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No.34778の一覧
[0] 【習作・チラ裏から】とある未元の神の左手【ゼロ魔×禁書】[しろこんぶ](2013/12/17 00:13)
[1] 01[しろこんぶ](2014/07/05 23:41)
[2] 02[しろこんぶ](2013/09/07 00:40)
[3] 03[しろこんぶ](2013/09/16 00:43)
[4] 04[しろこんぶ](2013/09/16 00:45)
[5] 05[しろこんぶ](2013/10/03 01:37)
[6] 06[しろこんぶ](2013/10/03 01:45)
[7] 07[しろこんぶ](2012/12/01 00:42)
[8] 08[しろこんぶ](2012/12/15 00:18)
[9] 09[しろこんぶ](2013/10/03 02:00)
[10] 10[しろこんぶ](2014/07/05 23:43)
[11] 11[しろこんぶ](2013/10/03 02:08)
[12] 12[しろこんぶ](2014/07/05 23:45)
[13] 13[しろこんぶ](2014/07/05 23:46)
[14] 14[しろこんぶ](2014/07/05 23:47)
[15] 15[しろこんぶ](2013/09/01 23:11)
[16] 16[しろこんぶ](2013/09/07 01:00)
[18] とある盤外の折衝対話[しろこんぶ](2014/01/10 14:18)
[21] 17[しろこんぶ](2014/07/05 23:48)
[22] 18[しろこんぶ](2014/07/05 23:50)
[23] 19[しろこんぶ](2014/07/05 23:50)
[24] 20[しろこんぶ](2014/08/02 01:04)
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[34778] 12
Name: しろこんぶ◆2c49ed57 ID:c6ea02e3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/05 23:45



 馬車、と言うよりは荷車に揺られながらルイズはぼんやりと森の風景を眺めていた。
 木々の緑は目にも心にも優しいらしいとなにかで聞いたが、ルイズ自身はちっともその恩恵にあやかれずにいる。
 片道で徒歩なら半日、馬でも四時間掛かる行程だ。精神力と体力は温存しろ、と言う学院長の言葉はもっともだった。
 座りなれない固い荷台に、普段のルイズなら文句の一つも出ただろうが。
 今はそんな余力がなかった。
「ねえダーリン。その本どうかしら? あ・た・し・が買ってきたのよ~」
「何だそりゃ、随分愉快な呼び名だな。うざってえ事この上ねえ。ったくテメェ、この前俺が言った事頭に残ってんのか? 後読み辛えからまとわりつくな鬱陶しい」
 その原因にルイズは顔を顰める。
 視界の端にちらつく緑の反対色、赤色が目に障って仕方なかった。
 そのおかげでルイズの頭からは、学院を出るまでのもやもやも、それまでの真剣な気持ちも今はどこかに吹き飛んでいた。

 そう、吹き飛ばす。
 吹き飛ばしてしまえたらどんなにいいだろう。

 悶々とするルイズの思考は何とも物騒な方向に転がろうとしていた。
(あああああああのツェルプストー! なにを人の使い魔にベタベタベタベタひっついてんのかしら? おまけにあんな、あんないやらしい胸をむむむむねまで押し付けて何考えてんのかしらあああ)
 ポケットの中にしっかり収めた杖を握りたくて握りたくてルイズの手がわなわなと震える。
 ちょっとどころかかなり危ない人の様相だ。
 しかし、誰もそんなルイズの奇行に突っ込んではくれない。
 キュルケは言わずもがな。
 垣根は、昨日中庭でキュルケに渡されたプレゼントだとか言う本を持ってきて時間潰しに読んでいた。
 タバサはタバサで、出発からほとんど言葉も発せずにじっと本の頁を捲っているし。
 同行しているミス・ロングビルは御者台で手綱を握っている。
 先程、暇をしていたキュルケにあれこれ話を聞きだされそうになっていたが、彼女は嫌な顔ひとつせずに詮索を受け流していた。
 それによると彼女はどうやら貴族の家名を失い、その口ぶりから幼い兄弟たちを抱えているらしかった。
 何やら訳のありそうな様子だったが、誰でも触れられたくない事くらいあるだろうとルイズはそれからそっとしておいている。
 そんな風にして、たった一人のルイズは葛藤に耐えながら悲しい百面相に興じているところだった。
(今は我慢よルイズ、その怒りをあのフーケにぶつけるのよ! あのゴーレムを何とかするなら精神力を無駄にしちゃいけないんだから!!)
 内心で、溢れそうになる怒りを必死に抑えながらルイズはぎりぎりと歯噛みしてキュルケを睨んだ。
 時々ちらちらと視線を向けるキュルケは、ルイズと目が合う度に得意そうな表情でその胸を垣根の腕に押し付けていた。
 草一本、猫の仔一匹とてツェルプストーにくれてやるのは我慢ならない、と代々に渡る因縁を聞かされて育ったルイズのツェルプストー嫌いは苛烈だった。
 それも、今キュルケが狙っているのはヴァリエール公爵領の禄を食む人間、ルイズのたった一人の使い魔だ。
 絶対に、ヴァリエールの名に懸けて。
 取られるわけにはいかなかった。
 そんなルイズにとって唯一の救いは、垣根が全くもってキュルケ相手にでれでれしていない事だった。
 脂下がるどころか、垣根は本に視線を固定したまま虫でも払うようにキュルケをどかそうとしていた。
 先日、垣根を部屋に誘ったとキュルケは自慢していたが実の所何もなかったらしい。
 いい気はしないが、目の前の状況と合わせてルイズはその辺りの心配はほとんどしていなかった。
(ふふふ。テイトクはあんたなんか眼中にないんですってー。残念だったわね)
 日頃の自分への扱いは棚に上げて、ルイズは見向きもされていないらしいキュルケに勝ち誇ったような笑みを返した。
「あらぁ。じゃあこの本はあげられないわね~。もうちょっとでイイところみたいだけど、残念だわ」
 しかしキュルケもさるもの、邪険にされながらもちっとも堪えていないらしい。
 本をエサに使い魔にちょっかいを出す無頼漢、とくればもう御主人様がなんとかするしかない。
 けれど。
 ルイズは眉を寄せるとすっかりしょげかえった顔で俯いた。
(どうしようかしら……さっきキュルケを怒鳴りつけてたら逆にテイトクに『ギャンギャン煩い』って怒られちゃったし)
 怒りっぽい、すぐに口が出てつい怒鳴ってしまうルイズにとって垣根の邪魔をせず目の前の障害を排除するのはなかなか難しい事だった。
 迂闊に動けないルイズが先程から必死で沈黙を守っているのもその所為だったりする。

「ルイズ」
「な、なあに」
 黙っていても現れるあまりの落ち着きの無さに呆れたのか、依然本を眺めたまま垣根が声を掛けてきた。
「お前が無駄に爆発起こすのは勝手だが、本は消し飛ばすなよ」
「……あんたまで本の虫なの?」
 ルイズは、ちゃっかり垣根と並んで黙々と読書に耽るタバサを眺めた。
 互いに好き勝手しているだけなのだが、同じ事をしているだけになんだか傍目には仲良さそうに見えるのがルイズはちょっと頭に来た。
「そう言やあ、これ、、テメェの入れ知恵だろ? よくやったな、チビ」
「タバサ」
 手にした本を軽く叩いてそう言う垣根の、あんまりな呼び方をタバサは訂正する。
 しかし、他人の指図をそう簡単に受ける垣根ではなかった。
「チビメガネ」
「タバサ」
「あ~んダーリン、私の事はハニーでもよくってよ?」
「うるせえツェルプストー。おい、ルイズ。これやるからそっちで勝手に暇潰してろ」
 垣根はようやくルイズの方をみると腕にしがみつくキュルケを指差した。
 邪魔者をまとめる、とびきりの名案だと言いたそうな顔をしている。
「わたしもいらないわよ……で、それなんの本なの? 面白いの?」
 一人騒がしいキュルケの押し付け合いをしながら、ルイズは垣根の近くに寄ると本を覗いた。
「これか。『始祖に倣う一味違った魔法の使い方』一応検閲済みみたいだが、内容は異端スレスレかもな。始祖が使ってた系統魔法のあり方を『もしかしたらこんなのもあったかもしれない』程度に模索するっていいながら、内容は『俺の考えたかっこいい呪文集』みたいなもんだ。あちこちの始祖を讃えた文で誤魔化しちゃいるが怪しいだろうな。図書館にはこう言う新版も怪しいもんもまだ入ってねえ。でかしたぞチビ」
 ぱらぱらと頁をめくりながら垣根は隣に一瞬だけ目をやる。
 そんな他人への珍しい態度にルイズはふと首を傾げる。
「そう言えばあんた達、知り合いなの?」
 タバサと授業以外で顔を合わせるのは、ルイズも昨日が初めてだったが。
 垣根は何だか知っているような口ぶりだった。
「ああ。こいつには図書館でよく会うからな、本を持ってこさせてる。あそこ棚がデカすぎだろ」
 垣根の言う通り、学院の図書館は特に上に広大だ。
 生徒達は余りの本棚の高さにわざわざ『フライ』を使わなくてはいけなかったし。
 ひどく疲れていて集中力の乏しい時には事故の恐れもあるから図書館の使用を控えるように、なんて注意がされた事も有る。
 それを考えれば流石に魔法の苦手なルイズには手助け出来ない事だが。
「……それだけ?」
「それだけ」
 いま一つ納得出来ないルイズの疑問に答えたのはタバサの方だった。
 タバサが読み終えた本を置くと、それを目ざとく見つけた垣根がさっきまで読んでいた本を差し出す。
「丁度いい、こっちも終わった所だ。それ『土』系統の資料だろ? 寄越せ」
「ん」
「「ええー」」
 何だか輪の中に加われない二人が不満そうに洩らす中、お構いなしな二人は遠慮なく自分の世界に没頭していた。

「あんたが熱心に魔法の勉強をしてるのか、さっぱりだわ。何で?」
「悪いか」
「気になる」
 ルイズの疑問に垣根を挟んでタバサも頷いた。
「そんなの……魔法、何ておかしなもんあっちにはねえからな。今のうちに色々見ておかねえと勿体無いだろ。出先でうまいもん食っとくか、程度だよ」
「そんな理由?」
 呆れたルイズはふと、垣根の一言にひっかかりを覚えた。
 今のうち、と言われてしまうと垣根は早々にあっち、、、に帰ってしまうんじゃ、とつい考えてしまいそうになる。
 気落ちしそうになるルイズは背後からの、更に沈痛な嘆きに手を止めた。
「ねえ……あたしも混ぜてよ」
 馬車が学院を出発しておおよそ三時間が経った。
 ついにルイズも本の回し読みの中に入ってしまい、残ったキュルケは一人暇を持て余しているようだった。
 少し離れたところから膝を抱えて不満そうに洩らすキュルケに、ルイズは渋々声を掛ける。
「一冊余ってるけど、あんたも読む?」
 用意がいいのか、タバサはフーケのゴーレム以外の、他にも使ってきそうな『土』魔法の対策に役立ちそうな本を何冊か持ってきていたらしい。
 今更付け焼刃なお勉強などしてもたかが知れているが、しないよりましだとルイズは思っていた。
 しかしキュルケはルイズの申し出に肩を竦めた。
 振られる首にあわせて長い髪が揺れる。
「いいわよ、眠くなっちゃいそうだわ。そう言えば、あなたどっちかって言うと頭でっかちな方だったわね。忘れてたけど」
「そうなのか」
「ええ、ヴァリエールは座学の試験は優秀よ」
 垣根に話しかけられて嬉しいのか、何故かキュルケは得意げにルイズの長所を口にする。
 何とも珍しい光景だった。
 ルイズはそれが何となくむずがゆくて視線を本に落とした。
「ふーん。魔法の方もやばいと思うけどな」
「え?」
「こいつの爆発。あの威力、ドットってレベルじゃねえだろ」
「あら、そんな事考えもしなかったわ。ダーリンったら他の人とは違うところに目が行くのね。素敵だわ」
 うっとりと呟くキュルケだが、垣根の態度は相変わらずだ。
「相棒……俺も寂しいんだけど」
 そんな呑気な会話の中にもう一つ、声が加わった。
 荷台の端に転がされた剣は控えめに金具を鳴らしてそう呟く。
「あら、これがルイズがあげたって言うインテリジェンスソード? ほんとに喋るのね」
 キュルケは膝をついたまま、剣の方へとにじり寄った。
 興味があるのかじっと覗き込んでいる。
「……ツェルプストー、あんたスカート短くない?」
「あらそう? 誰かさんと違ってボリュームがあるからちょっと丈が取られちゃうのかしらね。別に上げてないわ」
「寒くないの」
 脱線しだす女子三人を無視して、剣とその持ち主は勝手に話し続けていた。
「デルフリンガー、お前なあ。話し掛けるまで黙ってろって言わなかったっけ。ツェルプストー、こいつ騒いだら炙れ」
「相棒ひでえ! 騒がしくしねえって。ちぇー何だよ、最初はあんなにお喋りしてくれたのによぅ」
「お前うるさいんだよ。話もお前が覚えてるって事は大体聞いちまったし、飽きた。大体人を勝手に相棒とか呼んでんじゃねえ」
 辛辣な垣根の言葉に剣が大袈裟に嘆く。
 近くでそれを聞いていたキュルケはうるさそうに片方の耳を押さえた。
 今更マジックアイテムごときで驚く事もないから誰も疑問は挟まないが、無機物と口げんかとはなかなかおかしな状況だった。
「だってよお……俺ちゃんと話したよなあ? なんでお前さんが俺の相棒かって事をさあ。それなのに飽きたとか、ひどくない?」
「調子に乗って人の睡眠まで邪魔するようなやつに言われたくねえ。ぐだぐだ言ってやがると炉にくべるぞ」
「ならなんでわざわざ持ってきたの?」
 ルイズの疑問に垣根はふと口篭る。
 少しして、どことなく歯切れの悪い返事が返ってきた。
「んー、場合によってのテスト用だな。まぁなくても大した事ねーんだけど」
「何だよ。何だかって偉いじいさんにも言われたんだろ? いざとなっ――」
「炙るくらいじゃ効かねえってんなら日焼けで死にたいか? デルフリンガー。お前、出る前に俺のした話聞いてたよなあ」
 話している最中に鞘に無理矢理押し込まれて、デルフリンガーは物理的に黙らされた。
 すでに黙っただけでなくあちこちがミシミシと嫌な音を立てているが、垣根が手を緩める様子はない。
「そう言えば、あんた学院長先生となに話してたのよ」
「別に? 大した事じゃねえ」
 偉いじいさん、と聞いて出発前の事をルイズは思い出したが、あの時二人に一体なにがあったのかはわからずじまいだった。
 垣根は軽く答えると首を振る。
 特に隠している風でもないから本当に大した内容じゃないのかもしれない。
 親切になんでも教えてくれる相手じゃないのはわかっているが、ルイズとしてはやはり少し残念だった。
(道中気をつけろとか、頑張りなさいとかそんなとこ?……わざわざ学院長先生がこいつにそんな事言うかしら)
 そんな事が思いつくくらいで、ルイズは首をひねった。

 フーケの根城と言う森は鬱蒼と木々が生い茂り昼だというのに暗かった。
 ひんやりとした空気に思わずルイズは身を縮めた。
 心なしか固い表情のロングビルが促して全員が馬車から降りると辺りを警戒しながら森に分け入る。
 草に足を取られながら細い小道を進むと、開けた場所に出た。
 丁度学院の中庭くらいの広さのそこには、確かに打ち捨てられた小屋があった。
 朽ち果てた窯と壁の壊れた物置がすぐ側に並んでいる。
「元は樵小屋だったのでしょうね。わたくしの聞いた話が正しければ、フーケはあの中に居るはずです」
 小屋からは見えないよう、茂みに隠れたまま五人はロングビルの指差す先をみつめた。
 続いて馬車に揺られながら話し合った作戦を確認する。
 慣れた様子でタバサが土の露出した地面に木の枝で図を書き始めた。
 囮役が小屋を偵察し、フーケがいれば外へおびき出す。
 そうして出てきたところを相手に魔法を使わせる前に叩く、と言う実に簡単なものだった。
 ゴーレムの製作には大量の原材料が必要になるから、土製のゴーレムを使うフーケは間違いなく屋外に出てくるだろう。
 そこは問題なかった。
「囮役は……任せていいわよね」
 ルイズは垣根を仰いだ。
 万一、小屋の中のフーケが追っ手への対抗策を講じていないとも限らない。
 とっさの奇襲にも対応でき、回避も充分となると風メイジであるタバサも期待されたが、フーケを仕留める時の事を思えば貴重な戦力をそちらに割く訳にもいかないと結論付けられたのだ。
 当の垣根は危険の伴う囮などと言われても全く気にしていなかったが。
「捕まえちまって構わねーんだよな」
 気楽にそう言うと垣根は堂々と廃屋に近寄っていく。
 慎重に隠れるとか、そっと様子を窺うような真似はしない。
 挙句、あっさりとドアを開けると中に入っていた。
「彼は大丈夫なんでしょうか」
「ありがとうございますミス・ロングビル。でも多分、あいつなら平気です」
 心配そうにロングビルは垣根の主人であるルイズに声を掛けてくれたが、ルイズは垣根の心配はちっともしていない事に気付いた。
 傍若無人だがどこか頼もしい垣根なら、きっと何とかしてくれる。
 そんな勝手な期待をいつの間にかルイズは垣根に寄せていた。
「ほら、『破壊の杖』ってのはこれじゃねえの」
 しばらくして。
 何やら物音が繰り返された後で、木箱を脇に抱えて垣根は小屋から出てきた。
 どうやらフーケは中にはいなかったらしい。
「すごいわダーリン!」
 そうキュルケが黄色い声をあげ、ルイズがほっと胸を撫で下ろした時。
「え、あれは……」
 色を無くしたロングビルの声に皆が振り向けば、木々よりはるか高く聳える土の壁がこちらを向いていた。
「ゴーレム? なんで」
 疑問を感じる間もなく、辺りを揺るがす地響きに全員の動きが止まる。
 巨大なゴーレムは一歩ずつ大きく足を振り上げ地面を激しく打ちながら近付いてくる。
 この場の三人の魔法があのゴーレムに通用しないのは既に把握していた。
 その為、ゴーレムが現れたら速やかに引く事は決定事項。
 都合のよい事に『破壊の杖』は奪還済みだ。
 けれど。
 ルイズは迫るゴーレムを見上げ、柳眉をつり上げる。

「退却」
 タバサが鋭く口笛を鳴らすと、青い巨躯が広場上空へと舞い降りる。
 予め控えさせていた風竜が主人の命に参じる。
 その体も、ゴーレムと並べばまるで小鳥のようだった。
 タバサ、ロングビル、キュルケの三人は作戦通りに、近くまで降りてくる竜目掛けて走っていた。
「ルイズ!」
 はっとした顔で振り返ったキュルケが叫んだ。
 一人残ったルイズはゴーレムに杖を振りかざす。
 短い詠唱に続いて巨大なゴーレムの表面が弾けるが、それだけだった。
「何してるの?! 逃げなさいよ!」
「いやよ!」
 キュルケは風竜の上から声を張り上げる。
 滞空の苦手な風竜の翼では、その場に留まるにはなるべく小さく旋回するしかないようだった。
 木々に邪魔されながらもルイズを拾い上げるタイミングを窺っているらしいタバサは、隣のキュルケと同じく真剣な顔をしている。
「なによ。強情張って、今度こそ死にたいの? 捕まえて名をあげようってあんたの気持ちもわからなくはないけど――」
「ちがうわ」
 キュルケの言葉にルイズは首を振った。
 『ゼロ』と呼ばれ続けたルイズでも、あのフーケを捕らえればもう馬鹿にされない。
 誰もがルイズを認めてくれる、かもしれない。
 そんな欲もない訳ではない。
 しかし、この場でルイズの足を押しとどめるのは、それ以上のなにか、、、だった。
「わたしにだって、プライドがあるのよ! 何もしないで、今ここで引いちゃいけないの!!」
 叫ぶとルイズは深く息を吸った。
 ぼんやりとした眼窩をこちらに向けるゴーレムを睨みつける。
 震える膝を拳で叩いた。
 ゴーレムは低空を旋回する風竜ではなく、こちらに狙いを定めたらしい。
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」
 杖をしっかりと握る。
 震える指を押さえつけた。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
 見上げてもまだ足りない。
 そんなゴーレムは巨大な体だがゆっくりとした、人間と変わらないような速度で近付いてくる。 
 振り上げられるゴーレムの足目掛けてルイズは詠唱を繰り返す。
 断続的な破裂音と土煙があがる。
 それを押し退けて。
 ルイズの視界にゴーレムの足が迫り、広がった。
 みるみる近付く土の塊が何故かゆっくりとした動きに見える。
 近付いてくる恐怖に耐えかねてルイズは目を瞑った。
 ドズン! と凄まじい轟音が辺りに響く。
 しかし、いくら待っても衝撃も。
 予想していたような痛みすらなかった。
「へえ。言うじゃねえか。大した啖呵だぜ、御主人様よ」
 反抗的で生意気な、使い魔の声がすぐ後ろから聞こえた。
 ルイズは堅く閉じていた瞼を薄く開く。
 少しだけ、褒められたようなその響きに。
 ほっと息を吐いたルイズの体から力が抜けた。
 座り込んだルイズの目の前に広がっていたのはそれまでの土塊の色ではなく、眩いような白一色だった。



<p align=center>*  *  *</p>




 目の前に突如現れた壁面。
 それに助けられたのはルイズにも理解出来たらしい。
 ルイズは一歩前に出ると、腕を伸ばして滑らかな白い壁に触れた。
「なに、これ……変な手触り。土でも石でも、金属とかじゃないの?」
「そんなつまらねえもんと比べんなよ」
 不満そうな顔をして立つ垣根の背後から、白い壁は所々重なり合うようにして半球を描き、伸びていた。
 その光景に、何か気付いたのかぽかんとしたルイズは目を丸くする。
「え、これあの羽? あんたの翼?」
「他に何に見えるんだ」
 垣根はルイズに向けた苦笑に合わせるように周囲の壁を動かした。
 ザン! と一瞬はためいたのは確かに鳥のものに似た形をした長大な三対の翼だった。
 片手に木箱を持った垣根はルイズの背後から隣、そしてその前へと足を進める。
 その間にも、背から伸びる真っ白な半球は。
 丁度グラスに注がれる水がその輪郭を変えないように、綻び一つ見せずにその形状を維持していた。
 すれ違い様に、空いた右手でルイズの頭を押さえるとぐしゃりとかき混ぜる。
「ほら、邪魔だ。持っとけ」
「わっ、思ったより軽いのね」
 垣根は『破壊の杖』の箱をルイズに押し付けると前方を覆う『未元物質ダークマター』のドームを眺める。
 薄っすらと光を反射する白い壁面はゴーレムの足の一撃を受けても罅一つ入っていない。
「俺一人なら余程の事がなけりゃこいつは必要ねえ。だが、どっかのバカなご主人様が無茶するからな」
 柄にも無いことをした、と垣根は改めて感じるむずがゆさを振り払うように乱雑に、今度は自分の髪を掻いた。
 垣根は『未元物質』を自分に降りかかる火の粉を払う為に使った事はあっても、何かを庇うように奮った事は今までほとんどなかった。
 だが、今回は少しばかり事情が違う。
 垣根が普段自分一人の防御に裂いている周囲に撒かれた細かい『未元物質』の設定が、その範囲、対象を変えてもどの程度通じるのか定かではなかったし。
 それではルイズがゴーレムの足を狙った爆発にいつかの授業の時のように巻き込まれ、即興で作りあげる盾では吹き飛ばされるかもしれない。
 しかし、だからと言ってわざわざ翼を展開したのは。
 そもそもの動機からして。ただそれだけだ、とはっきり言い切れないのが垣根の居心地の悪さを増していた。
(あのジジイの思惑通りになってる気がする、ってのは何つーか。癪だな)
 出発前のオスマンとのやり取りをほんの少し思い出して垣根は眉を寄せる。

 垣根が今こうしているのは、ルイズを勝手に殺させない為だ。
 こんなつまらない事で、思いがけず手にした好機をドブに捨てたくはない。
 そしてほとんど何も得ていないこちらの知識と、あちらへの帰る手段。
 どちらのとっかかりでもあるルイズには、みすみす面倒事に巻き込まれては困る。
 まして、勝手に死なれてはもっと困る。
 今現在の垣根の立場は、悲しいかなルイズあってのものだ。
 そうでなければ。この国ではただの平民でしかない垣根はそう扱われ、オスマン達が垣根に協力する必要もなくなる。
 環境が現状以下に落ちるのも、帰還の可能性にすら触れられなくなりかねない状況も垣根は御免だった。

「だからって……こっち来てからちょーっとペース崩されすぎじゃねえか?」
 らしくねえ、とぼやくと垣根は改めて前を向く。
 繭のように、垣根とルイズを覆っていた翼の前面がずれていった。
 そこからこちらを向いているゴーレムを見上げて、垣根は小さく口笛を吹いた。
「まじまじ見るのは初めてだが、面白えな。サイズはざっと三十メートル。いやメイルか? 『念動力テレキネシス』系や、特定の物質の操作に長けたタイプの大能力レベル4を複数揃えても馬鹿みてえな体積、おまけに質量を備えたもんを形状を維持したまま支えて丁寧に動かすなんて真似は無理だろうな。流石は魔法ってとこか」
 呑気にそんな感想を口にする垣根の目の前で、ゴーレムはその拳を握って右腕を振り上げた。
 恐らく狙いは白い盾の間に覗く二人。
 そして不用心に開いたその隙間だろう。
 それを見逃さない程度には、フーケの頭も悪くないらしい。
 しかし、それをみても垣根の態度は変わらない。
「おいおい、ちょっとは頭使えよ」
 歪む口の端からはひどく残念そうな呟きが漏れた。
「全体の重みが乗った一撃が効かなかったんだ、そんなもんが通じると思ってんのか」
「ちょっと?! テイトク? あんたなにする気なの?」
「ルイズ」
 後ろで騒ぎ出すルイズの慌てる声に、垣根は肩越しに振り返った。
 してやったり、と言いたげな得意げな笑みを向ける。
「今度こそお前の出番はおしまいだ。そこで黙ってみてりゃいいんだよ」
 バサァ、と巨大に伸びた翼の左側が更に動く。
 少しずつずれ重なりながら広げられた三枚の翼は。
 まるで垣根の余裕の態度を示すように。
 大きく伸びたその全体を示すと緩やかに一度羽ばたいた。
 壁のその大半を失い、目に見えて耐久力の落ちた翼の守り。
 そこにゴーレムの拳は容赦なく叩きこまれる。
 更にインパクトの瞬間、それは即座に金属に『錬金』された。
 ズガィン! と鈍い衝撃の後に鋭い反響音を残して、辺りはたちまち舞い上がる砂煙に包まれていく。

 厚い幕に覆われたのが一瞬ならば、それが晴れたのもまた一瞬の事だった。
 目に映らない鋭い一閃が砂の幕を一筋、裂いた。
 突如吹き荒れる風が森の木々を揺らし、その奥へと辺りの砂を押し流す。
 晴れていく砂煙の中から巨体を浮かび上がらせたゴーレムの肩に細い亀裂が走ったかと思うと。
 直後、白い軌跡がそこを過ぎ、遅れて腹に響くような轟音が響いた。
 ドズン! と翼に突き立てられた拳ごと、ゴーレムの右腕が落ちた。
 壊れた玩具のように、ゴーレムの動きが止まっている。
 垣根の伸ばした左三枚の翼は僅かに傾き、斜め前方を向いていた。
 そう。
 二十メートル近く伸び、巨大な剣と化した白い翼がゴーレムを肩口からすっぱりと切り裂いたのだ。
 巻き起こった烈風は先んじて砂塵を払ったに過ぎない。
「魔法も捨てたもんじゃねえ。面白えよ。だが、これも使う人間の頭の程度、発想の度合いが知れるな」
 そう言い放つ垣根の目の前で、事態は動く。
 ずるずるとゴーレムの肩近くの土が崩れ、地に落ちた腕に降りかかる。
 周囲の地面を巻き込んでぐにゃりと伸び、ゴーレムの足元近くと腕の間を繋ぎ合わせるように動いていた。
「金属や石と違ってその素材じゃ再生も簡単か。まあそれも出来れば、の話だろ」
 にやりと垣根は笑みを深めた。
 突如、持ち上げられていた腕の一部が崩れ始め、地に落ちる。
 腕の切断面にはまるで血痕のようにどろりとしたものが、『未元物質』がこびり付いていた。
「既存の物理法則の通じない『未元物質』に触れたものは塗り替えられた独自の法則に従って動きだす。異物ってのはそう言うもんだ。たった一つ混じっただけで、世界をガラリと変えちまうんだよ」
 よろりと立ち上がったルイズは、前に進んだ。
 垣根のすぐ横に来ると、呆気に取られた表情で壁の間から目の前に広がる異常な光景、、、、、を眺めていた。
 ルイズだけではない。
 恐らくは、同じような顔をしているだろうフーケにも向けて、親切に教えてやりながら垣根は薄く笑う。
「テメェらの魔法はどうだ? ルーン? 呪文の詠唱? それがどんなものであれ既存のルールに則るもんには違いないだろ」
 だが、と垣根は呟いて、
「俺の『未元物質ダークマター』に、その常識は通用しねえ」
 轟!! と言う風の唸りが再び羽ばたく翼によって巻き起こされる。
「俺の生み出す『未元物質』はこの世界には存在しない物質だ。細かい説明してやってもどうせわからねえだろうから省くが。『未元物質』は『系統魔法』の魔力の影響を受けづらいみたいだぜ。塗り替えまで出来ねえのは残念だが。妨害程度なら問題ねえ、御覧の通りだ。どうだデカブツのご主人様よ。テメェの木偶人形はちゃんと言う事聞いてるか? 操り人形の糸を端から切っていけばどうなるか、なんざ今更説明するまでもねえよなあ」
 傷口から体内に入り込む毒物に組織が侵されていくように。
 切り離された生体の細胞活動の維持が失血によって妨げられるように。
 『未元物質』と言う異物に侵され始めたらしい土はフーケの手の上から少しずつ零れ落ちていくようだった。
 更に。
 ゴーレムの右肩の切断面からも、水が染みていくようにじわじわと。
 付着した『未元物質』を中心に僅かずつだが崩壊が広がっていく。
 と、ゴーレムの上半身が大きく崩れた。
「傷んだら切り捨てるか。スリムにしたいって言うなら手伝うぜ」
 垣根が次に振るうのは右の翼。
 見せ付けるようにゆっくりと、白い翼はゴーレムの左足を横なぎに刎ねた。
 自重を支えきれずゴーレムは右に傾きくず折れる。
「久しぶりに羽を伸ばせる、ってのも悪くねえな」
 文字通りの下らない呟きに、垣根は機嫌よく笑った。

 今までにない位気分は高揚しているが、何故か頭は冴えずぼんやりとしている。
 丁度酔いが回り出したような、そんな感覚だった。
 それと同時に、先程からの頭にまとわり付くような鈍く重い不快感が増している。
 だが。
 頭の片隅に浮かんだそんな考え。
 その僅かな不信感を垣根は無視した。
 今はそんな事より、この浮ついた気分に任せて土人形をどう潰してやるかが優先事項だ。

 それは。
 普段より明らかに冷静さに欠いた考え。
 それにも気付かずに。
 いや、気付いていても。
 垣根は愉快なオモチャを相手に思うまま能力を振るえるチャンスと興奮に、かつてないほど囚われていた。
 潰れては再生するゴーレムに羽を叩きつけながら、ふと気付いた違和感に垣根は眉を顰めた。

「は、ぁ?」
 そう、違和感。
 それに気付いた垣根の思考は瞬時に真っ白く染まり、止まった。
 今の今まで気付かなかった事が信じられない。
 いや、有り得ない程の異変を感じ取った垣根は余りの事に戦慄した。
「おいおい……なんだ、ふざけてんなよ」
 背筋に今まで感じたことの無い冷たいものが伝う。
 それに反して引きつった頬が、口元が吊り上がる。
 その顔に引き裂くような笑みを浮かべて。
 腹を抱えた垣根は乾いた笑い声を辺りに響かせていた。
 徐々に収まる声、震える肩。
 がくんと俯いていた顔を上げた垣根の顔から、一瞬。
 一切の感情が消える。
「相棒! おい、相棒!!」
 我に返ったように突如背中の剣が叫んだ。
 しかし、垣根の耳には既にそんな雑音は届いていない。
 目の前のゴーレムも、背後のルイズも、最早目には入らない。
 その瞬間、垣根の頭からは周囲の状況も、事態も、その一切が抜け落ちていた。
 落ち着かない、耳に響く自分の脈動がガンガンとけたたましいものに変わっている。
 そんな垣根の脳裏を占めるのはたった一つ、この理不尽に対する疑問だけだった。

 何が
 何故
 どうして
 わからない

 頭の中でぶつん、と何かが切れる音がしたようだった。
「畜生、クソがぁあ!! どこ行きやがった、、、、、、、、!?」
 まるで見捨てられた子どものように垣根は叫んだ。
 苛立ちのままに、ゴーレムに肥大化した翼をまとめて叩きつける。
 ドバン!! と巻き起こる烈風。
 かき消される、誰のものともしれない悲鳴。
 煽られた木々の枝が鳴き、辺りは嵐に襲われたような惨状を示した。

 混乱し、めまぐるしく錯綜する思考の中で。
 それでも垣根は次第に状況を把握し始めていた。
 叫び、翼を振るう一方で。
 感情的な熱に支配された頭の片隅が。そこだけが少しずつ冷めていく。
 逸る自分すらどこか客観的に捉える。
 観察するような思考は冷静に、数少ない情報と推論のピースをよく見えるように並べ始めていた。
 目の前に広がる、見慣れた白い翼。
 圧倒的な力を内包する筈のその手応えが、垣根にはいやに軽い気がした。

 演算式に問題などない。
 能力は発現する。
 一見して、今までと変わりないように見える。
 しかし、何か足りない。
 決定的な何かが、今の『未元物質ダークマター』には欠けていた。
 手に馴染んだ筈の武器が変質している。
 例えるなら、刀の柄と鞘を除き、刀身だけがいつの間にか紛い物になっていたようなそんなイメージ。
 以前と比べれば今、垣根の背にある翼は中身の無いただの張りぼてのようにすら感じられる。
 それが何で、何故欠けているのか。
 垣根にはまるでわからなかった。

 ただ。
 失ったと言う事実だけは、はっきりとわかっていた。
「ふざっけんなよ……クソがぁああああああああああッ!!」
 獣のように垣根が吠える。
 癇癪を起こした子どもの手のように、乱雑に滅茶苦茶に。
 三対の翼が振るわれた。
 その翼の一薙ぎで森の木々が打ち倒れていく。
 三十メートル近いゴーレムはぐじゃぐじゃと刺し斬られ打たれ。
 既に見るも無惨に潰れていた。
 そんな、土の塊に。
 染み一つ無い白い翼は何度も何度も、剣のように杭のように槌のように。
 振り下ろされ続けていた。

「はぁ」
 情けなく息を吐いた垣根は呆然と立ち尽くしていた。
 背中の翼は羽根の一枚一枚を舞い散らすようにばら撒かれた後、あっという間に消失していた。
 蹂躙の無残な爪あとを残す地面は割れ、窪み、周囲には折れ重なった木々が痛々しい傷口を晒している。
 廃屋は既に廃材の山と化して見る影もない。
 恐らく、あのゴーレムが暴れてもこうはならないだろう、と言う惨状を前にして。
 垣根の気分も少しはマシになっていた。
 怒りと混乱の波を越えて、垣根に残ったのは嫌に凪いだ思考だった。
 久しぶりに声を荒げたおかげで喉が痛い。
 先程までの大暴れとの落差、激しい虚脱感にかられて両肩から力が抜ける。
 突然暴れ出し、急に静かになった垣根を見ていたルイズは怖々とした様子でゴーレムの残骸と翼を消した垣根とをしばらく見比べた後、
「え。終わったの? ゴーレムに勝ったの? これ」
 ぽかんとした顔で抱えた箱を見下ろしていた。
(もうガキじゃねえんだ。ムカついたからって自分を見失うなんざ、俺の柄かよ)
 沸き立つ感情に駆られ、論理も整合性もなくただがむしゃらに能力を振り回した。
 そんな先刻までの自分の姿を思い返し、垣根は悔しげに歯噛みした。
(……いや。今、考える事じゃねえ。みっともねえ真似したって事態がマシになんかならねえのは、わかってんだろ)
 再び頭をもたげそうになる疑問を振り払うように頭を振る。
 増したようなその重みが軽くなどならない事はわかっている。
 それでも、垣根はそうせずにはいられなかった。
 ふと。
「なにこれ? これが『破壊の杖』なの?」
 背後で箱の中身の無事を確かめていたらしいルイズがおかしな声を上げる。
 振り向いた垣根の目には確かに奇妙なものが映った。
 わずかに詰まったような円筒形、畳まれたグリップや照門がなければ成るほど、苦しいが杖に見えなくもない。
 プラスチック製のその杖はルイズの腕でも持ち上げられる重量のようだった。
「あ、ちょっと」
 ルイズから『破壊の杖』を取り上げると、垣根はぼんやりと目を向ける。
 『破壊の杖』を確かめるように両手の中で回し、続いて左手に視線を移す。
 甲の部分に刻まれた光を放つルーン文字、、、、、、、、、を睨んだ垣根は首を振った。
「66ミリ使い捨て対物ロケットランチャー『M72 LAW』か。こんなものがあるってのも充分妙だけど。あいつらが言ってたのはこれ、、か……」
 力ない溜め息を残した垣根はルイズの手に再び『破壊の杖』を押し付けるとゆっくりと歩き出した。
 残されたルイズは慌てた様子で追いかけてくる。
「ちょっと! フーケはどうするのよ?」
「あー、そうだな……とっくに逃げたんじゃねえの。あれを囮にでもしたんだろ」
 ゴーレムだった土の塊を、振り返りもせず垣根は首を振る。
 その表情からは、先程までの愉しげなものがすっかり抜け落ちていた。
 いつも以上にやる気のない冷めた目で、垣根はルイズを見やる。
「ソイツがありゃあ、ガキの使いもおしまいだろ。後、俺の不始末、、、、、もこれでチャラな。何だ、後は何が不満だ?」
「え」
 ルイズがはっとした顔をする。
 しかし、ぼんやりとした垣根はそれに構う事はしない。
「でも、もしまたフーケが来たら……」
 仕事は終わった、と告げる垣根にルイズはふっと顔を曇らせる。
「来ないだろ」
「なんでよ」
「そいつにしてみりゃ、万全だと思ってた得意の魔法にあそこまでされてんだ。テメェなんかすぐ挽肉になるのは目に見えてる。そこまで馬鹿って事ないだろ。別にあいつの正体が誰で目的がなんだろうが、俺にはこれっぽちも関係ないからな。一々そんな事に構ってなんざやれねえ。テメェらで勝手にしてくれ」
 疲れきった顔で、だらだらと言葉を返す垣根はもうフーケの事など眼中になかった。
 不安そうに目を伏せるルイズにも気を向けることはない。

 しかし、そうは言ったものの。
 もしハルケギニアのメイジが揃いも揃って馬鹿しかいなかったら。

 面倒すぎるだろ、とすっかりやる気のなくなった垣根はそんな事を考えて頭を掻いた。
 わざわざ歯向かってくる馬鹿をご丁寧に相手取った上に潰してやるほど、垣根はお人よしではない。
「あー、そうだった」
 崩れた元ゴーレム、土の小山の側にバサバサと風竜が降りてくる。
 離れた所で唖然と、ただ様子を見るしかなかった残りの三人の存在を。
 そこで垣根はようやく思い出した。

 今の今まで、本当に忘れていたのだ。
 それどころではなかった。
 そんな下らないものにちっとも気を回していなかったのだ仕方ない。
 そんなうっかり、でそれまで隠していた鷹の爪ならぬ翼を晒した垣根は誤魔化すように。
 竜から降りる三人に無理矢理笑顔を繕ってみせた。
「見てりゃわかると思うけどな、俺は自分の敵には容赦をしない。あんな風に、、、、、俺の敵に回りたくなけりゃいい子にしてろ。ここで見た事は、うっかり口を滑らさない方がいいぜ。余計な話が広がると、ウザってえからな」
 何を、などと今更言うまでもない。
 丁度彼女達はギーシュとの決闘を、そしてたった今目の前で起きた惨状を見ていた筈だ。
 それを忘れている筈がない。
 垣根の言葉を聞いた三人は口を開かなかった。
 だが。しっかりと真剣な目で繰り返し頷いた。
 (コソコソした隠蔽になんざ、今まで気を配って来なかったが……やっぱ面倒くせえな)
 今までは、そんな事は垣根自ら手を下すまでもなく『スクール』の下部組織が片付けていたし、情報の統制や記録の改竄は当然のように上層部が絡んでいただけに街ぐるみのレベルで勝手に行われていた。

 対個人のレベルで、それも簡単な脅し一つで。
 人の口に戸を立てる、なんて事は無理だ。
 一時的に抑圧は出来ても長持ちはしないだろう。

 信頼なんて危ういものの上に成り立つ関係性を垣根は期待していない。
 かと言って、そんな理由でルイズの知り合いの、身分のきちんとした他国の貴族をどうにかする訳にもいかないだろう。
 悪党にも種類がある。
 その中でも垣根は、そんな小さな事の為に一般人にわざわざ手を下すようなタイプではなかった。
 一応は念も押した、その上でどうするかは相手次第だ。
 その先は垣根の知った事ではない。
 そして。
 垣根には今はそんな風に余計な事を考えているだけの余裕がなかった。
 ルイズが何か言いたそうに見上げてくるのがわかるが、相手などしていられない。
 そうして外した視線を、再び左腕に向ける。
 持ち上げた手の甲にはただルーン文字が刻まれている、、、、、、だ。
 空になった手の平を強く握ると垣根は暫くそれを眺めていた。



*  *  *





 きゅるるるる、くるるるるぅ。
 か細い声を不満そうに洩らしながら、風竜は翼を広げて空を駆けていた。
「大丈夫。今は落ち着いてる。暴れる様子もない」
 何やら哀れっぽい声で鳴く風竜にタバサはしきりに声を掛け応えている。
 ゴーレムとの一戦の後、馬が脅えて帰りは馬車が使えなかった為、ルイズ達はタバサの使い魔に乗せてもらっている。
 近くの駅になんとか引っ張って預けた馬は、休ませた後学院に送り返してもらう手筈になっていた。
 危うく徒歩になるどころか、馬の足より遥かに早い竜の翼で帰りの時間が短くなるのはありがたかった。
「何? どうしたの」
 気になったのか、前に乗り出すようにしてキュルケが尋ねる。
 ほんの少し顔を顰めているのは、風に流される赤い髪が邪魔なのか。それとも使い魔を案じるタバサを気づかっているのか。
 そんなキュルケに、タバサは相変わらず淡々とした口調で応えた。
「私の使い魔もさっきの戦闘で気が立ってる」
「あら。その子風竜って言ってもまだ子どもなんでしょ? 大丈夫なの?」
 こくんと頷くとタバサは使い魔の背を宥めるように軽く叩いた。

 そんなやり取りを見て、ルイズはちらりと後ろに目をやった。
 垣根は風竜の背鰭に凭れてじっと黙っている。
 閉じた瞼から、何を考えているのかはさっぱり読めない。
 あんなゴーレムを倒した後だと言うのに、垣根は何故か機嫌が悪そうだった。
 それまで、ゴーレムを前にしていた時も様子が変だった。
(あんな風に怒鳴ったの、見たことないし)
 何とか落ち着いたらしい垣根になんとか聞くと、
「ストレス溜まってたんだよ」
 と言われたが、それにしたってただ事ではないくらい、付き合いが短いルイズでもわかる。
 垣根はいつも余裕ぶった態度でいたし、感情的な態度をみせる事も少なかった。
 それは、召喚して以来垣根を側で見ていたルイズは良く知っていた。
 だが。
 ゴーレム相手の一暴れから一転、今の垣根はその時以上に近寄りがたい雰囲気を放っていた。
 興奮した様子でしきりに話しかけるデルフリンガーは、来た時のようにしっかりと鞘に入れ、おまけに口を留め黙らせてしまっていた。
 何やら、同伴していたミス・ロングビルも何か言いたげな様子だったが、垣根を警戒しているのか遠巻きにしていた。
 ルイズが声を掛けてもどこか上の空、と言った感じだ。
(何よ……ちゃんと言いたかったのに。言いそびれちゃったじゃない)
 垣根の事も気になるが、ルイズの頭を悩ませるのはそれだけではなかった。
 あれだけの働きを見せた使い魔に、ルイズはよくやった、と褒めてあげてもいない。
 ありがとうとお礼も言えていない。

 あの時、ルイズを庇ってくれた垣根はあんな風に言ってくれたが。
 あれはルイズのただの意地だ。キュルケの言うように考えなしの馬鹿な行動だ。
 その愚かしさは、ルイズにだってわかっていた。
 だけど。
 あの場でただ逃げる事はどうしてもしたくなかった。
 軍人として貴族として立派な両親には及ぶべくもない。優秀な姉にも、優しい姉にも届かない。
 だからこそ、せめてそうありたいと思う気持ちだけは曲げたくなかった。
 頑固だと馬鹿だと言われようと。
 魔法も使えず、貴族らしくある事も出来ないルイズがただ一つ譲れないものだった。
 そんな無力な自分が悔しかった。
 許せなかった。
 だからこそ。
 ルイズは垣根のしてくれた事が嬉しかったのだ。
 そんな自分を見捨てずに、助けてくれた事が嬉しかった。
 あんなゴーレムだって垣根にしてみれば、大した事はなかったのかもしれない。
 それでも。
 勝手な思い込みだろうとなんだろうと、とにかくルイズは嬉しいとそう感じたのだ。

(なら、やっぱり言った方がいいわよね)
 ぐっと拳を握ると、ルイズは早くなる鼓動を何とか抑えようとした。
 何故か、あのゴーレムの前に立った時と同じくらい。
 ルイズは緊張していた。
「ちょっと……テイトク?」
 怖々と、黙ったままの垣根に近付くと、ルイズはそっと様子を窺った。
 返事もなにも反応がない。
 ただ静かに胸が上下している。
 どうやら、じっと目を閉じているうちに垣根は寝てしまったらしい。
 折角の決意を折られて。
 ほんの少しだけほっとして。
 ずるっとルイズの肩から力が抜けた。
 あの不機嫌さで拒絶でもされたら、ちょっと立ち直れなかったかもしれない。
 むにり。
 そんなルイズの後頭部に柔らかいものが押し付けられる。
「ねえ! ダーリンったらすごいじゃない! 聞いてないわ。本当に平民なの? あれ何て魔法なのよ」
 ゴーレムを前にした垣根の剣幕も恋の炎とやらにはちっとも堪えなかったのか、それともすっかり調子が戻ったのか。
 はしゃぐキュルケに更に気を抜かれ、ルイズは小さく肩を竦めた。
 首筋までが柔らかい感触で埋まる。

 垣根もああは言っていたが、下手に詮索や余計な事をされるくらいなら。
 全てとはいかないが、いっそある程度の事を話してしまった方が楽かもしれない。
 慎重そうで口の固いだろうタバサは問題ないだろうし、キュルケに至っては好奇心に駆られているだけだろう。
 燃え上がり、燃え尽きるのも早いツェルプストーは、手に入ってしまえば興味を失うのも早い。
 長年ツェルプストーとやりあってきたヴァリエールのその一人であるルイズはそれもよくしっていた。
「さあね。あいつ『<ruby><rb>東方</rb><rt>ロバ・アル・カリイエ</rt></ruby>』からきたらしいから、東方の魔法ってところじゃないの。あっちには『系統魔法』とはちょっと違うものがあるんですって」
「ふぅん。何、あなた知ってて黙ってたの? ずっと?」
 もっともらしいがまるで信憑性もない言い訳だ。
 だが、違うところに反応したらしいキュルケは不満そうに呟くと、伸ばした指でルイズの頬をつついてきた。
 鮮やかに塗られた爪を目で追いながら、ルイズは顔を伏せる。
「だって……なにかあったら困るでしょ。あいつがここじゃ平民なのは間違いないもの。あんな事が出来るなんて知れたら、どうなるかわからないじゃない」
「そうかしら。あなたって心配性ね? これだから頭の固いトリステイン人は嫌だわ。それにしてもステキだったわよね。あの翼。圧倒的で、大きくって、すごくって……なんて言ったかしら、あれみたいだったわ。そう、天使」
 あの惨劇と言ってもおかしくない、圧倒的な闘いを一緒に見ていたとはとても思えない。
 そんなひどく能天気なキュルケの言葉に、思わずルイズは吹き出しそうになった。
 天使。
 神の使い。
 少し前に聞いた話を思えば何だか笑えないが、その単語はあまりにも垣根には似合っていなかった。
「天使って『始祖の降臨』とかに描いてある? そうかしら。わたし最初翼人かと思ったんだけど」
「嫌だわ、彼の羽はもっと神々しくて神秘的で情熱的じゃない。そう情熱よ!」
「ちょっとツェルプストーうるさいわよ! 騒いだらあいつ起きちゃうじゃない。こうやって昼寝してるところ邪魔すると怒るんだから」
 情熱、情熱と騒ぎ出すとキュルケはルイズの隣に回る。
 柔らかい枕も離れていってしまった。
「あら。寝顔はカワイイのね」
「勝手に触んないで!」
 またしても垣根にちょっかいを出そうとするキュルケを止めるべく、ルイズは慌ててつかみかかった。
 怒る、と言ってもいつもの垣根なら精々睨んで悪態を吐く程度だ。
 それでも、ルイズには充分怖いものだが。もしあんな風に怒鳴られたら、と思うと。

 冗談ではない。
 きっと、あの恐ろしい母様にも並ぶ。

 そう考えたルイズは全力で、なるべく静かにキュルケを止めようと必死になった。
 しかし。
 目の前の垣根の顔が、閉じた瞼が不快そうに顰められる。
「……うるせえ」
 がくん! と垣根の呟きの直後、風竜の背が激しく揺れた。
 振り返ったタバサは冷たい目で原因の二人を睨む。
「どっちもうるさい。彼を起こさないで」
 赤縁の眼鏡のレンズが鋭く光っていた。
 『雪風』の二つ名にふさわしいその剣幕に黙って頷くと、つかみ合ったままの二人は肩を寄せ合う。
「(なによあれ)」
「(さあ、あの子の使い魔はまだ子どもらしいって言ったでしょ? ダーリンの魔法の激しさにびっくりしちゃんたんじゃないの。乗せてもらってるのに怖がらせちゃ確かに可哀想よね)」
「(幾ら子どもでも竜が驚くって……まあ、あれじゃ仕方ないわよね)」
 二人は前方のタバサと後方の垣根を気づかい、揃って声を潜める。
 ひそひそと、因縁のツェルプストーと額をつきあわせてそんな風に話をしながら。
 改めて、ルイズは垣根の常識外っぷりを実感していた。


 螺旋階段を上がるルイズは寄せた眉根を指先で伸ばしていた。
 あれから、何となく元気のなかった垣根は学院に戻ってからというもの部屋に籠もっていた。
 ルイズ達が報告に向かった学院長のところにもついて来なかったし。
 届いたばかりの自分のベッドに転がると、組んだ両腕を枕にぼんやり天井を睨んでいた。
 ルイズが話しかけても生返事ばかりで終いにはうるさいとしか言わなくなった。
 夕食に誘っても取り合わず、じっと何か考え込んでいるようで。
 何かの殻に籠もってしまったようだった。

 その理由が全くわからなくてルイズは困っていた。
 あんな様子の垣根に、今回の一件のお礼を――なんてとてもではないが切り出せない。
(ううん、しっかりしなきゃ。わたしが沈んでどうすんのよ)
 部屋の扉を前にして、ルイズは軽く咳払いした。
「テイトクー、ご飯くらい食べたらどうなの? シエスタ達も心配して――え?」
 努めて明るく、そんな事を言いながら扉を開けたルイズは目を丸くした。
 いつのまにか部屋の中には誰もいない。
 垣根の数少ない荷物は真新しい小さなベッドの上に放られていた。
 慌てて部屋の中を見回したが、書き置きや何かが残されているようすもない。
 ひく、とルイズの眉が吊りあがる。
「なに、なんなの……あいつ人の気もしらないでなーにしてんの?」
 ふと。
 どこからか聞こえる小さな声にルイズは気付いた。
 聞き耳を立てて部屋の中を歩き回り、ほどなくして床の上にしゃがんだ。
 そして腕を伸ばすと、垣根のベッドの下を探る。
「あんた……こんなとこでなにやってんの?」
 しっかりと鍔の留め金を下ろされたせいでもごもごと呻くだけの哀れなインテリジェンスソードに、ルイズは溜め息を吐いた。
 ぱちん、とそれを外してやるとデルフリンガーは情けない声でルイズを呼ぶ。
「ああああ貴族の娘っ子おお……」
「全く。それよりテイトクは? 勝手にどこいったのよ」
「相棒は、相棒は……俺を置いて出ていっちまったよ。もう、帰って来ないかもしんねえ……」
 さめざめと泣き声を上げるデルフリンガーに、ルイズは目を剥いて怒鳴った。
「ちょっと! どう言う事なの? なにがあったって言うのよ!」
 デルフリンガーは『破壊の杖』の一件を終えてから今まで、ある意味垣根と一緒に居た筈だった。
 だから何か心当たりでもあれば、とルイズは思ったのだが。
 それ以上の爆弾が飛び出してルイズはいてもたってもいられなくなる。
 無意味に、両手で柄のあたりをなんとか持ち上げていたデルフリンガーをがちゃがちゃと揺らした。
 1.5メイルのロングソードはルイズの腕には重過ぎるが、そんな事を気にしている余裕はない。
「俺だって知らねえよ。わかんねえよ。けどなあ、娘っ子」
「なによ」
「うーん……別に、相棒に口止めもされてねえし、お前さんは相棒の主だし、そもそも相棒は俺がそんな事知ってるなんて思いもしないだろうから言うけどな? 相棒には言うなよ? 絶対言うなよ? 俺まだ溶かされたり潰されたくないんだよ」
 喋るときの振動以外の理由からか。
 少しだけ落ち着いたデルフリンガーは口のようにも見える金具をカタカタと震わせながらそう前置きした。
「いいわよ、黙ってる。わたしもあんたの気持ちはなんとなくわかるしね」
 ここにはいない垣根に対して、僅かな感覚の共有をした一人と一振りはそう頷きあった。
 じっと、口元を曲げたまま睥睨するルイズの前で。
 デルフリンガーはぽつぽつと、言葉を探すようにして話し始めた。
「相棒はなあ、どうかしちまってた。俺は魔法仕掛けのインテリジェンスソードだ。相棒の事は、側にひっついてりゃわかるのよ。で、ゴーレムの腕をぶった切ってからの相棒は、なんてーかギリギリだった」
「ギリギリ? なにがよ」
「ああ。心がぐしゃぐしゃに震えてた。あんな危ねえ『使い手』にはとんとお目に掛かったことがねえってくらい。それが、部屋を出る前。行くなって叫ぶ俺を黙らせた相棒は……」
 ふっと言葉を切るデルフリンガーの深刻な様子に、ルイズもつい唾を飲み込んだ。
「テイトクは、どうしたの」
「おかしなくらい静かだった。落ち着いたってのとは少し違う。何か別のもんで蓋でもしたみたいな。とにかく、それだけの事があって相棒は出てっちまった。俺を……俺を置いてぇええええ! 相棒がいなけりゃ、俺はどうすりゃいい? やっと出会えた『使い手』にもし見捨てられたら俺はぁああああ」
 また突然悲嘆モードに移行するデルフリンガーのヒステリックな悲鳴に、ルイズは耳を庇うと負けじと声を張り上げる。
「なによ、全然わかんないじゃない! あいつがどうしたって言うのよ」
「俺だってわかんないよ! 俺にわかるのは、『使い手』の調子と心の震えの強さくらいだ。頭の中までわかるような機能はついてないの! それも相棒本人がなんだかわかんないくらい混乱してたら、俺にはもうさっぱりわかんないの!!」
「なんなのよ……ならおかしな事言わないでよ。どうしたらいいかわかんない、ってだけじゃない」
 再び、わんわんと泣き出すデルフリンガーを垣根のベッドの下に放ると、ルイズは床に膝をついてシーツに顔を埋めた。
「なに、それ……あのバカ。わたしに、なにも……」
 文句を言っても、聞く相手がいなくてはどうしようもない。
 久しぶりに一人になった部屋は、なんだかルイズには広すぎるようだった。





=======

前回途中で切ったのに、それを反故にするくらい長くなった対ゴーレム戦です。
どうか、長いスクロールにお付き合いください。

ほのぼのってかくだらない日常パート、メイン展開の裏話って言うのも好きでちょっと追加した移動のやりとり。
そんな序盤と、中盤からはやっともってこれた『未元物質』の見せ場。
やっぱり垣根にはメルヘンな翼がなきゃね!!
折角だから華をもたせてあげたかった。
でも戦闘シーンとかなんですかそれ、状態です。精進したい

※追記
取り急ぎなんとかしてみました。
今後微調整はしても、この話はこれ以上大きく変わらないと思います。

このSSでの『未元物質』をどういうものにするか、を改めて考えて考えて考えていたら、夢枕に『例の金色のあの人』が出てきて助けてくれました。
多分ちょっと遅れたお年玉ですわ。
おかげで捏造しまくっていた裏設定にちょい足しでなんとかおとせそうです。
結局、『未元物質』がちょっと劣化したくらいで大きな変更はないですが。
垣根の前途は予定よりちょっとだけ多難になりました。

『未元物質』の設定補完と、伴う戦闘シーンの変更と加筆をさせてもらいました。
肝心なところに抜けがあったまま書いて、上げてしまうとか申し訳ないです。
勝手に立てたプランにふりまわされて焦るとろくな事にならないですね。
今までの描写はそういじらなくてもなんとかなりそうなので今は触りません。


すっかり、変更前以上に空気になってしまったフーケさんは次にちょっと触れたいです。

わかりづらい、前のほうが良かったなどご意見ございましたら遠慮なくお願いします。
お待ちしています。


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