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No.37866の一覧
[0] 二つのガンダールヴ、一人は隷属を願い、一人は自由を愛した【ゼロ魔】【才人+オリ生物】[裸足の王者](2016/05/05 15:17)
[1] プロローグ[裸足の王者](2013/06/18 00:06)
[2] 第1話 対話[裸足の王者](2013/08/19 07:22)
[3] 第2話 授業[裸足の王者](2013/08/23 09:53)
[4] 第3話:フーケの雇用条件[裸足の王者](2013/08/19 06:43)
[5] 第4話:トリスタニアの休日[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[6] 第5話:それぞれの思惑と[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[7] 幕間:フーケとジャガナートの作戦名”Gray Fox”[裸足の王者](2014/06/22 09:39)
[8] 第6話:潜入・アルビオン(前編)[裸足の王者](2013/08/25 23:01)
[9] 第7話:潜入・アルビオン(後編)[裸足の王者](2013/10/01 10:50)
[10] 第8話:それぞれの脱出[裸足の王者](2013/08/25 23:07)
[11] 9話:おとずれる日常、変わりゆくもの[裸足の王者](2013/08/25 23:08)
[12] 第10話:鋼鉄の翼、もうひとつのジャガーノート[裸足の王者](2013/10/01 10:37)
[13] 第11話:狂獣たちの唄[裸足の王者](2016/05/05 15:33)
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[37866] 第6話:潜入・アルビオン(前編)
Name: 裸足の王者◆bf78caa6 ID:b9dddeb4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/25 23:01
二つのガンダールヴ 一人は隷属を望み 一人は自由を願った

第6話:潜入・アルビオン(前編)



港町であるラ・ロシェールは、人口300人程度の小さな港町である
しかし、アルビオン・トリステイン間を結ぶ玄関口であるため、常に大量の人々が行き交っていた

やはりこの町も、フーケが利用しているスラム街と同じで、1本裏通りに入ればそこは別世界であった
傭兵崩れのならず者や、浮浪者、チンピラ、そういった連中が集まり、まさしく掃き溜めの様相を呈していた

その掃き溜めの一角に、金の酒樽邸と看板の掛かった安酒場がある
名前こそ大層立派だが、外見は今にも倒れそうなボロ屋であった

入り口の外側には、飲みすぎた連中が吐き出した吐瀉物が放置され、異臭を放っている
そしてまた一人飲みすぎた男が出てきて、その場所を通る、そのあまりの臭さに思わずゲロを吐く
負の連鎖反応である

その掃き溜めは、本日満員御礼であった
アルビオンの王党派についていた傭兵達が、主人を見限り、トリステインへと逃れてきたのである

口々に「共和制」万歳と述べて次々に杯を煽る、連中の半分以上安酒で溶けた脳味噌では、「共和制」と「貴族制」の違いすら説明できないであろう

その酒場のはね扉が開き、一人の長身の男が入店する
ブーツに付けられた拍車が、カチャリ… カチャリ…と独特の音を奏でる
黒いマント、白い仮面、腰に装備した剣杖、一見して貴族と分かる格好であるが、どう見てもまともな貴族には見えない

酒をガブ飲みしながらバカ騒ぎしていた連中も静まり返り、何事が始まるのかと注目する
男は店の真ん中に立ち止まると、辺りを見回す

「ここの傭兵頭はだれだ?」

まるで氷のような声であった、暖かさがまるで感じられない
やがて、傭兵達の中から一人、年かさの男が手を挙げる


「あっしでさぁ」
「今すぐ動ける人数を教えろ、仕事だ、金は言い値を払う」


そういって、懐から出した金貨の袋を机の上に放り投げる
すぐに中身を確認した傭兵の一人が声を上げた

「エキュー金貨だぞ!」

言い値を払う、という事はそれだけ危険な任務である
幾人かがしり込みし、酒の入ったグラスを持って奥へと引っ込む
残りの全ては、目を欲望にギラギラとさせ、男の言葉を待っていた

「弓兵、20名前後、ラ・ロシェールを出て、崖の上で待機、メイジ3人、剣士1名が旅をしている、こいつらを襲え、残りは"女神の杵"亭を強襲する、俺について来い」

女神の杵亭が貴族専門の宿であることは誰でも知っている、傭兵達は危険な任務を前にして、気を引き締めた


■■■


一方、魔法学院を出発したルイズたち一行は、全く休みを取ることなく、ラ・ロシェールへと向かっていた
流石に、魔法衛士隊のグリフォンはタフで、半日以上ぶっ通しで空を飛んでも疲れた様子は無い

ギーシュは馬の首にもたれかかったまま恨めしそうに空を見上げ、疲れを吐き出すかのように叫んだ


「もう半日以上走りっぱなしだ! どうなってるんだ?魔法衛士隊の連中は化け物か?」
「さあな?鍛え上げた者ならあれぐらいは何とかなるだろうよ」


才人は涼しげな顔である


「君も大概化け物だね…一体どういう鍛え方をしているのかね」
「どうって…、剣士の基本鍛錬しかやってねえよ?」


しかし才人は異変を感じていた、おかしい、いつもならこんなにぶっ通しで移動したら多少なりと疲れを感じるはずである
しかし、才人の身体は活力が漲り、はちきれんばかりだ、ほとんど疲労を感じない
ガンダールヴのルーンを発動させているわけではないのに、である

試しに背中のジャハンナムの柄を握って見る
グローブに隠されたガンダールヴのルーンが光り輝き、さらに体が軽くなるのを実感する

日々の鍛錬の結果が実ったのかと、楽天的に考え、才人はそれ以上考えるのをやめた
それより、"前回"は黄昏時にラ・ロシェールに近づき、そして傭兵達の奇襲を受けた
そちらの対策のほうが先決であった

才人は、ちらりと横のギーシュを見る、もうすでに、かなり疲労し、馬に乗っているというよりは、しがみついている
といった表現のほうがしっくりくる、そんな様子であった

上空では相変わらずワルドとルイズが楽しそうに話をしている
だが、才人は知っている、ワルドの積極的なアプローチは、ただルイズの力を欲しての事
いずれボロを出し、元の鞘に収まる

しかし、ルイズの気持ちをもてあそんだのだけは許せない、そう思い上空を見上げる
その時だった、視界が極彩色に染まる、空がオレンジに、森が緑や青に
そして、ルイズとワルドの乗ったグリフォンは、赤い影に見えた

才人は慌て、目を瞑り頭を振る

ゆっくりと目を開けると、周りは元に戻っていた

才人の様子に気付き、ギーシュが声を掛ける


「どうかしたかね?やっぱり君も疲れているんだろう、できれば休憩を取りたい所だ…が」
「ああ、そうだな…」


才人は馬の足を速めさせ、上空に向かって大声を上げる

「おーいっ!そろそろ休憩しませんかー?」


上空では、ルイズが後ろを振り返り、頬をぷぅと膨らませた

「ふんだ!姫様に無礼を働く使い魔は、一生走り続ければいいわ!」

そんなルイズの様子を見たワルドが笑う

「ははは、さすがにそれでは使い魔君がかわいそうだよ、…しかし彼も相当鍛えてるね、あの顔を見たまえ、全く疲れが見えない」

涼しい顔の才人に対して、ギーシュは死にそうな顔で馬にしがみ付いていた
それを見たワルドは、休憩を取ることにする

「よし!少しだけ休憩だ」

その言葉に、ギーシュが心底ほっとした表情を浮かべ、馬を止め、地面に下りた

「なんかまだ揺れている気がするよ…」




才人たちの直上20000フィート(約6リーグ)

雲の隙間を下目に、巨大な黒竜が雲上を優雅に飛翔している、もしこの黒竜をさらに上空から観察した人物がいたなら、小首を傾げている事だろう
その身体には、沢山のロープが垂れ下がっていたからである

吹流しのように、沢山のロープを揺らしながら、黒い影はアルビオンの方角へ飛行する
その6枚の巨大な翼はゆっくりと羽ばたき、莫大な浮力を生み出し、その巨体を空中にとどめる

その6つの目を何度かまばたきし、地上を見ると、すぐにいくつかのオレンジの点が見つかる
続いてまぶたを閉じ、再び目を開く
視界はモノクロに変り、7つの動く物体が、すぐ近くにいるかのように鮮明に目に映る
一つは地面に大の字に横たわり、残りは腰を下ろしている
馬2頭と、グリフォンがそばに立っている


それを確認したジャガナートは満足げに頷く


そして、翼の角度を変え、大きくロールを始める
そしてその目は、雲の下を飛行する影を捉えていた

ジャガナートが再びまぶたを閉じ、再度目を開く
視界は青く染まり、雲の下を飛行する影だけがオレンジ色に輝いて見えた

「彼女らも現れたか、予定通りといったところか」

誰に言うでも無く呟いたジャガナートは、再度アルビオンへ首を向ける

そして、ガラスの鈴が鳴るような音が辺りに響き
その漆黒の巨体は、放たれた矢のような勢いでアルビオンへと向かった


うっすらと青い、輝きの軌跡を残して


■■■


時はすでに夕暮れ、移動を再開した才人たちに、容赦なく制限時間が迫ってくる
このままいけば、下手をすれば野宿になりかねない

すでに夕日は地平線の彼方に沈み、辺りを夕闇が包み始める
先ほどから才人はずっと、山賊への対抗手段を考えていたが、全く思いつかない



脳裏に巨大な、あまりにも巨大な相棒の姿が思い浮かぶ、山賊の類なぞやつの姿を見ただけで命乞いを始めるだろう



その考えを頭を振って払拭する、だめだ、やつに頼りっきりじゃあ俺はいずれ死ぬ
そして、時間は無常に過ぎ、何度も馬を換えて強行軍を行ってきたサイト達は夜中にラ・ロシェールの町に入ることができた


「あいも変わらず、せまっくるしい道路だな、待ち伏せされたらひとたまりもねえじゃんか」

その言葉にギーシュが眉根を寄せる


「…君は、ラ・ロシェールに来たことがあるのか?」
「ああ、以前ちょっとな…」


そして、タイムリミットが訪れる、才人たちの足元に投げ松明が何本も投擲され、2名の姿が闇の中からあぶりだされる
そして、二人の乗っていた馬が驚いてさおだちになり、ギーシュは地面に放り出される。
才人は小さく舌打ち一つ、訓練された軍馬を手に入れられなかった事を悔やんだ
そして、ギーシュを庇うため、才人は馬を飛び降り、背中から2本の長剣を抜き放った。



左手に魔剣デルフリンガー



右手に魔剣ジャハンナム


そして、才人の耳は、暗闇の中から飛び来る矢の音を聞いていた
両手に持った剣で、そのことごとくを叩き落す


「どうした相棒!」
「ああ、奇襲だ、また頼むぜデルフ」
「よっしゃ!」


鞘から解放されたデルフが嬉しそうに才人に話しかける、才人はギーシュに的確な指示を出す


「ギーシュ!ワルキューレだ!」
「任せたまえ!」


ギーシュは精神を集中し、鋼鉄の戦乙女を呼び出すために呪文を唱え始める
ギーシュの前に立ちふさがり、矢を打ち落とし続けている才人も神経を研ぎ澄ます

その時であった


また、あの現象が起こったのである


まず、視界が青く染まる


松明は白く、がけの上の傭兵どもはオレンジに、空中のワルドとルイズ、それを乗せたグリフォンもオレンジに
慌てて瞬きをした才人の視界はモノクロームに切り替わり、夜だというのに全ての映像が鮮明に目に映った

一体何なんだと頭を振っている隙に、1本の矢が才人の足をかすめる

「ぐうっ!」


才人はバックステップですばやく後退し、弓兵の照準をずらす
才人が数秒前に居た場所に何本もの矢が突き立った

そして、その矢はギーシュにも降り注いでいた

「まずい!」

だが、矢はギーシュに当たることなく、次々に空中ではじかれて地面に落ちる
ワルドの風の魔法であった、上空のワルドから声が掛けられる


「大丈夫か!」
「はい、大丈夫です!」


才人が上空へむかって大声で伝える
そして、ギーシュの詠唱が終わり、薔薇の杖を振りかざす、数枚の花びらが宙に舞う

「ワルキューレェ!」

ギーシュの魔法が完成し、鋼の戦乙女が大地を踏みしめる
下半身は、多少の攻撃には揺らぐことすらない鋼鉄の軍馬、そして上半身は、冷たい死の抱擁をもたらす鋼の乙女であった
腕と一体化した盾と大剣を備え、優美な造形と相まって神々しいまでの雰囲気を醸し出している

才人とギーシュは戦乙女の背後に隠れ、矢をやり過ごす

「大丈夫かね!」
「ああ、かすっただけだ、すまねえ」

しかし、どうにも手詰まりである、ワルドはルイズを守るため防御に徹し、ギーシュ、および才人は崖を上れない
そのときである、崖の上に小さな竜巻が起こり、哀れな被害者を次々と崖下へと追いやった

「ほう、あれは風の魔法じゃないか」

ワルドが興味深そうに呟く

タバサの魔法に巻き上げられ、崖からゴミのように転がり落ちてくる傭兵達
身体をしたたかに地面に打ちつけ、うめき声を上げている

ギーシュが尋問に向かっていくのを尻目に、才人は剣を収めた

夜空に、きゅ~いという鳴き声が響き渡り、タバサのシルフィードが着地する
ジャガナートと比べると多少見劣りがするものの、立派な風竜の幼生だ
全長6メイルという、堂々たる体格である

着地と同時にキュルケが飛び出す、目的は才人だ

「ダ~リ~ンッ!」

情熱の色の髪の毛を振りかざし、才人を抱きしめようと駆け寄ったが
直前で、才人がすっと身を引いたため、空気を抱きしめるような格好になってしまった


「あら」
「すまねえ、俺は好きな人が他に居るんだ」


真顔で答える才人、実はキュルケの本心を試すためにカマをかけたのである



案の定



キュルケはしなを作り、グリフォンから降りてきたワルドの方へと歩み寄る

「おひげが素敵よ、あなた、情熱はご存知?」

ワルドはそんなキュルケに一瞥をくれると、左手で彼女を押しやった

「助けはありがたいが、それ以上近づかないでくれたまえ、婚約者に誤解を与えたくない」

求愛を拒否されたキュルケが当惑の表情を浮かべる

「なんで?どうして?あたしがスキって言ってるのに!」

その様子を後ろから観察していた才人は、キュルケの余りの変わり身の早さに苦笑いを浮かべる
そんな才人に後ろから、悲しげな声で話しかける人物がいた



ルイズである


「サイト…」
「あ、ル…ルイズ、その!あの!好きな人って言うのはだな」
「サイト…諦めなさい、絶対に叶わぬ恋よ?」
「あ?」

一体何の事だと、才人が怪訝な表情をする
だが、ルイズは言葉を続ける

「犬が幾ら姫様を想っても、姫様は振り向いてくれないわ」

ギーシュが迎合し、拳を振り上げる

「そうだそうだ!」
「ち…ちちちが~~う!」

才人の誤解がまた一つ深まった


そして、つまらなそうに足で地面を蹴るキュルケ、その隣で地面に"の"を幾つも幾つも書く才人が出来上がった


才人の現在の二つ名
姫様に恋する犬




■■■


そして、ラ・ロシェール一番の宿にたどり着いたルイズ達一行は、"女神の杵"亭の酒場でくつろいでいた
酒を飲み、料理を食べながら談笑する

若干1名、クタクタになって机に突っ伏しているのも居たが

そこへ、桟橋へ交渉に行っていたルイズとワルドが帰ってくる

「参ったね、アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」

ワルドは苦笑いしながら、ルイズは口を尖らせて、それぞれ席に着く
机の上に突っ伏しているギーシュは内心ほっとしていた

「さて、今日はもう寝よう、部屋を取った」

ワルドはそう言い、カギの束を机に置く

「キュルケとタバサは相部屋、ギーシュとサイトが相部屋だ、僕とルイズは同室だ」

当然、才人はこうなることは知っている、特に慌てた様子もなく、追加の料理とワインを注文する
大事な話があるからと、ワルドは真剣な目つきでルイズに告げ、連れ立って上階への階段を上っていった

「あら、サイト、食事の後は私を誘ってくださるのかしら?」

キュルケがそう言いながら、才人に腕を回し、熱のこもった視線で誘惑をしかける
才人は苦笑いを浮かべながら答えた


「キュルケは誰でもいいんだろ?」


キュルケの顔から艶やかな笑みが消え、目元が悲しげに揺れる、だがそれもつかの間、元の妖艶な笑みが顔を彩る
本当に注意していないと分からないほどの、わずかな時間に見せたキュルケの表情であった。
そして、ごんという重い音と共に、才人の目の裏に星が飛んだ

「~~~~~ッ!!」

頭を押さえた才人が椅子から転げ落ち、のた打ち回る

タバサが、読んでいた本を閉じ、その大きな杖で才人を叩いたのだ
その顔を見ると、わずかに眉がつりあがり、才人を見つめている

「あら、タバサ、私のために怒ってくれたのかしら?嬉しいわ~」

そういいながらキュルケはタバサを抱きしめ、嬉しそうに笑う
だが、抱きしめられているタバサの目は、氷点下の湖のような、そんな光を放っていた

「あやまって」
「なんだよいきなり!」

頭の痛みから回復した才人が食ってかかる

「キュルケにあやまって」

だが、タバサは頑として応じず、ただ一つの言葉を繰り返した

「……わかったよ、ごめんなキュルケ」

キュルケは別に気にしてないわよと手を振りながら、階段を上っていく
タバサがその後をとことこと追いかけた
去り際に、再度氷点下の視線を才人に向けながら

理不尽さを感じた才人は口を尖らせながら呟いた

「…事実じゃんかよ」

そんな才人に、机から少しだけ顔を上げたギーシュが言葉をかける

「君は案外容赦がないな、あれでは流石のキュルケも傷つくさ」

タバサのみならず、ギーシュからも責められた才人は、ふてくされてワインを煽った



その夜、入浴を済ませたタバサとキュルケは、宿の部屋で寝支度を整えていた

髪の毛を梳くしけずるキュルケに向かってタバサが声を掛ける

「大丈夫?」

初対面の人間が見たら分からないほどだが、わずかに眉をハの字にし、タバサが聞いた

「大丈夫よ、だっていつもの事ですもの」

そう返したキュルケは、すでにいつもの調子に戻っている
タバサはそれを聞き、こくりと頷き、いつもの読書を再開する

だが、髪をとかす手を止め、こうもつぶやいた

「あ~あ、なんでだろう、あたしっていっつもこうなのよね、本気で好きになっても、これじゃ相手に伝わらないものね、照れくさいからすぐにごまかしちゃうし……」

そういったキュルケは、少し寂しげに微笑む

「もう寝るわ、睡眠不足は乙女の大敵ですもの」

あくびなどしながらキュルケがベッドに入る
するとタバサは読書をやめ、ベッドに入っているキュルケの頭の近くに座り、キュルケの頭を優しくなでた

なでられているキュルケの頬には、ひとすじの涙の跡がついていた


■■■


翌日、才人は妙な気配を感じて目を覚ます
ゆっくりを目を開くと、隣のベッドではギーシュが幸せそうな顔で寝ている
そして、妙な気配の方向に意識を集中する、すると、視界がまた例のカラフルな色に染まった

オレンジ色の塊が、ゆっくりと動き、部屋のドアの方向へ向かっている
ここに来て、才人もようやく自分に起きている現象を理解する

ああ、俺の目は温度が見えるようになっているのだと

オレンジ色は、扉のところでしばらく立ち止まり、それから扉をノックした
才人は目を閉じ、腹式呼吸し、神経をリラックスさせながら再度目を開く

視界は、いつもの状態に戻っていた

そして、扉が再度ノックされる

才人は扉へ向かい、ロックを外して開けた

案の定、ワルドが羽帽子を被り、才人を見下ろしている

「おはよう、使い魔君」
「おはようございます、子爵閣下、何か御用ですか?」

営業スマイルを貼り付けた才人がワルドに挨拶する

「君は伝説の使い魔ガンダールヴなんだろう?」
「さあ、何の事でしょう?女の子の気持ちを読み取れない鈍さは伝説級だと、自負しておりますが」

それを聞いたワルドが、にやりと笑みを浮かべる

「隠さなくてもいいよ、姫殿下を守っていたときの君の手に輝いていたルーン、悪いが調べさせてもらった、王立図書館の文献でようやく見つけることができたよ」

才人は心の中で思った、うそだ、俺のことはすでにレコン・キスタの情報網で知っていたに違いない

「僕は歴史とつわものに興味があってね、勇猛を誇る君と少し手合わせがしたい」

やはりそうくるか、どうあっても俺の無様な姿をルイズに見せ付けたいらしいな 才人は心の中で考えた

「かまいませんよ」

そう答えながら才人の頭はフル回転を始める、"前回"はここで派手にやられた
当然だ、格の違う相手に挑んで"前回"の素人同然の腕では勝てるはずがない

だが、今ならどうだろう?才人体内で、獰猛な野獣がむくりとその身を起こす

しかし、そこでジャガナートの言葉が脳裏に蘇る"切り札は見せるな"
才人は心の中で鋼の鎖をたぐり、危険な野獣を宥めた。

だが、計算を終えた才人の口の端は、かすかにつりあがっていた

「この宿の中庭には、練兵場があってね、そこでやろう、介添え人も呼んである」

才人を後ろに従え、歩きながらワルドは語り始める

「昔……といっても、君には分からないだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ、古きよき時代、王がまだ力を持ち、貴族達がそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代……」

そこまで言ってワルドは少し言葉を切る、その顔には、寂しさとも怒りとも取れない、なんともいえない表情が浮かんでいた

「名誉と、誇りをかけて……、僕達貴族は魔法を唱えあった、だが、実際は下らない事で杖を抜きあったものさ、そう、例えば女を取り合ったりね」

女を取り合う…か、なんとも安い挑発だ"前回"は見事にはめられたが、と才人は自嘲する

「…さて、立会いにはそれなりの作法が必要だ、介添え人が居なくてはね」
「戦いを見届ける人間ですか?」
「ご名答」

ワルドが手を上げると、物陰からルイズがひょっこり顔を出す
ルイズは二人を見ると、心配そうな表情になった

「ワルド、来いって言うから来て見たら、何をする気なの?」
「彼の実力をちょっと試したくなってね」
「もう、そんなバカなことはやめて!今はそんなことしているときじゃないでしょう?」
「そうだね、でも貴族というものは厄介でね、強いか弱いか、一度気になり始めると、いてもたってもいられなくなるものさ」

ワルドの説得を諦めたルイズは、ため息を一つつき、才人に向き直り、命令する

「サイト、やめなさい、これは命令よ」

デルフリンガーとジャハンナムの柄を握っていた手を離し、才人が自然体に戻る

「やれやれ、困ったな、なんとも忠実な使い魔君だ」

手を空に向けたワルドは才人を挑発しはじめる

「あの竜を前にして一歩も退かなかった君の勇気は、その程度だったのか?」

才人は思った"必死だな"
この必死さの裏には、ジャガナートが言っていた例の件があるのだろう
才人は安い挑発にあえて乗ることにした

オープンフィンガーグローブをした手で、二振りの魔剣の柄を握り、それを抜き放つ

それを見たルイズは、抗議の声を上げる

「何なのよ!もう!」

そして、久しぶりに鞘から解き放たれたデルフが才人に話しかける

「お?相棒、何事よ?」
「ああ、魔法衛士隊の隊長様と決闘するハメになった」
「そいつはご苦労様なこって」
「何を呑気な、お前も一緒に闘うんだっつーの」
「へっ、俺は剣、振るうのはお前さんだ」

やり取りを聞いていたワルドが頃合いを見て声を掛ける

「では、始めよう」

才人は、最短距離を一直線に飛び込み、両方の剣を大上段から振り下ろす
ガキーンと、金属と金属の打ち合う音が響き、ワルドが歯を食いしばる
思っていたよりもずっと鋭く、重い一撃だったからだ

ワルドはすぐにバックステップし、フェンシングの剣のような杖を構えなおす
その手は微かに震えていた
このままでは後5合ほども斬り合えば、腕が馬鹿になりそうだった

気を取り直したワルドが鋭く間合いを詰め、突きを繰り出す
才人はサイドステップで攻撃をかわし、さらに横薙ぎの一撃を繰り出す

非常に鋭い一撃にも関わらず、それはワルドに読まれていた
あっさりと回避され、さらに追撃の突きが襲い掛かる

才人はそれを剣ではじこうとせず、後退して回避する
そして、突きが伸びきったところに、再度突撃し、また大上段から振り下ろす

まともに受け止めるのを嫌ったワルドが、その攻撃を回避する
グリフォンの刺繍が施されたマントをなびかせ、優雅に着地したワルドが再度構える

「なんだ?魔法衛士隊なのに魔法を使わねえのか?」

デルフリンガーの声が響く

「お前が錆びまみれだから、舐められてんだよ」

才人は必死で、全力精一杯な様子を演出する
攻撃は直線的に、フェイントも糞もない、最速、最強
読みやすい、素人の攻撃を思い出し、その動きをトレースする

結果、全力で突っ込んでは両剣を振り下ろし、バックする、また突撃し、振り下ろすという、単調なパターンが出来上がった
ワルドも、最初の一撃の重さには呻吟したものの、後は余裕で回避していた、どんなに早く、鋭い攻撃でも、来ると分かっているなら対処は余裕である
さらに、才人は全力の半分も発揮していなかった

そこに、得意になったワルドが話しかける

「君は確かに素早い、ただの平民とは思えない、流石は伝説の使い魔だ」

バカのひとつ覚えよろしく、直線的な攻撃を繰り出した才人の横に回りこんだワルドが、才人の後頭部を剣杖で攻撃する
インパクトの瞬間、歯を食いしばり、衝撃を受け止めた才人であったが、脳裏に火花が飛んだ

「しかし、隙だらけだ、攻撃も単調ですぐに読める、それでは本物のメイジには勝てない」

なんとか立ち上がった才人の単調な攻撃を、ワルドは華麗に回避する

そして、回避一点張りだった動きを切り替え、攻撃に転ずる

閃光のような突きを連続して繰り出し、さらにその口元が微かに動いていた

「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ」
「いかん!相棒!魔法が来るぞ!」

デルフリンガーが叫ぶ

そして、才人の左側に素早く移動したワルドが魔法を解き放つ

才人は、両手の剣を交差させ、さらに両手をクロスさせ、インパクトの瞬間思いっきり地面を蹴った
エアハンマーは才人10メイル程度吹き飛ばす

才人は樽の山に激突し、派手な音を立てた

樽の山に突っ込んだ才人はピクリとも動かず、大の字になっている
額から一筋の血が流れ、それを見たルイズが息を飲み、両手で口を覆う

無用心にもワルドが歩いて近寄ってきているのが分かる
ワルドから死角になっているほうの右手が、服に隠した手裏剣を確認する

だが、その手裏剣が打剣される事はなかった

才人は、今回の手合わせで、何回ワルドを殺せたかをカウントしていたのだった
そうとも知らず、ワルドは目を瞑ったまま動かない才人に剣杖を突き付ける、その足はデルフリンガーを踏みしめていた

「勝負あり、だ」
「この野郎、その薄汚ねぇ足をどけやがれ!」


ルイズが恐る恐る才人に近寄ってくる

「わかったろうルイズ、彼では君を守れない」

泣きそうな顔をしたルイズが答える

「……だって、だってあなたはあの魔法衛士隊の隊長じゃない!姫殿下を守る護衛隊、強くて当たり前じゃないの!」
「そうだよ、でも、アルビオンに行っても敵を選ぶつもりなのかい? 強力な敵に囲まれたとき、君はこう言うつもりかい?わたしたちは弱いです、だから杖を収めてください、と」

ルイズは返答に詰まってしまう

そして、未だにピクリとも動かない才人のほうに歩み寄り、ハンカチでそっと額をぬぐう
そんなルイズを見たワルドは、ルイズの手を取り促す

「行こう、ルイズ」

ルイズはその手を振り払った

「いやよ!離して! 気絶している使い魔を放っていけるほど私は薄情じゃないわ!」

気絶した振りをしている才人は、そのルイズの優しさを嬉しく思った
いっそのこと、このまま気絶した振りをずっと続けようかと思うほど

振り払われたワルドは、両手を空に向け、苦笑いを浮かべて歩き去って行った
だが、その目は全く笑っていなかった


ルイズは、とりあえず才人を運ぼうと、才人の手を取り、肩に回し引き起こそうと試みる
だが、いかんせん貴族育ちのお嬢様の筋力、高校生といえども男を一人担いで運べるほどの力は無かった

しばらくうんうんと唸りながら四苦八苦していたが、やがて諦め、人を呼ぼうと才人に背中を向けた
その背中に才人の声が掛けられる

「…ルイズ?」
「サイト!気がついた?」
「ああ、何とかな、イテテテテ」

才人は樽の山をがろんがろんと崩しながら起き上がる

「いや~、負けちまった」
「お~お~、派手に後ろに飛んだな、背中がどろどろじゃねえか、つーか早う俺を拾え」

才人は、デルフとジャハンナムを拾い、ジャハンナムを鞘に収める

「まあ、気にすんな、相手はあの魔法衛士隊隊長だ、勝てたら奇跡みたいなもんだ、そりゃそうと……、さっき相棒に握られてた時のあの感覚…」
「そうよ?才人、別に気にしなくていいのよ?」

デルフとルイズが必死になって才人を慰める
そりゃそうだ、普通の男ならプライドがずたずたになってしまい、しばらく立ち直れないだろう

才人はびっこを引く振りをする
するとルイズはすぐに才人の右側に回り、手を肩に回す

「ありがとう、ルイズ」

才人のその言葉に、ルイズはぱっと顔を赤くし、慌てて取り繕った

「いいい…犬でも怪我したら可哀想だからよ」

才人の作戦は見事に成功した、勝負に負けて、戦いに勝利したのである


その夜、才人はキュルケやギーシュ達と1階の酒場で騒いでいた
明日はスヴェルの月夜、いよいよ明日がアルビオンに渡る日だからだ

だが、才人は果汁を頼み、酒を口にしなかった

ギーシュとキュルケは飲んで大いに盛り上がり、タバサはハシバミ草のサラダを摘みながら本を読んでいる
ルイズとワルドは部屋にいるようだ

ギーシュが、なぜ酒を飲まないのかねと尋ねたが、油断しないためと答えた
だが、宴もずいぶん盛り上がった頃、才人は酒場の親父のところに行き、ある注文を出した

「親父、上等の赤ワインに砂糖と、こんな感じのスパイスを入れて、暖めてくれないか?それと、ブランケットを1枚出してくれ」

才人はカウンター裏に並べてあった香辛料の中からシナモンとクローブに似た香りの物を選んで親父に注文を出す
寒い夜に、お師匠が手ずから作って飲ませてくれた物だった、これを飲むと、道場から家までの道のりが楽になったものだ

マグカップとブランケットを持った才人を見て、ギーシュが問いかけた

「なんだね、結局飲むんじゃないか、僕にもくれないか?」

しかし、2つのマグカップを見て察したキュルケがギーシュの頭にチョップを入れる

「バカね、ちょっとは察しなさいな、そんなだから女の子に振られるのよ?」

ギーシュの目から涙が溢れ出し、さめざめと泣き始めた

「モンモランシ~、うぅう…」

どうやら泣き上戸のようであった



ワルドとルイズが泊まっている最上階まで上った才人は、目当ての相手を見つけて、心の中でガッツポーズする

最上階のバルコニーには、妖精が佇んでいた
ピンクのブロンドに月の明かりが降り注ぎ、神秘的な色合いを見せている
華奢な体つきが、そのまま月の明かりに溶けてしまいそうな、そんな儚げな印象を見るものに与えていた
手すりに肘をつき、まるで透き通るような、シミ一つない顔に浮かぶは物憂げな表情、名匠の絵画のような、そんな風情であった

後ろから近づいたサイトは、まずブランケットをルイズの肩にかけた

「…ありがとう」

そして、湯気を立てているカップをルイズに渡す

「飲みなよ、あったまるぜ」
「なに?これ」
「ああ、それはホットワインっていってな、寒い日にお師匠様がよく俺に飲ませてくれたんだ、酒気は熱で飛んどるから、とか言ってな、バリバリ残ってるっつーの」

陶器のカップをそっと口に運ぶルイズ

「…おいしい」

ルイズはホットワインの味を気に入ったらしく、微笑んでいる
才人もそれをみて微笑む

「あんたって、時々妙に気が利くのよね、かと思えば姫様にキスしたり、わけが分かんない」
「悪かったな、わけが分からなくて」

才人は口を尖らせて抗議する

「それにしても、大丈夫なの?」
「何が?」
「あんた、その…ワルドにこてんぱんにやられちゃったじゃない…」
「ああ、それか、だって平民の剣士が魔法衛士隊の隊長に勝てたらおかしいだろ?」

それに、俺の作戦はすでに成功しているしな、と才人は心の中で追加する

「あんたって、結構強いのね…心が」
「そうでもねえよ」
「あのねサイト…実は…」

ルイズはぽつりぽつりと才人に語り始める、ワルドに求婚されたこと、迷っていること
ワルドが憧れの存在であったこと、結婚したら才人はどうなるんだろう、才人はそれを黙って聞いていた

「ねえ…、サイトはどう思う?あたしどうしたらいんだろう…」
「そうだな…、ルイズのしたいようにしたら良いと思うぜ?そりゃ俺はルイズの使い魔だし、ずっとルイズを守って居たい、けど、俺がお払い箱になったら、そうだな、ジャガナートと一緒にどこか旅にでも出るかな」
「そうよね…、あたしと一緒に居たほうが姫様に近づくチャンスが多いものね」

才人は思わずずっこけた



そのときだった、階下からものの壊れる音、怒声と罵声の入り混じった喧騒が聞こえてきた

ルイズは狼狽し、才人を不安げな目で見る

「え…なに、なによ」
「たぶん敵襲だ、いそげ!」

そこに部屋から飛び出してきたワルドも合流する

「なにやら下が騒がしいな、きみの学友たちが心配だ、急ごう!」


3人が酒場に下りて目にしたものは、入り口にひしめく傭兵達であった
だが、決して魔法の射程に入ろうとはしない、矢で牽制し、魔力をそぐ算段のようだ
つまるところ、歴戦の傭兵達のようである
キュルケ達は石造りの机の足を折り、それを盾にして矢を防いでいた

才人は土くれのフーケが敵側にいないことに心底感謝した

才人たち3人は、姿勢を低くし、バリケードに隠れているキュルケの所へ這い寄っていく
ワルドが低い声で全員に話しかける

「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着けば成功とされる、キュルケ君、ギーシュ君、タバサ君、すまないがここで敵の傭兵を足止めしてくれないか?」

その言葉に、ギーシュは目を輝かせ、タバサとキュルケは普通に頷く
ワルドが低く号令した

「では、散開!」

ルイズを先頭に、ワルド、才人の順で裏口を目指す
飛んできた矢は才人が全て切り払った

厨房を通じ、外に出た才人たちが振り向くと、建物から爆音が響き、煙が上がっていた

「おー、派手にやってるな」

才人が呑気な声でつぶやいた


外に出た三人は、順番を入れ替え、ワルド、ルイズ、才人の順番で駆けて行く

今のところ、何も問題は見当たらなかった、ただ、才人は胸中でウェールズ殿下と遭遇できるかを心配していた





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