『フリッグ』の舞踏会の翌日、才人とタバサは馬車に乗って遠出をしていた。いわゆるデート、といった甘酸っぱいものではない、仕事である。
切っ掛けは朝、タバサの部屋に、鴉のガーゴイルが手紙を運んできたことにあった。それを見たタバサは、表情を固くし、才人に出立を告げた。才人が行き先を聞くと、タバサは短くガリア、とだけ答えた。
そして今、二人は竜籠に乗り、ガリアの首都リュティスに向かっていた。
「なあ、どうしてガリアに行かなきゃいけないんだ?」
学院を出てから一言も話さないタバサに、サイトは尋ねる。いい加減、この気まずい雰囲気をどうにかしたかった。
タバサは目を伏せ僅かな逡巡の後、意を決したように口を開いた。
「王宮に呼ばれた」
「王宮?ガリアの?」
「そう」
「それまたなんで」
「私は、ガリアの王族」
タバサの告白に才人は驚く。てっきり話して貰えないものと思っていたからだ。
「あなたは、私の使い魔」
タバサがサイトの顔を見つめる。
「あなたはフーケと戦ったとき、私を守ってくれた」
「ま、まあな。使い魔だし、当然だろ」
真剣な様子のタバサに、戸惑いながら才人は答える。
「私は、あなたを信じている」
「だから、全て話す」
そう言ってタバサは語り始めた。
「私の、本当の名前はシャルロット・エレーヌ・オルレアン」
★★★
タバサは、自分の生い立ちを話した。名前のこと、両親のこと、北花壇騎士団のこと、才人と出会う前の全てを語った。才人は黙ってそれを聞いていた。
「それが、お前の抱える秘密か」
タバサが全てを語った後、沈黙を破りカイムが尋ねた。
「そう」
「はー、嬢ちゃんも苦労してたんだなあ」
才人の背中に差してあったデルフリンガーが感想を述べる。
「それで、タバサのお父さんを殺したってのが」
「現ガリア王、ジョゼフ」
才人の問いにタバサは僅かに顔をしかませながら憎き仇の名を口にする。
「どんな奴なんだ?」
「おい、相棒」
才人が踏み込んだ質問をし、デルフリンガーがそれを諌めようとする。
「だっていずれ戦う敵だろ?聞いとかねえと」
「だけどよ、遠慮ってもんがあるだろ」
「いい」
口論になりかける才人とデルフリンガーを諌め、タバサは答える。
「ジョゼフ1世。『狂瀾』のジョゼフは水のスクウェアメイジ」
「『狂瀾』だと?」
「そう、それが二つ名」
「ふん……そうか」
カイムが聞き返し、タバサが答える。
「スクウェアってことは、トライアングルの上で最上級のメイジだっけ?」
「そう」
「てことはあの二人やフーケより厄介なのかよ」
才人は、天災じみたスペルを思い出し、うへぇ、と舌を出した。あれらより上、ということはそのものズバリ天災だろうと。もちろんどんなメイジであろうと才人の敵ではないが、未知の敵というのはそれだけで厄介だ。舐めてかかってはいけない、と師であったフリーダーからは、強く言い聞かされていた。
「ジョゼフは、10年前まで私と同じ『ゼロ』だった」
「え?」
「ある日、水の使い手として目覚めてスクウェアになった異例のメイジ」
「そんなのがいるのか」
「推論として、大きすぎる力を制御しきれないから、爆発が起きると言われていた。だから私の力もそうだと思っていた。しかし……」
「違ったわけか」
「虚無だもんなあ」
「そう」
カイムと才人の感想に、タバサは同意する。
「あー、魔法ってのはややこしいな。自在法のがいくらかマシだぜ」
「自在師でもないくせによく言ったな間抜け」
「うっせ。ところでタバサ、ジョゼフの性格ってどんなだったんだ?」
「性格?」
「そ、話聞く限りじゃ昔は仲良かったんだろ?ジョゼフと従姉のイザベラって奴と」
「……子供っぽい人だった。よく屋敷に来ては父とチェスを打って、子供みたいにはしゃいでいた。イザベラ姉さまは、優しい姉様だった」
「それが豹変したのか」
「そう。祖父王が崩御して、ジョゼフが王位を継ぐと、乱心した。そのせいで父様が殺され、母様は毒で心を失った。イザベラ姉さまも、だいぶ変わった」
そう言ってタバサは、唇を噛む。
「そのイザベラって奴にこれから会いにいくんだよな?」
「そう。『水銀』のイザベラ。北花壇騎士団団長。私の上司」
「どんな奴なんだ?」
「……」
タバサは数秒の逡巡の後、答えた。
「カイムみたい?」
★★★
タバサの身の上話を聞きながらも、竜籠は進み、学院を出立してから半日ほどで、才人たちはガリア王国の王都、リュティスに到着した。
竜籠から降り、地に足をつけた瞬間、カイムが唸り、才人が顔をしかめた。
(ふん……)
(おい、この気配は……)
リュティスへと近づくほど、強くなる気配を、才人とカイムは感じていた。そして、到着して改めて感じることで、疑念は確信へと変わった。
(なあカイム、こいつは……)
(ああ、間違いねえ)
心の内で、才人はカイムへ問いかける。
("徒"だ)
それは才人たちにとって懐かしい、そしてハルケギニアにとって異質の存在の気配だった。
(どこだ)
(そこまではまだわかんねえ、だが、気配は街の中だ)
「どうしたの?」
街へ着くなり黙ってしまった才人たちに、タバサは不思議そうに問い掛けた。
「いや、なんでもねえよ。大きい街だなーって呆けてた」
誤魔化すように才人は笑った。紅世のことは話したが、タバサを"徒"との戦いに巻き込みたくはなかった。タバサが用事を済ましている間に、折を見て抜け出し、討滅するつもりだった。
「それで、王宮はどっちなんだ?」
「あっち」
タバサは東を指差す。その遥か先に、薔薇色の豪奢な宮殿が見えた。
「あれが王宮、グラン・トロワ。私たちが行くのはその離れにあるプチ・トロワ」
指差された先の宮殿を見て、才人は更に顔をしかめた。なぜなら、"徒"の気配は、そちらから感じられるからだ。
(なあ、どうしようカイム)
(知るか、正直に話せばいいだろ)
(タバサを巻き込みたくないんだよなあ~)
(……この小娘は、お前を信頼して、身の上を話したぞ。お前もこいつを信じてやったらどうだ?)
(……やけにタバサの肩持つな、なんかあったのか?)
(別に、こそこそやるのは、もううんざりってだけだ)
(そういうことにしとくよ)
違う、だの間抜け、だの罵るカイムを無視して、才人はタバサに話しかけた。
「なあタバサ」
「なに?」
「実はさ、この街来た時から気配を感じてたんだけどさ」
「気配?私は、感じなかった」
曲がりなりにもタバサは北花壇騎士である。襲撃者がいるのならその気配に気付けないはずがなかった。
「ああ、しょうがねえよ、襲撃者とかじゃない。"紅世の徒"の気配だ」
「"紅世"の?あなたの世界にいるという?」
「ああ、それもただの"徒"の気配じゃねえ、こいつは"王"クラスだ」
カイムが答える。才人もそれに頷く。タバサは驚き、息を飲んだ。"紅世の王"がどういったものかは才人から聞いている。メイジでは敵わないであろうことも。
「どこ?」
「ちょうどタバサが指さした方。王宮からだ」
「そんな」
「間違いない」
「取りあえず嬢ちゃんは、俺たちがそいつを討滅するまで街の方に隠れてろ。ほとぼりが冷めたら呼びに来る」
カイムの指示に、タバサは首を横に振る。
「私も行く」
「ダメだ危険すぎる。相手も『封絶』を使えないから被害は大きくなるんだぞ」
才人が諌める。しかし、タバサは納得しない。
「邪魔にはならないようにする。それに、私はあなたの主人、使い魔と主人は一緒にいるべき」
「確にそうだけどさ、今回はやばいんだって」
「死線なら、任務でいつもくぐってきた」
「こっちの世界の怪物と"紅世の徒"じゃあ全然違うんだってば」
才人の説得にも、タバサは固く譲らない。
「ある程度なら、自分の身を守れる」
「そのある程度を超えたらどうすんだ!怪我じゃすまないかもしれないんだぞ!」
「大丈夫」
「大丈夫って何を根拠に……」
無謀としか思えないタバサの言葉に才人は呆れる。しかし、目の前のタバサを見て才人は押し黙った。
「もし何かあっても、サイトは私を守ってくれる。絶対に」
そう言って微笑むタバサ。
「~~~ッ、……わかったよ、俺の負けだ」
微笑むタバサの可愛さに目を奪われ、とうとう才人は折れた。
結局、当初の予定通り、才人はタバサと共に王宮に向かうことになった。
大通りを抜け、東へ向かい、才人たちは王宮の敷地内に足を踏み入れた。
「どう?」
「ダメだ。向こうも俺たちに気づいたみたいだ。気配を隠しやがった」
「ふん。気配を消せる奴相手はなかなか厄介だな」
「どうするの?」
「取りあえず当初の目的を果たそう。イザベラ、だっけ?そいつに会って変わったところがないか探りを入れよう。うまくいけば"徒"の手がかりを掴めるかもしれねえ」
「うまくいけば、だがな」
「わかった」
才人たちはグラン・トロワを素通りして、離れにあるプチ・トロワへと向かった。
☆☆☆
「ふわぁああああ」
プチ・トロワの中にある王女の部屋で、豪奢な椅子に座ったまま、イザベラは大きな欠伸をした。欠伸を終えると舌を出して唇を舐める。王女の品と容姿を損なう下品で粗野な仕草であったが、不思議とこの少女には似合っていた。そしてそのまま気だるげに椅子の肘掛にもたれ、頬杖をつく。
「ねえ、用意は指示通り出来てる?」
傍に控える侍女に尋ねる。
「はっ、万事滞りなく」
「あの子はまだ来ないの」
「はっ、先ほどリュティスに竜籠が到着したとの由、もう間もなくかと」
「ふん、いちいち呼びつけるのにも金のかかる子ねえ、いっそのこと竜でも召喚してくれてれば楽だったのに。ねえ」
そう言ってイザベラは別の侍女へと話を振る。振られた侍女は緊張で身を固め、可哀想なほど畏まって答えた。
「は、はいっ!そうですね!」
「なんでも平民を呼びつけたって話じゃない。あの子って本当に才能が『ゼロ』なんじゃないかしら?」
「は、はいっ!」
「……随分畏まっているけど、あんた、新人?」
「は、はいっ!以前は王宮に勤めておりまして!こちらには一昨日よりご奉公させていただいております!」
「そうなの。別に取って喰いやあしないんだから、落ち着きなさいな」
そう言われても無理な話である。なぜなら、王宮内では、イザベラは侍女を虐め、嘲笑うのが好きな小さな暴君と専らの噂であった。例に漏れずこの新人侍女も、前の職場の先輩たちにさんざん脅されてここに来ている。そう簡単に恐怖が拭えるはずもなかった。侍女はますます畏まるばかりである。
「ふん」
それを見てイザベラは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。自ら望んで噂を野放しにしているのであるが、ここまで真に受け入れられてるのを見ると、流石にいい気分はしなかった。頬杖を付いたまま窓の外を眺め、タバサの到着を待った。
「……ッ!チッ」
しばらくそうしていたイザベラであったが、急に何かに感づいたかのように顔をしかめると舌打ちをした。周りの侍女は今度は何事かと戦々恐々とした。
「申し上げます!到着なされました!」
そこに、衛士がやって来て、タバサの到着を告げた。
「通しな。例の使い魔も一緒にね」
イザベラに命じられた衛士は、はっ、と敬礼を取ると扉から出て行った。
「何事ですかな?」
「大事だよ」
懐から問いかけてきた"地下水"に短く答え、イザベラは頬杖を止め、姿勢を正した。これから来る者たちを迎え入れるために。
☆☆☆
タバサと共に王女の部屋へと入った才人は、すぐにその部屋の主を見つけた。
年の頃17~18歳であろうその少女は、細いつり目にタバサと同じ目と髪の色を持ち、髪は肩まで伸ばされていた。そして、前髪を持ち上げる豪奢な冠が、少女をこの小宮殿の主であることを物語っていた。タバサはこの少女のことをカイムのようと評していたが、何かの間違いであろう、そんな気品が漂っていた。
しかし、そんな才人の評は容易く覆される。
「ふん。来たね。人形娘にその使い魔の平民」
イザベラの吐き捨てるような言葉に才人は我が耳を疑った。気品漂う王女から、まるで自分の相棒のような暴言が飛び出たのである。
「それにしてもあんた、相変わらず小さいわね。きちんと食べてるの?」
イザベラがタバサを睥睨する。
「おまけに平民まで連れちゃって、みすぼらしいったらありゃしない」
椅子から立ち上がり、タバサの傍まで近寄り、睨みつける。しかし、タバサの表情が変わらないのを見ると、つまらなさそうに鼻を鳴らし、手を鳴らした。すると、隣室から机と三人分の椅子、そして料理が侍女たちによって運ばれてきた。急な展開に目を丸くする才人を傍目に、侍女たちはてきぱきと
「ふん。今日はあんたの使い魔召喚の報告も兼ねてるからね、会食形式で話をするよ。特別にその平民も卓を囲むことを許可してやる。海のように広い私の心に感謝するんだね」
タバサは慣れたように、才人は目を白黒させながら着席する。それを見てイザベラも席に座ると、祈りもそこそこに食事を始めた。タバサも無言で食べ始め、才人もそれに倣う。静かな会食が始まった。
(なあ、なんかイメージと違うんだけど)
すっかり困惑した才人がカイムに尋ねる。
(俺が知るか)
(だってよ、お前みたいって言われた姫さんはなんか高貴っぽいし、かと思えばお前みたいなこと言うし、そもそもあいつタバサのお父さんの仇の娘なんだよな?もっとギスギスしてんのかと思った)
(俺はあそこまでひねくれてねえ)
(いや、問題はそこじゃねーよ)
才人がこそこそとカイムと話していると、タバサがつついてきた。それに気づいた才人は小声で応える。
「ど、どうしたタバサ」
「どう?」
「どうって?」
「"紅世の徒"の痕跡」
「あ、ああ、ここには痕跡がない。それに誰も襲われていないみたいだ」
「本当?」
「ああ」
「良かった」
小声でそう言うと、タバサは食事に戻る。またしばらく無言の食事が続いた。
「ねえ」
痺れを切らしたのかイザベラが口を開く。
「あんたの使い魔、まだ紹介されてないんだけど」
そう言ってイザベラは才人をちらりと見て、タバサに視線を移す。
「彼はヒラガサイト。私が召喚した平民」
「ヒラガサイト?変な名前ね」
「サイトが名前」
「ますます変ね。出身は?」
「東の方」
「ロバ・アル・カリイエ?」
「おそらく」
「曖昧ね。あんた何か隠してない?」
「……」
「ふん」
イザベラは鼻を鳴らしたが、それ以上は追求しなかった。そうこうしているうちに会食は終わった。
片付けを行う侍女たちを尻目に、イザベラは立ち上がると、タバサたちに告げた。
「話があるわ。あんたたち、寝室に来なさい」
そう言うと身を翻す。そして侍女に人払いを命じると部屋を出ていった。
「なあ、どうしたんだ」
「……わからない」
今まで普段通りだったタバサが、珍しく困惑したような声を出した。いつもなら、ここで任務を言いつけられるため、それも当然であった。
仕方がないので、二人共立ち上がり、イザベラの後を追う。
イザベラの寝室に入ると、豪華な天蓋付きのベッドが目に入った。イザベラはそこに腰掛け、何事か集中するように目を閉じている。
「……来たわね」
二人が部屋に入ると、イザベラは目を開けた。そして手招きして二人を呼び寄せる。そして手に持った杖を振るい、部屋の隅にあった椅子を二脚、ベッドの傍まで呼び寄せる。
「座りな」
二人が椅子に座るのを見ると、イザベラは再び杖を振るい、今度は『ディテクト・マジック』を使った。
「……何も仕掛けられてないわね」
そう呟くと、イザベラは二人の方を向いた。
「ねえ、あんたの使い魔。本当はどこから来たんだい?」
「……」
再度、イザベラが問いかけるも、タバサは答えない。
「だんまりかい……まあいいさ」
そして今度は才人の方を見る。タバサと同じ色をした瞳に見つめられて、才人は少しドキリとする。
「単刀直入に聞くよ、ヒラガサイト」
才人を見つめたまま、イザベラは言う。
「あんた、人間じゃないだろ」
瞬間、才人は腰の短剣を引き抜き、イザベラの首に突きつけた。隣でタバサが息を飲む気配がするが、気にしている場合じゃなかった。
「あんた何者だ」
気を張り詰めたまま、才人が問いかける。対してイザベラはというと、首筋に刃を当てられているのに少しも動じた様子がない、せいぜい刃の冷たさに顔をしかめる程度だ。恐るべき胆力であった。しかし、言ってしまえばそれだけだ。肝が座っているだけで、彼女は普通の人間であった。"トーチ"でも"燐子"でもなければ、ましてや"徒"でもなかった。だからこそ、恐ろしかった。この少女は何者なのか。
「その反応、やっぱり図星かい」
イザベラはそう言うと、今度はタバサを見る。
「あんたの使い魔に剣を引くように言ってくれ、私は敵じゃない」
「それを信じる証拠は」
イザベラの言葉に、才人が食いつく。彼女がどんなことをしようとも、タバサを害する前に排する自信があったが、念には念を入れた。
「ないよ。それよりも、私は今、この子に話しかけてるんだ。あんたは口を挟まないでおくれ」
「悪いがそれは出来ない相談だ。俺はタバサの使い魔でね」
「見上げた忠誠だ。羨ましいよ。ただ今はちょっと控えてな」
そう言うと、イザベラは才人を睨めつける。
「無礼だぞ。平民」
その気迫に才人は僅かに気圧される。フレイムヘイズである才人が、ただの人間に過ぎないイザベラにだ。
「引いて」
緊迫した空気の中、タバサが才人に指示する。
「……わかった」
そう言って才人は、警戒を解かずに、短剣を鞘に収めた。
「躾の出来たいい使い魔じゃない」
それを見たイザベラが面白そうに笑う。
「どうしてわかったの」
タバサがイザベラに尋ねる。
「ちょっとした勘さ」
「嘘」
「嘘じゃないよ」
「どうして」
「昔からね、人とは違った感覚があるみたいだ」
「なるほどな。素質を持ったガキか」
イザベラの言葉にカイムが反応する。
「今のそのバッジかい?へえ、インテリジェンスバッジなんてあるんだねえ」
感心したようにイザベラが言う。
「俺が何者か、お前わかんねえのか」
「なんだい、インテリジェンスバッジじゃないのかい?」
カイムの問いに、イザベラは特に偽る風もなく答える。
「……全て話してやれ」
カイムが才人にそう指示する。
「本気かよ」
「ああ」
才人が抗議するも、カイムは前言を撤回しない。
「お前もわかっただろう。こいつは素質があるが、知識がない。今回の"徒"に何か関係してるかもしれねえ」
「それはわかるけどよ」
「ならさっさとしろ間抜け」
カイムの指示に不承不承といった形で才人は従う。
「なあ姫さんにわかには信じられないかもしれねえけどよ、今から言うことは全部真実だ」
「……面白いじゃないかい。話してみな」
才人の言葉に、イザベラは目を光らせて反応した。
そして才人は、こちらの世界に来てから三度目になる説明を行った。
★★★
「"紅世の徒"にフレイムヘイズねえ」
才人の説明を聞き終わると、イザベラはつぶやいた。
「どうだ?信じるか?」
どうせ信じていないだろう、とタカをくくったように才人が聞く。当然だ。目の前の少女はどういうわけか素質があるようだが、異能を目にしたわけではない。こちらが誤魔化すためにデタラメを言っていると思われても仕方がなかった。
「信じるよ」
「は?」
「だから、信じるって」
イザベラの言葉に才人は目を丸くする。
「本当か?」
「なんだい、私を騙す気だったのかい?」
そう言ってイザベラはタバサを見る。
「違う、今の話は本当」
見つめられたタバサが証言する。
「ほらね?」
「だからって、なんでそんな簡単に……」
未だに信じきれない才人に、イザベラは笑って答える。
「いやね、私も長年疑問に思っていたのさ。私のこの感覚を始め、いろいろとね」
そう言うとイザベラは大きく伸びをした。背が反り返り、胸が強調される。目の前のそれに才人は思わず目を奪われ、タバサに杖で殴られる。そんなことも気にせずイザベラは言葉を続ける。
「今の話でその長年の疑問が解けた。すべて合点が言ったよ。他にそれらしい答えがないほどにね」
イザベラは伸びを終えると、姿勢を正し、改めて二人に向き直った。
「あんたたちが全部話してくれたんだ。だから私も全て話すよ」
イザベラは一拍置いて目をつむる。そして意を決したように目を開き、真剣な顔になると語り始めた。
「今玉座にいるガリア王、ジョゼフ。あいつは、私の父上じゃない」
衝撃の告白に、二人は息を飲んだ。構わず、イザベラは続ける。
「というかね、そもそも人間ですらない。別の何かだ」
衝撃が重なる。そして最後にイザベラは特大の爆弾を落とした。
「あんたたちの話でようやくわかった。あいつは、私の父を騙り、国王を僭称するあいつは"紅世の徒"だ」
今度こそ、才人たちは、何も言えなくなった。
――あとがき――
板変わりました。
PCも変わって無敵感。