目が覚めると、そこはルイズちゃんの部屋だった。
「……あれ、僕はどうして」
僕は寝起きで回転が緩い頭で昨日会ったことを思い出し、整理することにした。
確か僕は|世界《空間の狭間》で生まれ変われるはずだった。もちろん、それ相応の手続きをしたし、死ぬことのできない借り物の体に断続的に続く痛みに耐え、世界に僕という存在を認めてもらえるようにもなった。
そう、なったはずなんだ。
要するに、何を言いたいかというと、転生することができなかったということだ。
それは、この部屋の持ち主であるルイズちゃんが大きな原因だった。
もはや偶然の積み重ねによっておこったトラブルと事故により無理矢理|世界《空間の狭間》に穴をあけられ、このハルゲギニア召喚されてしまった。
そして、ルイズちゃんのお母さん、カリーヌさんから話を聞くと、どうやら僕たちは元の世界に戻ることができならしい。
というのも、そもそも|使い魔を召喚する儀式《サモンサーヴァント》は、本来ハルゲギニアに生存する動物や幻獣を召喚し、一生のパートナーにするための呪文らしいのだ。
だから、使いもを元の場所に送り返すような儀式は存在していなく、現状はこの世界で生きるしか方法がなくなってしまった。
僕はこの世界にとったら予備知識と言っていいようなことを頭の中で思い出していると、何か大事なことを忘れているのではないかと違和感を覚えた。
そういえば、この部屋はルイズちゃんのものだったよね。
あれ? ルイズちゃん?
そういえばルイズちゃんは昨日溺れて“死にそうになって……!”
「……そうだよ! ルイズちゃんは!」
ガバ!!「ぐぇえ!!」
僕の頭は急速に冷めていき、そして同時に熱くなった僕は勢いよく上半身を起こそうと足を使って勢いをつけ、腹筋に力を入れたが、なぜか起き上がることができず、軽く僕の首が締まってしまった。
「ッケホ ケホ ……なんで?」
突然のことにびっくりしたからなのか、さっきまで上っていた血は下がり、冷静さを取り戻した。
そして余裕も少しだけ出てきたから僕は首を軽くとはいえ締め付けた原因は何かと周りを探した。
手を首元に持ってくると布越しでもわかる温もりが指先から伝わってきた。それの正体を探ろうと、さらに手でまさぐってみると、どうやらそれは人の、それも小さな女の子の腕だと分かった。
腕?
しかも……四本? 二人?
よくよく考えれば最初のうちに、こうするべきだったんだよ。そうにちがいないね。うん
僕は顏を左右に向け、腕の主を確認した。そこにはルイズちゃんと優香が僕に抱き付きながら寝息を立てていた。
「…………え?」
僕ハ何デコノ御嬢様ガタト同ジべっどデ寝テイルノデショウカ?
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」
私は昨日のルイズが起こした騒ぎを思い出しながらルイズの部屋へ向かっていました。
『―――ルイズお嬢様が……死んでしまいました』
昨日私は側近隊の隊長殿から私に知らされた言葉に耳を疑いました。疑いたくなるのも当たり前です。疑いたくもなりますとも。
ですが、何度聞きなおしても帰ってくる言葉はおなじで、それは私の聞き間違いなどではないという何よりもの証拠なのですから。
私は心臓を締め上げられるような思いでいっぱいでした。
あぁ、私の可愛いルイズ。私はまだあなたの未来を見ていませんのに。
あなたの将来の姿を見ていませんのに。
ルイズ、あなたはまだ幸せを知っていませんよ。
何かを成し遂げた時の喜びや褒められることのうれしさ、そして未来で愛する人と寄り添い、子供を授かり、生む苦しみを味わい、わが子を慈しみ……そんな当たり前のような幸せな人生をあなたは十分に生き抜いてはいませんのに!
「そ……そうです! 彼女はまだ長い人生を生き抜いてはいないではないですか! それに、あの子は私の娘です。そう簡単に死ぬわけがありません! 側近隊隊長殿、ルイズのいる場所はどこですか!! すぐに案内しなさい!!!」
「は……ハッ! わかりました!」
そうして私は彼に案内されて中庭にある池に向かいました。
そこで私が目にしたものは、ユウがルイズを抱きしめながら涙を流し、その隣で世界のバランサーと名乗る少女が二人を見守るように微笑んでいる三人の姿でした。
何より印象強く残ったのは、ルイズの表情でした。私はあの娘が人を慈しむかのように微笑んでいるところを見たことがありません。
はっきり言って私には、この場面を見るだけではいったい何が起こったのか全く分かりませんでした。
ルイズは死んではいなかったのですか? なぜ近衛隊はこんなにも唖然としているのでしょうか。
次から次へと疑問が浮かび上がります。
ですが。
「そうですわね。ルイズが生きていてくれて本当によかった」
今はルイズが生きていたことに始祖ブリミルに感謝することにしましょう。
そうして私はいつの間にか身を寄せ合いながら寝ている三人をいつまでも呆けている|側近隊《カカシ》にルイズの部屋に寝かせてくるように指示を出し、私は寝室で涙を流し、安堵していました。
そして朝、起きた私はメイドからもうすぐ食事ができることを聞き、ルイズたちを起こそうと今に至るわけなのです。
それにしても、あの子たちの寝顔は可愛かったですね。
特にユウは精神年齢が高いですから、少しだけからかってあげましょうか。
そうやって私は子供たちのことを考えていた時です。
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」
「!? 何があったのでしょうか?」
突然ルイズの部屋からユウの声が聞こえてきたのです。
なんで!? なんでルイズちゃんと優香が僕と一緒に寝ているの!?
いや、今の今まで気が付かなかった僕もぼくだとおもいますけどね! でも、これはアバババババ!?!?
僕こと歌情 優は激しく混乱していた。なぜなら、僕の隣に世間一般から見てもかなり可愛いといっていいような女の子と女性が僕を抱き枕の如く抱き付きながら寝息を立てていたからだ。
もし、この光景を第三者の男性から見たら羨ましいという間の抜けた言葉が飛び交うことも請け合いだろうが、僕に至ってはそういう感情は持てない。
その大きな理由は、まさに長い間の病棟生活が原因だろう。
僕は小さいころから体が弱く、そのため他人と関わるような機会が一般人に比べると少ない。ましてや女の子とおんなじ布団で寝るなどという恐れ多い自堕落的で背徳感ある経験などしたことがあるはずがない。
要するに、平たく言えば、女の子に免疫がないということだ。
ただ、女性やおばさんにはかろうじて免疫があった。それは看護婦とだけは関わる機会がいやというほどあったからだった。
だが、だからと言っても目が覚めた時に彼女たちが隣に寝ているというのは、ある意味心臓に悪い。
つまり僕は強烈にテンパっているのだ。
つまり僕は絶叫してしまったのだ。
「と……とにかく、なんで二人とも僕に抱き付いてるの!? というか、僕がこの部屋で寝ているということは誰かがここにねかせてくれたということだよね。いやいや、だからってこんな風に抱き付かれながら寝ている姿を使用人に見られるならまだしも、もしこれをカリーヌさんに見られでもしたら「見られでもしたら……何ですの?」ギャ―――――!!?」
この屋敷に二度目の絶叫が響き渡った。
うにゅ~。もう、五月蠅いんよ~。眠りにくいんよ~。
あれ? 私の抱き枕どこ~? 「ギャ―――――!!?」!? いったい何があったの?
「い、いや。これは違うんです! 僕も目を覚ましたらなぜかこんなことになっていて。っていうか二人とも起きて!? 僕の潔白を証明して! っていうかルイズちゃん、正直目が覚めてるでしょ! あ、こら!抱き付くな~!」
「あら? 二人とも、ずいぶんと仲いいんですね~」
「すっばらしい笑顔を張り付けながらそんなこと言わないで!? 怖いですから!」
私が目を覚ましゆっくりと起き上がると、優とカリーヌさんがなんか知らないけど言い合いをしていたんよ。
正直に言うと起きたばかりだから、何があったのかさっぱりなんよ。というかこれなんてカオス?
「あ、いいところに起きてくれたね! 僕は免罪ですよ! そうですよね! というかなんで僕たちはここで寝ているんだろう?」
「なんでなんだろうね? 私にもさっぱりぽっきりわからないんよ」
「あぁ、免罪なのはわかっておりますよ。私がルイズの部屋で貴方がたを寝かせるように指示を出したのは私なのですから」
「え?」
ピキッという空気が凍ったような音がしたんよ。
まぁ、私には関係ないことなんよ。
「じゃぁなんですか! 貴女は僕たちのことをからかっていただけっていうことですか!?」
「えぇ、そうですよ。ずいぶんと慌てていましたねぇ」
「そりゃ慌てますよ。テンパりもしますよ。というか質の悪い冗談はやめてくださいよ」
僕はため息をつきながら半眼で若干睨むように……というか睨んだ。
「僕は精神年齢が外見にあっていないってことは分かっているはずですよね? 若干肉体に精神が引っ張られている感がありますけど……」
「だからからかったんじゃないですか。可愛かったですよ?」
「カワッ!?」
僕は息を詰まらせた。
あ、なんかすごいニヤけてる。
あわよくば、しばらくの間、このまま僕のことをいじくり倒そうとしている目だ。
動物に例えるなら猫じゃらしを前に尻尾を立てながらじゃれつこうとしている猫のようだ。
だめだ。このままだと(メンタル的に)食われる! とにかく話をずらさないと。
こら優歌。お前面白そうなものを見つけたような顔して笑うんじゃない。
とにかく何かしゃべらないとと口を開いた瞬間。
「お兄ちゃんをいじめたらだめ―――!!!!」
僕を突然胸に頭を抱えながらルイズちゃんはカリーヌさんに威嚇してきた。
「ル、ルイズちゃん? 僕は別にいじめられてないから。ね? 大丈夫だよ。だ……からちょっと離して?」
「ダメ! 私がお兄ちゃんを守のー!」
そんなこと言われても子供とはいえ女の子に免疫がない僕にアバババババ!?
私が目を覚ましたら何かしら騒がしかった。
何があったのかな~と思って話を聞いていたら、何があったのか分からなかったけれど、お母様がお兄ちゃんのことをいじめていることが分かったの。
だから私がお兄ちゃんを守ってあげようと思って声を出してお兄ちゃんを抱え込んでお母様をにらんだの。
本当は私はお母様が怖い。だって、いつも私に厳しくて、厳しくてただひたすらに厳しいんですもの。
でも、お兄ちゃんがお母様にいじめられることのほうが、もっともっっ――といやだ!
ほら、それに私の腕の中でお兄ちゃん震えるえているもの。きっとお兄ちゃんだって怖いにきまってるわ!
今、僕たちは食卓にいます。
今、僕たちは銀細工が|施《ほどこ》されている椅子に座っています。
今、ルイズちゃんは僕の膝の上に座って離れてくれません。
今、周りの目線が痛くて僕は目じりに涙を浮かべています。
結局あの後、収拾がつかずになし崩し的に僕たちはメイドの人に食事ができたと呼び出されて食堂に来た。
その間もずーとルイズちゃんは僕の腕にしがみつきながらカリーヌさんに威嚇している。
おいコラ優香、いつまで君はにやにやしてるの?
あぁ、ルイズちゃん僕は本当にいじめられているわけじゃないから大丈夫だよ? ほら、君のお母さんが苦笑いしているからね? まったく怒っていないっぽいからそろそろ威嚇するのをやめよう? ね? それとメイドさん、お願いですから微笑ましそうに僕たちのことを見ないでください。心がくじけそうです。そんな優しい目で見るんだったら僕のことを助けてください。いや、本気で。
そんなやり取りをしながらも食堂について、今このような状況に陥っているわけです。ハイ。
カリーヌさんの話によると、この後僕たちに昨日のことについて話を聞くらしい。
僕としては今でも構わないけど、それだとせっかくの食べ物が覚めてしまうため朝食を先にいただくことになった。
ただ……
「あの…そろそろ離れてくれると……う、うれしいかな~ なんて」
「だめ」
あの、ごはん食べられないんだけど……