タルブの村を救い、シエスタの無事を確認した拓也達。
虚無に目覚めたルイズは、どうなるのか。
第十七話 タバサの秘密
トリステインの城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念のパレードが行なわれた。
数で勝るアルビオン軍を破った王女アンリエッタは、『聖女』とあがめられ、そして、アンリエッタは女王となった。
それに伴い、アンリエッタのゲルマニア皇帝との婚約は解消されることとなった。
そのアンリエッタの戴冠式から数日後。
ルイズと才人(+ギルモン)、そして拓也とアイナが、アンリエッタに呼び出された。
朝、アンリエッタの使者が魔法学院にやってきたのだ。
4人と1匹は授業を休んで、アンリエッタが用意した馬車に乗り込んで王宮までやってきたのだ。
因みに拓也とアイナはルイズから、ルイズが『虚無』の系統であるかもしれないという相談を受けている。
序に才人には猛獣用の拘束具が取り付けられている。
それは、シエスタからマフラーを貰ったことや、少し前にシエスタと一緒に風呂に入った事がルイズにデルフリンガーからバレて、ルイズがキレたからだ。
アンリエッタの待つ部屋に入る。
その瞬間、
「ルイズ、ああ、ルイズ!」
アンリエッタが駆け寄り、ルイズを抱きしめた。
顔を上げず、ルイズは呟いた。
「姫さま・・・・・・・いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」
「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」
「ならばいつものように、姫様とお呼びいたしますわ」
「そうして頂戴。ああルイズ、女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は2倍。窮屈は3倍。そして気苦労は10倍よ」
アンリエッタはつまらなそうに呟いた。
それからルイズは、黙ってアンリエッタの言葉を待った。
しかし、アンリエッタはルイズの目を覗き込んだまま、話さない。
仕方なくルイズは、
「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」
と、言ってみた。
当たり障りの無い話題のつもりだったが、アンリエッタは思うところがあったらしく、ルイズの手を握った。
「あの勝利はあなたのおかげだものね。ルイズ」
ルイズはアンリエッタの顔を、はっとした表情で見つめた。
「わたくしに隠し事はしなくても結構よ。ルイズ」
「私、なんのことだか・・・・」
それでもルイズはとぼけようとした。
アンリエッタは微笑んで、ルイズに羊皮紙の報告書を手渡した。
それを読んだあと、ルイズはため息をついた。
「ここまでお調べなんですか」
「あれだけ派手な戦果をあげておいて、隠し通せるわけないじゃないの」
それから、アンリエッタは、今まで蚊帳の外だった才人、拓也、アイナの方を向いた。
「アイナとその使い魔さん。そして、異国の飛行機械を操っていた、ルイズの使い魔さん。敵の竜騎士隊を撃滅したとか。厚く御礼を申し上げますわ」
「いえ・・・・たいした事じゃないです」
才人が言った。
「それにアイナとその使い魔さんには、わたくしの命を助けていただきましたね。重ねて御礼を申し上げますわ」
「い、いえ・・・・・」
アイナが緊張した面持ちで呟く。
「あなた方は救国の英雄ですわ。特に使い魔さんたちには、できれば貴族にしてさしあげたいぐらいだけど・・・・・」
「いけませんわ!犬を貴族にするなんて!」
ルイズが叫んだ。
ここで言う“犬”は、才人のことなのだが。
「犬?」
「い、いや・・・・・なんでもありませんわ」
ルイズが頬を染めて、呟くように言った。
「あなた方に、爵位を授けるわけには参りませんの」
アンリエッタはそう言う。
トリステインでは、メイジでない者が貴族になることは出来ないのだ。
「多大な・・・・・・本当に大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ、アイナ。あなた方と、その使い魔達が成し遂げた戦果は、このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、あなたには領地どころか小国を与え、大公の位を与えてもよいくらい。そして、アイナや使い魔さん達にも特例で爵位を授ける事ぐらいできましょう」
「わ、私はなにも・・・・・・手柄を立てたのは、アイナや使い魔で・・・・・」
ルイズはぼそぼそと言いにくそうに呟いた。
「あの光はあなたなのでしょう?ルイズ。城下では軌跡の光だ、などと噂されておりますが、わたくしは奇跡など信じませぬ。あの光が膨れ上がった場所に、あなたたちが乗った飛行機械が飛んでいた。あれはあなたなのでしょ?」
ルイズはアンリエッタに見つめられ、それ以上隠し通す事ができなくなった。
ルイズは、
「実は・・・・・・」
と切り出すと、ゆっくりと語り始めた。
アンリエッタから貰った『水のルビー』を嵌めたら、始祖の祈祷書のページに古代文字が浮かび上がったこと。
そこに記された呪文を読み上げたら、あの光が発生した事。
「始祖の祈祷書には、『虚無』の系統と書かれておりました。姫さま、それは本当なのでしょうか?」
アンリエッタは目をつむったあと、ルイズの肩に手を置いた。
「ご存知、ルイズ?始祖ブリミルは、その3人の子に王家を作らせ、それぞれに秘宝を遺したのです。トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」
「ええ・・・・・・」
「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家に現れると」
「私は王族ではありませんわ」
「ルイズ、何を仰るの。ラ・ヴァリエールの祖は、王の庶子。なればこその公爵家なのではありませんか」
ルイズは、はっとした顔になった。
「あなたも、トリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」
それからアンリエッタは、才人の手をとった。
ルーンを見て頷く。
「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね?始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに生まれた使い魔の印」
才人は頷いた。
「では・・・・・・間違いなく私は『虚無』の担い手なのですか?」
「そう考えるのが、正しいようね」
ルイズはため息をついた。
「これであなたに、勲章や恩賞を授けることが出来なくなった理由はわかるわね?ルイズ」
才人はどうしてだかわからなかったので、尋ねた。
「どうしてですか?」
アンリエッタは顔を曇らせて、答えた。
「わたくしが恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日の元にさらしてしまう事になるでしょう。それは危険です。ルイズの持つ力は大きすぎるのです。一国でさえも、もてあますほどの力なのです。ルイズの秘密を敵が知ったら・・・・・・彼らはなんとしてでも彼女を手に入れようと躍起になるでしょう。敵の的になるのはわたくしだけで十分」
それからアンリエッタは、ため息をついた。
「敵は空の上だけとは限りません。城の中にも・・・・・あなたのその力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ず現れるでしょう」
ルイズはこわばった顔で頷いた。
「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これは、ここにいるわたくしたちだけの秘密よ」
それからルイズは暫く考え込んでいたが、決心したように、口を開いた。
「おそれながら姫様に、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」
「いえ・・・・いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」
「神は・・・・・姫様をお助けするために、私にこの力を授けたに違いありません!」
しかし、アンリエッタは首を振る。
「母が申しておりました。過ぎたる力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと、誰が言い切れるでしょうか?」
ルイズは昂然と顔を持ち上げた。
自分の使命に気付いたような、そんな顔であった。
しかし、その顔はどこか危うい。
「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そうしつけられ、そう信じて育って参りました。しかしながら、私の魔法は常に失敗しておりました。ご存知のように、ついた二つ名は『ゼロ』。嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに体を震わせておりました」
ルイズはきっぱりと言い切った。
「しかし、そんな私に神は力を与えてくださいました。わたしは自分が信じるもののために、この力を使いとう存じます。それでも陛下が要らぬと仰るなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」
アンリエッタはルイズのその口上に心打たれた。
「わかったわルイズ。あなたは今でも・・・・・一番の私のお友達。ラグドリアンの湖畔でも、あなたはわたくしを助けてくれたわね。私の身代わりに、ベッドにはいってくださって・・・・・」
「姫さま」
ルイズとアンリエッタは、ひし、と抱き合った。
蚊帳の外である、才人及び拓也、アイナは、見ているだけだった。
「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」
「当然ですわ、姫さま」
「ならば、あの『始祖の祈祷書』は、あなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。決して『虚無』の使い手という事を、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」
「かしこまりました」
「これからあなたは、わたくし直属の女官ということに致します」
アンリエッタは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。
それから羽ペンを振ると、書面に花押がついた。
「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ仕事もしにくいでしょうから」
ルイズは礼をすると、その許可証を受け取った。
「あなたにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。表向きは、これまで通り魔法学院の生徒として振舞ってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、きっとうまくやってくれるわね」
それから、アンリエッタは拓也とアイナに向き直った。
「アイナ」
「はい」
アンリエッタに名を呼ばれ、返事をするアイナ。
「わたくしが、先程ルイズに言った大きすぎる力・・・・・・それは、あなたの使い魔にも言えることです」
アイナが動揺する。
「正直、わたくしは『漆黒の竜人』の恐ろしさを、いくらウェールズさまに言われたとはいえ、心のどこかで信じきれていませんでした。ですが、この前その『漆黒の竜人』を実際に見て、それが真実だったと思い知らされました」
アンリエッタは続ける。
「『漆黒の竜人』の力は、『虚無』に匹敵するか、もしくはそれ以上の力を持っているかもしれません。まさに一国を滅ぼせるほどの危険性を秘めています」
その言葉に、アイナは頷いた。
「そして、その『漆黒の竜人』と互角に戦えるあなたの使い魔も、同じぐらいの危険性を秘めているといえます」
「そんな!」
思わずアイナは叫ぶ。
「落ち着いてくださいアイナ。ただ、ルイズと同じようにその力をこの国のために捧げていただければ、この上ない戦力となります。ゆえに、あなた方には、この国の剣となって欲しいのです。もちろん、それに見合う見返りは用意いたします」
「・・・・・もし、断れば?」
アイナは恐る恐る尋ねた。
「その時は・・・・・危険分子として排除するのもやむなし、と考えております」
アンリエッタはそう言った。
「そんな!何を言ってるんですかお姫様!!」
才人が叫ぶ。
「それだけ、彼の力は諸刃の剣ということです」
アンリエッタは才人にそう言った。
拓也が口を開く。
「つまりお姫様が言いたいのは、見返りはたくさんやるから、命令のまま従うこの国の武器となれと?」
「そう受け取ってもらって構いません」
拓也の言葉にアンリエッタは背定した。
その瞬間、
「断る!」
拓也は即答した。
「命令のまま戦う、戦争の道具にされるなんて俺はゴメンだね。俺が戦うかどうかを決めるのは、俺の心だ!第一、俺の力は敵を倒すための力じゃない。護るための力だ!俺の・・・・・いや、俺達の力が危険だから排除するっていうなら、悪いけど全力で抵抗するからな!」
拓也は言い切った。
ここで言う、俺“達”とは、拓也とアグニモン、ヴリトラモンのことである。
「そうですか」
アンリエッタはにっこり笑ってそう言った。
「え?」
その反応に、拓也は毒気を抜かれる。
アンリエッタは続ける。
「あなたを試すような真似をして御免なさい。ですが、あなたの覚悟を知っておきたかったのです」
アンリエッタの言いたいことが分かった拓也は、頭を掻く。
「それでわかりました。あなたはウェールズさまの言っていた通りの人物みたいですね。自分の信じた事は最後まで貫く心の強さを持った人だと。それならば信じる事が出来ます」
「あの陛下?」
よくわからないアイナが尋ねる。
「アイナ、あなたの使い魔はどんな力にも屈さない強さを持っていますね」
「えと・・・・・あの・・・・・・拓也が危険だとかいうのは・・・・・・」
「危険だなんて、はじめから思っておりませんわ。何よりあなた方はわたくしの命の恩人。そのように恩を仇で返すような真似ができましょうか」
アイナはようやく試されていた事に気付きホッとする。
アンリエッタは、それから才人に向き直り、ポケットから宝石や金貨を取り出し、それを才人に握らせた。
「これからもルイズを・・・・・わたくしの大事なお友達をよろしくおねがいしますわね。やさしい使い魔さん」
「そ、そんな・・・・・こんなにたくさん受け取れませんよ」
才人は手に持った金銀宝石を見て、あっけにとられた。
「是非、受け取ってくださいな。本当ならあなたを『シュヴァリエ』に叙さねばならぬのに、それが適わぬ無力な女王のせめてもの感謝の気持ちです。あなたはわたくしと祖国に忠誠を示してくださいました。報いるところがなければなりませぬ」
アンリエッタは真摯な目でそう告げた。
才人は色々迷っていたが、結局は受け取り、その金銀宝石をポケットの中に突っ込んだ。
そして、アンリエッタは拓也にも同じように金貨や宝石を渡そうとする。
「いや、俺は受け取れませんよ。お姫様に忠誠を誓ったルイズの使い魔である才人さんと違って、俺はこの国に忠誠を誓うどころか、好き勝手やるって宣言したようなもんですから」
拓也はそう言って、断ろうとした。
だが、
「ならば、これは先程、試すためとはいえ、あなたを侮辱してしまったお詫び、とお考えください」
そう言うと、アンリエッタは拓也の手に半ば強引に握らせる。
「え・・・あ?」
侮辱してしまったお詫びというには絶対に多すぎるのだが、命を救ったお返しも兼ねているのだろうと考え、拓也は仕方なく受け取った。
4人+1匹は、並んで王宮を出た。
才人がルイズにぶつぶつ文句を言っていたようだが、ルイズが傭兵にぶつかって絡まれたところを助けたりしたので、なんだかんだいって、才人はルイズのことが気になるようである。
その後、ルイズとアイナが宝石商に釘付けになる。
4人と1匹が近付くと、頭にターバンを巻いた商人がもみ手をした。
「おや!いらっしゃい!見てください貴族のお嬢さん。珍しい石を取り揃えました。『錬金』で作られたまがい物じゃございませんよ」
並んだ宝石は、貴族が身に付けるにしては装飾がゴテゴテしていて、お世辞にも趣味がいいとはいえない代物だった。
ルイズはペンダントを手に取った。
貝殻を彫って作られた、真っ白なペンダント。
周りには大きな宝石がたくさんはめ込まれている。
しかし、よく見るとちゃちなつくりであった。
宝石にしたって、安い水晶であろう。
でも、ルイズはそのきらきら光るペンダントが気に入ってしまった。
「欲しいのか?」
ルイズは困ったように首を振った。
「お金がないもの」
「それでしたらお安くしますよ。4エキューにしときます」
商人はにっこりと微笑んだ。
「高いわ!」
ルイズは叫んだ。
「お前、そんぐらいも持ってないのか?」
才人が呆れたように言うと、ルイズはつまらなそうに唇を尖らせた。
「もともと買い物する予定じゃなかったから財布持ってきてないのよ。今はポケットに少ししかないわ」
才人は仕方なく、ポケットを探った。
先程アンリエッタに貰った金貨を掴む。
手のひらに金貨を山盛りにして、才人は尋ねた。
「これで何枚なんだ?」
商人は、才人がそんなにお金を持っているので驚いたらしい。
「こ、こんなにいりませんよ!ひい、ふう、みい・・・・・・これで結構です」
先々王の肖像が彫られた金貨を4枚取り上げると、商人はルイズにペンダントを渡す。
ルイズはしばし呆気に取られたが、思わず頬が緩んでしまった。
ルイズは暫く弄繰り回した後、ウキウキ気分でペンダントを首に巻いた。
その様子を見ていたアイナは、じーっと拓也を見つめる。
アイナの視線に気付いた拓也。
流石に今回は何を言いたいのかはわかる。
拓也は、小さく「やれやれ・・・・」と呟くと、
「アイナは何が欲しいんだ?」
アイナにそう聞き返す。
アイナは、ぱっと顔を輝かせると、商品を吟味し始める。
少しすると、銀のチェーンに銀の十字架がついたペンダントを手に取った。
アイナはどうやらそれが気に入ったらしい。
「これ、いくらですか?」
アイナは商人に尋ねる。
「それは全てが純銀製ですからね、少々値が張りますよ。10エキューです」
拓也はそれを聞くと、先程才人が出した金貨と同じものを10枚数えた。
さっきは4エキューで金貨4枚だったので、10エキューなら金貨10枚である。
拓也は商人に金貨を渡す。
商人は金貨を数え10枚あることを確認すると、
「まいどあり」
営業スマイルを浮かべて、頷いた。
アイナは早速、ペンダントを首に巻く。
「どうかな?」
拓也に尋ねる。
「ん?似合うと思うよ」
拓也はそう答える。
アイナはその言葉に嬉しくなり、頬を赤く染めながら笑顔になる。
そして、拓也の右腕に腕を絡める。
「お、おい!」
それは拓也も焦った。
いつか買い物に来たときに手を繋いだのとは違い、かなり2人の体が密着することになるのだ。
拓也は顔を赤くする。
「嫌?」
アイナが不安そうな顔+上目使いで拓也を見つめる。
拓也も男であり、女の子にそんな風に言われれば、断れる筈もなく、
「べ、別に、嫌じゃないけど・・・・・・・」
そう答える。
「じゃあ、良いじゃない」
と、アイナは満面の笑みを浮かべた。
因みに、その間に才人は隣の露天商から、なにやら服を買ったらしい。
その時の才人の顔を見た拓也は、
「碌な事を考えてないときの顔だ」
との事。
それから数日後。
何故か拓也は馬車に乗っていた。
正面には、タバサとキュルケ。
ここまでは、まあいい。
だが、拓也の右にはアイナが。
拓也の左にはイルククゥが。
それぞれが拓也の腕に腕を絡めている。
そして、アイナとイルククゥからは黒いオーラが立ち上り、拓也を挟んでにらみ合う両者の中央では、火花が散っているように思える。
更に、何故かイルククゥの服装はセーラー服である。
タバサは、我関せずで本を読んでいる。
キュルケは、顔は笑っているが、冷や汗だらだらである。
何故このような状況になっているのか?
それは約半日前に遡る。
朝食が終わった後、拓也が外を歩いていると、突然空から降ってきたシルフィードにロープでグルグル巻きに縛られ、拉致されたのだ。
連れて行かれた先は、タバサの部屋。
そこでは、タバサが荷物を纏めていた。
キュルケもいたので、話を聞けば、タバサが実家に帰ると言う。
拓也がシルフィードに何で自分を連れてきたのかと聞くと、拓也も一緒に来て欲しいそうだ。
タバサの杖による殴打の洗礼がシルフィードに行なわれるが、シルフィードは頑として考えを変えなかった。
結局は、アイナに許可を貰って来い、ということで妥協したのだが・・・・・・シルフィードが飛び去って5分後。
アイナがタバサの部屋に飛び込んできた。
シルフィードと言い合いになっていたのだが、最終的にアイナもついていくということになった。
その後、オスマンを脅・・・・・もとい、オスマンに頼み込んで、休暇願いを通してもらい、国境を越えるための通行手形を発行してもらった一行は、タバサの実家から派遣されてきた馬車で出発する事となった。
その際、馬車に乗り込もうとする、拓也、アイナ、タバサ、キュルケの前に、
「きゅいきゅい。シルフィも馬車で行くのね」
と、人型に姿を変えたシルフィード、もといイルククゥ。
だが、着ていた服がいつもと違った。
「イルククゥ・・・・・そ、その服如何したんだよ?」
拓也は少し動揺しながら言った。
イルククゥの着ていた服は、上着は白地の長袖に、黒い袖の折り返し。
襟とスカーフは濃い紺色であった。
襟には白い三本線が走っている。
そして、かなり短めのスカートを穿いていた。
拓也や才人の世界ではセーラー服と呼ばれた服装である。
「あら?それってアルビオンの水兵服じゃない。どうしたの?」
キュルケがそう言った。
拓也はおぼろげながら、元の世界でセーラー服は元々軍服だったという話を思い出した。
「昨日、サイトがメイドにこの服着せて、悶えていたのね」
イルククゥがそう答えた。
拓也は数日前の王宮に呼び出された帰りに露店で、なにやら服を買っていたのを思い出した。
その時の才人の顔は、碌な事を考えていないときの顔だったのを思い出し、拓也の中で全てが繋がる。
「・・・・・・何やってるんですか、才人さん」
拓也は小さく呟く。
「きゅいきゅい。タクヤさま」
イルククゥが拓也を呼ぶ。
「ん?」
拓也がイルククゥへ顔を向けると、イルククゥがその場で、くるりと回転した。
スカーフとスカートが軽やかに舞い上がる。
「タクヤさま!お待たせなのね!」
イルククゥは指を立て、元気良くそう言った。
イルククゥのその行動は、昨日才人がシエスタにやらせた行動そのものなのだが、シエスタと違い、イルククゥの性格は、天真爛漫で単純一途。
その行動をするにあたって、羞恥は無い。
故に、全くの自然体でその行動が行なわれたため、拓也の精神に直撃した。
拓也は顔を真っ赤に染める。
「いきなり如何したの?」
キュルケがイルククゥに尋ねる。
「サイトがメイドに今の行動させて、泣きながら悶え狂っていたのね」
キュルケはそれを聞くと、拓也を見る。
拓也は、顔が真っ赤である。
キュルケはクスクスと笑った。
だが、アイナはそれが面白くなかったらしく、
――ズンッ
無言で拓也の足を、思いっきり踏みつけた。
因みに、何故才人が買ったはずの服をイルククゥが着ているのかといえば、昨日才人は、シエスタにセーラー服を着せているところを、ルイズのクラスメイトのギーシュとマリコルヌに見つかり、残りの2着を渡す事で、ルイズへの情報の漏洩を防いだ。
そして、その様子はシルフィードも上空から見ていた。
その後、マリコルヌが1人になったところで、一撃の元に気絶させ、セーラー服をいただいてきたという事だ。
人、それを強盗という。
そして、今に至る。
黒いオーラが充満し、息苦しくなったキュルケは、話題を逸らすように話し出した。
「タバサ、あなたのお国がトリステインじゃなくって、ガリアだって初めて知ったわ。あなたも留学生だったのね」
キュルケは『タバサ』の名が偽名だという事に薄々感づいていた。
キュルケは、タバサは世を忍ぶトリステインの名門貴族の出だろうと思っていたが、それは違った。
タバサは、トリステイン、ゲルマニアと国境を接する、ガリア王国の出だったのだ。
キュルケはタバサに尋ねた。
「何でまた、トリステインに留学してきたの?」
しかし、タバサは答えない。
じっと、本を見つめたままだ。
その時、キュルケは気付いた。
本のページが、出発したときと変わらないことに。
めくりもしない本を、タバサはじっと見つめている。
キュルケはそれ以上、尋ねるのを止めた。
タバサを想ってのことだが、それは即ち、アイナとイルククゥの険悪なムードに包まれたままということである。
キュルケは少し冷や汗を流しながら、目の前の現実から目を逸らすように窓の外を見た。
その時、前から、馬車に乗った一行が現れた。
深くフードを被った10人にも満たない一行であったが、妙にキュルケの注意を引いた。
マントの裾から杖が突き出ている。
貴族であった。
その杖のつくりからいって一行は軍人であるようだ。
今は、戦時であるので珍しくもない。
なにか密命でも帯びているのだろうか、静々と馬を進めている。
先頭をゆく貴族の顔が、フードの隙間からちらっと覗いた。
かなり年老いた貴族であった。
キュルケはなんとなくその横顔を見送った。
だが、はたと気付く。
見覚えがある気がしたのだ。
「一体何処で見たのかしら・・・・・・というか誰だっけ」
自分で考えてもわからないので、誰かに聞こうとしたが、今のタバサには聞く気にはなれず、アイナや拓也にいたっては、話しかける気にもなれない。
結局、ま、いっかと呟くと、気にしないことにした。
一行の2泊した旅路は、ラグドリアン湖の水が溢れて街道が水没し通れなくなったため迂回した以外は、おおむね順調だった。
ただ、馬車の中は相変わらず黒いオーラで一杯だったが。
関所で通行手形を確認する衛士も馬車を覗き込んだとき、余りの恐ろしさにキュルケとタバサの通行手形を確認しただけで通された。
実際、イルククゥは通行手形を持っていなかったので、助かったといえば助かったのだが。
街道を暫く進むと開けた場所に出た。
街道のすぐ傍をゆるやかに丘が下り、ラグドリアン湖へと続いている。
湖の向こう側はトリステインだ。
衛士の言うとおり、確かにラグドリアン湖の水位は上がっていた。
浜は見えず、湖水は丘の緑を侵食している。
タバサは本を閉じ、窓から外を覗いている。
「あなたのご実家、この辺なの?」
「もうすぐ」
タバサは馬車に乗り込んでから、初めて口を開いた。
しかし、すぐにまた黙り込んだ。
街道を山側へと折れ、馬車は一路タバサの実家へと進む。
そのうちに森の中へと馬車は進み、大きな樫の木が茂っているところにでた。
木陰の空き地では農民たちが休んでいる。
リンゴの籠に目をとめたキュルケは、馬車を止めさせ、農民を呼んだ。
「美味しそうなリンゴね。いくつか売って頂戴」
農民は籠からリンゴを取り出し、銅貨と引き換えにキュルケに渡した。
「こんなに貰ったら、籠一杯分になっちまいます」
「5個でいいわ」
キュルケは1個をかじり、残りの4個をそれぞれに渡した。
この時、黒いオーラが一時的に消えた事にキュルケは安堵した。
「美味しいリンゴね。ここはなんていう土地なの?」
キュルケは農民に問う。
「へえ、この辺りはラグドリアンの直轄領でさ」
「え?直轄領?」
王様が直接保有、管理する土地の事だ。
「ええ。陛下の所領でさ。わしらも陛下のご家来様ってことでさあ」
農民たちは笑った。
確かに土地の手入れがよく行き届いた、風光明媚な場所である。
王様が欲しがるのも無理はない。
キュルケは目を丸くして、タバサを見つめた。
「直轄領が実家って・・・・・・あなたってもしかして・・・・・・」
それから10分ほどで、タバサの実家のお屋敷が見えてきた。
旧い、立派なつくりの大名邸である。
門に刻まれた紋章を見て、キュルケは息を呑んだ。
交差した2本の杖、そして“更に先へ”と書かれた銘。
まごうことなきガリア王家の紋章である。
しかし、近付くとその紋章にはバッテンの傷がついていた、
不名誉印である。
この家のものは、王族でありながらその権利を剥奪されている事を意味している。
玄関前の馬周りにつくと、1人の老僕が近付いてきて馬車の扉を開けた。
恭しくタバサに頭を下げる。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
他に出迎えのものはいない。
タバサが降りると、続いてキュルケ、アイナ、拓也、イルククゥの順で馬車を降りた。
5人は老僕に連れられ、屋敷の客間へと案内された。
手入れが行き届いた綺麗な邸内だったが、シーンと静まり返って、まるで葬式が行なわれている寺院のようだ。
タバサを除いた4人はホールのソファに座る。
キュルケがタバサに言った。
「まずはお父上にご挨拶したいわ」
しかしタバサは首を振る。
それから、
「ここで待ってて」
と言い残して客間を出て行った。
取り残された4人がぽかんとしていると、先程の老僕が入ってきてワインとお菓子を置いた。
それには手をつけずに、キュルケは老僕に尋ねた。
「このお屋敷、随分と由諸正しいみたいだけど。なんだかあなた以外、人がいないみたいね」
「あ、それ俺も思った。こう言っちゃ難だけど、この屋敷、綺麗なんだけど寂しいって言うか・・・・・」
キュルケの言葉に拓也が同意する。
老僕は恭しく礼をした。
「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」
全員が頷く。
と、その時、アイナが気付いたように言った。
「オルレアン・・・・・オルレアン家っていえば、ガリア王の弟の、王弟家じゃ・・・・・」
キュルケもはたと気付く。
「どうして王弟家の紋章を掲げずに、不名誉印なんか飾っておくのかしら」
「お見受けしたところ、外国のおかたと存じますが・・・・・お許しがいただければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」
「トリステインのシンフォニア」
「アイナの使い魔の神原 拓也」
「きゅいきゅい。イルククゥなのね」
4人がそう言うと、キュルケが尋ねた。
「ところでいったい、この家はどんな家なの?タバサは何故偽名を使って留学してきたの?あの子、なにも話してくれないのよ」
キュルケがそう言うと、ペルスランは切なげなため息を漏らした。
「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか・・・・・わかりました。お嬢様が、お友達をこの屋敷に連れてくるなど、絶えてない事。お嬢様が心許すかたなら、かまいますまい。皆様を信用してお話しましょう」
それからペルスランは深く一礼すると語りだした。
「この屋敷は牢獄なのです」
タバサは屋敷の一番奥の部屋の扉をノックした。
返事はない。
この部屋の主がノックに対する返事を行なわなくなってから、5年が経っている。
その時、タバサはまだ10歳だった。
タバサは扉を開けた。
大きく殺風景な部屋だった。
ベッドと椅子とテーブル以外、他には何もない。
開け放した窓からはさわやかな風が吹いてカーテンをそよがせている。
この何もない部屋の主は自分の世界への闖入者に気付いた。
乳飲み子のように抱えた人形をぎゅっと抱きしめる。
それは痩身の女性だった。
もとは美しかった顔が病のため、見る影もなくやつれている。
彼女はまだ30代の後半だったが、20もふけて見えた。
伸ばし放題の髪から除く目が、まるで子供のように怯えている。
わななく声で女性は問うた。
「だれ?」
タバサはその女性に近付くと、深々と頭を下げた。
「ただいま帰りました。母さま」
しかし、その人物はタバサを娘と認めない。
そればかりか、目を爛々と光らせて冷たく言い放つ。
「下がりなさい無礼者。王家の回し者ね?私からシャルロットを奪おうというのね?誰があなたがたに、可愛いシャルロットを渡すものですか」
タバサは身じろぎもしないで、母の前で頭を垂れ続けた。
「おそろしや・・・・・・この子がいずれ王位を狙うなどと・・・・・誰が申したのでありましょうか。薄汚い宮廷のすずめたちにはもううんざり!私達は静かに暮らしたいだけなのに・・・・・・下がりなさい!下がれ!」
母はタバサに、テーブルの上のコップを投げつけた。
タバサはそれを避けなかった。
頭に当たり、床に転がる。
母は抱きしめた人形に頬ずりした。
何度も何度もそのように頬を擦り付けられた所為か、人形の顔は擦り切れて綿がはみ出ている。
タバサは悲しい笑みを浮かべた。
それは、母の前でのみ見せる、たった一つの表情だった。
「あなたの夫を殺し、あなたをこのようにしたものどもの首を、いずれここに並べに戻ってまいります。その日まで、あなたが娘に与えた人形が仇共を欺けるようお祈りください」
開けた窓から風が吹き込んでカーテンをて揺らす。
初夏だというのに、湖から吹いてくる風は肌寒かった。
4人はペルスランの話を聞いていた。
「継承争いの犠牲者?」
キュルケがそう問い返すと、ペルスランは頷いた。
「そうでございます。今を去ること5年前・・・・・・先王が崩御されました。先王は2人の王子を遺されました。現在、王座についておられるご長男のジョゼフさま、そしてシャルロットお嬢様のお父上であられたご次男オルレアン公のお2人です」
「あの子は、王族だったのね」
「しかし、ご長男のジョゼフさまはお世辞にも王の器とは言いにくい暗愚なおかたでありました。オルレアン公は王家のご次男としてはご不幸なことに、才能と人望に溢れていた。したがって、オルレアン公を擁して王座へ、という動きが持ち上がったのです。宮廷は2つに分かれての醜い争いになり、結果オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれたのでございます。この国の誰よりも高潔なおかたが魔法ではなく、下賎な毒矢によってお命を奪われたのです。その無念たるや、私などには想像もつきかねます。しかし、ご不幸はそれにとどまらなかったのです」
ペルスランは胸をつまらせるような声で続けた。
「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢様を狙いました。将来の禍根を断とうと考えたのでありましょう。連中はお嬢様と奥様を宮廷に呼びつけ、酒肴を振舞いました。しかし、お嬢様の料理には毒が盛られていました。奥様はそれを知り、お嬢様を庇いその料理を口にされたのです。それはお心を狂わせる水魔法の毒でございました。以来、奥様は心を病まれたままでございます」
4人は言葉を失い、呆然とペルスランの告白に耳を傾けた。
「お嬢様は・・・・・その日より、言葉と表情を失われました。快活で明るかったシャルロットお嬢様はまるで別人のようになってしまわれた。しかしそれも無理なからぬこと。目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう。そんなお嬢様はご自分の身を守るために、進んで王家の命に従いました。困難な・・・・・生還不能と思われた任務に志願し、これを見事果たして王家への忠誠を知らしめ、ご自分をお守りになられたのです。王家はそんなシャルロットお嬢様を、それでも冷たくあしらわれました。本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にも関わらず、シュヴァリエの称号のみを与え、外国に留学させたのです。そして心を病まれた奥様を、この屋敷に閉じ込めました。体のいい、厄介払いというわけです」
口惜しそうにペルスランは唇を噛んだ。
「そして!未だに宮廷で解決困難な汚れ仕事がもちあがると、今日のようにほいほい呼びつける!父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで牛馬のようにこき使われる!私はこれほどの悲劇を知りませぬ。何処まで人は人に残酷になれるのでありましょうか」
その場にいた全員は、タバサが口を開かぬ理由を知った。
決してマントに縫い付けぬ、シュヴァリエの称号の理由を知った。
『雪風』、彼女の二つ名。
彼女の心には冷たい吹雪が吹き荒れ、今もやむ事がないのだろう。
「お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」
皆は頷く。
「奥様は、お忙しいかたでありました。幼い頃のお嬢様はそれでも明るさを失いませんでしたが・・・・・・随分と寂しい想いをされたことでありましょう。しかし、そんな奥様が、ある日、お嬢様に人形をプレゼントなさったのです。お忙しい中、ご自分で街に出でて、下々の者に交じり、手ずからお選びになった人形でした。そのときのお嬢様の喜びようといったら!その人形に名前をつけて、まるで妹のように可愛がっておられました。今現在、その人形は奥様の腕の中でございます。心を病まれた奥様は、その人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられます」
ペルスランは一息つく。
「『タバサ』。それはお嬢様が、その人形にお付けになった名前でございます」
扉が開いて、タバサが現れた。
ペルスランは一礼すると、苦しそうな表情を浮かべ、懐から一通の手紙を取り出した。
「王家よりの指令でございます」
タバサはそれを受け取ると、無造作に封を開いて読み始めた。
読み終えると軽く頷いた。
「いつごろ取りかかられますか?」
まるで散歩の予定を答えるように、タバサは言った。
「明日」
「かしこまりました。そのように使者に取り次ぎます。ご武運をお祈りいたします」
そう言い残すと、ペルスランは厳かに一礼して部屋を出て行った。
タバサは皆の方を向いた。
「ここで待ってて」
これ以上はついてくるなと言いたいのだろう。
しかし、
「ゴメンね。さっきの人に全部聞いちゃったの。だからあたしもついていくわ」
キュルケが、
「俺も行くぜ。あそこまで聞いちまったら、黙って見送るだけなんて出来ない」
拓也が、
「もちろん私も」
アイナがそう言う。
「危険」
「余計に、あなた1人で行かせるわけにはいかないわね」
タバサの言葉にキュルケがそう言う。
タバサは答えない。
ただ、軽く下を向いた。
その夜。
拓也とアイナは用意された客室にいた。
2人の雰囲気は暗い。
ペルスランから聞いた話が頭の中からはなれないのだ。
「ふう・・・・・」
どちらでもなくため息をつく。
先程からこれの繰り返しだった。
そんな時、
「きゅい~!なんなのねこの暗い雰囲気は!」
2人の部屋にイルククゥが乱入した。
2人はイルククゥを見るが、
「けどよ、あんな話聞いた後じゃ・・・・・」
「うん・・・・この先、どうやってタバサと付き合っていけばいいのか・・・・」
拓也とアイナがそう言う。
「きゅい~~!!何もそんなに難しく考える必要はないのね!2人は今まで通りお姉さまと接していけばいいのね!」
イルククゥがそう言う。
「今まで通り・・・・か。それもそうだな。俺たちがウジウジ悩んだってどうなるわけでもないし」
「うん。いつも通りでいいんだよね」
イルククゥの言葉で2人の暗い雰囲気が消える。
「それでいいのね!」
「ところで・・・・・」
アイナが言う。
「何しに来たの?イルククゥ」
やや黒いオーラを纏わせつつイルククゥに問いかけた。
イルククゥが笑みを浮かべると、
「そうなのね。シルフィずっと考えていたのね。そこのおチビに何か負けてるような気がしてたのね」
「は?」
拓也は意味が分からない。
「へえ~それで?」
アイナは黒いオーラを出しつつそう問う。
「それが、わかったから来たのね」
イルククゥはそう言うと、拓也の前に来る。
「イ、 イルククゥ?」
拓也は少し動揺する。
「これが今までそこのおチビに負けてたことなのね」
そう言った途端、イルククゥは拓也の顔を両手で挟むと、そのまま顔を近づけ、唇を拓也の唇に押し付けた。
「んんッ・・・・!?」
イルククゥは拓也にキスをしていた。
少しするとイルククゥは離れる。
「ぷはっ・・・・!」
拓也の顔は真っ赤になっている。
「イ、イイイイイイ、イル、イルククゥ!?おまっ!なにっ!おまっ!」
拓也は無茶苦茶取り乱していた。
対するイルククゥはニコニコしており、
「これでおチビと互角なのね」
そんな事を言った。
その瞬間、
――ブチィッ!!!
何かが引き千切れるような音が聞こえた。
拓也は恐る恐るアイナの方を向く。
そこには、巨大なる豪火球を掲げたアイナがいた。
その目は最早イってしまっている。
「ア、 アイナ!?お、落ち着けッ!そ、それはシャレになら・・・・・・」
拓也は言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。
問答無用で放たれた豪火球が、拓也、イルククゥもろとも客室を吹き飛ばした。
尚、この事件により、拓也とイルククゥ(シルフィード)が重症を負い、治療のため任務への出発が数日遅れた事を記しておく。
次回予告
タバサの任務で、ラグドリアン湖へ水の精霊を退治するために向かう一行。
だがそこには、惚れ薬でベッタリになったルイズを連れた、才人、ギルモン、ギーシュ、モンモランシーがいた。
水の精霊を呼び出すと言うので話を聞いてみることにする一行。
湖の水を増やす水の精霊の真意とは?
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第十八話 水の精霊と新たなる道
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
十七話完成~。
で、さっそくごめんなさい(土下座)
シリアスな物語の最後をギャグで終わらせてしまいました。
いや、これは必要な事だったんですよ。
任務の開始を遅らせるために。
理由はわかると思いますが。
まあ、今回を振り返りますと、王宮編が思った以上に長くなりました。
書き始めたら、思いついてしまったので。
とりあえず、アンリエッタと拓也のやり取り、もう少しまとめることができたらなぁ~と思いました。
思いついたはよかったんですけど、うまく言葉で表現できなかった。
もっと精進です。
原作では才人がルイズにアクセサリーを買ってあげてましたので、アイナにもおねだりさせてみました。
アイナ、イルククゥより一歩リードか?
と思いきや・・・・・・・
で、この辺りまで書いて、ミスに気付く。
タバサの出発日ってこの日と同じじゃないか!と。
すいません、自分のミスなんでこの小説では、タバサの出発日は原作と違うってことにしてください。
気を取り直して、拓也、シルフィードに拉致されました。
どうやって連れて行くかと悩んだ結果、このような流れに。
しかもイルククゥ、セーラー服で登場、これも突然閃いたネタです。
道中すれ違った一行。
ウェールズは生きている。
ならばこの集団は?
秘密です。
タバサの秘密については原作通り。
まあ、最後にイルククゥのキスという、アイナへの最大のカウンターを喰らわせましたがね。
この先どうなる事やら。
では、次も頑張ります。