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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-22    清濁
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/01 20:53
「《ウィンディ・アイシクル》!」

 凛とした詠唱と共に現れた無数の矢。凍てつく氷が矢の形となったその魔法はオーク鬼との距離を瞬く間に飛び越え、豚のようなその醜い体に吸い込まれた。前面に立っていた一団が倒れ、すぐさまその後ろにいた一団がシャルロットに殺到しようとしたが、もう一度詠唱が唱えられると周囲は沈黙に支配された。

 亜人達が全て物言わぬ骸に成り果てても、シャルロットは油断無く杖を構えたまま周囲に目を光らせる。気配を読み、風の音を聞いてもう生きている者がいない事を確認すると、ようやくかまえていた杖を降ろした。

「お見事です、シャルロット様。もうオーク鬼五匹くらいでは本気になる事もないようですね」
「そうでもないわ。オーク鬼は死んだふりをする事があるから油断は出来ない。前に一度危ない目にあったし」
「その経験を忘れない事です。どんなに優れたメイジといえど、油断から身を滅ぼす事はままある事なのですから」

 強力な魔法を覚えても慢心することなく精進を続ける教え子の姿に、風の魔法を担当する教師は目を細めた。

 十歳になり、トライアングルメイジとなったシャルロットはますます戦闘者としての能力を高めている。何処までの高みに登るのか周囲の者は皆楽しみに見守っているのだが、本人はまだまだ不満らしく研鑽に余念がない。その絶え間なく努力を続ける姿勢は王宮で評判となり、シャルルの戴冠を望んでいる者達を勢いづかせていた。
 シャルロットが今いるこの場所はリュティスから少し離れたところにある王領の森。あまり手をつけられていなこの森は日頃王家の狩りなどに利用されているが、シャルロットはここのところその奥地へと分け入り、亜人や幻獣との実戦経験を積んでいる。大勢の勢子が獲物を追い立て、やはり大勢の護衛に守られたシャルロットがそれを倒すという王族らしい狩りではあるが、迫り来る亜人の群れに対峙する経験はシャルロットにとって貴重なものだ。

「それでは今日の授業はここまでですな。シャルロット様、この後のご予定はどのようになっていますか?」
「今日はプローナにウォルフが来るっていう話だから、会いに行くわ。明日の授業はお休みね」
「……またですか。シャルロット様、少々噂になっております、アルビオン人などとあまり親しくするのは考えた方がよろしいのでは?」

 シャルロットはウォルフがガリアに来る度にその情報を得ては会いに行っている。もう十回以上は会いに行っただろうか、飛行許可の関係で事前に情報は手に入るので、連絡がある度に自分のモーグラを飛ばしてラ・クルス領まで行っている。
 口さがない者達が王家の姫がアルビオンの下級貴族の所に通っているなどという下らない噂を立てている事は知っているが、シャルロットにとってウォルフに手合わせして貰うのは一番魔法の修練になると感じているので何を言われても気にするつもりはない。

「あなた達がもう少し本気で相手してくれれば、ウォルフに会いに行かなくても良いのだけど」
「…シャルロット様がお怪我をなさらない範囲でお相手いたしております」
「それじゃあ、意味が無いわ。あの背筋がピリピリとするような感じじゃなきゃダメだと思う」

 最近はウォルフも面倒くさがって一、二合位しか魔法を撃ち合ってくれないが、それでも得難い経験だとシャルロットは思っている。ウォルフ以外にシャルロットを昏倒させてくれるような魔法を撃ち込んでくるメイジなどいないのだから。

 なおも教師には文句を言われたが、気にするシャルロットではない。リュティスに帰ると早速出発の準備を整えた。リュティスからラ・クルス領まではモーグラでも四時間以上かかるが、昔に比べると随分と近くなった。道中で読む予定の本を何冊かと、帰りに寄る予定のオルレアン領の実家に持っていくおみやげを積み込んでいると、そこに友人であるウォルフの従姉妹ティティアナが訪ねてきた。

「シャルロット! ちょっと待って、ラ・クルスに行くの?」
「? ウォルフが来るらしいから、会いに行くの。いつもの魔法の鍛錬よ」
「わたしも連れて行って! ウォルフ達大変な事になっちゃったらしいから、会いに行きたいの」
「別に構わないけど、大変な事?」

 シャルロットに常時付いている護衛は二人なのでモーグラには一つ座席が余っている。ティティアナを乗せて離陸し、道中で話を聞きながらラ・クルスへと向かった。ウォルフ達ド・モルガン家がサウスゴータで他貴族の罠にはまって爵位を剥奪されたという話はシャルロットを驚愕させた。この世界で貴族がその爵位を奪われるというのは大きな事件だ。そんな大変な時に会いに行っていいものやら迷ったが、せめて会って励まそう思ってそのまま飛び続けた。




 一方のウォルフはプローナでかなり苛つきながら新工場の建設に立ち会っていた。
 この工場は綿花から綿糸を紡績し、布地を織ったりニットを編んで服飾材料を生産する工場だ。本来この仕事はリナのチームがやるべきであり、ウォルフは機械の設計にも生産にもあまり関わっていないので受け持ちたくなかった。しかしリナはゲルマニアの工場建設で手一杯で、仕方なくその他をウォルフが担当する事になった。とにかく工場や商会の機能移転でみんな忙しい。こんな目に陥る原因となったサウスゴータの議会に向けて呪詛の言葉を呟きながら、ウォルフは設計図通りに工場が造られるよう、気を張り詰めて監督していた。

 アルビオンでの一連の騒動が終息した後、ガンダーラ商会は結局アルビオンからほぼ撤退することになった。チェスターの工場などサウスゴータ周辺の拠点だけでなく、各都市にあった支店や空港などほぼ全てだ。そこまでの事態になったのは王家との関係が拗れきった事が原因だ。そもそも民間のフネを空賊の襲撃と装って撃墜しようとしてくる王の下では商売などできないし、それに加えて商会が巨額の賠償金を王家に支払わせた事も影響している。

 サウスゴータ議会がチェスターの工場の敷地と建物を接収するという無法行為を、商会の大株主であるツェルプストー辺境伯とヤカ商人ギルドを擁するラ・クルス伯爵が黙って見ているはずはなかった。彼等の支援を得たタニアは王家に対して強気の交渉を展開し、議会の接収計画は違法でありそれを知っていながら看過した国に責任があるとして二百万エキューを移転費用と逸失利益として請求した。辺境伯などは嬉々として交渉にまで出張ってくる熱の入れようで、その結果百五十万エキューが商会に支払われる事になった。一連の騒動に対し負い目があり、裁判となって痛い腹を探られる羽目になる事をいやがった王家と、係争が長期化する事は嫌な商会とが折り合いをつけたのがこの金額だった。王家はサウスゴータの貴族達にこの金額を請求するつもりのようだが、彼らが大人しく支払う見込みはない。

 商会としてはこの賠償金によって移転費用は賄えた上に撤退時に協力してくれた辺境伯達各地の貴族や商会に謝礼を払う事が出来たのでその点については良かったが、王家と商会との間がこれで修復不可能な程に悪化した事は間違いない。今後どんな無理難題をまた持ちかけられるか分かったものではないという観測もあり、これまでのようにアルビオンで活動する事を諦めたのだ。

 当初アルビオンに残すつもりだった服飾関係の工場は、暫く移転先を探していたが結局大部分をトリステインのラ・フォンティーヌに降ろすことになりそうだ。アルビオンでこれまで培ってきた技術にトリステイン伝統の材料やデザインを取り入れ、一から再出発するのだ。当初はラ・フォンティーヌに服飾関連を全て集積するつもりだったのだが、紡績に関しては広大な綿花栽培地を持つガリアにもあるべきだろうとのことで、紡績工場はラ・クルスのプローナにも建て、ラ・フォンティーヌとの二カ所となった。ついでに樹脂の製造プラントもプローナに移設したので化学繊維もこちらで紡績を始めている。
 他にもアルビオン王領であるメリノの村にあったガンダーラ商会直営牧場は解散して村営へ移管し、メリノ村で引き受けきれない余剰の人員と羊はウォルフの開拓地へと移籍。ウール原料はそこからラ・フォンティーヌへ輸出され、製品に加工される。メリノ村の事業は結局赤字で終わったが、ガンダーラ商会の事業によりここの羊毛の高品質さはハルケギニア中に知れ渡った。村長からはまたいつでも戻って欲しいと感謝の言葉をかけられている。
 アフターサービスに対応するためロンディニウムと他二カ所の商館のみは残したが、騒動後程無くしてサウスゴータなどに作った空港、各地の商館など全ての売却及び撤退が完了し、かつて一世を風靡したガンダーラ商会のアルビオン貿易は東部と北部の貴族領経由で細々と続けるだけになった。

 一応、今後また復帰する可能性を探るためにガンダーラ商会と親しい貴族を通じて情報収集は続けているが、一時期勢いを失っていた貴族派が最近また権勢を振るうようになってきている事もあり、当面はこのままの状態が続きそうだ。
 貴族派は風石相場の暴落で多くの財産を失ったとの事だったのだが、もうその事を忘れさせる程の豊富な資金力を見せている。どうもガリア系の商会が絡んでいるとの事だが、王家との本格的な衝突も近いのではないかと商人達の間では話題になっている。
 王家と貴族派との争いなど、もう商会には関係のない事になったので、ウォルフとしては勝手にやってくれと言ったところだ。
 


「ウォル兄ー!」
「ウォルフ! 久しぶり」
「ああ? おおティティにシャルロット、久しぶり」

 機械の向きを九十度間違えて設置しようとしていた作業員をしかりとばしているウォルフに背後からシャルロット達が声を掛けた。ウォルフは二人を確認すると軽く手を挙げて応えた後すぐにまた作業に戻る。作業員にはガリアで新たに雇った者が多く、機械の設置になれていないので細かいところまでウォルフが見なくてはならず、ずっと忙しかった。

「はい、スラー! ゆっくりねー」
「貴様、ド・モルガン! シャルロット様に対して不遜であろう。今すぐそんな作業は中断してこちらへ来い!」
「え? あっ、そこ! ちゃんと水平とっているんだから、適当に木を挟もうとするなって!」
「ちょっと、あなたは黙ってて。私とウォルフの関係なんだから。ウォルフ、なんだか大変だったって聞いたんだけど、忙しいの?」

 王女を一瞥しただけでクレーン作業に戻るというウォルフの態度にいきり立つ護衛の者を抑えて、シャルロットがすぐ後ろまで来て尋ねた。ウォルフはシャルロットに意識を裂きながらも、作業からは目を離せない。

「マジで忙しい。えっと、杖合わせかな、ちょっと時間がないから兄さんとやっててくれるとありがたいんだけど」
「きき貴様!」
「いいから」

 今日は相手をするつもりのないウォルフにまた護衛がまた声を荒げるが、ウォルフが気にする様子はない。サウスゴータ議会にむかついているからとか、アルビオン王家に襲撃されて腹が立っているとかそう言う事は関係なく、ウォルフは純然と忙しくてシャルロットに気を使っている余裕がないだけだ。何せここ一ヶ月以上ろくに開拓地へと帰る事も出来ず、ニコラスとアンネの捜索やトリステインやガリアでの工場移転など働きづめなのだから。

「あの、杖合わせは時間があったらでいいわ。平民になっちゃったらしいけど、大丈夫なの?」
「んあ? まあ、まだ十一才だからね、貴族だろうと平民だろうと大して差はないよ。……あ、それは後だって! こっちの機械が搬入できなくなるだろ!」

 手順書をちゃんと読んでいるのか全く不明な現地の作業員達に苛ついてまた怒鳴る。絶対に技術者をもっと育ててやると決意した。シャルロットが隣で身を竦ませているが、気にする余裕はない。まだまだ仕事は大量にあるし、さっさとここの作業を終わらせて東の地にいるティファニア達に補給に行く必要もある。二週間前に一度補給に行ったが、そろそろまた食料が尽きる頃なのだ。出来ればモレノあたりに行って欲しいのだが、まだ一度も東に行った事がないしマチルダの護衛にもう少し付けておきたいしでやはりウォルフが行くしかない。呆然と見守る二人を尻目に作業を続けた。

「本当に忙しそうだね。ちょっとくらい落ち込んでいるかと思って来たのに心配なさそうね。シャルロット、もう行こうか」
「はい、降ろしてー! え? 何で落ち込むの?」
「ううん、ウォルフが元気なら良いの、また今度杖合わせしてね」
「ん、またな」

 早々にその場を辞して、二人はクリフォードが来ているという城へと向かった。
   


「お、ティティにシャルロット。慰めに来てくれたのか?」
「そうなのよ、ウォルフは必要ないみたいだったけど」
「うん、まああいつは爵位なんて何時でも取れそうだから。俺は結構落ち込んだから、二人とも盛大に慰めてくれたまえ」

 シャルロットの突然の訪問に慌てふためくラ・クルスの城で、クリフォードは相変わらずいつもの調子だった。

「リフ兄……聞いてるよ? マチ姉さんに慰められたら一秒も掛からないで復活したって。私、リフ兄のことはまるで心配していなかったんだけど」
「ティティは俺の事を誤解しているな。男ってのは繊細で傷つきやすいものなんだぞ」
「へーそうなんだーところでリフ兄、私の叔父さんになるって本当?」
「スルーされた……爺様がその方向で調整してくれている。ガリアの魔法学院に通う事になるっぽいのはほぼ確定」
「本当なんだ……よろしく、リフ叔父さん」
「いや、呼び方は前のままで良いぞ。おじさんって呼ばれるとなんか一気に老けた気がする」

 こちらもデ・ラ・クルス伯爵の養子になるなら心配することは無いようだ。ウォルフもすぐにまた貴族に復帰するみたいだし、想像以上にタフな兄弟の様子にシャルロットは安心した。

「クリフともっと頻繁に杖合わせ出来るようになりそうなのはいいけど、一体何があったの? 爵位ってそんなに簡単に無くなるものなの?」

 そう言えばシャルロットの父シャルルも先月くらいからやたら忙しそうにしていた。もしかしたらアルビオンの異変と関係有るのかも知れない。

「うーん、あー、モード大公様が王様と何かトラブったらしいんだ。親父はその余波を食らって巻き込まれたみたい」
「王家の兄弟が争うなんて…そんな事、あるのかしら」
「大公様は逮捕とかまでされてて結構大変だったそうだぜ。領地も殆ど没収されちゃったみたいだし。それで、ウチは元々ウォルフのせいであちこちから妬まれてたから、見せしめには丁度良かったって訳。親父は行方不明になるし、マチルダも平民になっちゃったし、ホント大変だったよ」
「呼び捨て!? リフ兄、マチ姉さんの事呼び捨てにしてるの!?」
「んんっ……ふふふ、困難を共に乗り越えて二人の絆は深くなったんだな、これが」
「わーお、リフ兄のくせになんか生意気……」
「それで、お父様は? 無事だったの?」
「またスルーかよ、シャルロット……あー、無事無事。むかつくくらい無事だった。おかげで母さん達サウスゴータで指名手配かけられたってのに」

 サウスゴータ議会は議員襲撃の犯人としてエルビラとウォルフ、それにマチルダを指名手配にして懸賞金をかけた。クリフォードもマチルダと一緒に暴れてはいたのだが、何故か彼は手配からは漏れた。
 他の地域の貴族達や王家にも働きかけを行ったみたいだが証拠がない為に相手にされず、商会がこの手配を非難し、サウスゴータ貴族達の不法行為について積極的に宣伝活動を行っていることもあり、この手配が有効なのはシティオブサウスゴータとその周辺部だけに限られている。もっとも手配と言っても形式だけで、懸賞金の額が低い事もあるのかエルビラやウォルフがサウスゴータを歩いても誰も手を出しては来なかったし、平民達は普通に挨拶してくるような状況だった。一応犯罪者としておきたいが本気で敵対されるのも怖い、といった及び腰での指名手配なので周知すら徹底されていないようだ。

 ウォルフ達はアルビオンの事などもう全く気にせずに生活している。一家は開拓地に移り住み、ウォルフの手伝いをしながら暮らしている。怪我の治ったニコラスはどこからかまた風竜を捕まえてきてクリフォードに竜の扱いを教えながら調教に勤しむ毎日だ。今回ウォルフがガリアに行くと聞いて飛行機に便乗し、クリフォードも祖父母に会いに来たのだ。

「指名手配……そんな、酷い」
「何故か、俺だけ手配されなかったんだけどね。ちくしょう」
「え?」
「あ、いや何でもない。まあ、父さんが暫く行方不明になって、母さんも随分と荒れていたから。ウチの母さん、怒るとマジ怖いんだ」
「怖いらしいねえ……叔母様が怒ると山を一つ丸ごと溶かしたとか、川を干上がらせたとか、とんでもない話を聞くわ」
「いや、山は無理なんじゃないか? さすがに……川は出来そうな気もするけど」
「でも、大丈夫なの? 何だったら、ご家族みんなでガリアに亡命した方が良いんじゃない?」
「あ、大丈夫。アルビオン王家も認めてないような手配だから気にしていないよ。もうアルビオンに行く事もそう無いしね、運悪く王家と貴族派との勢力争いに巻き込まれちゃっただけだって思ってる」

 実はシャルルがここのところ忙しいのはウォルフ達をガリアへと亡命させようと画策していた所為なのだが、シャルロットには勿論そんな事はわからない。彼女は彼女なりに心からウォルフ達の事を心配していた。

 結局この日はウォルフに相手にして貰えず、クリフォード相手に何回か手合わせをして帰ることになった。護衛達は平民になったくせにシャルロットを相手にしないウォルフに憤懣やるかたないといった風情だったが、シャルロット自身はクリフォードとの杖合わせでもそれなりに充実した時間を過ごせたし、気にしていなかった。
 一対一ではまだまだクリフォードの方が大分強いが、ティティアナと二人がかりで対戦した時はクリフォードを圧倒し、もう少しで一本取るところまで行く事が出来た。 

 ここの城に泊まるティティアナとは一旦別れ、シャルロットはラグドリアンの畔に建つド・オルレアンの城に向かい、ここで一泊した。
 この城はゲルマニアがトリステインを狙っているのではと噂されていた頃、ゲルマニアとガリアとが戦争になったとしても対応できるように、防御力を高める目的で大改修がなされた。風情のあるお屋敷から戦闘用の要塞へと姿を変え、昔の面影は大分無くなっている。思い出の中の姿とは大分変わってしまっているが、ここには幼い頃からシャルロットの面倒を見てくれている使用人達が今も多数働いている。久しぶりに会えた彼らとの対面を楽しみ、翌日シャルロットはティティアナと一緒にリュティスに戻った。

「父さま、ただ今」
「ああ、シャルロットお帰り。またラ・クルスに行っていたんだってね。まったくお転婆さんだな、父さんは心配だよ」
「ふふ、父さまが相手にしてくれないからよ。昨日はウォルフにも相手して貰えなかったし、さみしいわ」
「ああ、彼は今大変らしいからね。ほら、おいで」

 翌日リュティスの屋敷に戻ったシャルロットを珍しく家にいたシャルルが出迎えた。どうも仕事が一段落したらしく、その晴れやかな顔には一点の曇りもない。
 家で見る久しぶりの父の姿にシャルロットは満面の笑顔で抱きつき、たっぷりと甘えた。

「父さまが最近忙しかったのって、アルビオンと関係があるの?」
「まあ、関係ない、とは言えないかな。政治っていうものはどんな遠い国の事でもどこかで繋がっているものだから」
「ウォルフ達平民になっちゃったんだって。父さま、何とかしてあげられないの?」
「彼には以前から僕の下で子爵にならないかってオファーを出しているのだけどね。彼はゲルマニアで爵位を得るつもりらしい」
「そうなんだ…でもいきなり爵位を奪われちゃうなんて怖いわ」
「彼らはちょっと目立ちすぎていたからね。色々と嫉妬を買って足を引っ張られたりするのさ。シャルロットはまだ知らなくて良い事だよ」

 不安そうなシャルロットの額にシャルルが優しくキスを落とす。
 他人の悪意というものをこれまで知ることなく育ってきたシャルロットにとって、ガンダーラ商会がアルビオンから排除されたという話は衝撃だった。何の落ち度もないように思えるものを貴族達の連合が排除し、それを王家も咎めないなど、あって良い事ではないように思える。
 冷え切ったシャルロットの心をシャルルのキスは優しく温めてくれた。

 シャルロットは知らない。
 ウォルフの父ニコラスが爵位を失うきっかけになったモード大公の事件。その事件で、大公家を探ってエルフの存在を掴み、貴族派を焚き付けたのが今優しくキスしてくれた父シャルルだという事を。
 ウォルフの亡命がかなわなかった今、シャルルが貴族派に更なる資金を提供し、アルビオンを混乱に陥れる為に謀略を動かしているという事も。
 アルビオンでの政変に合わせ、ガリアで権力を握るために策動を始めている事も。

 今はまだ、シャルロットが知る事はなかった。


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