中で泣いているらしい事に気付いてそんな気は無くなる。一つ小さく溜息を吐いてその頭を撫でた。
 そう言えばルイズがこんな風に抱きついてくるのは何時以来だろうか。うんと小さい頃は母に叱られたとか池に蛙が出たとかで抱きついてきていたような気もするが、いつしか飛び込む胸はカトレア限定となった。エレオノールが魔法学院に行っている間にルイズとの距離が開いたような気もするが、記憶は定かではない。三年間離れて暮らしている間に、エレオノール自身もルイズとの距離を測りかねるようになって、ついついきつく当たるようになった気がする。とりあえず昔のようにエレオノールの腕の中で泣いているルイズの頭を撫でながら、彼女が落ち着くのを待った。



「虚無の僭称にされる可能性なんて、考えていませんでした。姉さまが心配していることはもっともだと思います」
「よろしい。これからはレッスンにももっと協力的になるわね?」
「はい。もう逃げたりしません。心配していただいていていたのに反抗ばかりしてすみませんでした」
「これからちゃんとしてくれれば良いわ。私もアカデミーの体質をもう少し丁寧に説明するべきだったわね」

 解り合ってしまえばなんてことはないことだった。ルイズはエレオノールが自分のことで涙を流す姿を鍵穴からのぞき見て、これまでの誤解にようやく気付いたのだ。
 自分のことを嫌いで、単に虐めるのが好きな性格破綻者なのではないかという疑惑は氷解した。愛情の表現方法に問題はありそうだが、妹思いの優しい姉であることは間違いなさそうだった。
 姉妹の和解を端でぼやっと見ていたウォルフはやれやれと溜息を吐く。エレオノールの胸から顔を上げたルイズと目があった。

「ウォルフ、ごめんね。折角ウォルフに虚無って認めて貰ったのに、私、虚無じゃないってなるかも」
「あ、いやいいよ、そんなの全然。安全第一で身の振り方を考えてくれ」

 ルイズも無理に虚無と主張することの危険性を認識した。安心したエレオノールが隣で頷いているが、ウォルフにはあまり興味がないことだ。
 問題が解決したのでルイズもエレオノールの隣に来てソファーに座った。もう涙も収まったようで、ケロリとしている。ルイズとウォルフとが直接会うのは久しぶりだ。手紙のやりとりはしていたが、ウォルフが大変な事件に巻き込まれていたためにずっと会うことが出来なかった。

「ところで、教会の窓から覗いていたけど、ウォルフは開拓民のお嫁さん探しのためにわざわざラ・ヴァリエールに来たの?」
「そうね、開拓団長自らビラ配っているなんて随分と人手不足なのね」
「……ルイズに会いに来たんだけど、城に行ったらいないって言われたんだ。時間が余ったから手伝っていただけだよ」
「あらそうなの。ごめんなさいね、今日はエレオノール姉さまが帰ってくる日だったから逃げちゃったのよ」
「らしいね。まあ、事情は大体分かったよ」

 そう言えばウォルフは一部始終を全部見ていた訳で、泣き顔を見られていたことを思い出した二人は頬を染める。

「授業の続きをしてくれるの?」
「そのつもりだったんだけど、どのくらい進んだ?」
「手紙に書いた位だわね。『エクスプロージョン』の呪文が少し、長くなった程度よ」

 あまり進んでいない。というかほとんど進んでいない。ここのところルイズはエレオノールに時間を取られ、ほとんど自習する時間が無かった。

「ほとんど進んでないんだな。まあ、そんなことだろうと思って良いもの持ってきたぜ。これならお姉さんの懸念も一発解消できるかも知れない」

 ルイズによる自習の成果に大した期待もしていなかったウォルフは、責めもせずソファーに放り投げていたリュックから真っ黒な布を取り出した。

 これはアンネが襲撃された時に使われた伝説のマジックアイテム『虚無の布』だ。襲撃された時、アンネが何となく寒さを防ぐものとして持ち続けていたものだが、伝説としか言いようのない凄いアイテムだった。これを見た時のウォルフの衝撃は大したもので、虚無が伝説の系統と呼ばれる理由を理解した。この布に魔法が効かないと言うのならまだ良かったが、衝撃を受けたのは魔法で『練金』した金の粒をこの布でくるんだ時だ。
 完璧な『練金』で、どこからどう見ても本物の金になっていて、熱して溶かしたり叩いて伸ばしたりも出来るというのに、この布でくるむと元の石ころに戻った。ウォルフには本物の金だろうが『練金』で作った金だろうが見分けは付かない。せいぜい『練金』で作った金には不純物がないことくらいしか見分けるポイントがないというのに、この布はウォルフには見えないものを見分ける。

「何よ? この布」
「アルビオンで『虚無の布』って呼ばれていたマジックアイテムだ。知り合いが偶然入手したものを借りてきた。ルイズに『ディテクトマジック』でこの布に付与されている魔法を調べて貰おうと思ってね」
「あなたっ!! それって!」
「そう、本物の虚無がここにある。オレにはこの魔法が何であるのかは分からなかった。でも、ルイズなら何とかなるんじゃないかって思っているんだ」
「えっと、これを解明すれば、私また虚無ってことになるのかな?」
「そうなるね。これに付与されている魔法は全ての魔法を無効化する。虚無魔法って名前に相応しいものだよ。これをルイズが使えるようになれば、文句を付ける奴はいなくなるだろうと思う」
「そんな、虚無魔法の本物があるなんて……」
「姉さま、全ての魔法を無効化する魔法を使えるようになれば、アカデミーも認めてくれるのかしら?」

 ルイズの呟きに、エレオノールはコクリと頷くことしか出来なかった。
 


 ウォルフはこの日から三日間ラ・ヴァリエールに泊まり込んでルイズに付きっきりで『虚無の布』の解明にあたった。
 マジックアイテムの基本的な作り方から物理的構造と魔法的構造の見分け方、解析する上での注意点などを付きっきりでたたき込んだ。
 大抵のマジックアイテムには複数の魔法が複雑に絡まり合って付与されているが、それらを全て理解し構造まで把握していないとマジックアイテムの解析など出来ない。その作業について全くの素人と言えるルイズに基本的なパターンから教えなくてはならないために、研究は朝から晩まで長時間にわたった。

 そして三日目、ルイズは再び虚無の歌を聴いた。ウォルフが推測した『虚無の布』の構造をもとに、その根幹に付与されている魔法『ディスペル』を解明したのだ。

 その強力無比な虚無魔法を目の当たりにしたエレオノールは体の震えを止めることが出来なかった。試しにとエレオノールが『強化』と『硬化』をガチガチにかけて作った『ゴーレム』をルイズの魔法は一瞬で土塊に戻した。

 メイジの権威の象徴である魔法を無効に出来る魔法は、エレオノールに畏怖を感じさせるのに十分なものだったのだ。その力を目の当たりにした瞬間、ウォルフが「本来ルイズがトリステインの王になるべき」などと言っていた、その理由を理解した。虚無のメイジこそがメイジの王である、と。





「じゃあ、じゃあつぎこれね? これには『固定化』と『硬化』の魔法が掛けられている。この『固定化』の魔法だけ『解除』してみてくれ」
「どっちも似たような魔法ね、見分けが付きにくいわ。でも『固定化』は化学的な不活性化がメインで『硬化』は分子間結合の強化がメインね。やってみるわ……《ディスペル》!」
「おおっ! お見事。すげえ、ちゃんと『硬化』だけ残っているよ」

 ルイズとウォルフが完成した魔法の実験をしている傍らでエレオノールは人知れず溜息を吐いている。
 虚無魔法『ディスペル』の完成によりルイズが虚無のメイジであることは確定した。それにもかかわらず、エレオノールの不安が解消されることはなかった。
 虚無のメイジが王になるべきだとすると、既に王がいるこの国ではそれは政治的に不安定をもたらす要因でしかない。今後様々な思惑が絡み合い、ルイズは政争の舞台へと連れ出されることになるのだろう。
 ウォルフは個人的に既にロマリアに目を付けられていると話をしていた。彼は虚無の使い魔の疑惑を掛けられているそうで、ルイズには笑いながら使い魔は断るから召喚しないでくれなどと言っていたが、もう密偵を送り込まれている程だという情報は見過ごすことは出来ない。

 ルイズの将来を思い、また溜息を吐く。エレオノールは、少なくともウォルフのように脳天気でいられなかった。


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