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No.38151の一覧
[0] 使い魔はデブ(ゼロの使い魔)[くれないの](2013/07/28 11:24)
[1] 虚無の魔法[くれないの](2013/08/31 18:38)
[2] 追われるデブ[くれないの](2013/08/10 15:13)
[3] あまりに何も起きなくてデブ焦る[くれないの](2013/09/09 17:56)
[4] それは私です。[くれないの](2013/09/09 17:58)
[5] 斜め上[くれないの](2013/09/09 18:00)
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[38151] それは私です。
Name: くれないの◆c175b9c0 ID:b001625e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/09 17:58

俺とマチルダは早速馬車に乗ると一路森の中を死体が置かれている小屋へと向かって、そして特にトラブルもなく帰路についていた。なにせ目的の小屋でマチルダの用意していた死体を回収して、それを学院まで持ち帰って『この死体がフーケだ』と言い張れば良いだけである。フーケは男と思われているぐらいで正確な目撃情報がない。

なので、そのあとフーケが現れることがなくなればそれで俺が疑われることもなくなるのだ。マチルダはもう盗賊稼業を辞めると言っているし、その点は俺と彼女の協力関係が続く限り大丈夫の筈だ。馬車に乗せて死体と移動なんて正直いやだがこの際贅沢は言ってられなかった。しかし、俺は贅沢は言わないと思っていたが、とある現実に背中から大量の汗を流していた。

「あの、マチルダさん?」

俺はその“死体”を見て、正直、漏らしそうな程怖かった。

「なんだい?」

マチルダがニコリと笑う。

「あの……これ“誰”?」

ここに来るまで恐ろしくて聞けずにいたことを俺はついに聞いた。なにせ俺は小屋に用意されている死体はてっきり墓場からでも盗んだのかと思っていたが、マチルダはそんな思いを裏切りどう考えても最近まで生きていたと思われる遺体が小屋にあり、争ったのか小屋は破壊され血だらけだったのだ。その遺体を回収し、馬車まで運んだのが俺である。お陰であちこち血だらけである。

「ロルカって言う私の知り合いだよ」

「知り合い?えっ、マチルダさん。まさか知り合いを殺したの?」

俺は目をぱちくりさせた。

「そうだよ」

「なっ、ななななんでだよっ!それじゃあ話が違うだろ!」

『おいおい、姉ちゃん穏やかじゃねえな。まさか今回の為にわざわざ殺したのかよ?』

さすがのデルも鞘から出て声が剣呑になった。

「まあそうなるね」

「いやいやいや!なんでだよ!なんで罪もない奴殺して犯人ですって言わなきゃいけないんだ!いくらなんでもそれは無茶苦茶だろ!バッカじゃねえの!?」

しれっと言ってのけるマチルダにさすがに頭に来た。罪もない死体をフーケと偽ることもかなり気が引けるのに、生きた人間となればとてもそんなこと出来るわけがない。俺はその生前は男前と思われる男と目が合う。

「ああ、ロルカさんが恨めしげに俺を見てる!どうすんだよ!トイレ一人で行けなくなるだろ!」

『いや、相棒。それちょっと論点ずれてるぞ』

「論点もかかしもないわ!デル怖いよこの女!何しれっと人殺ししてんだ!バーカ!バーカ!あほー!」

『いや、語彙が不足してるぞ相棒。落ち着け』

「はあ、そうだよ落ち着きな。あんたの言い分もっともだと思うよ。むしろこう言って平気な顔されたら私がとんびきするよ。でもね。そいつはフーケと言ってもいいようなどうしようもない悪人だとしたらどうだい?」

そう言ったフーケの切れ長の瞳はどこか愁いを帯びていた。

「ど、どどどういう意味だ?悪人なの?殺してOK?」

「ふふ、おや?あんたは私のことを全部知ってるのかと思ったけど、知らないこともあるんだね」

マチルダは面白げに動揺しまくって呂律の回らない俺を見る。確かにマチルダの秘密の殆どを知っているのかと言うぐらいあの夜、彼女の秘密を話したが、それでも知らないことの方が多いに決まってる。情報源は伏せていたから彼女にはそう見えてもおかしくないが、俺が知るのは小説の中で語られた彼女だけだ。ここまで色々符合することが多ければここがゼロ魔の世界であることに疑いはない。

だが、どう見てもアニメ調でもなく、ブロンド美女のリアルな人間であるマチルダの全てが小説で語れるほど薄っぺらではないことぐらいの想像は付く。メインヒロインであるルイズですら実際接すれば小説とはまったく違う一面が見えるほどだ。殆ど語られることのない彼女など、どれほど原作を読み込んでも全て知ることは出来ないはずだ。

「当たり前だろ。俺が知ってるのはマチルダのほんの一部だ」

俺は憮然とする。背中にじっとりいやな汗がしたたる。俺の体重を引く馬が重そうだ。などとどこか違うことを考えるほど俺の価値観と合わないことが起こっていた。いやあ、マジで人殺しはまずいだろ。どうするんだよこれ。かといえ今更自首させるわけにも行かないし、そんな殊勝なことするとも思えないし。

「まあ聞きなよ。あんたが言っていたように私は元は貴族の御嬢様さ。王の弟であるモード大公に仕える貴族にしてサウスゴーダ地方を治める領主。サウスゴータ家と言えばアルビオン王国では相当な権威でね。王は元々弟に過剰に権威を与えるのをよしとしてなかったが、私の家がモード大公の後ろ盾として居たから、無碍にも出来なかった。周囲ではそう言われたほどうちは昔威張ったもんだったのさ。今はもう行き遅れるぐらい引き取り手のない私だけど、当時は男なんて群がるほど寄ってきたよ。といっても今でも妙なのには腐るほど好かれるけどね」

なんとなくマチルダはコルベール先生と学院長のことを思い出してる気がした。

「……」

俺は何だか口を挟みにくくて黙った。森は深く暗い。その中を馬車で走るとなんだかマチルダと二人で世界から取り残された気がした。まあデブの俺がこういう事を話されていて、こういう状況でも、きっとなんのフラグも立ってないんだろうが。というかちょうど死体と目が合うんだよ!こっち見ないで!

「この話妙だと思わないかい?」

「な、何が?」

「なぜ貴族の御嬢様が王家の追っ手をかいくぐって生き延びられたか?生き延びたにしてもなんで盗賊なんてしてるのか?」

「それはまあ……」

俺はなんとなくマチルダの言おうとしていることに察しが付いてくる。

「まさか、その“原因”がこの人なのか?」

俺は声を掠らせ、生前はかなり男前と思える男を見下ろした。

「ご明察。私はね。その“原因”とあんたを比べてあんたを選んだ」

「えーっと、俺を選ぶ?なぜだろう?」

心底尋ねた。ここでは盗賊と疑われ(事実だが)、豚と罵られ、当初はルイズに殺されかけ、キュルケやタバサに嫌われ、シエスタは声もかけてくれず、元の世界でも弟や妹、親ですら俺が言うことは信じない。そんな俺の何を信じるのだ。

「あんたの言葉は私にとって少なくとも未来があるからだよ。でも盗賊を続ければいずれ行き詰まる地獄しかない。私にも分かってはいたのさ。盗賊なんて続けていれば、いずれそう長くないうちに捕まる。つかまりゃ死刑さ。テファも同じさ。あんな森でいつまでも隠れ続けられるもんじゃない。いずれはいつも記憶が消えることを妙に思った周辺の住民が大規模に山狩りをして、そうしたらそれで終わりさ。見つかったらテファも死刑だ」

「うん……」

言われてみればそうだ。泥棒など続けていれば大抵のものが一度は捕まる。日本だからそこで死刑にはならずに出所後証拠にもなくまた泥棒に戻れるが、地球でも発展途上の国なら死刑もありうる。そしてこの国の法は犯罪者にはもっと厳しいはずだ。デブというだけで貴族に殺されそうになっている俺もいる。犯罪者など裁判もまともに行われるとは思えなかった。

「理由は分かる。でもそれとこれとは別だろ。本当に殺していいほどの人間なのか?」

「少なくとも私にとってはね。ロルカはサウスゴータで裏の仕事を引き受けていた裏社会の顔役だ。私と同じく落ちぶれた貴族で父様に頼まれて私とテファを逃がしたと同時に、裏切りもした男なんだ。なんせ王に私達を売ろうとしたからね」

「王様に……なあ王様に売られたらそんなに怖いのか?」

俺は今一ピンと来ない。アニメで見ていたアルビオン王は物分かりのある良い王様に見えたし、小説でもそうだったからだ。

「怖いよ。王は余程エルフが怖いのかそりゃもう草の根分けてでもテファを探し出そうとしてきてね。それが怖くなったロルカは私らを殺して、自分が匿った証拠も残らないようにしようとした。まあその寸前で逃げ出したんだけど、あの男、情報を全部王家に漏らしてね。お陰で私はテファと離れて碌な職ももてず体まで売らなきゃいけなくなるし、それでもあの子や引き取ってる子供の養育費が足りなくて盗賊までする始末さ」

「しかし、状況的にはロルカが裏切るのは……」

「ああ、分かってるよ。まだ最初のうち匿っただけでもマシさ。他の奴らはテファを怖がって関わろうともしなかったんだ。でもね。私はロルカに処女も上げたし、身体的にはずいぶん色々させられた。そもそも中途半端に助けられて、苦しんだ分、死んだ方がマシなほどその後の苦労は大変だったよ。だから私はあんたから死体が居ると言われてロルカをフーケにしようと思った。幸い、情勢不安のアルビオンから逃げたロルカがトリステインにいるって聞いてたしね」

「自分が殺されかけたから殺し返したわけか?」

マチルダの意外な一面を見た気がした。彼女はなんだかんだで非常な人間ではないと思っていた。でも、よく考えたら平民のサイトを殺すのも躊躇していないし、ルイズやキュルケも下手をすれば殺されそうな場面が多い。長い逃亡と盗賊生活の中でその辺の倫理感を大きく歪めたのかも知れない。まあそれ以前にこの世界は人間の命の価値が貴族ですらかなり低い所がある。殺し殺されが普通にある世界なのだ。

「そうさ。奴は土くれのフーケが私だと知らないから、仲介人を通して『フーケが魔法学院から盗んだ破壊の杖の販売先に困っている』って話にすぐ飛びついてきたよ。どうやらずいぶん金に困っていたようだ」

「でも単純な奴だな」

俺なら急にそんな事言われても絶対疑うぞ。しかも人気のない森にある小屋なんかに呼び出されたら死んでも行かない。

「前の貴族の家から盗んだ“アスカリテの指輪”っていうのを向こうの言い値で売ってやったからね」

「そんな事ぐらいで信用したのか?」

「そんな事ぐらいって……あんたその指輪が正規の競売に出たらいくらになるか分かって言ってるかい?」

「いや、知らんけど」

「結構有名な品なんだけど……売ればそうだね。30万エキューにはなるよ」

「さ、30万!?マジで!?」

俺はデルを買いに行ったとき店主に剣の値を騙されてはかなわないから、あの下りはかなりちゃんと読んで、この世界の価値基準は頭にたたき込んでいた。だからその値がいかにバカ高いか分かる。結局、ルイズがお金を一杯持っていたので、デルは別に値切る必要もなく、貴族の見栄もあって300エキューで買わされた。捨て値だと店主は言っていたが、原作は100エキューだったし、ルイズが最初に大量の金貨をテーブルに乗せたから、かなりふっかけられての値段だ。

そのことを支払前に言ったらルイズは『それでいいのよ』。って言っていた。どうやらふっかけられる方が貴族は一流だと考えてるらしい。値切りに値切るキュルケとは対照的な考え方だ。まあその辺がルイズからすればゲルマニア貴族は下品ということになるようだが。

話は逸れたが、あの錬金魔術師シュぺー卿が造った装飾用の剣が2000エキューだ(これをルイズは買いたがったが、俺は必死に断った)。ルイズが言うには立派な庭付きの家が2000エキューで買えるらしい。現在でも外国に行くと2000万円ほど出せば結構良い家が買えるらしいから、この世界の1エキューは日本で言うところの1万円ほどの価値だと思う。つまり、30万エキューは30億円の価値だ。宝くじの一等賞が連続10回当たるぐらいである。

「そ、それをいくらで売ったんだ?」

「100エキュー」

「……なる程。理解した」

そりゃロルカさん信用するよ。いくら盗品でも人に見せずに自分だけで楽しむ美術愛好家は日本にもいるしこの世界にもいるだろう。そいつらへの販路さえあれば最低でも10万にはなるじゃないか。マチルダはロルカに最低でも9万9900エキューも儲けさせてあげたのだから金に困っていたらしい彼が信用しないわけがない。

「いや、でも、そんなに安く売ったら逆にあやしまれないのか?」

「普通の盗賊は盗品を売りさばく買い手を持たないんだ。だから買いたたかれるのは当たり前にあることさ。偽物だと言われて1エキューとかもあるよ。それどころか売ろうとした相手に殺されて奪われるケースもあるぐらいで、良いお宝ほど売り渋るとこうなるね」

そんなもんか。強盗事件でも盗んだ本人はあまり儲けず、結局儲かるのは賢くて強い奴だけってわけか。だが俺はここでふと疑問が湧いた。

「じゃあマチルダって普段からそんな値で盗品売ってるのか?」

「いいや、普段ならアスカリテの指輪で1万エキューほどだね」

「安っ」

「まあ盗品だからね。直接の販路がない盗賊にしちゃ結構良い方だ。でもロルカは貴族連中に知り合い多いからそんな事はないだろう。貴族は金銭感覚狂ってるバカが多いからね」

知り合いがいないだけで実績のある盗賊でも30分の1まで買いたたかれるのか。盗賊業界って世知辛いな。それどころか死ぬことも普通にあるのか。俺が言うのもなんだけど、やっぱ人間真っ当に生きるべきだな。悪銭身に付かずという奴だ。だが俺が抱いた疑問はそこじゃなかった。

「マチルダってなんで盗賊してるんだ?」

「金が簡単に手に入るから。何聞くのさ?」

「……でももう充分にお金持ってるんじゃね?」

貴族の館に次々と忍び込んではお宝を盗みまくる土くれのフーケ。コルベール先生から聞いた話だと金目の物全て奪われた貴族もいるらしく被害も10や20では効かないらしい。だがそれだとおかしいのである。ロルカほどのひどい売り手しかないなら盗み続けるのも分かるが、それだけ盗めばもう充分ティファニアやその子供たち、自分自身を養えるぐらいのお金にはなっているはずなのだ。それどころか平民なら10代は遊んで暮らせるぐらい金はあるのではと思えた。

「よく分かったね。殆どまだ良い売り手がなくて売ってないからそこまでじゃないけど、確かにもう盗みをする必要はないよ。でもまあ盗まれたあとに慌てふためく貴族を見てると私が苦しいときに誰も助けてくれなかったあの記憶を少しは良い物に変えられる気がしてね。正直、歯止めがきかなくなってたのさ。それにいずれは行き詰まると思っていたから自棄気味だったしね」

「自棄か……」

アルビオンはもうすぐ滅ぶから顔すら分かっていないフーケは足さえ洗えば生き延びる目はあると思う。でも、ティファニアを見捨てられないマチルダに未来はないかも知れない。盗賊であるフーケが生きられて、誰かを助けようとするマチルダの方が未来がないとはなんとも皮肉な話だ。

「正直、あんたは魔法学院で評判が悪すぎるし、これぐらいの功績がないと本当の意味で疑いも晴れない。それに罪を着せるならロルカは完璧だよ。土メイジだし、それに私から買い取ったアスカリテの指輪がまだアジトにはあるはずなんだ。アジトを後々それとなくリークしたら誰もが土くれのフーケはロルカで疑わないさ」

つまりマチルダはロルカに罪を着せる為にアスカリテの指輪も二束三文で売ったのか。女は怒らせると怖いな。反面、俺に全部の手柄をくれるのだ。破壊の杖もマチルダの部屋にあったものが馬車にちゃんと積んである。俺の魔法学院での評判はこれでかなり良いものになるのがまず間違いなかった。心配と言えば手柄を上げすぎていらぬ嫉妬を買わないかということぐらいか。

「でも殺すって……」

日本で生まれた自分にはとても容認できない言葉だ。
自分の疑いを晴らす為に人を殺す。それだけはしてはいけない気がした。
サイトも人殺しはしてるがそれはやましいことを隠す為じゃない。いつもみんなを守る為だった。

「もう死んでるんだ。どのみち今更さ。まああんたの話にかこつけて自分の復讐をしたことについては詫びるけどね」

そうするとマチルダは口を閉じた。

「……」

俺もなんと言っていいか分からず口を閉じた。ロルカの顔を見ると呪われそうなほどこちらを睨んでいる気がした。男前だし、ひょっとするとマチルダはこの男が好きだったのではとも思う。その分裏切られた恨みは深かったのか。と、ふいにデルが口を開いた。

『相棒。誰か来たぞ』

デルの言葉で俺はとっさに剣を構え、馬車の手綱を握っていたマチルダも杖に手をかけた。しかし、その必要はなかった。

「リュウジ!」

馬に乗って前方から現れたのはルイズにキュルケにタバサだ。

「もう!シルフィード使えないように先生に言ったでしょ!」

「そうよ!非道いじゃない!人の使い魔を!」

追い着いていの一番にルイズが怒鳴った。キュルケも続いて、タバサも無表情に見えるが俺を恨みがましく睨んでくる。まあ当然のことだが、小説では良くタバサのシルフィードでキュルケ達がルイズの危機に駆けつける。だが死体を回収しに行くだけの作業なのにルイズ達が来たら困る。だからコルベール先生に頼んで使い魔の厩舎を見張ってもらったのだ。結果としてそれでもルイズは追ってきたがシルフィードに乗ればすぐに追いつけると思うあまり、出遅れてしまったようだ。

「はは、ごめん……でも、ルイズなら追いかけてくると思ったから念のためにね」

生真面目なルイズに使い魔が犯罪者になったなんて言えないしな。

「なっ、あ、あんたね!普段ダラダラしてる癖に変なときだけ格好付けないでよ!」

「そうよお!あんたみたいな豚が格好付けたらこの世の摂理がおかしくなるでしょ!ちょっとは考えなさい!」

なんだかひどい言われようだ。タバサも激しく頷いてる。この時点のタバサってもっと無感情なはずなのに、俺、全力で嫌われてる。そんな三人はふいに馬車の上にあるロルカの死体に目が奪われた。

「それ、まさかフーケ?」

ルイズが聞いてくる。俺は答えに逡巡する。フーケだと言えば間違いなくこの男はフーケになる。でも、フーケじゃない。きちんとここまで想像が及んでなかったが、それはたとえロルカ以外の死体でも同じことだったのだ。どのみち罪の無い人が死んでるのをいいことにフーケにされたのだ。マチルダを見ると黙っていた。俺に決めろというのか。

「あ、ああ、土くれのフーケだ。ロルカって本名だと最期に言っていた」

それでも俺は頷いた。真実を言えばマチルダが捕まり、俺も危ない。引いてはこれがトリステインの為だと割り切ることにした。ロルカのために罪人になれるほど俺は真人間じゃなかった。これは罪の十字架だ。背負うしかない。それにしてもルイズに本当の事を言わず連れて行かなくて本当によかった。俺でも抵抗あるんだ。ルイズなら死んでも納得してくれないはずだ。でもそれで助かるのはロルカだけで、正しいつもりでトリステインが滅んだらそれこそ悪だ。

「こ、殺したの?」

キュルケが驚いて死体を見た。この時点じゃタバサの手伝いもしてないだろうし死体を見るのは初めてのようだ。

「う、うん。そうだ。結構強くて手加減できなかった」

ルイズ達は死体を運んだときに付いた俺の衣服の血を見て息を呑む。でも、殆どマチルダがしたことをまるで自分の手柄のように言うことには抵抗があった。マチルダは今のところ表舞台に立てないのでこうするしかないとはいえ本当に何もしてないのだが……。

「えっ、あ、ミス・ロングビルも手伝われたのでしょ?」

俺一人でしたと認めたくないのかキュルケはロングビルが殆どしたと思いたいようだ。

「いいえ、私は怖くて小屋には近付かなかったので、案内をしただけですよ。遠目に見ただけですがミス・ヴァリエールの使い魔は男子生徒から逃げているときとは比べものにならないほどお強かったですよ。おそらくフーケはトライアングルメイジでしょうが10メイルもあるゴーレムをかいくぐってフーケにとどめを刺されましたから」

「あ、いや、あんまり大したことない……」

こら、いくらなんでも言いすぎ。フーケを不意打ちして殺したぐらいでいいだろ。これじゃあ実際は死体を小屋から馬車まで運んだだけなんてマジで言えないじゃないか。

「むう。リュウジ!」

するとルイズがこっちを睨んできた。

「は、はい」

「あんたが強いのはわかるけど!ご主人様への服従は絶対だから!今度勝手な行動したら許さないんだから!」

「いや、あんまり大した事してないし……」

「あんたねえ。あんまり謙遜すると返って嫌味よ。凄い事したんだから誇れば良いじゃない!リュウジは魔法学院の教師の誰もが怖がってやろうとすらしなかったことを成し遂げたのよ!」

「いや、ないない。そんな凄くない。ルイズ。頼むからそんな事言いふらさないで」

俺はダラダラ汗が流れ、ルイズは自分が置いて行かれたことはともかくとして使い魔が大手柄を上げたことに喜びを爆発させて声を張り上げた。マチルダはおかしそうにこっちを見てるし、キュルケとタバサはどう言って良いのか混乱している。そんな中を俺は魔法学院まで帰った。



「よく考えたらこれってまずくね?」

帰ってから俺は学院長に子細を報告し、破壊の杖も返却し、馬車にはフーケの遺体があることも伝えた。フーケを脅して最期の命乞いの時にトリステインにアジトがあるとも言い、そこにはアスカリテの指輪もあると報告した。後半は言う気がなかったのに知らぬ顔で秘書をしているマチルダが、全部俺の手柄として報告したのだ。

「ミス・ロングビル。マジでなんにも手伝ってないのかの?」

「はい。何もしてませんが」

「うううむ」

「これは由々しき事態ですぞ学院長」

学院長室にはルイズと俺と学院長とコルベール先生。そしてマチルダにキュルケとタバサも居た。キュルケとタバサは最後に合流しただけなのだがなぜか呼ばれていて、マチルダがいる以外は殆ど原作通りだ。マチルダはこのまま秘書を続けるんだろうか。まあ盗賊しないならお給料も良いだろうし、その方が良いのかと俺は呑気に考えていた。そして原作を知る俺は学院長が何で悩んでるかも分かった。

「どうしたんですかオールド・オスマン?」

唯一分かっていないルイズが言った。この場でキュルケとタバサも事情が分かっているのか複雑な顔をしていた。

「ミス・ヴァリエール。申し訳ないのじゃが、この件をこのまま王宮に報告することはできんのじゃ」

「報告できない?何か報告に不備がありましたか?」

ルイズは俺が大手柄をあげたことに上機嫌でニコニコしている。本当にルイズって世間知らずだ。それが返って学院長の口を重くした。

「あいや、そういう訳ではないんじゃが、その、言いにくいんじゃが……」「貴族でもない者が貴族ですら出来ない事を一人で成し遂げたなど、報告できるわけがないと言ってるんです。こんなことを報告したらオールド・オスマンの責任問題になってしまいます」

学院長が言いあぐねているとマチルダが変わって口を開いた。まあそうなんだよな。あれだけの功績を積みあげたサイトですら女王に認められて小さい領地をもらっただけでも大問題になってたもんな。まあでも気持ちは分からなくもない。俺なんて妹はともかく弟が結婚したり子供が出来たりしたときなんてもう最悪だった。

その度に、自分が何もしないのが悪いと知りながらも荒れてお母さんに八つ当たりしまくったもん。後事はしっかり者の弟と妹に任せとけばいいけど、あの時のことはお母さんに謝りたいし穴があったら入りたいほど恥ずかしい醜態ぶりだった。でも、ヴィットーリオが向こうの世界と虚無で繋いでくれても、片道じゃあいけないし、サイトのようにパソコンもないからメールも打てない。友達居ないから携帯持ち歩く習慣もなく、ハイテク機器は何も持ってないんだよな。

ルイズにお嫁さん紹介されたらせめて『俺の嫁』と言って家族に教えたいんだが。まあデーターだけだとどのみち『自演乙』とか言われそうだけどさ。ともかくこの世界の価値観じゃ平民と貴族なんて、俺が弟に抱いた嫉妬のそれ以上だろう。

「な、なにを言ってるのよミス・ロングビル!じゃあ誰か一人でも教師が付いて行ったらよかったんじゃない!というか、それならなんでリュウジ一人に行かせるのよ!」

ルイズが怒るのも無理はないが世の中そんなに甘くない。それに悪目立ちしないのは上に行く為の処世術でもあるのだ。人間、醜い嫉妬心だけは消せないものなのだから。

「それはおそらく彼が死のうと生きようと構わないからでしょう」

それなのにどういうわけかマチルダが更に火に油を注ぐように言ってきた。

「なあ!?ちょ、ちょっと、ど、どういう意味?」

「分かりませんか?つまり何もしなかったとなると体裁が悪いから一応フーケを追わせたが追ったものは死んだ。としておけばいいというところではないでしょうか?平民とはいえ死んでいれば何もしなかったとはならない同情的気分も起きますし、ねえ学院長?」

嘲るような冷たい目をマチルダは学院長に向ける。するとさすがに学院長が反論した。

「ば、バカを言うでない!ロングビル!いくらなんでもそんなこと思っておるはずがなかろう!」

「そうですよロングビル。そんな事有るわけ無いでしょ」

俺は言いながら自分の手の甲を学院長に向けてふった。これだよねこれ。ガンダールヴだから信用したんだよね。マチルダも疑り深くなりすぎだ。俺はしつこいほど学院長に向けて手を振った。ここでならガンダールヴの秘密言っても大丈夫だよ。という意味だ。

「ああ、どうしたリュウジ君?手に怪我でもしたのかの?」

「頭を打ったのかい?」

って、おおい!気付いてないぞこのジジイ!コルベール先生も何不思議そうにこっち見てんの!なに?この人達ガンダールヴって分かってたわけじゃないの?やばい。マジでやばい。そういやマチルダが学院での評価が最悪とか言ってたな。ひょっとして学院長も俺の評価悪いの?良いお爺さんだと思ったのに!

「学院長!それでもリュウジは自分の命をなげうって結果をだしました!そのことになんの問題もないはずです!」

ルイズが怒り心頭で詰め寄る。こう言われるとそれはそれで胸が痛いのだ。まあどうせ死体運びしただけだしな。どっちかって言うと頑張ってないし、頑張ったのマチルダだけだと思う。

「あ、いや、そのじゃな……」

「ミス・ヴァリエール。オールド・オスマンの真意はともかく、いくら事実でもこれをそのまま王宮に報告したり学院に広めると返ってリュウジ殿の立場が今より悪くなりますよ。あなたは公爵家の御令嬢としてしか平民を見る機会もないでしょうから分からないかも知れませんが、貴族界の妬みというのはかなり見るに耐えない醜いものがあります。特に平民が挙げる功績としては今回のものは大きすぎます。この件が学院に広まれば男子生徒の彼に対する行為が更にエスカレートしかねません」

そつなくマチルダが口を挟む。彼女とは既に今回の件をどうするかは決めていた。帰ってからしばらくして呼ばれたので、学院長とも既に相談していたはずである。

「でも!」

「どうじゃろうミス・ヴァリエール。使い魔の功績は主人の功績というのが通常あるべきものじゃ。じゃが残念ながらミス・ヴァリエールは魔法が使えん。魔法が使えんのにフーケを捕まえたと言っても説得力がない。ここのところはミス・ツエルプストーとミス・タバサとの共同で捕まえたということにしてくれんか。幸いミス・ツエルプストーはトライアングルメイジ。ミス・タバサはシュヴァリエでもある。間違ってほしくないんじゃがこれは本当にキミの使い魔のためでもあるんじゃ」

「リュウジの……。でも、そんなこと……。きゅ、キュルケやタバサはそれで良いの!?私達何もしてないのよ!?」

ルイズは妙案が浮かばずキュルケとタバサを見た。

「まあ仕方ないんじゃない。確かにこのまま知らせても豚、いえ、まあ彼にいいことは何もないでしょうしね」

「私はどちらでもいい」

キュルケとタバサも投げやりに言う。人の手柄を横取りしても面白くもなんともない。かといってここで自分たちが突っぱねて俺が余計に追い込まれるのも夢見が悪い。そんなところだろうか。

「まあ変に疑いかけたし、その貸しを返すって意味でこの屈辱は受けてあげるわ。じゃああとは適当にしておいてください」

キュルケは言い捨てると部屋を出ていき、タバサも続いていなくなる。二人にしてみれば何一つしてもないことで評価されても屈辱なだけか。この辺は小説と同じ性格なんだな。じゃあなんで俺って嫌われてるんだろ。

「な、なによあの二人!感じ悪いわね!リュウジはそれで良いの!?」

「あ、ああ、俺は元々なんでも良いから」

「なによそれ!私だけ怒ってるみたいじゃない!」

「ではミス・ヴァリエール。あなたとミス・ツェルプストーにはシュヴァリエの爵位を申請し、ミス・タバサには精霊勲章の授与を申請しておきますね」

「ちょっと待って!私はまだ納得してないわ!せめてリュウジにも何かあるべきでしょ!」

いや、無くて良いよ。むしろもらった方が気が引ける。

「ええ、それは私もそう思います。それに学院長とも話し合ったのですが功績多大なリュウジ殿に何もないというのはあまりに禍根を残します。ですから」

マチルダはふいにルイズを見た。学院長とコルベール先生がどういうわけか苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。俺にも何かくれるようにマチルダが言ったんだろうか。俺はこの件を知らなかったのでお金だと思う。まああって困るものじゃないのでくれるならもらおう。1000エキューぐらいもらえるんだろうか?つまり1000万か……何食べようかな……。

「リュウジにも何か与えられるの?」

ルイズの顔に喜色が浮かんだ。

「はい。ですがリュウジ殿はあなたの使い魔ですから、与えるにしてもルイズ様の許可がいるんですが……」

マチルダはスッとルイズを見た。

「私の許可?そんなの良いに決まってるでしょ。それよりも与えられる出来るだけのことはしてあげてよね。こんなんじゃ不公平すぎるもの」

「分かりました。ではリュウジ殿に与えられるのは……この私です」

マチルダはそう言って自分の胸に手を当てて、俺を見る。

「「……は?」」

ルイズと俺が二人同時に首を傾げた。

「ミス・ロングビルやはり考え直した方がよろしいのではないでしょうか!」

「そうじゃぞ!やはりここはワシのポケットマネーから1000エキューほど与えるのが妥当じゃ。これだけあれば平民なら10年は遊んで暮らせるぞい」

「いえ、もう決めたことです。今回のこの学院の教師の弱腰ぶりには私も思う所があります。その点彼が一人の勇気で成し遂げてみせたことに私は強く心を打たれました。それはもうズキュンッと胸を打たれてしまいました。この上はもうリュウジ殿のものになるしかありません」

マチルダが意地悪な笑みで俺を見て言った。ちょっと待て。そんなことしたら普通に評価されるよりもっと悪目立ちするだろ。何考えてんの?

「いや、しかしじゃな、それは一時的に惹かれただけで、、第一、誰がワシの秘書の代わりになるんじゃ」

「そんなものは知りません。第一リュウジ殿の男子生徒の件でも幾度もコルベール先生から聞いておいて動かない姿勢にも疑問を感じます。それにお尻を触られるのもパンツを見られるのももうこりごりですから」

「学院長!あなたそんな事を!」

「あ、いや、これは違うんじゃコルベール君」

「ちょ、ちょちょちょ!ちょっとどういうことよ!あなた貴族でしょ?どうやってリュウジのお嫁になるのよ」

嫁?え?嫁なの?

「いえ、私は貴族から落ちぶれた平民に過ぎません。それとお嫁になるわけではありません。あくまでリュウジ殿のメイドとなるだけです」

こともなげに言ってマチルダが眼鏡をくいっと上げた。め、めええメイド!?落ち着け俺!これはフラグじゃない!フラグじゃないんだ!きっと手を組む上で学院長の秘書だと自由に動けないからこういう形にしただけなんだ!

「で、でも、リュウジはメイドを雇うお金なんてないわよ?」

そうですね。お金ないもん。これでメイドは無いことになるんですね。分かってる。分かってるよ。

「その点は心配ありません。学院長から報奨金として1000エキューはリュウジ様に支払われます。メイドの生涯賃金なんて500エキューほどですから問題はないでしょう。それにリュウジ様ならメイドの一人や二人雇える甲斐性はすぐに出来ると私は思ってます。どうですか?ミス・ヴァリエール。ご許可もらえますか?」

様?様って言われた!?

「え、うううん」

すると学院長とコルベール先生が必死に断ってくれと目でルイズに伝えてきた。逆にそれがルイズにとって決定打になった。

「わ、分かったわ。じゃあロングビルはリュウジのメイドね。でも、リュウジ。いいこと!メイドに変な手出すんじゃないわよ!あ・く・ま・で!メイドだから!」

「は、はい」

こうしてなぜかシエスタはまったく関わってこず、マチルダがメイドになることになった。え?何このハーレムっぽい展開?と思い期待するなと言う方が無理だが、あっさり許可するルイズからすると、彼女は俺にまったく恋愛感情持ってなさそうだしな。マチルダの行動も合理性を重んじただけだろうし、妙な期待をするな俺。とにかく今夜も変わらずデルを抱いて寝て、魔法学院をルイズが卒業したときにちゃんとお嫁さん紹介してもらるように頑張ろう。俺はそう心に誓うのだった。



あとがき
無茶苦茶書き直しましたがこれで一巻目終了。
フリッグの舞踏祭はマチルダが結構日ずらしたので既に終了してたり。




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