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No.38151の一覧
[0] 使い魔はデブ(ゼロの使い魔)[くれないの](2013/07/28 11:24)
[1] 虚無の魔法[くれないの](2013/08/31 18:38)
[2] 追われるデブ[くれないの](2013/08/10 15:13)
[3] あまりに何も起きなくてデブ焦る[くれないの](2013/09/09 17:56)
[4] それは私です。[くれないの](2013/09/09 17:58)
[5] 斜め上[くれないの](2013/09/09 18:00)
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[38151] 斜め上
Name: くれないの◆c175b9c0 ID:b001625e 前を表示する
Date: 2013/09/09 18:00

「それにしてもでっかいパンツだね……」

マチルダは半ば呆れたようにリュウジのパンツを洗濯板を使ってごしごしと洗って、広げてみた。マチルダがリュウジのメイドになると宣言してから、まず問題になったのはその住む部屋をどうするかであった。ご主人様となったリュウジは相部屋を希望したのだが、ルイズの部屋が広いとはいえ3人で住むのはかなりきつい。

だから元の教職員の部屋を使うことをメイドの立場でありながら許され(これには自分が言いださずともオスマンとコルベールが口やかましく言ってきた)、そのさい、マチルダは『ルイズ様の部屋で使用人や使い魔が一緒に住むのは不自然だし、リュウジ様が私の部屋に来てはどうでしょう?』と提案したが、これはルイズが『絶対ダメ』となぜか怒るので、マチルダは元の部屋で一人で住んでいた。そのあとからマチルダがしたことは、ごく平凡なメイドの仕事である。

まず朝になればルイズやリュウジより先に起きて二人を起こしに行く。マチルダは当初、ルイズに対抗意識もないのでかなりの部分でリュウジに変わってルイズのメイドもしようと思っていたのだが、どうにもあの御嬢様との折り合いが悪かった。喧嘩する気はないのだが最初の夜からしてダメダメだった。なんというか勘弁ならなかったのだ。思い出すと今でもムカムカしてくる。たとえば、


「あの、何してるんですか?」

マチルダはリュウジの方に掴まりながらパンツを脱がされるルイズに焦った。まさかこの二人って既にそういう関係なのかと。それはまずい。自分はともかくリュウジはもう少し痩せさせてテファの相手にと思っていたのだ。ルイズとそういう関係だとハーフエルフのテファに勝ち目がなくなるじゃないか。今のリュウジは公爵令嬢となんて釣り合うべくもないから、たとえどういう関係でも大丈夫だろうが、これから先その釣り合いが取れてくるような話もリュウジに聞いていたから余計だ。

「何って着替えだけど?」

何当然のことをとルイズは言う。

「へえ、リュウジ様?」

「ひょっ!」

だがリュウジの方はマチルダの言葉に明らかに動揺して背中が震えた。

「ルイズ様のお着替えを毎日手伝ってるんですか?」

「は、ははは、えっと、ルルルルイズがどうしても着替えさせて欲しいって言うからさ!俺はちゃんと『ダメッだ』って言ったよ!な!な!なあルイズにデル!?」

『うん言った。確かに相棒は勇猛果敢に断った』

「なに言ってるのよ。最初に『やる』って言ったのはリュウジじゃない。私が無理にさせてるみたいに言わないでよね」

「ルイズ様はこう言われているようですが?」

「たたたたしかに最初は言ったような……」

『うん言った。相棒は下心丸出しで言った』

「デル。何本当の事を!お前あの時いなかっただろ!?」

「では喜んでされてるんですね……」

マチルダはニコリと微笑む。
つまりルイズが世間知らずであることをいいことにして随分いけないことをしているようだ。
だが良心の呵責にかられて一度は断ったのか。でも、それを今度はこの小娘が嫌がったか。大方逆らわれたのが気に入らなかったんだろうが、これはマチルダにとって都合が悪い。リュウジは自分が再び家を興す意味でももっとも大事な手駒だ。こんな小娘にうつつを抜かし出しても困るのだ。

「ルイズ様。あなたは何を考えてるんですか?リュウジ様は殿方ですよ?」

スッとマチルダの目が細まった。上手いこと言ってルイズをリュウジから離してしまえと思った。マチルダにしてみればテファも虚無である以上、ルイズに拘る理由もない。それに、こんな小娘、口車に乗せるのは簡単だ。マチルダはその程度の認識だった。だが、存外にルイズは手強かった。なんというかルイズは人から命令されるのを予想以上に嫌うのだ。

「だ、だってこいつ平民だもん。平民なんて男も女も同じようなものじゃない」

抗弁するルイズだが大人の女性に冷静に突っ込まれると、さすがにちょっとまずいと思ったようで声が震えた。

「同じではありません。男は男です。急に野獣と化して襲われたらどうする気ですか?それともそういうふうにし向けたいんですか?」

「そそそそんなわけないでしょ!誰れれれがリュウジなんて誘うのよ!」

ルイズは興奮するとすぐに呂律がおかしくなる。マチルダはチョロい相手とこのときは思ったのだ。

「ではそういうことは今後一切おやめ下さい。非常識です」

ルイズの反応からしてまったくリュウジに男を感じてないわけではないらしいとマチルダは思う。かといえリュウジは見た目が良くないし、まだまだ恋心にはほど遠いはずだ。でも、どのみちマチルダはあまり面白くなかった。自分と違い全てを持っているルイズにはどうにも何一つ譲りたくない気がしていた。ルイズも魔法を使えない苦労はしてきたが、そんなもの貴族から平民の最底辺まで落ちる苦労に比べたら可愛いものだ。

「ひ、非常識?なによ。あなたに命令されるいわれはないわ!あなたはリュウジのメイドなんだからリュウジのことだけすればいいでしょ!」

だがルイズという少女は御嬢様の割に性格が柔くない。理路整然と責められると普通の御嬢様なら怯むのにそれぐらい平気なのだ。と言うか相手が強く出れば出るほど反発したくなる難儀な娘だ。マチルダはここで『そういうことは私がさせてもらいましょう』とでも言えばよかったのに、批難するのは逆効果だ。しかしマチルダはこの時なぜか意地になってしまう。

「ですが年頃のレディーが殿方の前で裸に平気でなるなど、いけないことです。常識で考えて下さい」

「考えてるわよ!でも別に大丈夫よ!ベッドも一緒だけどこいつに襲われた事なんてないもの!」

「ベッドが一緒?そっ、それは本当ですか?」

リュウジがどこで寝てるのかと気にはなり、まさか床の上かと思い、もしそうなら自分の部屋にと思ったマチルダはギギギギッとリュウジを見た。リュウジはこちらを見もせず固まり、脱がしかけたルイズのパンツを膝の辺りで握ったままルイズのある場所から目が離れず、でもその沈黙が本当だと肯定していた。マチルダはこのエロ豚、死ね。と思った。至極もっともな意見である。

「ど、ど、どうも常識の分からない御嬢様のようですね。なんですか?リュウジ様が好きなんですか?だから襲われたいんですか?」

え?そうなの?襲ってもOK?と期待する目でリュウジがルイズを見る。その顔をルイズが踏みつけて、そうするとパンツを履いてないので、色々見えて、もう凄かった。

「ちちち違うわよ!誰がこんな豚!好きでもなんでもないもの!」

更にルイズは何度も踏んだ。

「ぶっ、ぶっ、ああ踏まれてるのに幸せとは!?」

『相棒、なんかもう色々とダメだな』

「ちょっと誰の顔踏んでるんだい!その足どけな!」

ついマチルダは地が出た。好きでもなんでもないが一時的にせよご主人様になったリュウジの顔が無碍に踏まれて、存外に腹が立ったのだ。この感情は自分でも意外で荒っぽく出た言葉とその声量にマチルダ自身が驚いた。

「ヤダ!だって私はご主人様だもん!」

「ぶっ、ぶっ、ああでもちょっと幸せ」

「ちっ、踏むなって言ってるじゃないか!こっちはそいつが御主人様なんだからね!みくびったりバカにするのもほどほどにしてもらおうかい!!というかどこの誰が使い魔と一緒に寝るんだい!あんたバッカじゃないのかい!?」

「バカじゃないわよ!普通に使い魔と寝る女の子一杯いるもん!これ、普通だから!」

ルイズがゲシゲシとリュウジを踏めば踏むほど色々といけない場所までもう見えすぎて台無しだった。確かに使い魔と一緒に寝る子は多いが、言うまでもなく他の少女は使い魔が人間じゃない。

「じゃあ私もここで寝るけどいいんだね!?」

「いいわけないでしょ!ここは私の部屋だからあんたは自分の部屋で寝ればいいでしょ!入れてあげるだけでもありがたく思いなさいよね!というか!リュウジ!早く着替えさせてよ!もう寝るんだから!」

「は、はい。いや、もう、なんだか凄くありがとうございました」

なんの為に流れた鼻血か分からない血を拭いてリュウジは顔がエロく崩れていた。

「なっ。ちょ、ちょっとリュウジ!そこまでされて何いそいそ動いてるんだい!」

「ふふん。リュウジは私のものだから。あんた邪魔よ邪魔」

「くっ」

リュウジはいそいそとルイズを着替えさせ、マチルダはどうにも声をかけあぐねた。原作のシエスタなら更にルイズに食って掛かったが、普通はメイドが貴族に逆らうと問答無用でかなり非道い目に遭わされた上に、そのまま一生日の目を見ない閑職に回されたり、反抗的すぎれば売春宿に売り飛ばされたり、女性の身で採掘場に送られたりするケースもある。貴族と平民、そこには越えられない壁があり、マチルダが大人な分、そういう事情を考えてしまう理性が働くのだ。


「ああ、面白くないね!」

相手がルイズじゃ逆らいにくいマチルダはここ最近、そのルイズの洗濯までさせられるのが業腹だ。こうなってくると無かったはずの対抗心も沸いてくる。

「なーにが、『あ、ついでに私の洗濯物あんたが洗いなさいよね。リュウジが洗うと伸びるのよ』だよ。調子に乗って」

どうにかルイズをぎゃふんっと言わせたい。そうは思うが逆らって追い出されると困る。自分が貴族に戻りさえすればあんなに威張らせないのだが今はダメだ。リュウジは自分を庇ってくれるのだが、そうするとルイズは返って余計に怒るので始末が悪い。自分も貴族の頃あんな風にわがままだったんだろうかと思いつつ、公爵令嬢でこれからも落ちぶれたりなんかしないであろうルイズが妬ましくもあった。せめて早く貴族に戻れれば良いんだが。

「それに次の予定はどうなってるのかね。リュウジは聞いてもちゃんと返事しないんだよね。あのエロ豚!約束忘れてるんじゃないだろうね!」

段々リュウジにまで腹が立ってくるマチルダだった。そうしてると後ろから声をかけられた。

「あの」

「うん?」

マチルダが振り返るとそこには肩口で髪を切りそろえた少女がいた。服装からしてメイドのようで、ハルケギニアでは珍しい黒髪を肩で切りそろえ、なかなか可愛い少女だ。

「あの、私シエスタって言います。初めましてミス・ログビル」

シエスタと名乗る少女はようやくリュウジの居る世界にも現れる。本来ならルイズの次に主人公と関わりが深くなる筈のシエスタだが、せっかく登場してもそこにリュウジは関わってなかったし、最初に関われなかった時点で、これから先も接点はなさそうだ。

「ロングビルで良いですよ。同じメイド同士気を使わないで下さい」

リュウジならシエスタが声をかけてくれたら泣くほど喜ぶところだが、原作を知らないマチルダにはシエスタなどただのメイドでしか無く、なんの感慨もなかった。彼女もメイドの中では可愛い方だが、別に飛び抜けて際だつものは何もないのでそれも仕方のないことだ。

「あ、そうですか。あの、洗濯私がしましょうか?」

「いいですよ。してもらったら仕事無くなりますしね」

ニコリとするとマチルダは洗濯に戻った。ここ最近よく声をかけられるようになった。メイド達はどうもこっちと喋りたいようである。だがマチルダはずっとメイドでいる気はなかったし、リュウジの話では一年もかからずに貴族に戻れるようにしてくれるようなので、ここで人間関係を作る気は特になかった。このため声をかけてくるメイドにはことごとく素っ気ない態度を取っていたのだ。その成果もありここ5日間で声をかけてくるメイドは残るは彼女だけだ。

「あのー、ロングビル。一つ聞いても良いですか?」

マチルダの素っ気なさに怯まずシエスタは自分も真横で洗濯を始めた。

「なんでしょう?」

メイド相手とはいえ仲が悪過ぎると返って面倒なので、聞かれれば答えられる範囲は答えるようにしていた。

「その……ロングビルは弱みを握られてあの太った人のメイドにさせられた上に、夜も慰み者にされてるって聞きました。その……あの、本当ですか!?」

シエスタが凄く勢い込んで叫んだ。なぜそんな話になったのか謎だが、なにげに聞く内容がとんでもない少女だ。

「は?」

マチルダは目をぱちくりさせてシエスタを見た。どうも顔が真剣だ。ということは本気で言っているのだ。もしかして自分がメイドになった件ってそんなふうに周りに受け止められていたのか?まずい。あのエロジジイの秘書がいやだったし、それにその方が自由に動けると思っただけなのに、自分のせいで魔法学院でのリュウジの評判は最低にまで落ち込んでるのでは。

「ですからあの人に脅されてるんですよね!?」

「え?」

凄まじい勘違いでリュウジにとって失礼の極みだが、ここでシエスタを責めるのは酷であった。そもそもいくら貴族から落ちぶれたと言っても、マチルダは魔法を使えるのでメイドにまで身分が下がることはまずない。また魔法使いは一般人より圧倒的に強いので、落ちぶれると裏仕事に手を染めるものは多いが魔法を使える貴族がメイドになるというケースはほぼ皆無と言ってよかった。

「誤魔化さないでください。そうじゃないとロングビルのような方がメイド……あんな男のメイドになるわけがありません!!」

「いや、あんな男って、あれでも一応私のご主人様なんですけど……」

それにメイドは給金が安い。それに貴族であったときのプライドから人に仕えることを拒む。何よりマチルダは学院長の秘書だった女性だ。それがいくらフーケを捕らえたとはいえ、ギーシュとの決闘がなかったせいで学院でまったく強さを認められていないリュウジのメイドである。

「大丈夫です!メイド長も料理長も全員あなたの味方になるって言ってくれてます!私の実家でしばらく落ち着けるように手配もしますから安心して下さい!」

「い、いやいやいや、えっと、何の話?」

「だからあの男から逃げだすんですよ!大丈夫です!いくら平民でも自由に出来ないこともあるってあの人に教えてやりましょう!」

「いやいやいや、あの、リュウジ様は凄く良い方ですよ。というかあの方も平民ですよ。私がメイドになったのはフーケを倒したときの姿が眩しくて、この人について行きたいと思っただけで」

「そんな嘘付かなくても本当の事を言って良いんです!」

ちなみにリュウジはフーケの件でしたことを周囲からせいぜい荷物持ちぐらいに思われており、そんな人間のメイドに急に学院長秘書のマチルダがなれば、これはもう勘違いするなと言う方が無理があった。

「いや、本当の事ですよー」

マチルダ自身この言葉はどうにも嘘っぽい。事実嘘だ。実際ロルカと死闘を繰り広げたのは自分だし、しかもあれはただの復讐であり、フーケは自分だ。でもリュウジを好いてないにしろ嫌いなんかでは決してない。好きか嫌いかと聞かれれば好きだ。自分に未来を示してくれたことには惹かれもしている。だから使用人の間にまで広がりそうな想像以上のリュウジのマイナスイメージには冷たいものを感じた。あいつがそこまで責められることを何かしたか?と思うのだ。

「可哀想に脅されてるんですね」

シエスタは涙を浮かべる。悪気はないようだがそれだけに性質が悪かった。

「え、えーっと、とにかく少し話し合いませんか?」

このあとマチルダは誤解を解く為にシエスタに大袈裟なぐらいリュウジを誉めて話し、なんとか誤解を解くのだった。


「な、なんだそっか……いや、私もなんだか変だなと思ったんですよね。だってフーケを殺したのあの人だって言うし、本当は一人でしたって初めは聞いてたのに、段々変な噂になってくるし」

「まあリュウジ様はあの見た目ですし、嫉妬も受けやすいから……でも本当に良い人なんですよ」

それだけはマチルダは間違いない気がしていた。

「そっか、あーあ、じゃあもっと早く声かけたら良かったな。ほら。リュウジさんっていつも貴族の方に追われてるからなんだか怖くって……でも、平民でもそんなに凄い人がいるんですね。いや、でも、手柄を横取りされるなんて可哀想ですね」

「仕方ありません。それがリュウジ様にとっては一番安全ですから。ですが、私のせいで返ってリュウジ様の不利に働いてしまっているんですね。あなたの力でなんとか使用人の誤解を解けないでしょうか?」

「あはは、どうかな……あの人、もう使用人にもすっごく嫌われちゃってるんですよね」

基本的にシエスタはいい人のようだが、他の使用人たちの頭の中には完全にリュウジ=悪という図式が出来上がっている。悪気がないだけにこっちの方が貴族より面倒だ。それにこの子もそこまでリュウジに好印象はもてず、やはり悪印象が拭えないのかどこか言葉が空々しい。納得したように聞こえる言葉もマチルダの剣幕と勢いに負けて合わせてるだけに見えた。

「逆にどうしてそこまであの人の為にしようと思うのか聞きたいぐらいです。あの人って良いところあります?なんだかよくこっちをジロジロ見てきたりしてちょっと怖いって言うか……前も急に声かけられたし」

やっぱりシエスタはまだ疑ってるようだ。リュウジもリュウジである。いつまで経っても接点の生まれないシエスタをリュウジが気にしすぎるのが返って遠ざけていて、行動がまるで不審者である。ここはなんとか上手いこと言って信じてもらわねばとマチルダは焦った。

「……そうですね。良いところですか?」

「ええ、悪い人じゃないかもしれないけど、なんだか気持ち悪くないですか?」

リュウジは相当この子に変な声のかけ方をしたようだ。だが『気持ち悪い』は言いすぎだとマチルダは内心憤慨する。確かに見た目はちょっとあれだけど『気持ち悪い』は言いすぎだ。なんだかマチルダは頭に来ていた。だから余計なことを言った。男を手玉に取るのが上手いマチルダだが、どうも同性は苦手のようだ。

「普段、自堕落でしょうがないけど、そういうところが“可愛かったり”して、私にとっては少なくとも暗い闇から引き上げてもらった“英雄”なんですよね」

遠い目をしてつぶやくマチルダは、少し自分の心の所在に迷った。言った瞬間ほんの少し胸が疼いたのだ。だがマチルダのそんな様子を見、リュウジを思い出すとき、あれを“可愛い”とか“英雄”とか言ってしまったマチルダが、やはりシエスタには脅されてるのかと思えてしまうのだった。いや、それどころか、ご禁制の惚れ薬を飲まされてるのかもしれない。こんなことをシエスタがぽろっと調理場で漏らしたせいでリュウジの評判はもう下げ止まることを知らないほど落ちていくのだった。



「ねえ、聞きましたか?」
「ええ、なんでもミス・ロングビルがあの豚に惚れ薬を盛られてるとか」
「まあなんと言う事かしら。不潔だわ。なんて不潔なんでしょう」

「ちっ」

キュルケは教室で苛立っていた。ここ最近あの男にまつわる噂が醜聞まがいに広まり、抑えが効かなくなっているのだ。教師陣の耳にももう入っていて学院長は聞こえないふりをして黙殺し、コルベールのみが真っ向から否定して噂の沈静化をはかろうとしているが焼け石に水だった。それにコルベールがロングビルを憎からず想っていたことは学院で有名なようで、好いた相手の名誉を守ろうとしているようにも見えて何もかもリュウジには裏目に出ていた。

だがキュルケはそんな訳がないと思う。ご禁制の惚れ薬をロングビルに盛った。これがもし本当なら日頃からよく思われていないリュウジはとうに捕まっている。でもそうならない以上そんな事実はないのだ。なぜそんな簡単なことも分からず、無責任な噂を立てているのだ。キュルケは自分もフーケの件以前はこの噂に荷担したことをしていたので、余計苛立ち、それでいてあんな男の為にここまで苛立つ自分にも苛立っていた。

「ちょっとそこ。煩いのよこの縦ロール!」

思わずキュルケはモンモランシーに叫んだ。

「ひくっ」

モンモランシーはキュルケほどではないが背は高く髪を縦巻にした少女で、髪型で言えば一番御嬢様しているが、美人であってもルイズのような華やかさに欠け、実際、父親がラグドリアン湖の管理を任されていたのに水の精霊を怒らせてしまい、王宮からもそっぽを向かれ、貧乏暮らしを自作の香水を売りさばくことで乗り切っているルイズと比べると見劣りする御嬢様だ。

「なっ、なによキュルケ。ほっておいてよ噂話ぐらい」

他の二人の生徒はキュルケが怒ったので慌てて目を逸らした。モンモランシーも出来ればそうしたいが縦ロールは自分の事で名指しされたようなものではそうもいかない。キュルケはトライアングルメイジで素行の悪さから女子に嫌われてるが、その実力ゆえに真っ向から喧嘩を売るのはルイズぐらいなのだ。

「だからってミス・ロングビル本人が否定していることをいつまでもねちねち言うんじゃないわよ。それに使い魔風情が作るのにバカ高いって噂の惚れ薬なんて持ってるわけ無いでしょ。おまけにあれはご禁制の品よ。使えば目を見ただけで分かるって噂だし、とうに捕まってるわよ」

「ふ、ふん。どうだか。学院長がフーケの件であの豚にかなりの報奨金を出したって話しじゃない。それで惚れ薬を買えるでしょ。タバサとあなたがフーケを倒したのに1000エキューももらうなんて荷物持ちの豚がうまく立ち回ったものよね」

暗にモンモランシーはキュルケを褒めたのだが、これが返って彼女を苛立たせた。

「それだとあの男が惚れ薬を手に入れられるのはロングビルがメイド宣言する時期より後になるでしょ。あなた馬鹿なの?」

「なっ、えっと」

モンモランシーは言葉につまる。元々あの男ならやりかねないということで広まっただけの噂で真意の程はいい加減もいいところだ。それはモンモランシーも知っている。でも噂話とはそういうもので、研究論文じゃあるまいし詳しい出典など調べるものじゃない。そんな事で目くじらを立てるキュルケの方がこの場では浮いていた。

「で、でも、もしかしたらフーケのお宝の中に惚れ薬があったのかもしれないでしょ」

「無いわよそんなもの。あったのは“破壊の杖”だけよ。現場にいた私が言うんだもの間違いないわ。それと荷物持ちじゃないわよ。腹立たしいけどフーケにとどめを刺したのはあいつだって言ったでしょ。してもないことで評価されても嬉しくなんか無いから、いい加減その噂はやめなさい!あいつは強いわ!間違いなくね!」

キュルケは断言する。フーケ退治自体が全部あの男がしたことと言えばいいが、それだと余計事態が混乱する。自分まで惚れ薬を飲まされてるのかとでも言い出されれば、もうやってられない。それになんとなく気になってキュルケはタバサとあの現場を見に行っていた。

そこで見た痕跡はかなり大規模な魔法戦が行われ、崩れた小屋と、フーケの噂に聞いていた通りの大型ゴーレムの残骸だ。想像以上の現場にキュルケは息を呑んだ。フーケは盗賊した痕跡からトライアングル以上のメイジと見られていたが、その証拠がそこにはあり、同時にあんな敵を倒せるのに普段ボケボケしているあの男が疑問にも思えた。

「でも」「ああ、もう、リュウジのアホ!!!!!」

更に言い募ろうとしたモンモランシーだがそこにルイズの叫び声が木霊した。こちらはこちらでなぜか最近機嫌が最悪なルイズが教室に入ってきたのだ。ただ機嫌が悪いだけなら良いのだが、こないだマリコルヌ達が悪ふざけでからかって纏めて例の失敗魔法で吹っ飛ばれたので怖かった。

「ルイズ。どうしたの?なにかあの男とあったの?」

キュルケが尋ね、みんなそれが聞きたかったと耳をそばだてた。

「煩いわね!放っておいてよ!」

「放っておいてほしいなら、もう少し大人しく不機嫌でいてほしいわ」

「ふん!どうせあんた達はまたロングビルがどうとか言ってるだけでしょ!下らない!私の悩みはもっと高尚なの!」

「下らないってルイズ。あなたロングビルがあんな目にあってるのに」

これはモンモランシーが言った。

「あってないからいいの!あの女きっと“デブ好き”なのよ!だって最初からリュウジに好意的だったもの!」

「で、デブ好き?」
「聞いたことありますわ。世の中には“デブ専”と言われる特殊な性癖の者がいると」
「まあまあ不潔だわ。なんて不潔なの。あんなにお綺麗なのにお豚さんが好きなんて!」

教室が騒然とする。密かにマリコルヌが興奮し、男子は自分の贅肉を確認し、慌てて女子がそんなのはロングビルだけだと修正した。だが惚れ薬も飲まされずにあれだけの美人が本当にあんな男に惚れてるとなれば男子は血涙ものである。女子もまた噂の種が出来たと煩くなる。娯楽の発展していない世界ではこれはもう仕方のないことだった。

「で、あなたはなぜ不機嫌なの?ロングビルに使い魔を盗られたから不機嫌なの?」

「ち・が・う・わ・よ!私の目はちゃんと美しいものが好きよ!でもリュウジの奴絶対にまた私を無視しようとしてるのよ!」

「リュウジが無視って……つまりやっぱりそうなんじゃないの?」

キュルケにはルイズがロングビルのせいでリュウジに構ってもらえなくて不機嫌なのだと聞こえた。

「違うの!何度聞いても大事な部分を言わないから怒ってるだけだもん!」

「……えーっと、つまりあなたあの男に愛の告白でもしたの?」

「すすすすするわけないでしょ!ああ、もう、意味分からないなら話しかけないでよ!」

ルイズは私怒ってます。と言いたげに足を踏み鳴らしてキュルケの横を抜け、着席した。なんだろう。凄く気になる。フーケの件と言いあの使い魔には何かある。キュルケはあの男を悪意の目で見るのはもう懲りたが別の意味で興味がある。でもリュウジの見た目ゆえにどうしてもキュルケもその興味に素直に従えなかった。

そうしてると教室の扉ががらっと開いて、ミスター・ギトーが現れた。そこからリュウジが見ていたら『ああこれ本で読んだ』と言いそうな場面が展開され、最強の系統は風だのなんだの抜かして、原作と違いルイズの失敗魔法で吹っ飛ばされた。そこにロングビルに振られた形となっているコルベールが教室に入ってくる。禿げてるのに髪がふさふさで明らかにヅラだ。リュウジはこの場にいないが、この頃のコルベールを見るたびに彼は不思議に感じていた。

前半と後半で人間とはこれほどギャップがあるものだろうか。この頃のコルベールは容姿を気にしてヅラをつけたり、女性に好かれようとして口説いたり、とにかく俗っぽく、後半になるとキュルケほどの美少女の誘いを一切撥ね付ける堅物になるのだ。そこにはきっとサイトとの出会いの大きさがあっただろう。だがそれにしても違いすぎる。この人は過去と現在と未来で人間が三回ぐらい変わっている気がしていた。

「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見アンリエッタ王女が……」

そしてそのコルベールの口から“アンリエッタの魔法学院行幸”が知らされ、ルイズは思わず立ち上がる。間違いない。リュウジの言った未来予知だ。未来予知がこれで全て当たると思った。自分はなんという凄い使い魔を召還したのかと興奮が胸中に去来していた。未来さえ見える使い魔。そして自分は虚無の担い手。だがその使い魔があの最初の未来予知以来、御主人の自分にすら秘密主義になっていることがルイズを苛立たせていた。

「どうしてもっと教えてくれないのよ。あのバカ」

「興奮する気持ちは分かるが着席したまえ、ミス・ヴァリエール」

コルベールが立ち上がったルイズに言う。

「あ、はい」

ルイズは大人しく席に着いたがどうしてもここ最近のリュウジを許せず、絶対に部屋に帰ったら問い質そうと思った。だがその日ルイズがリュウジに出会うことはなかった。リュウジはルイズの前からいなくなったのだ。



「ハックシュン!」

『どした相棒?』

「うん、いや寒気がしてな。なんか最近下働きの人まで怖い目で見てくる気がするんだけど……。き、気のせいだな!フーケの件もあるんだ!あの凍てつくように感じる視線はきっと羨望の眼差しなんだよ!」

『お、おう。そうだぜ相棒……た、多分だが大丈夫だ!』

まだ授業中の為、男子生徒に襲われる心配もないと思うリュウジは外の草場で寝転がり、お腹が空くのでグウグウお腹を鳴らしていた。体重はまた10リーブルほど減り、最近本当にダイエットは順調だ。合計で10キロほど減ったことになるリュウジは体が軽い。デルを振るのも前以上に速く鋭い。それもこれも調理場に行ってもマルトーさん達がご飯を分けてくれなくなったお陰だ。

みんなきっとフーケ退治の噂を聞いて『我らが剣を糖尿病で死なせちゃならねえ!』という意気に沸いてくれたのだろう。そうは思うのだが心に隙間風が吹きすさむ。そう、嘘である。自分でももう気付いていた。あれ、おかしいな。全然評判良くなってないよ、って。むしろ使用人にまで嫌われてるよ、って。マチルダのせいでコルベール先生も最近微妙に距離置いてるよ、って。

だがその原因であるマチルダが優しいのでまだ耐えられた。ルイズもサイトほどリュウジに厳しくしないし、マチルダに刺激されてか最近寝てても体がくっつく時が多い。周囲の評判と引き替えにするように二人の好感度が上がってる気がする。だから、まだ耐えられた。だが、その二人の好感度を失う可能性に気付いて、ここのところリュウジは懊悩していた。その懊悩の理由とは、

「ワルドどうしよう……」

そう。リュウジを悩ませる犯人はまだ登場すらしていないワルドだった。なぜかと言えば全てはリュウジがサイトより弱くて根性もないのが悪かった。普通に考えるとワルドはマチルダのように仲間に出来る可能性の高いキャラだ。生い立ちにも同情の余地はあるし、仲間にするならそう仕向ける材料も多い。そして強い。おそらくコルベール先生ぐらい強い。サイトでもまったくワルドに油断がなければ勝てなかったのではと思う程強い。

スクウェアメイジの上に戦闘特化の魔法使いなのだから当然だ。コルベールですらトライアングルなのだから(これは自分の評価を低く見せたいコルベールによる虚偽の可能性もあるが)スクウェアというのは本当に凄いのだ。しかも頭の回転も速い。だが、問題はルイズとマチルダだ。この二人……どっちもワルドを原作では好きになっている。

特にルイズが問題だ。ルイズはリュウジをサイトほど好いていない。多分ワルドが仲間になればリュウジなど100%アウトオブ眼中になる気がする。更にマチルダもワルドが好みの筈で、ようは仲間にすると数少ない親しい二人が二人とも盗られてしまうんじゃないかと不安だった。

だが正直リュウジはサイトと同じようにしていて生き残る自信がない。そうなるとワルドみたいに仲間に出来る可能性の高い優秀な人間を自分の嫉妬心で仲間にしなければ人生詰んでしまう。妙に生真面目なところのあるリュウジはそういう自分の嫉妬心も嫌いだ。たとえルイズとマチルダを盗られても全て終われば最悪でもルイズに結婚相手は紹介してもらえる。それが分相応の筈。

「ああ、でもやっぱりなんかむかつく!なんであんないけすかんイケメン仲間にしなきゃいけないんだ!イケメン死ね!イケメン死ね!イケメン死ねええええ!!!!」

バッとリュウジは立ち上がった。かなり痩せてもまだ誰も『痩せたね』って言ってくれない脂肪が揺れた。ここのところルイズからの信頼度も上がり、詳しく未来情報を求められ、マチルダにも今後の展望を聞かれるが全て黙殺していた。その理由は実際の所自分でもどうしていいか分からなかったのだ。

「しくしく、ワルドが俺よりブ男なら良いのに……」

『いや、そんな奴この世にそうそういねえよ』

「よし決めた!」

だが、ようやく方針が決まった。

『おお、やっとか。で、どうすんだ相棒?』

唯一全てを打ち明けていたデルが尋ねた。ここのところずっとこの懊悩に付き合わされていたが意外に寂しがり屋のデルは気長に聞いてくれていた。それと同時に正門からアンリエッタの行幸を知らせる喧噪が聞こえてきた。

「デル。俺、思いついたよ!」

『だから何?』

「二人ともここに置いて行けばいいじゃないか!そうだよ!なんでこんな簡単なことを思いつかなかったんだ!アルビオンには俺とワルドだけで行けばいいじゃないか!」

こうしたまた一つ原作の斜め上を行くリュウジだった。






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