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※注意
この話はグロテスクな表現と、倫理的に間違った行動、
非道徳、猟奇的な表現が含まれています。
そういったものが嫌いな方はとても不愉快になるかと思いますので読まないことを推奨します。
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曇りの日。
まだ寒さが残るこの時期の、曇りの日は兎に角寒く、外はまるで全ての生き物が死に絶えたようにしんと静かになっていました。
部屋から見える、外の景色はとても静かに佇んでいます。
光の当たらない暗い森はまるで闇の生産基地で、その如何にも陰鬱な様子を窓から外を見ていたエルザは、とても嬉しい気持ちになりました。
「まあ、なんて素敵な陽気!」
エルザはくるりとまわって喜びました。
「こんな日はピクニックに行きたいな」
そしてエルザは思い出します。
「前に作ったお料理が、たしかまだまだあったはず。
森の中でランチにしよう。それはきっと素敵だわ」
そう思ったエルザは早速エンチラーダの元に陽気な足取りで向かいました。
「あらあらエルザ、一体どうしました」
部屋で何やら作業をしていたエンチラーダは突然やってきたエルザにそう言いました。
「エンチラーダ!私ピクニックに行きたいの!この前食べたあの料理、確かまだ残っていたでしょう?」
ピョンピョンと飛び跳ねながらエルザはそう言いました。
「ええ、前に食べたシビエの残り、確かにいくらか残っています」
そう言ってエンチラーダはベッドの下の瓶詰めを、ゴソゴソ幾つか出しました。
「まあ素敵。それをバスケットに詰めて、森に遊びに行きたいの」
エルザがそう言うとエンチラーダはコクリと一回頷いて、エルザの頭を一回なでり。
「ではバスケットに詰めましょう。ああエルザ、そこの引き出しを開けてください、パイ生地を2つ出してくださいな」
そう言ってバスケットに小瓶とソーセージ、それに沢山の素敵な物を入れていきます。
エルザはウキウキとしながらその作業を手伝います。
「でも気をつけて、森の中には危険がいっぱいです。
お腹をすかせた狼や、とっても怖いオーク鬼、
何が出るかわかりません」
「大丈夫よエンチラーダ、とっても素敵なお守りを私は一つ持ってるの」
そう言って。
エルザは胸に光る、首飾りをエンチラーダに見せました。
「おやおやそれは、なんですか?」
「ブリーシンガメルの首飾り、幸運のお守りよ。テオに作ってもらったの」
「ならばきっと安心ですね、でも気をつけて行ってらっしゃい、黄昏時までにはここに帰ってくるのですよ?」
「ええ、わかったわ!では行ってきますエンチラーダ!」
「行ってらっしゃいエルザ」
そしてエルザはレンガ造りの塔を出て、森の前までやって来ます。
真っ暗な森は近づいてみると、窓から見るよりなおさら暗くて、エルザはとっても嬉しくなってしまいました。
鹿のような足取りで、ホップステップ、エルザは歩き、森の中に入ります。
森の中のひんやりとした空気がエルザを包みます。
まるで死霊にとりつかれたような寒気がエルザに走り、エルザはとても気持ちよさそうに体を震わせます。
「やっぱり森は良いわ、とても良い!」
そういいながらエルザはニコニコ森を歩きます。
暗い暗い森の中。
一人でニコニコ歩きます。
闇の中から動物の奇妙な鳴き声が聞こえます。
枯れ葉の隙間からは、ガラスをこするような虫の音色、
木々の隙間を走り抜ける風は、呻き声のような音を立てます。
それらの音を背景音楽に、エルザはテクテク歩きます。
「さあそろそろお昼にしよう」
そう言ってエルザは朽ちかけた丸太にチョコンと座ります。
ウキウキとバスケットを開けて、その中身を取り出します。
「ああエンチラーダって本当に素敵!」
思わずエルザはそう叫びます。
なにせバスケットの中身はとても美味しそうな食べ物がぎっしりと入っていたのです。
エルザはそれを手にとって、口に入れようとして。
そしてピタリと止まります。
「あら、私ったら、食事の前にお祈りしなきゃ」
そう言って一旦料理をバスケットに戻して、
手を組み合わせてお祈りします。
「ええっとなんて言うんだっけ?テオに教えてもらったのに私ったら直ぐに忘れちゃう。確か…
偉大なるよくわからないのと、この世の中に蠢くなんかよくわからないの、ささやかな糧を私にくれて感謝します、あとエンチラーダとテオにも感謝します…あとは他に感謝する相手は居たかしら?…まあいいわ、思い出したらその時言いましょ」
そう言ってエルザは料理を口に入れます。
「ああ、このレバーペーストの美味しさときたら、ブーダンノワールも綺麗な茶色、ええっとこれはなんていう料理だったかしら…そう!ボローバンクレイベル」
料理はどれも美味しくて、エルザは瞬く間にそれを平らげてしまいます。
料理を食べたエルザは最後にミスターレを一口飲んで、
「満足だわ」
美味しい食事にエルザはすっかり満足してしまいました。
デザート替わりに真っ赤なロリポップを口に入れると、また森の中を歩き始めます。
暗い暗い森の中、エルザだけが歩きます。
霧が踊り、木の葉がうつ伏せ、水滴が飛び降りる森の中。
エルザだけが歩きます。
しばらく歩いた先に、
エルザは真っ白に光る広場を見つけます。
そこには沢山の水晶蘭が生えていました。
「まあ、なんて綺麗なお花」
エルザはそれを数本引き抜きます。
それはとっても綺麗でしたが、抜いた時の感触でそれがとても儚い花だと言うことにエルザは気が付きました。
「綺麗だけれどすぐ枯れちゃいそうね、せっかくおみやげにしようと思ったのに」
エルザはその花をバスケットに入れると、またテクテク歩きます。
ふと、闇が晴れました。
ぼやけた光が辺りを包み、エルザは森の外に出てしまいます。
そこは小さな村でした。
「あら、こんなところに村がある」
エルザはテクテク村に入ります。
「おやお嬢ちゃん、何処から来たんだい?」
その言葉を言ったのは、年をとった農家のおじいさん。
エルザを見かけてそう言います。
「森の向こうのレンガの建物よ。森を抜けてやってきたの」
笑顔でエルザは答えます。
村のおじいさんは言いました。
「それは危ない。
森には怖い生き物がたくさんいるよ、
一昨日も森にキノコを取りに行った、子供が一人食い殺されたよ」
「まあ怖い、でも大丈夫、私には之があるんだもの」
そう言ってエルザは胸に輝く首飾りを指さします。
「一体それはなんなんだい?」
おじいさんは聞きました。
「ブリーシンガメルの首飾り、幸せ運ぶ、不思議な不思議な首飾り。コレがあれば森の中もヘッチャラよ」
「それは不思議なマジックアイテムだね、でも気をつけなさい、世の中に絶対は無いからね。一昨日殺された子供は体の殆ど持って行かれて、腕しか見つからなくて、ご両親はそれはそれは悲しそうに泣いていたよ。お嬢ちゃんに何かあれば、お嬢ちゃんのご両親もきっと泣いてしまうよ?」
顔をこわばらせおじいさんは忠告します。
「そんなに危険ならば、早めに帰ろうかしら、私何だか不安になってきたわ」
エルザは少し不安そうにそう言いました。
「ああ、そうしなさい、森の怖い生き物も、昼なら動きも遅かろう。陽が落ちる前にお帰りなさい」
そう言っておじいさんは森を指さします。
「そうね、そうするわ、でもその前に、おじいさん。其の子供のお墓は何処にあるの?せっかくだからお祈りしていくわ」
くるりとまわってエルザが言います。
「おお、そうかい、優しい子だねえ、お墓はあの村の外れにあるよ」
そう言っておじいさん。
村の外れを指さして、そのまま農作業に戻ります。
エルザはテクテクお墓に向かいます。
白い石で出来た小さなお墓、
石には名前が彫られています。
まだ出来て日がたっていないので、そのお墓だけ、綺麗に輝いて居ました。
エルザはその前に立つと、そこに水晶蘭をそっと備えます。
そしてその場に跪き、手を組んで祈る格好。
そしてその墓にむかってこう言いました。
「ごちそうさまでした」
◆◆◆用語解説
・ランチ
吸血鬼はあくまで吸血をする鬼であるから、レバーや脳を食べるのかについては良くわからない。
ただ原作の記述として、血液ではなく、汗などでも一応は気休めになると言うことなので、体液の類であれば問題ないのだろう。
調理された血液で実際にお腹が膨れるのかは不明だが、気休め程度にはなるのかもしれない。
・ジビエ
gibier
狩猟によって、食材として捕獲された野生の鳥獣。またその肉。
・レバーペースト
フランス語にするとpureedefoieとかになるんだと思う。
肝臓をペースト状にしたもの。
・ブーダン・ノワール
boudinnoir
血の腸詰。ブラッドソーセージのこと。一般的にはニンニク、タマネギ、パセリと柑橘類の香料が調味料として使われる。白ブーダンという料理もあるが、こちらは血のかわりにミルクを使ったもの。
・ボローバンクレイベル
Vol-au-vent-cervelle
ボローバンはパイのような料理、パイ生地の中央を繰り抜いたものに何かを入れたもの。
ボローバンクレイベルは中に脳を入れたもの。
・脳
日本ではあまり一般的ではないが、世界中で愛される食材。トロリと濃厚で、それでいて豆腐のように柔らかい食感。
ちなみに人間の脳は水分量85%で、人体の体の中で一番体液の割合が多い部分。
・ミスターレ
mistelle
甘口の酒精強化ワインをさすが、元の意味は混合すると言うこと。
ワインにアルコールの強い酒を混ぜたものだが、ミスターレはワインの発酵が早い段階でそれを行うので、アルコール度数は通常のワインとさほど変わらないものも多い。
早い話が甘口混合酒。
ちなみに血液は空気にふれると直ぐに凝固するが、ワインを加えることで凝固を抑えることが出来るらしい、試していないので未確定。
・真っ赤なロリポップ
Blood-flavouredlollipopと言うものがホグワーツあたりにあるらしい。
ちなみにエルザが口に入れたのはフレーバーだけでは無いロリポップ。
・水晶蘭
別名、銀竜草、ユウレイタケ
葉緑素を持たない植物。
かつて死んだものを養分にしていると思われ死物寄生と言われたこともあったが、正確には死んだものを養分にする菌類に寄生している。
寄生により養分を手に入れるので、光合成の必要が無い。よって白い。
・ブリーシンガメン
北欧神話に登場する女神フレイヤが持っていたと伝えられている首飾り
原作にも名前だけは出てきたが現実に存在するかは不明。
何でも厄災から身を守ってくれるらしい。
エルザがつけているのはもちろん偽物で、厄災から彼女を守る機能は無い。テオに頼んで作ってもらった其れっぽい首飾り。
ちなみに、エルザが村人にこんな嘘を言ったのには理由がある。
モンスター避けの首飾り。力のない村人にとっては喉から手が出るほど欲しいだろう。
もしかしたらエルザから其れを奪おうとするかもしれない。
その際、もちろん人気のないところで其れを実行するだろう。例えば森の中。
そして、其れは一人、もしくは少数で実行するだろう。首飾りは一つであり、数人で行えば取り合いになるし、相手は小さな少女一人。大人であれば一人でもたやすく奪えると思うはずだ。
精霊の力溢れる森の中、少数で襲ってくる人間。
吸血鬼にとっては最高の獲物である。
つまり幸運の首飾りというのはあながち嘘とは言い切れない。
・ごちそうさまでした
日本独特の文化ではあるが、それに近い言葉は海外にもある。
例えばフランス語の場合ではC’etaitdelicieux。
「美味しかったですよ」と言う意味になる。
・カニバリズム。
食人のこと。
カニバ カニバリズムぞ~ カニバリズムぞ~
厳密には本来人間が人間を食べること、或いは同種内の共食いをカニバリズムというので、吸血鬼が人間を捕食する事はカニバリズムとは違う。
ちなみに筆者は食事に関する主義主張等は特に無い。
例えば鯨を食べてはいけないとか、逆に食べるべきとか、食肉の是非だとか、犬肉問題とか、希少種の問題とか、何を食べるのが自然とか、
昆虫食とか、宗教とか、霊魂とか宇宙人は居るのかとか…そういった思想に対してさして考えは無い。
たとえ考えがあったとしても、それを文章にする気はない。
この話は食べると言う行為を説教臭く語りたいのではなくて、ただ、エルザの日常を書いただけ。