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No.38354の一覧
[0] 暁!!貴族塾!!【ゼロの使い魔 X 宮下あきら作品】[コールベール](2013/08/26 18:59)
[1] 第1話「転生!!もう一つの世界!!」[コールベール](2013/08/28 20:19)
[2] 第2話「名物!!異端審問!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[3] 第3話「決闘!!青銅のギーシュ!!」[コールベール](2013/09/04 19:22)
[4] 第4話「妖刀!!ヤンデルフリンガー!!」[コールベール](2013/09/07 03:30)
[5] 第5話「波濤!!メイドの危機!!」[コールベール](2013/09/09 18:32)
[6] 第6話「銃士!!怒りのイーヴァルディ!!」[コールベール](2014/04/20 17:51)
[7] 第7話「散華!!閃光の襲撃!!」[コールベール](2014/05/03 06:29)
[8] 第8話「双月!!剣と涙と男と貴族!!」[コールベール](2014/05/23 15:40)
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[38354] 第2話「名物!!異端審問!!」
Name: コールベール◆5037c757 ID:f6102343 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/04 19:22
華美な彫刻を施された馬車が、貴族塾の正門前に停車した。
車体は、3匹のペガサスにつながれている。

周囲を護衛する装甲騎士団の中から、
青い甲冑をまとった、長身の屈強な男が一人、馬車の側面に歩み寄った。
そして方膝をつき、頭を垂れる。

「お嬢様、着きました」

別の男が馬車の扉を開く。
そこから歳の頃14,5程の貴族子女が現れた。
少女は先ほどの竜騎士に手をとられ、ついとも音をたてずに下車した。

「ここが今月からお嬢様のお学びあそばされる学校でございます」

「フン、汚い校舎ね」

クルデンホルフ大公国公女、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフその人であった。









第2話「貴族塾名物!!異端審問!!」

貴族塾、ヴェストリ広場。
桜が舞い散る中、学帽をかぶった少女が、ゴザにあぐらをかいている。
長く美しい金髪が風になびくと、エルフであることを示す長い耳が見え隠れした。

少女の手には短刀がにぎられており、
その背後では、コルベールが軍刀を振りかぶっている。

それを見守る学生らが、小声でヒソヒソと話し合った。

「ティファニアの奴、なんでまたハラキリなんか?」

「なんでも、塾長の銅像に立ちションかましとるとこ見つかったらしいぞ」

「うわぁ……」

異文化のテファに、同情の声はなかった。
皆彼女のことを、何か得体の知れない化け物のように考えている。

テファは短刀を腹にあてがい、
淀みのない美声で、穏やかに別離の句を唱えた。

「辞世の句。まらもなき、またのまんまん万華鏡。まわしまさぐり嗚呼バタフライ」

少女の目から、はらはらと涙が零れ落ちる。

「介錯は無用です。自分の咎は、自分で決着をつけます」

「あ~ん?」

「お父様、お母様……。種の定めを超えて結実せしこの命。
 今、花影にその芽は「じゃかあしい!!いつまで能書きこき垂れとる!!さっさと腹かっさばいたらんかい!!」

鬼ハゲの蹴りがドカドカと、たおやかな少女の背中を襲った。
野獣じみて獰猛なその一撃一撃が、ゴムタイヤのような僧帽筋にはじき返される。

コルベールはいつも以上に殺気立っており、
テファの背中に見出した鬼の面相と、激しい視殺戦を繰り広げている。
恐らく、テファが捕獲されるまでにひと悶着あったのだろう。

その証として、コルベールは顔も着衣も、とにかく全身がボロボロになっており、
また、テファの白魚のような鉄拳にも、いくらかの腫れが見受けられた。

「これで最後です。最後にひとつだけ、確認させてください。
 私がハラを切れば、滞納していた学費と食費、全部チャラ……なんですよね……?」

「貴族に二言はねえ」

「それを聞いて安心しました」

上着を脱いだテファの上半身が、いよいよ下着姿になった。
非常識なシロモノが、生徒たちの目に飛び込んだ。

「な、なんだ、ありゃあ……」

「まさか……」

それは、メロンちゃんとでも形容すべき、たわわもたわわないけない果実――――
の、さらにその下、腹部にあった。

周囲の異様な空気に顔をしかめながら、コルベールはテファの前に回りこんだ。
それを確認した鬼ハゲの背中に、ゾクリと冷たいものが走る。

テファの腹には、
横方向に四つ、斜め方向に三つ、明らかに内臓まで届いている苛烈な古傷があった。

よもや――――

そんな気持ちで、コルベールは尋ねた。

「おい……、その腹の傷跡は何だ……?」

「こ、これは、あの……昔……、
 借金取りさん達をケムに巻く時とか、よくハラキリを……。どうせ指輪で治せますし……」

「しょ、正気かテメェ?!」

「それではイザ!!七生報国!!」

「ま、待て待て待てーーーー!!」

「ひうっ!!ご、ごめんなさい……、八回目だから、八生報国ですね……」

「待てちゅうとんのじゃボケェ!!」

「学費と食費チャラーー!!」

「させるかーー!!」

ハゲとエルフによる、生活を賭したドス争奪戦が始まった。
どちらも、一歩もゆずる気がないようだ。

「……なにやってるの、あなたたち?」

広場に、聞きなれぬ少女の声が響いた。
ベアトリスであった。



~~~~~~~~~~~~~ ハラキリについて ~~~~~~~~~~~~~~~~

『場違いな書籍』に頻出する、
時空の彼方の伝説の地、チキュー・ニホン。

その文化は、多様にして異質を極める。
まず一概にトリステインを契約の文化とするなら、ニホンは屈辱の文化であろう。
ハラキリは、そんな屈辱の文化が生み出した究極の自決法である。

なんと、短刀を自らの腹に突き立てて自決するというのだ。

しかもこの習慣が、
社会の功利性と合致しているというのだから驚く他ない。

これに怖気ずくことは大変な屈辱であるらしく、
古くはサムライと呼ばれる戦士達の、
決して少なくない人数が、本当にこの方法で自決を果たしたという。多分ウソである。


アカデミーレポート『チキュー・ニホンに関する一考察 ~菊と刀と男の娘~ 』より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~












塾長室に案内されたベアトリスは、
いきなり塾長とガンを飛ばしあっていた。

「ワシが貴族塾塾長オールド・オス男マンである」

「私がクルデンホルフ大公国王女ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルですわ」

二人の視線の間に激しい火花が散った。

「……」

「……」

「ワシが貴族塾塾長オールド・オス男マンである!!」

「私が!!クルデンホルフ大公国王女!!ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルですわ!!」

「ま、まぁ、塾長、ここんとこはどうか……」

ヒートアップする二人を、ギトーが必死になだめた。
塾に多大な献金をしているクルデンホルフ家の覚えにアヤをつけてはならず、
かといって、塾長に堂々と意見するわけにもいかず、なかなかに苦しい立場だった。

ベアトリスは舌打ちすると、これほどつまらないことはないといった風に話し始めた。

「話は私のお父様から聞いてると思いますが、本当のところ私、
 こんなアホな学校になんて来たくなかったんですの。真の貴族だかなんだか知りませんけどね。
 お父様がどうしてもとおっしゃるから、仕方なく来てあげたのですよ」

ベアトリスが懐から取り出したパイプをくわえると、
お付きの竜騎士が、素早くそれに火をつけた。

「ここの噂は聞いていますわ。なんでも、ミノタウロスも逃げ出すほどのスパルタだとか。
 でもね、私に指一本でも触れてごらんなさい。100人からの竜騎士が飛んできますから」

「ワシが貴族塾塾長オールド・オス男マンである!!」

「私がベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルですわあああああああ!!」









教室の一つで、鬼ハゲことコルベールが、生徒らにベアトリスを紹介した。

「もう知っていると思うが、こちらが今日からご学友となられるベアトリス様だ。
 クルデンホルフ大公国の王女様であらせられる。貴様ら、姫殿下にくれぐれも粗相のないようにな」

丁重な物言いだった。
ベアトリスの方は教壇に腰かけて、高そうなペロペロキャンディーを幸せそうに舐めている。

トリステインの貴族らは商売が下手で、その多くがクルデンホルフ家に借金をしていた。
そうでない者らも、金融業界に顔の利くクルデンホルフにはそうそう頭があがらない。

そんな力関係を念頭に置いた上で、この横柄な態度の王女様を見れば、
歳若い生徒らにも、厄介なのが来たということはすぐに察せられた。

「それでは授業を始める。今日は始祖の使い魔についてだが、ルイズ、ちょっと来い」

「押忍!!」

元気よく返事をしたルイズが黒板の前に行くと、
コルベールはゴツイ体をかがめ、ベアトリスに聞こえぬよう、コソコソとルイズに耳うちした。

「ええか、ルイズ。魔法塾が体力だけじゃねえってとこをこのサラ(新入り)に見せつけたれや」

「押忍……!!フフフ、魔法塾・座学ナンバーワンの、このルイズにお任せください……!!」

コルベールも謙譲な態度とはうらはらに、
この傲慢な新入りには色々と思うところがあるようだ。

珍しく教官との心情の一致を見たルイズは妙に嬉しくなり、
頼られた気恥ずかしさを隠すようにコホンと咳払いをすると、喜色の滲む声を高らかに奏でた。

「それでは不肖ルイズ・フラソワーズ!!
 教養をひけらかすようではありますが『使い魔たちの調べ』やらせていただきます!!」

そして始祖の使い魔たちを讃え始める。
よく通る、美しい声だった。

「神の左手ガンダールブ。勇猛果敢な神の盾。神の右手はヴィンダールブ。心優しき……」

「つまらないですわ」

しかしそれは、
ベアトリスの無気力な一声で遮られた。

「神のふ……へ?」

「つまらない、と言ったのです。
 せめて踊りながら吟じるくらいでないと、道化失格ですわよ」

物凄いことを言いながらも、ベアトリスはキャンディーに夢中だ。
ルイズの脳内で、メキメキと音すら聞こえそうなほどの怒りが踊り狂った。

「ひ、ひひひ人が下手に出てたら貴女……」

怒りに打ち震えるルイズがツカツカとベアトリスに歩み寄り、その胸倉を掴む。
ベアトリスの後ろから、ヌォーっと、巨体の竜騎士が現れた。












「あなたたちには、私を退屈させない義務があります」

「お、おしゅ……」

ベアトリスの言葉に、
顔面をベコベコにされたルイズが粛々と応じる。

ヴァリエール家も他の多くのトリステイン貴族ら同様、
クルデンホルフに多額の借金を抱えており、ルイズもなかなか思い切った立ち回りができない。

勢いまかせに啖呵を切るまではいいが、いざ手を出そうとすると、
必死に働く家族の姿がチラついてしまうのだ。

そんなルイズのジレンマを逆なでするように、
教壇の上のベアトリスは、愛らしくも意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「そうね、今のヘタな歌を『ドリフ大爆笑』のメロディーでやり直しなさい」

「ド、ドリフ?!あたしが?!」

「もちろん踊りつきですよ」

「……」

「あと表情はアイーンでね」

「……」

「そうそう、白鳥の衣装も着てもらおうかしら」

「……」

「早くなさいな、エセマイオニーさん」

「おどれタンポン引っこ抜いたろかこのクソジャリが!!」

学習能力に乏しいルイズの前に、
竜騎士が再び拳を鳴らしながら現れた。










「押忍!!失礼しました!!ぶしつけながら不肖ルイズ・フラソワーズ!!
 『使い魔たちの調べver.ドリフ大爆笑(踊りつき)』やらせていただきます!!」

ルイズはズタボロの体で、
ピコピコと左右にリズムをとりながら歌い始めた。

しゃくれ笑顔のこめかみには、
ドバドバミミズのような青筋がモリモリと浮かんでいる。

「♪ド、ド、ドリフのガンダールブ!!
 ♪勇猛果敢な神の盾!!笑ってくださいヴィンダールヴ!!心優しき神の笛!!」

「ホーッホッホッホッホッホ!!苦しうない苦しうない!!
 次はミトコーモン!!そしてガオガイガーにキングゲイナーもよぉ!!」

塾生らの間に、ベアトリスへの殺意が鬱積してゆく。
若い彼らにも、一応は民族意識のようなものがあるのだ。
こうも軽々しく一線を越えられては、堪ったものではない。

「あ、あのガキャ……!!ワシらのシマで好き放題……!!」

「人んちの米ビツによその砂まくようなマネしやがって……!!」

殺気みなぎる教室に、
ルイズの悲壮な熱唱がいつまでも響いた。

「♪ガガガ!!ガガガガガンダールブ!!ガガガ!!ガガガガ神の盾!!」









昼食の時間になった。

常軌を超えた貴族塾のシゴキに苦しむ彼らにとって、かけがえのない時間である。
しかしそんななけなしの癒しすらも、ベアトリスの暴虐に踏みにじられることとなる。

アルヴィーズの食堂で、鬼ハゲが高らかに宣言した。

「今日の食事は、ベアトリス様が考案なされたスペシャルメニューだ!!皆心して味わうように!!」

塾生らは、食卓に並んだ料理を前に愕然としていた。
皿一杯に不気味な単品料理が山盛りになっているのみだ。

「な、なにがエスカルゴだ……」

「でんでん虫のサンドイッチじゃねえか……」

「お、おれたちの唯一の楽しみを……。あのガキャア……!!」

「こらえるんじゃ……!!ならぬ堪忍するが堪忍じゃ……!!」

すすり泣きと呪詛が渦巻く食堂内で、
しかし一人、こと食に至れば、断じて引くことのできない男が居た。
マリコルヌである。

マリコルヌは、一応は丁寧な腰ぶりでベアトリスのほうに歩み寄った。
しかしベアトリスのテーブルに並んでいるモノを見て、マリコルヌの喉が鳴る。
ハンバーグ、海老フライ、スパゲッチー、果汁カクテル、ショートケーキetc...

絵でしか見たことのないような光景だった。

俺たちの銀シャリは、こんなとこに圧縮されていたのか――――――

湧き上がる怒りが、それ以上に湧き上がるヨダレで押し流されてゆく。
マリコルヌは、チラチラとベアトリスの食卓を盗み見しながら、勤めて媚びた物言いをした。

「ベアトリス様……、自分らは、他に食べるものはないのでしょうか?」

「あら?何か不満でも?」

「さすがにでんでん虫のサンドイッチはちょっと……」

「バカねえ。サンドイッチがイヤなら、ケーキにすればいいじゃない」

「ワレぁ脳にフェアリーでもわかしとるんかコラァ!!」

マリコルヌがベアトリスに飛び掛る。
ベアトリスは

「そうはイカのキンタマ」

ひょいと身軽にそれをよけ、パチリと指を鳴らした。
音もなく現れた竜騎士が

「無礼者!!」

食堂の端までマリコルヌを殴り飛ばす。

「ホーッホッホッホ!!身の程知らずな先輩ですわね!!」

「な、何事ですか?!」

駆けつけた鬼ハゲが、
ベアトリスにヘソを曲げさせぬよう必死に気を使った。
その目にはまだどこか、『隙あらば』という類のものが残ってはいる。

「教官殿、ここの先輩方には、もう少し厳しいシツケが必要なようですわね」

「いやはや、面目次第も御座いませんです、オス」

「フフフ、アレなんてどうかしら?一度見たいと思ってたんですのよ。貴族塾名物『油風呂』……!!」

「な……!!油風呂?!」           



~~~~~~~~~~~~~~~ 油風呂について ~~~~~~~~~~~~~~~~

数々の『場違いな書物』の中にあって、
最たる奇書と言えば、やはり『ミンメーショボー』に分類される品々であろう。

油風呂は、その一冊に記されていた『チキュー』は『ニホン』で一般的とされる荒行である。
これは別名『地獄風呂』と呼ばれ、古くは罪人の拷問のためにあったという。

その作法はシンプルである。
まず金ダライに油をはり、火のついたロウソクを小型の笹船に載せ、それを油面に浮かべる。
そのタライの中に罪人を入れ、下から火をたくのだ。

すると油温はみるみる上昇してゆくが、罪人は身動き一つとることも許されない。
もし波をたて、ロウソクを載せた笹船を倒せば、火ダルマになるのは必定である。

この恐るべき苦行は、ロウソクの火が消えきるまで続けられる。
まさに精神力の勝負である。気は確かかと言いたい。

ニホンのミンメーショボーは、ハルケギニアに多くの文化的悪影響を与えてきたとされるが、
この油風呂など、まさにその典型であろう。

尚、このロウソクの使いこなしかたからも分かるように、
現在のアカデミーでは『SMの起源はニホンである』との説が支配的である。

・アカデミーレポート 『ハルケギニア人類史 ~ 銃・病原菌・鉄・ミンメーショボー ~』より。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








ヴェストリ広場の中央に、巨大なタライが据えられた。
その前でベアトリスが、整列した塾生たちに激を飛ばした。

「ほら!!油風呂に挑戦する人は居ませんの?!
 あなたたち、それでよく真の貴族を目指すなんて言えたものですわね!!」

名乗り出るものは居ない。
その様子をみて、ベアトリスはますます増長してゆく。

塾生たちはこれまでに、何度も捨て身の怒りに魅惑されていたが、
目前に拷問器具が用意されているのを見れば、やはりそのままの心では居られなかった。
落ち着きが、恐怖と現実とを分けて突きつけてくる。

「やはり、しょせんは体力ばかりのおちこぼれですか」

ベアトリスは憎たらしさを存分に発揮した口調で、
大げさに落胆した素振りをして見せた。

「なにせハラキリで食費を誤魔化そうとする異教徒までいるくらいですからね、ホホホ……」

「言ってくれるじゃねえか」

歩み出るサイトを、
しかしテファがすぐに制した。

「待ってください、サイトさん。ご指名は私のようですよ」

エルフの少女の目には、その美貌に不釣合いな気迫がみなぎっていた。

「私はティファニア・ウェストウッド。二つ名は『遺憾』です」











油風呂が決行された。

塾生らに見守られながら、
高温の油の中で、テファが汗まみれになっている。
したたる汗が油の中でシュワシュワと音をたて、細かくはじけた。

一人幸せそうなベアトリスは、
強情なエルフから絶望を引き出すのに夢中だ。
何はばかることなく、歪んだ思いのたけをぶちまけている。

「フフフ、まだまだ熱くしてゆきますわよ。気分はいかがかしら?」

しかしテファは、一向に屈する気配を見せない。

「いい、ゆ……、油加減です……。あ、あなたもどうですか?」

「よろしくてよ。ただし、貴女が生きてそこから出られたらね」

ベアトリスはそう言うと、
テファの学生帽に、フンッと、手鼻を飛ばした。

「い、いいんですか、そんなこと約束しちゃって……」

テファの耳鼻からどくどくと血が流れる。
体中の血管が膨張し、表皮のそこかしこからも血が噴出する。

「どうせあなたは火だるまになるか、惨めに泣き叫んで命乞いをするかしかありませんもの」

「可愛そう……な人……」

「なんですって?」

「ぜ、全部が自分の思うとおりにならないと……気がすまないのね……。子供……なのね、あなた……」

「なっ……!!エルフの混ざりモノふぜいが!!」

「思い通りに、なんて、な、ならないことのほうが……多いんですよ……!!」

それを聞いて、ベアトリスの顔が真っ赤になった。
タライの下にいくつもの薪が投げ込まれる。

「もういいわ!!貴女は死んでおしまいなさい!!」

炎が、音を立てて火力を上げてゆく。
湯面に浮かぶ長い髪から細かい気泡がはじける。

「ぬふぅ……!!」

しかし、組んだ腕の肉に深々と爪を食い込ませ、全身に血管を浮き上がらせ、
食いしばる歯をバキリ、ゴキリと砕きながらも、テファは微動だにしない。

「……いい油でした」

やがてそう微笑みながら、テファはロウソクのついえた笹舟をつまみあげ、
ザっと油風呂から身を出した。

地獄風呂とまで恐れられた荒行を完遂したのだ。
場に、感嘆の声がさざめく。

「すげぇ……」

「なんて根性だ……」

そんな中、テファはタライから数歩よろめくと、バタリとその場に倒れた。

「テファ!!」

「大丈夫か!!」

塾生たちがエルフの少女にかけよった。
芝生で急速に冷やされてゆくその体からは、白い蒸気が立ち上っている。

「テファ!!テファ!!」

「う……うう……」

「しっかりして!!」

「ムニャムニャ……、わたし好みの元気なお嬢ちゃんたちですねデヘヘ……。
 これじゃチンコがいくつあっても足りませんよzzzzz……」

「……」

「グハァッ!!……あれ……?わたし……」

ナックルアローのような衝撃でテファが目を覚ますと、彼女は学院の者らに囲まれていた。
皆、色々な理由で心配そうな表情を浮かべている。

と、一人の女生徒が、テファの学帽を差し出した。

「ほら、おとしものよ。アナタのトレードマーク」

「あっ、わたしの帽子!!」

テファはパっと手を伸ばしたが、
それからビクっと震え、困ったようにその手をしどろもどろとさせた。

『なぜ?』としか思えない。

テファは、ずっと孤独だった。
ずっと、避けられて生きてきた。
塾にいる使い魔の霊獣たちでさえ、彼女が近寄ると死んだフリをした。

なのに、なぜ――――――

「取りやしないわよ。はい、どうぞ」

「あ、あの……ありがとう……?」

テファは恥ずかしそうに学帽を受け取ると、
両手でそれを深々とかぶりなおした。

「すごかったぜ!!エルフって根性あるんだな!!」

「あう……」

「今までごめんね。私あなたのこと、ただの悪質な変態だと思ってたわ」

「あ、あたしハーフエルフだから……」

「いや、それはあまり関係ないんだけど……」

誰かに優しくされるなんて、
絶対に望んではいけないことだった。
そんなことを願わないよう、ずっと心がけてきた。
結局は、悲壮な絶望に苦しむだけなのだから。

でも――――――

顔を赤らめたテファに、語りかける一人一人が握手を求めた。
異文化のテファが、敬意を持って受け入れられた瞬間だった。

人の優しさに不慣れで、でも人を憎むのも下手で、まともな人づきあいも知らぬまま、
ついには、ただただ不屈の精神力の獲得に至ったその少女を、
今や皆が、憧れと親しみの眼差しで讃えている。

少女の目の奥に、ツンと激しくこみあげるものがあった。
心の遠い所に置いてきたはずの、ささやかな望みが思い出されてしまう。

私は本当は、一人で居るのが凄く悲しかったんだ――――――

テファは帽子のツバで目元を隠してうつむき、
握手の一つ一つに、無言のまま、震えるお辞儀を加えた。

一方、面白くないのはベアトリスである。

「……興ざめですわね。さて、次は何をして遊ぼうかしら」

そう言い残し、ベアトリスはその場を去ろうとした。

「待ったらんかい」

サイトがその肩を掴み、言葉を続ける。

「次はお前さんが入る約束だぜ」

「苦しうない苦しうない」

ベアトリスは振り返ることなく微笑むと、指をパチンと鳴らした。
屈強な竜騎士がボキボキと拳を鳴らしながら、サイトの前に立ちはだかった。
そして毎度のようにあの剛拳が振るわれるかに思われたが、それより早く、

「そりゃねぇだろ」

サイトは気負いのない口調で、ポケットに手を突っ込んだまま、
強烈なゲタ蹴りを竜騎士に見舞った。一撃であった。

派手に蹴り飛ばされた巨体はピクピクと痙攣するのみで、
一向に立ち上がる気配を見せない。

「なっ……!!こ、この貧乏人ふぜいが……!!」











「あなたたち!!クルデンホルフの王女にこんなことして、ただでは済ましませんよ!!」

ヴェストリ広場のど真ん中で、
ベアトリスが油風呂の中から叫んだ。

「あち!!あちち!!もうすぐ100人からの竜騎士隊がここに押し寄せますからね!!
 そこんとこキッチリ腹に呑んどけやオドレラァ!!」

「じゃかぁしい!!タマの取り合いが怖ぁて男に群らがれるかボケェ!!」

「ぐわっ!!」

威勢の衰えないベアトリスの頭に、ケティのゲンコツが飛んだ。

メイジにとって怒りと暴力の関係は、精神的な数式の基礎と言えるものだ。
その多寡次第では、ドットメイジがスクウェア級の魔法を放つこともあるくらいである。

溜まりに溜まった怒気は今、旺盛な戦意となって広場にみちみちていた。
精神論一辺倒の貴族塾の教育方針は、メイジの闘いにおいてはすこぶる合理的なのだ。
塾生たちは口々に、戦いへの期待を吐き出す。

「100人でも1000人でもドンと来いや」

「もう私たちも腹をくくったわ」

正門前に、一台の馬車が止まった。
ベアトリスが嬌声をあげ、そちらに駆けて行った。

「来た来た来た!!お父様ー!!私はここです!!
 早くこのアホタレどもを皆殺しにしてください!!」

馬車から、傷だらけの老人が降り立った。
全身に矢や魔法の傷跡を負っている。それ以外に人影は見当たらない。

「お、お父様……?そのお姿は……」

「おお……ベアトリスよ、クルデンホルフ公国は、壊滅……。
 油断してたら、レコンキスタと国内の革命派が一斉に襲ってきて……」

「か、壊滅……?」

ベアトリスの全身から生気が抜けてゆく。

『セキをきったように』と言うが、
この時の学生らの心象が、まさにそれであった。

塾生たちが、詰め寄ってゆく。

「さんざん好き放題やりくさりおって……」

「でんでん虫集めといたど……」

「ゲルギムガンゴーグフォ……」

このままでは吊るし上げにされてもおかしくない。
そんな空気に包まれた時、金髪の妖精が、とととととと、と、ベアトリスに駆け寄った。
ティファニアであった。

あれだけの仕打ちを受けたのだから、
ベアトリスは八つ裂きにされても文句は言えないはずだ。

しかしテファのセリフは、
塾生たちの想像を裏切るものだった。

「あ、愛人になりましょう」

「いやあああああああああああああああ!!
 お母さんたすけてえええええええええええええ!!」

その幼い悲鳴で、一堂は水で打たれたように我にかえった。
思えばどれもこれも、しょせんは子供のワガママだったじゃないか。

エルフの怒号が轟いた。

「暴れんなや!!イヤよイヤよも好きのうち!!観念さらさんかい!!」

「そ、その変態を止めろおおおおおおおおおお!!」

「サスマタだ!!サスマタ持って来い!!」









~~~ テファの日記 ~~~

今日、油風呂に入った。
そしたら、皆と仲良くなれた。
凄くうれしかった。

でもその後なぜか袋叩きにされた。
お母さんも『愛人』だったから、
私もそうなりたいと思っただけなのに。
また何か誤解があったのかな。

夜、寂しくなったので、
ベアトリスさんの部屋にレイプしに行くことにした。

彼女の部屋の扉をノックした。
何の反応もなかった。

もう一度ノックした。
今度は、声もかけてみた。

「こんばんわベアトリスさん……」

それでも反応はなかった。

それから3時間ほど扉をノックし続けた。
けど、やっぱりなんの反応もなかった。

私は諦めて、ドアノブをつかんだ。
それを回すと、ゴキンと音がしてドアノブが外れた。
鍵が掛かっていたらしい。

「……中に居るんですね」

ドアノブがあったあたりに手刀を差し込み、そっと握る。
私の手のひらの中で、カギ穴の仕掛けが粉々になった。

扉を開き、子供をあやすような口調で
「こんばんわ」とあいさつし、室内にお邪魔した。

闇の中、猫のように瞳孔を狭めて目をこらした。
でもどうしたことか、ベアトリスさんが見当たらない。

「気配はするから、絶対ここに居るはずなんだけどなあ……」

居るはずなのに見えないというのは、
とても奇妙なことだ。

「ベアトリスさん……どこ……」

ブツブツ言いながら室内をよく見回すと、
何もない空間にプカプカと、ベアトリスさんの耳、
じゃなかった、ツインテールが浮いていた。

それがプルプルと小刻みに震えている。

「あれ……?これは……?」

その金色のツインテールに顔を近づけて、匂いをかいでみた。

スンスン……、スンスン……。

「ベアトリスさんの匂いがする……」

スンスン……、ハミハミ……。

「ベアトリスさんの味……」

ツインテールが、ますます震え始めた。

「おいしい……あじ……ベアトリスさん……」

私は、堪らない気持ちで一杯になった。
私の興奮に呼応して、あたりの魔素が鬼火の群れになり、
狂ったように部屋を回遊した。

でも

「なのに……ベアトリスさんが居ない……あなくちおしや……あなくちおしや……」

私はカゴメカゴメを歌いながら、
ツインテールの周りを三周ほど練り歩いた。

「籠女……籠女……籠の中の……」

お母様の故郷、王家の谷に伝わるファラオ(王)の舞だった。

舞い終わると、どっと疲労が押し寄せた。
ツインテールの背面であろう部分を眺め、少し考えた。

「帰ろっと……」

もう、時間の無駄なだけに思われた。

それから、
今日は色々あったな、と回想した。

ベアトリスさん可愛いいなぁとか、
早く愛人になりたいなぁとか、そんなことをつれづれと思った。

どれだけの時間が過ぎただろうか。
ツインテールが、向こうから現れた。

「おかえりなさい……」

私をおおっていた布団をめくったベアトリスさんに、
私は彼女の部屋のベッドに横たわったままそう言った。

ツインテールが、つり糸を切ったようにベッドに落ちて、
そのまま動かなくなった。気絶したのだろう。
今日の所はそこまでにしておくことにした。

私は、なぜか透明になっているベアトリスさんに布団をかぶせた。

それからちょっとだけスリスリし、彼女の部屋を出て、
自室に戻り、この日記を書いている。

それにしても、
ツインテールが見つかった時点でまだ諦めないのが可愛いくて堪らなかった。
小動物の『頭かくして尻かくさず』をナマで目撃した気分だった。

ほんと柔らかかったなあ(ゴゴゴゴゴ
というか、ちょっともらしてたなあ(ズッギャアアアアアア

……うん、また行こう。
今度のレイプはスプラッタ路線をためしてみようかな。

私はけっこうネに持つタイプなのダ。


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