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No.34778の一覧
[0] 【習作・チラ裏から】とある未元の神の左手【ゼロ魔×禁書】[しろこんぶ](2013/12/17 00:13)
[1] 01[しろこんぶ](2014/07/05 23:41)
[2] 02[しろこんぶ](2013/09/07 00:40)
[3] 03[しろこんぶ](2013/09/16 00:43)
[4] 04[しろこんぶ](2013/09/16 00:45)
[5] 05[しろこんぶ](2013/10/03 01:37)
[6] 06[しろこんぶ](2013/10/03 01:45)
[7] 07[しろこんぶ](2012/12/01 00:42)
[8] 08[しろこんぶ](2012/12/15 00:18)
[9] 09[しろこんぶ](2013/10/03 02:00)
[10] 10[しろこんぶ](2014/07/05 23:43)
[11] 11[しろこんぶ](2013/10/03 02:08)
[12] 12[しろこんぶ](2014/07/05 23:45)
[13] 13[しろこんぶ](2014/07/05 23:46)
[14] 14[しろこんぶ](2014/07/05 23:47)
[15] 15[しろこんぶ](2013/09/01 23:11)
[16] 16[しろこんぶ](2013/09/07 01:00)
[18] とある盤外の折衝対話[しろこんぶ](2014/01/10 14:18)
[21] 17[しろこんぶ](2014/07/05 23:48)
[22] 18[しろこんぶ](2014/07/05 23:50)
[23] 19[しろこんぶ](2014/07/05 23:50)
[24] 20[しろこんぶ](2014/08/02 01:04)
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[34778] 11
Name: しろこんぶ◆2c49ed57 ID:c6ea02e3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/03 02:08




 二つの月が輝き出した夕暮れ。
 本塔の高い壁面をまるで床のように足の下に置いて。
 その人物は中空に立っていた。
 ポケットから取り出した杖を小さく振り、靴の踵を覆うよう足場を『錬金』。
 そうして『レビテーション』の効果が切れるまでに体を支えると、続いて辺りの壁にくまなく『探知魔法』を掛けた。
 ぼんやりとした魔法の燐光が収まると、黒いローブを纏った人影は力なく肩を落とした。
「『固定化』がこれでもかってほどに掛けてある。やっぱり魔法に対する守りは磐石、私の『錬金』も付け入る隙はなさそうだねえ」
 フードの下に覗く口元を悔しげに歪めると、思案するように顎に手を添えた。
 降り始めた夜の帳に乗じて暗躍するこの人物の名は『フーケ』。
 今やトリステイン中にその名を知られた怪盗だった。
 貴族の溜め込んだ財宝のうち、秘蔵の一品を。特にマジックアイテムを頂戴するのが何よりの楽しみだった。
 『土くれ』の二つ名にふさわしく、盗みに入る先では壁や扉を『錬金』によって粘土や砂に変えて忍び込む。
 そんな『土』系統のエキスパートであるフーケの前では、大抵の貴族が防犯用に施した『固定化』の魔法など物の役にも立たなかった。
 そして、フーケは時に大胆な手も使った。
 攻城級の巨大なゴーレムをも操り、目当てのお宝のためなら警邏に集まった魔法衛士隊すら蹴散らし白昼堂々盗みを働く。
 そんな派手な立ち回りを演じた事もあるのだ。
 
 そんな百戦錬磨の怪盗フーケでも、このトリステイン魔法学院の守りの固さには手を焼くほどだった。
 目当ての宝物庫の錠も、扉も、その魔法が効かないのは予めの調査でわかっていたが。
 しかも、『固定化』以外にもしっかりと、物の強度を飛躍的に高める『硬化』の魔法が掛けられている。
 更には外壁の厚さも悩みの種だった。
 魔法の効果を抜きにしても、ちょっとやそっとではとても壊れそうに無い。
 そんな二重三重の防衛態勢にフーケは歯噛みした。

 フーケが普段用いる対策としてはゴーレムを造り壁を破壊、『錬金』で進入する壁の穴を広げると言った単純なものだった。
 力で、魔法で。どちらをもってしてもこの堅牢さ、破るにはかなりの精神力を消費するとみて間違いなかった。
 長く時間を割いて準備する余裕もあるとは言えない。
 とても一晩で済む作業ではないが、いざ始めてしまえば一度きりしかチャンスはないだろう。
 平和ボケしている嫌いがある学院とは言え、壁に大穴を空けるような騒ぎを気付かずに放っておくとは思えなかった。

 フーケが真剣にそんな事を考えていると、ふと近くで人の気配がした。
 素早く壁を蹴ると地面に降り立つ。
 『レビテーション』で勢いを殺したフーケは音も無く、中庭の植え込みの影に身を隠した。

 ほどなくしてやって来たのは。薄暗がりでも目立つピンクブロンドの少女と、冴えない服装の少年だった。
 少女の方はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。学院でも名の知れた公爵家令嬢。
 となると隣の少年は同じく有名な使い魔の平民だろう。
 魔法の使えない『ゼロ』のルイズが進級に際して平民を使い魔にした、と言う話はすでに学院中に知れ渡っていた。
 密かに学院に潜伏していたフーケの耳にも勿論入っている。
 さて、そんな二人がこんな人気の無い場所に何の用だと言うのか。
 うかつにその場から動けなくなった事もあって、フーケは暫しそんな主従を観察していた。

「なんで、わざわざこんな所に来なきゃいけないのよ」
「そんな事言って、お前人に見られる方がいいのか? 昼日中に目立っていいんなら俺も構わねーけど」
「そりゃあ……わたしだって、ちょっとくらい恥ずかしいわよ」
「だろ。こっちが気遣ってやってんのに文句言うなって」
 何やら訳ありな様子で二人はひそひそと話し始める。
(あれ、え。まさか逢引?)
 と、フーケがわずかな期待をしたのもつかの間。
 恥じらうような素振りの後、ルイズがポケットから取り出したのは年季の入った杖だった。
 そうして使い魔の前で杖を振り、一回、二回と爆発を起こす。
 なんだ、こっそり魔法の練習をしに来たらしい。
 何やら納得行かない様子で首を傾げる少年の隣で、軽く息を切らしたルイズは不満そうに腕を組んだ。
「わたしには何度もやらせて結局イマイチとか。たまには、あんたのすごいとこも見てみたいんだけど」
「あのメルヘンな羽が拝みたいって、お前どう言う趣味してんだ」
「なんかほら、ほかにも出来るようなこと前にも言ってたじゃない?」
 嫌そうに顔を顰める少年にそうじゃなくて、とルイズは首を振っていた。
「他に、なあ。見せるような能力の使い方、した事ねーからな。……いや、ちょっと待てよ。派手さならいいのがあるな」
 にやりと不意に笑みを浮かべると少年は楽しそうに主人を見下ろした。
 二人が何をするのか、少年がなんの話をしているのか。
 フーケにはさっぱり予想が出来なかった。
「俺の専売じゃねえ、って言うか元ネタは別の奴なんだが。前にちらっとそんなのがあるって聞いた時に面白いとは思ってたんだよな。分かりやすく言うと『破壊光線』だ」
「はかいこうせん?」
「ああ。撃つまでタメがいるんだけどな。能力名『原子崩しメルトダウナー』、粒機波形高速砲がより正しい分類だな」
 何やら得意げな説明を始めた少年は、足元の木切れを拾うとそれを軽く振りながら話を続ける。
「光、陽子、電子と同じく特定の素粒子にも波と粒子の二重性格がある。『原子崩し』って能力が、そのどちらの状態にも属さない曖昧な状態の電子を物質の表面上に留める事で本来質量の無い電子の膨大なエネルギーを壁変わりにしてる、とすりゃあ……干渉した紫外線の回折が操作出来るくらいだ。ちょっと工夫すりゃあ、『未元物質ダークマター』を構成する素粒子でも似たような事くらい……」
 ブツブツと何事か呟きながら地面に木切れで謎の呪文を書いていた使い魔の少年は、暫くの間そんな事を続けていた。
 十分、あるいはもっと経ったろうか。
 随分と試行錯誤を繰り返してそれは完成したらしい。
(マジックアイテムを作るときなんかには、ルーンをものに刻むって言うけど……似たようなものかね)
 『土』系統のメイジとして興味を持ってフーケはそれを覗こうとしたが、残念と言うか当然と言うべきか。
 物陰からこの暗がりで。地面に書いた物はよく見えなかった。
 ようやく立ち上がり軽く肩を解すと、少年は主人のルイズを振り返った。
「よし、これで理論上はいけるはずだ。ちょっと一発撃ってみるけど……念の為後ろに居ろ」
「なんでよ」
「軽く理論式立ててみたが、この手の能力は範囲絞って照準あわせるのが面倒そうだ。実際やってみてから修正していかないとどうにもな。俺の周囲は勿論外してあるが、お前の方はその最初の一発で巻き込まねーって自信がない」
 ほんの少しだが、主人を気遣う素振りを見せる。
 そんな使い魔に何故か当の主人はにやにやと愉快そうに笑っていた。
「へえ~自信ないだなんて。あんたでもそんな事あるのね」
「骨も残さず塵になりてえ、って自殺志願なら止めねーけど。俺は帰り道がなくなると困るんだよな」
 笑ったまま、脅すようにそう返す少年にルイズはふと表情を変えた。
 少し青くなった顔で身を縮めると少年の背後に回る。
「わ、わかったわよ! こ、これでいいの?」
 そう言って、ルイズは慌てて目の前の背中に腕を回すとしっかりと貼り付いた。
「いや、しがみつけとまでは言ってねーんだけどな」
「い、いいから。ほら、見せてくれるんじゃないの」
 へいへい、と気の無い返事をした少年は地面の魔方陣を一瞥すると、口の中で何事か呟いてから顔を上げる。
 その途端。
 ズバァ!! と少年の前から光線が放たれた。
 日光、燭台、魔法の灯り。いずれとも違う何だか不健康そうな青白い光の筋が一条、歪に爆ぜる雷のようにジグザグに伸びる。
 が、それが向かったのは正面ではなかった。
 軌道は大きく逸れて何度か曲がると、終いに学院本塔の壁を撃ち抜いた。
「あ」
「え」
「ッ?!」
 それを見ていたそれぞれが、間の抜けた声を洩らした。
 しまった、と気の抜けた呟き。
 引きつった顔に浮かぶ焦り。
 そして、窺っていたフーケは、思わず驚きと歓喜の叫びを上げそうになってすんでの所でそれを堪えた。
 『固定化』がしっかりとかけられ、スクウェアクラスでも『錬金』は愚か生半可な魔法での攻撃は通用しないだろうと思われていた堅牢な守りが。
 謎の光線の一撃で破られてしまったのだ。
 掠める形で直撃はせず、距離も離れていたためか壁の一部がごっそりと抉れるようにして失われていたが、被害も一見してそれだけのようだった。
 ぽっかりと口を開けた罅割れからはパラパラと破片が落ちている。
「どうなってんだ? 幾らなんでも照準ズレすぎだろ。防御不能の面攻撃ってのは何とも殲滅向きだが、慣れない内は気楽に撃っていいもんじゃねえな。本家本元がどんなもんかは知らねえが、人に向けたら本気で骨まで蒸発するんじゃねーの?」
 おかしいな、と気楽に頭を掻きながら。
 たった今圧倒的な破壊をやってのけた少年は、遊んでいたボールが木の上にでも引っ掛かったような調子でそんな事を言った。
 顔を引きつらせていたルイズは控えめに、掴んでいたシャツの袖を引く。
「ちょっと、テイトク」
「ん? 心配しなくてもホイホイ使わねえよこんな面倒な演算式。慣れない事するもんじゃねえな、なんか頭痛えし。ついでに消し飛ばすのもあんまり趣味じゃねえ」
「そうじゃなくて。あれ、大丈夫なの?」
 ルイズが示したのは、大穴の空いた塔の壁だ。
 大した音も煙も出なかったからまだ騒ぎにもなっていないが、それでも無視出来ない被害が出ているのは遠目にもわかる事だった。
 それに気付いた少年の方も表情を曇らせる。
「なぁ、あの辺ってさ」
「学院長室、よりは下よね。確か宝物庫があったと思うけど」
「とりあえずジジイは死んでねえよな?」
「そうね、近くに巡回の先生とかがいなければ?」
 垣根は自信無さそうに答えるルイズの顔を肩越しに仰ぐと、その目を真剣に覗き返した。
 そうか、と呟くと。
 くるりと踵を返そうとして、貼りついたままのルイズをずるずると引きずった。
 シャツにしがみついたルイズは足に体重を掛けて必死にその場に踏みとどまろうとしているらしい。
「ちょっ…と。どこ行くのよッ」
「急用を思い出した」
「なによ、責任とってとまでは言わないわ。でも逃げないの! そんな気なかったんだから、謝れば学院長先生も――」
「あのジジイに貸し作って堪るかよ。馬鹿、ひっぱんな。危ねーって――」
 言い争いながら押し合い、へし合う二人の力は拮抗していた。
 遠慮なく後ろに引かれるシャツの心配をしてか、垣根も抵抗するルイズを強くは振り払えないようだった。
 その内に。
 ドシャア、と足をもつれさせた二人が芝生の上に転がった。
 すると、実にタイミングよく。
 寮塔の方からそちらに向かっていた人影がそれを目にするなりすごい勢いで走りだした。
 真っ赤な髪を振り乱した少女は二人の元に駆けつけると、大声でわめき散らした。
 手にした派手な包みが、これでもかと腕の中で締められていた。
 それに追いついた小柄な少女はじっとその様子を眺めている。
「ヴァ~リ~エ~ル!! あんた何してるのかしら? こんなところで殿方に襲い掛かるなんて、所詮お堅いトリステイン貴族だと見くびってたあたしが間違ってたみたいね? プレゼントなんて甘い事してる場合じゃなかったかしら」
「ななななにいってんのよこれはこいつが勝手に……」
「テメェら……人を挟んで喧嘩始めようなんざ、いい度胸だ。ナメてやがるな?」
「腹背の敵」
 傍目には楽しそうにじゃれ合う子ども達はたちまち大騒ぎを始める。
 そんな様子を眺めていたフーケは、はっと我に返った。
「いけないいけない。馬鹿な子達のお遊びを見物してる場合じゃないんだよ」
 頭を振って気を取り直す。
(あの使い魔が実はメイジだったって言うのも驚きだけど……なんなんだいあの魔法は。あんなのと正面からは当たりたくないね)
 ぞっと、国を騒がす大怪盗の背にも悪寒が走る。
 しかし。
 望外の成果に笑みを浮かべて、フーケは先程の壁の損傷を見上げた。
 あそこまでの破損を修理した上で、強力な『固定化』を掛けなおすのには人手が要る。
 すっかり元のように直すにはまだまだ時間が掛かるだろう。
 なら、わざわざ人目のあるこの瞬間を狙わずとも。たとえば日が完全に暮れるまで待っても犯行を行うには充分なはずだった。
 そう思い直して、フーケはその身を物陰に潜め中庭を後にした。


*  *  *




 翌朝。
 学院はまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
 深夜訪れた怪盗によって、本塔は破壊され厳重に保管されていた秘宝『破壊の杖』が盗まれたのだ。
 おまけに、その怪盗にはまんまと逃げおおせられてしまった。
 そんな、王宮にでもしれたら事になる失態に、状況をまとめるべく集められた教師達が慌てふためくのも無理は無かった。
 口々に自分ではない誰かの、何かの不手際への追及が始まった。
 終いには、昨夜の当直であったミセス・シュヴルーズが槍玉に上がる。
 盗賊を取り逃がすとは、と充分な勤めが出来なかったとは言え責任の一切を押し付けられそうになっている教師は、その温厚そうな顔に涙を浮かべていた。
 そんな喧騒を、少し離れたところから見ていたルイズはぐっと唇を噛み締めた。
 事の発端は昨夜。


 突然の轟音と騒ぎに気付いたルイズが部屋を飛び出すと、本塔に殴りかかる巨大なゴーレムの姿があった。
 いても立っても居られず、ゴーレムの方へと駆け出すと。
 そんなルイズに後ろから声を掛けてくる者が居た。
「何してんのよあんた。死にたいの?」
 ベビードールにガウンを羽織った寝巻きのまま追いかけてきたキュルケが心底呆れた顔でそう尋ねる。
「黙って見てられないじゃない!」
「まあ、ヴァリエールにばっかいい格好はさせられないけど」
 挑発的に笑みを浮かべると、キュルケは得意の『ファイアーボール』を塔に取りすがるゴーレムに飛ばした。
 しかし、巨大なゴーレムにはそれも小さな火に過ぎない。
 破裂音を残して弾けた炎は土の塊には大したダメージを与えられないようだった。
「なによ、もう」
 二人が、余りの力の差に目を見張るうちに。
 ズシン! と大きな地響きを立てるとゴーレムは再び動き出した。
 それを睨んだルイズが更に近寄ろうとした時。
「お前、馬鹿だろ」
 その肩を掴んだのは垣根だった。
 その間にも、壁をまたいだゴーレムは一歩一歩学院から離れていく。
「なに、すんのよ! 逃げられちゃうわ」
「どうするんだ? お前なら捕まえられるのか? お得意の爆発であれを吹き飛ばせるって?」
「そんなのッ」
 言い争う二人の体がぐぐっと持ち上がる。
 驚くルイズの目に映ったのは、青い風竜だった。
 その背中にはキュルケと、竜の主人らしい少女の姿がある。
 ルイズと、少し遅れて浮かび上がる垣根を拾い上げ。
 黙って頷く少女は風竜を飛ばし草原を進むゴーレムを追ってくれた。


 そんな事があって。
 現場とフーケを見た生徒の一人、としてルイズは今この場に立っていた。
 同じようにして居合わせたキュルケと、同級生の少女――タバサとか言ったか――の姿もある。
 しかし、ルイズは気付いていた。
 自分達の目にした状況を説明しに教師達と現場に戻った時、見てしまったのだ。
 見るも無残に破壊された塔の壁。
 それは、夕方垣根が不用意にも壊した辺りに違いなかった。
 大きく割り砕かれた壁、その巨大な破片を見れば巨大なゴーレムでも壊すのが容易い事ではないくらいルイズにもわかる。

 きっと。
 盗みに入った怪盗は罅の入った場所をみて、
「丁度良い」
 と思ったのだろう。
 そしてほくそ笑んで盗みに入り、悔しがるルイズ達を後目に学院を後にしたのだ。

 そう思ってしまえば、ルイズの心は湧き上がる自責の念に駆られた。
 固く握った拳はすっかり白くなっていた。
 俯くルイズのその耳元に、すぐ後ろに立っていた垣根がそっと顔を寄せる。
「余計な事言うんじゃねえぞ。言ったところでお前、どうする気なんだ。そのお宝を弁償でも出来るのか?」
 子どもを言い含めるような口調で、馬鹿にしたような優しい声で。
 垣根は、ルイズに自分の無力さを叩き付けた。
「出来ないわよ。でも――」
「ガキが割った窓から空き巣が入ったって、罪に問われんのはそのガキか? 違うだろ。責任取るのは警備の奴だろうし悪いのは盗みに入った本人だ。お前はその場に飛び出していった上に一応足止めはして、おまけに情報提供までしてんだ。面目はその辺で充分立つだろ。もう子どもの出る幕じゃねえ。せいぜい大人の皆さんに働いて解決してもらえばいいんだよ。それとも、お前はそんな下らねえ事で俺を売るのかよ」
 冷めた目で、呆れたように言い捨てると垣根は首を振った。
 そこまで言われてはルイズも反論できなかった。

 塔の壁を壊したのが自分達だと言っても、きっと信じてはもらえないだろう。
 教師たちの口ぶりでは学院の設備には強固な魔法が掛けられていたらしい。
 そんなものをどうやって、ならばやって見せろ、などと言われてはそれこそ大問題だ。
 まして、垣根にそれで累が及べばますますルイズに立つ瀬はない。

「お前がそれを言って、何になるんだよ。お前一人がスッキリしたいってだけじゃねえの」

 垣根の言うとおり。全ては盗賊の所為かもしれない。
 ルイズ達が何もしなくても、盗みに入られたかもしれない。
 取り逃がしたのはルイズ達の所為ではないのだし。
 でも。
 ルイズは、黙っていられなかった。
 力の有る無しは関係ない。
 責任の在り処も関係ない。
 ただ、ルイズ自身の矜持の、心の問題だった。

 思い悩んだルイズが顔を上げると、遅れて現れたオスマンが憤る教師達の間に入り話をまとめているところだった。
 オスマンは、今回の事件に関連して幾つか教師だけでなく全校生徒にも向け通達がある、と前置きした。
「先ず、昨夜の事件でショックを受けとる生徒も多いじゃろう。またぞろ何があるかもわからん。今日の授業は休講とする。後は、明日に控えた『フリッグの舞踏会』じゃが、それもまた延期とする。楽しみにしておった生徒達にも、用意を進めてくれた厨房の面々や皆には申し訳ないが……事がこの次第では、これもまた仕方あるまい。皆も、構わんかね」
 異論を唱えるものは誰一人いなかった。
 オスマンは頷くと咳払いを一つ。
 続いて重々しく首を振った。
「さて、これが現実じゃ。この中の誰もが――もちろん私を含めてじゃが――まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っとらんかった。何せ、ここに居るのはほとんどがメイジじゃからな。誰が好き好んで虎の巣に入るかっちゅう訳じゃ。しかし、それは間違いじゃった」
 オスマンは、現場の壁に空いた穴を示しながら、教師達の顔を順に追った。
「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとするなら、我ら全員にあると言わねばなるまい」
 その言葉に、教師達は真剣な面持ちで黙り込んだ。
 学院長の言葉を待つ教師達の背をぼんやり見ていたルイズの気持ちは、彼らより一層沈んでいた。
「で。犯行の現場を見、果敢にも賊を相手取ろうとした生徒達が居ると聞いたが。詳しく話を聞かせてもらえるかね」
 教師達の後に控えたルイズ達三人を、オスマンはいたって穏やかな目で見つめた。
 唇を噛み、ルイズは深く息を吸った。
 前に出ようとした時、そっと肩を引かれた。
「ちょっと、あなたひどい顔よ」
 何故か優しく笑うと、キュルケはルイズより先に一歩進んで教師達の前で仔細を説明し出した。

 学院の塔を襲うゴーレム。
 黒いローブのメイジ。
 宝物庫から何かを盗み出し、すぐさま逃げていった事。
 空から風竜でそれを追ったが草原を進むうちにゴーレムは崩れて土の山になった事。
 キュルケは昨晩見たままをそっくりそのままオスマンに語った。

 再び、暗い気持ちに襲われるルイズは黙って足元を睨んでいた。

 このままでは心のもやはいつまでも晴れない。
 『ゼロ』のルイズにだって、譲れないものがあるのだ。
 でも、今のままではそれは叶わない。この恥を雪ぐ事も出来ない。

 そんな失意のうちには後に続く、教師達のやりとりさえどこか遠く聞こえた。
 しかし。
「おや、おらんのか? フーケを捕まえて、名を上げようと言う貴族はおらんのか? 我と思うものは杖を――」
 その言葉がルイズの頭に閃光のように響いた。
 ルイズは、俯いていた顔を上げるとさっと杖を掲げた。
 驚いたミセス・シュヴルーズがルイズの名を呼んだが、ルイズは鋭い目で震える杖先を睨むばかりだった。
「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか。ここは我々教師に任せて……」
「誰も、掲げないじゃないですか」
 吐き出したい気持ちをぐっと堪えて、ルイズはそれだけをきっぱりと言い切った。
 その後に、キュルケとタバサが続いた。
 生徒ばかりが志願する状況にミセス・シュヴルーズは異を唱えたがオスマンに宥められ、もっともらしく説得されると心配そうな顔のまま渋々従った。

 ゲルマニアでも有名な軍門の家系に生まれ、トライアングルメイジであるキュルケ。
 若くしてシュヴァリエの称号を持つというタバサ。
 それに比べて、と依然気落ちしたルイズの顔をみると、生徒三人を順に紹介していたオスマンは浮かない様子に気付いたのかふっと笑みを浮かべた。
「ミス・ヴァリエールはあの公爵家の息女にして将来有望なメイジと聞いておる。その上、彼女の使い魔はあのグラモン家のギーシュ・ド・グラモンを決闘の末に下した優秀な若者だと専らの噂じゃが?」
 ふと、わずかに期待してルイズが隣を見ると。
 やる気なく話を聞いていた垣根は億劫そうに首を振っただけだった。
 そうしてオスマンは威厳たっぷりに教師陣も納得させた。
 いつにない風格の学院長の言葉に後押しされ、捜索隊となった三人は揃って礼をする。
「ミス・ロングビル、済まないが彼女らを助けてやってくれ」
「元より、そのつもりですわ」
 かくして場は納まり。
 教師達はひと段落したと言った様子で次々とその場を後にする。
 馬車の用意が出来るまで、と支度を整えにルイズ達も一度戻ろうとした時だった。
「ああ、ミスタ・カキネ。ちと私から話があるんじゃが。少しいいかの」
「え」
「用件はどの、、話なんだろうなあ。学院長先生よ」
 オスマンの突然の申し出に驚いた様子もなく。
 垣根は振り返ると、追い払うような仕草でルイズに先に行くよう示した。
 残されたルイズは手を伸ばしかけて。
 力なく腕を下ろした。




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