第二話 使い魔の初夜
才人は、頬の痛みの中、目を覚ました。
「う・・・いって~」
「あ。気がつきました?才人さん」
そう言って、拓也が才人の顔を覗き込む。
「ああ。拓也か・・・・何時家に来たんだ?・・・そうそう、聞いてくれよ。おかしな夢見ちゃってさ、俺がファンタジーな世界に召喚されちゃったんだよ。何か使い魔って奴になれってことでさあ。アニメや漫画の見すぎかな。そういや拓也も出てきたぜ。笑えるだろ?」
「・・・・才人さん、残念ですが夢じゃないですよ」
拓也は、未だに現実逃避を続ける才人に言った。
「ホントね。私も夢だったらどれだけ良かったか」
才人の耳にルイズの声が聞こえ、才人は勢い良く身体を起こした。
才人は床に寝かされていて、ルイズはベッドに腰掛けている。
拓也は、才人の隣に座っており、アイナは椅子に座っていた。
因みにここはルイズの部屋である。
「アンタ、アイナに感謝しときなさいよ。アンタにレビテーションかけて、ここまで運んでくれたのアイナなんだから」
ルイズはそう言うが、才人は聞いていなかった。
「う、嘘だろ・・・」
「才人さん、いい加減現実を受け入れたほうがいいですよ。間違いなくここは異世界です」
「んなアホな!そんなこと信じられるわけ無いだろ!」
「・・・・じゃあ、窓の外を見てください。決定的な証拠がありますから」
「窓の外?」
才人は言われたとおり、窓から外を見た。
外は既に夜になっており、月が浮かんでいる。
それだけなら、才人にとっても問題はなかった。
しかし、才人の知る月と比べ、明らかに大きく、極め付けに月が2つあったのだ。
「つ、月が2つ!?」
現実逃避していた才人にとって、これは決定的だった。
(そういえば、デジタルワールドは月が3つだったな。全部ルーチェモンに砕かれたけど)
拓也は少々ずれた事を考えていた。
「マ、マジで異世界なのか?」
「マジです」
最後の望みを託すように呟いた才人に、拓也はきっぱりと言い放つ。
「はあ~。アイナの使い魔から聞いたけど、アンタ達って本当に異世界から来たの?」
ルイズは呆れながら言った。
「本当だって。さっきから言ってるだろ」
拓也がそう言う。
才人が起きる前にも幾度かこのやり取りがあった。
「じゃあ、証拠見せなさいよ」
ルイズは先程から言っていることを繰り返し言った。
拓也自身には、証拠となるものが無かったが、才人にはあった。
才人は、かばんの中からノートパソコン取出し、それを開き、電源を入れる。
「何それ?」
ルイズがそう聞く。
アイナもなんだろう、と興味を示している。
「ノートパソコン」
「確かに見たこと無いわね。何のマジックアイテム?」
「魔法じゃない。科学だ」
ノートパソコンをマジックアイテムと勘違いしているルイズに、才人は科学であるという事を言うが、ルイズは聞き流しているようである。
そして、ノートパソコンの画面が映る。
「うわあ、何これ」
「綺麗・・・」
現れた画面を見て、ルイズとアイナは驚きの声をあげた。
「何の系統で動いているの?風?水?」
「だから科学だ」
未だにノートパソコンをマジックアイテムと思い込むルイズに、再び科学という。
「カガクって、何系統?四系統とは違うの?」
「だ~か~ら~!魔法じゃないっての!!」
何度言っても分かってくれないルイズに才人は声を荒げてしまう。
一方、アイナは、
「それで、カガクって何?」
好奇心に満ちた目で拓也に尋ねた。
アイナはルイズとは違い、柔軟な考えができるようだ、と拓也は判断した。
「ん~、専門的なことは知らないけど・・・・なんて言ったらいいのかな。こっちの魔法は、自然の常識覆してるだろ?人が空飛んだりさ。多分、火とかも何も無くてもおこせるんだろ?」
「そうね。メイジなら杖があれば・・・だけど」
「科学は、こうすればこうなる、ああすればああなる、っていう自然の常識を組み合わせて、あらゆる事を出来るようにした・・・・のかな?ごめん、俺あんまり頭良くないから、合ってるか分からない」
「ふ~ん」
「科学は魔法と比べれば、手間と労力がいる。けど変わりに、魔法と違って誰にでも使えるものなんだ」
「・・・手間と労力は要るけど誰にでも使えるカガク・・・か。確かに今魔法でしか出来ないことが、手間と労力さえかければ平民にも出来るようになれば、トリステインどころか、ハルゲギニア全体が変わるわね」
アイナとの会話に一区切りつき、拓也は才人達のほうに顔を向ける。
そっちでは、いつの間にか元の世界に返せとか、それは無理とか、新しい使い魔を呼び出すには前の使い魔が死ななければいけないとか、死んでみるとか、少々物騒な会話も最後のほうには混じっていた。
どうやらこの2人は先程までの拓也とアイナの話を全く聞いていなかったようである。
最終的には、才人はルイズの使い魔になる事を了承した(というか、仕方無しに妥協した)。
「じゃあ、アイナ。話はこれ位にしておきましょ」
「あ、うん。わかった」
アイナは席を立つ。
「タクヤは私についてきて」
アイナに言われ、拓也は立ち上がる。
「じゃあ、才人さん。また明日」
「おう・・・・」
拓也の挨拶に答えた才人の声は全く元気がなかった。
(まあ、いきなり異世界に飛ばされちゃ仕方ないか)
そう思いながら廊下に出る。
アイナの部屋はルイズの部屋の隣だった。
アイナは扉の前で一度立ち止まる。
「あ、着替えたいから、タクヤはちょっと待ってて」
「わかった」
アイナが部屋に入る。
拓也は扉の横の壁に背を預ける。
(ふう、何か色々な一日だな今日は。デジタルワールドでやっとルーチェモンを倒したと思ったら、いきなり異世界への召喚。まあ、人がいる分デジタルワールドよりも考えようによってはマシか。とりあえずアイナは、いい子みたいだし。才人さんを召喚したルイズって人は、かなり性格きつそうだったけど。才人さん、大丈夫かなあ?)
拓也が考えを巡らしていると、ドアが開き、着替えたアイナが出てきた。
「もういいよ」
そう言って、拓也を部屋の中に入れた。
「そうそう、聞きたいことがあったんだ」
拓也が思い出したように切り出した。
「何?」
「使い魔って、一体何をすればいいんだ?」
「あ、その事も説明しとかないとね」
アイナは椅子に座ると説明を始めた。
「先ず1つ目、感覚の共有。使い魔の見たり聞いたりしたことが、その主人にも伝えることが出来るようになる・・・・んだけど、さっきから試してるけど、上手くいかないみたい」
「そうか・・・まあそれは俺のプライバシーに関わることだから無いほうがいいな」
「2つ目。主人に必要なものを集めたりする。魔法薬を作るための苔とか、硫黄とか・・・・」
「さっきも言ったけど、俺は異世界から来たばっかりだ。そんな専門的な知識なんか、からっきしだ」
「分かってる。こっちの常識すら危ういもんね。それで、3つ目が普通の使い魔なら一番重要なことで、主人を守ること・・・なんだけど・・・」
アイナは気まずそうに拓也を見た。
「タクヤは、戦えないよね」
アイナはそう言ったが、
「そんなことは無いさ。俺だって戦える」
拓也が自信を持って言った。
「あの・・・気持ちは嬉しいんだけど・・・」
「心配するな。アイナは俺が守ってやる」
「っ!?」
何気に恥ずかしい言葉をさらりと言った拓也に、アイナは顔を赤くする。
「どうした?顔赤いぞ。風邪か?」
「だ、大丈夫!そ、それより、もう遅いから寝よう?」
ルイズの部屋にいたときも含め、既にかなりの時間が経っていた。
「それで、俺は何処で寝ればいいんだ?」
「え?ベッドに決まってるでしょ」
拓也は部屋の中を見回す。
何処を如何見ても、ベッドは一つしかない。
「いや、ベッドは一つしかないんだけど・・・・」
「い、一緒に寝ればいいじゃない」
そう言われ、拓也は顔を赤くし、
「いや、それは流石に色々拙い!」
そう言う。
「でも、勝手に呼び出しておいて、床で寝かせるっていうのも・・・・」
アイナは、拓也を床で寝させることに抵抗があるようだ。
「ありがとう。気持ちだけ貰っとくよ。けど、俺は床で大丈夫だから。野宿よりは全然いいし」
「でも・・・」
「いいの。俺が床で寝るって決めたんだ。アイナが悪く思う必要は全くないから。あ、でも毛布は貰うよ。流石に寒いからね」
「うん・・・」
アイナは拓也に毛布を渡す。
それでも、少し罪悪感があるようだ。
拓也は毛布を受け取ると、早々に横になる。
アイナも布団に入り、指をパチンと鳴らすと灯りが消えた。
(へえ~、便利だな)
拓也は魔法の便利さを感じた。
灯りが消えて暫くすると、
「ねえ、タクヤ」
アイナが話しかけてきた。
「何だ?」
「タクヤの世界には、王様も、貴族も、平民もないんだよね」
「ああ、俺の住んでた国も含めて、代表的な国の殆どは、そんなものは無かったと思うけど」
「そうなんだ・・・生まれた家で、生き方が決まるなんて事はないんだね」
「そう・・・なのかな?基本的には能力があれば自分の好きな仕事につけたはずだよ」
「フフッ」
「どうした?」
いきなり笑ったアイナに問いかける。
「私の家の方針に似てるな~って」
「アイナの家の?」
「うん・・・ハルゲギニアでは、王族や貴族に生まれれば、その生まれた家によって生き方が決められると言っても過言じゃないし、平民に生まれれば、貴族の言いなり、どちらにしても自由なんて無いに等しい。けど、私の家はちょっと違うの」
「ふ~ん、アイナの家は如何違うんだ?」
「普通の貴族の家は地位や名誉を重要視してるの。王様の覚えがよければそれだけ待遇も良くなるし」
「確かに。貴族の偏見ってそんなもんだな」
「私の家は、基本的に地位なんて気にしてないんだ。お父様が公爵になった事だって、成り行きって聞いてるから。だから、お父様はやりたい事をしろって言ってるの」
「へ~、いい父さんじゃないか」
「うん。私の自慢のお父様なんだ。親馬鹿なのが偶にキズだけど」
「そ、そうなんだ・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
会話が止まり、暫く無言になる2人。
「ねえ・・・タクヤ。最後にいいかな」
「ん?」
「タクヤって、何歳?」
「俺の歳か?俺は11だけど」
「私の1つ下か・・・うん」
「じゃあアイナは12か。で、それがどうかしたのか?」
「何でもないの。お休みタクヤ」
「あ、ああ。お休み」
曖昧に会話を切られ釈然としない拓也だったが、今日1日で色々あったことから眠気はすぐに襲ってきた。
あとがき
はい、第二話目を投稿させて頂きました。
きりが良い所で終わらせたので、ちょっと短くなりました。
だから、少しでも話を長くしようとして、会話を増やしたけど、ムリヤリ感があるなあ・・・・・
もっと、精進します。
それにしても、拓也がやっぱり物分り良すぎかな。
才人がやや情けない気がしますが、異世界の経験者と未経験者の差はこんなものですかね?
拓也の「守ってやる」発言ですが、拓也自身は特別な感情で言ったわけではなく、「仲間は俺が守る」といった感覚です。
流石に拓也も特別な感情でそう言う台詞は、さらりと言えないと思ったので・・・・
次も頑張ります。