完全なおまけです。
すなわち本編とは全く関係のない話です。
すごく短いです
ストーリーを楽しむようなものでもないです。
スルーを希望するのです。
◆◆◆◆
清々しい陽気のある休日の朝。
騒がしくも楽しかったアルビオンでの冒険も終わり、テオはいつもどおりの平和な生活にもどりました。
ただ、それなりに波乱に満ちた冒険の後では、その平和な生活は少しばかり刺激が足りないようにテオは感じるのでした。
「たまらなく暇であるな」
「ならば何か暇つぶしでもなさいます?」
すぐ側に立っていたエンチラーダがテオの言葉に答えます。
「すぐに暇つぶしが思いつくものでもないしなあ、そうそう簡単に暇は潰せるものでもあるまい」
「いつもの占いはいかがです?」
「少し飽きてきたのだ。できれば違うことがやりたいのだ」
「だったら執筆活動をしては如何ですか?」
「書くことが無い。なにか面白いアイディアが思いつくまで執筆はする気がおきない」
「今はいい天気ですので、外で散歩というのはどうでしょう」
「うむ…悪くない、悪くは無いが…もう少しいつもと違うことがしてみたいな」
「ならば料理などはどうでしょう、とても楽しいと思いますよ」
「良いアイディアだが…さすがにコックたちが使う厨房を吾が勝手に使っては問題だ」
「大丈夫かと、今の時間は調理場は誰も使っていないはずです。御主人様が厨房を使うのには何ら問題はないかと…」
「とくに使われていないと言っても、実質あの厨房の主はコック達だ、そこを我が物顔で吾が荒らせば、奴らも良い気はしないだろうさ」
「然様で御座いますか…しかしそうなりますと、何がほかに御主人様が満足しそうな娯楽ですか…」
カクリと首をかしげながら、エンチラーダは考えます。
素早く思考を巡らせて自分の主人が喜びそうな答えを探しますが、エンチラーダの頭にはなかなか良い案が浮かばず、エンチラーダは困り果てました。
例えば、どんなことだったらテオは喜ぶのでしょうか?
「仮に今まで絶対にやりそうもなかった事をやるというのも面白いかもしれない」
「今まで絶対にやりそうも無い事ですか?」
「過去にやっていないことに挑戦するのは何かと楽しそうだからな」
「ならば全裸になり、自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむき『びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!』とハイトーンで連呼しながら…」
乱心以外でも何物でもない行動を勧めるエンチラーダに、テオは慌ててそれを否定しました。
たとえそれがテオの希望通り過去にやったことが無い行動であっても、なにせそれはあまりにも異常な提案だったのですから。
「乱心極まり無いだろ!さすがに人間として大切な尊厳を捨て去りすぎだ、吾はもう少し吾らしい行動がしたい」
「衣類を脱ぎ捨てた上で泉の水を飲みつくすとか…」
「怪物か!?何も着ないで泉の水を飲みつくす生物とか…物の怪の類としか思えんわ!人間なのだぞ吾は!」
「裸で踊りつつフライで世界中を飛び回っては…」
「裸にこだわりすぎだろ!なぜ裸だ?吾らしいイコール裸だとお前は思ってるのか?だとしたら吾泣くぞ?もっとこう…高貴で、雅な…」
「ならば魔法を使って何かしては如何ですか?御主人様はメイジなのですから、魔法を使ってこそ御主人様らしいかと」
「とくに今までも魔法は使ってきたからなあ。今までにやってなかったことを魔法でするとなると何が有るだろう」
うーんうーんと唸りながらテオは考え込みます。
すでに今まで魔法で出来ることはあらかたやりつくしたテオに、未体験の魔法といっても一体どんな物がのこされているでしょう。
「うむ!そう言えば、吾は罪のない人達を、魔法で意味もなく虐げたりとかしたことがなかったな」
「な!」
「なかなか面白そうです」
すぐうしろにいて二人の会話をそれとなく聞いていたエルザが、とんでも無い事を言ったテオに自分の耳を疑います。
凄い内容の発言ですが、一方でエンチラーダは特にその言葉に驚いた様子もなく当然のようにそれを受け入れています。
「すこし体を動かしたいと思っていたところだし、時に他人の嫌がることをするというのも乙なものだろう」
後ろにいたエルザはテオの乱心とも言えるその言葉に混乱の世界へと旅立ちました。
確かにテオは変わり者ですが、突然罪のない人達が嫌がることをすると発言すれば驚くのも無理は無いでしょう。
「動くには良い陽気です。きっと楽しいと思われますよ?」
「よし、ではそこらじゅうで暴れまわろう、暴虐の限りを尽くす。いっそこの国を破壊するのもよいか」
「過激ではありますが、なかなかに面白そうでございます」
「すべてを焼き尽くす炎をそこら中に撒き散らすというのはどうだ?」
「誰にでもできることではなく、御主人様だからこそ出来る素晴らしい暇つぶしかと」
「となれば、思い立ったが吉日だ。すぐにでも行動にうつすべきか…」
「かなり衝撃的な話の内容に私は驚きを隠せないんだけどぉ!!…え?テオ?エンチラーダ?一体どうしちゃったの?いきなりそこらを焼きつくすとか」
傍らでそれを聞いていたエルザがたまらず会話にわりこみました。
たった今、目の前でされた二人の会話。
わけの分からないことを言い出す二人は、一体何をこれから始めようとしているのでしょうか?
「片耳をこちらに向けているとおもいきや、盗み聞きですか?エルザ。あまりそういった行動は淑女的ではありませんので控えるべきです。もし興味があったのならば、最初から話に参加すればいいのです」
「少しは淑女的な行動を心がけるべきだなエルザ、吾とエンチラーダの遊戯に途中参加するのはルール的によろしくない」
「いやいや………………あれ?え?遊戯?ルール?え?先刻からなんか物騒な会話にしか聞こえなかったけれど、遊戯とかルールとかって、一体どういうこと?私さっぱり理解出来ない?」
「いや何、言葉通りの意味だ、今まさに吾とエンチラーダで遊戯をしているのだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「いかにも過激な会話に聞こえますが、別に何の変哲もない日々の遊びをしているだけですよ?」
「要は先ほどまでの会話の内容には特に意味など無いのだ」
「だから、会話の内容に怯える必要はないのです」
すごく楽しそうにそう言う二人に、エルザは首を捻ります。
「少なくとも、この会話において楽しむのは、会話の内容とは別のところなのだよ」
「ようく私たちの会話を思い返してみれば自ずとその意味が理解できるはずですよ」
「よくわからないけど…会話の内容とは別の所で楽しんでたってこと?さすがにそれだと私には理解出来ないわよ?」
「ようは単純な言葉遊びなのだが…エルザには少し難しすぎたかな」
「何?なんだかバカにされてるような…」
「なにもバカになどしていませんよ。むしろ周りに気づかせずにそれをやるのも楽しみの一つなのです」
すっかり置いてけぼりのエルザをよそに、テオとエンチラーダが笑います。
「少なくとも、エルザが吾らの遊戯に付いてこれるようになるにはもう少し付き合いが長くなくてはな」
「何事も経験です。ともにいる時間はお互いの思想を近づけるのです。そうなれば多くを語ること無くお互いこうして遊戯に耽ることができるのですよ、もう少しエルザも私たちを理解していれば、この遊戯の正体も直ぐにわかったのでしょうね。『ああつまりはこういうことか』…と」
「とにかく二人は二人にしか理解出来ない遊びをしていて、私はそれに振り回されているってこと?」
「特に振り回してはおらんさ、エルザが勝手に吾らの遊びに入り込んで自ら振り回っているにすぎん」
「ん?」
「ん…ん?ん!!………………んむ。吾、負けた」
唯一言。テオがそう言ってテオとエンチラーダの暇つぶしは終わります。
すなわちそれは、いつもどおりの平和な日常でした。
◆◆◆たのしい用語解説
・つまり
理解できた人は早い段階でオカシイと気がついただろうが、各文章を良く読んで欲しい。
・嫌がることをするというのも
もう如何にも過激な発言で、思わずエルザが話しに割り込んだ。
だが、もちろんこの発言はテオの本気ではなかった。
ただ適当に話しているに過ぎない。
・今まで絶対にやりそうも無い事
特にびっくりするほどユートピアは絶対にやらない。
・いや何、言葉通りの意味だ、今まさに吾とエンチラーダで遊戯をしている。
ルールは簡単。つまり相手の会話の最後を自分の会話の最初にするのだ。
・だからつまりは
はやいはなしが二人は「しりとり」で遊んでいただけ。
けれども途中でエルザが乱入し、しりとりが滅茶苦茶になるはずが…そうなってはいない。
いくつかエルザの言葉が入っているが、それを抜いていただいても構わない。いっそ地の文も抜いてしまってよいだろう。