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No.34559の一覧
[0] ゼロの出来損ない[二葉s](2012/08/13 02:16)
[1] プロローグA エンチラーダの朝[二葉s](2012/08/13 22:46)
[2] プロローグB テオの朝[二葉s](2012/08/13 22:47)
[3] 1テオとエンチラーダとメイド[二葉s](2012/08/12 23:21)
[4] 2テオとキュルケ[二葉s](2012/08/13 02:03)
[5]  おまけ テオとタバサと占い[二葉s](2012/08/13 23:20)
[6] 3テオとエンチラーダと厨房[二葉s](2012/11/24 22:58)
[7] 4テオとルイズ[二葉s](2012/11/24 23:23)
[8]  おまけ テオとロケット[二葉s](2012/11/24 23:24)
[9] 5テオと使い魔[二葉s](2012/11/25 00:05)
[10] 6エルザとエンチラーダ [二葉s](2012/11/25 00:08)
[11] 7エルザとテオ[二葉s](2012/11/25 00:10)
[12] 8テオと薬[二葉s](2012/11/25 00:48)
[13] 9エルザと吸血鬼1[二葉s](2012/11/25 00:50)
[14] 10エルザと吸血鬼2[二葉s](2012/11/25 01:29)
[15] 11エルザと吸血鬼3[二葉s](2012/12/20 18:46)
[16]  おまけ エルザとピクニック ※注[二葉s](2012/11/25 01:51)
[17] 12 テオとデルフ[二葉s](2012/12/26 02:29)
[18] 13 テオとゴーレム[二葉s](2012/12/26 02:30)
[19] 14 テオと盗賊1[二葉s](2012/12/26 02:34)
[20] 15 テオと盗賊2[二葉s](2012/12/26 02:35)
[21] 16 テオと盗賊3[二葉s](2012/12/26 02:35)
[22]  おまけ テオと本[二葉s](2013/01/09 00:10)
[23] 17 テオと王女[二葉s](2013/01/09 00:10)
[24] 18 テオと旅路[二葉s](2013/02/26 23:52)
[25] 19 テオとサイトと惨めな気持[二葉s](2013/01/09 00:14)
[26] 20 テオと裏切り者[二葉s](2013/01/09 00:23)
[28] 21 テオと進む先[二葉s](2013/02/27 00:12)
[29]  おまけ テオと余暇[二葉s](2013/02/27 00:29)
[30] 22 テオとブリーシンガメル[二葉s](2013/02/27 00:12)
[31] 23 テオと救出者[二葉s](2013/02/27 00:18)
[32] 24 サイトとテオと捨てるもの[二葉s](2013/02/27 00:27)
[33] 25 テオとルイズ1[二葉s](2013/02/27 00:58)
[34] 26 テオとルイズ2[二葉s](2013/02/27 00:54)
[35] 27 テオとルイズ3[二葉s](2013/02/27 00:56)
[36] 28 テオとルイーズ.[二葉s](2013/03/22 22:39)
[37] 29 テオとルイーズとサイト[二葉s](2013/03/24 00:10)
[38] 30 テオとルイーズと獅子牙花.[二葉s](2013/03/25 15:13)
[39] 31 テオとアンリエッタと竜巻[二葉s](2013/03/31 00:39)
[40] 32 テオとルイズと妖精亭[二葉s](2013/09/30 23:46)
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[34559] 31 テオとアンリエッタと竜巻
Name: 二葉s◆170c08f2 ID:dba853ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/31 00:39

白雪姫という御伽話。

 白雪姫というとても美しい姫が、その美貌を継母に嫉妬され、彼女を殺そうとします。
 白雪姫は猟師の機転や7人のドワーフ達によって何度も助けられますが、
 最後にはとうとう継母が化けたりんご売りの差し出した毒リンゴによって死んでしまいます。
 7人のドワーフは死んだ彼女をガラスの棺に入れ彼女の死を悲しみました。
 そこに王子が通りかかます。
 王子はガラスの棺に入った白雪姫を一目見るなり、死んだ彼女に恋をします。
 死体でもいいからと王子は白雪姫にくちづけをして。
 そして毒リンゴを食べて死んだ白雪姫は、
 
 
 王子のキスで生き返りました。
 けだし有名なこのお話は死者の復活によってハッピーエンドを迎えます。


 死人の復活。
 そういった逸話は宗教や伝記や、あるいは伝説、時には怪談や演劇等、色々な話で語られます。

 一度死んでしまった人間を生き返らせる。
 それは多くの人間が望み、そして夢見たことでもあります。
 しかし、それは現実にあり得るのでしょうか。
 確かに、我々の世界でも真核単細胞生物やベニクラゲのように、ある意味で不老不死と言える生物はいます。しかし、そんな生物達でさえ、一度死んでしまえばもう蘇ることはありません。
 
 覆水が盆に返らないように。
 死者は決して蘇らないのです。
 
 それはたとえ魔法がある、このファンタジーな世界でも同じでした。
 
 どんな不可思議な魔法を使っても。
 
 
 死者は蘇らないのです。
 
 
◆◆◆



 ある日の夜。
 トリステインの王女、アンリエッタの部屋がその一連の騒動の発端でした。

 アンリエッタは目の前のその状況が信じられず、只々目を見開きました。
 今彼女の前にしっかりと立つその人間の存在を、理解できず、兎角混乱していました。
 
 ソレは嘗て自分が愛した人間でした。
 
 もう二度と会えないと思っていた人間、ソレがいま目の前で、
 自分の目の前で、自分の事を見ながら言葉を発しているのです。
 
 そして、その口から発せられる言葉。
 
 ソレは嘗てアンリエッタが言って欲しくて、
 しかしついに最後まで聞くことが出来ない言葉でした。
 

「愛している。アンリエッタ。僕とともに来てくれないか?」
 そんな声が、ソレの口から発せられました。
 
 はっきりと聞こえるその声。
 ソレはまるで、生き生きとした略同感あふれる声でした。
 
 
 しかし。 
 その声を発したのは。
 死んだはずのウェールズだったのです。


 彼女の中に渦巻く色々な疑問。
 
 
 なぜ死んだはずの人間が目の前に居るのか。
 なぜ。
 
 どんなに考えてもその答えは出ませんでした。
 
 
 ただひとつ確実な事は。
 目の前で発せられるその声に、アンリエッタの心臓は何時もより大きな鼓動を響かせるということでした。
 
 

◇◆◇◆

 魔法学院は今日も平和でした。
 惚れ薬の騒動も終わり、テオ達は今までの日常へと戻っています。
 
 しかし、全てが元通りになったわけではありません。
 あの出来事。惚れ薬から始まる一連の事件は、皆の心に大きな何かを残しました。
 サイトも、ルイズも、モンモランシーもギーシュも、何かが変わっていました。
 皆、今までどおりの生活に戻ろうとしながら、何処か、今までとは違っていました。
 
 そんな中。テオは、テオだけは今までと変わらない、まるであの出来事がなかったかのような態度でした。
 今日もテオは何時ものように、学園の校庭で一人、寝ぼけ眼で錬金の練習なんぞをしているのです。
 そしてその表情はまるで今までの出来事がなかったかのように平然としていました。
 
 
 そしてそんな様子を少し離れた位置で見ている影が一つありました。
 ルイズです。
 
 ルイズはテオの様子を見ながら、イライラとしていました。
 
 彼女は一番にあの騒動の影響を受けていました。
 無理もありません。
 なにせ。薬で心を変えられていたとは言え、ルイズの中には記憶が無くなったわけでは無いのです。
 たしかにあれらの行動は自分では無く「ルイーズ」という、別人が起こしたことなのかもしれません。
 しかし、ルイズの中にはテオを愛した記憶も、テオと行動した記憶も、
 そしてテオとキスをした記憶もしっかりと残っているのです。
 
 そんな彼女が平静で居られようはずがありません。
 結局ルイズはここ数日の間、悶々とした気持ちで日々を過ごしていたのです。
 
 それなのに、一方でテオはまるで今までどおりの生活に、あっさりと戻っています。
 いえ。
 平然としすぎていました。
 
 その様子。
 まるで自分とは対照的なその様子に、ルイズは不快感を隠せませんでした。
 
 木陰からテオの様子を観察しながらルイズはギリギリと歯ぎしりをしながらテオに対する不満をつのらせます。
 その姿ときたら如何にも鬼気迫るもので、いつも彼女の傍らにいるサイトでさえ、距離をとってしまうほどの様相でした。
 
 ルイズは考えました。
 なぜ。
 なぜテオはあんなにも平然としている。
 自分がこんなに心を乱しているのに。テオはまるで平静だ。
 本来であればショックを受けるなり、落ち込むなりして然るべき。なのに。
 たとえ常識が斜め上にずれているテオだとしても、この平然さはオカシイ。
 
 そこまで考えて。
 ルイズは有ることに気が付きました。
 
 オカシイ?
 そうだ。オカシイだろう。
 普通に考えて、彼が平然と出来るはずが無い。
 いくら彼がマイペースだとは言え、あそこまでのマイペースは帰って不自然だ。
 つまり。
 あの平静は装っているに過ぎないのではないだろうか。
 そうルイズは思いました。
 
 するとどうでしょう。ルイズの中にあった不快感は、サアっと溶けて消えていました。
 どうしようもない心のウネリを隠し、平然を装うテオ。
 いつも面倒くさいくらいの奇行が目立つ彼が、いまこうして静かにしている。
 なるほど、テオも人間らしい所があるではないか。
 さて、ではそんなテオに対して自分はどうするべきか。
 無視するか。それとも何か言葉をかけるべきか。
 少しばかり思案したルイズは後者を選ぶことにしました。
 
 のっしのっしとテオの前に進むと、テオの目の前に仁王立ちし、そして彼に向かってこう言いました。
「かかか、勘違いしないでよね。確かに私はあの時アンタに色々言ったかもしれないけれど。ソレもコレも薬のせいなんだから。ノーカンよ!ノーゲームよ!」
「?」
 ルイズの言葉にテオは首を捻りました。
 突然現れわけのわからないことを言う少女に、テオは混乱します。
 
「私はね、アンタなんか好きでもなんでもないんだからね!その…私に惚れられても…困るんだからね!?」
 ルイズの言葉。それはテオに対してひどい言葉を言い日頃の鬱憤を晴らすという目的も少しはありましたが、ソレ以上に彼に対する叱咤激励のようなものでもありました。
 自分のことはとっとと忘れてしまえ。今まで通りのお前に戻れ。
 そういう意味も多分に含まれていたのです。
 
 しかし、そんなルイズの言葉に対するテオの反応は冷たいものでした。
「よく判らんが…何が楽しくて吾が貴様に惚れなくてはいかんのだ?」
「え?」

 テオは心底ありえないという表情をしていました。

「ありえんだろ?さすがの吾も相手は選ぶぞ?いやさすがに贅沢を言うわけではない。何も性格の良い絶世の美女と恋に落ちたいなどと荒唐無稽なことを言うつもりはない。
 しかしな?さすがに最低限の基準というものはある。
 性格悪くて、ちんちくりんで、口うるさい女とか。
 ありえんだろ。それに惚れるとか、もう完全に罰ゲームだろ。
 馬鹿なの?死ぬの?」
 
 無表情のテオの口から発せられるその言葉に、ルイズはワナワナと震えました。
 
 そして。
 
「このクッソ馬鹿あ!!!!」 
「あぶね!!」

 テオが即座に身を傾けると、彼の後方にある木が轟音と共に爆発しました。
 ルイズがテオに向かって魔法を唱えたのです。
 
「何避けてんのよ!ちゃんと当たりなさいよ!」
「アホか!!死ぬわ!」
「乙女の純情を弄んだ人間は死に値するわ!!」
 そう言ってルイズは再度魔法を唱えます。
 テオの態度。何もかも無かったことのようなその態度が許せなかったのです。

「意味が判らん、なんだ何がしたいんだオマエは」
 このままでは自分の命が危ないと思ったテオフラストゥス。
 誰か助けてくれる存在は居ないかと辺りを見渡しますが、あいにくと側にはエンチラーダもエルザもいませんでした。
 しかし、少し離れた木の陰に、何やら見覚えがある顔が。
「誰か…って、おい、そこの!ボンクラ!木陰からこっちを見てるのは解ってるんだぞ!さっさとこっちに来てこのバカを止めろ!オマエ保護者だろうが!」
 彼の視線の先ではサイトが二人の様子をこそこそと伺っていました
 しかし、彼がそこから動く気配はありません。

「俺、まだ、死にたくない、だから、おれ、止めない、とばっちり、とてもこわい」
 プルプルと震えながらサイトがそう言いました。

「役立たずが!」
 そう言いながら、テオは再度周りを確認します。もうこの際エンチラーダやエルザでなくても構わない。
 何であってもルイズの気を紛らわせる物があればそれで良い。
 
 そう思いながらテオが辺りを見ると、自分の座っていたベンチの直ぐ後方に穴が有ることに気が付きました。
 それ自体は何の不思議もありません、数日前、テオが塹壕戦の練習のために開けた穴です。
 しかし、その中から視線が。そして、見覚えのある赤い髪の毛が…。
 
 
「キュルケ!!!!!」
 その穴の中には目を爛々と輝かせたキュルケと死んだ魚の眼をしたタバサがいました。

「キュルケですって!?」
 キュルケの存在は幸いな事にルイズの注意を引きつけるのに十分なものでした。

 2人の視線を浴びたキュルケはウェヘッヘッヘとまるで魔女が笑うように、にやけながら穴からはい出てきました。
「なにアンタ!そんなところで何してんのよ!」
「オマエは何をしてるんだ?」
 2人のその言葉に、キュルケはニヤニヤとした表情を崩さずこう言いました。

「だって、あんなことがあった後でしょ?どんなことになるのか気になって気になって」
「全く覗きとは少々淑女的では無いと思うのだがな」
「ほんと、ツェルプストーは下世話ね」
「そうは言うけれど仕方ないじゃないの。だって、テオとルイズがキッスだなんて。その後が気になるのは当然の摂理よ。ね、タバサ」
「…」
 タバサは無表情で遠くを見ていました。
 恐らく無理矢理キュルケに付き合わされているのでしょう。無表情ながらその様子からは辟易としたものが見て取れました。

「その後も何も、別になにもありはせんよ」
「そそそ…そうよ!何もあるわけがないじゃない!テオとなんて!私だって好みぐらいあるわよ!!!」
「どんな?」
 キュルケのその間髪入れない言葉にルイズはたじろぎました。
「…え?」
 まさか『どんな?』なんて返されるとは思っていなかっただけに、ルイズは返答に困ります。
「そういえば、ルイズの好みって聞いたことなかったわね」
「そうだな、確かに」
「ええっと、ええっと…」
 周りの皆も興味津々といった様子でルイズの方を見ました。
 ルイズは思案しました。

 自分の好み?テオは当然却下。
 サイトは…いや、そりゃあ言う程悪くはないわよ?…無くはないっていうか、普段は駄目だけどたまにカッコいいっていうか…って馬鹿!この場でそんなこと言ってみなさい!大変なことになるわ!却下、却下。
 ええっとあと男は、お父様…は駄目ね。確かに好きだけどファザコンだと思われちゃうわ。他に男だと、ギーシュ、コルベール、ギトー、マルトー、学園長…どうして私の周りってろくでもない人間しか居ないのかしら。
 いい男と言う意味ではワルドがそうだと言えなくもないけれど、アイツ敵だし性格最悪で裏表あるし、あとは…
 
「そうだウェールズ皇太子!」
「皇太子?」
「そうよ、彼みたいな人間が好みよ!」
 実際の所、ルイズの好みがウェールズ皇太子だと言うわけではありませんでした。
 しかし、ここで適当な人物の名前をいって、自分の美的感覚が異常だと判断されるのは彼女としても不快です。
 ですから、万人にとって理想的なイイ男でもあるウェールズの名前を出しその場を切り抜けようとしました。

「ソレだ!!!!!!!」
 突然のキュルケの大声に、ルイズ他、その場の皆が驚きました。

「え?何どしたの?」
「キュルケの中でウェールズは叫んじゃうほどにジャストミートだったのか?」
「まあ、いいやつだったのは確かだけど」
「…」
「違う違うわよ!そうじゃなくて、思い出したのよ。確かにアレはウェールズ皇太子だったんだわ」
「「「「???」」」」

 キュルケのその言葉が理解できず全員が混乱します。

「確かに何処かで見たと思ったんだけれども、アレはウェールズ皇太子様だわ。ゲルマニアの皇帝就任式で見た顔とおんなじだわ」
 キュルケはそう言いました。
 
「アレ?ウェールズ皇太子?どう言うこと?」
 キュルケの言葉の意味の分からないルイズは説明を求めました。
 そして、キュルケはその場で語ります。
 
 ラグドリアン湖に向かう途中、馬に乗った一行を見たこと。
 そして、その一行に、見覚えの有る顔があったことを。
 
「何処かで見たこと有るなあって思っていたけれど、今の言葉で思い出したわ、アレはウェールズ皇太子殿下よ、生きてたのね」
「そんなバカな!」
 いつの間にか皆のすぐ後に来ていたサイトが叫びました。

「アイツは死んだはずだ」
 目の前で、ウェールズはワルドに胸を刺され死ぬのを見ていたサイトには、キュルケの言葉を到底信じることはできませんでした。
 
 しかしキュルケはその瞬間を見ていたわけではありません。
 ですから何処かとぼけた調子でサイトに尋ねました。
「あら?そうなの?じゃあ私が見たのは誰だったの?」
「人違いだろ」
 きっぱりとサイトは言いましたが、キュルケはその言葉に首を振りました。
「あんな色男を私が見間違えるわけ無いでしょう?きっと何かすごい理由で生きてたんじゃない?」
「すごい理由ってなんだよ」
「すごい理由はすごい理由よ!ね、えっとほら、なんか世界のスーパーエネルギー的な何かよ?」
「そうだな、確かに、確かにキュルケのいうことは一理ある」
 キュルケの言葉をテオが肯定しました。

「死んだと思っていた人間が生きていたなんて話は古今東西沢山ある。
 何かの拍子で皇子が生きていたという可能性は確かにありえるだろう。 何か凄い奇跡の可能性は有る。確かに有る。
 だがな、だが、その可能性よりもな。 
 簡単で下衆な奇跡に心当たりが有る。
 可能性という意味ではソレが一番デカイな」

 その言葉に、ルイズとサイトの頭で何かが結びつきました。
 
 下衆な奇跡。
 水の精霊の語っていた秘宝。アンドバリの指輪。
 そしてその能力を。
  
「キュルケ!その一行はどっちに向かっていたんだ?」
「私達と反対方向だから…方向としては、トリスタニアの方向ね」
 その言葉を聞いて、
 ルイズは駆け出しました、サイトもその後を追います。
 
 突然走りだした2人にキュルケとタバサは戸惑いながら並走します。
「え?なに、どう言うこと?」

「姫様が危ない!!」
「タバサ!あの竜を出して!」
 状況が理解できないタバサですがルイズの剣幕からなにやら重大な状況であることを悟り、口笛を吹いて使い間を呼びました。

 そしてそのままルイズ達は竜にまたがり。
 竜はふわりと羽ばたきました。

「急いで!」
 ルイズが叫びます。
「だが決して揺らさず急いで飛んでいってそして早く助けに行くのだ。いいか、決して揺らさずだぞ?」
 ルイズの言葉にテオがかぶせるように言いました。
 



 皆がテオの方を見ました。
「あんた何で付いてきてんのよ!」
「おまえ、吾の服をがっちり掴んでおきながらその言葉をよく言えるな!!」
「え…あ」
 その時になって初めてルイズは自分の右手が未だテオの胸ぐらを掴んで居ることに気が付きました。

「強制連行しておいて …って早い早い早い、もっとゆっくり優雅に飛んで!落ちる!」
「「「無理」」」
 一人騒ぐテオを他所に、竜はグングンと進みました。


◆◆◆



「何奴だ!!」
 トリスタニアのお城に到着し竜が地面に降りた一行が最初に投げかけられた言葉は、そこに居た兵士の怒鳴り声でした。

「姫様は!いえ、女王陛下は!?」
 兵士の問いには答えずに、ルイズの叫び声が中庭に響きました。
 平時であれば、問答無用に切られてもおかしくはないような不敬極まり無い行為でしたが兵士の方もそれどころではありませんでした。
 
 なぜならば、ルイズとサイトの予想は見事に当たっていたのです。
 姫は城から消え、場内は大混乱の最中だったのです。
 
 大混乱の状況の中。突然出てきた竜の存在は、ただ煩わしいという感情以外の何物も兵士には与えませんでした。
「貴様らに話すことではない!とっとと立ち去りなさい」
 だから特に咎めることもなく、早々に出て行けと、そう言いました。

「私は!女王陛下、直属の女官です!許可書も有るわ!私には、陛下の権利を行使する権利があります。状況を説明しなさい!」
 そういってルイズはポケットから紙片を一枚出しました。
 
 兵士はその紙片を手に取り見ると彼女の言うとおり、ソレはアンリエッタ直筆の許可証でした。
 
 兵士は面食らって姿勢を正しました。
 そして彼女に求められた通り、状況を説明し始めます。
「今から2時間ほど前、女王陛下が何者かによって攫われました。警護の者を蹴散らし馬で駆け去りました。現在ヒポグリフ隊がその行方を追っています。我々は現在ここに手がかりが残されていないかを捜索中であります」
 その言葉にルイズの顔色が変わりました。
「どっちに向かったの?」

「賊は街道を南下しており、ラ・ローシェルの方向へと向かっています。アルビオンの手のものだと思われます。先の戦いで竜騎士隊がほぼ全滅しており、ヒポグリフで追いつこうとしておりますが…」
 ヒポグリフは確かに素早い幻獣です。
 しかし、その速度は竜のソレよりは幾分か遅く、兵士の話しぶりからは賊に追いつけるかは微妙なところのようでした。
 
 ルイズ達は再び竜に飛び乗りました。
「急いで、姫様を攫った賊はラ・ローシェルへ向かってる、夜明けまでに追いつかなきゃ」
 事情を聞いていた一行は緊張した面持ちで頷き、タバサは風竜に命令しました。
 
「しかし、決して揺らさず、できるだけ風の影響を…って早、はやいわああ!」
「低くよ!敵は馬に跨ってる」
 風竜はそのまま低空飛行をします。
 暗闇の前が殆ど見えない状況を、まるで昼間であるかのように障害物を巧みによけながら。
 テオの叫び声をこだまさせながらあっという間にその場から消え去りました。

 低空で素早く移動する竜。

 テオが憔悴しきって無言になる頃。
 一同は街道上に無残に横たわるそれを見つけました。
  
「ひでえ」
 思わずサイトがそう呟きました。

 そこにあった死体はどれも無残な形をしていたのです。
 周りに居る馬やヒポグリフからして、恐らく先発していたヒポグリフ隊なのでしょう。
「生きてる人が居るわ!」
 キュルケの声がしました。
 
「ふむ…」
 テオが水の魔法をかけましたが、元々の傷が深いようで兵士は以前苦しそうに呻きました。 
「……あんたらは?」
 苦しそうに目を開けた兵士が周りを見ながらそう言いました。
 その言葉にサイトが答えます。
「後発隊だ。いったい何があった?」
 
 震える声でその騎士が告げました。
「あいつら、致命傷を負わせたはずなのに…なのに全然倒れないんだ」
 それだけ言うと、騎士は助けが来たという安心感でそのまま意識を無くしました。


 それと同時に。
 辺りから魔法が飛んできました。

 タバサとテオがそれに反応しました。
 2人はまるで奇襲を予想していたかのように、辺に空気の壁を作るとその魔法を弾き飛ばします。
 
 そして、草むらから幾つかの影が立ち上がりました。
 
 ソレは服装からアルビオンの貴族のようでしたが。
 その表情には人間らしさが無く。まるで出来の良いゴーレムのような様相でした。
 恐らく、いや、間違いなくアンドバリの指輪によって蘇ったアルビオンの貴族なのでしょう。
 
 そして。そしてその中心に見覚えのある人影がありました。
 
「ウェールズ皇太子!」
 やはり居たのか。サイトはそう思いました。
 死んだウェールズがこうして立っている理由、まず間違いなくアンドバリの指輪が原因です。
 死者を弄び、アンリエッタをさらおうとするその卑怯なやり口に、サイトの中に怒りがこみ上げました。
 
「姫さまを返せ」
 サイトのその言葉にウェールズは微笑をあげました。
「おかしなことを言うね、返せも何も、彼女は自分の意思で僕と共にいるんだよ」
「なんだと?」
 その時になって、皆はウェールズの後方に、アンリエッタが居ることに気が付きました。
「姫様!」
 ルイズが叫びます。
 
「さて、取引といこうじゃないか」
 ウェールズが言いました。
 
「取引だって?」
「そうとも、此処で君たちとやりあっても良いが、僕たちは馬を失ってしまってね、早く次の馬を調達しなくてはいけないし、道中はまだ長い。魔法はなるべく温存したいんだ」
「そんな要求飲めるわけが無いだろ!!」
 サイトはそう叫びましたが、その隣でテオがいつものごとく冷静な声で言いました。
「ふうむ。悪く無い取引かもしれんな。我々としても利点しか無い。屑がこの国から一人消えるんだ。むしろ拍手で持ってそれを称えたいところだな」
「「テオ!!」」
 ルイズとサイトが攻めるように彼を睨みますがテオは怯みません。

「いっちゃあなんだが、そこの糞女はこの国にとって害悪でしか無い。面倒事ばかり起こすしな。だから、それを引き取ってくれるというのはとても魅力的な提案なのだ」
 彼のその言葉に、ウェールズはニヤリと笑いました。
 この状況での相手の仲間割れは、ウェールズ達にとってとても良い状況だからです。
 うまくすれば、テオはこちらに協力してくれる可能性すら有るのではないかと、そう思えました。
 
 
 しかし、その可能性は、次のテオの一言で消え去ってしまいます。
「だがな…悪いが許すわけにはいかん」
「!」
 先程までの言葉を否定するようなその言葉。
 その言葉に、今度はルイズとサイトの表情が綻びます。
「そ…そうよ。姫様はトリステインの…」
「違う。あの小娘なんぞどうでもいい。吾が許せんのはな、その隣だ。隣の…それだ、腐れ死体」
 そう言ってテオはウェールズを指さしました。

「悪いが、ソレは許せない。吾は嘘や偽物の感情というものが嫌いでな。そして、そしてその死体は、その全てが偽物だ」
 そして。テオは目にも止まらない速さで杖を抜いたかと思うと。

 次の瞬間にはウェールズのその体から石が生えました。
 正確にはテオの放った石矢の魔法がウェールズを貫いたのです。

「ッ!!!」
 アンリエッタの声にならない叫びが響きます。
 その場に居た皆は、それでウェールズが死んだと思いました。

 しかし、ウェールズの体は依然としてそこに立ったままです。

「大丈夫だよアンリエッタ」
 体から石矢を生やしながら、ウェールズのような何かがそう言いました。

「ッ!!」
 そこに居た全員が息を飲みます。
 
 体から石を生やして、平然と立っているソレ。
 普通の人間だったら即死の状況で、笑顔でそこに居るソレ。
 そう、ソレはどう考えても人間ではありえませんでした。

「そうだ、ソレが正体だ。
 死体をほとんど損傷のない状態で明け渡すということは、それを利用されるということでもある。たとえ、指輪など無くても。クリエイトゴーレムや水の魔法で死体などどうとでも操れる。正に生ける屍。それはもう、人間なんてものじゃあない。
 あの時、その男の死体は粉微塵にしておくべきだった。死して屍を晒すということが、この世界で一番に惨めなことでもある。ソレは許されざることだ!」

 テオは叫び、そして、再度杖を構えます。

「ウェールズ様には指一本たりとも触れさせないわ!」
 そう言ってアンリエッタがウェールズをかばうように立ちますが、その彼女に対しても、テオの視線は緩みませんでした。

「触れる必要は無い、魔法ですり潰す」
 こうして、闇世の中。
 
 
 
 
 戦いが始まりました。
 
 
◆◆◆


 敵の連携は巧みでした。
 ウェールズ達をかばうように動いた敵の兵達はすぐにその体制を整え。
 いつの間にか、一同はルイズを囲むように円陣を組んでいます。
 規律良く。無駄のない動き。
 敵の数は多く、隙がありません。

 しかし、ルイズ達一同も決して負けてはいません。
 正に襲いかからんとする兵の一人に、キュルケは炎の魔法をぶつけます。

 そして幸運なことに、その魔法は思いの他効果がありました。
 炎に焼かれたその兵は、体を焦がし、それ以上立ち上がることが無かったのです。
 
 アンドヴァリの指輪による不死に近い軍団の思わぬ弱点に、一同は勝機を見出しました。
 
 そして。
「炎がきくわ!燃やせばい…………」
 キュルケが言い終わるより前。
 
 ごうっと音がしました。
 突然の音に、キュルケが音のした方を見ると。
 そこはまるで山火事のように燃えていました。
 
「なるほど、それもそうだな、古来よりアンデットには火が有効と相場が決まっている」
 
 共闘は不要。
 援護も不要。
 
 ただ、テオが居るだけで、まるで簡単にその場が片付いています。
 
 
 そして、皆はその彼の表情を見て驚きます。
 なぜなら、テオは。
 まるで。
 
 
 
 
 まるで普通の表情をしていたからです。
 
 
 
 
 
 いつもと変わらない普通の様子。
 この状況でその様子は。かえって皆の心を不安にするのでした。

「て・・・テオ?」
「なんだ?」
「その…大丈夫か?」
「大丈夫?何を言っているのだ?大丈夫?大丈夫に決まっているだろ?」
 テオはやはり表情を変えずにそう言います。
 静かな調子で語りながら、
 いつものごとく冷静で、平然とした調子。

 しかし。
 そんないつも通りの態度からは、怒りが滲みあふれていました。

怒り。怒り。怒り。
テオは異常なほどに自身が怒るのを感じました。

 ルイズが惚れ薬を飲んだ時。
 自分はこれほど怒れるのかと自身で驚きましたが。
 今のテオはあの時の怒りを超える感情に身を支配されています。
 
「吾としたことが忘れていた。
いや、違うな。この可能性を理解しつつも、こうして現実として目の前に現れるまで分からなかったのだろうな。これが。
 この現実が。吾にとってこうまでも不愉快だということがな」
 怒りをその視線に集めるように。
 顔は笑っているテオの、その視線だけは、まるで相手を殺さんとせんばかりに、怒りがにじみあふれています。

 兵たちが燃やされ、形勢は一気にルイズ側の有利。
 怒り狂うテオを前にアンリエッタ側の絶対的な不利。 
 その場のすべての人間はそう思いました。
 
 しかし。
 
 そんな不利な状況は、その直後に反転してしまいます。
 
 
 ポツリ。
 
 タバサは頬に冷たいものを感じます。
 そして、その冷たい感触は体の別のところにも。
 
 珍しく焦った表情の彼女が空を見ると、そこには雨雲がありました。
 
 雨が、その直後に本降りへと変わります。

 アンリエッタが叫びました。

「杖を捨てなさい!あなた達を殺したくない!」
「それがどうした!!」
 そう言ってテオは炎の魔法を放ちますが、次の瞬間、その炎はアンリエッタの作った水の壁に阻まれ、そしてそのまま消えてしまいました。


「見なさい!雨!雨よ!雨の中で『水』の魔法に勝てると思ってるの?この雨で、私たちの勝利は動かなくなる!」
 いくらテオが強い魔法が使えるといっても、雨の中での水の呪文に打ち勝つ程の魔法はなかなかありません。
 テオ自信も水の魔法は使えますが、そもそも水の魔法は回復と防御に特化した魔法です。
 相手を攻める、特に死人に有効な攻撃を作り出すことは、テオには出来ません。
  
「これって不味くないか?」
 サイトが不安げに言いました。
 
 その言葉にキュルケが頷きます。
「まあ、この状況じゃ火は効かないわね、タバサの風と貴方の剣じゃあ相手は傷つかないし、唯一の望みはテオだけど…彼の魔法も弾かれてるし
 
 そこでテオの声が響きました。
「馬鹿か。吾は言ったぞ。奴らを許すつもりも逃がすつもりもないとな
 彼の闘志は消えません。
 それどころか、先程以上に殺気を漲らせています。

 アンリエッタは悲しげに首を振りました。
 
 この雨、この不利な状況にルイズ達が撤退を選択するかと思ったのに、彼女たちに逃げる様子はありません。
 できることならば戦いたくない。
 しかし、彼らが自分たちの障害になると言うのであれば。
 戦うしか無い。
 そう考え、彼女はその呪文を唱えます。
 隣にいるウェールズも冷たい笑みを浮かべ、その詠唱に加わります。
 
 アンリエッタは彼のその笑がどこか無機質であると理解しましたが、それでも心が少し熱く潤みました。
 
 
 魔力がうねり始めました。
 水・水・水・風・風・風
 水と風の六乗。
 
 ヘクサゴン・スペル。
 いま正にその魔法が作られようとしています。

 
 スクエアの如何なる魔法よりも強力な魔法。
 それを唱えるには最低でもふたり以上の人間、さらには息が合い、そして魔法の才能豊かな人間である必要があります。
 選ばれし王家の血を持つ2人だからこそ出来る魔法。

 2人の詠唱が干渉し合い、巨大に膨れます。
 二つのトライアングルが絡みあい、六芒星へと形を変えた時。
 
 その魔法は完成します。
 
 ソレはまるで津波のような竜巻でした。
 全てを蹂躙しうる、巨大で恐ろしい竜巻。
 この竜巻の前では、城壁だって紙のように破られるでしょう。
 
 しかし、そんな竜巻に対してもテオは怯みません。
 目の前にあるその竜巻に対してテオは魔法を唱えました。
 
 風、風、水、水
 スクウェアの魔法で、同じように竜巻を召喚します。
 しかし、その魔法はヘクサゴンスペルに比べ幾らか小さく、しばらくぶつかり合うとそのまま消えていってしまいます。
 
 目の前に迫る竜巻、テオは吹き飛ばされそうになる体を必死におさえて、再度魔法を唱えます。
 しかし、やはりその魔法はヘクサゴンスペルに対する足止めにしかなりませんでした。
 

「無理よ!テオ!逃げましょう!」
 キュルケが叫びます。

「逃げる?馬鹿なことを言うな!」
 そう言って再度、目の前にあるその竜巻に対してテオは魔法を唱えました。
 
 風、風、水、水
 スクウェアの魔法で、再度竜巻を召喚します。
 しかし、やはりそれは相手の竜巻にぶつかると消えてしまいました。
 テオは風に吹き飛ばされますが、すぐに体制を整えてもう一度魔法を唱えます。
 それでもテオの魔法は足止めにしかなっていません。
 たしかに、テオの行動は相手の竜巻を押しとどめる事は出来ていますが。
 このままいっても勝機は見えません。
 
 
 撤退するべき状況ですが、しかし、テオがそれを拒否します。
 状況はハッキリとルイズ達に取ってピンチでした。


 その時、はっと、ルイズはあることに気が付きました。
 絶体絶命のピンチ。
 前にもたしかこのような状況があることを。
 その時自分たちを救ってくれたのは一体何だったのか。
 
 始祖の祈祷書。
 ルイズはその存在を思い出し、祈る思いでそのページを捲りました。
 そして、前回と違うページに。
 ある呪文が書かれていることに気が付きました。
 
「これだわ!」
 円陣の中で。ルイズの言葉が響きます。 



◆◇◆◇◆


 
「ディスペル・マジック?…つまり、その魔法があればあの人形共をさっぱりと消せるわけだな」
「わ…わかんないけど。多分…いえ。きっと。間違いなくそうだわ!あの時と同じ。祈祷書がこの状況に合った魔法を私に教えようとしているの」
 ルイズの言葉にサイトが首を傾けます。
「よくわからないけれど、ルイズが魔法を唱え終わるまで、あの竜巻を止めておけばいいんだな」
「多分…」
「なら大丈夫だ、テオの魔法はあの竜巻を打ち消せないまでも押し留めている。魔力にも余裕があるみたいだし…って、危な!」
 サイトは竜巻に巻き上げられ飛んできた木片を剣で弾きました。 

 そして、彼は竜巻の方向に視線を向けると、信じられないものを目にしてしまいました。

「ルイズ、魔法…急いだほうが良いかも…」

 そう言うサイトの視線の先。
 その視線の先で戦うテオ。
 
 その姿にサイトは戸惑いました。
 
 
 そこには、片膝を付き、息も絶え絶えといった様子で魔法を放つテオの姿がありました。
 
 今まで、
 テオがこんなに余裕なく戦うことはありませんでした。
 
 戦い以前にテオは常に余裕を持っていました。
 どんな危機敵状況も笑っていました。
 なのに。なのに今のテオは、まるで余裕が見えません。
 それは演技でも無く。冗談でもありません。
 
 そう。
 
 テオは本当に余裕が無いのです。

「嘘だろ?」
 思わず、サイトは口にしていました。
 
 サイトだけではありません。
 キュルケも、タバサも、アンリエッタさえそのテオの様子に驚きます。

 そして、その時、キュルケはある言葉を思い出しました。
『御主人様は良くも悪くも人間です。弱点もあれば欠点もあります』
 そんなエンチラーダの言葉を。
 
 
 
 どんなに優秀そうに見えても、
 どんなに絶対的に見えても、
 どんなに強そうに見えても、
 やはり、テオは人間なのです。
 人間である限り、人間を超える事は出来ません。
 
 もし、テオが最強であると思ったのであれば。
 ソレは完全なる間違いです。
 
 テオには弱点があります。
 いえ。
 テオは弱点だらけなのです。

 そして数あるテオの弱点の中で。
 一番に致命的なもの。
 それは。




 体力が無い。



 ただそれだけ。
 非常に単純でわかりやすい弱点です。
 
 一日の大半を車椅子に座り、両足がないがゆえに人よりも動くことが少なく。
 そもそも、魔法の練習に力を注いだために、体を鍛える事はおざなりになっていて。
 彼の体は長時間激しい運動をするように作られては居ないのです。
 
 これだけ明確な弱点。
 不思議なことに、この時点、この瞬間まで誰もその弱点に気がつくことはありませんでした。
 万能のテオフラストゥス、その最大の才能は欠点を隠すというその一点に尽きるのです。
 
 テオがいつも余裕を見せているのも、
 テオが大きな魔法で一気に勝負を付けるのも。
 全てはこの弱点を隠すためだったのです。
 
 かつてサイトがテオと戦った時も。
 その弱点を隠すためにあえて、接近戦を挑みました。
 テオの魔法の才能は、彼の体力の無さを補えるだけのものでしたし。
 実際、今までテオは魔法の力だけで勝ってこれました。
 
 しかし。
 
 しかし、今回は違います。

 雨という水の魔法使いにとってとても有利な状況。
 そしてそんな状況下で放たれる水を含んだヘクサゴンスペル。

 向かい風に立ち向かう。
 飛んでくる障害物を受け止めたり避けたりする。
 飛ばされないように何かにしがみつく。
 飛ばされるたびに体型を立て直す。
 
 それだけ。
 たったそれだけで、テオの体力は大きく減っているのです。
 

「ぐお!!」
 テオはその場から吹き飛ばされました。
 すでに地面にしがみつくような体力すら無くなっていました。
 しかし、吹き飛ばされた先、無様に落ちて、倒れこむような体制から、再度テオは魔法を繰り出しました。
 
「テオ!」
 急いでサイト達がそこに駆けつけようとしますが、それを遮るようにテオが怒鳴ります。

「邪魔をするな!」
 そう言いながらテオは再度魔法を唱えます。

 そして次の瞬間には再度、風に飛ばされ、その体を反転させました。
 すでに義足もなくなり。テオは這いつくばるように地面にしがみつきます。

 しかし、テオの中の闘志は少しも衰えを見せません。

 テオが叫びました。
 真っ赤に充血した目。
 額には血管が浮き出て、まるで今にも血が吹き出そうです。

「こんな竜巻なぞ!!!」
 風、風、水、水。
 テオの前に竜巻が生まれます。
 しかしやはりそれは相手お竜巻に消されてしまいます。





 皆がその姿に疑問を覚えました。

 なぜ。
 なぜこの目の前の男はこうして戦っていられるのか。
 ただ気に入らない理由というだけで、どうしてこうもぼろぼろになりながらそれでも戦っていられるのか。
 今まで隠してきた弱点をさらけ出してまで。
 なぜそこまでするのか。

「何で!何で邪魔をするのよ!!!私はただ!ただ彼に付いて行きたいだけなのに!彼を愛しているだけなのに!!!」
 アンリエッタが叫びました。

「ふざけるなああああああ!!!!」
 怒号。
 
 叫び。
 
 咆哮。
 
 まるで獣のような大きな声に。その場の全員が固まります
 
「貴様が愛を語るな小娘があ!」
 そう叫ぶテオは傷だらけでした。
 もう地面にしがみつくことすら出来ず、飛んでくる障害物を避けることも出来ず。
 彼のあちこちあら血が滲み、服はボロボロでした。
 しかしそれでもテオの表情は闘志で溢れていました。


「それは死体だ!そこに愛なんぞ有るか!!」
 血走った目。
 まるで狂気の表情。

「そんな人間に吾が負けるか!負けられるわけがない!」
 体中に傷をつけながらテオは叫びます。
 まるで心の底から絞りだすような叫びでした。

「侮辱だ!死体なんぞに心奪われるのは!それは生前のその男の否定だ!」
 倒れそうになる体を必死で立てながらテオは叫びます。
 
 
 その時。ルイズの魔法は完成しました。
 そしてその魔法を放とうと、ルイズがテオの方を向いた時。
 
 その右手。
 
 杖と一緒に握られている有る黄色いものに、ルイズは気が付きました。
 
「それは冒涜だ!」
 そして理解しました。
 テオがこうまでこの件に拘る理由を。

「生きている人間に対する!愛に対する!その男に対する!
 そして、そしてなによりそれは!!!!」

 それは、
 消えてしまった『もう一人のルイズ』への冒涜なのです。
 
 
 ただ、体だけがウェールズであるそれを愛すると言うのであれば。それはウェールズという人格の否定です。
 そして、体の中にある、その人格を否定する事は。つまり。
 
 『ルイーズ』という存在をも否定すること。
 
 テオは。
 テオはいわば消えてしまったその女性のために。
 すでにこの世界には居ない。
 そして二度と現れることのない『もう一人のルイズ』のために。

 テオがこの世界で、初めて『愛した』女性のために。


 命を燃やして戦って居たのです。


 渾身の一撃、
 杖と一緒に『獅子牙花』を握るその右手から繰り出されたその一撃。
 
 
 
 
 今までよりも一回り大きいその一撃が。




 アンリエッタの竜巻を晴らしました。
 

「傀儡と生者の区別が付かない人間が、愛を語るなよ…」


 その言葉を最後に、テオの意識は闇に落ちていきました。
 次の瞬間、ルイズの魔法が放たれます。
 閉じようとするテオの両目に。まばゆい光が流れ込みました。
 
 
 
 
 
 すべての力を抜き。
 ただ、重力に身を任せるテオ。
 
 しかし、意識を失っても。
 彼の右手だけは獅子牙花を握り続けていました。





◆◆◆用語解説

・ウェヘッヘッヘ
 というかキュルケは魔女だからこの笑い方に何の不自然さもない。
 魔女と言ったらこの笑い方である。そして真っ黒い服を着て。そして練れば練るほど色の変わる不思議な物を練る。
 魔女とはそういうものなのだ。
 
・アンデットには火が有効
 ゲームや漫画等でアンデット系の弱点が火である事が多い。
 別に出典や根拠が有るわけでは無さそうだ。
 まあ相手は死人なので刺す、切るの攻撃があまり効かずに有効な攻撃法が限られ、その中で比較的単純で有効な物が火だということなのだろう

・番外編終了
 なんだかこっちが本編みたいになってしまった。
 


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